(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、工場やビルなどの施設で用いられる指示調節計などの産業用のフィールド機器については、IoT(Internet of Things)などの考え方に沿って、制御対象の状態や制御内容を示すデータを自動的に収集するデータ収集機能の重要性が高まっている。また、これらデータを分析することで、故障予知や歩留まり改善など、様々な有用性も見出されている。
【0003】
一方で、単純なデータ収集するとデータ量が膨大となるため、データ記録や処理が難しくなる側面もある。したがって、フィールド機器でデータの特徴量を捉えて、必要なデータだけを抽出することを期待されている。特徴量を抽出するには、実データを一時的に記録しておく必要があるが、フィールド機器には低コストで小型化が求められるため、限られた記録容量で効率よく記録する必要がある。
【0004】
通常、指示調節計などのフィールド機器には、制御対象の状態や制御内容を示す時系列データをメモリに一時記録しておく時系列データ記録機能が設けられている。これにより、管理者は、記録されている時系列データを読み出して解析することができ、制御対象の状態や制御内容の推移に加えて、発生した事象に対してどのような制御が行われたかについても検証することができる。
【0005】
制御対象から検出した検出温度が設定温度となるようヒータを制御する指示調節計(温度調節計)では、検出温度(PV値)、設定温度(SP値)、検出温度と設定温度とから求めた操作量(MV値)、操作量に基づくヒータ制御用アクチュエータからの出力電流値(CT値)などの各種時系列データをメモリに記録することになる。また、検出温度のほかに検出圧力など複数の入力変数を用いて、より高度な制御を行う場合や、複数系統の制御出力を持つ場合には、記録すべき時系列データがさらに増加する。
【0006】
例えば、32種類のデータを制御周期50msごとに記録する場合、記録データ数は24時間で約550万個となる。ここで、1データを単精度浮動小数点で記録する場合にはデータ長が4バイトになるため、全体では約22メガバイトの記録容量が必要となる。また、フィード機器は、数か月も連続して稼働し続ける場合もある。このため、得られた実データをすべてメモリに記録することは現実的ではない。
【0007】
従来、時系列データを効率よくメモリに記録する技術として、メモリの空き容量が少なくなった場合にデータの記録間隔をそれまでより長くしたり、設定した基準値を超えた場合に記録間隔を適応的に変化させることにより、記録データ数を削減する技術が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。これにより、一定の記録間隔でデータを記録する場合と比較して、記録容量を増大させることなく、記録可能な期間を延長することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
[時系列データ記録装置]
まず、
図1を参照して、本発明の一実施の形態にかかる時系列データ記録装置10について説明する。
図1は、時系列データ記録装置の構成を示すブロック図である。
【0021】
この時系列データ記録装置10は、全体としてCPUやメモリなどの回路部から構成されて、所定周期で取得した時系列の実データを時系列データ記憶部に順次記録する装置であり、工場やビルなどの施設で用いられる指示調節計などの産業用のフィールド機器に搭載されて、あるいは、フィールド機器に接続されて用いられる。
【0022】
一般に、フィールド機器でメモリに記録した時系列データは、制御対象の状態や制御内容の推移、さらには発生した事象に対してどのような制御が行われたかを、管理者が後から解析し検証する際に用いられる。したがって、これら時系列データが実データのまま、すなわち取得したデータ(生データ)のまま記録されていれば、管理者は最も詳細に解析し検証することができる。
【0023】
本発明は、このような時系列データと事象の解析・検証に必要となるデータとの関係に着目し、メモリに記録された実データの推移を検証し、予め指定されている事象の発生が検出された場合には、これら実データのうち事象に関する実データを事象データとして特定してメモリに記録するようにしたものである。
【0024】
次に、
図1を参照して、本実施の形態にかかる時系列データ記録装置10の構成について詳細に説明する。以下では、時系列データ記録装置10が、制御対象から検出した検出温度が設定温度となるようヒータを制御する指示調節計(温度調節計)に搭載されている場合を例として説明するが、これに限定されるものではなく、他のフィールド機器に適用してもよく、同様の作用効果を得ることができる。
【0025】
時系列データ記録装置10には、主な機能部として、入出力I/F部11、メモリ12、データ縮約部13、記録制御部14、事象発生検出部15、および事象データ処理部16が設けられている。
【0026】
入出力I/F部11は、外部回路や外部装置(ともに図示せず)から出力された実データを取得する機能を有している。
実データは、例えば取得周期50msごとに取得される時系列データであり、1種類の時系列データでもよく、複数種類の時系列データを1組にまとめたものであってもよい。指示調節計の場合、時系列データとしては、検出温度(PV値)、設定温度(SP値)、検出温度と設定温度とから求めた操作量(MV値)、操作量に基づくヒータ制御用アクチュエータからの出力電流値(CT値)などのデータがある。
【0027】
この他、制御ブロックで演算した操作量やオンオフ出力、PID演算途中の結果(内部操作量に相当し、操作量上下限によるリミット処理前の値)、ユーザ設定による警報(PV上限・下限・偏差)、異常(センサ断線、センサ測定範囲上限異常、指示調節計本体故障)、デジタル入力などの各種ステータス、稼働時間、不揮発メモリの書込回数、設定変更の履歴などの各種アセット情報、現在時刻あるいは電源投入後の経過時間などの時刻情報などのデータも時系列データとして記録してもよい。
【0028】
メモリ12は、半導体メモリからなり、実データ、特徴量データ、事象データを記憶する機能を有している。メモリ12には、実データおよび特徴量データを記憶する領域である時系列データ記憶部12Aと、事象データを記憶する領域である事象データ記憶部12Bとが、静的または動的に設けられる。
【0029】
メモリ12の具体例としては、バッテリバックアップされているDRAMやSRAMなどの揮発性メモリであってもよく、フラッシュメモリやFRAM(Ferroelectric RAM:強誘電体メモリ)などの不揮発性メモリを用いてもよい。また、メモリ12は、時系列データ記録装置10の内部に実装された専用メモリであってもよく、外部から挿抜可能なSDカードやUSBメモリなどの外部メモリであってもよい。この際、内部・外部メモリの両方を利用して、内部メモリの空き領域がなくなった時点で、自動あるいは手動により外部メモリにデータを転送して、内部メモリに空き領域を確保するようにしてもよい。
【0030】
データ縮約部13は、時系列で連続する一定量の実データからなる実データセットを、これら実データの特徴を示す特徴量データに縮約する機能を有している。特徴量データの具体例としては、制御ループの特性値、制定時のPVの振れ幅、SPごとの制定時の操作量の平均値などのデータがある。
特に、制御ループの特性値については、SPステップ変更後にPVが変化するまでの無駄時間、PVが変化してからSP付近(例えばSP−3%FS)に到達するまでの立ち上がり時間、PVがSP付近(例えばSP−3%FS)に到達してから安定状態(例えばSP−1%FSに一定時間とどまった状態)となるまでの所要時間、特許文献2に記載の応答傾向モデルと診断結果、AT実施結果におけるPID値などがある。
【0031】
記録制御部14は、時系列データ記憶部12Aの空き容量を監視して、新たな実データを取得した際に、実データをそのまま時系列データ記憶部12Aに記録可能か否か判定する機能と、記録可能ならば実データをそのまま時系列データ記憶部12Aに記録する機能と、記録不可ならば時系列データ記憶部12Aに既に記録されている複数の実データから、事象データを除いて時系列で連続する一定量の実データを実データセットとして抽出してデータ縮約部13により縮約する機能と、得られた特徴量データを実データセットの実データに代えて時系列データ記憶部12Aに記録した後、新たな実データを時系列データ記憶部12Aに記録する機能とを有している。
【0032】
この際、記録制御部14は、実データをそのまま時系列データ記憶部12Aに記録不可ならば時系列データ記憶部12Aに既に記録されている複数の実データから、事象データを除いて一部の実データを削除した後、新たな実データを時系列データ記憶部12Aに記録するようにしてもよい。
【0033】
事象発生検出部15は、時系列データ記憶部12Aに記録した実データの値に関する推移を検証し、予め指定されている事象の発生が検出された場合には、これら実データのうち検出した事象に関する実データを事象データとして特定する機能と、事象データを特定する際、事象の発生タイミングの直前直後に位置する連続した一連の実データを事象データとして特定する機能とを有している。
【0034】
事象データ処理部16は、事象発生検出部15での事象の発生検出に応じて特定された事象データを、時系列データ記憶部12Aに記録する機能を有している。
この際、より具体的には、事象データ処理部16が、事象データを時系列データ記憶部12Aから事象データ記憶部12Bに移転させてもよい。
【0035】
ここでいう事象とは、フィールド機器における、断線、アンダーレンジ、内部メモリ異常などの計器アラーム発生、時系列データの値が制定時に正常と判断される偏差より大きくなるデータ逸脱発生、予め警報として設定した、例えばPVの上限値異常、下限値異常、変化量異常などのイベント発生、フィールド機器ごとに設定されている各種異常状態の発生などの事象がある。
【0036】
このような事象については、管理者が後から解析し検証する際、詳細な時系列データが必要となる。したがって、これら事象が発生した場合には、事象発生検出部15により、時系列データ記憶部12Aから事象データを取得し、実データのまま、すなわち取得したデータ(生データ)のまま事象データ記憶部12Bに移転(移動)させる。特に、事象データは、事象発生タイミング以降の事後期間だけでなく、それ以前の事前期間における時系列データも含まれている。これにより、事象発生の前兆現象を詳細に解析し検証することができ、事象発生原因の特定に大きく寄与することができる。
【0037】
なお、事象データについては、移転させるのではなく、事象データ処理部16が、事象発生検出部15での事象の発生検出に応じて、事象発生検出部15で取得した事象データを、例えばフラグ管理を行うことにより、時系列データ記憶部12A内で縮約および削除の対象外として保護するようにしてもよい。
【0038】
また、事象データ処理部16は、事象発生検出部15での事象の発生検出に応じて、事象データ記憶部12Bの空き容量に基づいて事象発生検出部15で得られた事象データを事象データ記憶部12Bに記録可能か否か判定し、記録可能な場合には事象データを事象データ記憶部12Bに記録する機能と、事象データを事象データ記憶部12Bに記録不可能な場合には、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データのうち古いものから時系列の順に削除し、得られた空き領域に事象データを記録する機能とを有している。
【0039】
また、以上では、なるべく実データを時系列データ記憶部12Aに記録しておく場合を例として説明したが、制御対象が安定状態にある正常期間については、特徴量データにより十分解析・検証できる制御対象もある。このような場合には、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データのうち、事象発生が検出されていない正常期間における実データを特徴量データに縮約するようにしてもよい。これにより、実データによる記録領域の消費を最小限に抑制することができる。
【0040】
この際、具体的には、記録制御部14に、事象発生検出部15での事象の発生検出に応じて、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データをデータ縮約部13で特徴量データに縮約して時系列データ記憶部12Aに記録するとともに、これら実データを削除する機能と、事象発生検出部15で得られた事象データを事象データ記憶部12Bに記録する機能とを設ければよい。この際、実データは、時系列データ記憶部12Aに記録されているすべての実データを特徴量データに縮約することにより、極めて効率よくメモリ12を利用できる。また、これら実データは、1つの特徴量データに縮約してもよく、予め設定した期間やデータ量に基づいて複数の特徴量データに縮約してもよい。
【0041】
また、メモリ12に、実データ、特徴量データ、事象データなど、異なる種別のデータを記録する場合、実際には、どのアドレスにどの種別のデータを記録したか管理する必要がある。したがって、メモリ管理テーブルを設けて、アドレスごとに記録されているデータの種別を管理してもよいが、データ種別ごとに記録領域を設けてもよい。これにより、各記録領域の先頭アドレスと末尾アドレスまたは領域サイズを管理するだけでよく、メモリ管理テーブルより少ないメモリ容量で実現できる。
【0042】
この際、具体的には、記録制御部14に、実データセットを記録する実データ記録領域、特徴量データを記録する特徴量データ記録領域、さらには事象データを記録する事象データ記録領域をメモリ12に設ける機能と、メモリ12に対する記録開始時には記録領域全域を実データ記録領域に割り当てる機能と、特徴量データを記録する際、実データ記録領域から実データを消去して得られた空き領域を特徴量データ記録領域として順次割り当てる機能と、事象データを記録する際、実データ記録領域から実データを消去して得られた空き領域を事象データ記録領域として順次割り当てる機能とを有している。
【0043】
[本実施の形態の動作]
次に、
図2を参照して、本実施の形態にかかわる時系列データ記録装置10の動作について説明する。
図2は、データ記録処理を示すフローチャートである。
時系列データ記録装置10は、外部からの記録開始指示または電源投入後の起動に応じて、
図2のデータ記録処理を開始する。
【0044】
まず、入出力I/F部11は、外部から一定期間ごとに1つまたは複数の時系列データを、実データとして取得する(ステップ100)。
事象発生検出部15は、取得した実データを検証し(ステップ101)、予め指定されている事象の発生が検出された場合には(ステップ101:YES)、後述する事象データ記録処理へ移行する(ステップ105)。
【0045】
一方、予め指定されている事象の発生が検出されなかった場合(ステップ101:NO)、記録制御部14は、時系列データ記憶部12Aの空き容量に基づいて実データを時系列データ記憶部12Aに記録可能か否か判定する(ステップ102)。
ここで、時系列データ記憶部12Aに実データのデータサイズ以上の空き領域が存在しており、記録可能である場合(ステップ102:YES)、記録制御部14は、実データを縮約することなくそのまま時系列データ記憶部12Aの空き領域に記録し(ステップ103)、ステップ100に戻る。
【0046】
一方、時系列データ記憶部12Aに実データのデータサイズ以上の空き領域が存在しておらず、記録不可能である場合(ステップ102:NO)、記録制御部14は、後述する特徴量データ記録処理へ移行する(ステップ104)。
【0047】
[特徴量データ記録処理]
次に、
図3および
図4を参照して、本実施の形態にかかわる時系列データ記録装置10の特徴量データ記録処理について説明する。
図3は、特徴量データ記録処理を示すフローチャートである。
図4は、特徴量データ記録処理を示す説明図である。
時系列データ記録装置10は、
図2のステップ104において、
図3の特徴量データ記録処理を実行する。
【0048】
まず、記録制御部14は、時系列データ記憶部12Aに既に記録されている複数の実データから、時系列で連続する一定量の実データ、
図4ではセット期間Ts分の実データを実データセットとして抽出し(ステップ110)、この実データセットをデータ縮約部13で縮約処理することにより、実データセットに含まれる一定量の実データの特徴を示す特徴量データを生成する(ステップ111)。
【0049】
この際、実データセットとして抽出する実データについては、いくつかの選択方法が考えられる。その1つとして、時系列データ記憶部12Aに既に記録されている実データのうちから、取得された日時の古い順に、時系列で連続する一定量の実データを取得する方法がある。これにより、管理者が後から解析し検証する可能性が低い実データを削除して特徴量データに縮約することができ、解析や検証に対する縮約の影響を最小限にとどめることができる。また、実データセットについては、実データの値が規定範囲内で一定していることを条件として、時系列で連続する一定量の実データを一定量だけ取得してもよい。この場合にも、解析や検証に対する縮約の影響を最小限にとどめることができる。
【0050】
次に、記録制御部14は、時系列データ記憶部12Aの空き容量に基づいて、データ縮約部13で生成した特徴量データを時系列データ記憶部12Aに記録可能か否か判定する(ステップ112)。
ここで、時系列データ記憶部12Aに特徴量データのデータサイズ以上の空き領域が存在しており、記録可能である場合(ステップ112:YES)、記録制御部14は、特徴量データを時系列データ記憶部12Aの空き領域に記録し(ステップ113)、一連の特徴量データ記録処理を終了する。
【0051】
一方、時系列データ記憶部12Aに特徴量データのデータサイズ以上の空き領域が存在しておらず、記録不可能である場合(ステップ112:NO)、記録制御部14は、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データのうちから、例えば特徴量データのデータサイズ分だけ削除して時系列データ記憶部12Aに空き領域を確保し(ステップ114)、確保した時系列データ記憶部12Aの空き領域に特徴量データを記録し(ステップ115)、一連の特徴量データ記録処理を終了する。
【0052】
この際、削除する実データについては、いくつかの選択方法が考えられる。その1つとして、時系列データ記憶部12Aに既に記録されている実データのうちから、取得された日時の古い順に実データを選択する方法がある。これにより、管理者が後から解析し検証する可能性が低い実データを削除することができ、解析や検証に対する縮約の影響を最小限にとどめることができる。また、実データの値が規定範囲内で一定していることを条件として、削除する実データを選択してもよい。この場合にも、解析や検証に対する縮約の影響を最小限にとどめることができる。
【0053】
図4の例では、時系列データ記憶部12Aに既に記録されている実データのうちから、セット期間Ts分の実データが実データセットとして抽出されている。この抽出により、実データセットに相当する実データは、時系列データ記憶部12Aから削除され空き領域が確保される。また、特徴量データは実データセットよりデータサイズが小さいため、少ない記録領域で実データセットより多くの特徴量データを記録することができるとともに、記録領域を確保するために削除する実データの量が少なくて済む。これにより、結果として、メモリ12を効率よく利用して、時系列データを記録することが可能となる。
【0054】
図5は、特徴量データの記録例を示す説明図である。
図5の例では、実データおよび特徴量データを記録する領域として、実データ記録領域Maおよび特徴量データ記録領域Mbを時系列データ記憶部12Aに動的に設ける場合が示されている。
図5(a)に示すように、時系列データ記憶部12Aに対する記録開始時において、実データ記録領域Maが時系列データ記憶部12Aの記録領域全域に設定される。ある時点において、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データの記録量がMnであり、残りの領域が空き領域となる。
【0055】
その後、取得した実データが順次実データ記録領域Maに記録され、
図5(b)に示すように、空き領域(空き容量)がゼロとなった場合、これ以降において新たな実データを記録できなくなる。このため、実データ記録領域Maに記録されている実データの一部が実データセットとして抽出されて特徴量データに縮約される。
これにより、
図5(c)に示すように、この抽出により実データが実データ記録領域Maから削除されて、時系列データ記憶部12Aに空き領域が確保され、
図5(d)に示すように、この空き領域のすべてまたは一部が特徴量データ記録領域Mbに割り当てられ、ここに特徴量データが記録される。
【0056】
一般に、時系列データは、管理者による解析・検証という観点から見て、過去のデータより新しいデータの方が価値が高いとされている。これは、過去のデータの方が現在の状況との関連性が低く、新しいデータの方が現在の状況との関連性が高いからである。したがって、記録容量を確保する際、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データのうち、古いものから順に削除して記録容量を確保することにより、メモリ12より価値の高いデータを残しておくことができ、解析・検証に役立つデータを効率よく記録しておくことが可能となる。
【0057】
[事象データ記録処理]
次に、
図6および
図7を参照して、本実施の形態にかかる時系列データ記録装置10の事象データ記録処理について説明する。
図6は、事象データ記録処理を示すフローチャートである。
図7は、事象データ記録処理を示す説明図である。
時系列データ記録装置10は、
図2のステップ105において、
図6の事象データ記録処理を実行する。
【0058】
まず、事象発生検出部15は、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データのうち、指定した事象Pの発生が検出された先頭の実データの時間位置を事象発生タイミングTpとし、このTpから予め事象Pに設定されている事前期間Taと事後期間Tbとからなる事象関連期間Tc分の実データを、事象データとして特定する(ステップ120)。
【0059】
次に、記録制御部14は、事象データ記憶部12Bの空き容量に基づいて事象発生検出部15で取得した事象データを事象データ記憶部12Bに記録可能か否か判定する(ステップ121)。
ここで、事象データ記憶部12Bに事象データのデータサイズ以上の空き領域が存在しており、記録可能である場合(ステップ121:YES)、記録制御部14は、事象データを時系列データ記憶部12Aから事象データ記憶部12Bの空き領域に移転させ(ステップ122)、一連の事象データ記録処理を終了する。
【0060】
一方、事象データ記憶部12Bに事象データのデータサイズ以上の空き領域が存在しておらず、記録不可能である場合(ステップ121:NO)、記録制御部14は、メモリ12に記録されている実データのうちから、例えば事象データのデータサイズ分だけ削除して事象データ記憶部12Bに空き領域を確保し(ステップ123)、確保した事象データ記憶部12Bの空き領域に事象データを記録し(ステップ124)、一連の事象データ記録処理を終了する。
【0061】
図7の例では、時系列データ記憶部12Aに既に記録されている実データのうちから、指定した事象Pが検出された場合、その先頭の実データの時間位置が事象発生タイミングTpとされ、このTpから予め事象Pに設定されている事前期間Taと事後期間Tbとからなる事象関連期間Tc分の実データが、事象データとして時系列データ記憶部12Aから抽出され、この事象データが事象データ記憶部12Bに記録される。
これにより、指定した事象Pの発生前後における時系列データが、実データのまま事象データ記憶部12Bに記録されることになる。このため、管理者は事象Pについて正確に解析・検証することができ、メモリ12全体としてより価値の高いデータを効率よく記録しておくことが可能となる。
【0062】
図8は、事象データの記録例を示す説明図である。
図8の例では、実データ、特徴量データ、および事象データを記録する領域として、実データ記録領域Ma、特徴量データ記録領域Mb、および事象データ記録領域Mcをメモリ12に動的に設ける場合が示されている。これら記録領域のうち、実データ記録領域Maおよび事象データ記録領域Mcが時系列データ記憶部12Aに相当し、事象データ記録領域Mcが事象データ記憶部12Bに相当している。
【0063】
図8(a)に示すように、ある時点において、実データ記録領域Maと特徴量データ記録領域Mbとがメモリ12に設けられており、空き領域はないものとする。
その後、指定した事象Pの発生が検出された場合、
図8(b)に示すように、実データ記録領域Maに記録されている実データの一部が削除され、
図8(c)に示すように、これにより確保された記録領域が事象データ記録領域Mcに割り当てられ、ここに事象データが記録される。
【0064】
一般に、時系列データは、管理者による解析・検証という観点から見て、過去のデータより新しいデータの方が価値が高いとされている。これは、過去のデータの方が現在の状況との関連性が低く、新しいデータの方が現在の状況との関連性が高いからである。したがって、記録容量を確保する際、時系列データ記憶部12Aに記録されている実データのうち、古いものから順に削除して記録容量を確保することにより、メモリ12全体としてより価値の高いデータを残しておくことができ、解析・検証に役立つデータを効率よく記録しておくことが可能となる。
【0065】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、事象発生検出部15が、時系列データ記憶部12Aに記録した実データの値に関する推移を検証し、予め指定されている事象の発生が検出された場合には、これら実データのうち事象に関する実データを事象データとして特定し、事象データ処理部16が、事象の発生検出に応じて特定された事象データを時系列データ記憶部12Aに記録するようにしたものである。
【0066】
これにより、予め指定されている事象が発生した場合には、事象発生検出部15により、時系列データ記憶部12Aから事象に関する実データが事象データとして特定されて、事象データ処理部16により、実データのまま、すなわち取得したデータ(生データ)のまま時系列データ記憶部12Aに記録される。
【0067】
このため、実データを特徴量データに集約してメモリ12に記録する場合、さらには記録間隔の延長により記録する実データを間引いてメモリ12に記録する場合など、取得した実データのすべてをメモリ12に記録しない場合であっても、発生した事象を正確に解析し検証することが可能となる。
したがって、コストアップや大型化の要因となる、大規模容量のメモリを必要とすることなく、発生した障害の原因や事象間の相互関係の究明、故障予知、歩留まり向上に大きく寄与することが可能となる。
【0068】
また、本実施の形態において、事象発生検出部15が事象に関する実データを事象データとして特定する際、事象の発生タイミングの前後に位置する連続した一連の実データを事象データとして特定するようにしてもよい。
これにより、事象発生の前後における実データが事象データとして記録されるため、事象発生前にどのような変化があったのか、すなわちどのような前兆現象があったのかを把握することができ、障害の原因や事象間の相互関係の究明に、大きく寄与することが可能となる。
【0069】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【0070】
前述した
図5および
図8では、メモリ12にデータを記録する際、各記録領域を動的に確保する場合について説明したが、設計上このような動的な領域確保が難しい場合には、それぞれの記録領域を予め固定的に確保しておく方法もある。この場合、事象が発生しなかったり事象発生回数が想定よりも少なかった場合、事象データ記録領域は使用されないままとなるため、メモリ12を完全に使い切ることができない場合がある。また、事象発生回数が想定よりも多くなった場合も、全体ではメモリ12が余っているにもかかわらず、古い事象データを捨てるか新たな事象データを記録しないといった対策が必要となる。
【0071】
また、一般的には、時系列データ記録装置10を定期的にメンテナンスして、メモリ12に記録された実データ、特徴量データ、事象データを廃棄したり、あるいは上位装置へ転送したりすることになる。このため、メモリ12としては、それまでの動作期間に取得したこれらデータを記録するために十分な記録容量を持つメモリを用意するべきである。しかしながら、途中で記録領域を使い切ってしまった場合、例えば実データ記録領域が全くなって特徴量データ記録領域を確保できなくなった場合には、設定内容に応じて、メモリ12に記録されているデータ、例えば特徴量データの古い方から順に消去して上書きするようにしてもよく、新しいデータは記録せず破棄するようにしてもよい。
【0072】
また、前述の各実施の形態では、実データセットをメモリ12に記録できない場合、1つの実データセットから1つの特徴量データを生成する場合を例として説明したが、実データセットと特徴量データとの関係についてはこれに限定されるものではなく、1つの実データセットについて複数の特徴量データを生成してもよく、複数の実データセットについて1つの特徴量データを生成してもよい。さらに、実データセットとする実データの数は、一定であってもよく可変であってもよい。