(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、ホットメルト接着シートが環状のシール材として利用される場合を例にして説明する。
図1は、本実施形態のホットメルト接着シートで形成されたシール材1を示すものであり、平面視における形状が矩形枠状となるように打抜加工されてなるシール材1を示すものである。
該シール材1は、
図2にその断面構造を示したように単層構造となっている。
即ち、本実施形態のホットメルト接着シートは、ホットメルト接着剤によって形成された接着剤層10のみの単層構造を有している。
本実施形態におけるシール材1は、通常、0.005mm〜1mmの厚みとされ、0.01mm〜0.5mmの厚みとされることが好ましい。
即ち、前記接着剤層10は、マイクロメーターなどによって測定される厚みの平均値(例えば、10箇所の平均値)が5μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上500μm以下であることがより好ましい。
【0011】
本実施形態のホットメルト接着シートは、前記接着剤層10の両面が被着体に接着される接着面となっており、接着剤層10の一面10a(以下「第1接着面10a」ともいう)と他面10b(以下「第2接着面10b」ともいう)とがそれぞれ異なる材質の被着体に接着される接着面となっている。
前記接着剤層10を形成しているホットメルト接着剤は、第1樹脂と第2樹脂との少なくとも2種類の樹脂を含み、前記第1樹脂を含むマトリックス10m中に前記第2樹脂を含むドメイン10dが分散された相分離構造を有している。
そして、本実施形態における前記接着剤層10は、一面(第1接着面10a)側における前記ドメイン10dの体積割合が他面(第2接着面10b)側に比べて高い。
【0012】
本実施形態のホットメルト接着剤は、第1樹脂としてスチレン系ブロック共重合体を含み、第2樹脂としてエポキシ樹脂を含んでいる。
前記第1樹脂と前記第2樹脂とは、互いに非相溶な関係となるものから選択される。
これらが非相溶であるかどうかは、例えば、これらが熱可塑性樹脂の場合、両樹脂を加熱溶融させてこれらを溶融混練することで確認できる。
即ち、溶融混練によって得られた混練物に相分離が見られることでこれらの樹脂が非相溶性を示す組み合わせであることを確認することができる。
また、前記第1樹脂と前記第2樹脂との一方又は両方が熱硬化性樹脂であるような場合は、これらの樹脂を溶解可能な有機溶媒に両樹脂を溶解させて樹脂溶液を調製し、該樹脂溶液から有機溶媒を揮発除去させてこれらの樹脂が非相溶性を示す組み合わせであることを確認することができる。
即ち、有機溶媒を除去した後の樹脂混和物を観察し、当該樹脂混和物に相分離が見られることでこれらの樹脂が非相溶性を示す組み合わせであることを確認することができる。
【0013】
本実施形態のホットメルト接着剤は、第1樹脂と第2樹脂との他に第3樹脂としてタッキファイヤーを含んでいる。
本実施形態のホットメルト接着剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として機能するフェノール樹脂を第4樹脂として含んでいる。
【0014】
前記ホットメルト接着剤に含有されるスチレン系ブロック共重合体としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SIS)、及び、これらの水素添加物であるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)などが挙げられる。
【0015】
前記ホットメルト接着剤に含有されるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0016】
前記タッキファイヤー(粘着付与剤)としては、例えば、ロジン系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、石油樹脂系タッキファイヤーなどが挙げられる。
【0017】
ロジン系タッキファイヤーとしては、例えば、松ヤニや松根油中のアビエチン酸を主成分とするロジン酸とグリセリンやペンタエリスリトールとのエステル、及び、これらの水素添加物、不均化物が挙げられる。
より具体的には、ロジン系タッキファイヤーとしては、例えば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジン、ロジンエステル(ロジンジオール)などが挙げられる。
【0018】
テルペン系タッキファイヤーとしては、松に含まれるテルペン油やオレンジの皮などに含まれる天然のテルペンを重合したものを挙げられる。
より具体的には、テルペン系タッキファイヤーとしては、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂などが挙げられる。
【0019】
石油樹脂系タッキファイヤーとしては、例えば、石油を原料とした脂肪族、脂環族、芳香族系の樹脂を挙げられる。
より具体的には、石油樹脂系タッキファイヤーとしては、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン系石油樹脂などが挙げられる。
該タッキファイヤーとしては、さらに、α−メチルスチレンを構成単位としたスチレン系樹脂などが挙げられる。
【0020】
前記ホットメルト接着剤に含有されるフェノール樹脂は、例えば、前記エポキシ樹脂の硬化剤として作用するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0021】
前記接着剤層10を形成するホットメルト接着剤には、スチレン系ブロック共重合体、前記エポキシ樹脂、前記タッキファイヤー、及び、前記フェノール樹脂として、それぞれ1種類だけを含有させてもよく、2種類以上を含有させても良い。
即ち、ホットメルト接着剤には、2種類以上のスチレン系ブロック共重合体や2種類以上のタッキファイヤーを含有させても良い。
ホットメルト接着剤に、例えば、2種類以上のスチレン系ブロック共重合体を含有させる場合、異なる共重合体を含有させても同じ共重合体でスチレン含有量や平均分子量が異なるものを2種類以上含有させてもよい。
より具体的には、ホットメルト接着剤に、2種類以上のスチレン系ブロック共重合体を含有させる場合、例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)とスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)とを併用してもよく、スチレンコンテントの異なる2種類のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)を併用してもよい。
この点については、エポキシ樹脂、タッキファイヤー、及び、フェノール樹脂についても同じである。
【0022】
本実施形態のホットメルト接着剤において、前記スチレン系ブロック共重合体は、マトリックス相を形成する。
そこで、本実施形態のシール材1(ホットメルト接着シート)を、種々の被着体に対して良好な接着性を示すものにするには、前記スチレン系ブロック共重合体を複数ブレンドして用いることが好ましい。
また、前記タッキファイヤーについても同じである。
即ち、本実施形態のホットメルト接着剤は、2種類以上のスチレン系ブロック共重合体と、2種類以上のタッキファイヤーとを含有することが好ましい。
【0023】
前記ホットメルト接着剤は、前記スチレン系ブロック共重合体を、主としてホットメルト接着剤にタック性や靱性を発揮させるためのベースポリマーとして含有し、前記エポキシ樹脂を、主として第1接着面10aに優れた接着性を発揮させるための成分として含有している。
ホットメルト接着剤は、スチレン系ブロック共重合体の含有量をP
1(質量%)とし、エポキシ樹脂の含有量をP
2(質量%)としたときに、P
1とP
2との割合(P
1:P
2)が100:20〜100:180であることが好ましい。
該割合(P
1:P
2)は、ホットメルト接着剤に優れた接着性と耐湿性とを顕著に発揮させる上において100:30〜100:160であることが好ましく、100:50〜100:150であることがより好ましく、100:70〜100:110であることがとりわけ好ましい。
【0024】
前記タッキファイヤーは、スチレン系ブロック共重合体100質量部に対して、50質量部〜150質量部となるように含有させることが好ましい。
【0025】
なお、ここでスチレン系ブロック共重合体、エポキシ樹脂、及び、タッキファイヤーの含有量とは、これらがそれぞれホットメルト接着剤に複数種類含まれている場合には、その合計量がホットメルト接着剤全体に占める割合を意味する。
【0026】
前記ホットメルト接着剤は、スチレン系ブロック共重合体の一部又は全部がスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)であることが好ましく、スチレン系ブロック共重合体の50質量%以上がスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)であることがより好ましく、スチレン系ブロック共重合体の80質量%以上がスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)であることがさらに好ましく、スチレン系ブロック共重合体の90質量%以上がスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)であることがとりわけ好ましい。
【0027】
前記ホットメルト接着剤に含有させるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)は、スチレンコンテントが20質量%〜50質量%であることが好ましい。
なお、前記ホットメルト接着剤に複数種類のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)を含有させる場合は、それらの含有量は、スチレンコンテントの平均値(加重平均)が20質量%〜50質量%となるように調整されることが好ましい。
【0028】
本実施形態においては、シール材1(ホットメルト接着シート)を熱接着させる際に接着剤層10の厚みがある程度確保されることが好ましいことから、前記スチレン系ブロック共重合体は、加熱状態において過度な流動性を示さないものが好ましい。
一方でシール材を熱接着する際には、当該シール材にある程度のタック性が発揮されることが好ましいことから、前記スチレン系ブロック共重合体は、加熱状態においてある程度軟化して流動性を示すことが好ましい。
【0029】
このような相反する要求事項を満足させる上において、ホットメルト接着剤は、加熱時において流動性を示すスチレン系ブロック共重合体と、当該スチレン系ブロック共重合体よりも流動性の低いスチレン系ブロック共重合体との2種類以上のスチレン系ブロック共重合体を含むことが好ましい。
【0030】
この2種類以上のスチレン系ブロック共重合体の内、加熱時において相対的に高い流動性を示すスチレン系ブロック共重合体(以下、「高流動性成分」ともいう)としては、ISO1133のA法に基づき230℃、5kgfの条件で測定したメルトフローレイト(以下、単に「MFR」ともいう)の値が3g/10min〜8g/10minとなるものが好ましい。
また、このスチレン系ブロック共重合体(高流動性成分)に比べて加熱時における流動性が相対的に低いスチレン系ブロック共重合体(以下、「低流動性成分」ともいう)は、MFRが3g/10min未満であることが好ましい。
【0031】
さらに、ホットメルト接着剤は、低流動性成分の一部又は全部として、前記メルトフローレイト(MFR)の値が1.5g/10min以下(0g/10min〜1.5g/10min)のスチレン系ブロック共重合体(以下、「超低流動性成分」ともいう)を含んでいることが好ましい。
そして、前記ホットメルト接着剤は、熱接着時における接着剤層10の厚みが過度に減少してしまうことを確実に防止する上において、前記低流動性成分を前記高流動性成分よりも多く含んでいることが好ましい。
【0032】
また、前記低流動性成分は、50質量%以上が前記超低流動性成分であることが好ましく、80質量%以上が前記超低流動性成分であることがより好ましく、90質量%以上が前記超低流動性成分であることがとりわけ好ましい。
前記ホットメルト接着剤における低流動性成分の含有量をP
1L(質量%)、高流動性成分の含有量をP
1H(質量%)とした時に、低流動性成分と高流動性成分との割合(P
1L:P
1H)は、6:4〜9:1であることが好ましく、65:35〜80:20であることがより好ましい。
【0033】
前記ホットメルト接着剤に含有させるエポキシ樹脂は、エポキシ基の存在割合が高く、優れた接着性をホットメルト接着剤に発揮させ易い点においてビスフェノール型のものよりもノボラック型のものが好ましく、クレゾールノボラック型のものが好ましい。
なかでも、前記ホットメルト接着剤に含有させるエポキシ樹脂は、その一部又は全部がo−クレゾールを主たる出発原料としたo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
前記ホットメルト接着剤は、含有するエポキシ樹脂の50質量%以上がo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましく、80質量%以上がo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であることが特に好ましく、90質量%以上がo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であることがとりわけ好ましい。
【0034】
前記ホットメルト接着剤に含有させるフェノール系硬化剤は、フェノールアラルキル樹脂であることが好ましい。
該フェノール系硬化剤は、フェノール性水酸基の数(N
OH)が前記エポキシ樹脂によるエポキシ基の数(N
epx)に対して所定の割合となるようにホットメルト接着剤に含有されることが好ましい。
より具体的には、ホットメルト接着剤におけるフェノール性水酸基の数(N
OH)とエポキシ基の数(N
epx)との割合(N
OH:N
epx)は、1:1.5〜1.5:1の範囲内であることが好ましく、1:1.2〜1.2:1の範囲内であることが好ましい。
【0035】
前記ホットメルト接着剤は、フェノール系硬化剤によるエポキシ樹脂の硬化反応を促進させるための硬化促進剤を含有してもよい。
該硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類が挙げられる。
前記ホットメルト接着剤に含有させるイミダゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2−メチルイミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2−ウンデシルイミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2−エチル−4−メチルイミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0036】
なかでも、ホットメルト接着剤に含有させることが好ましいイミダゾール類としては、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールが挙げられる。
ホットメルト接着剤に含有させるイミダゾール類は、その活性水素の数(N
H)を前記フェノール性水酸基の数(N
OH)と合計した値が、前記エポキシ基の数(N
epx)に対して所定量となるように含有されることが好ましい。
より具体的には、ホットメルト接着剤における活性水素の数(N
H)とフェノール性水酸基の数(N
OH)との合計に対するエポキシ基の数(N
epx)の割合(N
OH:〔N
H+N
epx〕)は、1:1.5〜1.5:1であることが好ましく、1:1.2〜1.2:1であることが好ましい。
【0037】
本実施形態のホットメルト接着剤は、その他に老化防止剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤、着色剤などといった一般的なプラスチック配合剤をさらに含んでいてもよい。
【0038】
なお、ホットメルト接着シートは、例えば、前記スチレン系ブロック共重合体やエポキシ樹脂とこれらを溶解可能な有機溶媒とによってワニスを調製し、該ワニスを表面剥離処理されたセパレータフィルムに塗布してウェット塗膜を形成させ、該ウェット塗膜をセパレータフィルムとともに熱風循環オーブンなどの乾燥装置を通過させて乾燥させることによって作製することができる。
このときスチレン系ブロック共重合体やエポキシ樹脂に対する親和性を考慮してワニスの調製に用いる有機溶媒を選択することで第1接着面10a側におけるドメイン10dの体積割合が第2接着面10b側に比べて高いホットメルト接着シートを作製することができる。
より具体的に説明すると、例えば、スチレン系ブロック共重合体に親和性が高くエポキシ樹脂に対する親和性が低い溶媒を用いたり、スチレン系ブロック共重合体に親和性が高い第1の溶媒と、エポキシ樹脂に親和性が高い第2の溶媒とを含み、且つ、第2の溶媒の方が第1の溶媒よりも揮発性が高い混合溶媒を用いて上記方法でホットメルト接着シートを作製することでウェット塗膜を乾燥する過程で塗膜表面側にエポキシ樹脂を偏在させることができる。
【0039】
或いは、逆に前記ワニスの調製にスチレン系ブロック共重合体よりもエポキシ樹脂に対して親和性の高い有機溶媒を選択するとウェット塗膜の乾燥過程においては、当該有機溶媒を多く含んだ低密度なドメインが有機溶媒が失われて高粘度となったマトリックス中に存在させることになるので、前記ドメインがマトリックスにはじかれてセパレータとは逆の塗膜表面に偏在させうる。
このように、第1接着面10a側におけるドメイン10dの体積割合が第2接着面10b側に比べて高い接着剤層10は、乾燥条件をマイルドなものにするだけでなくワニスを調製する際の有機溶媒を選択することで容易に作製することができる。
【0040】
また、ホットメルト接着シートは、例えば、フラットダイを装着した押出機で前記ホットメルト接着剤を溶融混練して、前記フラットダイからシート状に押出し、押出されたシートを表面剥離処理された2枚のセパレータフィルムの間に挟み込んで一対の冷却ローラーの間を通過させて前記ホットメルト接着剤を冷却固化させるとともに前記冷却ローラーによってシート厚みを調整する方法によって作製することができる。
【0041】
このとき、第1押出機と第2押出機との少なくとも2台の押出機から押出される溶融混練物を合流させる合流部がフラットダイの上流側に設けられている設備を利用し、第1押出機でエポキシ樹脂濃度が高い第1のホットメルト接着剤を溶融混練し、第2押出機でエポキシ樹脂濃度が第1のホットメルト接着剤よりも低い第2のホットメルト接着剤を溶融混練し、この第1のホットメルト接着剤と第2のホットメルト接着剤とが上下に重なったシート状となってフラットダイから押出されるように前記合流部でこれらの流れを調整することで第1接着面10a側におけるドメイン10dの体積割合が第2他面10b側に比べて高いホットメルト接着シートを形成させることができる。
【0042】
なお、ホットメルト接着シートは、部材の接着に利用されるまで前記エポキシ樹脂が反応性を有していることが好ましい。
従って、その作製時においてホットメルト接着剤が高温となってエポキシ樹脂の硬化反応が過度に進行してしまうことを抑制し得る点において、本実施形態のホットメルト接着シートは、上記に例示の2つの方法であれば前者の製法によって作製されることが好ましい。
【0043】
ここでホットメルト接着シートに含まれるエポキシ樹脂の硬化反応が過度に進行していないことについては、エポキシ基が開環されずに残存していることにより確認することができ、エポキシ基が開環されずに残存していることは、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いて確認することができる。
具体的には、エポキシ基が開環されずに残存していることは、ホットメルト接着剤をFTIRで測定した際に、エポキシ基の存在を示すピークが925〜899cm
−1に現れることで確認することができる。
また、925〜899cm
−1に現れるピークがエポキシ基によるものかどうかについて確認が必要であれば、その樹脂組成物をエポキシ樹脂の軟化点以上に加熱した後に改めてFTIRによる測定を実施すれば良く、当該ピーク高さと、3650〜3140cm
−1に現れる水酸基によるピーク高さとが対応して変化することで前記ピークがエポキシ基によるものであると確認することができる。
【0044】
このようにしてホットメルト接着剤によってホットメルト接着シートを得た後は、この接着シートを前記セパレータフィルムなどとともにトムソン刃型やパンチングプレスによって打抜き、所望の外形に加工して
図1に示したような矩形枠状のシール材1とすることができる。
【0045】
本実施形態のシール材1は、第1接着面10aの方が第2接着面10bよりもエポキシ樹脂濃度が高いため、それぞれの接着面に被着体への優れた接着力を発揮させ得る。
実施形態のホットメルト接着シートは、接着する2つの被着体の内の極性の高い素材で形成されたものに第1接着面10aでの接着を行わせ、極性の低い素材でできた被着体には第2接着面10bでの接着を行わせることで両者に対して優れた接着性を発揮させることができる。
また、エポキシ樹脂は、フッソ樹脂などの表面エネルギーの低いポリマーなどにも比較的良好な接着性を示す。
従って、本実施形態のホットメルト接着シートは、接着する2つの被着体の内の一方がフッソ樹脂製で他方がフッソ樹脂よりも表面エネルギーの高い樹脂でできているような場合に好適に用いられうる。
【0046】
そして、本実施形態のホットメルト接着シートでは、エポキシ樹脂が層を形成しておらず、粒子状となって分散をしているため、接着後に被着体どうしを引き離すような力が加わっても層間剥離するようなことがない。
このような点において接着剤層10には過度に大きなドメイン粒子を存在させないことが好ましい。
一方で第1接着面10aにおいてエポキシ樹脂による接着性を発揮させることを考慮すると第1接着面10aの側にはある程度の大きさを有するドメイン粒子を存在させることが好ましい。
具体的には、第1接着面10aの表面を顕微鏡などで数百倍程度の倍率で写真撮影し、得られた画像中に大きなドメイン粒子を有することが好ましい。
本実施形態においては、無作為に選択した5箇所での写真撮影を実施した際に得られる表面観察画像に所定の大きさの粒子が一定以上の数量含まれることが好ましい。
具体的には、第1接着面10aは、各表面観察画像を全体の面積が約290000μm
2となるように撮影し、1000μm
2以上4000μm
2以下の面積を有するドメイン粒子の数をそれぞれの表面観察画像について求め、このドメイン粒子の数を平均した際に、該平均値が5個以上となるように形成されていることが好ましい。
さらに、本実施形態のホットメルト接着シートは、フーリエ変換赤外分光分析装置(FT−IR)を用いて697cm
−1付近に現れるスチレン(第1樹脂)に由来のピークの強度(I
1)と、1020cm
−1付近に現れるエポキシ(第2樹脂)に由来のピークの強度(I
2)とを第1接着面10aと第2接着面10bとに対してATR法で測定した際に下記関係式(1)を満たすことが好ましく、下記関係式(2)を満たすことがより好ましい。
1.2 ≦ (Ir1/Ir2) ・・・(1)
1.9 ≦ (Ir1/Ir2) ・・・(2)
ここで、「Ir1」は、第1接着面10aでの第2樹脂由来のピークの強度(I
2)に対する第1樹脂由来のピークの強度(I
1)の比率(I
1/I
2)であり、「Ir2」は、第2接着面10bでの第2樹脂由来のピークの強度(I
2)に対する第1樹脂由来のピークの強度(I
1)の比率(I
1/I
2)である。
【0047】
前記ホットメルト接着シートは、相手材を選ばず、広範囲な材質のものに良好なる接着性を示すとともに高湿度環境下においても加水分解等による接着力低下を生じ難い。
そのようなことから、前記シール材1は、その特性を有効活用することができる点において、高温高湿度環境下で使用される機器の形成に利用するのに好適である。
【0048】
なお、
図3は、平面視における形状がシール材1の外側輪郭線によって画定される形状に相当する矩形となる2枚のシート状の部材の間に前記シール材1が介装されている様子を示したもので、本実施形態に係るホットメルト接着シートのシール材1としての使用状態の一例を示した図である。
【0049】
この図にも示されているように、本実施形態のホットメルト接着シートは、シール材1として利用されるのに際し、例えば、2つの部材を接着すべく該部材間に介装され、前記部材の内の第1の被着体(以下、「第1シートA1」ともいう)に第1接着面10aを接着させるとともに第2の被着体(以下、「第2シートA2」ともいう)に第2接着面10bを接着させて用いられる。
また、前記シール材1は、前記第1シートA1と前記第2シートA2とが僅かな距離を隔てて対面するように前記第1シートA1と前記第2シートA2とのそれぞれに接着される形で用いられ得る。
即ち、矩形枠状の前記シール材1は、その内側、且つ、前記第1シートA1と前記第2シートA2とに挟まれた空間Sを外部空間から隔離すべく用いられる。
【0050】
このようなシールされた空間Sを備えた小型電子機器を熱帯地域での屋外や食品工場の作業場といった高温多湿な環境下で用いる場合、シール材1と第1シートA1や第2シートA2との接着界面は、水蒸気の侵入経路になり易い。
しかしながら、本実施形態のホットメルト接着シートは、接着剤層10を構成しているホットメルト接着剤が優れた接着性を示すとともに水蒸気による接着力低下を生じ難い。
従って、本実施形態のホットメルト接着シートは、シール材として用いられることで、優れたシール性を長期持続的に発揮させることができる。
【0051】
なお、本実施形態のシール材1は、前記のように第1接着面10aと第2接着面10bとの性状を異ならせることが容易である。
そのため、シール材1は、前記のように第1接着面10aに接着される第1シートA1の表面と第2接着面10bに接着される第2シートA2の表面とが、それぞれ極性の異なる樹脂組成物で形成されているような場合において好適に用いられ得る。
【0052】
この樹脂組成物の内、極性の低い側については、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂といった低極性樹脂を主成分とするものが挙げられる。
また、極性の高い側については、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂などの高極性樹脂を主成分とするものが挙げられる。
【0053】
なお、本実施形態のシール材1は、金属製部材などの樹脂製部材以外にも良好な接着性を示すものである。
そして、本実施形態におけるホットメルト接着剤やホットメルト接着シートは、その用途が上記例示のシール材に限定されるものではない。
また、本発明に係るホットメルト接着シートは、上記のような例示以外にも、各種の変更を加え得るものである。
例えば、本発明に係るホットメルト接着シートは、マトリックスやドメインを構成させるための第1樹脂や第2樹脂が上記例示に限定されるものではない。
即ち、本発明に係るホットメルト接着シートは、上記例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(ホットメルト接着剤)
ホットメルト接着剤を調製すべく、スチレン系ブロック共重合体として、分子量の異なる3種類のSEBS(スチレンコンテントは、全て約30%)を用意した。
下記表1に「SEBS1」の略称で示したものは、MFRを測定した際に殆どフローが見られない高分子量のもの(超低流動性成分)である。
また、下記表1に「SEBS2」の略称で示したものは、約5g/10minのMFRを示す低分子量のもの(高流動性成分)である。
さらに、下記表1に「SEBS3」の略称で示したものは、「SEBS1」と「SEBS2」との中間的な分子量のもので1g/10min以下のMFRを示すもの(超低流動性成分)である。
このスチレン系ブロック共重合体にブレンドすべく、1種類のエポキシ樹脂と、3種類の粘着付与剤とを用意した。
下記表1に「EPX1」の略称で示したものは、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂である。
表1に「TF1」の略称で示したものは水素化石油樹脂(脂環族飽和炭化水素)、「TF2」の略称で示したものは水素添加テルペン樹脂、「TF3」の略称で示したものはポリ−α−メチルスチレン樹脂である。
なお、表1に「HDN1」の略称で示したものはフェノール系硬化剤(フェノールアラルキル樹脂)で、「ACC1」の略称で示したものはイミダゾール系硬化促進剤(1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール)である。
【0056】
【表1】
【0057】
(試料の作製)
表1の「配合1」、「配合2」を用い、厚み約20μmのホットメルト接着シート(接着剤層単層)を作製した。
なお、ホットメルト接着シートは、「配合1」及び「配合2」に、それぞれ有機溶媒を加えてワニス化し、当該ワニスをセパレータに塗布・乾燥することにより作製した。
そして、このとき製造条件を変えて5種類のホットメルト接着シートを作製した。
【0058】
(評価)
(エポキシ樹脂含有ドメインの偏在)
5種類のホットメルト接着シートの断面を顕微鏡観察したところ、エポキシ樹脂によるドメインがスチレン系ブロック共重合体マトリックス中に分散していることが確認できた。
各ホットメルト接着シートの第1接着面と第2接着面とに対してフーリエ変換赤外分光分析装置(FT−IR)を用いてATR法による分析を行い、697cm
−1付近に現れるスチレンに由来のピークと、1020cm
−1付近に現れるエポキシに由来のピークの強度比(1020cm
−1/697cm
−1)を測定し、ドメイン(エポキシ樹脂)の偏在度合いを調査した。
結果を、表2に示す。
【0059】
(接着性評価)
ホットメルト接着シートをポリエステル系樹脂フィルムとフッソ系樹脂フィルムとの間に挟み込み130℃×30秒間の接着条件でこれらのフィルムどうしをホットメルト接着シートで貼り合わせ、130℃×10分間のアニールを実施して、評価用の積層シートを作製した。
この積層シートから幅10mm×長さ100mmの短冊状試料を切り出し、該短冊状試料を温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に24時間放置した後、引張試験機を使って10mm/minの引張速度での180度ピール試験を実施し、短冊状試料の初期ピール強度を測定した。
なお、180度ピール試験に際しては試験開始後3mm〜18mmの剥離区間における引張応力の平均値を算出し、これを当該試料のピール強度とした。
また、180度ピール試験は、n=3で実施して算術平均値を算出し、この算術平均値によりホットメルト接着シートの接着性を評価した。
そして、前記短冊状試料を80℃の熱水に1000時間浸漬後、初期ピール強度と同様にして180度ピール試験を実施し熱水浸漬試験後のピール強度を測定した。
下記表2に、初期ピール強度、熱水浸漬試験後のピール強度の測定結果(算術平均値)を示す。
また、初期ピール強度に対する熱水浸漬試験後のピール強度の割合(接着力保持率)を算出した結果も併せて下記表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
上記の表に示された結果からは、第1接着面と第2接着面との間でのドメインの存在割合(エポキシ/スチレン比率)の差が小さくなるほど接着力の保持率が小さくなることがわかる。
【0062】
また、表2の試料1におけるSEBSを、SISやSEEPSに置換して上記と同様の評価を実施したが、エポキシの偏りや接着力の保持に関して試料1と同様の傾向を示すことが確認できた。
即ち、上記の表に示された結果からは、一面側に接着させる被着体と他面側に接着させる被着体とが材質を異ならせていてもそれぞれに対して良好な接着性を発揮するホットメルト接着シートが本発明によって提供されることがわかる。