特許第6857049号(P6857049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857049
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】浴用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20210405BHJP
   A61K 8/362 20060101ALI20210405BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   A61K8/02
   A61K8/362
   A61Q19/10
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-37699(P2017-37699)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140973(P2018-140973A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】都合 知一
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−333236(JP,A)
【文献】 特開2010−275257(JP,A)
【文献】 特開2005−145821(JP,A)
【文献】 特開2008−142347(JP,A)
【文献】 実開平03−088405(JP,U)
【文献】 国際公開第2016/103777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61J 1/00−3/00
A45D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末を主成分とする原料を圧縮成形して得られる固形の浴用剤であって、
天面、底面及び側面を有し、
前記天面に、逆錐形状の凹部を有し、前記凹部の中央部から外周部に向かう傾斜面に、該凹部内の表面が更に凹陥した小凹部を部分的に有しており、
前記小凹部が、渦巻き状に形成されている、浴用剤。
【請求項2】
前記小凹部は、前記凹部の中央部から外周部に向かって延びる長い形状を有しており、該中央部を囲んで周方向に複数形成されている、請求項1に記載の浴用剤。
【請求項3】
前記小凹部は、前記凹部の中心点と前記浴用剤の側面とを結ぶ仮想直線を、該中心点を中心として該凹部の周方向に360°回転させたときに、360°の全周に亘って該仮想直線が一以上の小凹部と交差するように形成されている、請求項1又は2に記載の浴用剤。
【請求項4】
前記小凹部は、前記凹部の中心点と前記浴用剤の側面とを結ぶ仮想直線を、該中心点を中心として該凹部の周方向に360°回転させたときに、360°の全周に亘って該仮想直線が二以上の小凹部と交差するように形成されている、請求項に記載の浴用剤。
【請求項5】
前記天面の投影面積に対する該天面の平坦面の面積率が0%以上13%以下である、請求項1〜の何れか1項に記載の浴用剤。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の浴用剤を、粉末を主成分とする原料を圧縮成形して製造する浴用剤の製造方法であって、前記天面を加圧する面に前記凹部に対応する凸部及び前記小凹部に対応する小凸部を有する加圧部材を用いて、前記原料を圧縮成形する工程を具備する、浴用剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末を主成分とする原料を圧縮成形して得られる浴用剤の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、優れた溶解性を有し、壊れにくく、かつ製造が容易である浴用剤として、表面側の中央に凹部を設けた浴用剤を提案した(特許文献1参照)。この浴用剤は、浴水中に投入されると、溶解の途中で凹部の底に貫通孔が形成される。このことによって、浴用剤の外周面からだけでなく、貫通孔の壁面からも溶解が起こるので、優れた溶解性を示すことになる。また、溶解前の状態では貫通孔は形成されていないので、構造上壊れにくい。
【0003】
前記の浴用剤とは別に、出願人は、天面及び底面が、互いに平行な一対の第1の辺とこれらに対して90度の位置関係にありかつ互いに平行な一対の第2の辺とからなる4辺の群を2組以上有し、すべての内角が180度未満である多角形の形状を有する浴用剤も提案した(特許文献2参照)。この浴用剤には、製造ラインを搬送されている間や、製品の運搬中に互いに衝突しても割れや欠け等の欠陥が発生しづらい利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−333236号公報
【特許文献2】特開2010−275257公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の浴用剤は、いずれも、粉末を主成分とする原料を圧縮成形して得られるが、生産性を向上するべく、圧縮成形の速度を高速にするとキャッピングが生じる場合があった。キャッピングとは、圧縮時に成形物の内部に、残留応力や密度に分布が生じ、圧縮からの解放時に、成形物の一部が上下に剥がれる現象である。特許文献1,2には、高速にて圧縮成形した場合にキャッピングが生じやすくなるという生産上の課題を解決していない。
【0006】
本発明は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る、粉末の圧縮成形物からなる浴用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粉末を主成分とする原料を圧縮成形して得られる固形の浴用剤であって、
天面、底面及び側面を有し、前記天面に、逆錐形状の凹部を有し、前記凹部の中央部から外周部に向かう傾斜面に、該凹部内の表面が更に凹陥した小凹部を部分的に有している、浴用剤を提供するものである。
また、本発明は、前記の浴用剤を、粉末を主成分とする原料を圧縮成形して製造する、浴用剤の製造方法であって、前記天面を加圧する面に前記凹部に対応する凸部及び前記小凹部に対応する小凸部を有する加圧部材を用いて、前記原料を圧縮成形する工程を具備する、浴用剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速で圧縮成形することができ、かつ、浴水中に投入されたときの溶解性が十分に高い、粉末の圧縮成形物からなる浴用剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態の浴用剤を示す斜視図である。
図2図2(a)は、図1に示す浴用剤をその天面側から視た平面図、図2(b)は、同浴用剤の側面図、図2(c)は、同浴用剤のII−II線拡大断面図である。
図3図3は、図1に示す浴用剤の底面図である。
図4図4は、凹部に形成する小凹部の別の例を示す図2(a)相当図である。
図5図5(a)〜図5(d)は、本発明の浴用剤の製造方法の好ましい実施態様を示す工程図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態の浴用剤を示す斜視図である。
図7図7(a)は、図6に示す浴用剤をその天面側から視た平面図、図7(b)は、同浴用剤の側面図、図7(c)は、同浴用剤のVII−VII線拡大断面図である。
図8図8は、上杵(加圧部材)のより好ましい具体的形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の浴用剤の一実施形態が示されている。本発明の浴用剤は、粉末を主成分とする原料を圧縮成形して得られる圧縮成形物である。浴用剤は、これを浴水中に投入することで溶解分散し、所望の効果・効能を発揮するものである。
【0011】
第1実施形態の浴用剤1は、図1図3に示すように、天面2、底面3及び側面4を有している。第1実施形態の浴用剤1は、扁平な柱状の形状を有している。浴用剤1は、例えば、その平面視形状が、一辺の長さLが好ましくは40〜50mmの略正方形又は直径が40〜50mmの円形で、その厚さTが5〜20mmである。なお、図2(a)〜図2(c)を纏めて図2図7(a)〜図7(c)を纏めて図7ともいう。
本発明の浴用剤1は、厚みTが、浴用剤1の平面視最大長さLm〔図2(a)参照〕の、好ましくは2/3以下であり、より好ましくは1/10以上1/2以下である。浴用剤1の平面視最大長さLmは、凹部21を有する天面側から視た浴用剤の平面視において、該浴用剤の外縁に両端を有する直線のうち、最も長い直線の長さを指す。
【0012】
第1実施形態の浴用剤1は、図1図2(a)及び図2(c)に示すように、天面2に、逆錐形状の凹部21を有している。凹部21は、平面視における中央部22及びその周囲を囲む傾斜面23を有している。凹部21の中央部22は、図2(c)に示すように、底面3側に向けて凸の凸曲面状の形状を有している。浴用剤1の凹部21は、浴用剤1の平面視において、側面4から中央部22側に離間した位置に外周部24を有し、傾斜面23は、中央部22から外周部24に亘っている。凹部21は、その平面視最大長さ(図示せず)が、前述した浴用剤1の平面視最大長さLmの、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、また好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下であり、好ましくは70%以上95%以下、より好ましくは80%以上90%以下である。凹部21の平面視最大長さは、凹部21を有する天面側から視た浴用剤の平面視において、該凹部の外周部24に両端を有する直線のうち、最も長い直線の長さを指す。
【0013】
浴用剤1の凹部21は、図1図2(a)及び図2(c)に示すように、前記傾斜面23に、表面が更に凹陥した小凹部25を部分的に有している。
浴用剤1の凹部21が小凹部25を有することで、浴用剤1の製造時、好ましくは打錠装置で浴用剤1を製造する際に、浴用剤1にキャッピングが生じることを効果的に抑制することができる。
浴用剤1は、図1図2(a)及び図2(c)に示すように、天面2における凹部の外周部24より外側に、側面4に向かって下降する天面側外周部傾斜面26を有しており、底面3における平坦面32から、側面4に向かって上昇する底面側外周部傾斜面31を有している。該平坦面32は、浴用剤1の厚み方向に直交する平面となっている。
【0014】
キャッピングの発生防止の観点から、浴用剤1における小凹部25は、図2(a)に示すように、凹部21の中央部22から外周部24に向かって延びる長い形状を有していることが好ましく、また、その長い形状の小凹部25は、中央部22を囲んで周方向に複数形成されていることが好ましい。前記の凹部21の中央部22から外周部24に向かって延びる長い形状には、図2(a)に示すように、平面視して円弧状等の曲線状に延びるものの他、図4に示すように、中央部22から外周部24に向かって直線状に延びるものも含まれる。図4に示す小凹部25は、中央部22を囲む傾斜面23に形成されており、凹部21の中央部22から外周部24に向かって放射状に形成されている。
【0015】
小凹部25の長さは、浴用剤1の平面視最大長さLm〔図2(a)参照〕の好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上であり、また好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下であり、また好ましくは20%以上200%以下、より好ましくは25%以上150%以下である。
また、小凹部25の前記長さは、その長手方向中央における幅の、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上であり、また好ましくは20倍以下、より好ましくは15倍以下であり、また好ましくは2倍以上20倍以下、より好ましくは3倍以上15倍以下である。
小凹部25が円弧状等の場合、小凹部25の前記長さは、図2(a)に示すように、長手方向の各部位において幅を2等分する、長手方向中央線25cの長さである。
【0016】
図2(a)及び図4に示す小凹部25は、中央部22を囲む傾斜面23の周方向に一定の間隔を開けて複数形成されている。キャッピングの発生防止の観点から、小凹部25は、中央部22を囲む傾斜面23の周方向に間隔を開けて複数形成されていることが好ましい。
凹部21内に設ける小凹部25の個数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、また好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下であり、また好ましくは2以上15以下、より好ましくは3以上10以下、更に好ましくは4以上8以下である。
【0017】
本発明の浴用剤は、粉末を主成分とする原料を圧縮成形して得られたものであれば、いずれの方法で圧縮成形されたものであっても良い。好ましくは、打錠により、圧縮成形製剤、例えば錠剤の形態としたものである。打錠方法としては、公知の打錠機、例えば単発打錠機、ロータリー式打錠機、積層打錠機、ロータリー式有核打錠機等を用いることができる。圧縮成形時の条件を適切に制御することで、所望の浴用剤を得ることができる。
【0018】
本発明の浴用剤の原料となる粉末は、浴用剤の具体的な用途に応じて適切なものが選択される。例えば浴用剤が浴水中で二酸化炭素等のガスを発生する発泡タイプの浴用剤である場合、粉末としては、炭酸塩と、固体の酸、中でも有機酸とを用いることができる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。固体の有機酸としては、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、安息香酸、クエン酸、ピロリドンカルボン酸、サリチル酸などが挙げられる。なお、これらの炭酸塩及び固体の酸はそれぞれから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の浴用剤における、炭酸塩及び固体の酸の配合量は特に制限されないが、固体の酸と炭酸塩の配合割合を適宜選択して浴湯のpHが4〜7(0.01質量%水溶液)となるようにすれば浴湯中の遊離炭酸ガスの割合が増えるため優れた血行促進効果が得られる。より好ましい酸の含有量は、本発明の浴用剤中10〜80質量%であり、特に好ましくは15〜50質量%である。また、より好ましい炭酸塩の含有量は、本発明の浴用剤中5〜80質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。
【0019】
また浴用剤は油性成分を含んでいてもよい。油性成分の種類は特に制限されないが、入浴後の温まり感や肌感触が良好になる等の目的で浴用剤に配合される。このような油性成分の例としては、脂肪酸エステル;グリセリド;炭化水素油;高級脂肪酸;高級アルコール;精油;シリコーン油等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも常温(25℃)で液体の油性成分であると、粉体間の結合力を更に低下させてしまう傾向があるので、浴用剤が上述の形状を有していることは好適である。特に、浴用剤における油性成分の割合が、上述した範囲内であると、浴用剤を上述の形状とすることと相まって、浴用剤に割れや欠け等の欠陥が一層生じにくくなるので好ましい。
【0020】
また浴用剤は更に界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は油性成分を浴水中に良好に分散させる目的で浴用剤に配合される。用いられる界面活性剤としては、非イオン界面活性剤が好ましく、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて配合すればよいが、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルケニルエーテルから選ばれる1種以上の非イオン界面活性剤と、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の非イオン界面活性剤を組み合わせることが好ましい。当該界面活性剤の本発明浴用剤組成物中の含有量は、浴用剤に割れや欠け等の欠陥が生じにくくする観点から、油性成分の浴水への分散性及び肌の感触の点から合計で0.01〜20質量%、特に0.1〜10質量%が好ましい。
【0021】
浴用剤は更に高分子結合剤を含んでいてもよい。高分子結合剤は、前記の粉末を原料として圧縮成形によって浴用剤を製造するときに、粉末の粒子どうしを結合する作用を有する。浴用剤が浴水に溶解することを考慮すると、高分子結合剤は水溶性のものであることが好ましい。そのような高分子結合剤としては、例えば、デキストリンやポリエチレングリコール等が挙げられ、特に分子量1000〜20000、好ましくは分子量4000〜10000のポリエチレングリコールを用いることができる。なお、高分子結合剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
浴用剤の高分子結合剤含有量は、浴用剤に割れや欠け等の欠陥が生じにくくする観点から、好ましくは1質量%以上25質量%以下、より好ましくは2質量%以上20質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以上15質量%以下である。
【0022】
本発明の浴用剤には、本発明の効果に影響を与えない範囲で、更に通常浴用剤に配合されている公知の浴用剤原料、例えば無機塩類、生薬類、低級アルコール、殺菌防腐剤、保湿剤、金属封鎖剤、香料、色素、その他製剤上必要な成分などを配合することができる。
【0023】
次に、本発明の浴用剤の製造方法の好ましい実施態様について、打錠装置を用いて、第1実施形態の浴用剤1を製造する場合を例に、図5を参照しつつ説明する。
打錠装置5は、棒状の上杵51及び下杵52並びに筒状の臼53を備えた一組の成形型を有している。上杵51は、浴用剤1の天面2と相補の凹凸形状を有する天面成形面51aを有している。下杵52は、浴用剤1の底面3に対応する略平坦な底面成形面52aを有している。臼53の臼孔は、浴用剤1の側面4に対応する内面形状を有している。成形型を構成する上杵51、下杵52及び臼53は、金属、セラミックス等の従来からこの種の打錠装置に用いられる通常の素材から構成されている。
【0024】
上杵51及び下杵52はその横断面形状が臼53の臼孔の横断面形状と同じになっており、臼孔内に貫入可能になっている。上杵51及び下杵52はそれらの軸心が、臼孔の中心と一致する位置に設置されている。上杵51及び下杵52は、その軸心に沿って上下方向へ摺動可能になっている。これによって上杵51及び下杵52は、臼53の臼孔内へ挿入可能になっている。上杵51及び下杵52の摺動は、公知の手段、例えば油圧装置や昇降カム(図示せず)によって行うことができる。
【0025】
以上の構成を有する打錠装置5を用いた浴用剤1の製造方法について説明すると、先ず図5(a)に示すように、図示しない昇降機構によって下杵52の杵先が臼53の臼孔内に挿入される。それによって、臼孔と下杵52の底面成形面52aとで、粉末充填部55が形成される。一方、上杵51は、図示しない昇降機構によって上昇し待避している。
【0026】
次に、図5(b)に示すように、粉末供給装置(図示せず)から粉末原料Fが供給され、粉末充填部内に充填される。引き続き下杵52が、図示しない昇降機構によって若干上昇する。下杵52の上昇によって粉末充填部内に充填されていた粉末原料Fの一部が、該粉末充填部内から溢れ出る。溢れ出た粉末原料は摺切板(図示せず)によって除去される。これによって、粉末充填部内は粉末原料Fによって満充填された状態になる。
【0027】
次に、図5(c)に示すように、下杵52の位置はそのままに、上杵51の降下が開始され、その杵先が粉末充填部内に挿入される。両杵の杵先が粉末充填部内に挿入された状態で、両杵を互いに近づく向きに摺動させることで、粉末充填部内に充填されている粉末原料Fが、上杵51の天面成形面51aと下杵52の底面成形面52aとの間で圧縮される。
【0028】
錠剤の空隙率、成形性、硬度、崩壊等の錠剤の物理学的性質を考慮すると、打錠圧は、4MPa以上70MPa以下、特に9MPa以上50MPa以下とすることが好ましい。打錠力は、打錠機の圧力から杵の単位面積あたり(杵の粉末充填空間の軸方向の単位断面積あたり)の圧力を換算して求められる値である。また打錠は、粉末原料に悪影響を与えない温度、例えば、常温(20〜30℃)で行うことが好ましい。
【0029】
粉末原料に対して所定の時間圧縮力を加えて目的とする錠剤が得られたら、図5(d)に示すように、上杵51を上昇させて粉末充填部内から取り出し、上方へ待避させる。
また、上杵51の上昇と同時に又はその若干後に、下杵52も上昇させる。下杵52は、その上端面が臼53の上面と面一となる位置まで上昇する。これによって、圧縮成形で得られた浴用剤1を側方に移動させて取り出すことも可能となる。浴用剤1を取り出した後、その後、下杵52は降下して、臼53と共に粉末充填部を形成する位置に復帰する。
これらの工程が繰り返されて、多数の浴用剤1が高速にて順次製造される。
【0030】
本発明の浴用剤は、第1実施形態の浴用剤1のように、天面に形成された凹部21内に特定の態様で小凹部25を有するため、浴用剤の製造時、例えば、上記のように打錠装置を用いて浴用剤を高速にて製造する場合であっても、浴用剤1が上下方向に層状に剥離する現象であるキャッピングが生じにくい。その理由は、上杵51に形成された凹部21形成用の凸部54が、小凹部25に対応する小凸部54a(図9参照)を有することによって、粉末原料Fを圧縮する際に、粉末原料が多様な方向に移動しつつ圧縮されることで、圧縮された粉末原料F内に空気が残留しにくくなることや、凹部21を形成することにより浴用剤1内に生じる密度差が小凹部を形成することによって緩和されること等にあると推定される。
【0031】
粉末原料の圧縮は、比較的低圧で行われる予備圧縮と、予備圧縮よりも高い圧力で行われる本圧縮の二段階に分けて行っても良いし、一段階で行っても良い。本発明の浴用剤は、凹部内に小凹部を有することによって、高速にて打錠をおこなってもキャッピングが生じにくいため、圧縮を多段階で行っても一段階で行ってもキャッピングが生じにくい。予備圧縮は、粉末原料に内在する空気を充分に抜くことができれば足りる。即ち、それ以上の余分な圧縮、例えば原料中の結合剤が結合のための変形を起こすような圧縮は不要である。打錠の際の圧縮力(打錠圧)は、許容圧力範囲内において、錠剤厚、径、錠剤の硬度、崩壊時間等の錠剤の物理的性質に応じて適宜設定することができる。
【0032】
キャッピングの発生防止の観点から、図2(a)に示すように、浴用剤1の凹部21には、平面視して円弧状の小凹部25が、全体として渦巻き状をなすように複数形成されていることが好ましい。
同様の観点から、小凹部25は、凹部21の中心点21cと浴用剤の側面4とを結ぶ仮想直線Pを、該中心点21cを中心として該凹部21の周方向に360°回転させたときに、360°の全周に亘って該仮想直線が一以上の小凹部25と交差するように形成されていることが好ましい。また、同様の観点から、小凹部25は、図2(a)に示すように、凹部21の中心点21cと浴用剤の側面4とを結ぶ仮想直線Pを、該中心点21cを中心として該凹部21の周方向に360°回転させたときに、360°の全周に亘って該仮想直線が二以上の小凹部25と交差するように形成されていることが一層好ましい。
【0033】
また、同様の観点から、小凹部25は、図2(a)に示すように、凹部21の中央部22から遠い側の端部25aから近い側の端部25bに向かって幅が漸増していることが好ましく、また、小凹部25は、その幅方向の隣接部位からの深さが、凹部21の中央部22から遠い側の端部25aから近い側の端部25bに向かって増加していることが好ましい。
小凹部25は、凹部21の傾斜面23に対して垂直方向の最大深さが、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、小凹部25の該深さは、凹部21の深さdの、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上であり、また好ましくは50%以下、より好ましくは35%以下であり、また好ましくは3%以上50%以下、より好ましくは5%以上35%以下である。
【0034】
浴用剤の溶解性の向上及びキャッピングの発生防止の観点から、凹部21の深さdは、浴用剤1の厚さTの、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上であり、また好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下であり、また好ましくは40%以上90%以下、より好ましくは50%以上80%以下である。
【0035】
キャッピングの発生防止の観点から、小凹部25は、浴用剤1を平面視したときに、小凹部25の総面積の、小凹部25の面積も含めた凹部21の面積に対する割合が、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であり、また好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下であり、また好ましくは20%以上60%以下、より好ましくは30%以上50%以下である。小凹部25及び凹部21の面積は、それぞれを、浴用剤の厚み方向に直交する平面に投影した面積であり、小凹部25を複数有する凹部21の場合、小凹部25の総面積は、複数の小凹部25の合計面積である。
【0036】
浴用剤は、その密度が、浴用剤の構造上の強度の確保と、浴水中での沈降性や溶解性とのバランスから、1.2g/cm以上1.7g/cm以下、特に1.3g/cm以上1.6g/cm以下であることが好ましい。密度がこの範囲内であることによって、浴用剤の強度が保持されるのみならず、浴用剤を浴水中に投入したときに、圧縮され過ぎることに起因する溶解性の低下を効果的に防止することができるとともに、水面に浮いてくることを効果的に防止することができる。浴用剤の密度は、質量/体積で算出される。体積は、錠剤形状を三次元スキャナー等を用いて3次元モデル化し、三次元CADソフト(ソリッドワークス)を用いて算出される。
【0037】
本発明の浴用剤を、例えば図5に示すような打錠装置5で製造した場合、浴用時を連続して多数製造した場合、上杵51等の浴用剤の天面を加圧する部材に、原料粉末が徐々に付着するスティッキングが生じることがある。スティッキングは、製造の歩留まりを低下させ、強度低下など製品の品質を低下させるといった不都合が生じる原因ともなる。
斯かるスティッキングの抑制の観点から、製造する浴用剤1は、凹部21を有する天面2の平坦面の面積の、天面の投影面積に対する面積率(以下、平坦面の面積率ともいう)が、13%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。同面積率は、小さければ小さい程好ましく、下限値はゼロである。
天面2の平坦面は、浴用剤の厚み方向と直交する平面であり、平坦面の面積率を算出するための、天面2の平坦面の面積及び天面2の投影面積は、いずれも、浴用剤の厚み方向に直交する平面に投影した面積である。
【0038】
天面2の平坦面の面積、及び凹部21の面積の面積は、錠剤形状を三次元スキャナー等を用いて3次元モデル化し、三次元CADソフト(ソリッドワークス)を用いて算出される。
【0039】
図6及び図7は、本発明の第2実施形態の浴用剤1Aを示す図である。第2実施形態の浴用剤1Aは、天面2の凹部21内に形成された小凹部25の形状が、第1実施形態の浴用剤1と異なっている。第2実施形態の浴用剤1Aについては、矛盾しない限り、上述した第1実施形態の浴用剤1の説明が適宜適用される。図6及び図7中には、第1実施形態の浴用剤1と同様の構成について、第1実施形態の浴用剤1に付した符号と同一の符号を付してある。
【0040】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
例えば、凹部21内に形成された小凹部25は、渦巻き状に形成された帯状の一つの小凹部25のみであっても良い。
また、浴用剤の平面視形状、及び凹部21の平面視形状は、それぞれ、三角〜八角形状等の多角形状、円形、楕円形、トランプのハート型等であっても良い。浴用剤の平面視形状は、角部を丸めた多角形状であることが好ましい。また、浴用剤の平面視形状と凹部の平面視形状とは略相似形状であることが好ましいが、それに限られない。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されるものではない。特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0042】
〔実施例1〕
表1に示す組成の原料を用い、ロータリー打錠機〔株式会社 畑 鐵工所〕により、図1図3に示す形状の浴用剤を製造した。打錠機は、個々の浴用剤の質量が40g、密度が1.52又は1.55g/cmとなるように調整して用いた。また、打錠機の速度は10rpm、15rpm、及び20rpmとした。
なお、打錠機の速度10rpm、15rpm、及び20rpmは、個々の浴用剤の圧縮時間に換算すると、順に0.4秒、0.3秒及び0.2秒に相当する。個々の浴用剤の圧縮時間とは、圧縮開始時点から、圧縮後に上杵が圧縮成形物から離れる時点までの時間である。
【0043】
【表1】
【0044】
〔比較例1〕
実施例1において、製造する浴用剤を凹部内に小凹部を有しない表3中の比較例1の欄に示す形状とする以外は、実施例1と同様にして浴用剤を製造した。打錠機の速度は10rpm、15rpm、又は20rpmとした。
【0045】
〔評価〕
実施例1及び比較例1のそれぞれについて、ロータリー打錠機の速度ごとに、製造された10個の浴用剤を観察してキャッピングの発生の程度を、以下の評価基準で評価した。結果を以下の表2に示す。
○:キャッピングを生じた浴用剤はなかった。
△:一部の浴用剤にキャッピングが生じた。
×:全ての浴用剤にキャッピングを生じた。
表2中の括弧内は、10個の浴用剤のうちキャッピングが生じた浴用剤の数の割合である。
【0046】
表2に示す結果から、実施例1に関しては、比較例1に比べて高速にて圧縮成形してもキャッピングが生じにくく、キャッピングを生じさせない浴用剤の良品を、比較例1に比べて2倍の速度で圧縮成形することができることが判る。
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1で製造した浴用剤は、一辺の長さLが46.9mm、平面視最大長さLmが51.4mm、厚さが15.2mmであった。また、密度が1.55g/cmの方の浴用剤は、密度のばらつきσが0.049であった。他方、比較例1で製造した浴用剤は、一辺の長さLが46.9mm、平面視最大長さLmが51.4mm、厚さが15.0mmであり、密度が1.55g/cmの方の浴用剤は、密度のばらつきσが0.087であった。密度のばらつきは、浴用剤の凹部の中心点21cを通り、側面4上に両端を有する直線上において前記両端間の距離を5等分し、その5等分した領域それぞれから、底面3の一部を含む一辺5mmの立方体形状の測定サンプルを採取し、それぞれの測定サンプルの密度を測定して、相互間の密度のばらつきを算出した。この結果から、密度分布の均一性の向上もキャッピングの抑制に寄与したものと推定される。
【0049】
〔スティッキング防止性の評価〕
実施例1及び比較例1と同様にして、表3中の実施例1及び比較例1の欄に示す形状の浴用剤を12万個形成した後に、上杵の天面形成面に付着した原料粉末の量を観察した。また、実施例2として、凹部の外周部近傍の形状を実施例1の浴用剤とは若干異ならせた浴用剤(表3中の実施例2の欄の図参照)を、実施例1と同様にして12万個形成して、その浴用剤についても、上杵の天面形成面に付着した原料粉末の量を観察した。
それらの結果を表3に併せて示した。
表3に示す結果から、凹部を有する天面の「平坦面の面積率」を13%以下、特に5%以下とすることが、凹部を有する天面を形成する上杵等の加圧部材に原料粉末が付着することを抑制する観点、即ちスティッキングの抑制の観点から好ましい。
【0050】
【表3】
【0051】
図8は、第1実施形態の浴用剤1の製造に用いる上杵51のより好ましい具体的な形態を示す図であり、上杵51は、小凹部及び凹部を有する浴用剤の天面を形成する天面形成面の意匠性に特に優れている。例えば、図8の底面図における符号91で示す天面形成面の輪郭線を含めてそれより内側に位置する部分について意匠登録を受けようとする部分として、部分意匠の意匠登録出願に変更したときには、その出願に係る意匠は、意匠法に規定される登録要件を満たしている。
【符号の説明】
【0052】
1,1A 浴用剤
2 天面
21 凹部
21c 凹部の中心点
22 中央部
23 傾斜面
24 外周部
25 小凹部
3 底面
4 側面
5 打錠装置
51 上杵
51a 天面成形面
52 下杵
52a 底面成形面
53 臼
54 凹部に対応する凸部
54a 小凹部に対応する小凸部
55 粉末充填部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8