(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、C:0.02〜0.10%、Mn:0.6〜1.7%、Si:0.5%以下(0%は除く)、P:0.02%以下、S:0.015%以下、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.07%、Ni:0.5%以下及びCr:0.5%以下のうち1種以上、Ti:0.005〜0.035%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織として、面積分率85〜95%のフェライト及び5〜15%のパーライトの複合組織を有し、
フェライト結晶粒サイズ(grain size)がASTM粒度番号7.5以上であり、
−60℃での衝撃靭性が300J以上であることを特徴とする極低温衝撃靭性に優れた厚鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、従来の厚鋼板の低温衝撃靭性などを確保するために製造された熱延鋼板に対して別の焼ならし熱処理を行った。しかし、このような熱処理設備などを用いなくても、従来の方法によって製造された厚鋼板と同等以上の物性を有する厚鋼板を提供するために深く研究した。
【0013】
その結果、合金組成及び製造条件を最適化することにより、焼ならし熱処理を省略しても目標とする物性を有する厚鋼板を製造することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0014】
特に、本発明は、圧延温度を制御することにより、別の焼ならし熱処理を必要としないという点に技術的意義がある。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の極低温衝撃靭性に優れた厚鋼板は、質量%で、C:0.02〜0.10%、Mn:0.6〜1.7%、Si:0.5%以下、P:0.02%以下、S:0.015%以下、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.07%を含むことが好ましい。
【0017】
以下では、本発明で提供する厚鋼板の合金組成を上述のように制御した理由について詳細に説明する。このとき、特に言及しない限り、各成分の含量は質量%を意味する。
【0018】
C:0.02〜0.10%
炭素(C)は、鋼の強度を向上させる必須元素であるが、このようなCの含量が多すぎると、高温強度の向上によって、圧延中に圧延負荷が増加する原因となり、−20℃以下の極低温における靭性の不安定を誘導する。
【0019】
一方、前記Cの含量が0.02%未満であると、本発明で求めるレベルの強度を確保し難く、0.02%未満に制御するためには、追加の脱炭工程が必要とされるため、原価上昇などが引き起こされる恐れがある。一方、その含量が0.10%を超えると、圧延負荷が増加し、且つ極低温靭性の確保が困難になる。
【0020】
したがって、本発明では、前記Cの含量を0.02〜0.10%に制御することが好ましい。より有利には、前記Cの含量を0.05〜0.10%に制御することができる。
【0021】
Mn:0.6〜1.7%
マンガン(Mn)は、鋼の衝撃靭性を確保し、且つSなどの不純物元素を制御するための必須元素であるが、前記Cと共に過剰に添加すると、溶接性が低下する恐れがある。
【0022】
本発明では、上述のようにCの含量を制御することにより、鋼の靭性を効果的に確保することができる。また、高強度を得るために、前記Cを追加せずにMnで強度を向上させることができるため、衝撃靭性を維持することができる。
【0023】
上述の効果のためには、Mnを0.6%以上含むことが好ましい。しかし、その含量が1.7%を超えて多すぎると、過剰な炭素当量によって溶接性が低下し、鋳造中の偏析によって厚鋼板内において靭性が局部的に低下し、クラックが発生するなどの恐れがある。
【0024】
したがって、本発明では、前記Mnの含量を0.6〜1.7%に制御することが好ましい。
【0025】
Si:0.5%以下(0%を除く)
シリコン(Si)は、鋼を脱酸するための主要元素であり、且つ固溶強化によって鋼の強度を確保するのに有利な元素である。
【0026】
但し、このようなSiの含量が0.5%を超えると、圧延中に負荷を増加させ、且つ母材(厚鋼板自体)及び溶接時に得られる溶接部の靭性を劣化させるという問題がある。
【0027】
したがって、本発明では、前記Siの含量を0.5%以下に制御する。但し、0%は除く。
【0028】
P:0.02%以下
リン(P)は、鋼の製造中に不可避に含有される元素であり、偏析しやすく、且つ低温変態組織を容易に形成して靭性の低下に影響が大きい元素である。
【0029】
したがって、このようなPの含量をできるだけ低く制御することが好ましく、本発明では、Pを最大0.02%含有しても物性を確保するのに大きな困難はないため、前記Pの含量を0.02%以下に制御する。
【0030】
S:0.015%以下
硫黄(S)は、鋼の製造中に不可避に含有される元素であり、前記Sの含量が多すぎると、非金属介在物を増加させて靭性を劣化させるという問題がある。
【0031】
したがって、このようなSの含量をできるだけ低く制御することが好ましい。しかし、本発明では、Sを最大0.015%含有しても物性を確保するのに大きな困難はないため、前記Sの含量を0.015%以下に制御する。
【0032】
Nb:0.005〜0.05%
ニオブ(Nb)は、組織を微細に形成するのに有利な元素であり、且つ強度の確保と衝撃靭性の確保に有利な元素である。特に、本発明では、焼ならし圧延時の組織の均質化と共に安定的に組織微細化を得るために、前記Nbの添加が求められる。
【0033】
前記Nbの含量は、圧延のためのスラブ再加熱時の温度及び時間によって溶解するNb量によって決定されるが、含量が通常0.05%を超えると、溶解の範囲を超えるため、好ましくない。一方、前記Nbの含量が0.005%未満であると、析出量が不十分であり、上述の効果を十分に得ることができないため、好ましくない。
【0034】
したがって、本発明では、前記Nbの含量を0.005〜0.05%に制御することが好ましい。
【0035】
V:0.005〜0.07%
バナジウム(V)は、鋼の強度確保に有利な元素である。特に、本発明では、鋼の衝撃靭性を確保するためにCの含量を制限し、偏析の影響を制御するためにMnの含量を制限しているため、前記CとMnの制限による強度不足は、前記Vの添加によって確保することができる。また、前記Vは、低い温度域でその効果を発揮するため、圧延負荷を低減するという効果がある。
【0036】
但し、前記Vの含量が0.07%を超えると、析出物による脆性に影響を及ぼすため、好ましくない。一方、その含量が0.005%未満であると、析出量が不十分となり、上述の効果を十分に得ることができないため、好ましくない。
【0037】
したがって、本発明では、前記Vの含量を0.005〜0.07%に制御することが好ましい。
【0038】
一方、本発明では、上述の合金組成を満たす厚鋼板の物性をより一層向上させるために、Ni及びCrのうち1種以上をそれぞれ0.5%以下、Tiを0.005〜0.035%さらに含むことができる。
【0039】
ニッケル(Ni)及びクロム(Cr)は、鋼の強度を確保するために添加することができ、炭素当量と必須に含有される成分の制限などを考慮して、0.5%以下添加することが好ましい。
【0040】
チタン(Ti)は、窒素と結合して析出物を形成することにより、NbとVによって析出物が過剰に形成されることを制御する。特に、連鋳スラブ生産中に発生し得る表面品質の低下を抑制するという効果がある。
【0041】
上述の効果のためには、Tiを0.005%以上添加することが好ましいが、その含量が0.035%を超えて多すぎると、析出物が粒界に過剰に形成されて鋼の特性を損なう恐れがある。
【0042】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、それを排除することはできない。これら不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を具体的に本明細書に記載しない。
【0043】
上述の合金組成を満たす本発明の厚鋼板は、微細組織として、フェライト及びパーライトの複合組織を含むことが好ましい。
【0044】
より具体的には、本発明は、面積分率で、85〜95%のフェライト及び5〜15%のパーライトを含むことにより、目標とする強度及び衝撃靭性を確保することができる。
【0045】
前記フェライトの分率が過剰となってパーライトの分率が相対的に低くなると、強度を安定的に確保することが困難になる。一方、パーライトの分率が過剰となると、強度及び靭性が低下する恐れがある。
【0046】
このように、フェライト及びパーライトの複合組織を含む本発明において、前記フェライトの結晶粒サイズがASTM粒度番号7.5以上であることが好ましい。
【0047】
もし、前記フェライト結晶粒サイズがASTM粒度番号7.5未満であると、粗大な結晶粒が混入して、目標レベルの均質な靭性を確保することができなくなる。
【0048】
前記合金組成及び微細組織をすべて満たす本発明の厚鋼板は、−60℃での衝撃靭性が300J以上と、優れた極低温衝撃靭性を確保することができる。さらに、求められる強度も確保することができる。
【0049】
本発明の厚鋼板は、5mmt以上、より好ましくは5〜100mmtの厚さを有することが好ましい。
【0050】
以下、本発明の他の一側面である極低温靭性に優れた厚鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0051】
簡単に、本発明は、[鋼スラブ再加熱−熱間圧延−冷却]工程を経て目標とする厚鋼板を製造することができ、各段階の条件については、下記に詳細に説明する。
【0052】
[再加熱段階]
まず、上述の合金組成を満たす鋼スラブを準備した後、それを1100℃以上の温度で再加熱する。
【0053】
前記加熱工程は、鋳造中に形成されたニオブ(Nb)化合物を活用して組織の微細化を図るためのものであり、Nbを再溶解した後に微細に分散させて析出させるために、1100℃以上の温度で行うことが好ましい。
【0054】
もし、前記再加熱時の温度が1100℃未満であると、溶解が適切に行われなくて微細結晶粒を誘導することができず、最終鋼材で強度を確保し難くなる。また、析出物による結晶粒の制御が困難となり、目標とする物性を得ることができなくなる。
【0055】
[熱間圧延]
前記に従って再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。
【0056】
このとき、仕上げ熱間圧延は、850〜910℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0057】
本発明は、別途の焼ならし熱処理を行わなくても、従来の焼ならし材に対して同等以上の物性を有する厚鋼板を提供するために、仕上げ熱間圧延時のその温度を通常の焼ならし熱処理領域に制限する。
【0058】
もし、仕上げ熱間圧延時の温度が850℃未満であると、オーステナイト再結晶温度以下の温度域で圧延が行われるため、圧延中に焼ならし効果を得ることができなくなる。一方、前記温度が910℃を超えると、結晶粒が成長して安定した焼ならしが行われなくなる。
【0059】
[冷却]
前記に従って製造された熱延鋼板を常温まで冷却して最終厚鋼板を製造する。このとき、冷却は空冷を行う。
【0060】
本発明は、熱延鋼板の冷却時に空冷を行うことにより、別の冷却設備を必要としないため、経済的に有利であり、空冷を行っても目標とする物性をすべて得ることができる。
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0062】
(実施例)
表1に示した合金組成を有するスラブを1100℃以上の温度で再加熱した後、表2に示した条件で仕上げ熱間圧延及び冷却を行って最終厚鋼板を製造した。
【0063】
このとき、発明鋼1は、20mmtと30mmtの厚さを有する厚鋼板をそれぞれ製造し、比較鋼1と2はそれぞれ30mmtの厚さを有する厚鋼板を製造した。
【0064】
次に、それぞれの厚鋼板に対して、厚さ1/4t(ここでtは厚さ(mmt)を意味する)地点における微細組織を顕微鏡を用いて観察し、シャルピーV−ノッチ衝撃試験を介して温度ごとの衝撃特性を観察した。それぞれの結果については表3に示した。
【0068】
表1〜3に示すように、同一の厚さ(30mmt)を有しながら、Cを0.15%以上含有する比較鋼1と2はそれぞれ、−40℃、−30℃の領域付近で衝撃遷移が発生したことが確認できる。一方、発明鋼1の場合は、−60℃に至るまで衝撃遷移が発生していないことが確認できる。
【0069】
一方、焼ならし熱処理による物性の変化を確認するために、発明鋼1(厚さ20mmt、30mmt)と比較鋼2(30mmt)に対して、880℃の温度で1インチ厚さ当たり1時間の通常の焼ならし熱処理を行った後、前記焼ならし熱処理前後の引張物性及び衝撃靭性(−20℃)を測定した。また、フェライト結晶粒サイズを測定し、その結果を表4に示した。
【0070】
このとき、引張試験は、全体厚さL
0=5.65√S
0の比例試験片を活用した(ここで、L
0は原標点距離(original gauge length)、S
0は原断面積(original cross−sectional area)を意味する)。
【0072】
表4に示すように、発明鋼1は、厚さに関係なく焼ならし熱処理前後の物性に差がないことが確認できる。
【0073】
一方、比較鋼2は、焼ならし熱処理後の衝撃靭性は向上したものの、厚さが30mmtにもかかわらず、引張強度及び降伏強度が約40MPa程度低下し、本発明のレベルを全く満たしていないことが確認できる。
【0074】
そして、発明鋼1(30mmt)のスラブ再加熱時に抽出温度が強度に及ぼす影響を調べてみた。具体的には、表5に示したそれぞれの抽出温度を満たすようにスラブを再加熱した後に880℃で仕上げ熱間圧延した後、常温まで空冷してそれぞれの厚鋼板を製造した。
【0075】
以後、前記それぞれの厚鋼板に対して引張特性を評価した。
【0077】
表5に示すように、抽出温度が低くなるにつれて強度が低くなることが確認できる。特に、抽出温度が1090℃の場合は、抽出温度が1190℃の場合に比べて強度が約30MPa低下したことが分かる。
【0078】
抽出温度が低くなるにつれて、組織の微細化などに影響を及ぼすNb再固溶効果が減少し、これは同様の圧延条件で強度及び降伏比の減少を引き起こす。
【0079】
したがって、再加熱時の抽出温度が1100℃以上となるように再加熱を行うことが好ましいことが分かる。