特許第6857289号(P6857289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

特許6857289化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6857289
(24)【登録日】2021年3月23日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/20 20060101AFI20210405BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20210405BHJP
   C08B 11/12 20060101ALI20210405BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   D21H11/20
   D21H11/18
   C08B11/12
   C08B15/04
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2021-503617(P2021-503617)
(86)(22)【出願日】2020年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2020034651
【審査請求日】2021年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2019-168067(P2019-168067)
(32)【優先日】2019年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-168068(P2019-168068)
(32)【優先日】2019年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-168069(P2019-168069)
(32)【優先日】2019年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 友希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩由
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/014255(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/073678(WO,A1)
【文献】 特表2015−502462(JP,A)
【文献】 特開2016−223042(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0338849(US,A1)
【文献】 特開2017−8472(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/189588(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/189590(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/189593(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/189595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法であって、
原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、
前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件でディスクリファイナーを用いて叩解処理する叩解処理工程と、を含み、
BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する製造方法。
【請求項2】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法であって、
原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、
前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件でコニカル型リファイナーを用いて叩解処理する叩解処理工程と、を含み、
BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する製造方法。
【請求項3】
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法であって、
原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、
前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件で高速離解機を用いて解繊処理する工程と、を含み、
BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する製造方法。
【請求項4】
前記化学変性が、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物と、酸化剤を用いて実施する酸化である、請求項1〜3の何れかに記載の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
前記化学変性が、カルボキシメチル変性である、請求項1〜3の何れかに記載の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースを微細化して得られるセルロースナノファイバーやミクロフィブリルセルロース繊維は、繊維幅がナノ〜マイクロオーダーの微細な繊維であり、高強度、高弾性、チキソ性等、通常のパルプにはない機能を有する新規材料として様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
例えば、製紙分野においては、紙の強度を向上させるために紙力向上剤を用いる場合があり、その効果を補強するためにセルロースナノファイバーを添加することが検討されている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−166444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法は、セルロースナノファイバーが高価であるため、セルロースナノファイバーの添加により、得られる紙のコストが上昇するという問題があった。また、セルロースナノファイバーは非常に繊維幅が小さいため、製紙原料に添加して抄紙する際に、抄紙機のワイヤーパートでの脱水や、プレスパートでの搾水により水とともに排出されてしまい、得られる紙の強度が十分に上がらないという問題もあった。
【0006】
発明者らは、セルロースナノファイバーに代えて、セルロースナノファイバーよりも解繊の程度が低いミクロフィブリルセルロース繊維のうち、BET比表面積が高いものを用いることで、低コストで強度の高い紙を製造することができるとの着想を得た。しかし、このような特性のミクロフィブリルセルロース繊維を製造する方法については、検討がされてこなかった。
【0007】
本発明の目的は、BET比表面積が高く、平均繊維幅が特定範囲の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する。
(1)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法であって、原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件でディスクリファイナーを用いて叩解処理する叩解処理工程と、を含み、BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する製造方法。
(2)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法であって、原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件でコニカル型リファイナーを用いて叩解処理する叩解処理工程と、を含み、BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する製造方法。
(3)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法であって、原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件で高速離解機を用いて解繊処理する工程と、を含み、BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する製造方法。
(4)前記化学変性が、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物と、酸化剤を用いて実施する酸化である、(1)〜(3)の何れかに記載の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法。
(5)前記化学変性が、カルボキシメチル変性である、(1)〜(3)の何れかに記載の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平均繊維幅が特定範囲の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法について説明する。本発明において「〜」は端値を含む。すなわち「X〜Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0011】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法(製造方法A)は、原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件でディスクリファイナーを用いて叩解処理する叩解処理工程とを含み、BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する。
【0012】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法(製造方法B)は、原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件でコニカル型リファイナーを用いて叩解処理する叩解処理工程とを含み、BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する。
【0013】
本発明の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法(製造方法C)は、原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件で高速離解機を用いて解繊処理する工程とを含み、BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する。
【0014】
(化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維)
ミクロフィブリルセルロース繊維(以下「MFC」ともいう)とは、パルプ等のセルロース系原料を解繊して得られる500nm以上の平均繊維幅を有する繊維であり、化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維(以下「化学変性MFC」ともいう)とは、化学変性セルロース系原料を解繊して得られるMFCである。本発明において平均繊維幅とは長さ加重平均繊維幅であり、当該繊維幅はABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット社製フラクショネータで測定できる。当該繊維径の下限は好ましくは500nm以上であり、上限は特に限定されないが60μm以下程度である。MFCは、セルロース系原料をビーターやディスパーザーなどで比較的弱く解繊または叩解処理して得られる。したがってMFCは、高圧ホモジナイザーなどでセルロース系原料を強く解繊処理して得られるセルロースナノファイバーと比較して繊維幅が大きく、また繊維自体の過度な微細化を抑制しながら効率的に繊維表面を毛羽立たせた(外部フィブリル化した)形状を有する。
【0015】
(BET比表面積)
本発明の製造方法(製造方法A)により得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、BET比表面積が50m/g以上であり、好ましくは70m/g以上である。
また本発明の製造方法(製造方法B)により得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、BET比表面積が50m/g以上であり、好ましくは60m/g以上、より好ましくは70m/g以上である。
また本発明の製造方法(製造方法C)により得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、BET比表面積が50m/g以上であり、好ましくは70m/g以上である。
BET比表面積が高いと、例えば製紙用添加剤として用いた場合にパルプに結合しやすくなり、歩留まりが向上する、紙への強度付与の効果が高まるなどの利点がある。BET比表面積は、窒素ガス吸着法(JISZ8830)を参考に以下の方法により測定できる:
(1)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の約2%スラリー(分散媒:水)を、固形分が約0.1gとなるように取り分け遠心分離の容器に入れ、100mLのエタノールを加える。
(2)攪拌子を入れ、500rpmで30分以上攪拌する。
(3)撹拌子を取り出し、遠心分離機で、7000G、30分、30℃の条件で化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を沈降させる。
(4)化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維をできるだけ除去しないようにしながら、上澄みを除去する。
(5)100mLエタノールを加え、撹拌子を加え、(2)の条件で攪拌、(3)の条件で遠心分離、(4)の条件で上澄み除去をし、これを3回繰り返す。
(6)(5)の溶媒をエタノールからt−ブタノールに変え、t−ブタノールの融点以上の室温下で、(5)と同様にして撹拌、遠心分離、上澄み除去を3回繰り返す。
(7)最後の溶媒除去後、t−ブタノールを30mL加え、軽く混ぜた後ナスフラスコに移し、氷浴を用いて凍結させる。
(8)冷凍庫で30分以上冷却する。
(9)凍結乾燥機に取り付け、3日間凍結乾燥する。
(10)BET測定装置(Micromeritics(マイクロメリティックス)社製)を用いてBET測定を行う(前処理条件:窒素気流下105℃2時間、相対圧0.01〜0.30、サンプル量30mg程度)。
【0016】
(保水能)
保水能とは、繊維が水を保持する能力を示す指標であり、以下のように求めることができる。
処理後の分散液にイオン交換水を加えて固形分0.3重量%のスラリー(媒質:水)を40mL調製する。このときのスラリーの重量をAとする。次いで高速冷却遠心機を用いてスラリーの全量を、30℃、25000Gの条件で30分間遠心分離し、水相と沈降物とを分離する。このときの沈降物の重量をBとする。また、水相をアルミカップに入れ、105℃で一昼夜乾燥させて水を除去し、水相中の固形分の重量を測定する。この水相中の固形分の重量をCとする。以下の式を用いて、保水能を計算する:
保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)。
保水能は、上述の式の通り、沈降物中の繊維の固形分の重量に対する沈降物中の水の重量に相当する。値が大きいほど、繊維が水を保持する力が高いことを意味する。
なお、本発明の製造方法により得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、食品等に混ぜた際にしっとり感を発揮できる観点、及び紙に外添する際に液だれしにくくとどまりやすい観点から、保水能が22g/g以上であることが好ましく、25g/g以上であることがより好ましく、28g/g以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限しないが、200g/g程度である。
【0017】
(フィブリル化率)
本発明の製造方法により得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、紙などの基質に混ぜた際の補強効果の観点から、フィブリル化率が0.5%以上であることが好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましく、1.5%以上であることがより好ましい。ここで、フィブリル化率とは、繊維表面の毛羽立ち度合の指標であり、例えば、バルメット社製フラクショネータで測定することができる。
【0018】
(粘度)
本発明の製造方法により得られる化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、1重量%、60rpm、25℃の条件におけるB型粘度が、解繊の進み度合の観点から、好ましくは10〜4000mPa・s、より好ましくは20〜3500mPa・s、さらに好ましくは50〜3300mPa・s、70〜3000mPa・sである。
【0019】
(化学変性工程)
化学変性工程では、原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る。
【0020】
(原料パルプ)
原料パルプとしては、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹未漂白サルファイトパルプ(LUSP)、広葉樹漂白サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、加圧砕木パルプ(PGW)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、アルカリ過酸化水素メカニカルパルプ(APMP)、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)、リンター、ジュート、麻、コウゾ、ミツマタ、ケナフ等の草本由来のパルプ、竹由来のパルプ、再生パルプ、古紙パルプ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
(化学変性)
化学変性とはパルプに官能基を導入することであり、化学変性はアニオン変性であることが好ましい、すなわち化学変性パルプはアニオン性基を有することが好ましい。アニオン性基としてはカルボキシル基、カルボキシル基含有基、リン酸基、リン酸基含有基、硫酸エステル基等の酸基が挙げられる。カルボキシル基含有基としては、−COOH基、−R−COOH(Rは炭素数が1〜3のアルキレン基)、−O−R−COOH(Rは炭素数が1〜3のアルキレン基)が挙げられる。リン酸基含有基としては、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は反応条件によっては、塩の形態(例えばカルボキシレート基(−COOM、Mは金属原子))で導入されることもある。本発明において化学変性は酸化またはエーテル化が好ましい。
【0022】
酸化は公知のとおりに実施できる。例えばN−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中で原料パルプを酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0023】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であればいずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4−ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0024】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
【0025】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾重量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、さらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1mmol/g以上3.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下がより好ましく、0.8mmol/g以上2.0mmol/g以下がさらに好ましい。
【0026】
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中でもカルボキシメチル化が好ましい。カルボキシメチル化は、例えば、発底原料としての原料パルプをマーセル化し、その後エーテル化する方法により実施できる。
【0027】
カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5g以上2.0g以下程度精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’−(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾重量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0028】
カルボキシメチル化セルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01以上0.50以下が好ましく、0.05以上0.45以下がより好ましく、0.10以上0.40以下がさらに好ましい。
【0029】
(叩解処理工程)
本発明の製造方法(製造方法A)の叩解処理工程では、固形分濃度を15重量%以下に調整した化学変性パルプに対して、ディスクリファイナーを用いて叩解処理を行う。化学変性パルプに対して叩解処理を行うと、繊維長、繊維幅が小さくなる微細化、および繊維の毛羽立ちが多くなるフィブリル化が進行する。
【0030】
(ディスクリファイナー)
ディスクリファイナーとは、叩解刃のついた円盤(ディスクプレート)が至近距離で向い合い、一方のみまたは相互に逆方向に所定の回転数で回転して、その間を通過するスラリーに対して加圧叩解の効果と遠心力による連続送り出し効果とを与える装置をいう。ディスクリファイナーのうち、ディスクプレートによって形成される叩解間隙の数が一つのものを、シングルディスクリファイナー(「SDR」と略記することがある。)といい、叩解間隙の数が二つのものを、ダブルディスクリファイナーという。シングルディスクリファイナーとしては、例えば、相川鉄工株式会社製のシングルディスクリファイナー、株式会社長谷川鉄工所製のスーパーファイブレーター等が挙げられる。ダブルディスクリファイナーは、2個の固定ディスクとその間で自由に回転するフローティングディスクからなり、例えば、相川鉄工株式会社製のダブルディスクリファイナー、三菱重工業/ベロイト(ジョーンズ)製のダブルディスクリファイナー、石川島産業機械/ブラック・クローソン製のツインハイドラディスク、日立造船(日立造船富岡機械)/エッシャーウイス製のツインディスクリファイナー等が挙げられる。
【0031】
シングルディスクリファイナーは、ダブルディスクリファイナーと比較してクリアランスの調節が行いやすい。したがって、メタルタッチのリスクが減るため、よりクリアランスを狭くすることができる。一方、ダブルディスクリファイナーは、シングルディスクリファイナーと比較して処理量を増やすことができる。目的に応じて使用する装置を選択すればよい。
【0032】
本発明の製造方法Aにおいて、ディスクリファイナーとしてシングルディスクリファイナーを用いる場合の運転条件としては、クリアランスは1.5mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.8mm以下がさらに好ましく、0.6mm以下が特に好ましい、下限は特に制限しないが、メタルタッチを避けるため、0.08mm以上が好ましい。運転温度としては、5〜120℃が好ましい。なお、所望の繊維幅を有する化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維が得られるように、流量、処理時間またはその他条件等は、適宜調整される。
【0033】
本発明の製造方法Aにおいて、叩解処理工程に供する化学変性パルプの固形分濃度は、パルプスラリー移送の観点から15重量%以下であり、0.3〜10重量%が好ましく、0.5〜6重量%がより好ましい。固形分濃度が低すぎると叩解時プレートの刃にかからず、叩解効率が悪い。固形分濃度は叩解処理を含む機械的処理中に変動しうるが、本発明製造方法Aにおいては、叩解処理開始時の固形分濃度を、叩解処理工程における固形分濃度という。
【0034】
化学変性パルプの固形分濃度を15重量%以下に調整する方法としては、希釈が挙げられる。
【0035】
本発明の製造方法Aの叩解処理工程に供する化学変性パルプのpHは、解繊のしやすさの観点から6以上が好ましく、7以上がより好ましい。pHを上記範囲とするための方法としては、NaOHやKOH、炭酸水素ナトリウム等の薬品の添加、または化学変性後の酸性薬品添加量を減らす等が挙げられる。化学変性パルプのpHは叩解処理を含む機械的処理中に変動しうるが、本発明の製造方法Aにおいては、叩解処理開始時のpHを、叩解処理工程におけるpHとする。
【0036】
本発明の製造方法Aの叩解処理工程に供する化学変性パルプは、アルカリ処理を施したものであっても良い。このアルカリ処理には、NaOHやKOH等の任意のアルカリを用いることができる。本発明の製造方法Aに用いる化学変性パルプがアニオン変性パルプの場合、アルカリを添加することにより変性基の末端がNa型等となり、繊維同士の反発が大きくなる。そのため、繊維の静電反発を利用して、効率的に叩解や離解、解繊などの機械的処理を進めることができる。
【0037】
本発明の製造方法Aの叩解処理工程に供する化学変性パルプは、酸処理を施したものであっても良い。本発明の製造方法Aに用いる化学変性パルプがアニオン変性パルプの場合、酸処理を施すことにより変性基の末端がH型となり、水への親和性が低下する。
【0038】
なお、本発明の製造方法Aにおいては、上記のディスクリファイナーを用いた叩解処理工程の前後に、ディスクリファイナー以外の装置を用いた機械的処理を行う機械的処理工程を1以上有するものであっても良い。また、叩解処理工程の前後に、固形分濃度が15重量%より高い化学変性パルプに対して機械的処理を行う機械的処理工程を有するものであっても良い。
【0039】
本発明の製造方法Aにおいて機械的処理とは、繊維を混合しさらに微細化またはフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散、混練等を含む。ここで、固形分濃度が15重量%より高い条件での機械的処理を「高濃度機械的処理」ということがあり、特に機械的処理が叩解である場合は「高濃度叩解」ともいう。同様に、固形分濃度15重量%以下の条件での機械的処理を「低濃度機械的処理」ということがあり、特に機械的処理が叩解である場合は、「低濃度叩解」ともいう。本発明の製造方法Aにおいては、ディスクリファイナーを用いて低濃度叩解する叩解処理工程を、少なくとも1回行うものであれば、機械的処理を複数回実施しても良い。
【0040】
本発明の製造方法Aにおいては、機械的処理を循環運転(バッチ処理)としても良いし、複数の装置を用いた機械的処理を連続して行う連続処理としても良い。高濃度機械的処理と低濃度機械的処理とを組み合わせて実施してもよく、これらの機械的処理を組み合わせる場合、処理の順番は限定されないが、濃縮のしやすさの観点から高濃度機械的処理を先に行うことが好ましい。例えば、化学変性パルプを高濃度機械的処理した後に、当該処理で得られた化学変性パルプを15重量%以下に希釈して、ディスクリファイナーを用いて低濃度叩解処理を行うことにより、MFCを得ることができる。
【0041】
低濃度機械的処理に用いることができる装置としては、例えば高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、コニカル型リファイナー等のリファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、トップファイナー、セブンファイナー、ビートファイナー、ツインビートファイナー、ヘンシェルミキサー、ホモミックラインミルなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるもの、あるいはキャビテーションや水流または水圧によってパルプ繊維を分散または解繊するものを使用することができる。
【0042】
高濃度機械的処理に用いることができる装置としては、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0043】
本発明の製造方法Aによれば、BET比表面積が高く、平均繊維幅が特定範囲の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法を提供することができる。
【0044】
本発明の製造方法Aにおいては、化学変性されたパルプを原料としており、化学変性により導入された置換基の静電的な反発が生じるため、ディスクリファイナーを用いた叩解処理により、効率的に、MFCを得ることができる。
【0045】
本発明の製造方法(製造方法B)の叩解処理工程では、固形分濃度を15重量%以下に調整した化学変性パルプに対して、コニカル型リファイナーを用いて叩解処理を行う。化学変性パルプに対して叩解処理を行うと、繊維長、繊維幅が小さくなる微細化、および繊維の毛羽立ちが多くなるフィブリル化が進行する。
【0046】
(コニカル型リファイナー)
コニカル型リファイナーは、内周面に形成された円錐台形状の固定刃と外周面に形成された円錐台形状の回転刃を有する叩解機の一種であり、固定刃と回転刃の間を通過するスラリーに対して、叩解効果を与える。コニカル型リファイナーとしては、石川島播磨重工業株式会社製のハイドラリファイナー、三菱重工業株式会社製のコニカルリファイナー、株式会社小松製作所製の小松リファイナー、Bolton−Emerson社製のクラフリンリファイナー、相川鉄工株式会社製のスーパーリファイナー、ADCダブルコニファイナー(ADCコニカルリファイナー)等が挙げられる。
【0047】
本発明の製造方法Bにおいて、コニカル型リファイナーの運転条件としては、クリアランスは1.5mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.8mm以下がさらに好ましく、0.6mm以下が特に好ましい、下限は特に制限しないが、メタルタッチを避けるため、0.08mm以上が好ましい。運転温度としては、5〜120℃が好ましい。ADCダブルコニファイナーのように2組の固定刃と回転刃を有するダブル機構のリファイナーを用いる際において、処理量を増やしたい場合には、ダブルで処理を行えばよく、メタルタッチのリスクを減らしたい場合は、クリアランスの調整が行いやすいシングルで処理を行えばよい。なお、所望の繊維幅を有する化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維が得られるように、流量、処理時間またはその他条件等は、適宜調整される。
【0048】
本発明の製造方法Bにおいて、叩解処理工程に供する化学変性パルプの固形分濃度は、パルプスラリー移送の観点から15重量%以下であり、0.3〜10重量%が好ましく、0.5〜6重量%がより好ましい。固形分濃度が低すぎると叩解時プレートの刃にかからず、叩解効率が悪い。固形分濃度は叩解処理を含む機械的処理中に変動しうるが、本発明の製造方法Bにおいては、叩解処理開始時の固形分濃度を、叩解処理工程における固形分濃度という。
【0049】
化学変性パルプの固形分濃度を15重量%以下に調整する方法としては、希釈が挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法Bの叩解処理工程に供する化学変性パルプのpHは、解繊のしやすさの観点から6以上が好ましく、7以上がより好ましい。pHを上記範囲とするための方法としては、NaOHやKOH、炭酸水素ナトリウム等の薬品の添加、または化学変性後の酸性薬品添加量を減らす等が挙げられる。化学変性パルプのpHは叩解処理を含む機械的処理中に変動しうるが、本発明の製造方法Bにおいては、叩解処理開始時のpHを、叩解処理工程におけるpHとする。
【0051】
本発明の製造方法Bの叩解処理工程に供する化学変性パルプは、アルカリ処理を施したものであっても良い。このアルカリ処理には、NaOHやKOH等の任意のアルカリを用いることができる。本発明の製造方法Bに用いる化学変性パルプがアニオン変性パルプの場合、アルカリを添加することにより変性基の末端がNa型等となり、繊維同士の反発が大きくなる。そのため、繊維の静電反発を利用して、効率的に叩解や離解、解繊などの機械的処理を進めることができる。
【0052】
本発明の製造方法Bの叩解処理工程に供する化学変性パルプは、酸処理を施したものであっても良い。本発明の製造方法Bに用いる化学変性パルプがアニオン変性パルプの場合、酸処理を施すことにより変性基の末端がH型となり、水への親和性が低下する。
【0053】
なお、本発明の製造方法Bにおいては、上記のコニカル型リファイナーを用いた叩解処理工程の前後に、コニカル型リファイナー以外の装置を用いた機械的処理を行う機械的処理工程を1以上有するものであっても良い。また、叩解処理工程の前後に、固形分濃度が15重量%より高い化学変性パルプに対して機械的処理を行う機械的処理工程を有するものであっても良い。
【0054】
本発明の製造方法Bにおいて機械的処理とは、繊維を混合しさらに微細化またはフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散、混練等を含む。ここで、固形分濃度が15重量%より高い条件での機械的処理を「高濃度機械的処理」ということがあり、特に機械的処理が叩解である場合は「高濃度叩解」ともいう。同様に、固形分濃度15重量%以下の条件での機械的処理を「低濃度機械的処理」ということがあり、特に機械的処理が叩解である場合は、「低濃度叩解」ともいう。本発明の製造方法Bにおいは、コニカル型リファイナーを用いて低濃度叩解する叩解処理工程を、少なくとも1回行うものであれば、機械的処理を複数回実施しても良い。
【0055】
本発明の製造方法Bにおいては、機械的処理を循環運転(バッチ処理)としても良いし、複数の装置を用いた機械的処理を連続して行う連続処理としても良い。高濃度機械的処理と低濃度機械的処理とを組み合わせて実施してもよく、これらの機械的処理を組み合わせる場合、処理の順番は限定されないが、濃縮のしやすさの観点から高濃度機械的処理を先に行うことが好ましい。例えば、化学変性パルプを高濃度機械的処理した後に、当該処理で得られた化学変性パルプを15重量%以下に希釈して、コニカル型リファイナーを用いて低濃度叩解処理を行うことにより、MFCを得ることができる。
【0056】
低濃度機械的処理に用いることができる装置としては、例えば高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、ディスクリファイナー等のリファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、トップファイナー、セブンファイナー、ビートファイナー、ツインビートファイナー、ヘンシェルミキサー、ホモミックラインミルなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるもの、あるいはキャビテーションや水流または水圧によってパルプ繊維を分散または解繊するものを使用することができる。
【0057】
高濃度機械的処理に用いることができる装置としては、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0058】
本発明の製造方法Bによれば、BET比表面積が高く、平均繊維幅が特定範囲の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法を提供することができる。
【0059】
本発明の製造方法Bにおいては、化学変性されたパルプを原料としており、化学変性により導入された置換基の静電的な反発が生じるため、コニカル型リファイナーを用いた叩解処理により、効率的に、MFCを得ることができる。
【0060】
(解繊処理する工程)
本発明の製造方法(製造方法C)の解繊処理する工程では、固形分濃度を15重量%以下に調整した化学変性パルプに対して、高速離解機を用いて解繊処理を行う。化学変性パルプに対して高速離解機を用いた解繊処理を行うと、繊維長、繊維幅が小さくなる微細化、および繊維の毛羽立ちが多くなるフィブリル化が進行する。
【0061】
(高速離解機)
本発明の製造方法Cに用いる高速離解機は、回転刃と固定刃を有する離解機であり、高速回転する刃物により発生する流体力学的衝撃波で、パルプスラリーを離解するものである。回転刃と固定刃には、各々対をなして複数組の歯形のリングが備えられている。原料入口部分(回転の中心部分)の歯数は少なく、歯幅は大きく、歯間隔も大きいが、外側に行くにしたがって、歯数が多くなり歯幅は小さく、また、歯間隔も小さくなっていく。原料入口部分からパルプスラリーを投入すると、投入したパルプスラリーが外側に移動していき、次第に小さな塊に分割され、さらに面積が拡大して衝撃と流体せん断作用をうけることにより、離解される。本発明の製造方法Cに用いることができる高速離解機としては、特に限定されないが、株式会社協和鉄工所のスーパーデフレカー、株式会社大原機械製作所のアシストファイナー、相川鉄工株式会社製のトップファイナー、セブンファイナー等が挙げられる。
【0062】
トップファイナーは、3組以上の複数の歯形のリングを有するものであり、セブンファイナーは、原料入口側にコーン型の離解刃を備え、外側にディスクプレートを備える。コーン型の離解刃は、複数の歯形のリングを有する。セブンファイナーに送入された原料のパルプスラリーは、高速回転するコーン型離解刃の流体力学的衝撃波により徐々に離解されながら、最終段のディスクプレートに送られる。
【0063】
本発明の製造方法Cにおいて、高速離解機としてトップファイナーを用いる場合の運転条件としては、固定側大リング刃物のスリット幅として、繊維の解繊を進める観点から、1.0mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましい。スリット幅の下限は特に限定されないが通常0.1mm以上である。本発明においては、高速離解機を用いるため、ディスクリファイナーを用いる場合と比較して、繊維長をより均一にすることができる。なお、所望の繊維幅を有する化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維が得られるように、流量、処理時間またはその他条件等は、適宜調整される。
【0064】
本発明の製造方法Cにおいて、解繊処理する工程に供する化学変性パルプの固形分濃度は、パルプスラリー移送の観点から15重量%以下であり、0.3〜10重量%が好ましく、0.5〜6重量%がより好ましい。固形分濃度が低すぎるとスラリー粘度が下がりせん断作用を受けにくく、解繊が進みづらい。固形分濃度は解繊処理を含む機械的処理中に変動しうるが、本発明の製造方法Cにおいては、解繊処理開始時の固形分濃度を、解繊処理する工程における固形分濃度という。
【0065】
化学変性パルプの固形分濃度を15重量%以下に調整する方法としては、希釈が挙げられる。
【0066】
本発明の製造方法Cの解繊処理する工程に供する化学変性パルプのpHは、解繊のしやすさの観点から6以上が好ましく、7以上がより好ましい。pHを上記範囲とするための方法としては、NaOHやKOH、炭酸水素ナトリウム等の薬品の添加、または化学変性後の酸性薬品添加量を減らす等が挙げられる。化学変性パルプのpHは解繊処理を含む機械的処理中に変動しうるが、本発明の製造方法Cにおいては、解繊処理開始時のpHを、解繊処理する工程におけるpHとする。
【0067】
本発明の製造方法Cの解繊処理する工程に供する化学変性パルプは、アルカリ処理を施したものであっても良い。このアルカリ処理には、NaOHやKOH等の任意のアルカリを用いることができる。本発明の製造方法Cに用いる化学変性パルプがアニオン変性パルプの場合、アルカリを添加することにより変性基の末端がNa型等となり、繊維同士の反発が大きくなる。そのため、繊維の静電反発を利用して、効率的に叩解や離解、解繊などの機械的処理を進めることができる。
【0068】
本発明の製造方法Cの解繊処理する工程に供する化学変性パルプは、酸処理を施したものであっても良い。本発明の製造方法Cに用いる化学変性パルプがアニオン変性パルプの場合、酸処理を施すことにより変性基の末端がH型となり、水への親和性が低下する。
【0069】
なお、本発明の製造方法Cにおいては、上記の高速離解機を用いた解繊処理する工程の前後に、高速離解機以外の装置を用いた機械的処理を行う機械的処理工程を1以上有するものであっても良い。また、解繊処理する工程の前後に、固形分濃度が15重量%より高い化学変性パルプに対して機械的処理を行う機械的処理工程を有するものであっても良い。
【0070】
本発明の製造方法Cにおいて機械的処理とは、繊維を混合しさらに微細化またはフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散、混練等を含む。ここで、固形分濃度が15重量%より高い条件での機械的処理を「高濃度機械的処理」ということがある。同様に、固形分濃度15重量%以下の条件での機械的処理を「低濃度機械的処理」ということがあり、特に機械的処理が解繊である場合は、「低濃度解繊」ともいう。本発明の製造方法Cにおいは、高速離解機を用いて低濃度解繊する解繊処理する工程を、少なくとも1回行うものであれば、機械的処理を複数回実施しても良い。
【0071】
本発明の製造方法Cにおいては、機械的処理を循環運転(バッチ処理)としても良いし、複数の装置を用いた機械的処理を連続して行う連続処理としても良い。高濃度機械的処理と低濃度機械的処理とを組み合わせて実施してもよく、これらの機械的処理を組み合わせる場合、処理の順番は限定されないが、濃縮のしやすさの観点から高濃度機械的処理を先に行うことが好ましい。例えば、化学変性パルプを高濃度機械的処理した後に、当該処理で得られた化学変性パルプを15重量%以下に希釈して、高速離解機を用いて低濃度解繊処理を行うことにより、MFCを得ることができる。
【0072】
低濃度機械的処理に用いることができる装置としては、例えば高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、ディスクリファイナー、コニカル型リファイナー等のリファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、ビートファイナー、ツインビートファイナー、ヘンシェルミキサー、ホモミックラインミルなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるもの、あるいはキャビテーションや水流または水圧によってパルプ繊維を分散または解繊するものを使用することができる。
【0073】
高濃度機械的処理に用いることができる装置としては、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0074】
本発明の製造方法Cによれば、BET比表面積が高く、平均繊維幅が特定範囲の化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を与える化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法を提供することができる。
【0075】
本発明の製造方法Cにおいては、化学変性されたパルプを原料としており、化学変性により導入された置換基の静電的な反発が生じるため、高速離解機を用いた解繊処理により、効率的に、MFCを得ることができる。
【0076】
本発明の製造方法A〜Cによって得られた化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は、化学変性パルプを原料としており、繊維表面に官能基が配されているため、官能基由来の様々な機能性を有する。このため本発明の製造方法により得られた化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維は種々の用途に使用でき、一般的に添加剤が用いられる様々な分野において、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水材、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤、混和剤等として使用することができる。当該分野としては、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物等が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0078】
(実施例1)
<化学変性パルプの調製1>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%:日本製紙株式会社製)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応混合物に塩酸を添加してpH2に調整した後ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗・脱水して最終的にパルプ固形分濃度が20重量%の化学変性パルプ(TEMPO酸化パルプ)を得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.42mmol/gであった。
【0079】
得られたTEMPO酸化パルプをイオン交換水に分散し、水酸化ナトリウムを加えて攪拌することにより、pH8.6、固形分濃度4重量%のTEMPO酸化パルプの水分散液を得た。
【0080】
<叩解>
得られたTEMPO酸化パルプの水分散液58kgをシングルディスクリファイナー(相川鉄工株式会社製、プレート:刃幅:0.8mm、溝幅:1.5mm)を用い、クリアランス:0.23〜0.25mmの条件で10分間循環運転を行い、叩解処理して、TEMPO酸化パルプをMFCとした。次いで、後述する方法によって、当該MFCを評価した。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
実施例1で得られた固形分濃度20重量%のTEMPO酸化パルプをイオン交換水に分散させ、水酸化ナトリウムを加えて攪拌することにより、固形分濃度2重量%のTEMPO酸化パルプの水分散液を得た。
このTEMPO酸化パルプの水分散液2kgを、パルプ離解機(無段変速機付)(熊谷理機工業株式会社製)を用い、回転数3000rpmで10分間運転を行って処理した。この水分散液のpHは7.5であった。次いで、後述する方法によって、処理後のTEMPO酸化パルプの水分散液を評価した。結果を表1に示す。
なお、固形分濃度4重量%のTEMPO酸化パルプについても、上記パルプ離解機を用いて同様の条件で処理を試みたが、流動性が悪く、うまく撹拌することができなかった。長時間運転しても、フィブリル化は進まず、粘度も上昇することがなかった。
【0082】
(実施例2)
<化学変性パルプの調製2>
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙株式会社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で111g加え、パルプ固形分が20重量%になるように水を加えた。その後、この混合物を30℃で30分撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。この混合物を30分撹拌した後に、70℃まで昇温しさらに1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和後、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.26の化学変性パルプ(CM化パルプ)を得た。
【0083】
得られたCM化パルプを固形分濃度98重量%となるまで脱水、乾燥した。このCM化パルプをイオン交換水に分散させ、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、pH8.1、固形分濃度4重量%のCM化パルプの水分散液を得た。
【0084】
<叩解>
得られたCM化パルプの水分散液58kgをシングルディスクリファイナー(相川鉄工株式会社製、プレート:刃幅:0.8mm、溝幅:1.5mm)を用い、クリアランス:0.16〜0.18mmの条件で10分間循環運転を行い、叩解処理して、CM化パルプをMFCとした。次いで、後述する方法によって、当該MFCを評価した。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
実施例2で得られた固形分濃度98重量%のCM化パルプをイオン交換水に分散させ、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、固形分濃度2重量%のCM化パルプの水分散液を得た。
このCM化パルプの水分散液2kgを、パルプ離解機(無段変速機付)(熊谷理機工業株式会社製)を用い、回転数3000rpmで10分間運転を行って処理した。この水分散液のpHは7.3であった。次いで、後述する方法によって、処理後のCM化パルプの水分散液を評価した。結果を表1に示す。
なお、固形分濃度4重量%のCM化パルプについても、上記パルプ離解機を用いて同様の条件で処理を試みたが、流動性が悪く、うまく撹拌することができなかった。長時間運転しても、フィブリル化は進まず、粘度も上昇することがなかった。
【0086】
【表1】
【0087】
(実施例3)
<化学変性パルプの調製3>
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙株式会社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で111g加え、パルプ固形分が20重量%になるように水を加えた。その後、この混合物を30℃で30分撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。この混合物を30分撹拌した後に、70℃まで昇温しさらに1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和後、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.26の化学変性パルプ(CM化パルプ)を得た。
【0088】
得られたCM化パルプを固形分濃度98重量%となるまで脱水、乾燥した。このCM化パルプを水に分散させ、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、pH8.2、固形分濃度4重量%のCM化パルプの水分散液を得た。
【0089】
<叩解>
得られたCM化パルプの水分散液58kgをADCダブルコニファイナー(相川鉄工株式会社製、プレート:刃幅:1.0mm、溝幅:2.0mm)を用い、クリアランス:0.4mmの条件で10分間循環運転を行い、叩解処理して、CM化パルプをMFCとした。次いで、後述する方法によって、当該MFCを評価した。結果を表2に示す。
【0090】
(比較例3)
実施例3で得られた固形分濃度98重量%のCM化パルプをイオン交換水に分散させ、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、固形分濃度2重量%のCM化パルプの水分散液を得た。
このCM化パルプの水分散液2kgを、パルプ離解機(無段変速機付)(熊谷理機工業株式会社製)を用い、回転数3000rpmで10分間運転を行って処理した。この水分散液のpHは7.3であった。次いで、後述する方法によって、処理後のCM化パルプの水分散液を評価した。結果を表2に示す。
なお、固形分濃度4重量%のCM化パルプについても、上記パルプ離解機を用いて同様の条件で処理を試みたが、流動性が悪く、うまく撹拌することができなかった。長時間運転しても、フィブリル化は進まず、粘度も上昇することがなかった。
【0091】
【表2】

(実施例4)
<化学変性パルプの調製4>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%:日本製紙株式会社製)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応混合物に塩酸を添加してpH2に調整した後、ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗・脱水して最終的にパルプ固形分濃度が20重量%の化学変性パルプ(TEMPO酸化パルプ)を得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.42mmol/gであった。
【0092】
得られたTEMPO酸化パルプをイオン交換水に分散し、水酸化ナトリウムを加えて攪拌することにより、pH7.5、固形分濃度2重量%のTEMPO酸化パルプの水分散液を得た。
【0093】
<解繊>
得られたTEMPO酸化パルプの水分散液88kgをトップファイナー(相川鉄工株式会社製、固定側最外周刃物のスリット幅:0.5mm)を用い、10分間循環運転を行い、解繊処理して、TEMPO酸化パルプをMFCとした。次いで、後述する方法によって、当該MFCを評価した。結果を表3に示す。
【0094】
(比較例4)
実施例4で得られたTEMPO酸化パルプをイオン交換水に分散させ、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、固形分濃度2重量%のTEMPO酸化パルプの水分散液を得た。
このTEMPO酸化パルプの水分散液2kgを、パルプ離解機(無段変速機付)(熊谷理機工業株式会社製)を用い、回転数3000rpmで10分間運転を行って処理した。この水分散液のpHは7.5であった。次いで、後述する方法によって、処理後のTEMPO酸化パルプの水分散液を評価した。結果を表3に示す。
【0095】
(実施例5)
<化学変性パルプの調製5>
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙株式会社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で111g加え、パルプ固形分が20重量%になるように水を加えた。その後、この混合物を30℃で30分撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。この混合物を30分撹拌した後に、70℃まで昇温しさらに1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和後、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.26の化学変性パルプ(CM化パルプ)を得た。
【0096】
得られたCM化パルプを固形分濃度98重量%となるまで脱水、乾燥した。このCM化パルプをイオン交換水に分散させ、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、pH8.2、固形分濃度2重量%のCM化パルプの水分散液を得た。
【0097】
<解繊>
得られたCM化パルプの水分散液88kgをトップファイナー(相川鉄工株式会社製、固定側最外周刃物のスリット幅:0.5mm)を用い、10分間循環運転を行い、解繊処理して、CM化パルプをMFCとした。次いで、後述する方法によって、当該MFCを評価した。結果を表3に示す。
【0098】
(比較例5)
実施例5で得られた固形分濃度98重量%のCM化パルプをイオン交換水に分散させ、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することにより、固形分濃度2重量%のCM化パルプの水分散液を得た。
このCM化パルプの水分散液2kgを、パルプ離解機(無段変速機付)(熊谷理機工業株式会社製)を用い、回転数3000rpmで10分間運転を行って処理した。この水分散液のpHは7.3であった。次いで、後述する方法によって、処理後のCM化パルプの水分散液を評価した。結果を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
以下のようにして物性および特性を評価した。
<平均繊維長、平均繊維幅>
処理後の分散液にイオン交換水を加えて0.25重量%スラリーを調製し、バルメット社製フラクショネータを用いて測定し、length−weighted fiber width及びlength−weighted average fiber lengthとして求めた(n=2)。
【0101】
<フィブリル化率>
処理後の分散液にイオン交換水を加えて0.25重量%スラリーを調製し、バルメット社製フラクショネータを用いて測定した。
【0102】
<粘度>
処理後の分散液にイオン交換水を加えて1重量%スラリーを調製し、25℃で3時間放置した後、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、No.1〜4のうち適切なローターを使用して回転数60rpmで1分後の粘度を測定した。
【0103】
<保水能>
処理後の分散液にイオン交換水を加えて固形分0.3重量%のスラリー(媒質:水)を40mL調製した。このときのスラリーの重量をAとする。次いで、高速冷却遠心機を用いてスラリーの全量を、30℃、25000Gの条件で30分間遠心分離し、水相と沈降物とを分離した。このときの沈降物の重量をBとする。また、水相をアルミカップに入れ、105℃で一昼夜乾燥させて水を除去し、水相中の固形分の重量を測定した。この水相中の固形分の重量をCとする。以下の式を用いて、保水能を計算した:
保水能=(B+C−0.003×A)/(0.003×A−C)。
保水能は、上述の式の通り、沈降物中の繊維の固形分の重量に対する沈降物中の水の重量に相当する。値が大きいほど、繊維が水を保持する力が高いことを意味する。
【0104】
<BET比表面積>
BET比表面積は、窒素ガス吸着法(JIS Z 8830)を参考に以下の方法により測定した:
(1)処理後の分散液に、必要に応じてイオン交換水を加えて約2%スラリー(分散媒:水)を調製し、これを固形分が約0.1gとなるように取り分け遠心分離の容器に入れ、100mLのエタノールを加えた。
(2)攪拌子を入れ、500rpmで30分以上攪拌した。
(3)撹拌子を取り出し、遠心分離機で、7000G、30分、30℃の条件でフィブリル化された化学変性セルロース繊維を沈降させた。
(4)フィブリル化された化学変性セルロース繊維をできるだけ除去しないようにしながら、上澄みを除去した。
(5)100mLエタノールを加え、撹拌子を加え、(2)の条件で攪拌、(3)の条件で遠心分離、(4)の条件で上澄み除去をし、これを3回繰り返した。
(6)(5)の溶媒をエタノールからt−ブタノールに変え、t−ブタノールの融点以上の室温下で、(5)と同様にして撹拌、遠心分離、上澄み除去を3回繰り返した。
(7)最後の溶媒除去後、t−ブタノールを30mL加え、軽く混ぜた後ナスフラスコに移し、氷浴を用いて凍結させた。
(8)冷凍庫で30分以上冷却した。
(9)凍結乾燥機に取り付け、3日間凍結乾燥した。
(10)BET測定装置(Micromeritics(マイクロメリティックス)社製)を用いてBET測定を行った(前処理条件:窒素気流下105℃2時間、相対圧0.01〜0.30、サンプル量30mg程度)。

【要約】
原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る化学変性工程と、前記化学変性工程で得た化学変性パルプを固形分濃度15重量%以下の条件でディスクリファイナーを用いて叩解処理する叩解処理工程と、を含み、BET比表面積が50m/g以上、平均繊維幅が500nm以上である化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維を製造する。