(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ドーピング効果を経時的に持続させることが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みて成されたものであり、その第一の目的は、良好な導電性および導電特性の経時的安定性に優れる多層カーボンナノチューブ含有組成物およびその製造方法を提供することであり、その第2の目的は、高温環境下での導電性および抵抗値安定性に優れるカーボンナノチューブ含有組成物を製造可能な単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
[1]: 多層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法であって、カーボンナノチューブに、2配位ホウ素カチオン塩と接触させる接触工程を含み、前記カーボンナノチューブは、当該カーボンナノチューブの総数を100%としたときに、3層以上のカーボンナノチューブを35%以上含む多層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
[2]: 前記2配位ホウ素カチオンが、下記一般式(1)
【化1】
[式中、R
1,R
2は、其々独立にフェニル基、メシチル基、1,5−ジメチルフェニル基、1,3,5−トリイソプロピルフェニル基、1,5−ジイソプロピルフェニル基、1,3,5−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基および1,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基からなる群より選択される化合物である。]
で表される[1]に記載の多層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
[3]: 前記2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンが、フッ素系アニオンおよびカルボラン誘導体の少なくとも一方を含み、前記フッ素系アニオンは、BF
4−、PF
6−、TFSI、テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートからなる群より選択される少なくとも一つであり、前記カルボラン誘導体は、モノカルバークロソードデカボラート(HCB
11H
11−)、モノカルバークロソーウンデカクロロドデカボラート(HCB
11Cl
11−)からなる群より選択される少なくとも一つである[1]又は[2]に記載の多層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
[4]: 前記接触工程は、(i)基材上に前記カーボンナノチューブを塗工し、得られた塗工膜と前記2配位ホウ素カチオン塩を接触する、(ii)前記カーボンナノチューブと前記2配位ホウ素カチオン塩を溶媒中で混合する、(iii)前記カーボンナノチューブの粉体と前記2配位ホウ素カチオン塩の粉体を混合する工程から選択される少なくともいずれかを含む[1]〜[3]のいずれかに記載の多層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
[5]: 多層カーボンナノチューブと、2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンとを含み、前記多層カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの総数を100%としたときに、3層以上のカーボンナノチューブを35%以上含み、
前記対アニオンは、フッ素系アニオンおよびカルボラン誘導体の少なくとも一方を含み、前記フッ素系アニオンは、BF
4−、PF
6−、TFSI、テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートからなる群より選択される少なくとも一つであり、前記カルボラン誘導体は、モノカルバークロソードデカボラート(HCB
11H
11−)、モノカルバークロソーウンデカクロロドデカボラート(HCB
11Cl
11−)からなる群より選択される少なくとも一つである多層カーボンナノチューブ含有組成物。
[6]: さらに、樹脂を含有してなる[5]に記載の多層カーボンナノチューブ含有組成物。
[7]: 単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法であって、
カーボンナノチューブの総数を100%としたときに、単層カーボンナノチューブおよび/又は2層カーボンナノチューブを70%以上含む単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有物に、2配位ホウ素カチオン塩と接触させる接触工程を含み、
単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
[8]: 前記2配位ホウ素カチオンが、下記一般式(1)
【化2】
[式中、R
1,R
2は、其々独立にフェニル基、メシチル基、1,5−ジメチルフェニル基、1,3,5−トリイソプロピルフェニル基、1,5−ジイソプロピルフェニル基、1,3,5−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基および1,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基からなる群より選択される化合物である。]
で表される[7]に記載の単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
[9]: 前記2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンが、フッ素系アニオンおよびカルボラン誘導体の少なくとも一方を含み、
前記フッ素系アニオンは、BF
4−、PF
6−、TFSI、テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートからなる群より選択される少なくとも一つであり、
前記カルボラン誘導体は、モノカルバークロソードデカボラート(HCB
11H
11−)、モノカルバークロソーウンデカクロロドデカボラート(HCB
11Cl
11−)からなる群より選択される少なくとも一つである[7]又は[8]に記載の単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
[10]: 前記接触工程は、
(i)基材の上に前記単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有物を塗工し、得られた塗工膜上に、前記2配位ホウ素カチオン塩を塗布する工程を含む[7]〜[9]のいずれかに記載の単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な導電性および導電特性の経時的安定性に優れるカーボンナノチューブ含有組成物を提供できるという優れた効果を奏する。また、高温環境下での導電性および抵抗値安定性に優れるCNT含有組成物を製造可能なドーピングされた単層および/又は2層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法を提供することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本明細書において特定する数値は、実施形態に開示した方法により求められる値である。
【0013】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る多層カーボンナノチューブ含有組成物の製造方法は、多層カーボンナノチューブに、2配位ホウ素カチオン塩を接触させる接触工程を含む。第1実施形態に係る多層カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの総数を100%としたときに、3層以上の多層カーボンナノチューブを35%以上含む。以下、カーボンナノチューブをCNTと略記する場合がある。
【0014】
CNTは、層構造により単層(シングルウオール)と多層(マルチウオール)に大別されるが、第1実施形態においては、前述した通り、CNTの総数を100%としたときに3層以上のCNTを35%以上含む多層CNTを用いる。このような多層CNTは、気相流動法、アーク放電法および触媒担持気相成長法等により製造することができる。市販されている多層CNTを用いてもよい。例えば、VGCF−H(登録商標、昭和電工社製)が例示できる。
【0015】
本明細書においては、多層CNTにおける3層以上の割合は以下のように求めた。すなわち、多層CNT含有組成物の塗膜を形成し、これを透過型電子顕微鏡によって直接観察し、一定の領域(少なくとも100本が観察できる領域)にある単層、2層および3層以上のCNTに対する3層以上のCNTの本数の割合を求めた。多層CNT含有組成物が、溶媒に分散または溶解している組成物の場合には、適宜、希釈を行い、塗膜を形成して溶媒を除去した後に透過型電子顕微鏡による直接観察を行い、上記と同様にして3層以上のCNTの本数の割合を求めた。この際、必要に応じて溶媒を置換してもよい。また、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて観察してもよい。CNT含有組成物中に含まれている他の成分は、測定に際して除去しても除去せずに測定してもよい。
【0016】
2配位ホウ素カチオン塩は、多層CNTに対してドーピング剤として添加される。2配位ホウ素カチオン塩における2配位ホウ素カチオンは、強力な酸化剤として機能する。すなわち、多層CNTに2配位ホウ素カチオン塩を接触させると、2配位ホウ素カチオン塩の2配位ホウ素カチオンが多層CNTに対して酸化剤として機能し、多層CNTに正孔が形成される。これにより多層CNTの導電性を向上させることができる。また、2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンは、正孔が形成された多層CNTの周囲にアニオンカウンターとして存在する。これにより、多層CNTの導電特性の経時的安定性向上を図ることができる。
【0017】
2配位ホウ素カチオンは特に限定されないが、好ましい例として、2配位ホウ素カチオンの配位基として、少なくとも一方にフェニル基、メシチル基(1,3,5−トリメチルフェニル基)、1,5−ジメチルフェニル基、1,3,5−トリイソプロピルフェニル基、1,5−ジイソプロピルフェニル基、1,3,5−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基、1,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基からなる群より選択された少なくとも1つを有する基が例示できる。
【0018】
2配位ホウ素カチオンの好ましい例としては、下記一般式(1)で表される化合物がある。
【化3】
式中、R
1,R
2は、其々独立にフェニル基、メシチル基、1,5−ジメチルフェニル基、1,3,5−トリイソプロピルフェニル基、1,5−ジイソプロピルフェニル基、1,3,5−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基、1,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基からなる群より選択される化合物である。
【0019】
2配位ホウ素カチオンと塩を形成する対アニオンは、フッ素系アニオンおよびカルボラン誘導体の少なくとも一方であることが好ましい。フッ素系アニオンとしては、BF
4−、PF
6−、TFSI、テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートからなる群より選択される少なくとも一つが例示できる。また、カルボラン誘導体としては、モノカルバークロソードデカボラート(HCB
11H
11−)、モノカルバークロソーウンデカクロロドデカボラート(HCB
11Cl
11−)からなる群より選択される少なくとも一つが例示できる。
【0020】
2配位ホウ素カチオン塩を溶解する溶媒は、ホウ素カチオンと反応しない溶媒を用いる。例えば、オルトジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、メシチレン等の非極性溶媒が好ましい。
【0021】
2配位ホウ素カチオン塩は、例えば、非特許文献1〜3の方法を用いて合成できる。例えば、式(2)により表されるモノカルバークロソーウンデカクロロドデカボラートを対アニオンとするジメシチルボリニウムイオンMes
2B
+(HCB
11Cl
11−)は、以下の方法により合成できる。
【化4】
【0022】
まず、アルゴンないし窒素雰囲気下、酸素、水濃度それぞれ0.1ppm以下に制御されたグローブボックス中で、トリエチルシリルカチオンのモノカルバークロソーウンデカクロロドデカボラート塩[Et
3Si
+(HCB
11Cl
11−)](非特許文献2参照)の乾燥オルトジクロロベンゼン溶液にフルオロジメシチルボラン)を室温で加え、混合物を25℃で5分間撹拌する。減圧下、反応溶液を留去し、0.5mL程度に濃縮する。得られた反応混合物に、蒸気拡散法によりヘキサン蒸気を導入することで、無色透明結晶が析出する。この結晶をろ取し、乾燥ヘキサンで洗浄することにより、[Mes
2B
+(HCB
11Cl
11−)]が無色透明結晶として得られる。
【0023】
また、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートを対アニオンとするジメシチルボリニウムイオンMes
2B
+[(C
6F
5)
4B
−]は、Mes
2B
+(HCB
11Cl
11−)の場合と同様の操作により、Et
3Si
+(HCB
11Cl
11−)の代わりにEt
3Si
+[(C
6F
5)
4B
−]のメシチレン付加体(非特許文献3参照)を用いることで、Mes
2B
+[(C
6F
5)
4B
−]が無色透明結晶として得られる。
【0024】
第1実施形態の多層CNT含有組成物の製造方法は、前述した様に、多層CNTに、2配位ホウ素カチオン塩を接触させる接触工程を含む。接触工程は,多層CNTを2配位ホウ素カチオンにより酸化し、且つ2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンを多層CNTに残存できる方法であれば如何なる方法でもよい。好ましい例として、以下の(i)〜(iii)がある。
(i)基材上に多層CNTを塗工し、得られた塗工膜と2配位ホウ素カチオン塩を接触する。
(ii)多層CNTと2配位ホウ素カチオン塩を溶媒中で混合する。
(iii)多層CNTの粉体と2配位ホウ素カチオン塩の粉体を混合する。
これらの工程は、単独または組み合わせて用いられる。
【0025】
上記(i)の方法、すなわち、多層CNTの塗工膜に2配位ホウ素カチオン塩を接触する方法として、スピンコーティング法、ディップコーティング法、インクジェット法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法等の方法が例示できる。これらの塗布方法は組み合わせて用いてもよい。
【0026】
一例として、2配位ホウ素カチオンを含まない多層CNT含有組成物(本明細書においては、ドープ前多層CNT含有組成物ともいう)又は多層CNTを用意し、これを良溶媒に溶解させ、スピンコート法等を用いて基材上に塗膜を得る。次いで、2配位ホウ素カチオン塩の溶液(例えば、オルトシクロロベンゼン飽和溶液)を用意し、塗膜付き基材を当該溶液に浸漬する(例えば、1分)。この際、2配位ホウ素カチオンが強力な酸化剤として機能し、多層CNTに正孔が形成される。それに伴い、2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンは、多層CNTのカウンターアニオンとして機能する。酸化剤として用いられた2配位ホウ素カチオンは、溶液と共に除去される。必要に応じて洗浄工程を追加してもよい。その後、常温または加熱乾燥する。これらの工程を経て、塗膜中に2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンが残存した多層CNT含有組成物からなる塗膜が得られる。
【0027】
塗工膜に用いる基材は、目的やニーズに応じてガラスや樹脂から適宜選定する。機械的強度や透明度が必要な場合には、ガラスが好適であり、透明性が必要とされる用途には(メタ)アクリレート樹脂等が好適である。基材は、単一または複数の積層体から構成される。
【0028】
上記(ii)の方法、すなわち、溶媒中で混合することにより接触させる方法として、以下の方法が例示できる。多層CNTとして、例えばVGCF−H(登録商標、昭和電工社製)等の市販品を用意し、これを良溶媒に溶解させる。溶媒としては、例えば、オルトジクロロベンゼンなどがある。次いで、これに2配位ホウ素カチオン塩を添加して混合する。ドーピング濃度は特に限定されないが、例えば、0.01〜30mMである。これらの工程を経て、2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンがドーピングされた多層CNT含有組成物が得られる。得られた多層CNT含有組成物は、塗工によりフィルム状としたり、射出成形、押し出し成形、シート成型により成形処理したりすることができる。
【0029】
上記(iii)の方法、すなわち、多層CNTの粉体と2配位ホウ素カチオン塩の粉体を混合する方法は、混合機を用いて均一に混合を行えばよい。この場合、2配位ホウ素カチオンは多層CNTを酸化してニュートラルな化合物として残存することになるが、導電性や経時安定性には影響しない。薄膜形成時等において、溶媒に溶解する工程を行えば、その大半が除去される。なお、用いる多層CNT粉体と2配位ホウ素カチオン塩の粉体は、必要に応じて気流粉砕処理などを行ってもよい。また、粉体を混合する際に、他の化合物も合わせて混合する方法、或いは既に多層CNT等と混合されているドープ前多層CNT含有組成物と2配位ホウ素カチオン塩を混合する方法でもよい。
【0030】
多層CNT含有組成物には、多層CNTおよび2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンの他に、他の化合物を添加することができる。他の化合物は目的およびニーズに応じて適宜選定できる。好適な例として樹脂、多層CNT以外の炭素繊維(例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、ミルドカーボンファイバー)がある。また、分散剤、消泡剤、可塑剤、酸化防止剤および結着材等を加えてもよい。樹脂は、熱可塑性樹脂、硬化性化合物を含む熱硬化性樹脂等が例示できる。また、感光性樹脂、導電性樹脂も好適に用いられる。
【0031】
好適な例としては、熱可塑性樹脂、多層CNT、2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンを含む多層CNT含有組成物からなる複合材料、導電性高分子、多層CNT、2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンを含む多層CNT含有組成物からなる複合材料が挙げられる。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等のスチレン系(共)重合体;ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、HIPS樹脂等のゴム強化樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等の、炭素数2〜10のα−オレフィンの少なくとも1種からなるα−オレフィン(共)重合体並びにその変性重合体(塩素化ポリエチレン等)、環状オレフィン(たとえばノルボルネン)共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリアクリル酸等のアイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のエチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体のアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6、6ポリアミド612等のポリアミド系樹脂(PA):ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂:ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリレート樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂:液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド樹脂:ポリエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド:ポリビニルアルコール:ポリビニルエーテル:ポリビニルブチラート;フェノキシ樹脂;感光性樹脂;生分解性プラスチック等が挙げられる。
【0033】
これらの熱可塑性樹脂のうち、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、HIPS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアミド(PA)が好ましい。これらは、1種単独または2種以上を併用できる。
【0034】
また、耐衝撃性向上のために、第1実施形態における熱可塑性樹脂組成物はその他のエラストマー成分を含有してもよい。衝撃性改良のために使用されるエラストマーとしては、EPRやEPDMのようなオレフィン系エラストマー、スチレンとブタジエンの共重合体から成るSBR等のスチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、天然ゴムおよびそれらのエラストマーに反応部位(二重結合、カルボン酸無水物基等)を導入した変性物のようなものが使用できる。また、樹脂として導電性高分子を用い、多層CNTと導電性高分子の相乗効果によって導電特性を発現させることができる。
【0035】
樹脂と多層CNTの含有比は、ニーズに応じて適宜設計できる。樹脂に対する多層CNTの含有量は、例えば、0.1〜95質量%である。
【0036】
第1実施形態によれば、2配位ホウ素カチオン塩を多層CNTにドーピングすることにより、2配位ホウ素カチオン塩の2配位ホウ素カチオンによって多層CNTを酸化し、多層CNTに正孔を形成できる。このため、導電特性を向上させることができる。更に、2配位ホウ素カチオン塩の安定な対アニオンが、正孔が形成された多層CNT周囲に残存することにより、熱安定性や環境耐性を向上させることができる。
【0037】
多層CNT含有組成物の用途としては、電極材料が好適である。また、薄膜トランジスタ基板等の半導体層に有用である。また、センサー、アクチュエーター、建材用途、塗料、CNTペーパー、医療機器など幅広い応用に有用である。
【0038】
[第2実施形態]
第2実施形態においては、第1実施形態において定義する多層CNTではなく、単層および/又は2層CNTを用いる。ここで「単層および/又は2層CNT含有物」は、複数のCNTが存在している総体を意味する。その存在形態は特に限定されず、例えば、其々が独立に若しくは束状、絡まり合う等の形態、又はこれらの混合形態で存在していてもよい。なお、本実施形態においてCNT含有物とCNTは、実質的には同一であり、本実施形態においてCNT含有物を単にCNTと記載する場合もある。
【0039】
CNTの組成が異なる点を除き、第1実施形態および/又は第2実施形態と2配位ホウ素カチオン塩、添加剤、製造方法等は同様に適用できる。
【0040】
第2実施形態に係る「単層および/又は2層CNT含有物」は、CNT全数のうち、単層CNTおよび/又は2層CNTを70%以上含むものをいう。単層CNTとは、グラファイトの1枚面を1層に巻いたCNTであり、これを70%以上含むとは、CNT全100本中70本以上が単層CNTであることをいう。2層CNTとは、グラファイトの1枚面を2層に巻いたCNTであり、これを70%以上含むとは、CNT全100本中70本以上が2層CNTであることをいう。
【0041】
CNT全数のうち、単層CNTおよび/又は2層CNTを70%以上含むと、CNTの導電性が極めて高くなる。更に好ましくは100本中75本以上、最も好ましくは100本中80本以上が含まれている態様である。一般的に、単層CNTおよび/又は2層CNTは、3層以上の多層CNTに比べて結晶化度が高く、直径が小さく、導電層中のCNT単位量当たりの接触点が多くなることによって導電性が高くなる傾向にある。
【0042】
CNTの層数は、例えば以下のようにサンプルを作製して測定することができる。CNTが、液体等の溶媒中に分散した組成物である場合において、溶媒が水系の場合、CNT含有物を水で見えやすい濃度に適宜希釈し、コロジオン膜上に数μL滴下して風乾させた後、直接、透過型電子顕微鏡像でコロジオン膜上のCNT含有物を調べる。一方、溶媒が非水系の場合には、一度乾燥により溶媒を除去した後、再度水中で分散させてから適宜希釈してコロジオン膜上に数μL滴下し、風乾した後、透過型電子顕微鏡像を観察する。また、CNT含有物が溶媒中に分散していない場合には、例えば溶媒でCNT含有物を抽出し、同様にして高分解能透過型電子顕微鏡で観察することによって調べることもできる。単層および/又は2層CNT含有物は、触媒粒子や分散剤を含んでいてもよい。
【0043】
本明細書において「単層および/又は2層CNT含有組成物」は、単層および/又は2層CNT含有物と、2配位ホウ素カチオン塩の少なくとも対アニオンを含有する。つまり、単層および/又は2層CNT含有組成物は、単層および/又は2層CNT含有物に、少なくともドーピング成分を含む組成物をいう。二配位ホウ素カチオンは、第1実施形態と同様、下記一般式(1)で表される。
【化5】
R
1,R
2は、第1実施形態と同様の群より選択される化合物である。また、2配位ホウ素カチオン塩の対アニオンも、第1実施形態と同様の化合物を例示できる。
【0044】
2配位ホウ素カチオン塩としては、上記2配位ホウ素カチオンと対アニオンとを組み合わせて用いる。この中でも特に、メシチル基(1,3,5−トリメチルフェニル基)とテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートとの組み合わせが好ましい。2配位ホウ素カチオン塩を溶解する際に用いる溶媒は特に限定されない。
【0045】
単層および/又は2層CNT含有物と2配位ホウ素カチオン塩とを接触させる方法は特に限定されない。好適な例として、基材の上に、単層および/又は2層CNT含有物を塗布し、得られた塗膜に対して、2配位ホウ素カチオン塩を塗布する方法が例示できる。これらの塗布の際には、適宜溶媒を用いる。第2実施形態に用いられる基材の素材としては、樹脂、ガラス等を例示できる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、およびトリアセチルセルロース等を用いることができる。ガラスとしては、通常のソーダーガラスを用いることができる。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。
【0046】
単層および/又は2層CNT含有物を基材上に塗布する方法は特に限定されず、既知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スロットダイコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の主類の印刷、又はロールコーティング等を利用できる。また、塗布は複数回に分けて行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせてもよい。
【0047】
2配位ホウ素カチオン塩を単層および/又は2層CNT含有物上に塗布する方法は特に限定されず、既知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パッド印刷、他の主類の印刷、又はロールコーティング等を利用できる。また、塗布は複数回に分けて行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせてもよい。
【0048】
第2実施形態の単層および/又は2層CNT含有組成物は、電極材料として好ましく用いることができる。
【0049】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る「混合CNT含有組成物」は、第1実施形態に係る多層CNT含有組成物および第2実施形態に係る単層および/又は2層CNT含有組成物のいずれの定義にも含まれないCNT含有組成物をいうものと定義する。すなわち、CNT全数のうち、第1実施形態に係る多層CNTが30%越え、35%未満であり、且つ第2実施形態に係る単層および/又は2層CNTが65%越え、70%未満であるCNT含有組成物をいう。
【0050】
第3実施形態に係る混合CNT含有組成物によれば、電極材料が好適である。また、薄膜トランジスタ基板等の半導体層に有用である。また、センサー、アクチュエーター、建材用途、塗料、CNTペーパー、医療機器など幅広い応用に有用である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
【0052】
本実施例で用いた測定法を以下に示す。
(1) CNT層数の測定法
CNTをコロジオン膜上に数μL滴下し風乾させた後、透過型電子顕微鏡を用いて40万倍で観察した。75nm四方の視野の中で、視野面積の10%以上がCNTである視野中から任意に抽出した100本のCNTについて層数を測定した。1つの視野中で100本の測定ができない場合、100本になるまで複数の視野から測定した。このとき、CNT1本とは視野中で一部CNTが見えていれば1本と計上した。また、視野中で2本と認識されても視野外で繋がって1本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上した。
【0053】
(2)25℃、湿度30%RHの端子間抵抗値測定法
小型環境試験器(エスペック株式会社製、SH−221)中に電極付導電積層体の両電極にクリップを付けた状態で入れ、温度25℃・湿度30%RHで30分間保持した。小型環境試験器中での端子間抵抗値は、マルチ入力データ収集システム(キーエンス株式会社製、NR−500、NR−TH08)を用いて30秒毎に記録した。小型環境試験器中の温度,湿度は、温湿度プローブ(日本シンテック株式会社製、NS−04AP)によりモニターした。温度25℃。湿度90%RHで30分保持した後の安定した端子間抵抗値を25℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[A]とした。
【0054】
(3)80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値測定法
小型環境試験器(エスベツク株式会社製、SH−221)中に電極付導電積層体の両電極にクリップを付けた状態で入れ、温度25℃。湿度90%RHで120時間保持した。小型環境試験器中での端子間抵抗値は、マルチ入力データ収集システム(キーエンス株式会社製、NR−500、NR−TH08)を用いて30秒毎に記録した。小型環境試験器中の温度、湿度は、温湿度プローブ(日本シンテック、NS−04AP)によりモニターした温度80℃・湿度30%RHで120時間保持した後の安定した端子間抵抗値を80℃、湿度30%の端子間抵抗値[B]とした。
【0055】
[基板作製例]
ガラス基板(15mm×15mm×lmm)上にメタルマスクを用いてNi(10nm)とAu(100nm)とを順に蒸着した。Niの蒸着には電子ビーム蒸着法を、Auの蒸着には低抗加熱蒸着法を用いた。
【0056】
[CNT導電層の形成例1]
2層CNT(東レ株式会社製、直径1.7nm)を使用した。CNT層数の測定法に従って求めた2層CNT比率は90%であった。水中で分散剤を用いて超音波分散処理した。分散液はスビンコートにより金電極付ガラス基板に塗布することによりCNT導電層を得た。
【0057】
[CNT導電層の形成例2]
アーク放電法(株式会社名城ナノカーポン製、SWCNT SO、直径〜1.4nm)により合成された単層CNTを使用した。CNT層数の測定法に従って求めた単層CNT比率は70%であった。アーク放電法により合成された単層CNTはエタノール中で超書波分散させ、分散液をスプレーにより金電極付ガラス基板に塗布することによりCNT導電層を得た。
【0058】
[2配位ホウ素カチオン塩合成法例]
アルゴンないし窒素雰囲気下、酸素濃度、水濃度を其々0.1ppm以下に制御されたグローブボックス中で、Et
3Si
+[(C
6F
5)
4B]
一のメシチレン付加体(
図1参照)(59.0mg、9.26×10
-2mmol)の乾燥オルトジクロロベンゼン溶液(1.0mL)にフルオロジメシチルボラン(24.8mg、9.26×10
−2mmol)を室温で加え、混合物を25℃で5分間撹拌した、減圧下、反応溶液を留去し、0.5mL程度に濃縮した。得られた反応混合物に蒸気拡散法によってへキサン蒸気を導入することで無色透明結晶が析出した。この結晶をろ取し、乾操へキサンで洗浄することにより、テトラキス(ぺンタフルオロフェニル)ポラートを対アニオンとするジメシチルボリニウムイオン(Mes
2B
+[(C
6F
5)
4B]
−)(
図2参照)が無色透明結晶として収率92%で得られた。
【0059】
[2配位ホウ素カチオン塩途布]
室素雰囲気のグローブボックス(酸素と水が1ppm以下)内において2配位ホウ素カチオン塩合成法例記載の(Mes
2B
+[(C
6F
5)
4B]
−)のオルトシタロロベンゼン飽和溶液を準備し、CNT導電層に1分間浸し、その後ヒータ(60℃)上で10〜15分加熱した。
【0060】
(実施例1) DWCNT/2配位ホウ素カチオン塩
CNT導電層の形成例1に従い形成した導電層に対して、2配位ホウ素カチオン塩塗布(ジメチルポリニウムイオン)に従って処理を実施した。その後、25℃湿度30%RHの端子間抵抗値[A]及び80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0061】
(実施例2) SWCNT/2配位ホウ素カチオン塩
CNT導電層の形成例2に従い形成した導電層に対して、2配位ホウ素カチオン塩塗布(ジメチルボリニウムイオン)に従って処理を実施した。その後、25℃湿度30%RHの端子間抵抗値[A]及び80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0062】
(比較例1) DWCNT
CNT導電層の形成例1に従い形成した導電層に対して、25℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[A]及び80℃、湿度30%RHの端子間低抗値[B]を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0063】
(比較例2) DWCNT/硝酸
CNT導電層の形成例1に従い形成した導電層に対して、濃硝酸をスピンコートにより塗布し、25℃、湿度30%RHの端子間低抗値[A]及び80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0064】
(比較例3) SWCNT
CNT導電層の形成例2に従い形成した導電層に対して、25℃、湿度30%RHの端子間祇抗値[A]及び80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、実施例1の80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]は比較例1の80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]より小さく、また、実施例1の抵抗値変化率[B]/[A]は比較例1,2の抵抗値変化率[B]/[A]より小さい。さらに実施例2の80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]は比較例3の80℃、湿度30%RHの端子間抵抗値[B]より小さく、また、実施例2の抵抗値変化率[B]/[A]は比較例3の低抗値変化率[B]/[A]より小さい。実施例に係る単層および/または2層CNT含有組成物が、高温環境下での導電性及び抵抗値安定性に優れることを確認した。