(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の効果発現の機構は不明なるも、界面活性剤の親水性と疎水性のバランスをあらわすHLBは、界面活性剤の親水基と疎水基のそれぞれの占有空間の幾何学バランスにも対応し、ミセルの形状を決定するパラメーターとなり得ると考えられる。HLBが9.5以上12以下の界面活性剤は、その親水基と疎水基の占有空間の幾何学バランスから水溶液中でネットワーク構造をもつミセルを形成し、水溶液に粘弾性等を付与すると考えられる。
【0015】
〔レオロジー改質剤〕
本発明のレオロジー改質剤は、1種以上の非イオン界面活性剤からなり、HLBが9.5以上12以下である。HLBは、好ましくは10以上、より好ましくは10.5以上、そして、好ましくは12.0以下、より好ましくは11.8以下、更に好ましくは11.5以下である。
【0016】
本発明において、非イオン界面活性剤のHLBは、グリフィン氏の方法で求められたHLBであり、この方法のHLB値は、ポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤の場合には下式により求める。
HLB値=20×(MH/M) [MH:親水基部分の分子量、M:分子量]
親水基部分であるポリオキシアルキレン基のオキシアルキレン基の付加モル数に分布を有する場合には、付加モル数の平均値を用いて親水基部分の分子量を求めることとする。
また、エステル型非イオン界面活性剤の場合には下式により求める。
HLB値=20×(1−S/A) [S:エステルのケン化価、A:脂肪酸の酸価]
これらのHLBの計算にあたっては、「油化学 第13巻 第4号」(1964)36−39頁、早野茂夫、東京大学生産技術研究所に記載の方法を参考にすることができる。
なお、グリフィン氏の方法ではHLBを求めることができない非イオン界面活性剤については、HLBは実験によって求めた値を採用するものとする。実験方法は「界面活性剤便覧」産業図書株式会社版、西 一郎ら編集、昭和41年1月10日第5刷、319頁記載の方法を採用する。
すなわち、本発明のレオロジー改質剤は、1種以上の非イオン界面活性剤からなり、グリフィン氏の方法によるHLB及び前記実験方法で求められたHLBの少なくとも一方が9.5以上12以下であるレオロジー改質剤である。以下、レオロジー改質剤についてHLBという場合、特記しない限り、前記の2つの方法で求められたHLBを意味する。
【0017】
なお、本発明のレオロジー改質剤が、HLBの異なる2種以上の非イオン界面活性剤から構成される場合は、各非イオン界面活性剤のHLB値をその配合比率に基づいて相加平均して得ることができる。例えば、HLBがXの非イオン界面活性剤をA質量%、HLBがYの非イオン界面活性剤をB質量%組み合わせる(A+B=100)場合は、〔(X×A)+(Y+B)〕÷100で求めることができる。
【0018】
レオロジー改質剤となる非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテルから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0019】
非イオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテルから選ばれる非イオン界面活性剤が好ましい。
【0020】
非イオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテルから選ばれる非イオン界面活性剤を含むことが好ましい。
非イオン界面活性剤は、炭素数16以上18以下のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキル又はアルケニルエーテルを含むことが好ましい。
非イオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレンオレイルエーテルを含むことが好ましい。
【0021】
非イオン界面活性剤は、オキシアルキレン基としてオキシエチレン基を有する非イオン界面活性剤が好ましい。
【0022】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテルから選ばれる非イオン界面活性剤としては、例えば、下記一般式で表される化合物が挙げられる。この非イオン界面活性剤は、材料分離抵抗性の観点から好ましい。
RO−(AO)
n−H
〔式中、Rは炭素数8以上24以下のアルキル基又はアルケニル基、AOは炭素数2以上3以下のアルキレンオキシ基、nは1以上100以下の数である。〕
上記式中のR、AO、nは、当該化合物のHLBが9.5以上12以下となるように選択されるのが好ましい。上記式の化合物の単独のHLB、又は上記式の化合物を複数組み合わせた全体のHLBが9.5以上12以下となればよい。
Rは炭素数8以上が好ましく、12以上がより好ましく、14以上がより好ましく、16以上が更に好ましく、そして、24以下が好ましく、22以下がより好ましく、20以下が更に好ましく、18以下がより更に好ましい。
AOは炭素数2以上3以下のアルキレンオキシ基が好ましく、炭素数2のエチレンオキシ基がより好ましい。
nは1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上がより更に好ましく、5以上がより更に好ましく、そして、100以下が好ましく、60以下がより好ましく、40以下が更に好ましく、20以下がより更に好ましく、16以下がより更に好ましく、15以下がより更に好ましく、14以下がより更に好ましく、13以下がより更に好ましい。nは平均付加モル数であってよい。
【0023】
非イオン界面活性剤中、炭素数18の炭化水素基を有する非イオン界面活性剤の割合は、適度な粘弾性等を得る観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0024】
非イオン界面活性剤は、高い粘弾性等を得る観点から、
(1)アルキレンオキシド平均付加モル数の異なる2種以上のポリオキシアルキレンオレイルエーテル、又は
(2)ポリオキシアルキレンオレイルエーテル及びポリオキシアルキレンステアリルエーテル、
を含むことが好ましい。
【0025】
非イオン界面活性剤は、高い粘弾性等を得る観点から、
(I)エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上20以下であるポリオキシエチレンオレイルエーテルから選ばれる、エチレンオキシドの平均付加モル数が異なる2種以上の化合物、又は
(II)エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上20以下のポリオキシエチレンオレイルエーテル(以下、POEオレイルエーテルという)及びエチレンオキシドの平均付加モル数が2以上20以下のポリオキシエチレンステアリルエーテル(以下、POEステアリルエーテルという)、
を含むことが好ましい。
【0026】
本発明のレオロジー改質剤として、高い粘弾性等を得る観点から、
(i)エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上20以下の第1のPOEオレイルエーテル及びエチレンオキシドの平均付加モル数が2以上20以下であり当該平均付加モル数が第1のPOEオレイルエーテルとは異なる第2のPOEオレイルエーテルからなり、第1のPOEオレイルエーテル/第2のPOEオレイルエーテルの質量比が0以上1以下であり、HLBが9.5以上12以下である、レオロジー改質剤、並びに
(ii)エチレンオキシドの平均付加モル数が2以上20以下のPOEオレイルエーテル及びエチレンオキシドの平均付加モル数が2以上20以下のPOEステアリルエーテルからなり、POEオレイルエーテル/POEステアリルエーテルの質量比が0.05以上20以下であり、HLBが9.5以上12以下である、レオロジー改質剤
から選ばれるレオロジー改質剤が挙げられる。
【0027】
高い粘弾性等を得る観点から、POEオレイルエーテル、POEステアリルエーテル共に、エチレンオキシドの平均付加モル数は、2以上、更に4以上、更に5以上、そして、20以下、更に16以下、更に14以下から選択できる。
【0028】
POEオレイルエーテルとPOEステアリルエーテルを組合せる場合は、高い粘弾性等を得る観点から、両者のエチレンオキシドの平均付加モル数が、下記の関係であることが好ましい。
EOpオレイル<EOpステアリル
EOpオレイル:POEオレイルエーテルのエチレンオキシド平均付加モル数
EOpステアリル:POEステアリルエーテルのエチレンオキシド平均付加モル数
【0029】
POEオレイルエーテルとPOEステアリルエーテルを組合せる場合は、高い粘弾性等を得る観点から、一方のエチレンオキシドの平均付加モル数が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、そして、7以下であり、他方のエチレンオキシドの平均付加モル数が11以上14以下である組合せがより好ましい。
平均付加モル数が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、そして、7以下であるPOEオレイルエーテルと、平均付加モル数が11以上14以下であるPOEステアリルエーテルとの組合せが更に好ましい。
【0030】
また、エチレンオキシド平均付加モル数の異なる2種のPOEオレイルエーテルを組合せる場合は、高い粘弾性等を得る観点から、一方のエチレンオキシドの平均付加モル数が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、そして、7以下であり、他方のエチレンオキシドの平均付加モル数が10以上、好ましくは11以上、そして、14以下である組合せが好ましい。
すなわち、平均付加モル数が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、そして、7以下であるPOEオレイルエーテルと、平均付加モル数が10以上、好ましくは11以上、そして、14以下であるPOEオレイルエーテルのエチレンオキシドとの組合せが好ましい。
【0031】
本発明のレオロジー改質剤として、
平均付加モル数が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、そして、7以下であるPOEオレイルエーテルと、平均付加モル数が11以上14以下であるPOEステアリルエーテルとの混合物であって、HLBが9.5以上12以下である混合物、並びに
平均付加モル数が3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、そして、7以下であるPOEオレイルエーテルと、平均付加モル数が10以上、好ましくは11以上、そして、14以下であるPOEオレイルエーテルのエチレンオキシドとの混合物であって、HLBが9.5以上12以下である混合物
から選ばれる混合物からなる、レオロジー改質剤が挙げられる。
【0032】
本発明のレオロジー改質剤は、水溶液、スラリーを対象とすることができる。
本発明のレオロジー改質剤は、例えば、粉体含有組成物用である。粉体含有組成物は、粉体と液体とを含有する組成物、例えばスラリーが好ましい。スラリーは、水硬性組成物が挙げられる。水硬性組成物は、水硬性粉体と水とを含有する水硬性組成物が挙げられる。よって、本発明のレオロジー改質剤は、好ましくは水硬性組成物用である。
【0033】
〔水硬性組成物用混和剤組成物〕
本発明は、前記本発明のレオロジー改質剤と、水硬性組成物用分散剤とを含有する水硬性組成物用混和剤組成物に関する。
また、本発明は、前記本発明のレオロジー改質剤と、消泡剤とを含有する水硬性組成物用混和剤組成物に関する。
また、本発明は、前記本発明のレオロジー改質剤と、水硬性組成物用分散剤と、消泡剤とを含有する水硬性組成物用混和剤組成物に関する。
【0034】
分散剤としては、ナフタレン系重合体、ポリカルボン酸系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体が挙げられる。これらは、水硬性組成物用の分散剤として公知のものを適宜使用できる。
【0035】
消泡剤としては、好ましくは、ポリシロキサン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、アセチレングリコール、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、リン酸トリアルキル、アルキルアミン及びアルコールから選ばれる1種又は2種以上の化合物である。より好ましくはこれらの化合物であって、水に不溶の化合物である。これらのうち、ポリオキシアルキレン基を有する化合物は、ポリオキシアルキレン基としてポリオキシプロピレン基を有するものが好ましい。消泡剤は、消泡性の観点から、より好ましくは、ポリシロキサン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、アセチレングリコール、アセチレングリコールのプロピレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルアミド、リン酸トリアルキル、アルキルアミン及びアルコールからなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物である。
【0036】
本発明の水硬性組成物用混和剤組成物は、本発明のレオロジー改質剤を、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、そして、好ましくは96質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下含有する。
【0037】
本発明の水硬性組成物用混和剤組成物は、分散剤を、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、そして、好ましくは96質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下含有する。
【0038】
本発明の水硬性組成物用混和剤組成物は、消泡剤を、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下含有する。
【0039】
本発明の水硬性組成物用混和剤組成物は、本発明のレオロジー改質剤と分散剤の質量比が、本発明のレオロジー改質剤/分散剤で、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.05以上、そして、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは50以下である。
【0040】
本発明の水硬性組成物用混和剤組成物は、本発明のレオロジー改質剤と消泡剤の質量比が、本発明のレオロジー改質剤/消泡剤で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、そして、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、更に好ましくは5000以下である。
【0041】
本発明の水硬性組成物用混和剤組成物は、任意成分として、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、急結剤等を含有することができる。
【0042】
〔水硬性組成物及びその製造方法〕
本発明は、前記本発明のレオロジー改質剤と、水と、水硬性粉体とを含有する水硬性組成物に関する。
また、本発明は、前記本発明の水硬性組成物用混和剤組成物と、水と、水硬性粉体とを含有する水硬性組成物に関する。すなわち、本発明の水硬性組成物としては、前記本発明のレオロジー改質剤と、水と、水硬性粉体と、分散剤及び/又は消泡剤と、を含有する水硬性組成物が挙げられる。
【0043】
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体とは、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、水硬性スラリー組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントがより好ましい。
【0044】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
また、水硬性粉体は、セメント又はセメントとベントナイトとの混合粉末が挙げられる。
【0045】
本発明の水硬性組成物は、骨材を含有することが好ましい。骨材は、細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0046】
本発明の水硬性組成物は、本発明の効果に影響ない範囲で、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、急結剤等を含有することができる。
【0047】
本発明の水硬性組成物は、高い粘弾性等を得る観点から、水に対して、本発明のレオロジー改質剤を、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下含有する。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、高い流動性を得る観点から、水硬性粉体に対して、分散剤を、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下含有する。
【0049】
本発明の水硬性組成物は、高い消泡性と高い粘弾性等を得る観点から、水に対して、消泡剤を、好ましくは0.00005質量%以上、より好ましくは0.0001質量%以上、更に好ましくは0.0005質量%以上、そして、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0050】
本発明の水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/P)が、高い流動性を得る観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、そして、高い材料分離抵抗性を得る観点から、好ましくは2000質量%以下、より好ましくは1000質量%以下、更に好ましくは500質量%以下である。
ここで、水/水硬性粉体比(W/P)は、水硬性スラリー組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/水硬性粉体×100で算出される。水/水硬性粉体比は、水和反応により硬化する物性を有する粉体の量に基づいて算出される。またW/Pは、水硬性粉体がセメントである場合は、W/Cで表記される場合がある。
なお、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量部などにおいても同様である。
【0051】
本発明の水硬性組成物は、前記本発明のレオロジー改質剤又は前記本発明の水硬性組成物用混和剤組成物と、水と、水硬性粉体とを混合することで製造できる。
本発明では、水と、水硬性粉体とを混合した後に、前記レオロジー改質剤又は前記水硬性組成物用混合物組成物を混合することが好ましい。すなわち、水と水硬性粉体とを含有するスラリーに、前記レオロジー改質剤又は前記水硬性組成物用混合物組成物を混合することが好ましい。
製造にあたり、本発明のレオロジー改質剤又は前記本発明の水硬性組成物用混和剤組成物と、水と、水硬性粉体は、ぞれぞれ、前記した本発明の水硬性組成物の組成となるように用いることが好ましい。
本発明の水硬性組成物の製造方法において、各成分の混合は、既存の装置を全て使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、パン型ミキサー、二軸強制ミキサー、オムニミキサー、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー、及びナウターミキサーなどが挙げられる。
【0052】
本発明の水硬性組成物の製造方法は、HLBが9.5以上12以下となる1種以上の非イオン界面活性剤、好ましくは2種の非イオン界面活性剤を選択し、選択された非イオン界面活性剤と、水と、水硬性粉体とを混合する水硬性組成物の製造方法であってよい。
【0053】
〔レオロジー改質剤の製造方法〕
本発明は、非イオン界面活性剤を2種以上選択し、選択した非イオン界面活性剤を、HLBが9.5以上12以下の混合物となるように混合する、レオロジー改質剤の製造方法に関する。非イオン界面活性剤は、本発明のレオロジー改質剤で述べたものから選択できる。好ましい態様も本発明のレオロジー改質剤と同じである。本発明は、非イオン界面活性剤を、HLBが前記所定の範囲となるように用いることで、水溶液に対しては粘弾性等を付与でき、スラリーに対しては分離抵抗性を付与し且つ低粘性と高流動性との両立でき、レオロジー改質剤として有用であることを見出したものである。
【実施例】
【0054】
<実施例1及び比較例1>
セメントに水(消泡剤を含む)を加えて、ハンドミキサー高速で30秒撹拌した。そこに表1のレオロジー改質剤を表1の添加量になるように加えて、ハンドミキサー高速で60秒撹拌して、セメントペーストを調製した。レオロジー改質剤の添加量は、水に対する有効分の添加量である。
セメント(W)は、普通ポルトランドセメント(太平洋株式会社製普通ポルトランドセメント/住友大阪株式会社製普通ポルトランドセメント=50/50(質量比)の混合セメント)であった。水(C)は、水道水であった。消泡剤は、DOWSIL DK Q1-1183 ANTIFOAM(東レ・ダウコーニング株式会社製)であり、非イオン系界面活性剤に対して0.1質量%添加した。セメントペーストのW/Cは100%であった。
【0055】
セメントペーストについて以下の物性を評価した。結果を表1に示した。
・セメントペーストの粘度
粘度計によりセメントペーストの粘度を測定した。粘度計はリオン株式会社製VISCOTESTERVT-04Eを用いた。ローターNo.1(回転数:62.5rpm)を用いた。測定温度は20℃とした。
【0056】
・水中不分離性
100mLの水にセメントペースト5mLをシリンジで5秒間かけて吐出し、30秒後に濁度計(アズワン製 濁度計TN−100)を用いて上澄み液の濁度を測定し、水中不分離性を判断した。濁度の測定値が小さいほど水中不分離性に優れることを意味する。
【0057】
・ブリージング試験
500mLのディスポカップにセメントペーストを400g程度入れ、24時間静置する。その後、ブリージングの質量を測定し、ブリージング水/ペーストの体積比からブリージング率を算出した。ブリージング率の値が小さいほど、分離抵抗性に優れることを意味する。
【0058】
【表1】
【0059】
表中の非イオン界面活性剤は以下のものである。
・オレイル−EO4mol:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(平均付加モル数4、HLB8.3)
・オレイル−EO6mol:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(平均付加モル数6、HLB10.3)
・オレイル−EO9mol:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(平均付加モル数9、HLB12.2)
・オレイル−EO13mol:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(平均付加モル数13、HLB13.9)
・ステアリル−EO11mol:ポリオキシエチレンステアリルエーテル(平均付加モル数11、HLB13.1)
・ステアリル−EO13mol:ポリオキシエチレンステアリルエーテル(平均付加モル数13、HLB13.9)
【0060】
<実施例2及び比較例2>
砂とセメントをホバートミキサー低速(公転:62rpm)で10秒空練りした。その後、水(減水剤と消泡剤を含む)を入れて60秒低速で撹拌し、表3のレオロジー改質剤を加え、30秒低速で撹拌して、モルタルを調製した。モルタルの配合は表2の通りとした。レオロジー改質剤の添加量は、水に対する有効分の添加量である。
砂(S)は、城陽砂であった。セメント(C)は、普通ポルトランドセメント(太平洋株式会社製普通ポルトランドセメント/住友大阪株式会社製普通ポルトランドセメント=50/50(質量比)の混合セメント)であった。水(W)は、水道水であった。減水剤は、メタクリル酸/メタクリル酸メトキシポリオキシエチレン(23モル)エステルであり、セメントに対して0.25質量%添加した。消泡剤は、DOWSIL DK Q1-1183 ANTIFOAM(東レ・ダウコーニング株式会社製)であり、非イオン系界面活性剤に対して0.1質量%添加した。
【0061】
・モルタルフロー
JIS R 5201の試験方法にしたがってモルタルフローを測定した。その際、モルタルフローが200mmに到達した時間も測定し、200mmFTとして表に示した。モルタルフローが大きいほど流動性が高いことを意味する。また、200mmFTが小さいほど粘性が低いことを意味する。
【0062】
・水中不分離性
水500gを入れた1Lディスポカップに対してモルタル200gを10回に分けて投入した。その際、先に投入した試料の上に次の試料が重なるように投入した。1分後に上澄みをモルタル上面のペースト分が入らないように200g採水し、実施例1と同様に、濁度を測定した。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
表中、オレイル−EO6mol及びステアリル−EO13molは、実施例1と同じものである。また、比較品(1)、(2)は以下のものである。
・比較品(1):ヒドロキシエチルジメチルアルキル(炭素数16〜18)アンモニウム p−トルエンスルホン酸塩(花王株式会社)
・比較品(2):ヒドロキシエチルセルロース(2%水溶液粘度:4500〜6500mPa・s)、東京化成工業社製
【0066】
<実施例3及び比較例3>
実施例1で用いた非イオン界面活性剤を表4の組み合わせで用いて、合計8gを水200gに添加した。
得られた混合物200mlを300mlのビーカーに入れ、以下の方法により曳糸性、巻き返し現象が認められるかを確認し、曳糸性のみ認められるものを「粘性有り」とし、曳糸性、巻き返し現象の両方が認められるものを「粘弾性有り」とした。結果を表4に示す。
曳糸性の評価は、各試料について、直径6mmの表面平滑なガラス棒をビーカー底中央に垂直に立て、その状態からガラス棒を約1秒間で引き抜き、その際のガラス棒先端における曳糸状態を目視で観察して行った。
巻き返し現象の評価は、各試料について、直径6mmの表面平滑なガラス棒で1回転/秒で10秒間撹拌し、巻き返し現象が認められるかを目視で観察して行った。
なお、巻き返し現象とは、混合物内の会合体が絡み合いを生じ、弾性的性質を有することを意味しており、組成物に巻き込まれた気泡が撹拌停止時に回転方向と逆向きに移動する状態のことを言う。
【0067】
【表4】
【0068】
表4の結果から、例えば、オレイル−EO4molとオレイル−EO9molはそれぞれ単独では水を増粘させることができないが、両者を組み合わせると、所定のHLB範囲で、水に粘性、粘弾性を付与できることがわかる。他の非イオン界面活性剤についても、所定のHLB範囲で粘性、粘弾性が発現することがわかる。