特許第6857149号(P6857149)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857149
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】撹拌装置を備えた金属溶解炉
(51)【国際特許分類】
   F27D 27/00 20100101AFI20210405BHJP
   F27D 11/02 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   F27D27/00
   F27D11/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-49975(P2018-49975)
(22)【出願日】2018年3月16日
(65)【公開番号】特開2019-158314(P2019-158314A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2019年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】592017002
【氏名又は名称】三建産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【弁理士】
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】岸村 司
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−071880(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0151176(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 27/00
F27D 11/02
B22D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解室と汲み出し室と隔壁で構成される炉本体を備え、前記溶解室と汲み出し室を隔壁で仕切るとともに、前記溶解室に熱源である浸漬ヒータを配置し、前記隔壁に、前記溶解室の溶湯を前記汲み出し室に送る通路が設けられた金属溶解炉において、
前記通路の下面と、前記溶解室の下面と、前記汲み出し室の下面をいずれも前記炉本体の底壁で同じ高さに形成し、
前記浸漬ヒータの近傍に、特にハウジングを設けることなく水平方向に回転する回転体を有する撹拌装置を設け、
前記通路を、前記撹拌装置の回転体より下位に設けるとともに、前記隔壁において、前記撹拌装置の回転体と相対向する位置に設け、
前記撹拌装置の回転体を回転させることにより、前記溶解室の溶湯を撹拌し、前記浸漬ヒータと被溶解材料の表面を強制対流効果で熱伝達効率を高めることを特徴とする撹拌装置を備えた金属溶解炉。
【請求項2】
前記撹拌装置を一つ設けると共に、前記浸漬ヒータを、前記撹拌装置の回転体が起こす溶湯の流れ場中に配置したことを特徴とする請求項1に記載の撹拌装置を備えた金属溶解炉。
【請求項3】
前記浸漬ヒータを四本、四角形に配置し、その四角形の中心に前記撹拌装置を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の撹拌装置を備えた金属溶解炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解室と汲み出し室を隔壁で仕切り、溶解室に熱源である浸漬ヒータを配置し、隔壁に、溶解室の溶湯を汲み出し室に送る通路を設けた金属溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属溶解炉には、溶湯を撹拌するための撹拌装置を備えていないものがある。
この金属溶解炉は構成が簡素で製造コストが廉価であるものの、撹拌装置を備えていないので、熱伝達率が小さく伝熱効率が悪いといった問題がある。
【0003】
こうしたことから、図5及び図6に示すように、溶解室に、ポンプ本体61をハウジング62に収納した構成の循環ポンプ60を備えたものや、電磁式撹拌装置を備えたもの(例えば、特許文献1参照)が開示されている。
これらの溶解炉は、溶解室の溶湯を循環あるいは撹拌することができるので、伝熱効率良く加熱できるといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−237056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶解室に撹拌ポンプを備えた金属溶解炉は、ポンプ本体61をハウジング62に収納する構成であるため、そのハウジング62及びそれに関連する部材(例えば、その取付けに要する部材)が必要となる。
従って、構成が複雑となり、製造コストが嵩むといった問題がある。
【0006】
また、電磁式撹拌装置を備えた金属溶解炉は、その構造上、炉床の炉材厚さに制限があるため断熱性が劣り、炉床に堆積するする滓も撹拌するので、溶湯の品質が低下し易いといった問題がある。また、当然ながら構成も複雑となる。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、構成が簡易で製造コストが廉価であり、優れた品質の溶湯を提供できる金属溶解炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の撹拌装置を備えた金属溶解炉は、溶解室(10)と汲み出し室(20)と隔壁(30)で構成される炉本体(2)を備え、前記溶解室(10)と汲み出し室(20)を隔壁(30)で仕切るとともに、前記溶解室(10)に熱源である浸漬ヒータ(40)を配置し、前記隔壁(30)に、前記溶解室(10)の溶湯を前記汲み出し室(20)に送る通路(31)が設けられたものにおいて、
前記通路(31)の下面と、前記溶解室(10)の下面と、前記汲み出し室(20)の下面をいずれも前記炉本体(2)の底壁(2a)で同じ高さに形成し、
前記浸漬ヒータ(40)の近傍に、特にハウジングを設けることなく水平方向に回転する回転体(51)を有する撹拌装置(50)を設け、
前記通路(31)を、前記撹拌装置(50)の回転体(51)より下位に設けるとともに、前記隔壁(30)において、前記撹拌装置(50)の回転体(51)と相対向する位置に設け、
前記撹拌装置(50)の回転体(51)を回転させることにより、前記溶解室(10)の溶湯を撹拌し、前記浸漬ヒータ(40)と被溶解材料の表面を強制対流効果で熱伝達効率を高めることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の撹拌装置(50)を備えた金属溶解炉(1)は、前記撹拌装置(50)を一つ設けると共に、前記浸漬ヒータ(40)を、前記撹拌装置(50)の回転体(51)が起こす溶湯の流れ場中に配置したことを特徴とする。
【0010】
前記浸漬ヒータ(40)を四本、四角形に配置し、その四角形の中心に前記撹拌装置(50)を配置したことを特徴とする。
【0012】
なお、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の撹拌装置を備えた金属溶解炉によれば、浸漬ヒータの近傍に、特にハウジングを設けることなく撹拌装置を設けたので、金属溶解炉の構成を簡易なものとすることができ、従って、その製造コストを廉価に抑えることができる。
【0014】
また、撹拌装置の回転体を水平方向に回転させるという仕組みによって、溶解室の溶湯を汲み出し室に通路を通して送るので、金属溶解炉の構成をさらに簡易なものとすることができる。従って、その製造コストを廉価に抑えることができる。
【0015】
また、本発明の撹拌装置を備えた金属溶解炉によれば、撹拌装置を一つ設けると共に、浸漬ヒータを、撹拌装置の回転体が発生する流れ場中に配置したので、それぞれの浸漬ヒータで溶湯を効率よく加熱することができる。
【0016】
また、発明の撹拌装置を備えた金属溶解炉によれば、通路を、撹拌装置の回転体より下位に設けたので、回転体によって撹拌され、急な流れを形成する溶湯は一旦、隔壁に当たって緩やかな流れを形成した後、通路を通って汲み出し室に達する。従って、汲み出し室に達した溶湯はそこで緩やかな流れを形成するので、品質に優れた溶湯を提供することができる。ちなみに、汲み出し室での溶湯の流れが急であると、溶湯の酸化物や滓を巻き込み、溶湯品質が低下する。これにより、本発明の金属溶解炉は、品質に優れた溶湯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る撹拌装置を備えた金属溶解炉を示す概略平面図である。
図2図1に示す金属溶解炉の概略側面図である。
図3図1に示す金属溶解炉の一部拡大図である。
図4図2に示す金属溶解炉の一部拡大図である。
図5】従来例に係る金属溶解炉を示す側面断面図である。
図6図5に示す金属溶解炉の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至図3を参照して、本発明の実施形態に係る撹拌装置50を備えた金属溶解炉1を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る撹拌装置50を備えた金属溶解炉1の概略平面断面図である。図2はその概略側面断面図であり、図3はその一部拡大図である。
【0019】
本実施形態に係る撹拌装置50を備えた金属溶解炉1は、例えば、ダイカスト鋳造等の鋳造製品を製造する前工程として、アルミニウム合金等の非鉄金属を溶解して溶湯にするために使用することができる。
【0020】
この金属溶解炉1は炉本体2を備え、炉本体2は、溶解室10と、汲み出し室20と、その両者を仕切る隔壁30とで構成される。また、溶解室10の略半部を加熱領域11とし、その加熱領域11に、熱源である浸漬ヒータ(電気ヒータ)40を四つ、それらを接続する四本の仮想線L1,L2,L3,L4が仮想四角形Sを形成するように相互に等間隔で配置している(図3参照)。
【0021】
また、四つの浸漬ヒータ40は、四本の仮想線L1,L2,L3,L4で形成される仮想四角形Sが加熱領域11の中央部分に位置するように配置している。すなわち、この四本の仮想線のうちの第一仮想線L1と炉本体2の第一側壁2bとの第一距離D1と、第二仮想線L2と隔壁30との第二距離D2と、第三仮想線L3と第二側壁2cとの第三距離D3がそれぞれほぼ等しくなるように配置している。
【0022】
そして、その仮想四角形Sの中心であり、かつ四つの浸漬ヒータ40の近傍に、撹拌装置50を一つ配置している。
【0023】
なお、本実施形態の回転体51の回転方向は時計回り方向に設定しているが、その逆に、反時計回り方向に回転させることもできる。また、時計回り方向と反時計回り方向の双方に交互に一定時間ずつ回転させることによって、溶解炉の溶湯を万遍なく加熱することが可能となる。さらに、この回転体51にはその表面に凹凸面を形成して、溶湯に対する抵抗を強めて撹拌力を高めることができる。
【0024】
さらに、この回転体51は平面略円形状の簡素な形状であり、複雑な羽根形状などを不要とすることにより、成形の容易性と製造コストのさらなる低廉化を図っている。また、この回転体51を含め、撹拌装置50の溶解室に位置する部分は、従来技術のようなハウジングに収納されておらず、従って、溶解室の溶湯に曝された状態で配置される。これにより、回転体51の回転力を効果的に溶湯に作用させている。
【0025】
また、隔壁30には、溶解室10の溶湯を汲み出し室20に送るための通路31を設けている。この通路31は、側面視で、撹拌装置50の回転体51より下位に配置し、その下面は炉本体2の底壁2aで形成している。また、この通路31は、平面視で、撹拌装置50の回転体51と相対向する位置に配置している。通路31の幅は限定されないが、回転体51の外径と略等しく、あるいはそれよりも大きく設定して、溶湯が通過し易くするのが好ましい。
【0026】
なお、溶解室の加熱領域11を除く残りの略半部は、浸漬ヒータ40及び撹拌装置50を配置しない予熱領域12とし、この領域に溶解する金属材料(被溶解材料)を投入し、加熱領域11の溶湯からの熱によって、投入された金属材料を少なくとも半溶解状態とする。
【0027】
本実施形態による撹拌装置50を備えた金属溶解炉1は、次のように作動することができる。まず、溶解室10に投入された金属材料を四つの浸漬ヒータ40によって加熱して溶湯とする。この四つの浸漬ヒータ40は、攪拌装置50により発生する流れ場の中に位置するように配置しているので、加熱領域11の溶湯を均一に加熱することができる。また、この際、撹拌装置50の回転体51を水平方向に回転することによる回転力で溶湯を撹拌することができるので、これによっても加熱領域11の溶湯を均一に加熱することができる。
【0028】
加熱領域11で均一に加熱された溶湯は、通路31を通って汲み出し室20へ流れる。この際、通路31は側面視で回転体51よりも下位に配置されているので、回転体51によって生じた溶湯の急な流れは、隔壁30に当たることによって弱められ、その後、通路31を通って汲み出し室20に送られる。従って、汲み出し室20に、溶湯の急な流れが発生するのを防止することができる。
【0029】
ちなみに、図4に示すように、通路31の底面31aを底壁2aから立設した立設部P(あるいは隔壁30の下端部に相当する部分)を設けて形成すると、その立設部Pによって、溶湯の構成成分の内、比重の大きいものはその流れが遮断されて通路31を通ることができず、溶解室に溜まってしまうといった問題が発生する。本実施形態では、そうした問題を未然に回避することができる。
【0030】
上記説明した本実施形態に係る撹拌装置50を備えた金属溶解炉1によれば、浸漬ヒータ40の近傍に、ハウジングに収納されていない撹拌装置50を設けているので、金属溶解炉1の構成を簡易なものとすることができる。従って、その製造コストを廉価に抑えることができる。
【0031】
また、撹拌装置50を一つ設けると共に、浸漬ヒータ40を、撹拌装置50の回転体51が発生する溶湯の流れ場中に配置しているので、それぞれの浸漬ヒータ40で溶湯を効率よく加熱することができる。
【0032】
また、通路31を、側面視で、撹拌装置50の回転体51より下位に設けているので、回転体51によって撹拌され、急な流れを形成する溶湯は一旦、隔壁30に当たって緩やかな流れを形成した状態で、通路31を通って汲み出し室20に達することができる。従って、汲み出し室20に達した溶湯はそこで緩やかな流れを形成するので、汲み出し作業が容易となる。これによっても、品質に優れた溶湯を提供することができる。
【0033】
なお、上記実施形態に係る撹拌装置50を備えた金属溶解炉1は、浸漬ヒータ40を四つ設けているが、これに限定されず、一つあるいは複数設けることができる。また、撹拌装置50は一つに限定されず、複数設けることもできる。
【0034】
また、本実施形態では、四つの浸漬ヒータ40は、四本の仮想線L1,L2,L3,L4で形成される仮想四角形Sが加熱領域11の中央部分に位置するように配置して、その仮想四角形Sの中心に、撹拌装置50を配置するようにしたが、これに限定されるものではなく、浸漬ヒータ40は撹拌装置50の近傍で、撹拌装置50の回転体51が起こす溶湯の流れ場中に配置されたものであればよい。また、四つの浸漬ヒータ40を例にして説明したが、その数に限定されるものではなく、浸漬ヒータ40は一つであってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 金属溶解炉
2 炉本体
2a 底壁
2b 第一側壁
2c 第二側壁
10 溶解室
11 加熱領域
12 予熱領域
20 汲み出し室
30 隔壁
31 通路
31a 底面
40 浸漬ヒータ
50 撹拌装置
51 回転体
60 循環ポンプ
61 ポンプ本体
62 ハウジング
S 仮想四角形
L1 第一仮想線
L2 第二仮想線
L3 第三仮想線
L4 第四仮想線
D1 第一距離
D2 第二距離
D3 第三距離
P 立設部
図1
図2
図3
図4
図5
図6