(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量%で、C:0.3〜0.8%、Mn:13〜25%、V:0.1〜1.0%、Si:0.005〜2.0%、Al:0.01〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.04%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物からなり、
厚さ方向の断面を見たとき、面積分率で、未再結晶組織を20〜70%、再結晶組織を30〜80%含み、
前記未再結晶組織は、圧延方向に延伸した形であり、アスペクト比が2以上であり、
前記再結晶組織は、アスペクト比が2以下の球状である、成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板。
前記熱延鋼板は、厚さ方向の断面を見たとき、未再結晶組織からなる層と再結晶組織からなる層が交互に形成される、請求項1に記載の成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板。
重量%で、C:0.3〜0.8%、Mn:13〜25%、V:0.1〜1.0%、Si:0.005〜2.0%、Al:0.01〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.04%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物からなる溶鋼を、50℃/s以下の冷却速度で鋳造することで、その内部にV濃度差が発生したスラブを設ける段階と、
前記スラブを1050〜1250℃に加熱する段階と、
前記加熱されたスラブを平均V濃度を有する領域の再結晶温度以上、及び平均V濃度の2倍を有する領域の再結晶温度以下で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を50〜700℃で巻取る段階と、を含み、
前記巻取られた熱延鋼板は、
厚さ方向の断面を見たとき、面積分率で、未再結晶組織を20〜70%、再結晶組織を30〜80%含み、
前記未再結晶組織は、圧延方向に延伸した形であり、アスペクト比が2以上であり、
前記再結晶組織は、アスペクト比が2以下の球状である、成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下に記述する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものである。
【0016】
本発明者らは、高マンガン鋼系熱延鋼板において大量のマンガン及び炭素を添加することで、常温で鋼の微細組織をオーステナイトに確保し、熱間圧延の際の動的及び静的再結晶が完了した球状の粒度を維持した場合、強度及び成形性は確保することができるが、耐疲労亀裂伝播特性が低く、疲労性能が劣化するという問題があり、熱間圧延の際の再結晶域以上の温度で仕上げ圧延して微細組織を転位密度が高い未再結晶組織に制御する場合、疲労亀裂の生成及び伝播に対する抵抗性は高くなるが、成形性が劣化するため、冷間成形による部品の製作が不可能になるという問題がある点を認識し、これを解決するために深く研究した。
【0017】
その結果、鋼成分系のうち、オーステナイト組織の安定化機能を行う成分の含有量を適切に制御するとともに、微細組織を
図1のように成形性に優れた球状の再結晶組織及び耐疲労亀裂伝播特性に優れた延伸した形の未再結晶組織に二元化するように制御することにより、成形性に優れるとともに、疲労特性を大幅に向上させた高マンガン鋼を提供することができる点を確認し、本発明を完成するに至った。
【0018】
成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板
以下、本発明の一側面による成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板について詳細に説明する。
【0019】
本発明の一側面による成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板は、重量%で、C:0.3〜0.8%、Mn:13〜25%、V:0.1〜1.0%、Si:0.005〜2.0%、Al:0.01〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.04%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含み、厚さ方向の断面を見たとき、面積分率で、未再結晶組織を20〜70%、再結晶組織を30〜80%含む。
【0020】
まず、本発明の合金組成について詳細に説明する。以下、各元素含有量の単位は、特に記載しない限り重量%を意味する。
【0021】
炭素(C):0.3〜0.8%
炭素は、オーステナイト相の安定化に寄与する元素であり、その含有量が増加するほどオーステナイト相を確保するために有利な側面がある。さらに、炭素は、鋼の積層欠陥エネルギーを増加させることで、引張強度及び伸びをともに増加させる役割を果たす。かかる炭素の含有量が0.3%未満である場合には、鋼板の高温加工の際に脱炭によって表層にα’(アルファダッシュ)−マルテンサイト相が形成され、遅延破壊及び疲労性能が弱くなるという問題があり、引張強度及び伸びを確保することが難しくなるという問題がある。これに対し、その含有量が0.8%を超えると、電気比抵抗が増加して溶接性が低下するおそれがある。したがって、本発明では、上記炭素含有量を0.3〜0.8%に制限することが好ましい。
また、炭素含有量の下限はより好ましくは0.4%であることができ、さらに好ましくは0.5%であることができる。また、炭素含有量の上限はより好ましくは0.75%であることができる。
【0022】
マンガン(Mn):13〜25%
マンガンは、炭素と同様にオーステナイト相を安定化させる元素であり、その含有量が13%未満である場合には、変形中にα’(アルファダッシュ)−マルテンサイト相が形成され、安定したオーステナイト相を確保することが難しく、これに対し、25%を超えると、本発明の関心事項である強度増加と関連する追加的な向上が実質的に行われず、製造コストが上昇するという問題がある。したがって、本発明において、Mn含有量は13〜25%に制限することが好ましい。
また、マンガン含有量の下限は、より好ましくは14%であることができ、さらに好ましくは15%であることができる。尚、マンガン含有量の上限は、より好ましくは23%であることができ、さらに好ましくは21%であることができる。
【0023】
バナジウム(V):0.1〜1.0%
バナジウムは、熱間圧延の際に再結晶温度を上昇させる元素であり、本発明で最も重要な役割を果たす。バナジウムは、凝固するときに液相として濃化する傾向があり、固相内での拡散速度が遅いことから、圧延のための再加熱工程を経た後でも、凝固組織の鋼中分布が相当部分維持され、圧延の際のバナジウム濃度が高い部分と低い部分での再結晶挙動が異なるようになるため、再結晶組織と未再結晶組織の二元化した微細構造を実現することができる。
上記V含有量が0.1%未満である場合には、上記二元化した微細組織を実現するための圧延条件を満たすことが難しく、鋼板内に組織偏差が発生する可能性がある。これに対し、V含有量が1.0%を超えると、凝固するときに粗大な析出物が生成され、再加熱工程を経ても、鋼板内に残留して圧延の際にクラックを誘発する可能性がある。さらに、V含有量が多すぎる場合にも、上記二元化した微細組織を実現するための圧延条件を満たすことが難しくなりうる。
したがって、本発明において、上記バナジウム含有量は、0.1〜1.0%であることが好ましい。上記二元化した微細組織を実現するための圧延条件をより簡単に満たすためのバナジウム含有量のより好ましい下限は0.15%であることができ、バナジウム含有量のさらに好ましい下限は0.2%であることができ、バナジウム含有量のより好ましい上限は0.9%であることができ、さらに好ましい上限は0.8%であることができる。
【0024】
ケイ素(Si):0.005〜2.0%
ケイ素は、固溶強化による鋼の降伏強度及び引張強度を向上させるために添加することができる成分である。ケイ素は、脱酸剤として用いられるため、通常、0.005%以上鋼中に含まれることができる。ケイ素含有量が2.0%を超えると、熱間圧延の際の表面にケイ素酸化物が大量に形成され、酸洗性を低下させ、電気比抵抗を増加させて溶接性が劣化するという問題がある。したがって、ケイ素含有量は、0.005〜2.0%に制限することが好ましい。
【0025】
アルミニウム(Al):0.01〜2.5%
アルミニウムは、一般に、鋼の脱酸のために添加する元素であるが、本発明では、積層欠陥エネルギーを高めることで、ε(イプシロン)−マルテンサイトの生成を抑制することにより、鋼の延性及び耐遅延破壊特性を向上させる役割を果たす。上記アルミニウム含有量が0.01%未満である場合には、急激な加工硬化現象によって逆に鋼の延性が低下し、耐遅延破壊特性が劣化するという問題がある。これに対し、上記アルミニウム含有量が2.5重量%を超えると、鋼の引張強度が低下し、鋳造性が劣化するため、熱間圧延の際の鋼表面の酸化が激しくなり、表面品質が低下するという問題がある。したがって、本発明では、上記アルミニウム含有量を0.01〜2.5%に制限することが好ましい。
【0026】
リン(P):0.03%以下
リンは、必然的に含まれる不純物であって、偏析により鋼の加工性を低下させるのに主な原因となる元素であるため、その含有量をできる限り低く制御することが好ましい。理論上、リン含有量は0%に制限することが有利であるが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明において、上記リン含有量の上限は0.03%で管理する。
【0027】
硫黄(S):0.03%以下
硫黄は、必然的に含まれる不純物であって、粗大なマンガン硫化物(MnS)を形成してフランジクラックなどの欠陥を発生させ、鋼板の穴拡げ性を大幅に低下させるため、その含有量をできる限り低く制御することが好ましい。理論上、硫黄含有量は0%に制限することが有利であるが、製造工程上必然的に含有せざるを得ない。したがって、上限を管理することが重要であり、本発明において、上記硫黄含有量の上限は0.03%で管理する。
【0028】
窒素(N):0.04%以下(0%を除く)
窒素(N)は、オーステナイト結晶粒内において凝固過程中にAlと作用して微細な窒化物を析出させることで、双晶(Twin)の発生を促進するため、鋼板成形の際の強度及び延性を向上させる。しかし、その含有量が0.04%を超えると、窒化物が過度に析出して熱間加工性及び伸びが低下する可能性がある。したがって、本発明において、上記窒素含有量は、0.04%以下に制限することが好ましい。
【0029】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあり、これを排除することは難しい。これら不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を本明細書に特に記載することはしない。
【0030】
また、上記組成に加えて、重量%で、Ti:0.01〜0.5%、Nb:0.05〜0.5%、Mo:0.01〜0.5%、及びB:0.0005〜0.005%のうち、選択された1種以上をさらに含むことができる。
【0031】
チタン(Ti):0.01〜0.5%
チタン(Ti)は、0.01〜0.5%であることが好ましい。チタンは、鋼内部の窒素と反応して窒化物が沈殿し、熱間圧延の成形性を向上させる。また、上記チタンは、一部鋼材内の炭素と反応して析出相を形成することにより、強度を増加させる役割を果たす。このために、チタンは、0.01%以上含まれることが好ましいが、0.5%を超えると、沈殿物が過度に形成され、部品の疲労特性を悪化させる。したがって、上記チタン含有量は、0.01〜0.5%であることが好ましい。
【0032】
ニオブ(Nb):0.05〜0.5%
ニオブは、炭素または窒素と反応して炭窒化物を形成する元素であり、結晶粒度の微細化及び析出強化により降伏強度を増加させるために添加することができる成分である。かかる効果を得るためは、ニオブ含有量が0.05%以上であることが好ましい。これに対し、ニオブ含有量が0.5%を超えると、高温で粗大な炭窒化物が形成され、熱間加工性が低下するという問題がある。したがって、上記バナジウム含有量は、0.05〜0.5%であることが好ましい。
【0033】
モリブデン(Mo):0.01〜0.5%以下
モリブデンも、炭化物を形成させる元素であって、チタン、バナジウムなどの炭窒化物形成元素と複合添加する際に析出物の大きさを微細に維持することで、降伏強度を増加させる役割を果たす。かかる効果を得るために、モリブデン含有量は0.01%以上であることが好ましいが、モリブデン含有量が0.5%を超えると、その効果が飽和し、製造コストの上昇をもたらす。したがって、上記モリブデン含有量は、0.01〜0.5%であることが好ましい。
【0034】
ホウ素(B):0.0005〜0.005%
ホウ素は、微量添加される場合には、鋳片の粒界を強化し、熱間圧延性を向上させる。但し、ホウ素の含有量が0.0005%未満である場合には、かかる効果が十分に示されず、ホウ素含有量が0.005%を超えると、追加的な性能の向上を期待することができず、コスト上昇をもたらす。したがって、ホウ素含有量は、0.0005〜0.005%であることが好ましい。
【0035】
本発明の熱延鋼板は、厚さ方向の断面を見たとき、面積分率で、未再結晶組織を20〜70%、再結晶組織を30〜80%含む。
【0036】
疲労亀裂は、亀裂先端と隣接する組織内における転位移動によって進展し、成長する。したがって、転位密度が既に高いレベルで形成されている未再結晶組織内における亀裂伝播速度は、再結晶組織内における速度に比べて著しく遅くなる。未再結晶組織が20%未満である場合には、疲労亀裂伝播を抑制するという効果が不十分であり、疲労特性が劣化する可能性がある。これに対し、70%を超えると、成形性を確保するための再結晶組織を十分に確保することができなくなる。
【0037】
再結晶組織は、鋼板の成形性を向上させる役割を果たす。再結晶組織が30%未満である場合には、鋼板の伸びが確保されないため、成形性が劣化する可能性があり、80%を超えると、未再結晶組織を十分に確保することができなくなる。
【0038】
このとき、上記未再結晶組織は、圧延方向に延伸した形であり、アスペクト比が2以上であり、上記再結晶組織は球状であることができる。Vの濃化により未再結晶温度が高いV濃化域は、圧延により圧延方向に延伸した形で鋼板内に残留し、V未濃化域は同一の圧延温度における動的及び静的再結晶によって、球状の粒度を維持しながら鋼板内に残留するようになる。
【0039】
また、厚さ方向の断面を見たとき、未再結晶組織からなる層と再結晶組織からなる層が交互に形成されることができる。
【0040】
このような形により、再結晶組織からなる層間に形成された未再結晶組織が亀裂伝播をより簡単に抑制することができる。
【0041】
また、本発明による熱延鋼板の微細組織は、
面積分率で、オーステナイトを95%以上含むことができる。これは、強度及び伸びをともに確保するためである。より好ましくは、オーステナイト単相であることができる。オーステナイト単相とは、炭化物を除外した微細組織がすべてオーステナイトからなるものを意味する。ここで、一部の避けられない不純物組織が含まれることができる。
【0042】
一方、本発明によるオーステナイト系高マンガン鋼は、伸びが40%以上であり、疲労
強度が300MPa以上であることができる。かかる優れた伸び及び疲労特性を確保することができるため、自動車シャーシ部品用構造部材などに好適に適用することができる。
【0043】
成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法
以下、本発明の他の一側面である成形性及び疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0044】
本発明の他の一側面である降伏強度及び疲労特性に優れた熱延鋼板の製造方法は、上述した合金組成を満たすスラブを設ける段階と、上記スラブを1050〜1250℃に加熱する段階と、上記加熱されたスラブを平均V濃度を有する領域の再結晶温度以上、及び平均V濃度の2倍を有する領域の再結晶温度以下で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を50〜700℃で巻取る段階と、を含む。
【0045】
スラブ準備段階
上述した合金組成を満たすスラブを設ける。
このとき、溶鋼を50℃/s以下の冷却速度で鋳造してスラブ内のV濃度差が発生するように行うことができる。
【0046】
図2(a)は、バナジウム添加量に応じた凝固するときの液相内のバナジウム濃化を示す。液相の分率が減少し、固相の分率が増加するほど液相内バナジウムの濃化が進行し、凝固終了直前の液相内のバナジウム濃度は、添加量の3倍レベルに上昇することを確認することができる。
【0047】
図2(b)は、液相が20%残留する温度における液相内(V濃化域)のV濃度と固相内(未濃化域)のV濃度を示す。液相20%の時点における固相内のV濃度は、添加量とほぼ同様のV濃度を示し、添加量の2倍以上が最終的に凝固される20%液相に濃化することが分かる。
【0048】
凝固するときに発生した固相と液相の分配係数差により、鋼中にバナジウム濃度分布が二元化する。これは、熱間圧延の際の再結晶挙動に影響を与えることで、最終的に二元化した組織を実現することができるようにする。溶鋼の冷却速度が50℃/sを超えると、固相と液相の間の拡散が円滑でないため、意図する濃度分布を得ることが難しい。一方、冷却速度が遅い場合には、相間の元素分配現象が円滑に行われるため、冷却速度の下限については特に限定しない。
【0049】
スラブ加熱段階
上記スラブを1050〜1250℃に加熱する。
スラブ加熱温度が1050℃未満である場合には、熱間圧延の際の仕上げ圧延温度を確保することが難しく、温度低下による圧延荷重が増加し、所定の厚さまで十分に圧延することが難しくなるという問題がある。これに対し、スラブ加熱温度が1250℃を超えると、結晶粒度が増加し、表面酸化が発生するため、強度が低下するか、表面が劣化する傾向があるため好ましくない。また、連鋳スラブの柱状晶粒界に液相膜が形成されるため、後続する熱間圧延の際に亀裂が発生するおそれがある。
【0050】
熱間圧延段階
上記加熱されたスラブを平均V濃度を有する領域の再結晶温度以上、及び平均V濃度の2倍を有する領域の再結晶温度以下で仕上げ圧延して熱延鋼板を得る。
仕上げ圧延温度の制御により、バナジウム濃化層は、未再結晶圧延組織を得るようになり、未濃化層は、球状の再結晶が完了した組織を得るようになる。また、上記仕上げ圧延温度の上限を、平均V濃度の2倍を有する領域の再結晶温度に制限する理由は、凝固末期液相の20%の時点におけるV濃度が平均V濃度の2倍であることから、鋼板組織内における20%以上の未再結晶組織を確保することができるためである。
【0051】
図3(a)は、実験室で製造されたV添加の高Mn鋼の圧延終了温度に応じた再結晶挙動を示すグラフである。この場合、スラブ内のV濃度偏差が発生しないように、スラブ鋳造の際の溶鋼の冷却速度が60℃/s以上になるように厚さ40mm、幅160mmの銅板モールドを用いてインゴットを鋳造し、銅板モールド内に冷却のための水管を挿入して常温まで冷却した。
【0052】
バナジウム添加により再結晶温度が急激に上昇することを確認することができ、1.0wt%以上の領域では上昇率が低くなることが確認できる。
図3(b)は、二元化した組織を実現するためのバナジウム添加量に応じた圧延終了温度を求めるために、平均V濃度の2倍を有する領域の再結晶温度(点線)を求めて、平均V濃度を有する領域の再結晶温度(実線)のように示した。
【0053】
例えば、バナジウムを0.25重量%添加した鋼の場合、平均V濃度を有する領域の再結晶温度は920℃であり、平均V濃度の2倍を有する領域(面積分率で20%を占める0.5重量%以上のバナジウムを含有する濃化域)の再結晶温度は960℃であるため、920℃から960℃の間で仕上げ圧延する場合には、面積分率で80%レベルの再結晶が完了した微細組織、及び20%レベルの未再結晶組織で構成されて二元化した組織を確保することができる。したがって、バナジウム添加量及び仕上げ圧延温度を設定することにより、意図する微細組織を簡単に確保することができる。
【0054】
巻取り段階
上記熱延鋼板を50〜700℃で巻取る段階を含む。
巻取り温度が50℃未満である場合には、鋼板の温度を下げるために冷却水噴射による冷却を必要とするため、不要な工程コストの上昇を誘発する。これに対し、巻取り温度が700℃を超えると、回復により、未再結晶組織内の転位密度が減少し、鋼板の降伏強度が低下するという問題がある。したがって、上記巻取り温度は50〜700℃に制限することが好ましい。
【0055】
このとき、上記巻取られた熱延鋼板を酸洗する段階をさらに行うことができる。これは、酸化層を除去するためである。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0057】
下記表1に示す成分組成を有するスラブを1200℃に加熱した後、下記表2に記載された圧延終了温度で仕上げ圧延し、450℃で巻取ることで熱延鋼板を製造した。
【0058】
上記熱延鋼板の微細組織を観察し、降伏強度、引張強度、伸び、及び疲労
強度を測定して下記表2に記載した。
【0059】
微細組織は、厚さ方向の断面を走査電子顕微鏡で観察して測定し、機械的物性は万能引張実験機を用いて測定した。
【0060】
疲労
強度は、比較例1、比較例2、発明例1に対して曲げ疲労実験機で応力比−1の条件で測定し、疲労限は10,000,000に設定した結果である。
【0061】
【表1】
上記表1において、各元素含有量の単位は重量%である。
【0062】
【表2】
上記表2において、満たしているか否かは、各鋼種の平均V濃度を有する領域の再結晶温度以上、各鋼種の平均V濃度の2倍を有する領域の再結晶温度以下で仕上げ圧延が行われたかどうかを示したものである。満たしている場合をOで示し、満たしていない場合をXで示した。
【0063】
本発明の組成及び製造条件をすべて満たす発明例1及び2の場合は、未再結晶組織の面積分率が20%以上を満たし、40%以上の伸びを確保することができる。
【0064】
これに対し、比較例1の場合は、本発明の組成を満たしていないため、面積分率20%以上の未再結晶組織を確保することができず、疲労性能が劣っていた。
【0065】
比較例2の場合は、本発明の組成は満たしたが、製造条件を満たすことができず、面積分率30%を超える球状の再結晶微細組織を確保することができず、40%以上の伸びを確保することができなかった。
【0066】
比較例3〜比較例5の場合は、本発明の組成物は満たしたが、製造条件を満たすことができず、結果として、面積分率20%以上の未再結晶組織を確保することができなかった。
【0067】
図1は、本発明で実現しようとする微細組織の模式図である。表面30と平行に圧延方向に延伸した未再結晶組織20が、球状の再結晶組織10内に位置する構造を有し、疲労亀裂40は未再結晶組織内で伝播しにくいため、疲労亀裂伝播に優れた構造を示す。
【0068】
図4は、比較例1、比較例2、発明例1の微細組織を示す走査電子顕微鏡写真であって、
図4(a)は比較例1のKAM(Kernal Average Misorientation)を測定した値であり、
図4(b)は同一領域のIQマップ(Image Quality Map)で各組織の形状を示すものである。
図4(c)は比較例2のKAMを測定した値であり、
図4(d)は同一領域のIQマップである。
図4(e)は発明例1のKAMを測定した値であり、
図4(f)は同一領域のIQマップである。KAMはカラーで示され、KAMにおいて青色で示される部分は再結晶が完了した組織であり、緑色、黄色、オレンジ色、赤色で示される領域は、転位密度が高い未再結晶組織である。
図4(a)、
図4(c)、
図4(e)に示すように、KAMを白黒に変換した場合には、青色が最も暗く示されるため、最も暗い色で示される領域が再結晶が完了した組織であり、比較的明るく示される領域は転位密度が高い未再結晶組織である。
【0069】
図4(a)及び
図4(b)から確認できるように、比較例1の微細組織は、大部分再結晶が完了した球状の粒状を維持しており、
図4(c)及び
図4(d)から確認できるように、比較例2の微細組織は、大部分転位密度が高い未再結晶組織で構成される。
図4(e)及び
図4(f)から確認できるように、発明例1の微細組織は、球状の再結晶組織間に圧延方向に延伸した形の未再結晶組織が面積分率46%で存在する。
【0070】
図5は、発明例2の微細組織を示す走査電子顕微鏡写真である。
【0071】
図5(a)は、KAMを測定した値である。KAMは、カラーで示され、KAMにおいて青色で示される部分は再結晶が完了した組織であり、緑色、黄色、オレンジ色、赤色で示される領域は転位密度が高い未再結晶組織である。
図5(a)に示すように、KAMを白黒に変換した場合には、青色が最も暗く示されるため、最も暗く示される領域が再結晶が完了した組織であり、比較的明るく示される領域が転位密度が高い未再結晶組織である。
【0072】
図5(b)は、同一領域のIQマップであって、各組織の形状を示す。再結晶組織は、アスペクト比2以下の球状であり、未再結晶組織は、アスペクト比2以上であり、圧延方向に延伸した形である。
図5(c)は同一領域のバナジウム分布を示し、再結晶が完了した球状の組織に比べて、未再結晶領域のバナジウム濃度が高いことが確認できる。
【0073】
図6は、比較例1及び発明例1の高サイクル疲労特性の測定結果である。鋼板内の未再結晶の面積分率が高く、降伏強度が高い発明例1の場合には、比較例1に比べて同一の疲労応力(Stress Amplitude)に優れた疲労特性を確保することができ、疲労
強度が100Mpa程度上昇したことを確認することができる。これは、微細亀裂が一部発生したとしても、電波に対する抵抗性に優れ、疲労破壊に発展しなかったためである。
【0074】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。