特許第6857382号(P6857382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6857382切欠き模様付成形品の製法およびそれによって得られる切欠き模様付成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857382
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】切欠き模様付成形品の製法およびそれによって得られる切欠き模様付成形品
(51)【国際特許分類】
   A45D 33/00 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
   A45D33/00 650A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-214471(P2016-214471)
(22)【出願日】2016年11月1日
(65)【公開番号】特開2018-68828(P2018-68828A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000158781
【氏名又は名称】紀伊産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 親典
(72)【発明者】
【氏名】馬場 裕
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5628516(JP,B2)
【文献】 特開平05−147074(JP,A)
【文献】 特開2010−105386(JP,A)
【文献】 特開2007−216417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 33/00−40/00
B44C 1/22
B23K 26/36
B32B 27/00
B44C 3/02
B65D 25/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品を準備する工程と、上記模様付成形品の少なくとも一部に、着色剤が分散含有されたアンダーコート用透明樹脂組成物を用いて透明性を有し着色された透明下地層を形成する工程と、上記透明下地層の上に蒸着層を形成する工程と、上記蒸着層の上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層を形成する工程と、上記模様付成形品に形成された複数の層のうち、透明下地層以外の層をレーザ照射によって部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去して切欠き模様Rを形成する工程とを備えた切欠き模様付成形品の製法であって、
上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、
上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層であることを特徴とする切欠き模様付成形品の製法。
【請求項2】
濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品を準備する工程と、上記模様付成形品の少なくとも一部に、着色剤が分散含有されたアンダーコート用透明樹脂組成物を用いて透明性を有し着色された透明下地層を形成する工程と、上記透明下地層の上に蒸着層を形成するか蒸着層と他の層をこの順で形成する工程と、上記蒸着層もしくは蒸着層と他の層をレーザ照射によって部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去して切欠き模様Rを形成する工程と、上記切欠き模様Rが形成された模様付き成形品の表面に、直接もしくは他の層を介してトップコート層を形成する工程と、を備えた切欠き模様付成形品の製法であって、
上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、
上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層であることを特徴とする切欠き模様付成形品の製法。
【請求項3】
上記着色された透明下地層を形成する際、アンダーコート用透明樹脂組成物を不均一に塗工することによって色の濃淡を生じさせるようにした請求項1または2記載の切欠き模様付成形品の製法。
【請求項4】
濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品を準備する工程と、着色剤が分散含有された透明接着剤組成物からなる透明下地層と、蒸着層もしくは他の層と、トップコート層と、基材層とが、この順で設けられた転写箔を準備する工程と、上記模様付成形品の少なくとも一部に、上記転写箔の透明下地層側を当てて転写箔を貼り付け、貼り付けられた転写箔から基材層を除去してトップコート層を露出させる工程と、上記模様付成形品に貼り付けられた転写箔に由来する複数の層のうち、透明下地層以外の層をレーザ照射によって部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去して切欠き模様Rを形成する工程と、を備えた切欠き模様付成形品の製法であって、
上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、
上記転写箔における蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層であることを特徴とする切欠き模様付成形品の製法。
【請求項5】
上記レーザ照射によって切欠き模様Rを形成する工程において、レーザとして、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いるようにした請求項1〜のいずれか一項に記載の切欠き模様付成形品の製法。
【請求項6】
濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品の少なくとも一部に、透明性を有し着色剤の分散含有によって着色された透明下地層と、蒸着層とが、この順に形成され、さらにその上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層が形成されており、上記透明下地層以外の層が部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去され切欠き模様Rが形成された切欠き模様付成形品であって、
上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、
上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層であることを特徴とする切欠き模様付成形品。
【請求項7】
濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品の少なくとも一部に、透明性を有し着色剤の分散含有によって着色された透明下地層と、蒸着層もしくは蒸着層と他の層とが、この順に設けられており、上記蒸着層もしくは蒸着層と他の層が部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去され切欠き模様Rが形成され、その切欠き模様Rが形成された模様付き成形品の表面に、直接もしくは他の層を介してトップコート層が設けられている切欠き模様付成形品であって、
上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、
上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層であることを特徴とする切欠き模様付成形品。
【請求項8】
上記着色された透明下地層が、色の濃淡を有するものである請求項6または7記載の切欠き模様付成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特の印象を与える切欠き模様付成形品の製法と、それによって得られる切欠き模様付成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧料を収容したコンパクト容器や口紅容器等には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインである、といった意匠性も要求される。このような要求に応える技術として、例えば、コンパクト容器の蓋部に、接着剤を用いることなく装飾フィルムを一体化する技術が開示されている(特許文献1等を参照)。
【0003】
また、最近は、より複雑な模様を付与するために、上記装飾フィルムの一部をレーザ照射によって除去し、その除去部から容器の地の部分を露出させて文字や図柄模様を形成することも行われ、さらには、より印象の強い模様を付与する方法として、成形体の表面に着色層を形成し、その上にさらに被覆層を形成した後、レーザ照射により上記被覆層に透孔部を形成してその部分から着色層を露呈させる方法も提案されている(特許文献2等を参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように、装飾フィルムを用いたものは、経時的に装飾フィルム部が変質したり摩耗・損傷したりして、見栄えが悪くなるという問題がある。また、上記特許文献2のように、容器の地の部分を露出させて色模様を付与する方法では、文字や図柄模様の部分の色が、容器の地の色に限られるため、全体として、その印象が弱くなるという問題がある。
【0005】
そこで、本出願人は、低コストで、長期にわたって美麗に保たれる色模様を樹脂成形品の表面に付与する方法を開発し、すでに特許を取得している(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−292827号公報
【特許文献2】特開2002−127691号公報
【特許文献3】特許第5628516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、上記特許文献3のものは、樹脂成形品の成形面に、着色剤を含有する着色アンダーコート層と、蒸着層と、トップコート層をこの順で形成し、上記着色アンダーコート層以外の層をレーザ照射によって部分的に除去して、その除去跡から、着色アンダーコート層を部分的に露出させて、色模様を現出させるようにしたものである。この方法によれば、アンダーコート層が着色層を兼ねるため、全体の層厚みをごく薄く設定することができる。しかも、上記色模様は、耐久性に優れ、長期にわたって美麗な状態を保つという利点を有する。
【0008】
しかしながら、上記色模様は、蒸着層の金属光沢色と、レーザ照射による除去跡から露出する着色アンダーコート層の色との対比によって現出するものであるため、曖昧なところのない、鮮明でシャープな印象を与える。そのため、例えば陰影のある落ち着いた印象のデザインを提供することは難しい。一方、化粧料を収容したコンパクト容器等においては、鮮明でシャープな印象だけでなく、今まで見たことのない独特の印象を備えた外観を備えたものの提供が強く求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、金属光沢色に独特の陰影があり、従来にない、全く新しい印象を与える切欠き模様付成形品の製法と、それによって得られる切欠き模様付成形品の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品を準備する工程と、上記模様付成形品の少なくとも一部に、着色剤が分散含有されたアンダーコート用透明樹脂組成物を用いて透明性を有し着色された透明下地層を形成する工程と、上記透明下地層の上に蒸着層を形成する工程と、上記蒸着層の上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層を形成する工程と、上記模様付成形品に形成された複数の層のうち、透明下地層以外の層をレーザ照射によって部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去して切欠き模様Rを形成する工程とを備えた切欠き模様付成形品の製法であって、
上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、
上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層である切欠き模様付成形品の製法を第1の要旨とする。
【0011】
また、本発明は、濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品を準備する工程と、上記模様付成形品の少なくとも一部に、着色剤が分散含有されたアンダーコート用透明樹脂組成物を用いて透明性を有し着色された透明下地層を形成する工程と、上記透明下地層の上に蒸着層を形成するか蒸着層と他の層をこの順で形成する工程と、上記蒸着層もしくは蒸着層と他の層をレーザ照射によって部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去して切欠き模様Rを形成する工程と、上記切欠き模様Rが形成された模様付き成形品の表面に、直接もしくは他の層を介してトップコート層を形成する工程と、を備えた切欠き模様付成形品の製法であって、上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層である切欠き模様付成形品の製法を第2の要旨とする。
【0013】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記着色された透明下地層を形成する際、アンダーコート用透明樹脂組成物を不均一に塗工することによって色の濃淡を生じさせるようにした切欠き模様付成形品の製法を第の要旨とする。
【0014】
さらに、本発明は、濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品を準備する工程と、着色剤が分散含有された透明接着剤組成物からなる透明下地層と、蒸着層もしくは蒸着層と他の層と、トップコート層と、基材層とが、この順で設けられた転写箔を準備する工程と、上記模様付成形品の少なくとも一部に、上記転写箔の透明下地層側を当てて転写箔を貼り付け、貼り付けられた転写箔から基材層を除去してトップコート層を露出させる工程と、上記模様付成形品に貼り付けられた転写箔に由来する複数の層のうち、透明下地層以外の層をレーザ照射によって部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去して切欠き模様Rを形成する工程と、を備えた切欠き模様付成形品の製法であって、上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、上記転写箔における蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層である切欠き模様付成形品の製法を第の要旨とする。
【0015】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記レーザ照射によって切欠き模様Rを形成する工程において、レーザとして、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いるようにした切欠き模様付成形品の製法を第の要旨とする。
【0016】
また、本発明は、濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品の少なくとも一部に、透明性を有し着色剤の分散含有によって着色された透明下地層と、蒸着層とが、この順に形成され、さらにその上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層が形成されており、上記透明下地層以外の層が部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去され切欠き模様Rが形成された切欠き模様付成形品であって、上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層である切欠き模様付成形品を第の要旨とする。
【0017】
さらに、本発明は、濃い色と薄い色が混じり合う濃淡模様Pが付与された模様付成形品の少なくとも一部に、透明性を有し着色剤の分散含有によって着色された透明下地層と、蒸着層もしくは蒸着層と他の層とが、この順に設けられており、上記蒸着層もしくは蒸着層と他の層が部分的に、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去され切欠き模様Rが形成され、その切欠き模様Rが形成された模様付き成形品の表面に、直接もしくは他の層を介してトップコート層が設けられている切欠き模様付成形品であって、上記模様付成形品の濃淡模様Pにおいて、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であり、上記蒸着層が、光透過率20〜90%のハーフ蒸着層である切欠き模様付成形品を第の要旨とする。
【0019】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記着色された透明下地層が、色の濃淡を有するものである切欠き模様付成形品を第の要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
すなわち、本発明の製法は、濃淡模様Pが付与された模様付成形品(いわゆるマーブル調成形品)をベースとし、その少なくとも一部に、透明性を有する透明下地層を形成し、さらにその上に、蒸着層とトップコート層とをこの順で形成するか、トップコート層は最後に構成するかして、その透明下地層より上の層(蒸着層のみ、もしくは蒸着層とトップコート層、あるいは蒸着層の上に他の層が形成される場合は他の層も)をレーザ照射によって部分的に除去して切欠き模様Rを形成するようにしたものである。また、本発明の他の製法は、上記透明下地層、蒸着層(もしくは蒸着層と他の層)、トップコート層の積層部分を、転写箔を利用して得るようにしたもので、それ以外は上記の製法と同様にして、切欠き模様Rを形成するようにしたものである。
【0021】
そして、これらの製法において、上記ベースとなる成形品に付与された濃淡模様Pが、特定の明度差を有するとともに、その上の蒸着層が、特定の光透過率を有するハーフ蒸着層であることから、そのハーフ蒸着層の金属光沢色に、その下から成形品の濃淡模様Pが透けてみえることによって、独特の陰影による奥行き感が与えられるようになっている。一方、レーザ照射によって形成された切欠き模様Rは、切欠き部の色が、成形品の濃淡模様Pの上に透明下地層が重なった、微妙な濃淡を有する色調になっており、周囲の、独特の陰影を有する光沢色と調和のとれたデザインとなる。しかも、上記切欠き模様Rは、その切欠き部の色調こそ微妙な濃淡を有しているものの、輪郭形状は、レーザ照射によって形成された、曖昧なところのない明確な形状である。したがって、あたかも、明確な輪郭形状を有する切欠き模様Rが手前側にあり、独特の陰影を有する光沢色の背景が、切欠き模様Rの奥側に、空間的な隔たりをもって広がっているかのような不思議な印象を与え、興趣に富むものとなる。
【0022】
さらに、本発明の製法によれば、模様付成形品の濃淡模様Pの種類と、蒸着層の光透過率の程度、レーザ照射による切欠き模様Rのデザイン等を、適宜選択して組み合わせることによって、陰影のある光沢色と鮮明な切欠き模様Rとを組み合わせた多種多様な外観の樹脂成形品を簡単に得ることができる。したがって、顧客のニーズに応じた印象の外観を有する成形品を短い納期で提供することができ、実用的価値が高い。
【0023】
なお、本発明の製法において、蒸着層等の上にトップコート層を形成した後、これらの層をレーザ照射により除去した場合と、蒸着層等を形成した後、この蒸着層等をレーザ照射により除去した場合と、転写箔を利用した場合のいずれの場合も、上述のように、多種多様な外観の樹脂成形品を簡単に得ることができ、優れた効果を奏する。ただし、蒸着層の上に他の層を形成する場合、上記他の層は、蒸着層の光透過性を損なうことのない、透明性を有する層でなければならない。
【0024】
そして、本発明では、特に、上記切欠き模様Rを形成する工程において、除去対象となる層をレーザ照射によって、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状に除去することによって切欠き模様Rを形成するため、切欠き模様Rが繊細な模様となり、背景となる陰影ある光沢色との対比がより鮮明になっている。
【0025】
しかも、本発明では、特に、上記透明下地層を形成する工程において、着色剤が分散含有されたアンダーコート用透明樹脂組成物を用いて、着色された透明下地層を形成しているため、より彩りのある切欠き模様付成形品が得られる。
【0026】
なお、本発明のなかでも、特に、上記着色された透明下地層を形成する際、アンダーコート用透明樹脂組成物を不均一に塗工することによって色の濃淡を生じさせるようにしたものは、色の濃淡を、最終的なデザインに応じてコントロールしやすいため、好適である。
【0027】
また、本発明のなかでも、特に、上記レーザ照射によって切欠き模様Rを形成する工程において、レーザとして、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いるようにしたものは、成形品の表面に形成された透明下地層より上の層の部分的な除去を、効率よく、しかも美麗な仕上がりとなるように行うことができ、好適である。
【0028】
そして、本発明の各製法によって得られる切欠き模様付成形品は、すでに述べたとおり、明確な輪郭で色に濃淡のある切欠き模様Rと、その背景となる、独特の陰影を有する光沢色との対比が、非常に興趣に富む印象を与えるため、アイキャッチ効果の高い商品となる。しかも、その模様は耐久性を有し、長期にわたって美麗な状態を維持することができる。
【0029】
そして、本発明の切欠き模様付成形品、特に、上記切欠き模様Rが、幅0.1〜2mmの点状もしくは線状の切欠き部分によって形成されているため、陰影ある背景の光沢色と相俟って、より繊細な印象を与えるものとなっている。
【0030】
さらに、上記透明下地層が、着色剤の分散含有によって着色された透明下地層であるため、上記着色剤の色によって、蒸着層および切欠き模様Rの色が、より彩りのあるものとなっている。
【0031】
そして、本発明のなかでも、特に、上記透明下地層が、色の濃淡を有するものは、蒸着層および切欠き模様Rが、さらに複雑な彩りとなり、また背景の金属光沢色の陰影も繊細なものとなるため、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施の形態を示す外観斜視図である。
図2】上記実施の形態の部分的な拡大縦断面図である。
図3】(a)は上記実施の形態の蓋部に用いられる模様付成形品の斜視図、(b)は(a)の平面図、(c)は上記模様付成形品の表面に透明下地層を形成した状態を示す平面図である。
図4】上記実施の形態の製法の説明図であり、(a)は透明下地層の上に蒸着層とトップコート層を形成した状態を示す部分的な拡大縦断面図、(b)はレーザ照射によって透明下地層より上の二層を除去した状態を示す部分的な拡大縦断面図である。
図5】(a)は上記レーザ照射後の蓋部を示す平面図、(b)はその蓋部に形成された切欠き模様Rの部分拡大図、(c)は切欠き模様Rの変形例を示す部分拡大図である。
図6】(a)、(b)は、ともに本発明の他の製法の説明図である。
図7】(a)、(b)は、ともに本発明のさらに他の製法の説明図である。
図8】(a)、(b)は、ともに本発明の他の製法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0034】
図1は、本発明を、化粧料を収容するコンパクト容器に適用した一実施の形態を示している。このコンパクト容器は、化粧料を収容する本体部1と、これを蓋する蓋部2とで構成されており、上記蓋部2の上面に、大小の花と花びらとを単純な切欠き線(線幅D=0.8mm、図5[b]を参照)で描いたデザインの切欠き模様Rが付与されている。この切欠き模様R以外の部分は、蓋部2の上面も前後左右の側面も、蒸着層5による独特の陰影を有する金属光沢色が付与されている。そして、蒸着層5の表面は、透明なトップコート層6で被覆されている。なお、上記本体部1と蓋部2は、互いの後端部においてヒンジ連結されており、本体部1に対し蓋部2が上方に開くようになっている。
【0035】
より詳しく説明すると、上記蓋部2は、その部分的な拡大縦断面図である図2に示すように、樹脂成形品からなるベース体3の表面に、透明下地層4と、金属光沢を有する蒸着層5と、無色透明なトップコート層6とが、この順で積層形成された構成になっている。そして、上記透明下地層4より上の、蒸着層5とトップコート層6とが、部分的に除去されて、切欠き模様Rが形成されている。
【0036】
上記蓋部2は、例えばつぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、図3(a)に示すように、ベース体3として、蓋部2の形状に賦形された樹脂成形品を準備する。このベース体3は、濃い色(この例では茶色)と薄い色(この例では白色)とが混じり合った、いわゆるマーブル調の濃淡模様Pが付与されているものであることが必要である。
【0037】
このような濃淡模様Pが付与された成形品を得るには、例えば色の異なる2種類以上の樹脂材料を混合射出する方法(いわゆる「マーブル調成形」)が好適に用いられる(例えば特開2009−137192号公報、特許第5651741号公報等を参照)。
【0038】
上記樹脂材料としては、通常、各種の熱可塑性樹脂が用いられる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等があげられ、なかでも、ABS樹脂が好適である。
【0039】
また、上記ベース体3となる成形品には、その全体に濃淡模様Pが付与されている必要はなく、蒸着層5および切欠き模様Rを形成しようとする面のみに、印刷や転写、着色フィルムの貼付等によって、濃淡模様Pを付与したものを用いても差し支えない。
【0040】
そして、上記ベース体3に付与される濃淡模様Pは、その模様のうち、最も薄い色の明度(L*1)と、最も濃い色の明度(L*2)の差(L*1−L*2)が、50〜10であることが必要である。すなわち、明度差が上記の範囲を外れると、最終的に得られる切欠き模様付成形品において、切欠き模様Rの切欠き部に濃淡があることを視認しにくく、またその周囲の、蒸着層5に由来する金属光沢色に、本発明の特徴である奥行きのある陰影を付与することができない。そして、上記明度差は、なかでも、35〜15であることが、効果の点でより好適である。
【0041】
なお、本発明において、明度(L*)は、国際照明委員会CIEで規格化され、JIS
Z8729で規定された「L***表色系」によって数値化される明度(白を100とし、黒を0として数値化)をいう。そして、濃淡模様Pが付与された部分の明度を、単位面積ごとに区切って全て測色計(日本電色工業社製、分光色差計 SE6000)で計測し、最も明度が高い値L*1(最も薄い色の値)と、最も明度が低い値L*2(最も濃い色の値)を求めることができる。
【0042】
つぎに、上記ベース体3の上面および前後左右の側面の表面に、透明下地層4を形成する。上記透明下地層4は、従来透明下地層を形成するために用いられている各種のアンダーコート組成物に所望の色調を付与するための着色剤(この例では赤色染料)を分散含有させた組成物を用いて形成することができる。
【0043】
このようなアンダーコート用透明樹脂組成物としては、例えばアクリル系樹脂、オルガノポリシロキサン系樹脂、ウレタン系樹脂等、各種のアンダーコート用透明樹脂を主成分とする透明な樹脂組成物があげられ、なかでも、アクリル系樹脂を主成分とする組成物が、硬度、透明性、着色剤の分散性等の点で、好適に用いられる。
【0044】
そして、上記アンダーコート用透明樹脂組成物に分散含有させる着色剤としては、染料、顔料等、各種のものを適宜選択することができる。ただし、着色剤の色は、前記ベース体3に付与された濃淡模様Pに用いられている「濃い色」と「薄い色」のどちらとも異なる色であることが好ましい。すなわち、着色剤の色が濃淡模様Pに用いられている色と重複した場合、着色された透明下地層4を透かしてみえるベース体3の濃淡模様Pの濃淡が弱められて単調になり、印象が弱くなるからである。
【0045】
上記アンダーコート用透明樹脂組成物に分散含有される着色剤の含有割合は、着色剤の種類にもよるが、通常、アンダーコート用透明樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜50重量部に設定することが好適である。すなわち、着色剤の含有割合が少なすぎると、着色が弱く、色を付ける意味がなく、逆に、着色剤の含有割合が多すぎると、最終的に得られる切欠き模様付成形品において、ベース体3の濃淡模様Pによる濃淡が透明下地層4および蒸着層5から透かして視認しにくくなり、好ましくない。また、着色剤の含有割合が多すぎると、透明下地層4の下の成形品(この例ではベース体3)や透明下地層4の上の蒸着層5に対する密着性が低下するおそれもある。
【0046】
色の濃淡を有する透明下地層4は、上記着色剤が分散含有されたアンダーコート用透明樹脂組成物を、ベース体3の表面に、厚みが不均一となるよう塗工することによって得ることができる。厚みが薄いところでは着色剤による色が薄くなり、厚みが厚いところでは着色剤による色が濃くなって、全体として色の濃淡が表れる。このように、厚みが不均一となるよう層形成する方法としては、スプレー塗装の他、はけ塗り、ロールブラシ塗り、エアレススプレー塗装、ディップコート、フローコート、カーテンフローコート、ロールコート等があげられる。なかでも、作業効率や仕上がりの点から、スプレー塗装が好適に用いられる。
【0047】
そして、上記着色剤が分散含有されたアンダーコート用透明樹脂組成物によって形成される透明下地層4の厚みは、最も薄いところで0.01〜30μm程度、最も厚いところで1〜50μm程度になるよう設定することが好ましい。すなわち、透明下地層4の厚みが部分的にせよ薄すぎると、ベース体3を保護する性能が充分に得られないおそれがあり、逆に、その厚みが部分的にせよ厚すぎると、その部分において透明下地層4の透明性が損なわれるおそれがあり、好ましくない。
【0048】
なお、本発明において、上記透明下地層4は、必ずしも濃淡を付ける必要はなく、全体が均一な濃さで着色されているものであってもよい。その場合、透明下地層4の厚みは全体に均一に形成される。また、濃淡を付けるのではなく、部分部分によって色が異なる、色模様が形成された層としてもよい。ただし、着色された透明下地層4を透かして、その下のベース体3の濃淡模様Pをみせることが必要なため、着色された透明下地層4は、少なくとも上記濃淡模様Pを透かしてみることができる程度に透明であることが必要である。
【0049】
上記実施の形態である、色の濃淡があり透明性を有する透明下地層4が形成されたベース体3の平面図を図3(c)に示す。なお、図3(b)は透明下地層4が形成される前のベース体3の平面図である。これらの図において、ハッチングの間隔が狭いほどその部分の色が濃い(明度が低い)ことを示し、ハッチングの間隔が広いほどその部分の色が薄い(明度が高い)ことを示す。ただし、色と色の間に引かれた境界線は、色の濃淡をわかりやすく示すために引いた仮想線であり、実際には、色は徐々に濃くなったり薄くなったりしており、明確な境界線は表れにくい。
【0050】
つぎに、上記透明下地層4の上に、蒸着層5を形成した後、その上に、トップコート用塗料を塗布・乾燥してトップコート層6を形成する[図4(a)参照]。
【0051】
上記蒸着層5の材料は、アルミニウム、スズ、ステンレス等、上記透明下地層4に密着するものであれば、どのようなものであっても差し支えない。そして、蒸着層5の形成は、例えば、上記蒸着材料を、真空中(一般的には10-2Pa以下)で加熱蒸発させ、この蒸発粒子を成形品に析出させることによって行われる。
【0052】
ただし、上記蒸着層5は、その下のベース体3の濃淡模様Pと透明下地層4の色の濃淡が透けて見えるように、光透過率が20〜90%のハーフ蒸着層でなければならない。すなわち、蒸着層5の光透過率が低すぎると、最終的に得られる切欠き模様付成形品において、蒸着層5の下側の色の濃淡が視認できず、本発明が企図するような、奥行き感のある陰影を、蒸着層5の金属光沢色に付加することができない。一方、光透過率が高すぎると、蒸着層5の金属光沢色が殆ど透明に近くなり、切欠き模様Rとの対比が不明確となって、印象の弱いものとなる。
【0053】
上記蒸着層5の厚みは、蒸着層5の光透過率が上記の範囲となるよう適宜に調整される。そして、蒸着層5の上には、ホログラム形成層や、パール調付与層等をさらに形成させてもよく、この場合、より複雑な金属光沢色調を得ることでき、デザインの幅が広がるようになる。
【0054】
また、上記トップコート層6は、蒸着層5を保護して、酸化や腐食・摩耗を防止するものであり、例えば無色透明のアクリル系塗料等の、各種のトップコート用塗料を用いることができる。そして、上記トップコート層6は、無色であっても、着色剤を含有させて着色したものであってもよいが、その下の蒸着層5の金属光沢を損なうことのない、透明性を有しているものが好適である。もちろん、金属光沢を柔らかく見せるためにマット調に仕上げるものも好適である。さらに、紫外線防止用のUVカット剤や抗菌剤等を含有するものであってもよい。上記トップコート層6の厚みは、10〜50μmにすることが好適である。すなわち、10μm未満であると、その下の蒸着層5等を保護するのに充分な効果を発揮できないおそれがあり、50μmを超えると、保護の効果は充分であるものの、コンパクト容器全体の重量が増加して、軽量性を失うおそれがあるからである。
【0055】
つぎに、上記透明下地層4と蒸着層5とトップコート層6とが形成されたベース体2の上面の、予め設定された部分領域(切欠き模様Rの形成予定部)に、レーザ照射を行い、照射部分の蒸着層5とトップコート層6とを線状に除去して、その除去跡から透明下地層4を、切欠き模様Rとして露出させる(図4[b]参照)。
【0056】
上記レーザ照射は、YAGレーザ、二酸化炭素レーザ、ルビーレーザ、YVO4レーザ、半導体レーザ等、各種のレーザ装置を用いて行うことができる。なかでも、制御性,仕上がり性において、YAGレーザ、YVO4レーザ、半導体レーザのいずれかを用いることが好適である。
【0057】
上記レーザ照射によって形成された切欠き模様Rの切欠き部は、図5(a)およびその部分拡大図である図5(b)に示すように、透明下地層4の表面が露出し、すでに述べたとおり、色の濃淡があり透明性を有する透明下地層4と、その下のベース体3の濃淡模様Pとが重なった、複雑な色の濃淡を有する。そして、上記切欠き模様Rの周囲は、光透過性を有する蒸着層5の金属光沢色と、その下の濃淡重なり模様とが重なった、微妙な濃淡による奥行き感を有する金属光沢色となり、切欠き模様Rが手前側に浮き上がっているかのような印象を与える。
【0058】
この切欠き模様Rと、除去されていない蒸着層5の、色の濃淡が透けてみえる独特の金属光沢色との対比によって、美麗で、非常に印象的な外観の蓋部2を得ることができる。この蓋部2を本体部1と組み合わせることにより、図1に示すコンパクト容器を得ることができる。
【0059】
この方法によれば、上記独特の、印象的なデザインを、非常に効率よく、樹脂成形品である蓋部2に付与することができる。しかも、上記切欠き模様Rの切欠き部は、透明下地層4によって保護されており、金属光沢を有する蒸着層5が形成されている部分は、その表面がトップコート層6によって保護されているため、蓋部2の表面全体に耐久性があり、その美麗な外観を長期にわたって維持することができる。そして、切欠き模様Rの構成や色は、簡単に設計変更することができるため、多種多様なデザインが付与されたコンパクト容器を、短い納期で供給することができるという利点を有する。
【0060】
そして、このようにして得られたコンパクト容器は、陰影によって独特の奥行き感のある金属光沢色と、明確な線描きによる切欠き模様Rとが組み合わせられた、興趣に富む印象を呈する。このため、アイキャッチ効果の高い商品となる。そして、このコンパクト容器の美麗な外観は、耐久性を有するため、長期にわたって良好に使用することができる。
【0061】
なお、上記の例において、ベース体3として、白色と茶色が混じり合った濃淡模様Pが付与されたものを用い、赤色染料で着色され透明性を有する透明下地層4をその上に重ねることによって、濃淡重なり模様を有するものとしたが、これらの着色の組み合わせは特に限定するものではない。また、すでに述べたように、透明下地層4は、濃淡のないものであってもよく、さらには、着色剤を含有しない、透明のものであっても差し支えない。ただし、最終的な切欠き模様Rとの対比効果からすると、ベース体3の濃淡模様Pに、透明下地層4の濃淡が重なって濃淡重なり模様が形成されているものを用いる方が、その上に光透過性を有する蒸着層5を重ねたときに、蒸着層5の表面に透けてみえる濃淡が、より複雑で奥行き感のあるものとなり、好適である。
【0062】
また、上記の例は、レーザ照射によって形成する切欠き模様Rを、レーザ照射による除去跡で花や花びらの輪郭線を描いた、あたかも線描画のような構成にしたが、切欠き模様Rは、必ずしも線で構成する必要はない。例えば、点状の切欠き部分や、れと、線状の切欠き部分とを組み合わせたりすることができる。例えば、図5(c)に示すように、点状の切欠き部分を連続的に配置して、模様の輪郭部とするようにしてもよい。このように、切欠き模様Rを、幅の狭い線状の切欠き部分や点状の切欠き部分で構成すると、陰影ある背景の光沢色と相俟って、より繊細な印象を与えるものとなる
【0063】
上記切欠き模様Rを、線状の切欠き部分や点状の切欠き部分で構成する場合、その点状や線状の幅D[図5(b)、(c)を参照]は、0.1〜2mm程度に設定することが、より優れた印象を得る上で必要である。
【0064】
また、上記の例では、蒸着層5とトップコート層6を形成した後、レーザ照射を行って切欠き模様Rを形成した[図4(b)を参照]が、トップコート層6は、レーザ照射の後に形成しても差し支えない。すなわち、図6(a)に示すように、透明下地層4の上に蒸着層5を形成した後、レーザ照射を行い、蒸着層5を部分的に除去し、その除去部において切欠き模様Rを形成する。そして、図6(b)に示すように、その上から、蒸着層5の除去部も含めて、全面的にトップコート層6を形成することができる。
【0065】
このようにして得られた切欠き模様付成形品も、上記の例と同様、独特の印象を有する切欠き模様Rを有し、興趣に富むものとなる。ただし、この場合、トップコート層6は、切欠き模様Rの色調や蒸着層5の陰影を妨げないよう、できるだけ無色透明であることが望ましい。
【0066】
さらに、上記の例では、ベース体3の表面に、透明下地層4と、蒸着層5と、トップコート層6を、この順で、一層ずつ形成したが、これらの層を、転写箔から転写することによって形成してもよい。すなわち、図7(a)に示すように、まず、透明下地層4′と、蒸着層5と、トップコート層6と、基材層11とが、この順で設けられた転写箔を準備する。ただし、上記透明下地層4′は、透明性と接着性を備えたものでなければならず、ベース体3の濃淡模様Pにおける濃い色と薄い色とは異なる色の着色剤を分散含有することにより着色したものであってもよい。
【0067】
そして、図7(b)に示すように、この転写箔の、接着性のある透明下地層4′をベース体3に当てて転写箔を貼り付け、貼り付けられた転写箔から基材層11を剥がして除去する。このようにして、ベース体3の表面に、透明下地層4′と蒸着層5とトップコート層6とがこの順で積層された中間体を得ることができる。そこで、上記の例と同様、レーザ照射によって、蒸着層5とトップコート層6を部分的に除去して、切欠き模様Rを形成することができる[図4(b)を参照]。
【0068】
このようにして得られた切欠き模様付成形品も、上記の例と同様、独特の印象を有する切欠き模様Rを有し、興趣に富むものとなる。
【0069】
また、蒸着層5の表面に、他の層として、セミハードコートタイプの塗料を用いたミドルコート層20を形成した後、トップコート層6を形成し、レーザ照射によって、これらの層を部分的に除去して、切欠き模様Rを形成することができる[図8(a)を参照]。あるいは、蒸着層5の表面に、セミハードコートタイプの塗料を用いたミドルコート層20を形成した後、レーザ照射によって、これらの層を部分的に除去して、切欠き模様Rを形成し、その上から、レーザ照射による除去部も含めて、全面的にトップコート層6を形成することもできる[図8(b)を参照]。このように、蒸着層5とトップコート層6の間にミドルコート層20を介在させると、全体の耐久性が向上し、より長期にわたって、美麗な外観を維持することができる。
【0070】
さらに、図7(a)に示すような転写箔を用いる場合も、例えば蒸着層5とトップコート層6の間にミドルコート層20が形成された転写箔を用いることができる。
【0071】
そして、前記の例は、発明をコンパクト容器の蓋部2に適用したものであるが、本発明の切欠き模様Rを施す対象は容器に限らず、各種の樹脂成形品、あるいは樹脂成形品に他の部材を組み合わせた成形品等に適応可能である。例えば、携帯電話、文房具、家電製品、各種容器、装飾品等に広く応用することができる。
【実施例】
【0072】
[実施例1〜6、参考例1、比較例1〜5]
前述の実施の形態の製法に準じて、基本的な構成は図1に示す蓋部2と略同一で、その構成の一部が、後記の表1〜表4に示すように設定された蓋部を製造した(実施例1〜6、参考例1、比較例1〜5)。
【0073】
そして、得られた各蓋部表面の印象を、専門モニター5名で評価し、◎:切欠き模様Rと奥行きのある背景色の対比が印象的であり、非常に興趣に富む、〇:切欠き模様Rと奥行きのある背景色の対比が興趣に富む、△:背景色に奥行きが殆ど感じられず特に興趣に富むとはいえない、×:特別な印象がない、の4段階で評価した。その結果を下記の表1〜表4に併せて示す。なお、色の明度L*1〜L*2については、測色計(日本電色工業社製、分光色差計 SE6000、光源:C光源2°)で計測した。

【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
上記の結果から、実施例1〜6品および参考例1品は、いずれも、切欠き模様Rと奥行きのある背景色の対比が興趣に富むものであることがわかる。これに対し、比較例1〜5品は、いずれも興趣に富むものではないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、従来にない独特の印象を与える切欠き模様Rと背景色との組み合わせを有する、興趣に富む切欠き模様付成形品を提供するために、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
2 蓋部
3 ベース体
4 透明下地層
5 蒸着層
6 トップコート層
P 濃淡模様
R 切欠き模様
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8