特許第6857100号(P6857100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857100
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20210405BHJP
   F16J 15/3236 20160101ALI20210405BHJP
【FI】
   F16J15/3232 201
   F16J15/3236
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-147409(P2017-147409)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-27511(P2019-27511A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】神保 一憲
【審査官】 的場 眞夢
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−001070(JP,U)
【文献】 特開2011−158031(JP,A)
【文献】 実開昭54−124857(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72−33/82
F16J 15/00−15/3296
15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製の密封装置において、
密封対象流体側かつ径方向内側に伸びる内周リップと、外周シール面を有する外周シール部と、前記内周リップの外周面と前記外周シール部の内周面とを繋ぐように設けられる環状の受圧溝と、を備える密封装置であって、
前記外周シール面よりも密封対象流体が密封される密封対象流体側には、径方向外側かつ密封対象流体側に向かって伸び、前記ハウジングの内周面と前記外周シール面との間の空間内の気体を密封対象流体側に向かって排気させることができ、かつ密封対象流体側から前記空間内への気体の侵入を阻止する密封対象流体側排気弁が設けられ、
前記外周シール面よりも密封対象流体側とは反対側の反密封対象流体側には、径方向外側かつ反密封対象流体側に向かって伸び、前記空間内の気体を反密封対象流体側に向かって排気させることができ、かつ反密封流体側から前記空間内への気体の侵入を阻止する反密封対象流体側排気弁が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記密封対象流体側排気弁の先端の外径、及び前記反密封対象流体側排気弁の先端の外径は、いずれも前記外周シール面の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記密封対象流体側排気弁の内周面側には、密封対象流体の圧力を受ける環状溝が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記密封対象流体側排気弁と前記外周シール面との間、及び前記反密封対象流体側排気弁と前記外周シール面との間には、いずれも環状凹部が設けられていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製の密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製の密封装置として、例えば、図10に示す密封装置が知られている。図10は従来例1に係る密封装置の模式的断面図である。この密封装置500は、環状の胴体部(腰部)510と、胴体部510から密封対象流体側かつ径方向内側に伸びる内周リップ520と、外周シール面550を有する外周シール部530とを一体的に備えている。また、内周リップ520の外周面と外周シール部530の内周面とを繋ぐように環状の受圧溝540が設けられている。以上のように構成される密封装置500によれば、高速回転(例えば、1000rpm)においても、密封機能が維持される。しかしながら、この密封装置500の場合には、高圧条件下(例えば、15MPa)においては、密封装置500の外周面側から密封対象流体が漏れてしまい、耐圧性はそれほど高くはない。
【0003】
耐圧性を高める場合に、通常、往復動用途に用いられる密封装置が、回転用途に流用される場合がある。図11は従来例2に係る密封装置の模式的断面図である。この密封装置600は、環状の胴体部(腰部)610と、胴体部610から密封対象流体側かつ径方向内側に伸びる内周リップ520と、胴体部610から密封対象流体側かつ径方向外側に伸びる外周リップ630とを一体的に備えている。また、内周リップ620の外周面と外周リップ630の内周面とを繋ぐように環状の受圧溝640が設けられている。以上のように構成される密封装置600によれば、外周リップ630による密封性が高められるため、上記のような高圧条件下でも密封機能が維持される。しかしながら、この密封装置600の場合には、上記のような高速回転の用途に用いられると、密封装置600が回転軸と共に回転してしまい、外周リップ630が経時的に摩耗してしまう。従って、この密封装置600は高速回転用途には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−322163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高速回転用途への適用を可能としつつ、耐圧性を高めることのできる密封装置を適用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明の密封装置は、
相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するゴム状弾性体製の密封装置において、
密封対象流体側かつ径方向内側に伸びる内周リップと、外周シール面を有する外周シール部と、前記内周リップの外周面と前記外周シール部の内周面とを繋ぐように設けられる環状の受圧溝と、を備える密封装置であって、
前記外周シール面よりも密封対象流体が密封される密封対象流体側には、径方向外側か
つ密封対象流体側に向かって伸び、前記ハウジングの内周面と前記外周シール面との間の空間内の気体を密封対象流体側に向かって排気させることができ、かつ密封対象流体側から前記空間内への気体の侵入を阻止する密封対象流体側排気弁が設けられ、
前記外周シール面よりも密封対象流体側とは反対側の反密封対象流体側には、径方向外側かつ反密封対象流体側に向かって伸び、前記空間内の気体を反密封対象流体側に向かって排気させることができ、かつ反密封流体側から前記空間内への気体の侵入を阻止する反密封対象流体側排気弁が設けられていることを特徴とする。
【0008】
ここで、本発明において、「密封対象流体側」とは、上記の通り、密封対象流体が密封される側を意味している。つまり、現に、密封対象流体が密封されていない状態においても、密封対象流体が密封される側は、「密封対象流体側」である。
【0009】
本発明によれば、密封対象流体側排気弁により、ハウジングの内周面と外周シール面との間の空間内の気体は密封対象流体側に排気される。また、反密封対象流体側排気弁により、ハウジングの内周面と外周シール面との間の空間内の気体は反密封対象流体側に向かって排気される。従って、ハウジングの内周面と、外周シール面と、密封対象流体側排気弁と、反密封対象流体側排気弁との間に形成される密閉空間内の気圧を、当該密閉空間外の流体圧力よりも低くすることができる。これにより、外周シール面側をハウジングの内周面に対して吸着させることができる。従って、密封装置とハウジングとの間で摺動してしまうことを抑制することができるため、高速回転用途への適用が可能となる。また、密封装置の外周面側の密封性を高められるため、耐圧性も高めることができる。
【0010】
前記密封対象流体側排気弁の先端の外径、及び前記反密封対象流体側排気弁の先端の外径は、いずれも前記外周シール面の外径よりも大きいとよい。
【0011】
ここで、密封対象流体側排気弁の先端の外径、及び反密封対象流体側排気弁の先端の外径が、外周シール面の外径よりも大きいほど、上記密閉空間から排気させる気体を多くすることができる。そして、排気させる気体が多い程、密閉空間内の気圧を、当該密閉空間外の流体圧力よりも、より低くすることができる。
【0012】
前記密封対象流体側排気弁の内周面側には、密封対象流体の圧力を受ける環状溝が設けられているとよい。
【0013】
これにより、環状溝内の密封対象流体の圧力に応じて、密封対象流体側排気弁はハウジングの内周面に押し付けられる。
【0014】
前記密封対象流体側排気弁と前記外周シール面との間、及び前記反密封対象流体側排気弁と前記外周シール面との間には、いずれも環状凹部が設けられているとよい。
【0015】
これにより、密封対象流体側排気弁の変形による外周シール面への影響を抑制することができ、かつ反密封対象流体側排気弁の変形による外周シール面への影響を抑制することができる。
【0016】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、高速回転用途への適用を可能としつつ、耐圧性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。
図2図2は本発明の実施例1に係る密封構造の組み立て時の様子を示す模式的断面図である。
図3図3は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図である。
図4図4は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図である。
図5図5は本発明の実施例2に係る密封装置の模式的断面図である。
図6図6は本発明の実施例2に係る密封構造の模式的断面図である。
図7図7は本発明の実施例3に係る密封構造の模式的断面図である。
図8図8は本発明の実施例3に係る密封構造の組み立て時の様子を示す模式的断面図である。
図9図9は変形例に係る外周シール面の外観図の一部である。
図10図10は従来例1に係る密封装置の模式的断面図である。
図11図11は従来例2に係る密封装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
(実施例1)
図1図4を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置について説明する。図1は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。図2は本発明の実施例1に係る密封構造の組み立て時の様子を示す模式的断面図である。図3は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図であり、密封装置の組込状態を示している。図4は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図であり、使用時の様子を示している。なお、本実施例に係る密封装置は回転対称形状であり、図1図4においては、密封装置における中心軸線を含む面で密封装置を切断した断面図を示している。
【0021】
<密封構造>
図3及び図4を参照して、本実施例に係る密封装置が適用される密封構造について説明する。本実施例に係る密封構造は、相対的に回転する軸200及びハウジング300と、これら軸200とハウジング300との間の環状隙間を封止する密封装置100とから構成される。ハウジング300の内周面側には環状の装着溝310が設けられている。この装着溝310に、密封装置100は装着される。なお、図4中、右側が、密封対象流体(例えば、オイル)が密封される密封対象流体側(O)であり、左側が大気側(A)である。大気側(A)は密封対象流体側(O)とは反対側の反密封対象流体側に相当する。また、密封対象流体側(O)とは、上記の通り、密封対象流体が密封される側を意味している。つまり、現に、密封対象流体が密封されていない状態においても、密封対象流体が密封される側は、密封対象流体側(O)である。
【0022】
<密封装置>
本実施例に係る密封装置100は、ゴム状弾性体により構成されている。ゴム状弾性体の材料としては、ゴム材全般を適用し得る。好適な例として、NBR,ACM,H−NBR,FKM,EPDM,ウレタンを一例として挙げることができる。そして、密封装置100は、環状の胴体部(腰部)110と、密封対象流体側(O)かつ径方向内側に伸びる内周リップ120と、外周シール面150を有する外周シール部130とを備えている。また、密封装置100は、内周リップ120の外周面と外周シール部130の内周面とを繋ぐように設けられる環状の受圧溝140も備えている。内周リップ120は、軸200の外周面に摺動自在に密着するように構成されている。なお、本実施例においては、胴体
部110における大気側(A)の端面111は、密封装置100の中心軸線に対して垂直な面により構成されている。また、外周シール面150は、円柱面により構成されている。
【0023】
そして、本実施例に係る密封装置100においては、外周シール面150よりも密封対象流体側(O)には、密封対象流体側排気弁160が備えられている。この密封対象流体側排気弁160は、径方向外側かつ密封対象流体側(O)に向かって伸びるように構成されている。これにより、密封対象流体側排気弁160は、ハウジング300の内周面(装着溝310の溝底面に相当)と外周シール面150との間の空間K内の気体を密封対象流体側(O)に向かって排気させることができ、かつ密封対象流体側(O)から上記空間K内への気体の侵入を阻止する機能が発揮される。
【0024】
密封装置100に外力が作用していない状態において、密封対象流体側排気弁160の先端の外径は、外周シール面150の外径よりも大きく、かつハウジング300の内周面(装着溝310の溝底面)の外径よりも大きくなるように設計されている。
【0025】
この密封対象流体側排気弁160の肉厚や長さについては、密封装置100の組込状態(密封装置100が装着溝310に装着され、かつ軸200が組み込まれた状態)において、外周シール面150がハウジング300の内周面に密着する程度の剛性となるように設計される。また、この密封対象流体側排気弁160の先端は、密封装置100の組込状態において、外周シール部130の本体部(密封対象流体側排気弁160を除く部分)における密封対象流体側(O)の端面よりも、密封対象流体側(O)に飛び出さないように設計するのが望ましい。これにより、密封対象流体側排気弁160が装着溝310の溝側面(密封対象流体側(O)の側面)に接触してしまうことを抑制することができる。従って、密封対象流体側排気弁160による排気機能が損なわれてしまうことを抑制することができる。また、外周シール面150の装着溝310の溝底面に対する密着力が低減してしまうことも抑制することができる。
【0026】
そして、密封対象流体側排気弁160の内周面側には、密封対象流体の圧力を受ける環状溝161が設けられている。また、密封対象流体側排気弁160と外周シール面150との間には、環状凹部162が設けられている。
【0027】
また、本実施例に係る密封装置100においては、外周シール面150よりも密封対象流体側とは反対側の反密封対象流体側(大気側(A))には、反密封対象流体側排気弁170が備えられている。この反密封対象流体側排気弁170は、径方向外側かつ大気側(A)に向かって伸びるように構成されている。これにより、反密封対象流体側排気弁170は、上記空間K内の気体を大気側(A)に向かって排気させることができ、かつ大気側(A)から上記空間K内への気体の侵入を阻止する機能が発揮される。
【0028】
密封装置100に外力が作用していない状態において、反密封対象流体側排気弁170の先端の外径は、外周シール面150の外径よりも大きく、かつハウジング300の内周面(装着溝310の溝底面)の外径よりも大きくなるように設計されている。
【0029】
この反密封対象流体側排気弁170の肉厚や長さについては、密封装置100の組込状態において、外周シール面150がハウジング300の内周面に密着する程度の剛性となるように設計される。また、この反密封対象流体側排気弁170の先端は、密封装置100の組込状態において、外周シール部130の本体部(反密封対象流体側排気弁170を除く部分)における大気側(A)の端面よりも、大気側(A)に飛び出さないように設計するのが望ましい。これにより、反密封対象流体側排気弁170が装着溝310の溝側面(大気側(A)の側面)に接触してしまうことを抑制することができる。従って、反密封
対象流体側排気弁170による排気機能が損なわれてしまうことを抑制することができる。また、外周シール面150の装着溝310の溝底面に対する密着力が低減してしまうことも抑制することができる。更に、密封対象流体側(O)から流体圧力が作用した場合においても、反密封対象流体側排気弁170が装着溝310の溝側面に強く押し付けられてしまうことを抑制することができるため、反密封対象流体側排気弁170が損傷してしまうことも抑制することができる。
【0030】
そして、反密封対象流体側排気弁170の内周面側には、環状溝171が設けられている。なお、密封対象流体による圧力が密封装置100に作用している状態においては、反密封対象流体側排気弁170は、装着溝310の溝側面に押し付けられるため、環状溝171は、反密封対象流体側排気弁170が過度に変形してしまわない程度の大きさに設計するのが望ましい。また、反密封対象流体側排気弁170と外周シール面150との間には、環状凹部172が設けられている。
【0031】
<本実施例に係る密封装置のメカニズム>
密封装置100を組み込む場合、まず、ハウジング300に設けられた装着溝310に密封装置100が装着される。上記の通り、密封対象流体側排気弁160の先端の外径、及び反密封対象流体側排気弁170の先端の外径は、外周シール面150の外径よりも大きく、かつ装着溝310の溝底面の外径よりも大きい。従って、装着溝310に密封装置100が装着されると、密封対象流体側排気弁160の先端、及び反密封対象流体側排気弁170の先端は、装着溝310の溝底面に密着し、少し撓んだ状態となる。ここで、密封対象流体側排気弁160の先端、及び反密封対象流体側排気弁170の先端が、装着溝310の溝底面に密着することにより、装着溝310の溝底面と、外周シール面150と、密封対象流体側排気弁160と、反密封対象流体側排気弁170との間には、密閉された空間Kが形成される。そして、密封対象流体側排気弁160の先端と反密封対象流体側排気弁170の先端が少し撓む過程で、この空間Kの体積は少し減少する。なお、装着溝310に密封装置100が装着され、かつ軸200が組み込まれていない状態において、外周シール面150と装着溝310の溝底面との間には、僅かな隙間が形成されるように設計してもよいし、外周シール面150が装着溝310の溝底面に密着するように設計してもよい。ただし、軸200が組み込まれる前の状態においても、外周シール面150と装着溝310の溝底面が密着するようにしたほうが、空間K内から、より確実に空間Kの外側に空気を排出することができる。また、密封装置100の外周面やハウジング300の内周面に油が付着している場合があり、密封装置100とハウジング300との間に油膜が形成されると、これらが摺動してしまうおそれがある。従って、密封構造が組み立てられる過程で、密封装置100とハウジング300との間の油は空間Kの外部に排出されるのが望ましい。このように、油を空間Kの外部に排出され易くするためにも、軸200が組み込まれる前の状態において、外周シール面150と装着溝310の溝底面が密着するようにしたほうがよい。
【0032】
以上のように、密封装置100が装着溝310に装着される過程で、密閉された空間Kの体積は減少する。これにより、空間K内の気体の一部が、密封対象流体側排気弁160及び反密封対象流体側排気弁170によって、空間Kの外部に排気される。従って、空間K内の気圧は、空間Kの外部の気圧(ここでは大気圧)よりも小さくなる。
【0033】
密封装置100が装着溝310に装着された後に、軸200が組み込まれる。本実施例においては、軸200は大気側(A)から密封対象流体流体側(O)に挿入される(図2中の矢印S参照)。軸200が組み込まれることで、密封装置100は、軸200によって、径方向外側に押圧される。これにより、上記の空間Kの体積はより一層減少する。なお、軸200が組み込まれる前の状態で、外周シール面150と装着溝310の溝底面との間に隙間が形成される構成を採用した場合であっても、軸200が組み込まれた状態に
おいては、外周シール面150は装着溝310の溝底面に密着する。
【0034】
以上のように、軸200が組み込まれる過程で、空間K内の気体の一部は、密封対象流体側排気弁160及び反密封対象流体側排気弁170によって、更に、空間Kの外部に排気される。従って、空間K内の気圧は、空間Kの外部の気圧(ここでは大気圧)よりも、一層小さくなる。なお、密封対象流体側排気弁160により、空間K内の気体は密封対象流体側(O)に向かって排気される(図3中、矢印X1参照)。また、反密封対象流体側排気弁170により、空間K内の気体は大気側(A)に向かって排気される(図3中、矢印X2参照)。
【0035】
密封装置100が組み込まれた後に、密封対象流体側(O)に密封対象流体が密封された状態になると、密封装置100は密封対象流体側(O)から大気側(A)に押圧され、かつ、受圧溝140及び環状溝161は密封対象流体の圧力を受ける。これにより、密封装置100は大気側(A)に移動して、胴体部110の端面111が装着溝310の溝側面に密着する。また、受圧溝140の径方向外側の面と、環状溝161の径方向外側の面が、それぞれ径方向外側に押圧されるため、空間Kの体積(特に、環状凹部162及び環状凹部172内の体積)が更に減少する。従って、空間K内の気体の一部は、密封対象流体側排気弁160及び反密封対象流体側排気弁170によって、更に、空間Kの外部に排気される。従って、空間K内の気圧は、空間Kの外部の流体圧力(密封対象流体側(O)においては、密封対象流体の圧力で、大気側(A)においては大気圧)よりも、より一層小さくなる。本実施例においては、空間K内の気圧は、最終的に真空に近い状態となるように設計されると望ましい。
【0036】
以上のように、装着溝310に密封装置100が装着される過程、軸200が組み込まれる過程、密封対象流体側(O)に密封対象流体が密封される過程の3つの過程で、上記の密閉された空間K内の気圧は段階的に減少する。これにより、空間K内の気圧が、空間Kの外部の流体圧力よりも低くなる。従って、密封装置100における外周シール部130の外周面(軸線方向において、密封対象流体側排気弁160の先端から反密封対象流体側排気弁170の先端までの部位)は、ハウジング300の内周面(装着溝310の溝底面)に吸着される。なお、この吸着の原理は、吸盤の吸着原理と同様である。
【0037】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置100によれば、密封対象流体側排気弁160と反密封対象流体側排気弁170とが備えられることにより、密封装置100の外周面側をハウジング300の内周面に対して吸着させることができる。従って、密封装置100とハウジング300との間で摺動してしまうことを抑制することができるため、高速回転用途への適用が可能となる。また、密封装置100の外周面側の密封性を高められるため、耐圧性も高めることができる。
【0038】
なお、密封対象流体側排気弁160の先端の外径、及び反密封対象流体側排気弁170の先端の外径は、いずれも外周シール面150の外径よりも大きい。ここで、密封対象流体側排気弁160の先端の外径、及び反密封対象流体側排気弁170の先端の外径が、外周シール面150の外径よりも大きいほど、密閉された空間Kから排気させる気体を多くすることができる。そして、排気させる気体が多い程、空間K内の気圧を、空間K外の流体圧力よりも、より低くすることができる。
【0039】
また、本実施例に係る密封装置100においては、密封対象流体側排気弁160の内周面側に、密封対象流体の圧力を受ける環状溝161が設けられている。これにより、環状溝161内の密封対象流体の圧力に応じて、密封対象流体側排気弁160はハウジング300の内周面に押し付けられる。従って、密封装置100の外周面側の密封性をより確実
に高めることができる。
【0040】
更に、本実施例に係る密封装置100においては、密封対象流体側排気弁160と外周シール面150との間には、環状凹部162が設けられている。また、反密封対象流体側排気弁170と外周シール面150との間にも、環状凹部172が設けられている。従って、密封対象流体側排気弁160の変形による外周シール面150への影響を抑制することができ、かつ反密封対象流体側排気弁170の変形による外周シール面150への影響を抑制することができる。
【0041】
(実施例2)
図5及び図6には、本発明の実施例2が示されている。上記実施例1では、外周シール面が円柱面により構成される場合を示した。これに対して、本実施例では、外周シール面がテーパ面で構成される場合を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0042】
図5は本発明の実施例2に係る密封装置の模式的断面図である。図6は本発明の実施例2に係る密封構造の模式的断面図であり、密封装置の組込状態を示している。なお、本実施例に係る密封装置は回転対称形状であり、図5及び図6においては、密封装置における中心軸線を含む面で密封装置を切断した断面図を示している。
【0043】
本実施例に係る密封装置100Xは、外周シール面150Xがテーパ面で構成されている点のみが、上記実施例1における密封装置100と異なっている。本実施例に係る外周シール面150Xは、反密封対象流体側(A)から密封対象流体側(O)に向かって拡径するテーパ面で構成されている。
【0044】
以下、外周シール面150Xをテーパ面で構成した技術的意義について説明する。内周リップ120が軸200により径方向外側に押圧されることによって、密封装置100Xにおける胴体部110には、図6中、矢印R1方向のモーメントが作用する。これにより、胴体部110の端面111は、径方向内側ほど、装着溝310の溝側面から離れた状態になる。これに対し、外周シール面150Xがテーパ面で構成されることで、外周シール面150Xが装着溝310の溝底面に密着すると、外周シール部130には、図6中、矢印R2方向のモーメントが作用する。これにより、矢印R1方向のモーメントを小さくすることができる。そのため、密封装置100Xが組み込まれた状態において、胴体部110の端面111の傾きを、上記実施例1に係る密封装置100の場合よりも小さくすることができる。従って、装着溝310に対する密封装置100Xの姿勢を安定させることができる。なお、本実施例に係る密封装置100Xにおいても、上記実施例1の場合と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0045】
(実施例3)
図7及び図8には、本発明の実施例3が示されている。本実施例では、上記実施例2と同様に、外周シール面がテーパ面で構成され、かつ当該テーパ面のテーパ角度が実施例2の場合よりも大きく構成される場合を示す。その他の基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0046】
図7は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図である。図8は本発明の実施例3に係る密封構造の組み立て時の様子を示す模式的断面図であり、軸が組み込まれる前の状態を示している。なお、本実施例に係る密封装置は略回転対称形状であり、図7及び図8においては、密封装置における中心軸線を含む面で密封装置を切断した断面図を示している。
【0047】
本実施例に係る密封装置100Yは、上記実施例2の場合と同様に、外周シール面150Yがテーパ面で構成されている。このテーパ面のテーパ角度は、上記実施例2の場合よりも大きくなるように構成されている。そして、上記実施例1,2の場合には、密封装置100,100Xに外力が作用していない状態において、反密封対象流体側排気弁170の先端の外径は、外周シール面150の外径よりも大きく、かつハウジング300の内周面(装着溝310の溝底面)の外径よりも大きくなるように設計されている。これに対して、本実施例の場合には、反密封対象流体側排気弁170の先端の外径は、外周シール面150のうち外径が小さな部位よりは大きいものの、外周シール面150のうち外径が大きな部位よりは小さくなるように構成されている。ただし、密封装置100Yに外力が作用していない状態において、反密封対象流体側排気弁170の先端の外径がハウジング300の内周面の外径よりも大きくなるように設計されている点は、上記実施例1,2の場合と同様である。また、本実施例に係る密封装置100Yにおいては、胴体部110における大気側(A)の端面111に、径方向外側の端部から径方向内側に向かって伸びる溝111aが設けられている。この溝111aは、単数設けられてもよいし、周方向に間隔を空けて複数設けられてもよい。外周シール面150Yと溝111aに関する構成以外の構成については、上記実施例1,2と同一の構成であるので、その説明は省略する。
【0048】
以上のように構成される本実施例に係る密封装置100Yにおいても、上記実施例1,2の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施例に係る密封装置100Yにおいては、外周シール面150Yはテーパ角度の大きなテーパ面で構成されている。そのため、密封装置100Yが装着溝310に装着される過程において、ハウジング300の内周面に対する密着領域は、外周シール面150Yのうち外径が大きな部位から小さな部位へと拡がっていく。これにより、密封装置100Yとハウジング300との間の空気や油を、反密封対象流体側排気弁170側に向けて積極的に排出させる機能が発揮される。また、胴体部110における大気側(A)の端面111には溝111aが設けられているため、仮に端面111が装着溝310の溝側面に密着していても、空気や油が反密封対象流体側排気弁170側に向けて排出される機能が損なわれてしまうこともない。
【0049】
(その他)
上記の通り、各実施例に係る密封装置100,100X,100Yにおいては、外周面をハウジング300の内周面に吸着させることができる。しかしながら、上記の通り、油が、密封装置100,100X,100Yとハウジング300の内周面との間に残っている、または使用中に僅かに侵入してしまうこともあり得る。これにより、密封装置100,100X,100Yの外周面とハウジング300の内周面との間に油膜が形成されてしまうと、吸着力が低下してしまう。
【0050】
そこで、図8に示すように、外周シール面150Zの表面に複数の微細な凹部151を設けると好適である。このように、複数の微細な凹部151を設ければ、凹部151に油が取り込まれることにより、油膜の形成を抑制することができる。なお、これら複数の凹部151は、上記実施例1における外周シール面150に対しても、実施例2における外周シール面150Xに対しても、実施例3における外周シール面150Yに対しても、適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
100,100X,100Y 密封装置
110 胴体部
111 端面
111a 溝
120 内周リップ
130 外周シール部
140 受圧溝
150,150X,150Y,150Z 外周シール面
151 凹部
160 密封対象流体側排気弁
161 環状溝
162 環状凹部
170 反密封対象流体側排気弁
171 環状溝
172 環状凹部
200 軸
300 ハウジング
310 装着溝
K 空間
図1
図2
図3
図4
図5
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図11