特許第6857237号(P6857237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6857237ハイブリッドモード刺激を伴う電圧モードを用いたナノポアベースの配列決定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857237
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ハイブリッドモード刺激を伴う電圧モードを用いたナノポアベースの配列決定
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20210405BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20210405BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   G01N27/00 Z
   C12Q1/6869 Z
   C12M1/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-514075(P2019-514075)
(86)(22)【出願日】2017年9月14日
(65)【公表番号】特表2019-530861(P2019-530861A)
(43)【公表日】2019年10月24日
(86)【国際出願番号】EP2017073095
(87)【国際公開番号】WO2018050730
(87)【国際公開日】20180322
【審査請求日】2019年4月19日
(31)【優先権主張番号】62/394,903
(32)【優先日】2016年9月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ロジャー・ジェイ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ティエン,フゥイ
(72)【発明者】
【氏名】メイニー,ジェイ・ウィリアム,ジュニア
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/099673(WO,A1)
【文献】 特表2019−531536(JP,A)
【文献】 特表2019−526043(JP,A)
【文献】 特表2018−501484(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/220732(WO,A1)
【文献】 特表2019−527819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/10
G01N 27/14−27/24
C12Q 1/00−1/70
C12M 1/00−1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノポアで分子を分析するための方法であって、
液体電圧を脂質二重層の第1面側の電解質に印加するステップであって、前記液体電圧が、前記分子のタグまたは前記分子の一部を前記脂質二重層内のナノポア内に捕捉する傾向を有するタグ読取り電圧レベルを伴うタグ読取り期間と、前記分子の前記タグまたは前記一部を前記脂質二重層内の前記ナノポアから放出する傾向を有する開放チャネル電圧レベルを伴う開放チャネル期間とを含む、前記ステップ、
予備充電期間中、予備充電電圧源を、積分コンデンサと、前記脂質二重層の第2面側の作用電極とに接続するステップであって、それにより前記積分コンデンサおよび前記作用電極が、予備充電電圧に充電される前記ステップ、ならびに、
積分期間中、前記予備充電電圧源を、前記積分コンデンサおよび前記作用電極から切断するステップであって、それにより前記積分コンデンサの電圧および前記作用電極の電圧は、電流が前記脂質二重層内の前記ナノポアを通って流れるとき変化し得る前記ステップ、
を含み、
前記予備充電期間が、前記タグ読取り期間の開始部分と重複する、
前記方法。
【請求項2】
前記予備充電期間が、前記開放チャネル期間の終了部分と重複する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予備充電期間が、前記開放チャネル期間から前記タグ読取り期間への遷移全体に及ぶ、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記予備充電期間が、前記開放チャネル期間の開始部分と重複する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記予備充電期間が、前記タグ読取り期間の終了部分と重複する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記予備充電期間が、前記タグ読取り期間から前記開放チャネル期間への遷移全体に及ぶ、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記予備充電期間が、100マイクロ秒〜50ミリ秒の持続時間を有する、請求項3または6に記載の方法。
【請求項8】
前記予備充電期間が、50マイクロ秒〜25ミリ秒の持続時間を有する、請求項1、2、4、または5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
分子を分析するためのシステム、機器、またはデバイスであって、
電圧源、
前記電圧源に結合された対電極、
予備充電電圧源、
前記予備充電電圧源と接続するように構成可能である積分コンデンサ、
前記予備充電電圧源と接続するように構成可能である作用電極、および、
コントローラ、
を備え、
前記コントローラは、液体電圧を、前記対電極を介して、脂質二重層の第1面側の電解質に印加するために前記電圧源を制御するように構成され、前記液体電圧が、前記分子のタグまたは前記分子の一部を前記脂質二重層内のナノポア内に捕捉する傾向を有するタグ読取り電圧レベルを伴うタグ読取り期間と、前記分子の前記タグまたは前記一部を前記脂質二重層内の前記ナノポアから放出する傾向を有する開放チャネル電圧レベルを伴う開放チャネル期間とを含み、
前記コントローラは、予備充電期間中、予備充電電圧源を、前記積分コンデンサと、前記脂質二重層の第2の側面上の前記作用電極とに接続し、その結果前記積分コンデンサおよび前記作用電極が、予備充電電圧に充電されるように構成され、
前記コントローラは、積分期間中、前記予備充電電圧源を、前記積分コンデンサおよび前記作用電極から切断し、その結果前記積分コンデンサの電圧および前記作用電極の電圧は、電流が前記脂質二重層内の前記ナノポアを通って流れるとき変化し得るように構成され、
前記予備充電期間が、前記タグ読取り期間の開始部分と重複し、
さらに、前記コントローラに結合され、前記コントローラに命令を供給するように構成されたメモリを備える、
前記システム、機器、またはデバイス。
【請求項10】
前記予備充電期間が、前記開放チャネル期間の終了部分と重複する、請求項9に記載のシステム、機器、またはデバイス。
【請求項11】
前記予備充電期間が、前記開放チャネル期間から前記タグ読取り期間への遷移全体に及ぶ、請求項9に記載のシステム、機器、またはデバイス。
【請求項12】
前記予備充電期間が、前記開放チャネル期間の開始部分と重複する、請求項9に記載のシステム、機器、またはデバイス。
【請求項13】
前記予備充電期間が、前記タグ読取り期間の終了部分と重複する、請求項9に記載のシステム、機器、またはデバイス。
【請求項14】
前記予備充電期間が、前記タグ読取り期間から前記開放チャネル期間への遷移全体に及ぶ、請求項9に記載のシステム、機器、またはデバイス。
【請求項15】
前記予備充電期間が、100マイクロ秒〜25ミリ秒の持続時間を有する、請求項9〜14のいずれかに記載のシステム、機器、またはデバイス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]近年の半導体産業における超小型化の進歩によって、生物工学者は、従来の大きな検出ツールをますます小さいフォームファクタに、いわゆるバイオチップ上にパッケージングすることを始められるようになった。バイオチップをより頑丈に、効率的にかつ費用効果的にするバイオチップの技術を開発することが、望ましいであろう。
【発明の概要】
【0002】
[0002]本発明の各種実施形態は、以下の詳細な説明および添付の図面において開示される。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1】[0003]ナノポアベースの配列決定チップ内のセル100の一実施形態を示す図である。
図2】[0004]ナノ−SBS技術を用いてヌクレオチド配列決定を実行するセル200の一実施形態を示す図である。
図3】[0005]予め装填されたタグを用いたヌクレオチド配列決定を実行しようとしているセルの一実施形態を示す図である。
図4】[0006]予め装填されたタグを用いた核酸配列決定のためのプロセス400の一実施形態を示す図である。
図5】[0007]ナノポアベースの配列決定チップ内のセル500の一実施形態を示す図である。
図6】[0008]ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路600の一実施形態を示す図である。
図7A】[0009]ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路700の実施形態を示す図であり、ナノポア全体に印加される電圧は、ナノポアが特定の検出可能な状態にある期間にわたり変化するように構成可能である。
図7B】[0010]ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路700の追加の実施形態を示す図であり、ナノポア全体に印加される電圧は、ナノポアが特定の検出可能な状態にある期間にわたり変化するように構成可能である。
図8】[0011]膜内に挿入されているナノポア内の分子を分析するプロセス800の一実施形態を示す図である。
図9】[0012]プロセス800が実行され、AC電圧源信号サイクルの明期間内で3回繰り返される時間に対する、積分コンデンサ(Vncap)における電圧のプロットの一実施形態を示す図である。
図10】[0013]ナノポアが異なる状態にある時間に対する、積分コンデンサにおける電圧のプロットの一実施形態を示す図である。
図11】[0014]ナノポアベースの配列決定チップのセルにおける複数の信号の時間信号プロットの一実施形態を示す図である。
図12】[0015]電圧源をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断する、スイッチの制御に用いられるリセット信号の別の実施形態を示す図である。
図13】[0016]電圧源をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断する、スイッチの制御に用いられるリセット信号の別の実施形態を示す図である。
図14】[0017]電圧源をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断する、スイッチの制御に用いられるリセット信号のさらに別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0004】
[0018]本発明は、多数の方法で実装可能であり、多数の方法は、プロセス、装置、システム、組成物、コンピュータ可読記憶媒体上で具現化されるコンピュータプログラム製品、および/または、プロセッサ、例えばプロセッサに結合されたメモリに記憶されるおよび/またはメモリによって提供される命令を実行するように構成されたプロセッサを含む。この明細書では、これらの実施態様または本発明がとり得る他の任意の形は、技術と称されることがある。一般に、開示されたプロセスのステップの順序は、本発明の範囲内で変更されてもよい。別途記載されていない限り、タスクを実行するように構成されたものとして記載されるプロセッサまたはメモリのような構成要素は、そのタスクを所定の時間に実行するように一時的に構成される一般的な構成要素またはそのタスクを実行するために製造された特定の構成要素として実施されてもよい。本明細書において、「プロセッサ」という用語は、データ、例えばコンピュータプログラム命令を処理するように構成された1つまたは複数の装置、回路および/または処理コアを意味する。
【0005】
[0019]以下、本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細な説明が、本発明の原理を示す添付の図面とともに提供される。本発明は、この種の実施形態に関連して記載されているが、本発明は、任意の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定され、本発明は、多数の代替物、変更物および均等物を包含する。多数の具体的な詳細は、以下の説明に記載され、本発明の完全な理解を提供する。これらの詳細は、例のために提供され、本発明は、これらの具体的な詳細の一部または全部を用いずに特許請求の範囲に従って実施され得る。明確性のために、本発明に関連する技術分野において公知である技術的な材料は、本発明が不必要に不明瞭にならないように詳述されていない。
【0006】
[0020]内径が1ナノメートル程度のポアサイズを有するナノポア膜装置は、迅速なヌクレオチド配列決定において見込みを示してきた。電位が導電性流体に浸漬されたナノポア全体に印加されたとき、ナノポアを通過するイオンの伝導に起因するわずかなイオン電流が観察可能である。電流の量は、ポアサイズに影響される。
【0007】
[0021]ナノポアベースの配列決定チップは、核酸(例えば、DNA)配列決定のために用いられてもよい。ナノポアベースの配列決定チップは、アレイとして構成される多数のセンサセルを組み込む。例えば、100万個のセルのアレイは、1000行×1000列のセルを含み得る。
【0008】
[0022]図1はナノポアベースの配列決定チップ内のセル100の一実施形態を示す図である。膜102は、セルの表面にわたって形成される。いくつかの実施形態では、膜102は、脂質二重層である。可溶性タンパク質ナノポア膜貫通分子複合体(PNTMC)および対象の分析物を含むバルク電解質114は、セルの表面上に直接配置される。ある実施形態では、単一のPNTMC104は、電気穿孔法によって膜102内に挿入される。アレイ内の個々の膜は、化学的にも電気的にも互いに接続されていない。それゆえ、アレイ内の各セルは、独立した配列決定機械であり、PNTMCと結合した単一のポリマー分子に固有のデータを生成する。PNTMC104は、分析物上で作用し、そうでなければ不透過性の二重層を介してイオン電流を調節する。
【0009】
[0023]図1を続けて参照すると、アナログ測定回路112は、電解質の体積108によって覆われた金属電極110に接続されている。電解質の体積108は、イオン不浸透性膜102によって、バルク電解質114から分離される。PNTMC104は、膜102を横切り、イオン電流がバルク液体から作用電極110へと流れるための唯一の経路を提供する。セルは、バルク電解質114と電気的に接している対電極(CE)116も含む。セルは、参照電極117も含み得る。
【0010】
[0024]いくつかの実施形態では、ナノポアアレイは、合成による単分子ナノポアベースの配列決定(ナノ−SBS)技術を用いる並行配列決定を可能にする。図2は、ナノ−SBS技術を用いてヌクレオチド配列決定を実行するセル200の一実施形態を示す。ナノ−SBS技術では、配列決定されるべき鋳型202およびプライマーは、セル200に導入される。この鋳型−プライマー複合体に対して、異なってタグ付けされた4つのヌクレオチド208は、バルク水相に添加される。正しくタグ付けされたヌクレオチドがポリメラーゼ204と複合体を形成すると、タグの尾部は、ナノポア206の筒内に位置決めされる。ナノポア206の筒内に保たれるタグは、固有のイオン遮断信号210を生成し、それにより、付加された塩基を、タグの異なる化学構造により電子的に同定する。
【0011】
[0025]図3は、予め装填されたタグを用いたヌクレオチド配列決定を実行しようとしているセルの一実施形態を示す。ナノポア301は、膜302内に形成される。酵素303(例えば、DNAポリメラーゼのようなポリメラーゼ)は、ナノポアと結合している。いくつかの場合では、ポリメラーゼ303は、ナノポア301に共有結合している。ポリメラーゼ303は、配列決定されるべき核酸分子304と結合している。いくつかの実施形態では、核酸分子304は環状である。いくつかの場合では、核酸分子304は線状である。いくつかの実施形態では、核酸プライマー305は、核酸分子304の一部にハイブリダイズしている。ポリメラーゼ303は、ヌクレオチド306のプライマー305上への、一本鎖核酸分子304を鋳型として用いる取り込みを触媒する。ヌクレオチド306は、タグ種(「タグ」)307を備える。
【0012】
[0026]図4は、予め装填されたタグを用いた核酸配列決定のためのプロセス400の一実施形態を示す。段階Aは、図3において説明したような構成要素を示す。段階Cは、ナノポア内に装填されるタグを示す。「装填された」タグは、認識可能な長さの時間、例えば、0.1ミリ秒(ms)から10,000msの間、ナノポア内に位置決めされる、および/または、ナノポア内または近くに留まるタグでもよい。いくつかの場合では、予め装填されるタグは、ヌクレオチドから放出される前に、ナノポア内に装填される。いくつかの例では、タグが、ヌクレオチド組み込み事象の際に放出された後にナノポアを通過する(および/またはナノポアにより検出される)確率が適度に高い、例えば90%から99%である場合、タグは予め装填される。
【0013】
[0037]段階Aにおいて、タグ付けされたヌクレオチド(4つの異なるタイプ:A、T、GまたはCのうちの1つ)は、ポリメラーゼと結合していない。段階Bにおいて、タグ付けされたヌクレオチドは、ポリメラーゼと結合している。段階Cにおいて、ポリメラーゼは、ナノポアにドッキングする。タグは、ドッキングの間、電気的な力、例えば、膜および/またはナノポア全体に印加される電圧により生成される電界の存在下で生成される力によってナノポア内に引き込まれる。
【0014】
[0028]結合したタグ付けされたヌクレオチドのいくつかは、核酸分子と塩基対合しない。これらの塩基対合しなかったヌクレオチドは、典型的には、正しく対合したヌクレオチドがポリメラーゼと結合したままである時間スケールより短い時間スケール内で、ポリメラーゼによって拒絶される。対合しなかったヌクレオチドは、一時的にのみポリメラーゼと結合するので、図4に示すプロセス400は、典型的には、段階Dを越えて進行しない。例えば、対合しなかったヌクレオチドは、段階Bにおいて、または、プロセスが段階Cに入った少し後に、ポリメラーゼによって拒絶される。
【0015】
[0029]ポリメラーゼがナノポアにドッキングする前、ナノポアのコンダクタンスは、約300ピコジーメンス(300pS)である。段階Cにおいて、ナノポアのコンダクタンスは、約60pS、80pS、100pSまたは120pSであり、それぞれは、タグ付けされたヌクレオチドの4つのタイプのうちの1つに対応する。ポリメラーゼは、異性化およびリン酸基転移反応を経て、ヌクレオチドを成長している核酸分子内に組み込み、タグ分子を放出する。特に、タグがナノポア内に保たれるとき、固有のコンダクタンス信号(例えば、図2の信号210を参照)は、タグの異なる化学構造により生成され、それにより、付加された塩基を電子的に同定する。サイクル(すなわち、段階AからEまたは段階AからF)を繰り返すことにより、核酸分子の配列決定が可能になる。段階Dにおいて、放出されたタグは、ナノポアを通過する。
【0016】
[0030]いくつかの場合では、図4の段階Fに見られるように、成長している核酸分子内に組み込まれていないタグ付けされたヌクレオチドも、ナノポアを通過することになる。組み込まれていないヌクレオチドは、いくつかの例では、ナノポアによって検出され得るが、その方法は、組み込まれたヌクレオチドと組み込まれなかったヌクレオチドとを、ヌクレオチドがナノポア内で検出される時間に少なくとも部分的に基づいて区別するための手段を提供する。組み込まれなかったヌクレオチドに結合したタグは、ナノポアを迅速に通過し、短期間(例えば、10ms未満)の間検出され、一方、組み込まれたヌクレオチドに結合したタグは、ナノポア内に装填され、長期間(例えば、少なくとも10ms)の間検出される。
【0017】
[0031]図5は、ナノポアベースの配列決定チップ内のセル500の一実施形態を示す。セル500は、2つの側壁および底部を有する凹部505を含む。ある実施形態では、各側壁は、誘電体層504を備え、底部は、作用電極502を備える。ある実施形態では、作用電極502は、上面および底面を有する。別の実施形態では、502の上面は、凹部505の底部を構成し、一方、502の底面は、誘電体層501と接触している。別の実施形態では、誘電体層504は、誘電体層501の上にある。誘電体層504は、作用電極502が底部に配置されている、凹部505を囲む側壁を形成する。本発明で使用するのに適した誘電体材料(例えば、誘電体層501または504)は、それだけには限らないが、磁器(セラミック)、ガラス、マイカ、プラスチック、酸化物、窒化物(例えば、一窒化ケイ素すなわちSiN)、酸窒化ケイ素、金属酸化物、金属窒化物、金属ケイ酸塩、遷移金属酸化物、遷移金属窒化物、遷移金属ケイ酸塩、金属酸窒化物、金属アルミン酸塩、ジルコニウムケイ酸塩、ジルコニウムアルミン酸塩、ハフニウム酸化物、絶縁材料(例えば、重合体、エポキシ、フォトレジスト、など)、またはそれらの組合せを含む。当業者には、本発明での使用に適切である他の誘電体材料を識別されよう。
【0018】
[0032]ある態様では、セル500は、1つまたは複数の撥水性層をさらに含む。図5に示すように、各誘電体層504は、上面を有する。ある実施形態では、各誘電体層504の上面は、撥水性層を備え得る。ある実施形態では、シラン処理は、誘電体層504の上面の上に撥水性層520を形成する。例えば、(i)6〜20炭素長の鎖を含む(例えば、オクタデシル−トリクロロシラン、オクタデシル−トリメトキシシラン、またはオクタデシル−トリエトキシシラン)、(ii)ジメチルオクチルクロロシラン(DMOC)、あるいは(iii)有機官能性アルコキシシラン分子(例えば、ジメチルクロロ−オクトデシル−シラン、メチルジクロロ−オクトデシル−シラン、トリクロロ−オクトデシル−シラン、トリメチル−オクトデシル−シラン、またはトリエチル−オクトデシル−シラン)、を含むシラン分子を有するシラン処理が、誘電体層504の上面に施され得る。ある実施形態では、撥水性層は、シラン処理された層またはシラン層である。ある実施形態では、シラン層は、1分子の厚さであり得る。ある態様では、誘電体層504は、膜の粘着に適した上面を備える(例えば、ナノポアを備える脂質二重層)。ある実施形態では、膜の粘着に適した上面は、本明細書で説明されるようなシラン分子を含む。いくつかの実施形態では、撥水性層520は、ナノメートル(nm)またはマイクロメートル(μm)で提供される厚さを有する。他の実施形態では、撥水性層は、誘電体層504の全体または一部に沿って下方に延在し得る(その全体が引用することにより本明細書に組み込まれる、DavisらのU.S.20140034497も参照)。
【0019】
[0033]別の態様では、凹部505(誘電体層壁504によって形成される)は、作用電極502の上層の塩類溶液506の体積をさらに含む。全体に、本発明の方法は、浸透圧調節物質を含む溶液(例えば、塩類溶液、塩類緩衝溶液、電解質、電解液、またはバルク電解質)の使用を含む。本明細書で使用する場合、用語「浸透圧調節物質」は、溶液内に溶かされるとき、その溶液の浸透圧モル濃度を増大させる任意の可溶性化合物を示す。本発明では、浸透圧調節物質は、ナノポア配列決定システムの構造、例えば、本明細書で説明されるような塩類溶液またはバルク電解質を収容する凹部、の内部の溶液内に可溶性を有する化合物である。したがって、本発明の浸透圧調節物質は、浸透性、詳細には脂質二重層を横切る浸透性に影響を及ぼす。本発明で使用される浸透圧調節物質は、それだけには限らないが、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化マンガン(MnCl)、および塩化マグネシウム(MgCl)などのイオン塩類と、グリセロール、エリトリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マンニサイドマンニトール、グリコシルグリセロール、ブドウ糖、フルクトース、蔗糖、トレハロース、およびイソフルオロサイドなどの多価アルコールと砂糖と、デキストラン、レバン、およびポリエチレングリコールなどの重合体と、グリシン、アラニン、アルファ−アラニン、アルギニン、プロリン、タウリン、ベタイン、オクトピン、グルタミン酸塩、サルコシン、y−アミノ酪酸、およびトリメチルアミンN−オキシド(「TMAO」)などのいくつかのアミノ酸とそれらの派生物とを含み得る(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、FisherらのU.S.20110053795をさらに参照)。ある実施形態では、本発明は、浸透圧調節物質を含む溶液を利用し、浸透圧調節物質は、イオン性塩である。当業者には、本発明での使用に適切な浸透圧調節物質である他の化合物を識別されよう。別の態様では、本発明は、2つ以上の異なる浸透圧調節物質を含む溶液を提供する。
【0020】
[0034]本明細書で説明するナノポアベースの配列決定チップの構造は、1アトリットル〜1ナノリットルの容量を有する凹部(例えば、図5)のアレイを備える。
【0021】
[0035]図5に示すように、膜は、誘電体層504の上面に形成され、凹部505全体に及ぶ。例えば、膜は、疎水性層520の上面に形成された脂質一重層518を含む。膜が凹部505の開口に達したとき、脂質一重層は、凹部の開口全体に及ぶ脂質二重層514に遷移する。脂質一重層518はまた、誘電体層504の垂直面(すなわち、側壁)の全体または一部に沿って延在してもよい。ある実施形態では、一重層518が沿って延在する垂直の表面504は、撥水性層を備える。タンパク質ナノポア膜貫通分子複合体(PNTMC)および対象の分析物を含むバルク電解質508は、凹部の上に直接配置される。単一のPNTMC/ナノポア516は、脂質二重層514内に挿入される。ある実施形態では、二重層内への挿入は、電気穿孔法による。ナノポア516は、脂質二重層514を横切り、バルク電解質508から作用電極502へのイオン電流のための唯一の経路を提供する。
【0022】
[0036]セル500は、バルク電解質508に電気的に接する対電極(CE)510を含む。セル500は、参照電極512を任意選択で含み得る。いくつかの実施形態では、対電極510は、複数のセル間で共有され、それゆえ、共通電極とも称される。共通電極は、共通の電位を、測定セル内のナノポアと接触するバルク液体に印加するように構成可能である。共通の電位および共通電極は、測定セルのすべてに共通である。
【0023】
[0037]いくつかの実施形態では、作用電極502は、金属電極である。非ファラデー性伝導のために、作用電極502は、腐食および酸化に耐性を示す、例えば、白金、金などの金属、チタン窒化物、およびグラファイトで形成され得る。例えば、作用電極502は、電気めっきを用いた白金電極であってもよい。別の例では、作用電極502は、チタン窒化物(TiN)作用電極であってもよい。
【0024】
[0038]図5に示すように、ナノポア516は、凹部505上に浮かべられた平面脂質二重層514内に挿入される。電解液は、凹部505の内側、すなわちトランス側(塩類溶液506を参照)、およびかなりさらに大きい外部貯蔵部522、すなわち、シス側(バルク電解質508を参照)の両方に存在する。外部貯蔵部522内のバルク電解質508は、ナノポアベースの配列決定チップの複数の凹部の上にある。脂質二重層514は、凹部505を覆って延在し、一重層が撥水性層520に付着されたところである脂質一重層518に遷移する。この形状は、電気的かつ物理的に凹部505を封止し、凹部をより大きい外部貯蔵部から分離する。水および溶存ガスなどの中性分子は、脂質二重層514を通過し得るのに対して、イオンは通過し得ない。脂質二重層514内のナノポア516は、イオンが、凹部505の内外に伝導される単一の経路を提供する。
【0025】
[0039]核酸配列決定のために、ポリメラーゼがナノポア516に付着される。核酸の鋳型(例えば、DNA)は、ポリメラーゼによって保持される。例えば、ポリメラーゼは、鋳型に対して不足するものを補う溶液から六リン酸モノヌクレオチド(HMN)を取り込むことによって、DNAを合成する。固有で重合体のタグが、各HMNに取り付けられる。取り込みの間、タグは、対電極510と作用電極502との間の電圧により生み出される電界の勾配の支援のもと、ナノポアに装填される。タグは、ナノポア516を部分的に閉塞し、ナノポア516を通過するイオン電流での測定可能な変化をもたらす。いくつかの実施形態では、交流(AC)バイアスまたは直流(DC)電圧が、電極間に印加される。
【0026】
[0040]図6は、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路600の一実施形態を示す。上述したように、タグがナノポア602内に保たれるとき、固有のコンダクタンス信号(例えば、図2の信号210を参照)は、タグの異なる化学構造により生成され、それにより、付加された塩基を電子的に同定する。図6の回路は、電流が測定されるとき、ナノポア602全体の定電圧を維持する。特に、回路は、演算増幅器604およびパスデバイス606を含み、これらによって、ナノポア602全体にわたり、定電圧をVまたはVに維持する。ナノポア602を通じて流れる電流は、コンデンサncap608に蓄積され、アナログデジタル変換器(ADC)610により測定される。
【0027】
[0041]しかしながら、回路600には、多くの欠点が存在する。欠点の1つは、回路600が一方向電流のみを測定するということである。他の欠点は、回路600の演算増幅器604が多くの性能問題を導入し得るということである。例えば、演算増幅器604のオフセット電圧および温度ドリフトによって、ナノポア602全体に印加される実際の電圧が、異なるセル全体にわたり変化する場合がある。ナノポア602全体に印加される実際の電圧は、目標値の上下に数十ミリボルトもドリフトし得るので、それにより、測定が著しく不正確になる。さらに、演算増幅器のノイズによって、さらなる検出エラーが生じる場合がある。他の欠点は、電流測定の間、ナノポア全体の定電圧を維持するための回路の部分が、領域集中的(area−intensive)であるということである。例えば、演算増幅器604は、他の構成要素より著しく多くのセル内の空間を占有する。ナノポアベースの配列決定チップが、ますます多くのセルを含むために拡大されるので、演算増幅器によって占有される領域は、到達不能なサイズに増加する場合がある。残念なことに、大型のアレイを有するナノポアベースの配列決定チップ内の演算増幅器のサイズを縮小することは、他の性能問題を引き起こす可能性があり、例えば、セル内のオフセットおよびノイズの問題をさらに悪化させ得る。それゆえ、ナノポアを用いて分子を分析するために、改善された回路および改善された方法が、所望されるであろう。
【0028】
[0042]図7Aは、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路700の実施形態を示す図であり、ナノポア全体に印加される電圧は、ナノポアが特定の検出可能な状態にある期間にわたり変化するように構成可能である。ナノポアの可能な状態の1つは、タグが取り付けられたポリホスフェートがナノポアの筒に存在しない開放チャネル状態である。ナノポアの別の4つの可能な状態は、タグが取り付けられたポリホスフェートの4つの異なるタイプ(A、T、GまたはC)がナノポアの筒内に保たれるときの状態に対応する。ナノポアのさらに別の可能な状態は、膜が断裂するときである。回路700では、演算増幅器は、もはや必要ではない。
【0029】
[0043]図7Aは、膜712内に挿入されるナノポア702を示し、ナノポア702および膜712は、セル作用電極714と対電極716との間にあり、その結果、電圧は、ナノポア702全体に印加される。ナノポア702は、バルク液体/電解質718とも接触する。なお、作用電極714、ナノポア702、膜712、および対電極716が、図1の作用電極、ナノポア、膜、および対電極と比較して、上下反対に描かれていることに留意されたい。以下、セルは、少なくとも膜、ナノポア、作用セル電極および関連回路を含むことを意味する。いくつかの実施形態では、対電極は、複数のセル間で共有され、それゆえ、共通電極とも称される。共通電極は、共通電極を電圧源Vliq720に接続することによって、共通の電位を、測定セル内のナノポアと接触するバルク液体に印加するように構成可能である。共通の電位および共通電極は、測定セルのすべてに共通である。共通電極とは対照的に、作用セル電極は、各測定セル内に存在し、作用セル電極714は、他の測定セル内の作用セル電極から独立して、異なる電位を印加するように構成可能である。
【0030】
[0044]図7Bは、図7Aに示した図と同様の、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路700を示す。図7Aと比較して、作用電極と対電極との間に、膜内に挿入されているナノポアを示す代わりに、ナノポアおよび膜の電気特性を表す電気モデル722を示す。
【0031】
[0045]電気モデル722は、異なる状態(例えば、開放チャネル状態またはナノポア内で異なるタイプのタグ/分子を有することに対応する状態)において、脂質二重層に関連付けられたキャパシタンスをモデル化するコンデンサ726(C二重層)と、ナノポア/脂質二重層に関連付けられた抵抗をモデル化する抵抗器728(R二重層)と、を含む。
【0032】
[0046]電圧源Vliq720は、交流(AC)電圧源である。対電極716は、バルク液体718に浸漬され、AC非ファラデー性モードが利用され、方形波電圧Vliqを調節し、それを測定セル内の脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加する。いくつかの実施形態では、Vliqは、100〜250mVのピーク間の振幅不均一性および20〜400Hzの周波数を有する方形波である。
【0033】
[0047]パスデバイス706は、脂質膜/二重層および電極を測定回路700と接続または測定回路から切断するために使用され得るスイッチである。スイッチは、セル内の脂質膜/二重層を横断して印加され得る電圧刺激を有効化または無効化する。脂質が、脂質二重層を形成するためにセルに堆積される前では、2つの電極間のインピーダンスは、セルの凹部が封止されていないため、非常に低く、それゆえスイッチ706は、短絡状態を回避するために開放に維持される。スイッチ706は、脂質溶媒がセルに堆積されてセルの凹部を封止した後、閉じられ得る。
【0034】
[0048]回路700は、チップ上に作り込まれた積分コンデンサ708(ncap)をさらに含む。積分コンデンサ708は、リセット信号703を使用しスイッチ701を閉じ、その結果、積分コンデンサ708が電圧源Vpre705に接続されることによって、予備充電される。いくつかの実施形態では、電圧源Vpre705は、900mVの大きさの固定の正電圧を供給する。スイッチ701が閉じられているとき、積分コンデンサ708は、電圧源Vpre705の正電圧レベルまで予備充電される。
【0035】
[0049]積分コンデンサ708が予備充電された後、リセット信号703が使用されスイッチ701が開放され、その結果、積分コンデンサ708は、電圧源Vpre705から切断される。この時点では、Vliqのレベルにより、対電極716の電位は、作用電極714の電位より高いレベルにあるか、その反対でもあり得る。例えば、方形波Vliqの正位相の間(すなわち、AC電圧源信号サイクルの暗期間)、対電極716の電位は、作用電極714の電位より高いレベルにある。同様に、方形波Vliqの負位相の間(すなわち、AC電圧源信号サイクルの明期間)、対電極716の電位は、作用電極714の電位より低いレベルにある。この電位差により、積分コンデンサ708は、AC電圧源信号サイクルの暗期間中に充電され、AC電圧源信号サイクルの明期間中に放電され得る。充電または放電は、ナノポアを通り流れるイオン電流をもたらす。
【0036】
[0050]積分コンデンサ708は、スイッチ701がリセット信号703によって開路される期間中、充電または放電し、その期間の終わりに、積分コンデンサ708内に蓄えられた電圧が、ADC710によって読み出され得る。ADC710によるサンプリングの後、積分コンデンサ708は、リセット信号703を使用しスイッチ701を閉じ、その結果、積分コンデンサ708が電圧源Vpre705に再接続されることによって、再び予備充電され得る。いくつかの実施形態では、ADC710のサンプリング速度は、500〜2000Hzである。いくつかの実施形態では、ADC710のサンプリング速度は、最高で5kHzである。例えば、1kHzのサンプリング速度で、積分コンデンサ708は、約1msの期間中、充電または放電され得、次に、積分コンデンサ708における電圧は、ADC710によって読み出される。ADC710によるサンプリングの後、積分コンデンサ708は、リセット信号703を使用しスイッチ701を閉じ、その結果、積分コンデンサ708が電圧源Vpre705に再接続されることによって、再び予備充電される。積分コンデンサ708を予備充電するステップと、積分コンデンサ708が充電または放電する一定の期間を待機するステップと、積分コンデンサ内に蓄えられた電圧をADC710によってサンプリングするステップとが、サイクルで繰り返される。以下で詳述するように、コンデンサの充電および放電によってもたらされる積分コンデンサの電圧減衰率は、監視され、ナノポア内部の分子を分析するために使用され得る。
【0037】
[0051]図8は、膜内に挿入されているナノポア内の分子を分析するプロセス800の一実施形態を示す図である。プロセス800は、図7Aおよび7Bに示される回路を用いて実行されてもよい。図9は、プロセス800が実行され、AC電圧源信号サイクルの明期間内で3回繰り返される時間に対する、積分コンデンサ(Vncap)における電圧のプロットの一実施形態を示す図である。積分コンデンサの放電により、ナノポア全体に印加される電圧は、一定に保たれない。その代わりに、ナノポア全体に印加される電圧は、時間とともに変化する。電圧減衰率(すなわち、時間に対する積分コンデンサにおける電圧のプロットの傾きの程度)は、セル抵抗(例えば、図7Bの抵抗器728の抵抗)に依存する。より詳しくは、異なる状態(例えば、開放チャネル状態、ナノポア内の異なるタイプのタグ/分子を有することに対応する状態、および、膜が断裂するときの状態)のナノポアに関連付けられた抵抗が、分子「/タグ」の異なる化学構造により異なるので、異なる対応する電圧減衰率が観察され得るようになり、それゆえ、ナノポアの異なる状態を同定するために用いられてもよい。
【0038】
[0052]図8および図7Bを参照すると、プロセス800の802において、積分コンデンサは、積分コンデンサおよびナノポアを予備充電する電圧源に結合することによって、予備充電される。例えば、図7Bに示すように、積分コンデンサ708は、リセット信号703を使用しスイッチ701を閉じ、その結果、積分コンデンサ708およびナノポアが電圧源Vpre705に結合されることによって、Vpreに予備充電される。図9に示すように、積分コンデンサの初期電圧は、Vpreである。スイッチ701が閉じられ、積分コンデンサが予備充電されているとき、膜に関連付けられたコンデンサも同時に充電され、エネルギーは膜全体の電界に保存される。
【0039】
[0053]プロセス800の804において、ナノポアおよび膜を電圧源から切り離すことによって、膜に関連付けられたコンデンサ(コンデンサ726)および積分コンデンサは放電し、これにより、膜全体の電界に保存されたエネルギーは消散する。例えば、図7Bに示すように、スイッチ701がリセット信号703によって開放されると、電圧源Vpre705は切断される。スイッチ701が開放された後、図9に示すように、積分コンデンサの電圧は、指数関数的な減衰を開始する。指数関数的な減衰は、RC時定数τ=RCを有し、Rは、ナノポアに関連付けられた抵抗(抵抗器728)であり、Cは、Rに並列のキャパシタンスであり、膜に関連付けられたキャパシタンスC二重層726およびncap708に関連付けられたキャパシタンスを含む。
【0040】
[0054]プロセス800の806において、積分コンデンサの電圧の減衰率が決定される。図9に示すように、電圧減衰率は、時間に対する積分コンデンサの電圧のプロットの傾きの程度である。電圧減衰率は、異なる方法で決定されてもよい。
【0041】
[0055]いくつかの実施形態では、電圧減衰率は、一定の時間間隔の間に発生する電圧減衰を測定することによって決定される。例えば、図9に示すように、積分コンデンサの電圧は、最初に時間tでADC710により測定され、次に、電圧は、時間tでADC710により再び測定される。時間に対するVncap電圧の傾きがより急であるとき、電圧差ΔVはより大きく、時間に対する電圧曲線の傾きがより緩やかなとき、電圧差ΔVはより小さい。それゆえ、ΔVは、積分コンデンサの電圧の減衰率を決定するための測定基準として用いられてもよい。いくつかの実施形態では、電圧減衰率の測定の精度を向上させるために、電圧は、追加の回数、一定の間隔で測定されてもよい。例えば、電圧は、時間t、tなどで測定されてもよく、複数の時間間隔の間のΔVの複数の測定値は、積分コンデンサの電圧の減衰率を決定するための測定基準としてともに用いられてもよい。いくつかの実施形態では、相関二重サンプリング(CDS)を用いて、電圧減衰率の測定の精度を向上させてもよい。
【0042】
[0056]いくつかの実施形態では、電圧減衰率は、選択された電圧減衰量のために必要な持続時間を測定することによって決定される。いくつかの実施形態では、電圧が一定電圧Vから第2の一定電圧Vに降下するのに必要な時間が測定されてもよい。時間に対する電圧曲線の傾きがより急であるとき、必要な時間はより少なく、時間に対する電圧曲線の傾きがより緩やかなとき、必要な時間はより大きい。それゆえ、測定された必要な時間は、積分コンデンサの電圧の減衰率を決定するための測定基準として用いられてもよい。
【0043】
[0057]プロセス800の808において、ナノポアの状態は、決定された電圧減衰率に基づいて決定される。ナノポアの可能な状態の1つは、タグが取り付けられたポリホスフェートがナノポアの筒には存在しない開放チャネル状態である。ナノポアの他の可能な状態は、異なるタイプの分子がナノポアの筒内に保たれるときの状態に対応する。例えば、ナノポアの別の4つの可能な状態は、4つの異なるタイプのタグが取り付けられたポリホスフェート(A、T、GまたはC)がナノポアの筒内に保たれるときの状態に対応する。ナノポアのさらに別の可能な状態は、膜が断裂するときである。ナノポアの状態は、決定された電圧減衰率に基づいて決定可能である。なぜなら、電圧減衰率は、セル抵抗、すなわち、図7Bの抵抗器728の抵抗に依存するからである。より詳しくは、異なる状態のナノポアに関連付けられた抵抗が、分子/タグの異なる化学構造に起因して異なるので、異なる対応する電圧減衰率は、観察され得るようになり、それゆえ、ナノポアの異なる状態を識別するために用いられてもよい。
【0044】
[0058]図10は、ナノポアが異なる状態にある時間に対する、積分コンデンサにおける電圧のプロットの一実施形態を示す図である。プロット1002は、開放チャネル状態の間の電圧減衰率を示す。いくつかの実施形態では、開放チャネル状態のナノポアに関連付けられた抵抗は、100Mohmから20Gohmまでの範囲内にある。4つの異なるタイプのタグが取り付けられたポリホスフェート(A、T、GまたはC)がナノポアの筒内に保たれるとき、プロット1004、1006、1008および1010は、4つの捕捉状態に対応する異なる電圧減衰率を示す。いくつかの実施形態では、捕捉状態のナノポアに関連付けられた抵抗は、200Mohmから40Gohmまでの範囲内にある。プロットの各々の傾きが互いに区別可能であることに留意されたい。
【0045】
[0059]プロセス800の810において、プロセス800が繰り返されるか否かが決定される。例えば、プロセスは、複数回繰り返され、ナノポアの各状態を検出するようにしてもよい。プロセスが繰り返されない場合、プロセス800は終了し、さもなければ、プロセスは、再び802において再開する。802において、積分コンデンサは、積分コンデンサおよびナノポアを予備充電する電圧源に結合することによって、再び予備充電される。例えば、図7Bに示すように、積分コンデンサ708は、リセット信号703を使用しスイッチ701を閉じ、その結果、積分コンデンサ708およびナノポアが電圧源Vpre705に結合されることによって、Vpreに予備充電される。図9に示すように、積分コンデンサ(Vncap)の電圧は、Vpreのレベルまで迅速に戻る。プロセス800が複数回繰り返されるので、鋸歯状の電圧波形は、時間とともに積分コンデンサで観測される。図9は、また、電圧Vpre705が再びアサートされない場合の時間に伴うRC電圧減衰を示す外挿曲線904を説明する。
【0046】
[0060]上述したように、ナノポア全体に印加される電圧を、ナノポアが特定の検出可能な状態にある期間にわたって変化するように構成することは、多くの利点を有する。利点の1つは、そうでなければセル回路内にオンチップ作製される演算増幅器をなくすことにより、ナノポアベースの配列決定チップ内の単一のセルのフットプリントを著しく減少させることであり、それにより、(例えば、ナノポアベースの配列決定チップ内の数百万ものセルを有する)ますます多くのセルを含むためにナノポアベースの配列決定チップの拡大を容易にする。
【0047】
[0061]他の利点は、Vpreが任意の介在回路なく、作用電極に直接印加されるので、セルの回路がオフセットされた不正確性を被らないということである。他の利点は、スイッチが測定間隔の間に開閉されていないので、電荷注入量が最小化されるということである。
【0048】
[0062]さらに、上述した技術は、正電圧または負電圧を用いて同じように良好に動作する。電圧は、交流(AC)電圧でもよい。二方向測定は、分子複合体を特徴付けるのに有効なことを示した。さらに、ナノポアを通じて流されるイオン流のタイプが非ファラデー性伝導を介するとき、二方向測定は役に立つ。2つのタイプ、すなわち、ファラデー性伝導および非ファラデー性伝導のイオン流は、ナノポアを通じて流すことができる。ファラデー性伝導において、化学反応は、金属電極の表面で発生する。ファラデー電流は、電極でのいくつかの化学物質の還元または酸化によって生成される電流である。非ファラデー性伝導の利点は、化学反応が金属電極の表面で発生しないということである。
【0049】
[0063]図11は、ナノポアベースの配列決定チップのセルにおける複数の信号の時間信号プロットの一実施形態を示す図である。いくつかの実施形態では、信号は、図7Aおよび7Bに示される回路によって供給され得る。一番上のVliqのプロットは、時間とともに電圧源Vliq720によって、共通電極716に印加される電圧を示す。中央のプロットは、時間に対するスイッチ701を制御するために用いられるリセット信号703を示す図であり、スイッチ701は、電圧源Vpre705をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断する。下のプロットは、時間の関数として、リセット信号およびVliqに応答する積分コンデンサ(Vncap)の電圧を示す。
【0050】
[0064]一番上のVliqのプロットは、時間とともに電圧源Vliq720によって、共通電極716に印加される電圧を示す。共通電極716は、バルク液体718に浸漬されるので、Vliqは、測定セル内の脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加される。Vliqは、液体電圧とも称される。いくつかの実施形態では、Vliqは、200〜250mVのピーク間の振幅不均一性および20〜400Hz(例えば、40Hz)の周波数を有する方形波である。例えば、Vliqは、0.8Vと1.0Vとの値の間で切り換わり得る。Vliqが下の値(例えば、0.8V)にある期間を、明期間、または、タグが分析用ナノポア内に引き込まれる得る期間であるので、タグ読取り期間と呼ぶ。下の電圧値は、タグ読取り電圧とも呼ばれる。Vliqが上の値(例えば、1.0V)にある期間を、暗期間、または、タグが取り付けられたポリホスフェートが、ナノポアの筒から放出され存在しない間の期間であるので、開放チャネル期間と呼ぶ。高い方の電圧値は、開放チャネル電圧とも呼ばれる。
【0051】
[0065]中央のプロットは、時間に対するスイッチ701を制御するために用いられるリセット信号703を示す図であり、スイッチ701は、電圧源Vpre705をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜(また、ncap708)に接続し、または膜から切断する。リセット信号が期間t予備充電の間高位に保たれるとき、スイッチ701は閉じられ、リセット信号が期間t積分の間低位に保たれるとき、スイッチ701は開放される。1つのt積分期間とともに組み合わせた1つのt予備充電期間が、単一のフレームを形成する。いくつかの実施形態では、フレームレートは、単一のフレーム持続時間500μsを有する、2kHzである。他の実施形態では、フレームレートは、200Hz〜15kHzの範囲内にある。説明を容易にするために、図11では、リセット信号の3つのフレームだけが、Vliqの単一の明期間内に描かれている。しかしながら、各明期間または暗期間内に数十または数百のフレームが存在し得ることを理解されたい。
【0052】
[0066]期間t予備充電中にスイッチ701が閉じられたとき、電圧源Vpre705は作用電極714に接続され、電圧Vpreをセル作用電極に印加し、膜(C二重層726)に関連付けられたコンデンサおよび積分コンデンサncap708は、電圧Vpreに予備充電される。したがって、積分コンデンサの電圧Vncap図11の下のプロットを参照)は、各期間t予備充電内のVpreに等しい。いくつかの実施形態では、電圧源Vpre705は、0.9Vの大きさの固定の正電圧を供給する。他の実施形態では、Vpreは、0.7〜1.2Vの範囲内から選択される定電圧である。
【0053】
[0067]コンデンサが予備充電された後、スイッチ701は、期間t積分の間、下位リセット信号によって開放され、ナノポア、膜、およびncap708を電圧源Vpre705から切り離す。期間t積分の間、コンデンサは、Vliqのレベルにより、放電または充電のどちらかを行い、Vncapは、指数関数的に減衰または増大する。期間t積分が、Vliqの明期間内にあるとき、Vliqは、Vncapより低い電圧レベルにあり、この電位差は、コンデンサが放電し、Vncapが指数関数的に減衰する原因となる。期間t積分が、Vliqの暗期間内にあるとき、Vncapは、Vliqより低い電圧レベルにあり、この電位差は逆に、コンデンサが充電し、Vncapが指数関数的に増大する原因となる。指数関数的な電圧変化は、RC時定数τ=RCを有し、Rは、ナノポアに関連付けられた抵抗(R二重層728)であり、Cは、Rに並列のキャパシタンスであり、膜に関連付けられたキャパシタンスC二重層726およびncap708に関連付けられたキャパシタンスを含む。図11内で、Vncapの傾きの程度は、正確な縮尺率ではないことを理解されたい。コンデンサの放電によってもたらされるVncapの減衰率は、フレームからフレームへ変化し得、異なる減衰率は、ナノポア内部の分子を分析するために使用され得る。コンデンサの充電によってもたらされるVncapの増大率もまた、フレームからフレームへ変化し得て、Vncapの異なる増大率は、ドリフト補正などの開放チャネル状態を較正するために監視され得る。
【0054】
[0068]図11で示した実施形態では、リセット信号は、短時間(0.5〜50マイクロ秒)t予備充電期間だけ高位に維持され、コンデンサがVpreに予備充電されるとすぐにリセット信号は、スイッチを開放するために低位に設定され、積分コンデンサncap708の電圧が、浮動しVpre以外の電圧に変化することを可能にする。リセット信号の迅速な遷移、特に、Vliqが暗期間から明期間へ、またはその逆に転換するときのリセット信号の迅速な遷移は、ナノポアベースの配列決定チップの多くの性能問題の原因となり得る、ある一定のVncap時間特性を引き起こすことが分かっている。例えば、リセット信号の迅速な遷移および対応するVncap時間特性は、脂質二重層での予測不能な過渡特性をもたらし得て、積分期間中のVncapの変化率測定に影響を及ぼす。リセット信号の迅速な遷移はまた、充填確率、すなわち、明期間中にナノポアの筒内に捕捉されつつあるタグの確率を低下させる。したがって、改善されたリセット信号パターンおよびVncap電圧パターンが所望されよう。
【0055】
[0069]図12は、スイッチを制御するのに用いられるリセット信号の別の実施形態を示し、スイッチは、電圧源をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断し、膜に関連付けられたコンデンサが繰り返し充電および放電されるようにする。いくつかの実施形態では、信号は、図7Aおよび7Bに示される回路によって供給されてもよい。一番上のVliqのプロットは、図11でのVliqのプロットと同一である。中央のプロットは、時間に対するスイッチ701を制御するために用いられる改善されたリセット信号703を示す図であり、スイッチ701は、電圧源Vpre705をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断する。下のプロットは、時間の関数として、新たな改善されたリセット信号およびVliqに応答する積分コンデンサ(Vncap)の電圧を示す。
【0056】
[0070]一番上のプロットのVliqは、時間とともに電圧源Vliq720によって、共通電極716に印加される電圧を示す。いくつかの実施形態では、Vliqは、200〜250mVのピーク間の振幅不均一性および20〜400Hz(例えば、40Hz)の周波数を有する方形波である。例えば、Vliqは、0.8Vと1.0Vとの値の間で切り換わり得る。Vliqが下の値(例えば、0.8V)にある期間を、明期間、または、タグ読取り期間と呼ぶ。Vliqが上の値(例えば、1.0V)にある期間を、暗期間、または、開放チャネル期間と呼ぶ。
【0057】
[0071]中央のプロットは、時間に対するスイッチ701を制御するために用いられる改善されたリセット信号703を示す図であり、スイッチ701は、電圧源Vpre705をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜(また、ncap708)に接続し、または膜から切断する。リセット信号が期間t予備充電の間高位に保たれるとき、スイッチ701は閉じられ、リセット信号が期間t積分の間低位に保たれるとき、スイッチ701は開放される。1つのt予備充電と、その後に続く1つのt積分期間が、単一のフレームを形成する。
【0058】
[0072]図11のフレームとは対照的に、図12のフレームの持続時間は、時間とともに一定に維持されない。リセット信号には2つの種類のフレームが存在する。異なるタイプのフレームは、異なるVncapパターンをもたらし、それゆえ、対応する改善された技術は、ハイブリッドモード刺激を伴う電圧モードと呼ばれる。フレームの1つの種類(例えば、フレーム1202を参照)が、図11のフレームと同等である。これらのフレームでは、リセット信号は、ごく短時間t予備充電期間だけ高位レベルに維持され、コンデンサがVpreに予備充電されるとすぐにリセット信号は、スイッチを開放するために低位に設定され、積分コンデンサncap708の電圧が、浮動しVpre以外の電圧に変化することを可能にする。第2の種類のフレーム(例えば、フレーム1204を参照)は、第1の種類のフレームよりも長い予備充電期間を有する。フレーム1204に示すように、リセット信号は、より長いt予備充電期間高位レベルに維持される。具体的には、リセット信号は、Vliqの暗期間の終了部分およびVliqの明期間の開始部分の間高位レベルに維持され、その結果、Vliqが暗期間から明期間に転換するとき、リセット信号の迅速な遷移は存在しない。
【0059】
[0073]フレーム1204の予備充電期間を延長することによって、電圧源Vpre705は、より長い期間作用電極714に接続され、積分コンデンサVncap図12の下のプロットを参照)の電圧は、Vliqが暗期間から明期間に転換するとき、Vpreに維持される。いくつかの実施形態では、電圧源Vpre705は、0.9Vの大きさの固定の正電圧を供給する。他の実施形態では、Vpreは、0.7〜1.2Vの範囲内から選択される定電圧である。
【0060】
[0074]Vliqが暗期間から明期間に転換するときVncapを一定の高いレベルに維持することは、多くの利点を有する。利点のうちの1つは、充填確率、明期間中にナノポアの筒内に捕捉されつつあるタグの確率を増大させることである。Vliqの明期間の開始部分で、Vncapを一定のより高い電圧に維持することは、ナノポア内にタグを引き込み得る電気的な力が、より長い期間高いままとなるので、充填確率を増大させ、それによりタグが測定するナノポア内に捕捉される機会を増大させ、ナノポア内にすでに捕捉されているタグがナノポアから逃げ得る機会を減少させる。Vliqが暗期間から明期間に転換するときVncapを一定のより高いレベルに維持することの別の利点は、それが、RC時定数などの脂質二重層内の過渡特性を減少させることである。脂質二重層内により安定した特性を有することによって、積分期間中のVncapの変化率測定は、より信頼できるようになる。
【0061】
[0075]図12に示すように、リセット信号は、Vliqの暗期間の終了部分およびVliqの明期間の開始部分の両方において、高位レベルに維持される。しかしながら、いくつかの他の実施形態では、リセット信号は、Vliqの暗期間の終了部分においてのみ、高位レベルに維持され得る。いくつかの他の実施形態では、リセット信号は、Vliqの明期間の開始部分においてのみ、高位レベルに維持され得る。
【0062】
[0076]いくつかの実施形態では、フレーム1202の予備充電期間は、構成変更可能である。フレーム1202の予備充電期間t予備充電は、50マイクロ秒〜1ミリ秒の範囲の所定の持続時間に構成される。いくつかの実施形態では、フレーム1204の予備充電期間は、構成変更可能である。フレーム1204の予備充電期間t予備充電は、100マイクロ秒〜50ミリ秒の範囲の所定の持続時間に構成される。Vliqの暗期間と重複する予備充電期間は、50マイクロ秒〜25ミリ秒である。Vliqの明期間と重複する予備充電期間は、50マイクロ秒〜25ミリ秒である。
【0063】
[0077]図12内で、Vncapの傾きの程度は、正確な縮尺率ではないことを理解されたい。コンデンサの放電によってもたらされるVncapの減衰率は、フレームからフレームへ変化し得、異なる減衰率は、ナノポア内部の分子を分析するために使用され得る。コンデンサの充電によってもたらされるVncapの増大率もまた、フレームからフレームへ変化し得、Vncapの異なる増大率は、ドリフト補正などの開放チャネル状態を較正するために監視され得る。
【0064】
[0078]説明を容易にするために、図12では、2つの積分時間だけが、Vliqの単一の明期間内に描かれている。同様に、図12では、1つの積分時間だけが、Vliqの単一の暗期間内に描かれている。しかしながら、図13に示したように、各明期間または暗期間内に数十または数百の積分時間が存在し得ることを理解されたい。
【0065】
[0079]図14は、スイッチを制御するのに用いられるリセット信号のさらに別の実施形態を示し、スイッチは、電圧源をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断し、膜に関連付けられたコンデンサが繰り返し充電および放電されるようにする。いくつかの実施形態では、信号は、図7Aおよび7Bに示される回路によって供給されてもよい。一番上のVliqのプロットは、図11および12でのVliqのプロットと同一である。中央のプロットは、電圧源Vpre705をナノポアベースの配列決定チップのセル内の膜に接続し、または膜から切断する、スイッチ701を制御するために用いられる別の改善されたリセット信号703を示す図である。下のプロットは、時間の関数として、新たな改善されたリセット信号およびVliqに応答する積分コンデンサ(Vncap)の電圧を示す。
【0066】
[0080]図11のフレームとは対照的に、図14のフレームの持続時間は、時間とともに一定に維持されない。リセット信号には2つの種類のフレームが存在する。フレームの1つの種類(例えば、フレーム1202を参照)が、図11のフレームと同等である。これらのフレームでは、リセット信号は、ごく短時間t予備充電期間だけ高位レベルに維持され、コンデンサがVpreに予備充電されるとすぐにリセット信号は、スイッチを開放するために低位に設定され、積分コンデンサncap708の電圧が、浮動しVpre以外の電圧に変化することを可能にする。第2の種類のフレーム(例えば、フレーム1402を参照)は、第1の種類のフレームよりも長い予備充電期間を有する。フレーム1402に示すように、リセット信号は、より長いt予備充電期間高位レベルに維持される。具体的には、リセット信号は、Vliqの明期間の終了部分およびVliqの暗期間の開始部分の間高位レベルに維持され、その結果、Vliqが明期間から暗期間に転換するとき、リセット信号の迅速な遷移は存在しない。
【0067】
[0081]フレーム1402の予備充電期間を延長することによって、電圧源Vpre705は、より長い期間作用電極714に接続され、積分コンデンサVncap図14の下のプロットを参照)の電圧は、Vliqが明期間から暗期間に転換するとき、Vpreに維持される。いくつかの実施形態では、電圧源Vpre705は、0.9Vの大きさの固定の正電圧を供給する。他の実施形態では、Vpreは、0.7〜1.2Vの範囲内から選択される定電圧である。
【0068】
[0082]Vliqが明期間から暗期間に転換するときVncapを一定のより高いレベルに維持することは、その利点を有する。Vliqが明期間から暗期間に転換するときVncapを一定のより高いレベルに維持することの1つの利点は、それが、RC時定数などの脂質二重層内の過渡特性を減少させることである。脂質二重層内により安定した特性を有することによって、積分期間中のVncapの変化率測定は、より信頼できるようになる。
【0069】
[0083]図14に示すように、リセット信号は、Vliqの明期間の終了部分およびVliqの暗期間の開始部分の両方において、高位レベルに維持される。しかしながら、いくつかの他の実施形態では、リセット信号は、Vliqの明期間の終了部分においてのみ、高位レベルに維持され得る。いくつかの他の実施形態では、リセット信号は、Vliqの暗期間の開始部分においてのみ、高位レベルに維持され得る。
【0070】
[0084]いくつかの実施形態では、フレーム1202の予備充電期間は、構成変更可能である。フレーム1202の予備充電期間t予備充電は、50マイクロ秒〜1ミリ秒の範囲の所定の持続時間に構成される。いくつかの実施形態では、フレーム1402の予備充電期間は、構成変更可能である。フレーム1402の予備充電期間t予備充電は、100マイクロ秒〜50ミリ秒の範囲の所定の持続時間に構成される。Vliqの明期間と重複する予備充電期間は、50マイクロ秒〜25ミリ秒である。Vliqの暗期間と重複する予備充電期間は、50マイクロ秒〜25ミリ秒である。
【0071】
[0085]いくつかの実施形態では、リセット信号は、3つの種類のフレーム、フレーム1202、フレーム1204、およびフレーム1402を含む。リセット信号内にフレーム1204および1402を有することによって、積分コンデンサVncapの電圧は、Vliqが明期間から暗期間にまたはその逆に転換するとき、Vpreで維持される。
【0072】
[0086]上述した実施形態は、理解の明確性のために多少詳細に記載されてきたが、本発明は、提供された詳細に限定されるものではない。本発明を実施する多くの代替の方法が存在する。開示された実施形態は、例示的であり限定的ではない。
【0073】
[0087]各々の個別の出版物、特許、特許出願書類、および/または他の文書が、個別に示され、あらゆる目的で参照により組み込まれるように、本明細書で引用されたすべての出版物、特許、特許出願書類、および/または他の文書は、開示全体であらゆる目的で参照することにより、同様に本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14