特許第6857374号(P6857374)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6857374
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20210405BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20210405BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C02F3/28 AZAB
   C02F11/04 A
   C02F11/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-570213(P2020-570213)
(86)(22)【出願日】2020年6月12日
(86)【国際出願番号】JP2020023155
【審査請求日】2020年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2019-111231(P2019-111231)
(32)【優先日】2019年6月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518308522
【氏名又は名称】株式会社愛研化工機
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(74)【代理人】
【識別番号】100121924
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 佳大
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−275889(JP,A)
【文献】 特開昭63−44998(JP,A)
【文献】 特開2008−253963(JP,A)
【文献】 特開2005−246219(JP,A)
【文献】 特開2016−203123(JP,A)
【文献】 特開2014−198290(JP,A)
【文献】 特開2016−117000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/10
C02F 3/28
C02F 11/00
C02F 11/04
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水処理システムにおける排水処理方法であって、
高分子有機物を含む廃液を第1の熱交換手段で加熱し、
前記第1の熱交換手段で加熱された廃液中の前記高分子有機物を有機酸に分解し、
前記有機酸を自己造粒菌と反応させてバイオガスと処理水を生成するとともに、前記バイオガスと前記処理水を前記自己造粒菌から分離し、
前記バイオガスをエネルギー源として発電手段に送り、
前記処理水を排水する前に第2の熱交換手段で加熱し、
前記第2の熱交換手段で加熱された処理水を加熱側流体として前記第1の熱交換手段に供給して排水する一方、前記発電手段で得られる熱水を加熱側流体として前記第2の熱交換手段に供給して前記発電手段に戻し、
前記発電手段で発電された電力は、前記排水処理システム内で使用することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
高分子有機物を含む廃液を加熱する第1の熱交換手段と、
前記第1の熱交換手段で加熱された廃液中の前記高分子有機物を有機酸に分解する酸生成手段と、
前記酸生成手段で生成された有機酸を自己造粒菌と反応させてバイオガスと処理水を生成するとともに、前記バイオガスと前記処理水を前記自己造粒菌から分離する嫌気性処理手段と、
前記嫌気性処理手段で分離されたバイオガスをエネルギー源として発電する発電手段と、
前記嫌気性処理手段で分離された処理水を排水する前に加熱する第2の熱交換手段とを備えた排水処理システムであって
前記第2の熱交換手段で加熱された処理水を前記第1の熱交換手段の加熱側流体とし、前記発電手段で得られる熱水を前記第2の熱交換手段の加熱側流体とし、
前記発電手段で発電された電力は、前記排水処理システム内で使用されることを特徴とする排水処理システム。
【請求項3】
前記酸生成手段は、前記有機酸を酢酸に変換することを特徴とする請求項2に記載の排水処理システム。
【請求項4】
前記嫌気性処理手段は、前記自己造粒菌が自己凝集したグラニュールを使用するEGSBであることを特徴とする請求項2又は3に記載の排水処理システム。
【請求項5】
前記廃液は、食物残渣を含む廃液であり、
前記酸生成手段の前に、前記廃液中の残渣を裁断して除去し、可溶化し、液化する液化手段を備え、
前記液化手段で液化された廃液を前記酸生成手段に送ることを特徴する請求項2から4に記載の排水処理システム。
【請求項6】
前記廃液は、油分を含む廃液であり、
前記酸生成手段の前に、前記廃液の前記油分を凝集浮上処理する凝集手段と、前記凝集手段で凝集された前記油分を含む廃液を濾過して脱水する脱水手段とを備え、
前記脱水手段で得られる濾過液を前記酸生成手段に送ることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の排水処理システム。
【請求項7】
前記脱水手段で脱水により排出される脱水ケーキを乾燥させる乾燥手段をさらに備える請求項6に記載の排水処理システム。
【請求項8】
前記嫌気性処理手段で分離された処理水を曝気し汚泥を沈殿させる好気性処理手段と、
前記好気性処理手段で分離された処理水を濾過して浄化する濾過手段とをさらに備えることを特徴とする請求項2から7のいずれかに記載の排水処理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子有機物を含む廃液からエネルギーを回収する排水処理方法及び排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業排水の嫌気性処理(メタン発酵)は、好気性処理(活性汚泥法)に比べて曝気が不要なため、電力消費量が少なく、余剰汚泥の発生量が少ないうえ、発生するメタンガスを回収して発電やボイラーに利用できることから、広く普及している。嫌気性処理装置としては、EGSB(Expanded Granular Sludge Bed)やUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)がある。
【0003】
非特許文献1には、加温無しに低温で嫌気性処理を行う無加温メタン発酵処理技術が提案されている。これは低濃度有機物を含む産業排水の排水処理に適しているが、高濃度有機物を含む産業排水には適していない。
【0004】
このような嫌気性処理システムは、高いメタン回収効果があるものの、元来低濃度有機物を含む排水であるため回収されるメタンガスは燃料として少ないため、メタンガスによる発電で得られるエネルギーの効率的な利用や、排水処理過程で得られる排熱等の余剰エネルギーの回収は不十分である。
【0005】
また、廃液には食物残渣や、パームオイル等の油分を含む場合があり、このような生物阻害性物質はEGSBにおける嫌気性処理の機能を低下させる。このため、生物阻害物質を含む廃液は、生物阻害物質を除去するだけで排水していた。
【0006】
特許文献1には、生ごみ等の有機性廃棄物をメタン発酵する前に可溶化するメタン発酵前処理装置が記載されているが、生ごみ中に混在するビニル、プラスチック、繊維、割り箸、貝殻、骨、種、砂等の発酵不適物を選別機や可溶化槽、スクリーンによって除去するので、発酵不適物とともに可溶化液の多くが分離され、可溶化液が減少するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5758110号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】EGSB法による飲料系工場排水の無加温メタン発酵処理技術の開発,藤本典之ほか,土木学会論文集G(環境),Vol.69,No.7、III 623 III 630, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたもので、メタンガスによる発電で得られるエネルギーを効率的に利用することができ、排水処理過程で得られる排熱等の余剰エネルギーを十分に回収することができうえ、生物阻害性物質を含む廃液でも確実に嫌気性処理することができる排水処理方法及び排水処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係る排水処理方法は、
廃水処理システムにおける排水処理方法であって、
高分子有機物を含む廃液を第1の熱交換手段で加熱し、
前記第1の熱交換手段で加熱された廃液中の前記高分子有機物を有機酸に分解し、
前記有機酸を自己造粒菌と反応させてバイオガスと処理水を生成するとともに、前記バイオガスと前記処理水を前記自己造粒菌から分離し、
前記バイオガスをエネルギー源として発電手段に送り、
前記処理水を排水する前に第2の熱交換手段で加熱し、
前記第2の熱交換手段で加熱された処理水を加熱側流体として前記第1の熱交換手段に供給して排水する一方、前記発電手段で得られる熱水を加熱側流体として前記第2の熱交換手段に供給して前記発電手段に戻し、
前記発電手段で発電された電力は、前記排水処理システム内で使用することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る排水処理システムは、
高分子有機物を含む廃液を加熱する第1の熱交換手段と、
前記第1の熱交換手段で加熱された廃液中の前記高分子有機物を有機酸に分解する酸生成手段と、
前記酸生成手段で生成された有機酸を自己造粒菌と反応させてバイオガスと処理水を生成するとともに、前記バイオガスと前記処理水を前記自己造粒菌から分離する嫌気性処理手段と、
前記嫌気性処理手段で分離されたバイオガスをエネルギー源として発電する発電手段と、
前記嫌気性処理手段で分離された処理水を排水する前に加熱する第2の熱交換手段とを備えた排水処理システムであって
前記第2の熱交換手段で加熱された処理水を前記第1の熱交換手段の加熱側流体とし、前記発電手段で得られる熱水を前記第2の熱交換手段の加熱側流体とし、
前記発電手段で発電された電力は、前記排水処理システム内で使用されることを特徴とする。
【0012】
本発明では、高分子有機物を含む廃液を第1の熱交換手段で加熱し、嫌気性処理手段で分離された処理水を第2の熱交換手段で加熱し、第2の熱交換手段で加熱された処理水を第1の熱交換手段の加熱側流体とし、発電手段で得られる熱水を第2の熱交換手段の加熱側流体とするので、メタンガスによる発電で得られるエネルギーを効率的に利用することができ、排水処理過程で得られる排熱等の余剰エネルギーを十分に回収することができる。
【0013】
前記酸生成手段は、前記有機酸を酢酸に変換するものである。
【0014】
前記嫌気性処理手段は、前記自己造粒菌が自己凝集したグラニュールを使用するEGSBであることが好ましい。
【0015】
前記廃液は、食物残渣を含む廃液であり、
前記酸生成手段の前に、前記廃液中の残渣を裁断して除去し、可溶化し、液化する液化手段を備え、
前記液化手段で液化された廃液を前記酸生成手段に送る。
【0016】
前記廃液は、油分を含む廃液であり、
前記酸生成手段の前に、前記廃液の前記油分を凝集浮上処理する凝集手段と、前記凝集手段で凝集された前記油分を含む廃液を濾過して脱水する脱水手段とを備え、
前記脱水手段で得られる濾過液を前記酸生成手段に送る。
【0017】
前記脱水手段で脱水により排出される脱水ケーキを乾燥させる乾燥手段をさらに備える。
【0018】
前記嫌気性処理手段で分離された処理水を曝気し汚泥を沈殿させる好気性処理手段と、
前記好気性処理手段で分離された処理水を濾過して浄化する濾過手段とをさらに備える。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、廃液中の高分子有機物を分解して得られる有機酸を自己造粒菌と反応させてバイオガスと処理水を生成し、該処理水を排水する前に第2の熱交換手段で加熱し、第2の熱交換手段で加熱された処理水を加熱側流体として第1の熱交換手段に供給して排水する一方、バイオガスをエネルギー源とする発電手段で得られる熱水を加熱側流体として第2の熱交換手段に供給するので、メタンガスによる発電で得られるエネルギーを効率的に利用することができ、排水処理過程で得られる排熱等の余剰エネルギーを十分に回収することができる。また、発電手段で発電された電力を排水処理システム内で使用するので、外部の電力を使用する必要がなく、発電で得られるエネルギーを本排水システム内で効率的に利用することができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、嫌気性処理手段で分離された処理水を加熱する第2の熱交換手段の過熱側流体として、発電手段で得られる熱水を使用し、高分子有機物を含む廃液を加熱する第1の熱交換手段の過熱側流体として、第2の熱交換手段で加熱された処理水を使用するので、嫌気性処理手段で分離されたメタンガスによる発電で得られるエネルギーを効率的に利用することができ、排水処理過程で得られる排熱等の余剰エネルギーを十分に回収することができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、廃液中の高分子有機物を分解して得られる有機酸を酸生成手段で酢酸に変換するので、酢酸からメタンガスへの転換率が高く、発電へのエネルギー原として十分に利用することができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、嫌気性処理手段として、自己造粒菌が自己凝集したグラニュールを使用するEGSBを使用するので、高濃度の排水を高速で処理することができ、曝気が不要なことから消費電力が少なく、汚泥の発生が少ない。
【0023】
請求項の発明によれば、酸生成手段の前に廃液中の食物残渣を裁断して除去し、可溶化し、液化する液化手段を備えるので、食物残渣に含まれる高分子有機物を酸生成手段で有機酸に変換することができ、食物残渣の廃棄が容易になるとともに、食物残渣に含まれる高分子有機物を有効に利用することができる。また、生物阻害性物質である食物残渣を含む廃液でも嫌気性処理により確実に排水処理することができる。
【0024】
請求項の発明によれば、酸生成手段の前に、廃液に含まれる油分を凝集浮上処理する凝集手段と、凝集手段で凝集された油分を含む廃液を濾過して脱水する脱水手段とを備えるので、油分の廃棄及び利用が容易になるとともに、生物阻害物質である油分が除去された廃液に含まれる高分子有機物を酸生成手段で有機酸に変換し、バイオガスの生成に有効に利用することができる。また、生物阻害性物質である油分を含む廃液でも嫌気性処理により確実に排水処理することができる。
【0025】
請求項の発明によれば、脱水手段で脱水により排出される脱水ケーキを乾燥させる乾燥手段を備えるので、脱水後の脱水ケーキを堆肥化して肥料等に再利用することができる。
【0026】
請求項の発明によれば、嫌気性処理手段で分離された処理水を曝気し汚泥を沈殿させる好気性処理手段と、好気性処理手段で分離された処理水を濾過して浄化する濾過手段とを備えるので、処理水を浄水として再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施形態による排水処理システムの概略構成図。
図2】本発明の第2実施形態による食物残渣を含む廃液の排水処理システムの概略構成図。
図3】本発明の第3実施形態による油分を含む廃液の排水処理システムの概略構成図。
図4】本発明の第4実施形態による油分を含む廃液の排水処理システムの概略構成図。
図5】通水試験におけるCODの除去率を示すグラフ。
図6】通水試験におけるバイオガスの組成を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0029】
図1は、本発明の第1実施形態に係る排水処理システム1aを示す。本システム1aは、主な構成要素として、第1熱交換器2と、酸生成槽3と、嫌気性処理手段としてのEGSB反応槽4と、発電装置5と、第2熱交換器6とを備えている。
【0030】
第1熱交換器2は、工場等からの高分子有機物を含む廃液(原水)をEGSB反応槽4からの処理水との熱交換により加熱するもので、シェルアンドチューブ型、二重管型、コイル型等各種の熱交換器を使用することができる。工場等からの廃液は一般に10〜20℃であるため、これを約35℃まで加熱する。
【0031】
第1熱交換器2で加熱された廃液は、加温槽7を介して酸生成槽3に送られる。加温槽7は、第1熱交換器2で加熱された廃液を所定温度に加温し維持するものである。加温槽7の熱源としては、発電装置5で得られる蒸気又は電気が使用されるが、本システム1aの立ち上げ時には、排水元の工場等のボイラーで得られる温水や蒸気、あるいは商用電源を用いた電気ヒータが使用される。加温槽7で維持される温度は、酸生成槽3での脂肪酸の生成及びEGSB反応槽4での嫌気性微生物(メタン菌)の活性化に最適な37℃前後であり、35〜42℃に制御される。
【0032】
酸生成槽3は、加温槽7からの廃液を所定時間、所定温度に維持し、廃液中に含まれる多糖類、蛋白、脂肪等の高分子有機物、可溶性浮遊物質(SS)を低分子化して可溶性とする。低分子有機物は、ヘキソース、ペントース、アミノ酸、グリセリン、アルコール等の有機酸に分解され、該有機酸からプロピオン酸、酪酸、酢酸等の揮発性脂肪酸に変換される。
【0033】
酸生成槽3で生成された酢酸を含む廃液は、中和装置8を介して移送ポンプ9によりEGSB反応槽4に送られる。中和装置8は、水酸化ナトリウムを注入して廃液に含まれる塩酸を中和し、酢酸を含む廃液を中性域に調整する。
【0034】
EGSB反応槽4は、下部のグラニュール床10と、該グラニュール床10の上方の気固液分離装置11とを有する。グラニュールは、嫌気性微生物が1mm〜2mmの米粒状又は球状に自己造粒したものである。EGSB反応槽4は、酸生成槽3からの酢酸を含む廃液がグラニュール床10に導入され、線速度1〜5m/mで上昇し循環する間に、グラニュールと混合接触して、酢酸(CHCOOH)を嫌気性反応させて、メタンガス(CH)と、水(H2O)と、炭酸ガス(CO2)を生成する。気固液分離装置11は、グラニュールと水を分離するとともに、バイオガスを効率的に集気する。
【0035】
分離されたグラニュールは外部に流出することなく、内部を循環する。分離された水は、酸生成槽3に戻されて循環するとともに、一部は処理水としてなってEGSB反応槽4から取り出され、汚泥処理装置12に送られる。メタンガスと二酸化炭素は、バイオガスとして取り出され、脱硫装置13を介してガスホルダ14に送られる。
【0036】
脱硫装置13は、EGSB反応槽4から取り出されたバイオガス中に含まれる硫化水素を脱硫剤により除去する装置である。
【0037】
ガスホルダ14は、EGSB反応槽4から取り出されたバイオガスを貯蔵する。
【0038】
発電装置5は、ガスホルダ14から供給されるバイオガスを燃料とするボイラ15と、該ボイラ15で発生する蒸気で回転するタービン16と、該タービン16の回転を電力に変換する発電機17とを備えている。タービン16の排気は、復水器18で凝縮して凝縮水となり、該凝縮水は、給水ポンプ19により、第2熱交換器6を経てボイラ15に戻される。
【0039】
EGSB反応槽4で分離された水を含む処理水は、汚泥処理装置12を介して放流水として排水される。汚泥処理装置12は、曝気槽と沈殿槽からなる好気性汚泥処理の代表例である活性汚泥処理、あるいは、膜分離活性汚泥処理(MBR)でもよい。汚泥処理装置12の処理水の一部は、第2熱交換器6に送られる。あるいは、図1中2点鎖線で示すように、EGSB反応槽4からの処理水を直接第2熱交換器6に送ってもよい。
【0040】
第2熱交換器6は、汚泥処理装置12又はEGSB反応槽4からの処理水を発電装置5の復水器18からの凝縮水(熱水)との熱交換により加熱するもので、シェルアンドチューブ型、二重管型、コイル型等各種の熱交換器を使用することができる。第2熱交換器6は、汚泥処理装置12又はEGSB反応槽4からの処理水を38℃に加熱する。第2熱交換器6で加熱された処理水は、第1熱交換器2に工場等からの廃液の加熱側流体として送られる。
【0041】
前記実施形態の排水処理システム1aは、実施例として、排水量1000m/d、流入COD濃度6000mg/lの原水から1890m/dのメタンガスを生成し、6389Kwh/dの発電量を得ることができた。
【0042】
発電装置5で発電された電力は、蓄電器20に蓄電され、加温槽7の電気ヒータの電源、酸生成槽3からEGSB反応槽4への移送ポンプ9、EGSB反応槽4の循環ポンプ、発電装置5内の給水ポンプ19等の電源として使用される。また、発電装置5のボイラ15で発生する蒸気は、加温槽7、酸生成槽3、EGSB反応槽4等の加熱源として使用される。さらに、発電装置5の復水は、第2熱交換器6の加熱側流体として使用され、EGSB反応槽4の処理水は第1熱交換器2の加熱側流体として利用される。このように、本実施形態の排水処理システム1aは、電源、加熱源が完全自立したシステムとなる。
【0043】
本発明の高分子有機物を含む廃液は、ビール、酒造、清涼飲料水、食品加工、惣菜、乳業、乳製品、ソース、醤油その他の発酵食品、精糖、甘味料、調味料、菓子、製パン、製餡、水産加工、紙、パルプ、製薬、化学工業、繊維工業等の工場からの廃液を含む。
【0044】
図2は、本発明の第2実施形態に係る排水処理システム1bを示す。図2の排水処理システム1bは、野菜、惣菜等の食物残渣を含む廃液の排水処理に適したものである。本排水処理システム1bは、酸生成槽3より上流側、好ましくは第1熱交換器2の上流側に前処理装置として、裁断装置21と液化装置22を含む。
【0045】
裁断装置21は、廃液中に含まれる野菜、惣菜等の食物残渣を切断してすり潰し、絞って除去する。液化装置22は、食物残渣が除去され可溶化した廃液を液化する。液化された廃液は、第1熱交換器2に送られ、第1実施形態と同様に処理される。
【0046】
このように、食物残渣を含む廃液は食物残渣が除去され液化されているので、EGSB反応槽4で堆積、閉塞してグラニュールによる嫌気性処理を妨げることがない。
【0047】
図3は、本発明の第3実施形態に係る排水処理システム1cを示す。図3の排水処理システム1cは、油分を含む廃液、特にSS(浮遊物)やn−hex(ノルマルヘキサン抽出物質)が多いパームオイルを含む廃液の排水処理に適したものである。
【0048】
本排水処理システム1cは、酸生成槽3より上流側、好ましくは第1熱交換器2の上流側に前処理装置として、凝集装置23、浮上装置24、脱水装置25を含む。
【0049】
凝集装置23は、原水に高分子凝集剤、PH調整剤を注入して、SSやn−hexを凝集させる。浮上装置24は、凝集装置23で凝集したSSやn−hexを浮上させ、系外に排出する。脱水装置25は、浮上装置24の処理水を脱水して、脱水ケーキと処理水に分離する。脱水装置25の処理水は、第1熱交換器2に送られ、第1実施形態と同様に処理される。脱水装置25は、鶴見ポンプ(株)製のマルチディスクデハイドレータJDシリーズが好ましい。なお、浮上装置24を設けずに、凝集装置23で凝集処理された原水を直接脱水装置25で脱水することもできる。
【0050】
このように、油分特にパームオイルを含む原水は、SSやn−hexが分離されて回収されるので、EGSB反応槽4で堆積、閉塞してグラニュールによる嫌気性処理を妨げることがない。
【0051】
図4は、本発明の第4実施形態に係る排水処理システム1dを示す。図4の排水処理システム1dは、図3の第3実施形態に係る排水処理システム1dの脱水装置25で得られた脱水ケーキの第1リサイクル系と、汚泥処理装置12で処理された処理水の第2リサイクル系とを備えたものである。なお、この第4実施形態では、第3実施形態で使用されていた凝集装置23と脱水装置25の間の浮上装置24は無く、凝集装置23で凝集処理された原水は直接脱水装置25に送られる。
【0052】
脱水装置25で得られた脱水ケーキは、乾燥装置26に搬送され、ここで、発電装置5のボイラ15で発生する蒸気により加熱されて乾燥される。乾燥された脱水ケーキは、家畜糞、おがくず等とともに堆肥化の原料となり、野菜生育用の肥料として再利用することができ、またバイオ燃料としてバイオガスとともにボイラ15等の燃料として再利用することができる。
【0053】
汚泥処理装置12は、曝気槽と該曝気槽に浸漬された平膜等の分離膜とからなる膜分離活性汚泥処理装置(MBR)であり、EGSB反応槽4の処理水を曝気して分離膜を介して固液分離する好気性生物処理を行う。生物処理された水は、濾過装置27に送られ、ここで濾過される。濾過装置27としては、用途に応じて精密ろ過、限外濾過、又は逆浸透(RO)等が使用される。濾過された浄水は、放流されることなく、工業用水や飲料水として再利用することができる。
【0054】
本発明者らは、パームオイル排水に対する本発明の排水処理システムの処理能力を確認するための通水試験を行った。試験装置は、図4に示す排水処理システム1dの発電装置5及び熱交換器2,6を除いた装置を用い、下記設定条件で運転した。原水のパームオイル排水は、試験期間中、試験装置の近辺で使用できるものを利用したため、様々な負荷条件を設定した。例えば、下記は負荷条件の一例である。
【表1】
【0055】
EGSB反応槽の設定条件
試料の通水量:26L/d(1.1L/h)
反応層容積:150mmΦ×2,000mmH(35L)
グラニュール量:1.06kg(高さ1,200mm)
滞留時間:31時間
【0056】
試験装置にパームオイル排水を数か月間通水し、EGSB処理前後のCOD、バイオガス回収量を測定するとともに、回収したバイオガスを分析し、COD除去率、バイオガス組成のデータを収集した。(図5参照)。COD除去率は、処理前のパームオイル排水のCODに対するEGSB処理後のCODの比から求めた。
【0057】
比較対象として、消化槽処理装置を使用した。
消化槽処理装置の設定条件:
試料の通水量:8.5L/d(0.4L/h)
反応層容積:350mmΦ×1,000mmH(96L)
消化汚泥量:1.54kg(高さ800mm)
滞留時間:272時間(11日)
【0058】
消化槽処理装置の負荷条件は、表2の通りであった。
【表2】
【0059】
比較例の消化槽処理装置によるCOD除去率は、おおむね60%前後で、消化槽方式での平均的な処理能力であった。
これに対し、本発明のEGSB反応槽によるCOD除去率は、図5に示すように、比較例の消化槽処理におけるCOD除去率60%よりも大きい、平均80%程度を達成することができた。バイオガス回収量は、平均185L/dであった。また回収したバイオガスにおけるメタンガス(CH4)の割合は、図6に示すように平均70%以上を確認することができた。この結果、本発明の排水処理システムはパームオイル排水に対し十分に適応能力があることが確認された。
【0060】
本発明は、前記実施形態に限るものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の排水処理方法及び排水処理システムは、ビール、酒造、清涼飲料水、食品加工、惣菜、乳業、乳製品、ソース、醤油その他の発酵食品、精糖、甘味料、調味料、菓子、製パン、製餡、水産加工、紙、パルプ、製薬、化学工業、繊維工業等の工場からの廃液の排水処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1a,1b,1c,1d 廃水処理システム
2 第1熱交換器
3 酸生成槽
4 EGSB反応槽
5 発電装置
6 第2熱交換器
7 加温槽
8 中和装置
9 移送ポンプ
10 グラニュール床
11 気固液分離装置
12 汚泥処理装置
13 脱硫装置
14 ガスホルダ
15 ボイラ
16 タービン
17 発電機
18 復水器
19 給水ポンプ
20 蓄電器
21 裁断装置
22 液化装置
23 凝集装置
24 浮上装置
25 脱水装置
26 乾燥装置
27 濾過装置
【要約】
メタンガスによる発電で得られるエネルギーを効率的に利用することができ、排水処理過程で得られる排熱等の余剰エネルギーを十分に回収することができうえ、生物阻害性物質を含む廃液でも確実に嫌気性処理する。高分子有機物を含む廃液を加熱する第1の熱交換器2と、第1の熱交換器1で加熱された廃液中の高分子有機物を有機酸に分解する酸生成槽3と、酸生成槽3で生成された有機酸を自己造粒菌と反応させてバイオガスと処理水を生成するとともに、バイオガスと処理水を自己造粒菌から分離するEGSB反応槽4と、EGSB反応槽で分離されたバイオガスをエネルギー源として発電する発電装置5と、EGSB反応槽で分離された処理水を排水する前に加熱する第2の熱交換器6とを備える。第2の熱交換器6で加熱された処理水を第1の熱交換器2の加熱側流体とし、発電装置5で得られる熱水を第2の熱交換器6の加熱側流体とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6