特許第6857214号(P6857214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6857214関節の炎症およびそれに関連する疼痛を治療するための注射用持続放出組成物およびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857214
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】関節の炎症およびそれに関連する疼痛を治療するための注射用持続放出組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/569 20060101AFI20210405BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210405BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   A61K31/569
   A61K9/10
   A61K9/14
   A61K47/32
   A61P29/00
   A61P29/00 101
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2019-136924(P2019-136924)
(22)【出願日】2019年7月25日
(62)【分割の表示】特願2017-200972(P2017-200972)の分割
【原出願日】2014年3月21日
(65)【公開番号】特開2019-214588(P2019-214588A)
(43)【公開日】2019年12月19日
【審査請求日】2019年8月22日
(31)【優先権主張番号】61/804,185
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515264481
【氏名又は名称】ユープラシア ファーマシューティカルズ ユーエスエー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】EUPRAXIA PHARMACEUTICALS USA LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘリウェル,ジェームズ,エー.
(72)【発明者】
【氏名】マローン,アマンダ,エム.
(72)【発明者】
【氏名】スミス,トーマス,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】バウム,マーク,エム.
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−523613(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/019009(WO,A1)
【文献】 特表2010−540447(JP,A)
【文献】 特表2013−535489(JP,A)
【文献】 特表2006−521287(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/052896(WO,A1)
【文献】 特開2010−111592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/569
A61K 9/00
A61K 47/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微粒子を含む医薬組成物であって、該微粒子が、
(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアであって、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含む結晶性薬物コアと、
(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルであって、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしていない重合体シェルとを含み、前記重合体シェルがポリビニルアルコール(PVA)を含む、医薬組成物。
【請求項2】
複数の微粒子の平均直径が80μmないし150μmの範囲であり、標準偏差が該平均直径の50%未満である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
90%を超える微粒子の直径が100〜300μmの範囲である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
結晶性薬物コアが、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾン、もしくはプロピオン酸フルチカゾン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
結晶性薬物コアが100%プロピオン酸フルチカゾンを含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
微粒子が、90〜98%w/wの結晶性薬物コアと、2〜10%w/wの重合体シェルとを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
身体区画に注射するための、複数の微粒子を含む副腎皮質ステロイドの単位剤形であって、該微粒子が、
(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアと、
(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルとを含み、
ここで該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンから選択される副腎皮質ステロイドの1以上の結晶を含み、該重合体シェルは該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしておらず、且つポリビニルアルコール(PVA)を含み、
該単位剤形は、2〜12か月の期間にわたって該副腎皮質ステロイドを持続放出する間に、該身体区画内に治療上有効な最小濃度の副腎皮質ステロイドを維持することができる単位剤形。
【請求項8】
身体区画が、関節、硬膜外腔、硝子体内の空間、外科的に作られた空間、またはインプラントに隣接する空間である、請求項に記載の単位剤形。
【請求項9】
2〜12か月の持続放出期間に、副腎皮質ステロイドが身体区画内に局所的に放出され、注射後7日目の血漿副腎皮質ステロイドが定量限界未満である、請求項またはに記載の単位剤形。
【請求項10】
複数の微粒子の平均直径が50μmないし150μmの範囲であり、標準偏差が該平均直径の50%未満である、請求項のいずれか一項に記載の単位剤形。
【請求項11】
微粒子が、90〜98%w/wの結晶性薬物コアと、2〜10%w/wの重合体シェルとを含む、請求項10のいずれか一項に記載の単位剤形。
【請求項12】
患者の必要に応じて、炎症を減少させるかまたは疼痛を管理するための医薬組成物であって、ここで該医薬組成物は、複数の微粒子と、薬剤的に許容されるビヒクルとを含み、該微粒子は、
(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアと、
(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルとを含み、
該結晶性薬物コアは、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含み、該重合体シェルは、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしておらず、且つポリビニルアルコール(PVA)を含む、医薬組成物。
【請求項13】
前記微粒子の平均直径が50μmないし400μm、または50μmないし250μm、または80μmないし150μmである、請求項12に記載の医薬組成物
【請求項14】
90%を超える微粒子の直径が100〜300μmの範囲である請求項12または13に記載の医薬組成物
【請求項15】
結晶性薬物コアがプロピオン酸フルチカゾンを含む、請求項1214のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項16】
医薬組成物を投与することが、前記患者の侵された関節へ関節内注射することを含む、請求項1215のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項17】
患者の炎症または疼痛が、変形性関節症、関節リウマチ、または傷害によって誘導された関節炎のうちの少なくとも1つによるものである、請求項16に記載の医薬組成物
【請求項18】
医薬組成物を投与することが、瘢痕組織を有するインプラントに隣接する空間内に医薬組成物を注射することを含む、請求項1217のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項19】
持続放出用医薬組成物の前記結晶性薬物コアが、実質的に純粋な副腎皮質ステロイドを、微粒子の少なくとも90重量%含む、請求項1218のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項20】
米国薬局方II型器具を用いて溶解試験を行った際に、前記微粒子が〜20時間の溶解半減期を示し、このときの溶解条件では、70%v/vメタノールおよび30%v/v水の溶解用溶媒200ミリリットル中に、25℃にて3ミリグラムの微粒子が溶解される、請求項1219のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項21】
副腎皮質ステロイドの持続放出が2〜12か月持続する、請求項1220のいずれか一項に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2013年3月21日に出願された米国特許法第119条(e)の下での米国仮出願第61/804,185号に基づく利益を享受するものであり、該仮出願は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
本開示は、関節の炎症を軽減し、変形性関節症または関節リウマチのような炎症性疾患によって引き起こされる疼痛を含む関節の疼痛を治療するための、注射用持続放出組成物およびその送達方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関節炎、すなわち関節の炎症は、腱炎および滑液包炎の比較的軽度な型から、関節リウマチのような全身に不具合を生じる型にまでわたる、100を超える様々な状態から成る。関節炎には、疼痛症候群、例えば線維筋痛および身体のすべての部分に関与する全身性エリテマトーデスのような関節炎関連疾患が含まれる。
【0004】
関節炎には一般に以下の2つの型がある。
・免疫が介在する全身性炎症性関節疾患である、関節リウマチ(「RA」)および関連疾患。
・変性関節疾患である変形性関節症(「OA」)。その発症は、典型的には以前の関節傷害またはその他の因子を介する。
【0005】
RAおよびOAを含むこれらの関節炎状態のすべてに共通する特徴は、関節および筋骨格の疼痛である。この疼痛はしばしば、傷害に対する身体の自然の応答である、関節内面の炎症からもたらされる。このような炎症および疼痛は、関節の通常の使用および機能を妨げ得る。一般に関節炎、関節の変形および外科手術に由来する疼痛および障害は、炎症を軽減するために設計されたステロイド化合物の薬物療法または関節内注射の組み合わせによって治療される。加えて、ヒアルロン酸製剤のようなその他の組成物も、関節内補充療法のために注射されてきた。特定の身体部位における局所的な炎症の軽減という、副腎皮質ステロイド注射の特徴的な利点は、アスピリンのように伝統的な抗炎症性の経口薬物療法によって達成されるものよりも迅速かつ強力である。単回注射によって、抗炎症性の経口薬物療法の複数回用量に伴う副作用、特に胃への刺激も避けられる。注射は診療所において容易に受けられる。その他の利点としては、薬物療法の作用が迅速に発現することが挙げられる。残念ながら、注射によって全身性の副作用が現れるか、または長期間有効ではないということもある。
【0006】
短期間の合併症は一般的ではない。長期間の副腎皮質ステロイド注射の危険性は、注射の用量および頻度に依存する。高用量と頻繁な投与によって起こる可能性のある副作用としては、皮膚の菲薄化、挫傷のできやすさ、体重増加、顔の腫れ、ざ瘡(ステロイドざ瘡)、血圧上昇、白内障の発生、骨の菲薄化(骨粗鬆症)および稀ではあるが、大きな関節の骨に起こる深刻な型の損傷(無腐性壊死)が挙げられる。さらに、副腎皮質刺激ホルモン放出因子の分泌に関与する視床下部、副腎皮質刺激ホルモンの分泌に関与する下垂体およびコルチゾールを分泌する副腎皮質の間には、視床下部−下垂体−副腎(HPA)軸と称される、相互依存的なフィードバック機構が存在する。HPA軸は、副腎皮質ステロイドの投与によって抑制される可能性があり、様々な望ましくない副作用が引き起こされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、副腎皮質ステロイドの作用の局所的な持続時間を延長させる一方で、投与に関連する全身性の副作用を減少させるための医学的な必要性がある。加えて、副腎皮質ステロイドによる、関節痛のような疼痛および炎症の持続的な局所的治療であって、HPA軸の抑制が、臨床的に重要でないかまたは測定不可能であるような治療が必要とされている。加えて、変形性関節症または関節リウマチからもたらされる関節組織の損傷のような、炎症性疾患に起因する組織への構造的な損傷を、遅延させ、抑止させ、逆転させるか、または別のやり方で阻害することに対する医学的な必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書には、関節腔、硬膜外腔、眼の硝子体、外科的に作られた空間、またはインプラントに隣接する空間のような身体区画の炎症の治療および/または疼痛の管理のための、医薬組成物、注射用剤形およびそれらの使用方法が記載される。
【0009】
一実施形態によれば、複数の微粒子を含む医薬組成物が提供され、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアであって、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含む結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルであって、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしていない重合体シェルとを含み、ここで前記微粒子は、米国薬局方II型器具を用いて溶解試験を行った際に12〜20時間の溶解半減期を示し、このときの溶解条件では、70%v/vメタノールおよび30%v/v水の溶解用溶媒200ミリリットル中に、25℃にて3ミリグラムの微粒子が溶解される。
【0010】
さらなる実施形態によれば、複数の微粒子を含む医薬組成物が提供され、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアであって、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含む結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルであって、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしていない重合体シェルとを含み、ここで該微粒子は、210〜230℃の範囲内の温度にて少なくとも1時間熱処理される。
【0011】
なお別の実施形態によれば、身体区画に注射するための、複数の微粒子を含む副腎皮質ステロイドの単位剤形が提供され、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルとを含み、ここで該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンから選択される副腎皮質ステロイドの1以上の結晶を含み、該重合体シェルは該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしておらず、該単位剤形は、2〜12か月の期間にわたって該副腎皮質ステロイドを持続放出する間に、該身体区画内に治療上有効な最小濃度の副腎皮質ステロイドを維持することができる。
【0012】
なおさらなる実施形態によれば、患者の必要に応じて、炎症を減少させるかまたは疼痛を管理するための方法が提供され、該方法は、身体区画への注射を介して、副腎皮質ステロイドを持続放出させるための、治療上有効な量の医薬組成物を患者へ投与することを含み、ここで該医薬組成物は、複数の微粒子と、薬剤的に許容されるビヒクルとを含み、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルとを含み、該結晶性薬物コアは、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含み、該重合体シェルは、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしていない。
【0013】
さらなる実施形態によれば、コートされた微粒子を形成するための方法が提供され、該方法は、副腎皮質ステロイドの1以上の結晶を含む結晶性薬物コアを提供すること、生分解性のポリマーと溶媒とを含む重合体溶液の1以上の被膜をコートすることによって重合体シェルを形成すること、コートされた微粒子が提供されるように該溶媒を乾燥させることおよび、該コートされた微粒子を210〜230℃にて少なくとも1時間加熱することを含む。
【0014】
なお別の実施形態によれば、患者の必要に応じて、炎症を減少させるかまたは疼痛を管理するための方法が提供され、該方法は、身体区画への単回注射を介して、副腎皮質ステロイドの持続放出のための単位剤形を患者へ投与することを含み、ここで該単位剤形は、複数の微粒子と、薬剤的に許容されるビヒクルとを含み、該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンから選択される副腎皮質ステロイドの1以上の結晶を含み、該重合体シェルは該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしておらず、単回注射後、該副腎皮質ステロイドが2〜12か月の期間にわたって放出される間に、該身体区画内に治療上有効な最小濃度の副腎皮質ステロイドが維持される。
【0015】
本開示はさらに、持続放出剤形(即時放出成分を有するかまたは有さない)として局所的に投与される副腎皮質ステロイドを提供し、この持続放出剤形の有効性には、内在性コルチゾールの産生に対して臨床的に重要でないかまたは測定不可能である影響が伴う。
【0016】
本開示はさらに、多量の薬物負荷を可能にするためには十分大きいが、関節内注射のためには十分小さな大きさの薬物粒子による、膜ベースの、拡散駆動型機構を提供する。
【0017】
本開示はさらに、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンからなる群より選択される副腎皮質ステロイドの、関節内注射される治療上有効な量の持続放出用医薬製剤の使用を提供し、該医薬製剤は多数のコートされた微粒子を含み、前記コートされた微粒子の平均直径は50μmないし400μmの範囲であり、該微粒子は、患者の炎症を減少させ、疼痛を軽減するため、70重量%を超える副腎皮質ステロイドから構成される粒子である。
【0018】
本明細書に記載されるように、副腎皮質ステロイド(「薬物」または「治療薬」)は、半透性の重合体シェルによってコートされ、関節内に注射される。水がポリマーを通して拡散すると、薬物コア(D)が溶解して膜(C)内部に飽和溶液が形成され、原則的に粒子(c)の外側へ染み出す状態となる。飽和溶液を維持する幾つかの薬物コアが残っている限り、この濃度勾配によって、薬物粒子からの薬物の一定の(ゼロ次)放出が駆動される。放出期間は、ポリマー被膜の透過性を変化させることによって調整できる。
【0019】
本開示はさらに、関節の炎症を軽減し、変形性関節症または関節リウマチのような炎症性疾患によって引き起こされる疼痛を含む関節の疼痛を治療するためおよび炎症性疾患に起因する組織への構造的な損傷、例えば変形性関節症または関節リウマチに起因する関節および/または関節周囲組織への損傷を、遅延させ、抑止させ、または逆転させるための組成物の送達に関する。
【0020】
本開示の方法を介し、持続性の注射用関節内薬物送達組成物を用いて、これを患者に投与することによる、関節炎に起因する病的状態を軽減させるための手段が提供される。関節内のステロイドは、50年を超える間、関節炎治療の主力であったが、多くの患者にとって、複数回のステロイド注射に危険性および副作用が付随することは必然であった。本明細書では、おおよそ数か月の間、低溶解度のステロイドを、初期バーストなしに偽ゼロ次放出可能な持続放出送達法を介して、これらの副作用を克服するための基盤および方法が提供される。これまでに、このように使用するための、これらの性質を備えた関節内注
射用製剤について記載された文献は存在しない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下の図面によって実施形態を説明するが、ここでの同様な引用数字は同様な部分を意味する。実施形態は例として示されるものであり、添付されるすべての図面は、限定を目的とするものではない。
図1】微粒子のコア/シェルの形態を模式的に示した図である。
図2】コートされていない粉末、コートされていない結晶およびコートされた結晶としてのプロピオン酸フルチカゾンのin vitroでの放出特性を示した図である。
図3図3Aは、様々な温度で熱処理されたプロピオン酸フルチカゾン微粒子の放出特性を示した図である。図3Bは、様々な温度で熱処理されたプロピオン酸フルチカゾン微粒子の放出半減期を示した図である。
図4図4Aおよび4Bは、プロピオン酸フルチカゾン微粒子の粒径分布とトリアムシノロンヘキサセトニド(TA)(Kenalog(商標))の粒径分布とを比較して示した図である。
図5】微粒子中のプロピオン酸フルチカゾンおよびPVAの相対量をHNMR分析によって示したグラフである。
図6】トリアムシノロンヘキサセトニド(TA)と、本開示の実施形態に従ったプロピオン酸フルチカゾン(FP)の持続放出(SR)製剤の溶解特性とを比較して示したグラフである。
図7】ヒツジの膝関節内へ20mgの製剤を注射した後の血漿フルチカゾン(FP)濃度、滑液FP濃度と、ヒト被験体のトリアムシノロンヘキサセトニド(40mg)の関節内薬物動態とを比較して示したグラフである。
図8図8A、8Bおよび8Cは、注射をしたヒツジの関節の組織検査の結果が異常ではないことを示した図である。
図9】低用量のプロピオン酸フルチカゾンの単回注射後60日間の、イヌの膝関節の組織および滑液の局所濃度を示した図である。血漿濃度は低すぎたために検出できなかった。
図10】高用量のプロピオン酸フルチカゾンの単回注射後60日間の、イヌの膝関節の組織および滑液の局所濃度、ならびに血漿濃度を示した図である。
図11】ヒツジの膝関節への注射後のプロピオン酸フルチカゾンの血漿濃度を、イヌの血漿濃度と比較して示した図である。各注射用微粒子は、注射用組成物に処方される前に、異なる熱処理を行った。
図12】イヌの膝関節内のプロピオン酸フルチカゾンの血漿濃度を、単回注射後45時間にわたって示した図である。薬物動態(PK)曲線は、初期バーストがないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本明細書には、関節腔、硬膜外腔、眼の硝子体、外科的に作られた空間、またはインプラントに隣接する空間のような身体区画の炎症の治療および/または疼痛の管理のための、医薬組成物、注射用剤形およびそれらの使用方法が記載される。該医薬組成物は、コア/シェルの形態を有する微粒子を複数含む。特に、該微粒子は、副腎皮質ステロイドの結晶性薬物コアと、該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルとを含む。本明細書でさらに詳述するように、注射用微粒子は、多量の薬物負荷、狭い粒径分布および身体区画、例えば関節内での2〜12か月の期間にわたる偽ゼロ次放出の持続放出特性によって特徴付けられる。
【0023】
幾つかの研究により、関節内の副腎皮質ステロイドの有効性は、それらが関節内に存在する時間と直接関連することが確認された。Caldwell JR.Intra−ar
ticular corticosteroids.Guide to selection and indications for use.Drugs 52(4):507−514,1996。医薬組成物または剤形を、身体区画、例えば関節内腔、硬膜外腔、または眼の硝子体内に直接注射すると、副腎皮質ステロイドは、予想外にも全身への影響が最小な状態で長期間持続放出されることが見出された。
【0024】
持続放出送達機構は、溶解に基づいている。いずれの特定の作用機構にも制約されるものではないが、半透性の重合体シェルをコートされた結晶性の副腎皮質ステロイド剤粒子を、身体区画、例えば関節内に注射すると、身体区画に由来する水が重合体シェルを通って拡散し、結晶薬物コアを部分的に溶解することが見出されている。その結果、重合体シェルの内側に薬物の飽和溶液が形成される。注射によって微粒子が存在する体液(例えば身体区画が関節の場合には滑液)は、原則的に染み出される状態になっているために濃度勾配が形成され、副腎皮質ステロイド剤が微粒子外へ出て、まわりの体液中へ入ることが継続的に駆動される。重合体シェル内で飽和溶液を維持する幾つかの薬物コアが残っている限り、コートされた粒子からの薬物の一定の(ゼロ次または偽ゼロ次)放出が行われる。
【0025】
本明細書には、身体区画への注射用剤形の投与(例えば関節内注射)による、炎症を減少させるか、または疼痛、例えば関節炎による疼痛を管理するための方法も開示される。有利なことに、放出は身体区画の局所組織または体液(例えば滑膜または滑液)に高度に局在化され、局所的には副腎皮質ステロイドの長時間作用性の治療濃度が確実となる一方で、全身性には低いかまたは検出不可能な濃度が維持される。
【0026】
定義
本明細書において、用いられる冠詞「a」および「an」は、1または1を超える(すなわち少なくとも1の)該冠詞の文法的対象を意味するように用いられる。例として、「an element」は、1つの要素(element)または1つを超える要素(element)を意味する。
【0027】
用語「複数」は、他に明確に特定されない限り「2以上」を意味する。例えば「複数」は、単に微粒子が多数あること(2以上)を指すか、または、例えば微粒子の粒径分布を算出する目的で、所定の組成物もしくは剤形中の全体の微粒子集団を指す。
【0028】
本明細書で用いられる用語「または」は、他に特定の指示がない限り「どちらかの/または」を意味するが、「どちらかの/または」に限定はされない。その代わりに、「または」は「および/または」も意味する。
【0029】
用語「持続放出」または「徐放」が治療薬または薬物(例えば副腎皮質ステロイド)に関して用いられる場合、これらの用語は互換的に用いられる。持続放出は、単回用量の投与後、長期間にわたって治療薬が持続的に放出されることで、放出期間を通して長期の治療効果が提供されることを指す。
【0030】
「持続放出」は、有効薬剤/物質の全量が生物学的に一度に利用可能となるボーラス型の投与とは対照的である。それにもかかわらず、「持続放出」には、最初の迅速な放出と、それに続く長い、延長された遅い放出が含まれ得る。以下でさらなる詳細を考察するように、微粒子の構築により、最初の迅速な放出(例えばバースト放出)を最小にした上で徐放期間を延長させて、薬物濃度に関係ないほぼ一定の放出特性(すなわちゼロ次または偽ゼロ次放出)を達成することが可能になる。
【0031】
「持続放出」の意味には、すべての非ゼロ放出が含まれるわけではない。「持続放出」
はむしろ、放出期間に、副腎皮質ステロイドの少なくとも治療上有効な最小量(本明細書に定義される)を供給しなければならない。副腎皮質ステロイドの治療上有効な最小量は、対処される炎症および/または疼痛の重症度に依存することが理解されなければならない。
【0032】
「持続放出期間」は、その間に副腎皮質ステロイド剤の局所濃度が治療上有効な最小量以上に維持される、放出の全期間を指す。言うまでもなく、所望の持続放出期間は、治療される疾病または状態、副腎皮質ステロイドの性質および治療される特定の患者の状態によって異なり得る。したがって、所望の持続放出期間は担当医によって決定され得る。
【0033】
「局所濃度」は、身体区画(本明細書に定義される)内の副腎皮質ステロイド剤の濃度を指し、これには身体区画の組織または体液中の濃度も含まれる。
【0034】
「血漿濃度」は、血漿または血清中の副腎皮質ステロイド剤の濃度を指す。注射用微粒子は、長期間にわたって高度に局在化された放出を可能にする一方で、低い血漿濃度、例えば、持続放出期間にHPA軸の抑制を最小とするために十分な低さの濃度を維持することができる。75pg/mL未満の血漿濃度は定量下限未満(BQL)とみなされ、30pg/mL未満では検出不可能とみなされる。
【0035】
本開示の範囲内で、副腎皮質ステロイドの持続放出は、コア/シェルの形態である微粒子の独特な構造によって達成される。特に副腎皮質ステロイドの結晶性薬物コアは、それぞれが副腎皮質ステロイドに対して透過性である1以上の重合体被膜から構成される重合体シェルによって被包される。好ましい実施形態によれば、すべての層は同じポリマーを含む。別の実施形態によれば、副腎皮質ステロイドには2ないし4のポリマー層がコートされ、それぞれの層は有効成分の放出を徐々に遅くして、全体的に所望の持続放出が提供される。さらに、副腎皮質ステロイドの持続放出は、この送達基盤を、身体区画(例えば滑膜)の水性環境または染み出し環境に対して調整することによって達成される。
【0036】
本明細書で用いられる、様々な実施形態に従った方法によって治療される「患者」または「被験体」は、ヒトまたは非ヒト動物、例えば霊長類、哺乳類および脊椎動物を意味してよい。
【0037】
「治療上有効な量」との語句は、本明細書に定義されるようなコートされた微粒子の形態で身体区画(例えば関節内)へ送達された際に、患者の身体区画(例えば関節)の炎症または疼痛を減少させる程度の(いずれの医学的治療にも適用される、妥当な利点/危険性の比における)治療薬の量を指す。治療薬の有効量は、治療される関節炎の型および重症度、その進行、患者が受けている疼痛の程度、投与される特定の微粒子、有効薬剤および/または患者の大きさ/年齢/性別のような因子によって異なり得る。当業者は、当該技術分野において公知の方法に従い、特定の治療薬の有効量を経験的に決定し得る。他に特定されない限り、「治療上有効な量」は、身体区画内に局在する治療薬の量を指す。
【0038】
「治療上有効な最小量」は、治療効果(例えば疼痛の減少または抗炎症)を得ることができる治療薬の最小量である。
【0039】
「EC50」は、例えば炎症または疼痛の減少における最大効果の50%を達成する治療薬の濃度である。
【0040】
「単位剤形」は、ヒト被験体への単位投与量として適した、物理的に分離された単位(例えば負荷された注射筒)を指し、各単位は、予め決定された量の治療薬を、薬剤的に許容可能なビヒクルと組み合わせて含む。治療薬の量は、所望の期間内に所望の治療効果が
得られるように算出される。
【0041】
用語「治療する」は当該技術分野において認識されており、根底にある病態生理は影響されないとしても、特定の疾病または状態の少なくとも1つの症状を寛解させることによって、疾病または状態を治療することを含む。
【0042】
「身体区画」は、注射によって到達可能な、脊椎動物(ヒトを含む)の体内の空間または空洞を指す。典型的には、身体区画は、該空間を規定する硬組織もしくは軟部組織(例えば骨、膜、靱帯構造)によって、少なくとも半分または完全に囲い込まれている。軟部組織は、典型的には様々な程度の血管新生と共に存在してよい。身体区画は、関節内の滑液、硬膜外の脊髄液および眼の硝子体内の硝子体液のような体液を典型的に含む。体液は、身体区画の外部と連絡していてもよいし、していなくてもよい。さらに詳細には、身体区画は、滑膜関節、硬膜外腔、または眼の硝子体のような、自然発生した解剖学的空間であってよい。加えて、身体区画は、外科的に作られた空間(例えば埋め込み装置、乳房インプラントのような軟部組織インプラントなどを挿入するためのポケット)、または、注射によって到達可能な、インプラント付近のいずれかの空間であってもよい。
【0043】
用語「滑膜関節」は、2つ以上の骨の可動関節を指す。該関節は、多量の滑液を含み、滑膜によって裏打ちされ、線維性被膜によって囲まれる、滑膜の空洞によって規定される。対向する骨の表面はそれぞれが軟骨の層によって覆われる。軟骨および滑液は、関節のある骨の表面どうしの摩擦を減らし、滑らかな動きを可能にする。滑膜関節は、それらによって可能となる動きを制御するそれらの形によって、さらに区別できる。例えば、ドアのヒンジのように作用するヒンジ関節により、わずかに1つの平面において屈曲と伸展とが可能になる。一例は上腕骨と尺骨の間の肘関節である。臀部関節のようなボールおよびソケット関節によっては、幾つかの平面上での同時の動きが可能になる。膝関節のような顆状(または楕円)関節によっては、1を超える平面上の幾つかの位置における動きが許可されるが、その他の位置においては許可されない。例えば、膝を伸ばした状態での回転は不可能だが、曲げた状態ではある程度の回転が可能となる。肘関節(橈骨と尺骨の間)のような回転軸関節によって、1つの骨が別の骨の周りを回転することが可能になる。親指(中手骨と手根骨の間)にみられるような鞍関節は、鞍の形からそのように名付けられ、様々な方向への動きを可能にする。最後に、手首関節の手根骨にみられるような滑走関節によって、あまり遠距離ではないが、非常に様々な動きが可能になる。
【0044】
滑膜関節としては、肩関節(肩関節および肩鎖関節)、肘関節(腕尺関節、腕頭関節および近位橈尺関節)、前腕関節(橈尺関節、橈骨手根関節、尺骨手根関節)、手首関節(遠位橈尺関節、橈骨手根関節、尺骨手根関節、手根中央関節)、手関節(手根中手関節、中手指節関節、指節間)、脊椎関節(椎間関節)、臀部関節、膝関節、足首関節(脛距関節、脛腓関節)および足関節(距腿関節、距舟関節、足根間関節、足根中足関節、中足趾節関節、指節間関節)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本明細書において「関節内」および「硝子体内」は、眼の硝子体液内を意味するように、互換的に用いられる。
【0046】
本明細書で用いられる用語「微粒子」は、平均寸法が1mm未満の粒子を意味する。幾つかの実施形態では、微粒子は実質的に球状であるが、本開示の原則に一致する限り、微粒子はどのような幾何学的立体であってもよく、この幾何学的立体には、限定はされないが針状、楕円体、円柱、多面体および不規則な形が含まれる。
【0047】
微粒子は、コートされた結晶性薬物粒子である。本明細書で用いられる微粒子は、図1に模式的に示すような「コア/シェル」の形態であり、ここで薬物コア(10)は重合体
シェル(20)によって被包され、該重合体シェルは、同じかまたは異なるポリマーによる1以上の薄い被膜(25および30の、2つの被膜を示す)を含み得る。重要なことに、重合体シェル(20)は、薬物コアとは混合しないポリマー被膜から形成されているため、薬物コアと重合体シェルとの間の接触面(40)ははっきりしており、含まれる薬物またはポリマーは最小量である(例えば薬物またはポリマーの全重量の5%未満、または1%未満、または0.5%未満が混合し得る)。薬物コアには高度に疎水性の副腎皮質ステロイド剤が含まれているため、重合体シェルは少なくとも1の親水性ポリマーを含む。重合体シェルは最終的には分解され得るが、その構造的な完全性は持続放出期間を通して維持されるはずであるため、薬物コアを溶解して飽和溶液を形成する環境が維持される。
【0048】
本明細書で用いられる用語「医薬品有効成分」、「治療薬」、または薬物は、1以上の副腎皮質ステロイドを意味する。本明細書で用いられる副腎皮質ステロイドは、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルを意味する。さらに詳細には、副腎皮質ステロイドは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾン、それらの誘導体または薬剤的に許容される塩もしくはエステルのうちの少なくとも1つであってよい。
【0049】
本明細書で用いられる用語「結晶性薬物コア」、「コア粒子」および「薬物コア」は、互換的に、薬物の単結晶または多結晶を含む、予め形成された粒子を指す。薬物コアは、重合体シェルによって被包される。コア粒子は、限定はされないが、結合剤、緩衝液、酸化防止剤、賦形剤およびさらなる医薬品有効成分のようなその他の化合物を、さらに含んでもよい。コア粒子は、単一の大きな結晶、多数の結晶、または上記の混合物であってよい。好ましい実施形態によれば、薬物コアは、実質的に純粋な薬物である(すなわち、薬物コアの総重量の少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%が薬物である)。好ましい実施形態によれば、薬物コアは、100%が結晶性薬物である。
【0050】
本明細書で用いられる「重合体シェル」は、1以上の重合体被膜を含む。「重合体被膜」は、結晶性薬物コアを取り囲む連続した表面を有する、直鎖の、分岐の、または架橋された高分子の薄層を意味する。図1を参照すると、重合体被膜(25および30)は、薬物コア(20)に、連続的かつ同心性にコートされている。持続放出期間に構造的な完全性が保たれる、密着した構造の重合体シェル(20)を形成するため、薬物コア(20)と、それに直接隣接する重合体被膜(25)とは混合してはならないが、重合体被膜(25および30)自体は互いに密接に連絡してよいことから、隣接する被膜の間の接触面(50)にはある程度の混和性がみられる。重合体シェルは、コア粒子を実質的に取り囲むか、または被包していなくてはならない。
【0051】
「被膜溶液」は、予め形成されたポリマー(例えば市販のポリマー)の溶液を指し、これは、当該技術分野において公知の方法、例えば流動層コーティングに従って薬物コアをコートするために適している。
【0052】
本明細書で用いられる用語「透過性」は、流体の流れによってではなく、拡散によって、治療薬分子の通過が可能になることを意味する。
【0053】
本明細書で用いられる用語「半透性」は、ある分子に対しては透過性であるが、その他に対してはそうでないことを意味する。本明細書で用いられる半透性重合体シェルは、少なくとも水および本開示のコートされた微粒子内の治療薬に対して透過性である。
【0054】
「溶解半減期」は、微粒子の溶解特性の、in vitroにおける測定である。特に溶解半減期は、微粒子内に最初に負荷された薬物の半分が、特定の一連の溶解条件下で、
溶解用溶媒中に溶解および放出されるために要する時間量である。In vitroで行うにもかかわらず、溶解半減期は、in vivoでの放出特性を予測するための、当該技術分野において認識されている因子であり、これによってin vivoにおける持続放出の挙動の促進的モデルを提示することができる。特に溶解半減期は、様々な製剤の溶解半減期を比較することによって、in vivoでの挙動を予測するための定性的な手段を提供する。例えばin vitroでの溶解半減期が長い製剤は、in vivoでの持続放出期間が長いことが予想される。他に特定されない限り、微粒子の溶解半減期を測定するために用いた溶解系は、USP II型(パドル)である。
【0055】
「溶解特性」は、時間によって測定した、溶解パーセンテージのグラフによる表示である。溶解量を時間の関数として定量的に表すことに加え、その外形にみられる湾曲は、初期バーストの程度を定性的に示す。例えば湾曲の急な立ち上がりは、なだらかな立ち上がりに比べて、より迅速な初期放出(バースト)を示している。
【0056】
「ビヒクル」は、無毒性の担体、補助剤、または微粒子を懸濁させる溶媒を指す。ビヒクルは、それを用いて処方される治療薬の薬理学的活性を変化させたり、損なうことはない。組成物中に使用されてよい薬剤的に許容される担体またはビヒクルとしては、水、生理食塩水、ヒアルロン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で用いられる用語「生体適合性」は、生体組織、特にヒトまたはその他の哺乳類の組織と接触した際に、毒性、傷害性、または免疫学的応答を引き起こさないことによって特徴付けられることを意味する。
【0057】
本明細書で用いられる用語「生分解性」は、生体組織、特にヒトまたはその他の哺乳類の組織において、部分的もしくは全体的に溶解または分解可能であることを意味する。生分解性化合物は、限定はされないが、加水分解、触媒作用および酵素作用を含むいずれかの機構によって分解され得る。
【0058】
本明細書で重合体被膜に関して用いられる用語「実質的に分解された」は、重合体被膜を形成するためのポリマー形成溶液の重合からもたらされる化学結合のおおよそ50%が切断された程度に分解されたことを意味する。
【0059】
本明細書で、本開示の重合体シェルに関して用いられる用語「構造的な完全性」は、拡散を許容するが、流体の流れを許容するいずれの不連続性も含まない、半透性の連続した表面を保持していることを意味する。
【0060】
本明細書で用いられる用語「外部環境」は、身体区画への直接の注射後に、本開示のコートされた微粒子を取り囲む組織の局所的な範囲または領域を意味する。
【0061】
本明細書で用いられる用語「飽和」は、所定の温度にて溶解可能な溶質(例えば医薬品有効成分)の最大濃度が含まれることを意味する。
【0062】
本明細書で用いられる用語「実質的に不溶性」は、溶解度が、1000重量部の溶媒に対して1重量部未満の溶質であることを意味する。
【0063】
本明細書で用いられる用語「疎水性」は、水性溶媒に対する親和性が有機溶媒に比較して低いことを意味する。
【0064】
本明細書で用いられる用語「親水性」は、有機溶媒に対する親和性が水性溶媒に比較して低いことを意味する。
【0065】
本明細書で用いられる用語「偽ゼロ次動態」は、持続放出期間にわたって、ゼロ次(すなわち濃度に依存しない)動態、またはゼロ次と一次(すなわち濃度に比例する)の間の動態を示し、ここでの濃度はコートされた微粒子内に含まれる医薬品有効成分の総量に基づく、医薬品有効成分(副腎皮質ステロイド)の持続放出を意味する。幾つかの実施形態によれば、医薬品有効成分の放出は、一次動態よりも、ほぼゼロ次動態に近い動態を示す。
【0066】
本明細書で用いられる変数の数値範囲の列挙は、その開示が、その範囲内のいずれかの値に等しい変数によって実行され得ると伝えることを意図している。したがって、本質的に分離した変数について、その変数は、数値範囲内の、その範囲の終点を含むいずれかの整数値に等しいものであってよい。同様に、本質的に連続的な変数について、その変数は、数値範囲内の、その範囲の終点を含むいずれかの実数値に等しいものであってよい。限定されない例として、0と2の間の値として記載される変数の値は、その変数が本質的に分離している場合には、0、1、または2であってよく、その変数が本質的に連続している場合には、0.0、0.1、0.01、0.001の値、または?0および?2の、その他のいずれかの実数値であってよい。
【0067】
微粒子
本明細書に記載される、コア/シェルの形態である微粒子は、副腎皮質ステロイド剤を身体区画内に高度に局在化させて長期間送達するために適した、独特な持続放出特性を示すように構築される。該微粒子は特に、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアであって、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含む結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルであって、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしていない重合体シェルとを含む。
【0068】
In vivoの持続放出特性は、特に薬物コアの溶解度、透過性、架橋の程度および重合体シェルの分解速度によって決定される、in vitroにおける微粒子の溶解特性に対して修正可能である。形成時の精度の高い熱処理工程のため、本明細書に記載される微粒子は、米国薬局方II型器具を用いて、70%v/vメタノールおよび30%v/v水の溶解用溶媒200ミリリットル中に、25℃にて3ミリグラムの微粒子が溶解される溶解条件で試験を行った際に、予想外に長い12〜20時間の溶解半減期を有する。以下、これらの特色についてさらに詳細に考察する。
【0069】
結晶性薬物コア
本開示の実施形態に従った結晶性薬物コアは、副腎皮質ステロイド剤である。さらに詳細には、該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、またはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの少なくとも1つを含む。さらに詳細には、該コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンのうちの少なくとも1つを含む。最も好ましくは、該副腎皮質ステロイドはプロピオン酸フルチカゾンである。
【0070】
副腎皮質ステロイドを処方するための好ましい系としておよびこれが「溶解ベースの送達系」であることから、比較的低い溶解度の副腎皮質ステロイドが好ましい。この点で、効力および高度な不溶性からフルチカゾンが一般的であり、特にプロピオン酸フルチカゾンが理想的である。Johnson M.Development of fluticasone propionate and comparison with other inhaled corticosteroids.The Journal of allergy and clinical immunology 101(4Pt2):S434−9,1998。
【0071】
副腎皮質ステロイド剤の結晶形の溶解度は同じ薬物の非晶形よりも低いため、溶解半減
期が長く、初期バーストも少ない。したがって薬物コアは、単一の大きな結晶であるか、または多数の小さな結晶の集合体であってよい。重合体シェルによってコートされた結晶性薬物コアの溶解期間はさらに延長され、いずれの初期バーストもさらに最小となる。
【0072】
副腎皮質ステロイドの作用の正確な抗炎症性機構については知られていない。しかしながら、ステロイドが多くの抗炎症作用を潜在的に有していることは周知であり、これらは多くの炎症誘発性サイトカインの発現および作用を阻害する。Brattsand R,et al.Cytokine modulation by glucocorticoids:mechanisms and actions in cellular studies.Alimentary Pharmacology & Therapeutics 2:81−90,1996。グルココルチコイドは、ゲノム機構との複雑な組み合わせによってサイトカインの発現を調節し、活性化されたグルココルチコイド受容体複合体は、重要な炎症誘発性転写因子に結合して、これを不活性化し得る。加えて、炎症は、サイトカイン抑制性タンパク質の発現を増大させるグルココルチコイド応答エレメント(GRE)を介して抑制され得る。培養中で活性化されたヒト血液単核細胞を用いた試験で、グルココルチコイドは、初期段階のサイトカインであるIL−1ベータおよびTNFアルファ、免疫調節性サイトカインであるIL−2、IL−3、IL−4、IL−6、IL−10、IL−12およびIFNガンマ、ならびにIL−6、IL−8および増殖因子であるGM−CSFの産生を大幅に減少させた。Cato AC et al.Molecular mechanisms of antiinflammatory action of glucocorticoids.Biochemical Society Transactions 18(5):371−378,1996。サイトカイン産生の減少に加え、ステロイドは、それに続く作用も阻害し得る。サイトカインの作用はカスケードとなっており、このことは、ステロイドによる治療がそれに続くサイトカインの発現も遮断できることを意味する。このサイトカイン活性の遮断は、サイトカイン受容体発現の減少によるものではなく、受容体発現の増大に関連する可能性がある。Jusko WJ.Pharmacokinetics and receptor−mediated pharmacodynamics of corticosteroids.Toxicology 102(1−2):189−196,1995。
【0073】
治療薬は、使用される特定の薬剤によって大きく異なる、治療上有効な量において用いられる。組成物中に取り込まれる薬剤の量もまた、所望の放出特性、生物学的効果に必要とされる薬剤の濃度、治療のため、生物学的に有効な物質が放出されなければならない時間の長さに依存する。
【0074】
組成物に必要な物理的特性を維持するために許容される溶液または分散液の粘度の上限となる場合を除き、取り込まれる治療薬の量に決定的な上限はない。ポリマー系に取り込まれる薬剤の下限は、副腎皮質ステロイドの活性および治療に必要な時間の長さに依存する。したがって副腎皮質ステロイドの量は、所望の生理的な効果を得られないほど少なくてはならず、また、放出が制御不可能になるほど多くてもならない。
【0075】
注射用微粒子の重要な利点は、予め知られている薬物負荷微粒子よりも、かなり多量の薬物を負荷することにある。言い換えれば、各微粒子は、重合体シェルとして比較的かつ有意に小さな画分を有し、副腎皮質ステロイドコアとして比較的かつ有意に大きな画分を有する。
【0076】
さらに、薬物コアは、単一の大きな結晶か、または小さな結晶の集合体の形で再結晶化させた薬物から調製されているため、薬物コアは実質的に純粋な薬物である。したがって「実質的に純粋」は、薬物コアの総重量の少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または100%が、結晶形薬物であることを意味する。
【0077】
このように様々な実施形態によれば、各微粒子において、微粒子の総重量の70〜97%が副腎皮質ステロイドであり、3〜30%がポリマーである。一実施形態によれば、薬物コアは、微粒子の総重量の70%を超え、重合体シェルは、微粒子の総重量の30%未満である。別の実施形態によれば、薬物コアは、微粒子の総重量の75%を超え、80%を超え、85%を超え、90%を超え、または95%を超え、該微粒子の残りが重合体シェルである。
【0078】
重合体シェル
重合体シェルは、同心性または連続的にコートされた、同じかまたは異なるポリマーの重合体被膜を1以上含む。当該技術分野において公知の、標準的な生体適合性かつ生分解性の重合体被膜は、それらが、望ましい持続放出期間の間に透過性および/または構造的な完全性を保持するという上記の要件を満たす範囲内で、用いることができる。持続放出期間は、多量の薬物負荷および身体区画(例えば滑膜環境)と本明細書に記載する溶解ベースの送達システムとの有益な予想されない相互作用を介して、本開示の範囲内で増強されるが、本明細書に記載する方法の優れた有効性を支持するさらなる因子として、限定はされないが以下のものが挙げられる。
・副腎皮質ステロイドの溶解度の程度。
・滑膜からの副腎皮質ステロイドのクリアランス速度。
・コア粒子の大きさおよび/またはコア粒子内に最初に存在する副腎皮質ステロイドの量。
・副腎皮質ステロイドの放出速度に影響を与える、コア粒子内のその他の化合物の存在。
・単数または複数の重合体被膜の、副腎皮質ステロイドに対する透過性。
・単数または複数の重合体被膜の分解速度およびその他の因子。
【0079】
当該技術分野において公知であるように、重合体被膜の透過性および生分解性の両方は、重合体材料の選択(例えば副腎皮質ステロイドに比較した疎水性または親水性の程度、生理的な条件下での結合の不安定さ)、架橋および厚さの程度によって影響され得る。共重合体に関しては、異なる単量体の比も、透過性および生分解性に影響するように変化させることができる。
【0080】
好ましい実施形態によれば、適切な生体適合性かつ生分解性のポリマーとして、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(p−キシリレン)ポリマー(Parylene(登録商標)として商標登録されている)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(バレロラクトン)(PVL)、ポリ(ε−デカラクトン)(PDL)、ポリ(1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ポリ(1,3−ジオキサン−2−オン)、ポリ(パラ−ジオキサノン)(PDS)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)(PHV)、エチレン酢酸ビニル(EVA)およびポリ(β−リンゴ酸)(PMLA)が挙げられる。
【0081】
透過性および放出速度に影響を与えるため、重合体被膜は任意に共有結合されてよいか、またはイオン性に架橋されてよい。例えば、単量体間でのさらなる結合が形成可能な化学基が含まれる単量体が選択されてよいか、またはポリマー形成溶液中に、単量体に加えて別の架橋剤が含まれていてもよい。幾つかの実施形態によれば、架橋基は熱によって活性化されるが、別の実施形態によれば、架橋基は光活性化され、これには可視光または紫外線照射による光活性化が含まれる。架橋基としては、ビニル、アリル、シンナメート、アクリレート、ジアクリレート、オリゴアクリレート、メタクリレート、ジメタクリレートおよびオリゴメタクリレート基のような不飽和基が挙げられるが、これらに限定されな
い。副腎皮質ステロイドの多くは疎水性であることおよびコアとシェルの間の接触面をはっきりと維持するために、重合体シェル中への薬物コアの溶解を減少させるかまたは避けることが望ましいことから、重合体シェルには、特に結晶性コアに最も近い被膜内には、親水性ポリマーが含まれていなければならない。親水性の重合体被膜としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ならびにアルキルセルロース類、ヒドロキシアルキルセルロース類、ヒアルロン酸、デキストラン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリンおよびアルギン酸塩のような多糖または炭水化物類、ならびにゼラチン、コラーゲン、アルブミン、卵白アルブミンおよびポリアミノ酸のようなタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
適切なポリマーのさらなる例は、糖リン酸類、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、乳酸、グリコール酸、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシエチル酪酸、α−ヒドロキシイソ吉草酸、α−ヒドロキシ−β−メチル吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、α−ヒドロキシリグノセリン酸およびβ−フェニル乳酸からなる群より選択される単量体から調製することができる。
【0083】
結晶性薬物コアは少なくとも70重量%の微粒子から構成されているため、該微粒子の全体的な大きさは主に結晶性薬物コアの大きさによって決定される。典型的には、重合体シェルの厚さは、微粒子全体の直径の約12%未満、または5%未満、または3%未満である。同様に、微粒子の重量もまた、主に、多量の薬物を負荷する結晶性コアの重量である。好ましい実施形態によれば、微粒子は、90〜98%w/wの結晶性薬物コアと、2〜10%w/wの重合体シェルとを含む。
【0084】
様々な実施形態によれば、微粒子の平均直径は50μmないし800μmであるか、または60μmないし250μmの平均直径であるか、または80μmないし150μmの平均直径である。
【0085】
好ましい実施形態によれば、平均直径は150μmであり、標準偏差は該平均直径の50%未満である。別の好ましい実施形態によれば、平均直径は75μmであり、標準偏差は該平均直径の50%未満である。
【0086】
微粒子の形成方法
粒子上に重合体被膜を形成する方法は、当該技術分野において公知である。例えば標準的な技術としては、溶媒蒸発/抽出技術、水中乾燥技術(例えば米国特許第4,994,281号を参照)、有機相分離技術(例えば米国特許第5,639,480号を参照)、スプレードライ技術(例えば米国特許第5,651,990号を参照)、エアサスペンション技術および浸漬コーティング技術が挙げられる。
【0087】
最も好ましい形態は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる、米国特許出願公開第2007/003619号に記載される微粒子の形成方法である。結晶性薬物コアは、共に重合体シェルを形成する重合体被膜の1以上の層によってコートされる。例えば一態様では、浸漬コーティング技術を用いてPVA重合体被膜が塗布される。簡単に述べると、過剰量のPVAを、60℃において2時間水に溶解させることにより、PVAの1%被膜水溶液を形成できる(例えばByron and Dalby(1987),J.Pharm.Sci.76(1):65−67を参照)。あるいは、おおよそ90〜100℃に加熱して還流を行うことにより、高濃度のPVA溶液(例えば3〜4%)を調製でき
る。冷却後、該PVA溶液に微粒子を加え、例えば回旋または撹拌によってかき混ぜてよい。次に、例えば微粒子の大きさに適したメッシュサイズの濾紙を用いた濾過により、溶液から微粒子を除去する。任意に、乾燥を補助するために減圧濾過を用いてもよい。未処理のPVA重合体被膜または薄膜は、水および親水性薬物を容易に透過させる。しかしながら、温度を100〜250℃の範囲に上昇させて、0〜160時間の間PVAを加熱すると、結晶化度は増大し、透過性は500倍まで減少する(Byron and Dalby(1987)、上記)。したがって幾つかの実施形態によれば、PVA重合体被膜は、100℃ないし250℃、125℃ないし175℃、または155℃ないし170℃の温度にて、1秒ないし160時間、1分ないし10時間、または5分ないし2時間の間加熱してよい。最も好ましくは、加熱は220℃にて1時間行われる。より厚い重合体被膜を作るため、コーティング過程は任意に何回か反復してもよい。5%の厚さの被膜を得るために、最も好ましくは2〜5回のコーティングが行われる。
【0088】
一実施形態によれば、微粒子には、210〜230℃の範囲内の温度にて少なくとも1時間、精度の高い熱処理工程が行われる。予想されなかったことだが、微粒子をこの範囲の温度で加熱することによって、架橋の程度と、それに従った透過性が、高精度で制御可能であることが発見された。さらに好ましくは、該熱処理工程は220℃にて1時間行われる。以下、溶解特性および実施例6に関連してさらに詳細に考察するように、特定の温度範囲(210〜230℃)にて熱処理された微粒子は、溶解半減期を有意に増大することのできる架橋および透過性の程度を、驚くほどに達成する。
【0089】
In vitroにおける溶解特性
微粒子の構造によって、これを、溶解ベースの高度に局在化された送達系に用いることが可能になる。したがって、溶解半減期のようなin vitroにおける溶解特性は、in vivoにおける持続放出期間に対して修正可能である。
【0090】
溶解モデルは、in vivo放出に比較して、溶解を促進するように設計されていることを認識することが重要である。In vivoにおける実際の溶解を反映しているIVIVCは、完了するまでに数か月を要し得る。それにもかかわらず、USP II型による促進された標準的な溶解は、様々な製剤を定性的に比較して、in vivoにおける放出挙動を予測するために有用である。
【0091】
図2は、微粒子構造の溶解速度における効果を示す。さらに詳細には、図2は、コートされていないプロピオン酸フルチカゾンの粉末(非晶質か、または非常に小さな結晶)、コートされていないプロピオン酸フルチカゾンの結晶およびコートされたプロピオン酸フルチカゾンの結晶のin vitroでの放出特性を示す。この溶解特性は、非晶質の薬物に比較して、結晶性薬物では溶解半減期が長く、初期バーストが少ない傾向があることをはっきりと示している。この傾向は、コートされていない結晶性薬物に比較して、コートされた結晶性薬物においてより顕著である。溶解条件については、実施例の項でさらに詳細に記載する。
【0092】
微粒子を形成する過程は、溶解特性にもまた強い影響をもつ。特に、狭い温度範囲内(例えば210〜230℃)での精度の高い熱処理によって、この範囲外の温度にて熱処理した微粒子に比べ、溶解半減期の有意な増大が予想外にもたらされる。70%メタノールおよび30%水の溶解用溶媒200ミリリットル中に、25℃にて3ミリグラムの微粒子を溶解する溶解条件での、米国薬局方II型器具を用いた溶出試験において、160℃、190℃、220℃および250℃において熱処理を行った微粒子の溶解特性を図3Aに示す。220℃において熱処理を行った微粒子の初期放出は、220℃よりも高いかまたは低い温度において処理した微粒子に比べ、最も遅く、最もなだらかである。図3Bに、図3Aの微粒子の溶解半減期を示す。図に示すように、220℃において熱処理を行った
微粒子の溶解半減期(12〜20時間)は、その他の微粒子(すべて8時間未満)よりも有意に長い。
【0093】
この結果により、精度の高い熱処理(すなわち狭い範囲の温度にて特定の期間加熱すること)は、溶解半減期を増大させ、それによって持続放出期間を延長させるために最も有効な特定の構造的特性(例えば架橋の程度、結晶化度、多孔度および/または透過性を含む)をもたらすことが示される。
【0094】
In vivoにおける放出特性
以前に行った動物実験によれば、本明細書に記載する副腎皮質ステロイド微粒子は、身体区画内(例えば関節腔内)への単回投与後2〜12か月間、またはさらに典型的には2〜9か月間、または3〜6か月間、副腎皮質ステロイド剤を、高度に局在化して持続放出することが示される。この結果については、実施例10〜13においてさらに詳細に考察する。
【0095】
局所濃度が副腎皮質ステロイドのEC50を超えたとしも、副腎皮質ステロイド剤の血漿濃度は、予想外に持続放出期間のいずれかの所定の時点での局所濃度よりもかなり低いままであり、7日後には定量限界未満となり得る。血漿濃度が低いと、いずれの臨床的に有意なHPA軸の抑制も最小化される。
【0096】
さらに、副腎皮質ステロイド微粒子は、公知の薬物負荷微粒子とは異なり、いずれの臨床的に有意な初期バースト(局所的または全身的な)も示さない。
【0097】
このin vivo放出特性によって、最初の薬物負荷にかかわらず、飽和溶液が重合体シェル内に維持され得る限り(例えば60日間を超えて、または90日間を超えて、または180日間を超えて)、副腎皮質ステロイド剤がほぼ一定の速度で放出される、偽ゼロ次の放出機構が確認される。実施例10〜13も参照されたい。
【0098】
さらに、in vivoでの放出挙動は、in vitroでの溶解挙動に対して修正可能である。特に、異なる温度(220℃対130℃)において熱処理した微粒子は、それらのin vitroでの溶解と一致するin vivo放出特性を示した。実施例8および11も参照されたい。
【0099】
医薬組成物
一実施形態によれば、複数の微粒子を含む医薬組成物が提供され、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアであって、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含む結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルであって、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしていない重合体シェルとを含み、ここで前記組成物は、米国薬局方II型器具を用いて溶解試験を行った際に12〜20時間の溶解半減期を呈し、ここでの溶解条件は、70%メタノールおよび30%水の溶解用溶媒200ミリリットル中に、25℃にて3ミリグラムの微粒子を溶解させるものである。
【0100】
好ましい実施形態によれば、該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンのうちの少なくとも1つを含む。
【0101】
特定の実施形態によれば、該微粒子には、210〜230℃の範囲内の温度にて、熱処理工程が行われる。
【0102】
様々な実施形態によれば、該微粒子の平均直径は、50μmないし800μmの範囲、
または60μmないし250μmの範囲、または80μmないし150μmの範囲である。
【0103】
さらなる実施形態によれば、該結晶性薬物コアは、微粒子の総重量の75%を超え、80%を超え、85%を超え、90%を超え、または95%を超え、該微粒子の残りが重合体シェルである。
【0104】
様々な実施形態によれば、薬物コアの総重量の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または100%が、結晶形薬物である。
【0105】
好ましい実施形態によれば、所定の医薬組成物中の微粒子の直径は、特定の投与経路に適するように、調整されるかまたは選択されてよい。したがって一実施形態によれば、90%を超える微粒子の直径が100〜300μmの範囲である、特に硬膜外注射に適した注射用組成物が提供される。別の実施形態によれば、90%を超える微粒子の直径が50〜100μmの範囲である、特に関節内または眼内注射に適した、微粒子を含む注射用組成物が提供される。
【0106】
結晶性薬物の溶解速度は結晶の大きさに関連しているため、すなわち結晶が小さいほど初期バースト速度は大きいため(図2を参照)、医薬組成物中の微粒子集団の粒径分布は狭いことが好ましい。したがって一実施形態によれば、医薬組成物中の複数の微粒子の平均直径は50μmないし300μmの範囲であり、標準偏差は該平均直径の50%未満である。
【0107】
好ましい実施形態によれば、平均直径は150μmであり、標準偏差は該平均直径の50%未満である(例えば硬膜外注射用)。別の好ましい実施形態によれば、平均直径は75μmであり、標準偏差は該平均直径の50%未満である(例えば関節内または眼内注射用)。
【0108】
さらなる実施形態によれば、該医薬組成物は、複数の微粒子が懸濁されている、薬剤的に許容されるビヒクルをさらに含む。副腎皮質ステロイドの微粒子は、注射の直前にビヒクルと混合することが好ましく、これによって副腎皮質ステロイドがビヒクルに溶解する時間が与えられないため、注射前に薬物の初期バーストが無いか、または実質的に無いこととなる。
【0109】
単位剤形
単位剤形は、単回投与後に特定の期間副腎皮質ステロイドを持続放出させる、予め決定された量の副腎皮質ステロイド微粒子を有する医薬組成物である(上記の実施形態すべてを含む)。単位剤形中の副腎皮質ステロイド微粒子の量は、投与経路(関節内、硬膜外腔内、または眼内)、患者の体重および年齢、炎症もしくは疼痛の重症度、または治療されるヒトの一般的な健康状態を考慮した際に可能な副作用の危険性を含む、幾つかの因子に依存する。
【0110】
有利なことに、本明細書に記載する副腎皮質ステロイド微粒子は、少ない初期バーストでゼロ次放出に近い放出が可能であることから、単位剤形への最初の薬物負荷は、所望の持続放出期間に従って合理的に設計することができる。
【0111】
したがって一実施形態によれば、身体区画に注射するための、複数の微粒子を含む副腎皮質ステロイドの注射用単位剤形が提供され、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルとを含み、ここで該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フル
チカゾンから選択される副腎皮質ステロイドの1以上の結晶を含み、該重合体シェルは該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしておらず、該注射用単位剤形は、2〜20か月の期間に該副腎皮質ステロイドを持続放出する間に、該身体区画内に治療上有効な最小濃度の副腎皮質ステロイドを維持することができる。
【0112】
さらなる実施形態によれば、持続放出期間は2〜9か月である。
【0113】
さらなる実施形態によれば、持続放出期間は3〜6か月である。
【0114】
別の実施形態によれば、副腎皮質ステロイドの血漿濃度は、7日後には定量限界未満である。
【0115】
様々な実施形態によれば、単位剤形は0.5〜20mgの副腎皮質ステロイドを含む。別の実施形態によれば、単位剤形は3〜20mgの副腎皮質ステロイドを含む。
【0116】
様々な実施形態によれば、単位剤形は、薬剤的に許容されるビヒクルをさらに含む。好ましくは、薬物のビヒクル中への溶解を避けるため、ビヒクルは注射直前に副腎皮質ステロイド微粒子と混合される。有利なことに、初期バーストがみられないため、注射を準備する通常の操作時間内の、副腎皮質ステロイドのビヒクルへのいずれの溶解もわずかなものである。対照的に、薬物が負荷された公知の持続放出製剤の多くは、初期バーストのため、操作時間内にビヒクルが飽和し得る。
【0117】
使用方法および投与経路
本明細書に記載する医薬組成物および剤形は、副腎皮質ステロイドの高度に局在化した持続放出のために、身体区画内に注射するように設計されている。身体区画は典型的に、軟部組織および/または閉鎖されているかもしくは半閉鎖されている部分内の体液を含む。注射は、その中へ副腎皮質ステロイド微粒子が放出される軟部組織内または体液中へ行われる。必要な場合には、注射は、超音波またはX線装置のような画像システムによって導くことができる。
【0118】
一実施形態によれば、注射は、滑膜内または滑液中に副腎皮質ステロイドを持続放出させるため、関節内に行われる。
【0119】
別の実施形態によれば、注射は、副腎皮質ステロイドを持続放出させるため、硬膜外腔内に行われる。
【0120】
さらなる実施形態によれば、注射は、硝子体液中に副腎皮質ステロイドを持続放出させるため、眼内または硝子体内に行われる。
【0121】
さらなる実施形態によれば、注射は、カプセルによる締め付け(例えばインプラント後の)もしくはケロイド瘢痕の形成に関連する疼痛および/または炎症を減少させる目的で、インプラント付近の外科的に作られたポケットまたは自然の空間内に副腎皮質ステロイドを持続放出させるため、それらの内部へ行われる。
【0122】
本開示の製剤を用いて治療され得る疾病
様々な実施形態によれば、炎症および/または疼痛を減少させるための、長時間作用性の治療または治療法が提供される。これらの実施形態は、変形性関節症、関節リウマチおよびその他の関節疾患に関連する関節の疼痛を治療することへの言及によって例証されているが、本開示がこれらの使用のためのみのものであると推測してはならない。本開示の実施形態はむしろ、関節および関節周囲の空間、硬膜外腔、眼の硝子体液、または瘢痕組
織を形成しているインプラント付近の空間へ投与することによって、疼痛および/または炎症のその他の形態を治療するために有用であることが意図される。
【0123】
したがって、本明細書に記載される医薬組成物および単位剤形の関節内注射によって治療され得る疾病ならびに状態としては、変形性関節症、関節リウマチまたは傷害によって誘導された関節炎、ループス、外傷性関節炎、リウマチ性多発筋痛症、術後の関節の疼痛、椎間関節症/椎間関節症炎、腱滑膜炎、滑液包炎、筋膜炎、強直性脊椎炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
別の実施形態によれば、硬膜外腔への注射によって治療され得る疾病および状態としては、椎間板突出、頸部、胸部、または腰部の脊髄神経の炎症、神経根圧迫による慢性腰痛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
別の実施形態によれば、眼内または硝子体内への注射によって治療され得る疾病および状態としては、糖尿病性黄斑浮腫およびぶどう膜炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
別の実施形態によれば、瘢痕組織を形成しているインプラント付近の空間への注射によって治療され得る疾病および状態は、反復性の被膜拘縮(例えば乳房インプラント)に関連する疼痛および炎症の解除およびケロイド瘢痕の制御である。
【0127】
したがって一実施形態によれば、患者の必要に応じて、その身体区画の炎症を処置するかまたは疼痛を管理する方法が提供され、該方法は、治療上有効な量の、複数の微粒子を含む医薬組成物を身体区画へ注射することを含み、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアであって、フルチカゾンまたはその薬剤的に許容される塩もしくはエステルの1以上の結晶を含む結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルであって、該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしていない重合体シェルとを含む。
【0128】
好ましい実施形態によれば、該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンのうちの少なくとも1つを含む。
【0129】
様々な実施形態によれば、該微粒子には、210〜230℃の範囲内の温度にて、熱処理工程が行われる。
【0130】
様々な実施形態によれば、該微粒子の平均直径は、50μmないし800μmの範囲、または60μmないし250μmの範囲、または80μmないし150μmの範囲である。
【0131】
好ましい実施形態によれば、所定の医薬組成物中の微粒子の直径は、特定の投与経路に適するように、調整されるかまたは選択されてよい。したがって一実施形態によれば、90%を超える微粒子の直径が100〜300μmの範囲である、特に硬膜外注射に適した注射用組成物が提供される。別の実施形態によれば、90%を超える微粒子の直径が50〜100μmの範囲である、特に関節内または眼内注射に適した、微粒子を含む注射用組成物が提供される。
【0132】
さらなる実施形態によれば、該結晶性薬物コアは、微粒子の総重量の75%を超え、80%を超え、85%を超え、90%を超え、または95%を超えて構成され、残りが重合体シェルである。
【0133】
様々な実施形態によれば、薬物コアの総重量の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または100%が、結晶形薬物である。
【0134】
特定の実施形態によれば、前記組成物は、米国薬局方II型器具を用いて溶解試験を行った際に12〜20時間の溶解半減期を呈し、ここでの溶解条件は、70%メタノールおよび30%水の溶解用溶媒200ミリリットル中に、25℃にて3ミリグラムの微粒子を溶解させるものである。
【0135】
別の実施形態によれば、前記組成物は、米国薬局方II型器具を用いて溶解試験を行った際に12〜20時間の溶解半減期を呈し、ここでの溶解条件は、70%メタノールおよび30%水の溶解用溶媒200ミリリットル中に、25℃にて3ミリグラムの微粒子を溶解させるものである。
【0136】
特定の実施形態によれば、患者の炎症および疼痛を減少させる方法がさらに提供され、該方法は、患者の必要に応じ、関節内注射を介して治療上有効な量の副腎皮質ステロイドの持続放出用医薬製剤を投与することを含み、該医薬製剤は多数のコートされた微粒子を含み、前記コートされた微粒子の平均直径は50μmないし350μmであり、該微粒子は、70重量%を超える副腎皮質ステロイドから構成される粒子である。
【0137】
別の実施形態によれば、患者の必要に応じて、その身体区画の炎症を処置するかまたは疼痛を管理する方法が提供され、該方法は、複数の微粒子を有する単位剤形の単回投与によって身体区画に注射することを含み、該微粒子は、(1)該微粒子の70重量%を超える結晶性薬物コアと、(2)該結晶性薬物コアを被包する重合体シェルとを含み、ここで該結晶性薬物コアは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンから選択される副腎皮質ステロイドの1以上の結晶を含み、該重合体シェルは該結晶性薬物コアと接触しているが混合はしておらず、該注射用単位剤形は、2〜12か月の期間に該副腎皮質ステロイドを持続放出する間に、該身体区画内に治療上有効な最小濃度の副腎皮質ステロイドを維持することができる。
【0138】
さらなる特定の実施形態には以下のものが含まれる。
・前記微粒子の平均直径は50μmないし800μmである。
・前記微粒子の平均直径は60μmないし250μmである。
・前記微粒子の平均直径は80μmないし150μmである。
・副腎皮質ステロイドは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンからなる群より選択される。
・副腎皮質ステロイドは、フルチカゾン(プロピオン酸フルチカゾン)の薬剤的に許容されるエステルプロドラッグである。
・前記製剤は、前記副腎皮質ステロイドと、前記患者の侵された関節との直接の相互作用が可能となる部位に投与される。
・持続放出とは少なくとも3か月間の放出を指す。
・炎症および疼痛は、関節炎の関節の疼痛である。
・持続放出のための前記医薬製剤は、少なくとも1の生体適合性または生体内分解性のポリマーによってコートされた、実質的に純粋な副腎皮質ステロイドの大きな粒子を含む。
・前記医薬製剤では、副腎皮質ステロイド剤の初期バーストが減少しているかまたは排除されている。
・該ポリマーは、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールおよびParylene(商標)のうちの少なくとも1つを含む。
・本明細書に記載される方法によって投与されたフルチカゾンの全身性の濃度によってもたらされるHPA軸の抑制は、臨床的に重要ではない。
・患者の炎症および疼痛は、変形性関節症、関節リウマチ、または傷害によって誘導された関節炎のうちの少なくとも1つによるものである。
・副腎皮質ステロイドは一定に、またはほぼ一定に持続放出される。
・疾病の進行は、関節空間内に低濃度のステロイドが一定に維持されることによって、遅延または停止される。
・副腎皮質ステロイド粒子は、注射の直前にビヒクルと混合されることによって、副腎皮質ステロイドがビヒクルに溶解する時間が与えられないため、薬物の初期バーストが無いか、または実質的に無い。
・本方法は、その他の治療法に比べて全身性の副作用が少ない。
【0139】
本開示の範囲内で、副腎皮質ステロイドは、フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンおよびプロピオン酸フルチカゾンからなる群より選択される。さらに好ましくは、
・副腎皮質ステロイドはプロピオン酸フルチカゾンである。
・前記持続放出期間の間に前記第1の重合体被膜を横断する前記副腎皮質ステロイドの拡散は、偽ゼロ次動態を示す。
・前記第1の重合体被膜は、持続放出期間の後まで分解しない(これがその他の持続放出製剤とは異なる点である)。
・前記第1の重合体被膜は、前記持続放出期間の間に構造的な完全性を維持する。
・前記微粒子の最大寸法は50μmないし250μmである。
・前記微粒子の最大寸法は50μmないし150μmである。
・前記副腎皮質ステロイドは、前記被膜溶液中では実質的に不溶性である。
・前記副腎皮質ステロイドは疎水性であり、前記第1の被膜溶液は親水性である。
・重合体シェルは、1以上の重合体被膜を含み、該重合体被膜は同じかまたは異なるものであり、糖リン酸類、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、乳酸、グリコール酸、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシエチル酪酸、α−ヒドロキシイソ吉草酸、α−ヒドロキシ−β−メチル吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、α−ヒドロキシリグノセリン酸、β−フェニル乳酸、エチレン酢酸ビニルおよびビニルアルコールからなる群より選択される単量体の少なくとも1つを含むポリマーまたは共重合体を含んでよい。
・重合体被膜は、エアサスペンション技術によって前記コア粒子に塗布される。
・前記重合体被膜は、浸漬コーティング技術によって前記コア粒子に塗布される。
【0140】
本システム、方法および物品には、以上の記載に照らして、これらの、およびその他の変更が為されてよい。一般に、以下の請求項に用いられている用語は、明細書および請求項に開示されている特定の実施形態に対して開示を限定するものとして解釈されてはならず、可能なすべての実施形態を、これらの請求項の権利範囲である等価物の全範囲と共に包含するものとして解釈されなければならない。したがって、開示は開示によって限定されるのではなく、その範囲は全体的に以下の請求項によって決定されなければならない。
【実施例】
【0141】
実施例1:結晶性薬物コアを調製するための一般的な手順
プロピオン酸フルチカゾン(FP)粉末(1g)にメタノール(100mL)を加え、懸濁液を撹拌しながら透明な溶液となるまで加熱する。フラスコを室温に一晩静置して、針状結晶を形成させる。ブフナー漏斗を用いて結晶を回収し、40〜50℃のオーブンで2時間完全に乾燥させる。乾燥したFP粒子を、単層のガラスビーズと共に80〜170μmのメッシュ篩に加える。FP粒子とビーズとを含む篩の下に30〜60μmのメッシュ篩を配置して、3〜4分間振盪する。80〜170μmのメッシュ篩をきれいな80〜
170μmのメッシュ篩に交換し、その上に2000μmのメッシュ篩を配置して(任意)、これらの積み重ねた篩をブフナー漏斗に取り付ける。FP粒子とビーズとを含む80〜170μmのメッシュ篩の内容を、2000μmのメッシュ篩へ静かに注いでガラスビーズを回収し、吸引しながら脱イオン水(DI−HO)によって洗浄する。2000μmのメッシュ篩を除き、80〜150μmのメッシュ篩の内容を、吸引しながらDI−HOによって洗浄する。使用するDI−HOの全量は、典型的には200〜300mLである。あるいは、篩の内容は、水で洗浄する前にTWEEN−80(0.1%w/v)によって洗浄してもよいか、またはガラスビーズを、212μmのメッシュ篩におけるガラスロッドを用いた穏やかな粉砕に置き換えてもよい。80〜170μmおよび30〜60μmのメッシュ篩の内容を40℃にて別々に乾燥させ、乾燥させた材料をポリマー被膜用に組み合わせる。
【0142】
実施例2:結晶性薬物コアの粒径分布
1グラムのプロピオン酸フルチカゾン(FP)粉末(CAS80474−14−2)を、ホットプレート上で100mlのACSグレードのメタノールに溶解させた。最終的な溶液は透明となった。この溶液を冷却して、室温にて24時間静置した。得られた結晶を濾過し、180μm未満ののふるい(−180μm)で篩過して回収し、0.1%TWEEN−80水溶液によって浄化し、蒸留水によって2回洗浄した後、40℃にて3時間乾燥させた。この手順によって940mgのプロピオン酸フルチカゾン結晶が得られた(収率94%)。図4Aおよび4Bに、得られた平均粒径および粒径分布を示す。
【0143】
図4Aは、プロピオン酸フルチカゾンの粒径分布を示すグラフであり、これは平均粒径が約110μΜ、標準偏差が約41μΜの単分散分布である。このような大きさの粒子は、23g針(内径が320μΜ)を通して容易に注射可能である。
【0144】
比較として、図4Bは、トリアムシノロンアセトニド(Kenalog(商標))の粒径分布を示すグラフである。平均粒径は約20μΜである。約1μΜに第2のピークを有する、比較的広い分布がみられる。標準偏差は約13μΜである。このような型の製剤にみられる、バースト効果の一因となるこれらの小粒子は、先行技術においては一般的である。図6も参照されたい。
【0145】
実施例3:結晶性薬物コアをコートするための一般的な手順
実施例1に従って調製した乾燥FP結晶を、ポリビニルアルコール(DI−HO中の25%v/vイソプロピルアルコール中の、2%w/v PVA)によって、VFC−LAB Micro benchtop fluidized bed coater system(Vector Corporation)モデル内で、以下の範囲のパラメータを用いてコートした。
気流、50〜60L分−1
ノズル空気圧、5.0〜25psi、
ポンプ速度、10〜35rpm、
入口温度、99℃、
排気温度、35〜40℃、
スプレーのオン/オフ周期、0.1/0.3分。
【0146】
製剤中のFPおよびPVAの共鳴の相対的なシグナル強度を、較正用標準物質に由来する対応するシグナルと比較することにより、定量的なH核磁気共鳴(NMR)分光法を用いてPVAの含量を周期的に測定する(実施例3を参照)。製剤中の標的となるPVAの最終濃度は、0.1〜20%w/w、または好ましくは2〜10%w/wの範囲である。粒子のコートは、所望の量のPVAが得られるまで続ける。コートされた粒子を、次に40℃のオーブンで1時間乾燥させる。乾燥させた、コートされた粒子を、150μmの
メッシュ篩および53μmのメッシュ篩を積み重ねて篩過する。
【0147】
実施例4:微粒子内の薬物量を決定するためのNMR分析
NMR分析を用いて、既知の量である純粋な薬物のサンプルを用いて較正することにより、微粒子内の薬物コアおよび重合体シェルの量を決定した。
【0148】
NMRシステムには、Bruker Spectrospin 300MHzマグネット、Bruker B−ACS 120オートサンプラー、Bruker Avance
II 300コンソールおよびZ勾配を備えたBruker BBO 300MHz S1 5mmプローブが含まれる。NMRグレードのd6−DMSO中で調製された、既知濃度のプロピオン酸フルチカゾンおよびPVAの5サンプルを用いて較正曲線を準備した。2つのサンプル、すなわち純粋なプロピオン酸フルチカゾンのみを含む第1サンプル、およびPVAをコートしたフルチカゾンを含む第2サンプル、に対してプロトン(1H)NMRを行った。各サンプルを用手で負荷し、マグネット内で20Hzにてスピンさせた。プローブを調整し、プロトン(1H)NMRに適合させた。マグネット内の第1サンプルによって、マグネットのシム調整を用手で行った。各サンプルを1.5時間の1024スキャンによって積分した。フルチカゾンのピークは5.5ないし6.35ppmにおいて積分し、PVAのピークは4.15ないし4.7ppmにおいて積分した(図5を参照)。この方法を用いて、コートされたフルチカゾンの完成された粒子は、コートされた粒子の全重量の2.1%のPVAを含むと決定された。粒子の形態は球状であり、平均粒径は100μmと仮定すると、被膜の厚さは約7μmと表される。
【0149】
実施例5:IN VITROにおける溶解の分析
USP II型溶解システムの各容器(容量1000mL)に、溶解用溶媒と、3mgの、PVAをコートされたFP粒子とを加える。溶解用溶媒は、典型的には5〜90%v/vのアルコール−水混合液からなり、アルコールはメタノール、エタノールおよびイソプロパノールであってよい。使用する溶解用溶媒の量は50〜750mLの範囲である。溶解用溶媒の温度は、室温または5〜45℃の範囲のいずれかに維持される。通常の予め決定された時点に溶解用溶媒の一定分量を取り、UV−可視光吸光分析または高速液体クロマトグラフィーのような、続いて行う分析のためにサンプルを保管する。
【0150】
特定の一連の溶解条件は以下のとおりである。
溶解される薬物:3mgの、PVAをコートされたFP粒子、
溶解用溶媒:200mlの、70%v/vエタノールおよび30%v/v水、
溶解温度:25℃。
【0151】
実施例6:加熱処理および溶解における効果
実施例2に従って調製した、コートされた微粒子を熱処理、すなわち特定の期間熱処理した。具体的には、ホウケイ酸ペトリ皿の内側にアルミニウム箔を敷き、PVAをコートされたFP粒子を単層に広げた。このペトリ皿を、穴を開けたアルミニウム箔で覆った。オーブンを所望のセットポイントまで余熱し、サンプルを予め決定した時間熱処理した。セットポイントの温度は160℃、190℃、220℃および250℃であった。
【0152】
図3Aに、上記の温度で熱処理した微粒子の溶解特性を示す。溶解条件は次のとおりである。3mgの、PVAをコートされたFP微粒子を、70%v/vエタノールと30%v/v水との溶解用溶媒200mlに、25℃にて溶解させた。得られた濃度−時間データを解析して(例えば1フェーズ減衰モデルによって)溶解半減期を求める(図3Bに示す)。
【0153】
図3Aに示すように、220℃において熱処理を行った微粒子の初期放出は、220℃
よりも高いかまたは低い温度において処理した微粒子に比べ、最も遅く、最もなだらかである。
【0154】
図3Bに、図3Aの微粒子の溶解半減期を示す。図に示すように、220℃において熱処理を行った微粒子の溶解半減期(12〜20時間)は、その他の微粒子(すべて8時間未満)よりも有意に長い。
【0155】
実施例7:動物実験(ヒツジ)のための持続放出(SR)製剤
実施例1に従って乾燥FP結晶を調製し、これをポリビニルアルコール(DI−HO中の25%v/vイソプロピルアルコール中の、2%w/v PVA)によって、VFC−LAB Micro benchtop fluidized bed coater
system(Vector Corporation)モデル内で、以下の範囲のパラメータを用いてコートした。気流、50〜60L/分、ノズル空気圧、23psi、ポンプ速度、15rpm、入口温度、99℃、排気温度、35〜40℃、スプレーのオン/オフ周期、0.1/0.3分。
【0156】
次に、得られた微粒子を130℃にて3時間熱処理した。
【0157】
微粒子の平均直径は60〜150μmの範囲であった。実施例4に記載した方法に従ったNMR分析によると、得られた微粒子のPVA含有量は2.4%であった。
【0158】
実施例8:動物実験(イヌ)のための持続放出(SR)製剤
上記の手順に従って乾燥FP結晶を調製し、これをポリビニルアルコール(DI−HO中の25%v/vイソプロピルアルコール中の、2%w/v PVA)によって、VFC−LAB Micro benchtop fluidized bed coater system(Vector Corporation)モデル内で、以下の範囲のパラメータを用いてコートした。気流、50〜60L/分、ノズル空気圧、8.0psi、ポンプ速度、25rpm、入口温度、99℃、排気温度、35〜40℃、スプレーのオン/オフ周期、0.1/0.3分。
【0159】
次に、得られた微粒子を220℃にて1.5時間熱処理した。
【0160】
微粒子の平均直径は60〜150μmの範囲であった。実施例4に記載した方法に従ったNMR分析によると、得られた微粒子のPVA含有量は4.6%であった。
【0161】
図6に、実施例8で調製した微粒子と実施例7で調製した微粒子との溶解特性を比較して示す。加えて、図6はさらに、別の副腎皮質ステロイド(トリアムシノロンアセトニド)およびプロピオン酸フルチカゾン粉末(コートされていない、非結晶性または非常に小さな10μm未満の結晶)の溶解特性を示す。コートされた両方のFP微粒子(実施例7および8)は、FP粉末およびトリアムシノロンアセトニドよりも、非常に長い溶解半減期と少ない初期バーストとを示している。加えて、220℃にて熱処理された微粒子は、同様に調製されたが熱処理は130℃にて行った微粒子よりも、長い溶解半減期を示している(実施例7)。
【0162】
溶解条件は以下のとおりであった。
溶解される薬物:3mgの、PVAをコートされたFP粒子、
溶解用溶媒:200mlの、70%v/vエタノールおよび30%v/v水、
溶解温度:25℃。
【0163】
実施例9:懸濁製剤/注射可能性
反復する作業を通して、コートされた粒子の最適化された懸濁製剤を調製し、異なる懸濁液を、様々な濃度において、コートされた粒子を懸濁液中に維持する能力について評価した。次に、最も均一に分布した製剤を、18ないし25ゲージの範囲の大きさの針を通して注射した。粒子の移動効率をHPLCによって測定した。1%のCMC溶液によって最大の懸濁液が得られ、23ゲージ針によって適切な注射効率が得られた。
【0164】
無菌性。ポリマーをコートしたフルチカゾン粒子を、琥珀色バイアル内で蒸気滅菌した(122℃、16psi、30分)。1H NMR分光法およびHPLC分析によれば、滅菌過程は製剤の化学組成に影響しなかった。図5を参照されたい。500mL USP
II型システムにおけるin vitro試験によって、無菌材料は、オートクレーブ前の同材料と同一のフルチカゾン放出特性を有することが確認された。
【0165】
実施例10:IN VIVOにおける薬物動態学(PK)試験(ヒツジ)
非GLPの予備試験において、ヒツジ(n=4)の左の後膝関節内にツベルクリン注射器の23G針を用いて単回注射した後、局所的な毒性および薬物濃度を3か月間評価した。注射用剤形は、実施例7に従って調製した、20mg徐放プロピオン酸フルチカゾン(EP−104)の0.5mLであった。
【0166】
試験の間を通して臨床的観察を行い、試験終了時には組織病理学試験を行って局所的な毒性を評価した。処置した膝のプロピオン酸フルチカゾン濃度を評価するため、指定の時点に滑液サンプルを回収した。試験の間を通して血液を回収し、血漿濃度を評価した。血漿フルチカゾン濃度は、HPLC−MSによって測定した。Mistry N,et al.Characterisation of impurities in bulk
drug batches of fluticasone propionate using directly coupled HPLC−NMR spectroscopy and HPLC−MS.Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 16(4):697−705,1997.死亡率、病的状態および体重についても評価した。
【0167】
臨床的観察の間に変化はみられず、3か月後、いずれの膝にも組織病理学的変化は起こらなかった。死亡率または病的状態はみられず、試験の間を通してヒツジの体重は増えた。
【0168】
3か月目に、滑液中にプロピオン酸フルチカゾン濃度が検出された(n=4、11.51、9.39、13.22および18.89ng/mL)。血漿濃度は低く、滑液中の濃度よりも速く減少した。70日目の初めに、血漿中のプロピオン酸フルチカゾンは、0または0.3ng/mL未満の、定量限界(BQL)未満であった。試験の間を通した血漿および滑液中の濃度を図7に示す。
【0169】
注目すべきは、実験期間にバーストがみられず、持続的な局所濃度が達成されたことである。報告されているプロピオン酸フルチカゾンのEC50は7〜30pg/mlである。Mollmann H,et al.Pharmacokinetic and pharmacodynamic evaluation of fluticasone propionate after inhaled administration,European journal of clinical pharmacology Feb;53(6):459−67,1998。90日後、滑液中の局所的なFP濃度は有意に高いままであり(n=4、11.51、9.39、13.22および18.89ng/mL)、EC50値を超えていたが、血漿濃度はもはや検出されなかった(血漿濃度は70日目にBQLとなった)。
【0170】
図7には、比較として、ヒト被験体に由来するトリアムシノロンヘキサセトニド(40mg)の放出もプロットした。Derendorf H,et al.Pharmacokinetics and pharmacodynamics of glucocorticoid suspensions after intra−articular administration.Clinical Pharmacology and Therapeutics Mar;39(3):313−7(1986)。図に示すように、トリアムシノロンヘキサセトニドの放出は、著しい初期バーストに続いて迅速に減少している。放出期間は、はるかに多い初期用量にもかかわらず、本明細書に記載されるコートされたFP微粒子に比較して有意に短い。
【0171】
副腎皮質ステロイド微粒子のPK曲線の形は、トリアムシノロンヘキサセトニドのものとは実質的に異なる。遅い立ち上がりと、60日間にわたるほぼ一定の放出は、偽ゼロ次の放出機構を裏付けるものであり、これによって副腎皮質ステロイド剤は、最初の薬物負荷にかかわらず、飽和溶液が重合体シェル内に維持され得る限り(例えば60日間)、ほとんど一定の速度で放出される。
【0172】
動物は90日目に安楽死させ、関節を切除して組織検査に供した。臨床検査の結果、安全性または毒性の問題は認められなかった。注射を行った関節の組織検査は異常を示さなかった(図8A、8Bおよび8C)。
【0173】
実施例11:IN VIVOにおける薬物動態学(PK)試験(イヌ)
実施例8に従って徐放プロピオン酸フルチカゾン製剤(EP−104IAR)を調製した。60日間の試験の間、ビーグル犬(n=32)の膝におけるin vivoでの放出特性を評価した。16頭の雄犬および雌犬の2群について評価した。第1群(n=8頭の雄および8頭の雌)に、標的用量0.6mgのEP−104IARを関節内注射によって投与した(低用量群)。第2群には、標的用量12mgのEP−104IARを関節内注射によって投与した(高用量群)。
【0174】
注射後7、29、46および60日目に滑液および血漿を回収し、これらの時点における軟骨組織の薬物濃度と顕微鏡的変化についても評価した。死亡率のチェック、臨床的観察および体重測定を行った。生存したすべての動物に対し、投与前、3、5および7日目、ならびにその後は1週間に2回、剖検を行うまで(剖検の当日を含む)、血漿の生物学的分析のために血液を採取した。各群から2頭の動物/性別を、7、29、46または60日目に安楽死させた。剖検前に、生物学的分析のために滑液を採取した。
【0175】
結果
低用量群では、いずれの時点でサンプル採取した血漿にも、測定可能な濃度の遊離のプロピオン酸フルチカゾンは見出されなかったことから、薬物は関節内にとどまっていることが示される。図9を参照されたい。
【0176】
高用量群では、注射後3日目に、測定可能ではあるが低い血漿濃度が見られ、その範囲は0.2ないし0.5ng/mLであった。一方で、滑液および組織中の薬物の局所濃度は、試験期間全体を通じて有意に高かった。図10を参照されたい。
【0177】
滑液中のプロピオン酸フルチカゾンの最も高い濃度は、両方の用量群において、おおまかには7日目に見られ、その範囲は、低用量群では3ないし25ng/mL(図9)および高用量群では179ないし855ng/mLであった(図10)。低用量群では、滑液中の測定可能なプロピオン酸フルチカゾンの濃度が60日目に検出されたが、この採取時点での濃度は定量化の限界未満(1.0ng/mL)であった。60日目の、高用量動物の滑液中のプロピオン酸フルチカゾン濃度は97ないし209ng/mLであった。
【0178】
実施例12:比較の結果−ヒツジを用いた試験対イヌを用いた試験
図6は、微粒子形成の間の熱処理工程による、溶解特性への影響を示している。特に、精度の高い熱処理工程(220℃、1.5時間)を行った微粒子は、非常に低い温度の熱処理工程(130℃、3時間)を行った微粒子よりも、有意に長い溶解半減期を示した。この結果は、220℃における精度の高い熱処理工程が、重合体シェルに特定の構造的な変化を引き起こしたことによって、重合体シェルの浸透特性が変化したことを示している。
【0179】
ヒツジを用いた試験(130℃における熱処理)およびイヌを用いた試験(220℃における熱処理)では、異なる熱処理工程を行った微粒子を用い、それらのin vivoでの持続放出の挙動を、それぞれ実施例9および10において考察した。
【0180】
図11に、ヒツジを用いた試験において測定した血漿濃度と、イヌを用いた試験において測定した血漿濃度とを比較して示す。図に示すように、ヒツジに投与された用量(0.25mg/kg)はイヌに投与された用量(1.2mg/kg)よりも実質的に低かったという事実にもかかわらず、ヒツジを用いた試験における3日後の血漿濃度は、イヌを用いた試験における血漿濃度に比較して非常に高かった。さらに、イヌの血漿濃度は、検出不可能になる前にほとんど一定であった。対照的に、ヒツジの血漿濃度は、放出期間にわたって変動が大きかった。この結果は、微粒子形成の間の熱処理工程が、in vitroでの溶解挙動に与える影響に非常に類似して(実施例8を参照)、in vivoでの放出挙動にも著しい影響を与えたことを示している。
【0181】
実施例13:初期バーストの欠如
実施例8に従ってプロピオン酸フルチカゾン微粒子を調製した。平均直径が50〜100μmの範囲の微粒子を用いて、注射後の最初の2日間、血漿の薬物動態(PK)について試験した。2群のイヌ(1群あたりn=3)に、それぞれ2mg用量(低用量)および60mg用量(高用量)を注射した。
【0182】
ほとんどの持続放出製剤は、初期バーストを示すか、または投薬後の最初の48時間以内に血漿中にピークを示すことが予想される。しかしながら、本開示の実施形態に従ったFPによる持続放出の形成は、予想外に初期バーストを示さない。図12は、高用量群では初期バーストまたは最初の2日間のピークがまったくみられず、すべてのサンプルが(検出可能ではあるが)定量化の限界未満であることを示している。低用量群では1サンプルのみが検出可能であったが、定量化未満であった。したがって、本明細書に記載される持続放出製剤は、副腎皮質ステロイド(例えばプロピオン酸フルチカゾン)の高度に局在化された放出を可能にする一方で、全身の副腎皮質ステロイドを、いずれかの臨床的に有意なHPA軸の抑制をもたらし得る濃度未満に維持することができる。高用量群であっても、有意に初期バーストがまったくみられないということは、in vivoでの放出がゼロ次または偽ゼロ次パターンに従っていることを示している。
【0183】
本明細書中で参照される、および/または出願データシートに記載される上記のすべての米国特許、米国特許出願公開公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12