【実施例】
【0006】
本発明でのピクセルの主な構成要素は、相互に一定の距離に位置する一対の2つの異なるグレーティングを含む、2重グレーティング素子(DGE)である。これらのグレーティングは、それぞれ2つの異なる所定のチャープグレーティング関数を有する。すなわち、グレーティング周期に横方向の変化があり、第1のグレーティングを照明する光波の方向が第2のグレーティングへ向けて回折され、DGEから回折される。出力光の向きは様々な方法により電子的に制御できる。
図1Aに示す一つのアプローチは、二つの平行なグレーティング、G1(x)、G2(ξ)に基づき、これらのグレーティングは各々グレーティング関数G1
→(x,y)、G2
→(ξ,η)を有している。(以下、DGEの2つのグレーティングG1、G2での横座標を、各々(x,y)、(ξ、η)とする。)グレーティング間の距離Dは一定で、第1グレーティングに入射する入力光波G1(x)は、グレーティング面に対して垂直に入射する。
図1Bに示すように、一方のグレーティングの並進がない場合、出力光波は第2グレーティングG2(ξ)から格子面に垂直に出射する。しかし
図1Cに示すように、G1(X)を右方向にδχだけ平行移動されると、G1(x)から第2のグレーティングG2(ξ)へ入射する光線は、平行移動前の入射点よりもグレーティング関数が高い点に入射する。その結果、出力光波は角φだけ向きを変える。ここで偏角比 k = D(sinφ)/δx は一定である。G1(x)を連続的かつ線形に平行移動させることにより、出力光波の向きを連続的に操作できる。与えられた変位δxに対し、DGEの全面で変位角φが一定との条件を充たすグレーティング関数G1
→(x,y)、G2
→(ξ,η)の詳細な計算法は、上記の参照文献に有る。このアプローチの主な利点の1つは、このDGEにより非常に大きな偏差係数が得られ、たとえば、数10分の1ミクロンの小さな直線移動により、出力ビームの向きを大きく変えることができる点にある。その結果、グレーティングの並進は小さな圧電結晶により達成でき、複雑な並進機構も回転機構も必要はない。
出力光波の方向を制御するための別の方法を、
図2A、2B、2Cに示す。
図2(A)に示すように、二つのグレーティングG1(x)及びG2(ξ)は、透明基板上に、即ち透明基板4の平行な2つの面6,8上に形成されている。単色光波Wiが第1のグレーティングG1(x)と基板の内部でカップルし、次いで第のグレーティングG2(ξ)とカップルして出射する。基板の屈折率は外部手段によりダイナミックに制御でき、例えば基板に電界を加える、あるいは短波長の強い光を照射することにより制御できる。
図2B,2Cに示すように、基板の屈折率が変化すると、出力光波の角度変位が生じる。屈折率をν1とすると、出力光波Woは基板に対し角度φIで第2のグレーティングG2(ξ)から出射する(
図2B)。ここで屈折率をν2へ変化させると(ν2<ν1)、基板の屈折率の減少のため、光線は第1のグレーティングG1(x)から第2のグレーティングG2(ξ) へより大きな回折角で入射する(
図2C)。その結果、第2のグレーティングG2(ξ)と交差するG1(x)からの光線は、屈折率を変調する前よりも、グレーティング関数が小さな位置に入射する。このため出力光波Woは角度Δφだけ変位する。即ち、出力光波はグレーティングG2(ξ)から異なる角度 φ2=φ1−Δφ で基板面へ出射する(
図2C)。なおΔφは変位角である。このように、屈折率を連続的に変化させると、出力光波の向きを連続的に制御できる。屈折率の変調Δνに対し、角度の偏差ΔφがDGEの全面で一定との条件を充たす、グレーティング関数G1
→(x,y)、G2
→(ξ,η)の詳細な計算法は、上記の参照文献に有る。
DGEを使用して出力ビームの必要な角度操作を達成するための、従来技術には記載されていない別の方法を
図3に示す。少なくとも1つの長軸を有するグレーティングGoが、第1のグレーティングG1(x)の前面に置かれている。ここで
図3Aに示すように、デフォルト位置では、2つのグレーティングは互いに平行であり、入力光波Wiは入射角−Θで G0に入射する。(以下、反時計回りの角度を正の角度で、時計回りの回転角を負の角度で表す。)Goから回折される画像光波の方向は、次式で与えられる。
ここで、G
0xはG0
→(x、y、z)のx成分であり、グレーティングG0の逆グレーティング関数であり、上付きの0は画像の角Sinα
i0 がグレーティングG0に関係していることを示し、λは光波の波長である。Goのグレーティング関数は、
と仮定する。即ち、G0は、x軸に沿って、一定の線周期を有する、線形グレーティングである。(2)式を(1)式へ代入すると、
が得られる。即ち画像光波は、グレーティング面に直角である。ここで、グレーティングG0をy軸回りに角度δだけ反時計回りに回転させると、入射光波の再構成角は回転したグレーティングに対し、
となる。画像波の出射角は
となる。小さな回転角δに対し、出力角は
である。グレーティングG0の本来の面と比較すると、出射角は
で与えられる。
図3Bに示すように、G0の画像光波は、グレーティングG1(x)への入射光波で、
である。
2つのグレーティングG1(x)、G2(ξ)がx軸に沿ってのみ非0成分を持つとすると、
である。
以下では、グレーティングG1、G2の座標をそれぞれ、(x、y、z)と(ξ、η、ζ)で示す。
図3Bに示すように、G1(x)からの画像光線は、G0を角度δだけ回転させると、
G2(ξ)のx軸に沿って”左側”(すなわち、負の方向)に、角度δのグレーティングG0の回転の結果、G2(ξ)のx軸に沿って、以下の距離だけ移動する。
ここで、Dは、G1(x)とG2(ξ)間の垂直距離である。グレーティングG1(x)の点xから、回転無しで、α
i1(0)の方向に出射する光線は、グレーティングG2のξの位置に入射する。これに対して、同じ点xからα
i1(δ)の方向に、回転δで出射する光線は、グレーティングG2のξ−Δξの位置に入射する。回転角δが小さい場合、
が成立し、ここに δ'=α
i1(δ)−α
i1(0) である。 従って、
が成立する。(9)式、(13)式を(10)式へ代入すると、
が成立する。
G0で角度δだけ回転し、グレーティングG2(ξ)から回折された光波は、グレーティング面の法線から角度φだけ偏差しなければならないとすると、次式が成立する。
その結果、点ξ−Δξでのグレーティング関数は次のようになる。
ここで、−1次の項はグレーティングG2からの回折である。式(9)を式(16)に代入すると次式が得られる。
ここで、 σ≡−(1−cosθ)+ sin(φ)/δ により、DGEの角増幅率を定義する。σはxにもξにも依存しないので、σはグレーティングの表面全体にわたる定数である。δ=0で、G1(x)への入力光波とG2(ξ)からの出力光波はグレーティング面に垂直な平面波である。
図3Aに示すように、
δ=0 に対し、G1(x)の点からG2(ξ)の点ξへの光線をトレースする。従って、下式が成立する。
(17)式と(18)式を結合すると、下式が得られる。
(19)式を(14)式で割ると、下式が得られる。
ここで、 b=σ/(D(1−cosθ)) は定数である。 小さなδについては、以下の近似が成立する。
(18)式を(20)式に代入すると、下式が成立する。
この式の解は以下の何れかである。
ここで境界値条件 ξが0で λG2(ξ)=0 を用い、解は下式で与えられる。
図3Aに示すように、δ=0で下式が成立する。
(23)式を(26)式へ代入すると、下式が得られる。
この式の解は
であり、定数cを c≡b/(1+b・D) で定義する。
DGEの角増幅率であるσはグレーティングの表面全体にわたって一定なので、グレーティングGoの所与の回転δについての偏角φはDGE全体について一定となる。従って、グレーティングG0の回転角の連続的な変化は、グレーティングG2(ξ)からの出力光波の連続的な角度操作を誘発する。そしてグレーティングG0からの出力波の角度回転に関して、上記の角度回転はDGEにより著しく増幅される。
式(25)及び(28)に与えられた解は、最も正確な解析解ではなく、むしろ近似解である。
図3A及び3Bに示す実施例のための、簡単で高速な解析解を発見できることに注目することが重要である。しかし、ほとんどの場合、この解決策は十分に正確であり、各ピクセルについて、グレーティングGoの小さな回転がDGEにより著しく増幅されるディスプレイシステムの簡単な実現を可能にする。加えて、
図3A及び
図3Bの実施例は、ピクセル化された表示源だけでなく、回転グレーティング及び増幅DGEを用いて単一の光ビームを操作できる他のシステムにも使用できる。
ここで、単一のDGEを使用して出力ビームの必要な角度ステアリングを達成するためのいくつかの選択肢を、
図1−3に示す。しかし、DGEを利用した光波の操作原理に基づく操作を実現するためには、1つ以上の要素が必要であることは明らかである。
図4は、互いに隣接して位置し、別々に制御できる2つの異なるDGEのアレイを示す。いうまでもなく、意味のある表示を行うには2以上のピクセルが必要であり、通常は2次元のピクセルアレイが必要である。
図4(及びそれに続く図)は、ディスプレイ全体の一部として、2つの異なる光波を出力できる2つのピクセルを形成するために、2つの異なるDGEをどのように利用するかについての例示である。図示のように、2つの異なるDGEである、DGE1及びDGE2が並置されている。(以下、システムが複数のDGEを有する場合、上付き文字は特定のピクセルの順序番号を示す)。2つのDGEの構造は同一である。すなわち、2つのDGEの間に位置する2つの基板の屈折率は、ピクセルの基板に2つの異なる電流を印加することにより別々に制御できる。
図4に示すように、二つの異なる屈折率ν1≠ν2を2つのDGEに割り当てる。従って、DGEから出射する2つの光波は、2つの異なる方向 φ1≠φ2
に回折される。ダイナミックディスプレイとするため、制御電流を連続的に変更でき、ピクセルから出てくる光波の出力方向をそれに応じて制御できる。この実施例では、電子的に制御可能な屈折率を使用するアプローチが示されている。しかし
図1及び
図3に示したアプローチあるいはDGEを使用する任意の他の方法を利用できる。
図1−4に示すビームステアリングは、x軸に沿ってのみ実行される。しかしながら、各ピクセルに対し2次元偏差を実現することは、各ピクセルについて2つの異なる平行DGEを組み合わせることにより容易に実現でき、各DGEの走査方向は他のDGEの走査方向と垂直である。
図5A及び5Bは、2つのピクセルが互いに隣接して配置されるシステムを示す。各ピクセルは、互いに垂直に配置された2つのDGEから構成される。各ピクセルについて、グレーティング関数がx軸にのみ依存するグレーティングG
1i(x)、G
2i(ξ)(i = 1,2)を有するDGE Dx
iに加え、グレーティングH1
i(y)、H2
i(η) (i = 1,2)を有し、グレーティング関数がx軸に直交するy軸のみに依存する第2のDGE Dy
iが、DGE Dx
iの上に設けられている。
図5Aに示すように、光波は、最初に第1のD
xiを通り、角度φx
iだけY軸周りに回転される。これは最初のDEG D
xi の屈折率ν
xiを制御することにより行われる。光波は次いで第2のDGE Dy
lを通過し、y軸周りの回転はDGEの影響を受けない。
図5Bに示すように、x軸周りの回転は、光波が第1のDGE D
xiを通過するときに、光波は次いで第2の DGE D
yiを通り、角度φy
iだけX軸回りに回転される。これは、第2の DGE D
yiの屈折率νy
iを制御することにより行われる。同じピクセルに属する2つの直交するDGEの屈折率は別々に制御できるので、出力角φx
i、φy
iの2次元偏差を制御システムにより厳密に設定できる。
図5A、5Bに示すシステムでは、各ピクセルでの垂直方向に隣接する2つのグレーティング G2
l(ξ)、H1
l(y) は、別々に製造される。しかしながら、これら2つのグレーティングを組み合わせて単一のグレーティングGH
i(ξ,y)を製造する方が容易なシステムもある。GH
i(ξ,y)は、以下のグレーティング関数を持つ。
2つのDGEを持つピクセルの製造方法に関し、様々な観点がある。1つには、簡単な組立てプロセスの観点から、上述のように2つの隣接するグレーティングを一体化することが好ましい。他の観点では、複雑なグレーティング関数を有することがある2次元グレーティングGH
l(ξ、y)を作製するよりも、G2
i(ξ)またはH1
i(y)のような1次元グレーティングを別個に製造する方が、通常はずっと簡単である。従って、各システムの具体的な製造方法は、各システムの詳細なパラメータに応じて決定すべきである。
必要な2次元走査を達成するための別のアプローチは、
図5A及び
図5B説明したものとは異なり、2つの隣接する直交DGEの代わりに単一のDGEを利用し、各グレーティングはx座標及びy座標に依存する2次元グレーティング関数を有する。システムは、2つの軸の周りに偏角を設定できるダイナミック制御ユニットを含む。1つの可能性は、直交する2つの軸に沿って屈折率を別々に制御できるダイナミック複屈折材料を有する基板を使用し、
図2に示す光学システムを変更することである。他の方法は、
図3に示すシステムを変更し、x軸及びy軸の周りを回転できるグレーティングGoを使用することである。
図1に示した光学系に基づく別の方法を
図6A及び6Bに示す。第2のグレーティングG2(ξ、η、ζ)の逆グレーティング関数を次のように定義する。
ここで(dξ、dη、dζ)は、所定の点(ξ、η、ζ)での、各々(ξ
→、η
→、ζ
→)軸に沿っての、2本の隣接するグレーティング線間の距離である。グレーティング平面はζ
→軸に対して垂直なので、グレーティング関数は以下のように書くことができる:
グレーティングG2のグレーティング関数が半径方向対称性を有すると仮定すると、 G2(ξ,η)=G2(ρ) と表すことができる。ここで ρ=(ξ
2+η
2)
1/2 は与えられた点(ξ,η)とグレーティングの中心との半径方向距離であり、与えられた点(ξ,η)での隣接する2つのグレーティング線間の半径方向距離dρは以下の式で与えられる。
1/dρ=((1/dξ)
2+(1/dη)
2)
1/2
次の形のグレーティング関数を有するグレーティングG2を選択する。
ここで、Λは定数であり、マイナス符号はグレーティングG2の−次の作用を用い、ρ
→は半径方向の単位ベクトルである。グレーティング関数は、半径ρの直線的な単調増加関数である。この場合、グレーティングG2の種々の構成要素は次のとおりである。
グレーティングの回折式は、
ここで、Vi
→及びVc
→はそれぞれ画像及び再構成光波のベクトルである。これらのベクトルの成分は、次のように書くことができる。
ここで、λは回折光波の波長、k,l,mはそれぞれρ、ξ、η軸に沿った光波ベクトル(または方向余弦)の成分である。
図6Aに示すように、一般性を失うことなく、グレーティングG2から回折される画像光波は、グレーティング平面に垂直な平面波、すなわち、
と仮定できる。
結果として、再構成波のVc
→の方向余弦は以下のようになる。
図6(B)に示すように、グレーティングをΔρだけ並進する。ここで
Δρ=(Δξ
2+Δη
2)
1/2 である。従って、第2のグレーティングG2表面の点(ξ、η)は、第1グレーティングG1に対し、並進前に(ξ+Δξ、η+Δη)に有った点と同じ位置にある。その結果、第2グレーティングG2表面の点(ξ、η)は、平行移動後に、以下の方向余弦を有する出力光に照らされる。
式(33)、(38)を式(34)に代入すると、以下の結果が得られる。
mi
Δη=λG2η+kc
Δη=−λη/Λ+(λη/Λ+λΔη/Λ)=λΔη/Λ
画像光線 Vi
→Δρ(ξ、η) の方向は、第2のグレーティングG2の表面での点(ξ、η)に関して不変で、このため第2のグレーティングの表面に入射する光波全体が同じ方向に回折される。従って、画像波は、(39)式の方向余弦を有する純粋な平面波である。
第1のグレーティングn要求されるグレーティング関数G1
→(r)を計算するために、第2のグレーティング上の所与の点ρから第1のグレーティング上の各点r(ρ)までの光線を追跡する、ここで Δρ=0 である。
図7に示すように、ρとr(ρ)との間の半径軸に沿った横方向の距離は、下式で与えられる。
ここで、Dは2つのグレーティングの間の距離であり、r(ρ)からρへ進むる光線の方向余弦は、
である。式(37)を式(41)に代入すると、下式が得られる。
式(42)を式(40)に代入すると、下式が得られる。
一般性を失うことなく、第1のグレーティングG1を照明する読み出し光波は、グレーティング面に垂直な平面波、すなわち kc(r)=0 であると仮定する。その結果、第1のグレーティングのグレーティング関数G1
→(r)は、
で与えられ、r
→は半径方向の単位ベクトルである。従って、グレーティングG1
→(r)の絶対値は、
または
である。式(46)を式(43)に代入すると、
となる。これは単純単調増加関数であるため、逆関数G1(r)を簡単に見つけることができる。方向余弦は以下の条件を満たす。
従って、グレーティングG2の中心からの半径方向の最大距離は、以下の条件を充たす。
ここで式(39)を利用すると、以下のことが分かる。
結果として、
図6A、6B及び7に示した2重グレーティングアセンブリから得られる最大角度偏差は、
となる。
図1−6に示した全てのシステムにおいて、ディスプレイは、単一の波長λを有する単色光波により照明されると仮定した。しかし、図示のディスプレイシステムのほとんどすべてにおいて、ディスプレイはフルカラー画像を投影する能力を有するべきである。カラフルなディスプレイを達成するための1つのアプローチは、特にピクセルサイズが比較的大きい用途の場合に、グレーティングの代わりにフレネル素子を利用することである。これらは、画素の基本的要素として、
図1−5の実施例のための、シリンドリカルな要素を含む。また
図6(A)、(B)の実施例のための円形の要素を含む。この場合、フレネル素子を、式(1)−式(51)に従うように設計できる。さらに、再構成波長に対するそれらの感度ははるかに低くなり、白色光を用いてそれらを照明することができる。しかしながら、回折格子に対して、再構成波長に対する感度は非常に高く、各ピクセルは単色光で再構成されなければならない。従って、3つの異なる色を有する少なくとも3つの異なる画像を統合し、必要なカラフルな画像を生成する必要がある。必要なカラー統合を容易にするには、主な2つの方法がある。1つの方法は時系列カラーイメージングであり、カラー画像が、赤、緑、及び青(RGB)光の3つの基本色を、典型的には1/f秒間続く単一の画像フレーム内に順次配置することにより生成される。fはシステムの周波数であり、通常は50または60ヘルツである。これは、周期的なタイムフレームが3つの等しいサブタイムフレームに分割され、各サブタイムフレームにおいて1つの色のみが表示装置を照明していることを意味する。この方法を用いて本発明を実施することが可能で、DGEのグレーティングの各々を、3つの重なり合うグレーティングから構成された多重化されたグレーティングで、その各々は3つの基本色のうちの1つに敏感であり、他の2色には敏感でないように製造すればよい。DGEを照明するためにこのアプローチを使用することの主な問題は、多重のグレーティングに対して高い回折効率を達成することは通常困難なことである。その結果、3つの重なり合ったグレーティングの間で光波のクロストーク(光波が「間違った」グレーティングにより回折される)のリスクがあり、画像のカラー品質とコントラストが低下する可能性がある。
カラー表示を達成するための別の方法は、カラーフィルタを利用することである。ディスプレイの各ピクセルを3つのサブピクセルに分割し、カラーフィルタは3つの基本色RGBの染料または顔料をサブピクセルに追加し、3原色を混色することにより、ほぼすべての色を生成できる。この方法の主な欠点は、ディスプレイが白色光波、または異なるRGB色の3つの光波により照明されることである。その結果、3つの異なる光波により全てのサブピクセルが照明され、適切な色の1つだけがカラーフィルタを通過し、間違った色を有する他の2つの光波が吸収されることである。このため、カラーフィルタディスプレイの透過効率が、少なくとも1/3以下に低下する。
図8A−8Cは、高効率システムを達成するために、DGEのアレイを使用してディスプレイソースを照明するための方法を示す。
図8Aに示すように、RGBのカラーを有する3色の平面光波Wr
i、Wg
i、Wb
i の合成波である入力光波Wrgb
iが、グレーティング面に垂直にDGE Drgbに入射する。横方向ディメンジョンがaxである第1のグレーティングCrgb1(x)は、3つの異なるグレーティングCr1(x)、Cg1(x)及びCb1(x)の多重化グレーティングであり、 該当するRGB色に敏感で、他の2色には影響を受けない。第2のグレーティングは、3個の隣接する別々のグレーティング Cr2(x)、Cg2(x)、Cb2(x)から構成され、横方向ディメンジョンはax/3で、割り当てられたRGB色に敏感である。RGB光波(点線、破線及び実線)は、第1のグレーティングから第2のグレーティングへと回折され、第2のグレーティングからの出力光波もまたグレーティング平面に垂直な平面波で、このため下式が成立する。
各光線はG1上の点xからG2上の点ξまでトレースされる。このため、下式が成立する。
第2のグレーティングCrgb2(ζ)の3つのサブグレーティングのは、それぞれの色に対して非常に効率的である。実際に、第1のグレーティングCrgb1(x)は3つの異なるグレーティングにより多重化されているので、100%の効率であることはない。3つのグレーティング間のクロストークは、サブフィルタF
r、F
g、F
bを有するカラーフィルタを、3個のグレーティングCr2(ξ)、Cg2(ξ)、Cb2(ξ)の前面に配置することにより回避できる。各サブグレーティングは、ほぼ適切はカラーの光波により照明され、わずかな部分のみが間違ったカラーなので、フィルタによるエネルギー損失は最小限で、クロストーク も実際に防止される。
図8Bに示すように、Drgbからの3つの異なる出力光波により3つのサブピクセルを照明する。各サブピクセルは、DGE D
cを有する(上付きのc = r、g、bはDGEのカラーを表す)。サブピクセルからの3つの出力光波Wc°の方向は、3つのDGE内に位置する基板の屈折率ν
cを制御することにより設定される。
図5A及び5Bに関して説明したように、に示すように、各サブピクセルにここでも垂直方向に隣接するグレーティング、C2(ξ)、及びG1
C(x)は、別個に製造できる。しかしながら、これら2つのグレーティングを一体にし、これらの2つのグレーティングの組み合わせのグレーティング関数を有する、統合グレーティングとする方が簡単なシステムがある。前述したように、各システムの具体的な製造方法を、各システムの詳細なパラメータに従って決定する。
図8A,8Bに示すように、D・tanαb(0)のシフトが、Drgbの二つのグレーティング間に有り、Dはグレーティング間の垂直距離で、αb(0)は点 x=0 と点 ξ=0 とを結ぶ青色波の向きである。2つのグレーティングの全体的な横方向開口はaxに等しい。
図8Cは、2つの連続したDGEを利用して照明される、2つの隣接するカラーフィルタ付きのピクセルを示す。前述のように、各サブピクセルのDGE内のそれぞれの屈折率を制御することにより、6つのサブピクセルからの出力光波Wc
0i(i = 1,2;c = r、g、b)が設定される。n個の多数のピクセルに対し、ディスプレイ全体の開口はn・axとなり、第1のグレーティング面と第2のグレーティング面のシフトは無視できる。その結果、ディスプレイのフィルファクタは実質的に1である。
図8B及び
図8Cに示すように、DGEに基づくRGB照明モジュールは、ディスプレイを背面照明する。ピクセルは
図2の方法に従って設計されている。究極的には、この照明方法は、
図1,3及び6の変形例に従ってピクセルを設計したディスプレイにも適用できる。さらに、この照明方法は、ピクセルがDGEから構成されるディスプレイだけでなく、他の従来のディスプレイでも利用できる。
図9Aは、液晶ディスプレイ(LCD)を背面照明するために、DGEベースのモジュールを利用する方法を示す。従来法では、バックライトモジュールがディスプレイの背面に追加される。図示のように、照明素子Drgbは単一のピクセル20の背面に配置され、このピクセルは3つのサブピクセル22,24,26に分割され、サブピクセル青色、緑色及び赤色に割り当てられている。入力光波W rgb
iから3つの基本色Wr
i、Wg
i及びWb
iへの分割は、
図8Aで説明したのと同様である。出力光波Wr°、Wg°及びWb
oは、LCDに通常に設けられているディフューザ28により、サブピクセルから拡がる。典型的には、LCDは、
図8Aに示したような3つの単色光波の組み合わせにより照明されるのではなく、3つの色帯域の組み合わせを有する光により、または白色光波により照明される。その結果、Drgbグレーティングの効率は最適でなく、総出力効率は低下する。しかしながら、DGEベースの照明モジュールにより達成され得る効率は、既存の照明モジュールで達成できる最大効率の33%よりもかなり高い。
図9Bは、DGEベースのモジュールを利用し、シリコン上の液晶(LCOS)ディスプレイを前面照明する方法を示す。LCDパネルと同様に、LCOSパネルは、電圧に応答してねじれあるいは整列する液晶で満たされた、2次元アレイのセルを含む。LCOSでは、液晶素子は反射性シリコンチップ上に直接結合される。下部の反射面の反射に対しねじれた液晶は、光の偏光を制御し、明るいピクセルと暗いピクセルを生成する。図示のように、3つのサブピクセル32,34及び36に分割されたピクセル30の前面は、
図9Aのように入力光波W rgb
iにより照明される。この場合の主な相違点は、出力光波Wr°、Wg°、Wb
oはピクセルを通過するのではなく、ピクセルの前面から当初の方向と反対に反射される点である。
DGEを利用するLCOSの前面照明を設計する際に考慮すべき問題は、第2のグレーティングCc2(ξ)の回折効率である。DGEのグレーティングによりLCDの照明モジュールに回折される光波の分極は同じでも、LCOSの明るいピクセルから反射される光波の偏光は90°回転される。この結果、グレーティングを通過する2つの直交偏光の効率を考慮する必要がある。
図9Bに図示された方式を効率的に使用するために、2つの可能な選択肢がある。すなわち、グレーティングを非常に効率的にするか、または、直交偏光に対して完全に非効率的でなければならない。
図10Aは、グレーティングが2つの直交する偏光に対して非常に効率的であるシステムを示す。図示のように、2つの隣接するピクセル40及び42からの反射波は、後方へ回折されてシステムへ入射した元の位置に戻り、グレーティング平面に実質的に垂直である。二つのピクセル40及び42からの2つの出力光波W°rgb1及びW °rgb2は互いに分離されている。
図10Bは、入射光の偏光に対してのみグレーティングが非常に効率的で、直交する反射偏光に対する効率を無視できる、別のシナリオを示す。この場合、2つのピクセル40及び42からの反射出力光波W°rgb1及びW°rgb2は、様々なグレーティングを実質的に回折なしで通過する。出力光波の位置は元の入射位置に対して相対的にシフトされ、2つの光波は横方向に分離されたままである。この構成では、暗いピクセルにより反射された光波は元の偏光を保持し、従って、
図10Bに示すように、グレーティングにより再び回折される。これらの望ましくない偏光を持つ光波は、最終的に照明モジュールの出射面で偏光子により遮断され、それらの正確な位置は重要ではない。
しかしながら、グレーティングが反射光波の偏光に対して部分的に敏感なシステムでは、問題が生じる。
図10Cに示すように、ピクセル42から反射された光波W°rgb2の一部は、グレーティングにより再び回折され、ピクセル40から反射された他の出力光波W°rgb1の一部も、グレーティングを通過する。2つの反射された出力光波は少なくとも部分的に重なり、その結果、画像のコントラストが著しく低下する。
図1−9に示す方法は、各ピクセルからの放射光の強度だけでなく、ビームの方向も制御できるディスプレイシステムを提供する。このシステムは、既存の技術により実現できる多くのタイプのディスプレイに適用できる。
図11Aは、DGEベースのディスプレイの最も簡単な実施例を示す。出力光波光を連続的に走査する代わりに、各ピクセルは2つの状態のみを有する。図示のように、ピクセルP1は、制御された屈折率がνdに設定されるオフ状態にあり、出力光波を角度P2だけ偏向する。偏向された光波は、ブロッカ44により遮られ、従って、システムの射出瞳に伝播しない。ピクセルP2は、オン状態に設定され、屈折率はνbで、出力光波はピクセル面に垂直に放射され、従ってブロッカ44に妨げられず、システムの射出瞳45を遮られずに通過する。ピクセルのグレースケールは、各フレーム及び各ピクセル毎に、オン時間とオフ時間との比を制御することにより決定する。
図11Aに示すブロッカは、オフ時間の間に偏向された光をブロックするための例に過ぎない。偏向された光波がシステムの出力アパーチャからはずれる光学システムも設計可能であり、あるいはブロッカを別の場所に配置することも可能である。望ましくない光波が向けられる場所は、通常、ヒートシンクまたは光ダンプと呼ばれる。
図11Aに示す出力光波は平面波である。しかし、大部分のディスプレイでは、出力された光波が出力アパーチャ(またはフラットスクリーンのために必要な視野角)を満たすことが必要であり、従って、
図11Bに示すように、出力光波は、予め定義された立体角ΔΘで分散する必要がある。光波の分散は、システムの基本的な光学パラメータを操作することにより部分的に達成できる。これらは、入力光波の事前分散、準単色光源の色帯域幅、及びピクセルの有限サイズからの回折などである。光ビームの正確な必要な分散は、ピクセルの出口面に、あるいは入力面に角度選択性ディフューザ46を追加することにより達成できる。いずれの場合でも、オフ状態の分散光波全体がヒートシンクに行き、システムの出力開口を通過しないように、ディスプレイの光学設計に注意する。
図11A,11Bに示すディスプレイのバイステート動作原理は、デジタル光処理(DLP)と同様である。DLPでは、各ピクセルが、システムの出力アパーチャまたはヒートシンクのいずれかを介して光を反射するために迅速に再配置され得る、小さなミラーから構成されている。DLPに対して本発明が優れている主な点は、光がディスプレイから反射されるDLPとは対照的に、ディスプレイを通る光の伝送を利用することである。その結果、ここでの光学設計ははるかに簡単になり、全体的な容積はDLPの容積よりもはるかに小さくなる可能性がある。
各ピクセルについて、放射される光波の強度が制御されるだけでなく、出力される波の方向も制御される新しいディスプレイ技術の可能性を理解するためには、ディスプレイの原理が重要である。
図12は従来技術のフラットディスプレイ50を示し、任意の所与のタイムフレームにおいて、各ピクセルは、φFOVの広がり角を有する分散光波を放射する。この角度は、通常、ディスプレイの実際の視野(FOV)であり、高品質のフラットスクリーンでは、2πステラジアンに近いことが好ましい。操作の主な結果は、任意の所与のタイムフレームに対して、各ピクセルがすべての方向に同じ情報を出力することである。ピクセル52からの光は視者の両眼54に入射する(強度の小さな変化を無視する)。この結果、視者は任意の視点で同じ画像を視ることになり、画像は2次元的である。
各ピクセルからの出力光の向きをDGEに基づくピクセルにより制御できる、全く新規なディスプレイ原理を
図13に示す。図示のように、同じタイムフレーム内の、 0<t1<t2<Tf の条件を満たす(Tfはディスプレイのタイムフレーム)、異なる時間t 1及びt2の間、2つの異なる出力光波Wo(t1)、Wo(t2)がディスプレイ56から放射される。実際には、2つの光波はこれらは2つの異なる時点で放射されるが、同じタイムフレーム内に含まれるので視者の目に同時に現れる。この理由は、複数の個別の画像が人間の心の中で単一の画像に混ざり合っている視覚の持続性である。その結果、2つの画像W0(t1)及びW0(t2)から生じる2つの異なる光線59a及び59bが、ピクセル58から同じタイムフレームの間に放射され、視者の眼60a及び60bに入射する。これにより、視者は、2つの異なる視点から2つの異なる画像を見ることができ、立体画像として見る。
2つ以上の異なる視点を有する3次元画像が、DGE走査技術により実現できる。最初に、水平軸xのみに3次元効果を有するディスプレイシステムを考慮する。任意の所与のタイムフレームにおいて、ディスプレイからの任意の出力画像が、x軸に沿ってn個の異なる視点vj(j = 1 ... n)に対する、n個の異なるサブ画像から構成されるとする。これを達成するため、各ピクセルから出力された画像波W0は、FOVの全立体角をカバーするため、タイムフレームの間にスキャンする。すなわち必要な視点vjに対し(一様にFOV上に存在すると仮定)、視野角φjを指定し、走査波を時刻t
jで変位させる。
図14は、2つのグレーティング間の屈折率ν(t)が時間の関数として修正されるピクセルを示す。図示のように、同じタイムフレーム内の2つの異なる時間t 1及びt 2において、画像波は、それぞれ
2つの異なる角度φ1及びφ2に偏向される。各視点νjについて、 Δν=Τf/n の最大タイムスロットを割り当て、出力光波は特定の視点に偏向される。各視点での出力光波の強度を制御するための一つの方法は、外部グレーティングG2(ξ)の正面に、従来のLCDを配置することによりである。しかし、既存のLCD技術で達成可能な最小限の応答速度では、非常に少数の視点しか実現できない。従って、出力光波W0の角走査速度を制御することにより、すなわち、任意の所与のタイムフレームで、各視点νj及び各ピクセルについて、実際のタイムスロット Δτjを割り当てる。ここに 0 ≦Δτj≦Δτ である。光波のグレースケールは時間Δτjにより決定され、完全に暗いピクセルについて Δτj= 0 であり、完全に明るいピクセルについて Δτj =Δτ である。FOV全体にわたって明るいピクセルについてのみ、条件 Σ
j=1nΔτj=Tf である。ほとんどの場合 Σ
j=1nΔτj<Tf であり、従って、 Σ
j=1nΔτj<t<Tf を満たす任意の時間に対し、出力光波はヒートシンクへ向けられる。
図15は、2つの連続した出力光波W0(tj)(実線)及びW0(tj+1)(破線)を示す。走査波はギャップなしでFOV全体をカバーし、波の角度分散は Δφ=φFOV/n である。実用的には、離散的ではなく、連続走査により出力光波を変位させる方がずっと簡単である。このため、出力光波W0(tj)のグレースケールは、角走査速度 ωi=Δφ/Δτj により定まる。特定のピクセルが出力光波を所与の方向φjに放射する時間t
jは、その時点に先行する直前の、角度の明るさ及び角走査速度に依存する。特に下式が成立する。
その結果、走査角速度は特定のピクセルtjの全体的な輝度に依存し、それはピクセル毎に異なり、その結果、様々なピクセルからの光波は異なる時点で視点νjに到達する。しかしながら、これらの時間はすべて同じタイムフレームに含まれ、すなわち、ディスプレイ内のすべてのピクセルについて 0<tj<Tf である。従って、視覚の一貫性により、すべてのピクセルからの光波が視者の眼で統合され、単一の画像が生成される。
考慮すべき重要な問題は、投影された画像の輝度Lν(すなわち、単位投影面積当たりで、単位立体角当たりで、単位時間当たりの放射エネルギー)である。輝点からの出力光波は、従来の表示装置の発光時間Tfよりもn倍低い、Δτの時間だけ出射され、両者の時間は目での処理時間よりも小さい。このため、視者の目に対する明るさは、同じ係数nだけ低くなる。輝度低下は、出力光波が小さな角度分散を持つことにより、補償できる。上述したように、
図14及び
図15に示すディスプレイでの出力光波の角度分散は、 Δφ=φFOV/n であり、従来のディスプレイではφFOVである。即ち、
であり、ここで、上付き文字dge及びconは、DGEベースのディスプレイ及び従来のディスプレイのパラメータであることを示す。光の発光Mν(単位投射源面積当たりで単位時間当たりの出力エネルギー)は、2つのディスプレイで同じであると仮定する。従って、
とする。(55)式と(56)式を結合すると、下式が得られる。
これは、DGEベースのディスプレイの瞬時輝度が、従来のディスプレイの瞬間輝度よりもn倍高いことを意味し、前者のディスプレイの照明時間が短いことを補償する。上述したように、出力光波φpの分散の一部は、システムの基本光学パラメータにより達成される。前述のように、
図15の角度選択ディフューザーをピクセルの出力面あるいは入力面に設けることにより、光線の正確に必要な分散が得られる。主な相違点は、x軸及びy軸に沿って異なる分散が必要であることである。x軸で必要な分散はΔφであり、y軸に関してビームはFOV全体をカバーし、必要な分散角はφFOVとする。この条件を達成するため、非対称な角度選択ディフューザーを使用でき、x軸に沿った拡散角はy軸に沿った拡散角よりもはるかに狭い。x軸に沿ったFOVxがy軸に沿ったFOVyと異なると仮定すると、以下のディフューザーの角度が得られる。
これまでは3次元効果がx軸に沿ってのみ必要とされると仮定したが、実際にはシステムの走査能力に依存して、y軸に沿ってこの効果を達成することが可能である。視野角φjの単一の視点νjの代わりに、鉛直方向にm個の異なる視点列があるとすると、すなわち、画像はn*m個の異なる視点νji(各々2つの直交する視野角φxj,φyj)を持つとする。2次元走査は、
図5及び6に関連して説明した方法を使用して実行できる。システムの様々なパラメータは次のようになる。
任意のタイムフレームでの各ピクセル及び各視野角νjiについて、実際のタイムスロットΔτjiが、必要な輝度に応じて割り当てられる。水平ラインを1つずつカバーすることにより走査すると仮定すると、各視点νiについての発光時間tjiは、
となり、角走査速度は ωji=Δφx/Δτji である。
図13−15の実施例で生成する画像は単色光波で生成したモノクロ画像であるが、フルカラー画像を、
図8−10に関して説明したように、カラーシーケンシャルまたはカラーフィルタピクセルを用いて容易に実現できる。
図13−15は、ディスプレイが任意の所与のフレームに対してn個の異なる視点へ、n個の異なる画像を一次元または二次元アレイとして出力するシステムを示す。しかしながら、ホログラフィックディスプレイの場合のように、本発明に記載のDGEベースのディスプレイの技術を利用して、完全な連続的な3次元ディスプレイを得ることが有利であろう。ホログラフィックディスプレイの記録原理及び読み出し原理は、従来技術の
図16A及び16Bに示されている。
図16(A)に示すように、ホログラフィックプレート63には、2つのコヒーレントな光波、即ち物体と基準波との干渉パターンが形成される。通常、物体波は拡散反射する物体から散乱され、基準波は簡単な平面波で、容易に再構成できる波である。2つの干渉する波は、同じコヒーレントな光源、通常はレーザビームから発生する。図示のように、基準光線64は、物体75上の3つの点70,72,74からそれぞれ出力される3つの異なる光線66,67,68を有するホログラフィックプレート63上の点65で干渉し、多重干渉パターンが点65上に生成される。実際には、干渉パターンは連続光線を放射するので、3つ以上の異なるパターンを含む。単純化のために3つの光線をプロットする。同様の多重干渉パターンが点78上に生成され、基準線76は同じ3つの点70,72,74から出力される3つの異なる光線80,82,84と干渉する。同様の干渉パターンが、物体からの光線と参照波との干渉により生じる。干渉パターンは通常、極めて高分解能の光学エマルジョンに記録され、現像を経て複雑な回折格子に変換される。
ホログラフィックディスプレイの再構成プロセスを、
図16Bに示す。基準波と同様の再構成波が、現像されたホログラフィックプレート63を照明する。
図16Aの基準光線64と同じ方向から生じる再構成光線86は、点65の干渉パターンで回折され、3つの画像光線66' '、67 "及び68"を生成する。これらは、光線66,67及び68(
図16A)と同じ方向にプレートから出力され、記録プロセス中にプレートに入射する。視者の目90は、これらの光線を、それらが物体75上の点70,72、及び74から出力される光線66 '、67'及び68 'として視る。同様に、参照光76として同じ方向から発生した(
図16A)再構成波89は、点78の干渉パターンで回折され、3つの画像光線80'',82'',86''を生成する。視者の目91には、これらの光線を点70,72,74から放出された光線80',82',86'として視る。光線66',67',68'及び光線80',82',86'は現実の光線ではなく仮想的な光線であり、仮想的な画像75'が元の物体75の位置に形成される。同様に再構成波の回折はホログラフィック面63の全面で生じ、視者は仮想的な3次元画像をホログラフィックプレートの位置にある窓から現れたかのように見る。
写真的に記録されたホログラフィックディスプレイの主な欠点は、静止画像のみを投影できることである。ダイナミックホログラフィックディスプレイを実現するために、ダイナミックな空間光変調器(SLM)が必要である。このようなSLMは、必要な複雑な回折パターンをリアルタイムで生成でき、この回折パターンは簡単な再構成光波を所望のダイナミック3次元画像へと回折できる。しかしながら、現在最も進んだ現在の投影技術でも、達成可能な最高解像度は、ダイナミックディスプレイの要求解像度よりも一桁低い。必要な分解能はサブ波長で、1mm当たり数千対の格子線が必要である。
本発明のDGEベースのピクセルを用い、ダイナミックな3次元ディスプレイを実現するための別のアプローチを
図17に示す。ダイナミックなグレーティングを使用するのではなく固定のグレーティングのアレイを用い、DGEに基づくディスプレイ93を実現する。ダイナミックなグレーティングからの再構成波の回折を模倣するように、各ピクセルの出力光波を走査することにより、ダイナミックな画像を生成する。図示のように、
図14−15に関連して説明したのと同様な方法により、ピクセル97を照明する入力光波95をタイムフレーム内に種々の方向に走査する。主な違いは、出力光波がピクセル97の位置に見られるように、必要な仮想画像のパターンを生成するために連続的に走査されることである。さらに示すように、3つの異なる出力光線100,101,102がピクセル97から放射される。視者の眼90は、これらの光線を、虚像75'上の点70,72、74から放射された光線100 '、101'、102'して視る。同様に、入力光線96はピクセル98で走査されて3つの画像光線105 "、106"及び107 "を生成する。視者の眼91は、これらの光線を、点70,72、74から放射された光線80 '、82'及び86 'として視る。なお、仮想画像75 'を生成する光線は、ホログラフィックディスプレイの場合のように同時に出力されるのではなく、むしろ逐次的に出力される。そのため、詳細な画像を生成するためには、極めて高速の走査が必要である。従って、投影された虚像の解像度は、システムの達成可能な走査速度により決定される。上記の説明は単一のタイムフレームに対してのみ適用され、単一のタイムフレームでは単一の3次元仮想画像が形成される。明らかに、任意のタイムフレームにおいて、異なる画像が生成され、従って、ディスプレイは、視者の目に投影されるダイナミックな仮想画像を生成できる。フルカラー画像は、
図8−10に関連して説明したように、カラーシーケンシャル又はカラーフィルタピクセルを利用して容易に構成できる。
上記した技術を使用して実現できる別の魅力的なアプリケーションは、フーリエ変換ディスプレイである。既存の表示源の殆ど全てにおいて、画像面は表示面と一致する、すなわち、ディスプレイから放射される光波は表示面上に画像を生成し、画像の各点はディスプレイの特定の場所にある単一のピクセルにより表される。しかしながら、必要な画像が無限遠点にコリメートされる必要がある、双眼鏡、ヘッドアップディスプレイ(HUD)及びHMDのような用途がある。これらのシステムでは、画像の各点は、特定の視角から視者の眼に入射する単一の平面波により表される。通常、必要なコリメートされた画像を得るために、従来の表示源からの画像は光学モジュールを利用して無限遠点にコリメートされる。換言すれば、コリメート光学モジュールがディスプレイの実像をフーリエ変換し、単一ピクセルからの各分散光波を特定の方向から到来する平面波に変換する。大部分の用途、特に広いFOVまたは高性能が要求される用途では、コリメート光学モジュールは大きく、重く、煩雑で高価になり、必要なシステムの製作は著しく複雑である。これらの欠点は、コンパクトさと軽量が重要なパラメータであるHMDのような光学系に対して特に深刻である。これらのシステムのもう一つの欠点は、コリメート・モジュールが、ハイエンド・アプリケーションでも、コリメートされた波に好ましくない偏向が生じ、この結果画像の光学品質が低下することである。
これらの欠点を克服するために、本発明のディスプレイから放射される分散光波の代わりに、平面波の集合を出力するディスプレイ源を有することが好ましい。この目標を達成するための1つのアプローチは、ディスプレイ面から出力される光波が、必要な画像のフーリエ変換に従って変調される高解像度SLMを利用することである。これは、SLM自体の透過性が実像のフーリエ変換として変調され、出力光波がそれに応じて変調されるような簡単な平面波でSLM平面を照明することにより、達成できる。この手法の主な問題は、特に広いFOVを有する画像に対して、必要な変調を達成するためには、1ミリメートル当たり数千本対の線から成る、非常に高い分解能が要求されることである。ホログラフィックディスプレイに関して説明したように、このタイプの高解像度SLMは現在存在せず、近い将来には存在しないであろう。
必要とされるフーリエ変換ディスプレイを実現するための可能な方法は、ダイナミックホログラフィックのような3次元ディスプレイを達成することに関連して説明したのと、同じ方法を使用することである。SLM平面の必要な変調は、簡単な基準照明平面波と、無限遠点にコリメートされる必要な画像との間の干渉パターンとして説明できる。この干渉パターンに従って変調されたSLMが、基準波と同様の読取り波により照明されるとき、回折された出力光波は、必要とされるコリメートされた画像となる。従って、
図17に関連して説明したのと同じ技術を、必要な空間変調ディスプレイを模倣するために、利用できる、すなわち、ディスプレイの各ピクセルは、任意の所与のフレームレートに対し、適切な読み出し波により照射されたときにSLM平面から回折すべきものと同様に、光波の集合を出力する。結局、結果は同じになり、出力光波は実像の必要なフーリエ変換となる。
図11−17に示した全実施例において、視者の位置は不明であり、ディスプレイから出力された画像は、割り当てられたFOV全体をカバーすべきであり、視者の目は、このFOV内のどこにでも配置され得ると仮定した。しかしながら、光学系に眼球追跡ユニットを追加することにより、投影画像の性能及び輝度をさらに改善し、ディスプレイの動作を著しく単純化することが可能である。眼球追跡は、ディスプレイに対する視線の位置、注視点または動きのいずれかを測定するプロセスである。すなわち、眼球追跡器は、眼の位置及び眼球運動を測定するための装置である。この装置を操作する最も一般的な方法は、眼の動きを測定する光学的方法を利用することである。発光器からの光、典型的には赤外線が眼から反射され、ビデオカメラまたはいくつかの他の特別に設計された光センサにより検出される。この情報は、反射の変化から目の回転及び変換を抽出するために分析される。ビデオベースの眼球追跡器は、典型的には角膜反射及び瞳孔の中心を時間の経過とともに追跡する。
本発明では、2つの光学ユニット、すなわち、ダイナミックに制御される立体視ディスプレイと眼球追跡ユニットを、物理的に組み合わせることが有利である。視者の目の位置及び注視点を識別することにより、各タイムフレームで各ピクセル毎に制御ユニットを設定し、ピクセルが光波を出力すべき方向及び画像のコンテクストを、眼球追跡ユニットにより受信されたデータを用いて調整する。ディスプレイは、ダイナミックに制御されるピクセルを利用して、立体画像を容易にするために、視者の両眼に対して異なる画像を投影できる。さらに、ディスプレイは全く異なる画像を異なるユーザに同時に投影できる。
通常、対称性の考慮から、眼球追跡ユニットをディスプレイモジュールの中央上部位置に設置することが好ましい。
図18A−18Bは、眼球追跡ユニット108の上面図(
図18A)及び正面図(
図18B)を示す。眼球追跡ユニット108は、発光器109及び検出器110を含み、これらはディスプレイモジュール111のフレームの上部中央に配置される。図示のように、光線112a及び112bは、発光器109から出て、視者の目114a及び114bを照らす。視者の目から反射された光線116a及び116bは、検出器110に集束される。検出器110で収集されたデータは、処理装置118に送信され、処理装置118により位置もダイナミックに計算される目の注視点として、それに応じて、各ピクセルが光波を出力すべき方向及び画像のコンテクストを決定する。処理されたデータは制御ユニット120に転送され、このユニットは処理されたビデオ信号をディスプレイに供給する。この追加の機能は、
図1−17に示す実施例の性能を向上させる。
図19は、
図11A−11Bに示すシステムをアップグレードした変形例を示す。後述のように、DGEベースのピクセルの走査能力は、バイステート動作モードへ縮退した。しかしながら、
図19の変形システムでは、完全な走査能力を再生する。各ピクセルは、制御された屈折率がνdに設定され、出力光波を角度φdだけ偏向させ、光波をヒートシンクに向けるオフ状態に加えて、屈折率νbで出力光波を角度φbだけ偏向させる連続的な状態を取ることができる。各ピクセルの偏向角は、視者の目の位置に応じて制御ユニットにより設定される。ディフューザ46により設定された各ピクセルの分散角Δθ 'は、光波がFOV全体をカバーすべき
図11Bに示すシステムのものよりも大幅に小さくできる。結果として、はるかに高い輝度、またはその代わりに、かなり低い電力消費が達成される。
図19の変形例を実現するための、いくつかの案が存在する。1つの選択肢では、各ピクセルは視者の頭部に向けられ、両方の目を覆う。その結果、従来の2次元画像が視者の眼に投影されるが、動作モードは非常に簡単であり、達成可能な輝度の改善は依然として重要である。このオプションでは、少数であれば複数の従来の2次元画像を、異なるユーザーの目に同時に投影することができる。別の選択肢として、各タイムフレームにおいて、ピクセルは光波を視者の2つの目の中に順次投射する。各タイムフレームは、ピクセル毎に、3つのタイムスロット、すなわち目のための2つのタイムスロットと、ヒートシンクのための第3のタイムスロットに分割され、各スロットの持続時間は投影された光波の明るさに従って決定される。このバージョンの投影画像は立体視が可能であり、要求される光波の分散がさらに低減されるので、それに応じて達成可能な輝度をさらに改善できる。変更されたバージョンでは、ピクセルアレイはピクセル対に分離され、各対において、2つのピクセルは光波を2つの眼にそれぞれ投影する。すなわち、各単一ピクセルは光波を単一の眼に向けて放射する。
図19に示すように、複数のDEGs、即ちDEGl,DEG2の制御された屈折率νdl及びνd2は、出力光波を視者の目の左右に角度φdl及びφd2だけ偏向させる。前のオプションと比較して、目の解像度は2倍に減少するが、ここでの画像の制御はずっと簡単である。
図20は、
図14,15の変形例をさらに改良した例を示し、システムはマルチビューア操作のために割り当てられる。k人の異なる視者がディスプレイを同時に見ていると仮定する。FOV全体をカバーするためにタイムフレーム毎にn * m個のタイムスロットにn * m個の異なる画像を投影する代わりに、各ピクセルは2k個の異なる画像を2k方向に出力して、 k人の視者の異なるEMBに対応する。多数のk人の視者がいても、EMBの総面積はFOV全体のほんのわずかな部分である。このため、分散角Δφ 'は、
図15のシステムに必要な分散角よりもかなり小さく、消費電力と輝度も向上する。最も重要なのは、各ピクセルが連続的に眼の動きに追従できるため、より高分解能でかつより簡単な制御により、より連続した画像を提供できる。
図21A、21Bは、
図17のホログラフィックディスプレイの変形例を示す。
図21Aに示すように、眼球追跡ユニット108は、ディスプレイ93のフレーム上に配置され、眼114a及び114bの位置及び視線方向を測定する。従って、
図21Bに示すように、各ピクセルは、出力光波を連続的にスキャンし、視者の眼を覆う立体角に必要な虚像のパターンを生成する。この立体角は、
図17の実施例で必要とされる立体角よりも遙かに小さい。その結果、ここでの走査システムの実現可能性ははるかに現実的であり、容易に達成できる。さらに、各眼の注視方向が分かっているので、注視しているピクセルだけが、高解像度画像を出力すれば良い。そして注視点から離れたところに位置するピクセルは、より低い解像度で画像を発生すれば良く、システムがさらに簡単になる。
図18−21の実施例は、
図11−17の実施例と比較して、いくつかの顕著な利点を有する。達成可能な輝度(または逆に低消費電力)がはるかに高く、制御機構がはるかに簡単で実現可能性が高い。ダイナミック制御ディスプレイを眼球追跡ユニットと組み合わせることにより実現できる、多くのアプリケーションが存在する。単一ビューアモードに関して、シーンの異なるアスペクトを、視者の位置と視者の注視点応じて、視者の目に投影できる。さらに、完全に異なるシーンまたは異なるコンテクストを投影できる。視者は、目を点滅させるか、単に動かすことにより、ディスプレイを操作できる。さらに、視者の目の状況に応じて動作モードを変更するようにシステムをプログラムできる。例えば視者が頭を回している、または予め設定された時間を超えて昼寝すると、画像投射を一時停止し、視線が元に戻ると再開するなどである。マルチビューアモードに関して、同じシーンの異なるアスペクト、(例えば、同じスポーツイベントまたは同じショーの異なるアスペクト)を、特定の位置または好みに従って、異なるユーザに同時に投影できる。さらにシステムは、1人のユーザには投影を中断し、他のユーザには画像を投影し続けることができる。さらに、異なるユーザに対する完全に異なるシーンを同時に投影できる。例えば、各自が各々好みの映画やテレビ番組を見ている間に、何人か視者が一緒に座ることができる。または何人かのプレイヤーが同じビデオゲームをプレイでき、システムは各プレイヤーのそれぞれのコンテクストを投影する。当然のことながら、最後に言及したアプリケーションでは、各視者は、適切なオーディオ信号を聞くために、自分のヘッドセットを使用する必要がある。
上述したエンターテイメント用途に加えて、
図18−21の実施例は、更新されたデータを継続的に視者の目に投影する、職業的なアプリケーションにも使用できる。例えば、手術室では、生体データを医療スタッフに投影する大きな画面がある。しかし、医療スタッフの異なるメンバー、すなわち外科医、看護師及び麻酔医は、異なる種類のデータを必要とする。上記の実施例を利用することにより、同じ画面から要求に応じて異なるデータを手術室の様々な人々に同時に投影することが可能である。他の例は、巨大スクリーンに絶えず更新される状況を投影する制御室である。異なるメンバーは、特定のシナリオの異なるシナリオまたは異なるアスペクトを参照する必要がある。ここでもまた、異なるシナリオをそれぞれのメンバーにその要求に従って同時に投影できる。
本発明は前述の実施例の詳細に限定されず、本発明の精神または本質的な特性から逸脱することなく、他の形態でも実施できることは、当業者には明らかである。従って、本発明の実施例は、すべての点で例示的であって制限的でないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記の説明ではなく、添付の特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の均等範囲に含まれるものを包含することが意図されている。