(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
保形性を備え上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な容器本体と、該容器本体の上面を被覆する展伸性、酸素透過性及び透光性を備えたポリメチルペンテン性フィルム体と、該フィルム体を容器本体に固定する固着手段とを備えた栽培容器を用い、
a)殺菌処理した培地を容器本体に充填するか、又は、培地を充填した後に容器本体を殺菌処理する培地の殺菌・充填工程と、
b)該培地表面に種菌を散布すると共に、容器本体をフィルム体で被覆して固着手段で密着固定させる種菌接種工程と、
c)酸素透過性、透光性の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、
d)菌糸蔓延によって原基形成が開始され、且つ、菌糸塊の形成により培地が隆起する場合に、その隆起に展伸性のポリメチルペンテン性フィルム体が追随し、菌糸体量の増加を妨害することなく原基形成を促す菌糸培養後期工程と、
e)原基形成が完了したら、容器本体からフィルム体を外した状態で子実体の成長を促す子実体生育工程と、
f)成熟した子実体を採取する採取工程と、
から成ることを特徴とする展伸性フィルムによるキノコの栽培方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に適用可能なキノコは、シイタケ、ナメコ、ブナシメジ、エノキタケ、エリンギ等の容器栽培の可能なキノコが対象となる。
培地3には、広葉樹のオガコ、コーンコブ、綿実カス、針葉樹等が適用できる。
【0025】
図1に示す如く、本発明栽培容器1には、保形性を備え一定量の培地3が充填可能な容器本体2を用いる。
保形性とは、変形の虞ある袋体を除く意であり、
図4に示す如く、脚2aをつけた場合に積み重ね可能な硬質さを備えた素材を指し、例えば、ポリプロピレン等のプラスチックが挙げられる。
この容器は、栽培容器として機能するもので、上記一定容量の培地を充填可能とすると共に、後述する接種、菌糸の蔓延、原基形成等に必要なよう上部に開口部を設けたものとする。
【0026】
次いで、本発明には、該容器本体2の上部を被覆可能な、展伸性、酸素透過性及び透光性を備えたポリメチルペンテン性フィルム体4を使用する。
ここで、展伸性とは、後述する菌糸塊の発生による培地の隆起に対して追随して延伸し得る性能をいう。
酸素透過性とは、菌糸の蔓延及び原基の形成に必要とされる酸素を含んだ空気を通過させ得る性能をいう。
そして、透光性とは、上記と同様菌糸の蔓延及び原基の形成に必要な光を、自然光又は照明具6等から採光可能とする性能をいう。
この展伸性、酸素透過性及透光性の3つ性能を備えたフィルム体として、上記ポリメチルペンテン性フィルム体が挙げられる。具体的にはフォーラップ(リケンテクノス株式会社登録商標)がある。
該フォーラップは、引張り試験において、伸び率が、MD方向(フィルムの引き出し方向)に90%、TD方向(フィルムの幅方向)に570%を示している。又、酸素透過試験においては、O
2透過は、4.0×10
−10mol/m
2・s・Pa(JISK7026−1附属書2準拠)、7.0×10
4cc/m
2・24hr・atmの値を示している。
耐熱性は、測定方法(東京都消費生活条例の品質表示実施要領)に基づいて、180の値を示している。
厚み10μmの透明性のラップフィルム体である。
本発明は、斯かる特性を備えたフィルム体を活用することに重要な特徴が存する。
【0027】
そして、前記フィルム体4には、これを容器本体2に固定する固着手段5を設ける。具体的には、一つ目に、容器本体の上外縁部を平滑面に形成し、該外縁部にフィルム体を密着させた際、真空密着作用によりフィルム体が容器本体に固定される手段がある。二つ目に、容器本体の上縁部にフィルム体を被せ、そこをゴム紐又はテープ、糸紐等で縛着する手段がある。三つ目には、バネ体を介して上縁部付近を締め付け可能な器具等を挙げることができる。
いずれにあっても、上記フィルム体4に後述する菌糸塊による隆起作用が加わったとき、該フィルム体4が容器本体2から外れることなく、その密着性を保つ固着性があれば良い。
【0028】
本発明にあっては、斯かる栽培容器1を用いて、
図2に示す如く、培地の殺菌・充填工程、種菌接種工程、菌糸培養前期工程、菌糸培養後期工程、子実体生育工程、採取工程を施すものとする。
【0029】
先ず、殺菌・充填工程にあっては、殺菌処理した培地3を容器本体2に充填する方法があり、具体的には、培地3全体を蒸気滅菌する。
又は、培地3を容器本体2に充填し、一旦縁部にフィルム体4を装着した後に、殺菌処理する方法がある。具体的には、培地3を充填した容器本体2の縁部をフィルム体4で覆い、120℃60分間の蒸気殺菌をする。
いずれが良いかは個別に判断するが、比較的規模が大きな場合には、前者が好適であり、規模の小さな場合には後者が適したものとなる。
【0030】
この充填工程にあって最も望ましい形態は、
図3(a)に示す如く、容器本体2の上縁部まで培地3を入れ、その表面を摺り切りの平坦状とすることである。
その理由は、後工程で培地にフィルム体を被せたとき、該フィルム体と培地が密着状態となり、隙間空間を極少とすることができるからである。もし、大きな隙間空間が存在すると、発生した炭酸ガスがその比重の重さから空間に滞留して、キノコ菌の呼吸の妨げとなり、又、培地表面からの水分蒸散のできる空間が大きくなり培地表面の水分が減少してしまうからである。
【0031】
平坦状に至らない場合には、容器本体の天端から少なくとも20mm以内に収まる空間とすることが望ましい。
上記と同様、溜まり空間を一定限度に抑えることで、キノコ菌への呼吸の妨げ及び表面の水分減少を最小限に抑えることができるからである。
【0032】
器本体に培地が充填されたら、培地表面に栽培対象となるキノコの種菌を接種する接種工程を行う。
上記充填工程で、フィルム体4を被せた場合には、該フィルム体4を外して接種する。
接種は、通常の種菌の接種と同様で、微粒子の種菌を水との懸濁液とし、噴霧状に降りかける等して行う(
図3(b)参照)。
そして、容器本体2をフィルム体4で被覆して固着手段5で密着固定する(
図3(c)参照)。
固着手段5は、上記の如く、容器本体2の上外縁部を平滑面に形成するか、ゴム紐又はテープ、糸紐等で縛着する等して、フィルム体に後述する菌糸塊による隆起作用が加わったとき、該フィルム体が容器本体から外れることなく、その密着性を保つものとする。
該フィルム体4の固着は、雑菌侵入によるコンタミネーションを防止する為のものである。
【0033】
接種が完了して、一定の培養期間が経過すると、培地に種菌が蔓延してゆく、培養前期工程が実行される(
図3(d)参照)。
該培地への菌糸の蔓延及び後述する原基の形成には、本来酸素の供給が必要となる。
しかし、
図6に示す如く、従来空気の取り入れには、瓶体と蓋体との間に隙間を形成したり、不織布製の通気フィルターを装着したりしているが、どちらも発生面に対する空気供給量が不均一となり、キノコの発生部位に偏りを生む一因となっている。
これに対し、本発明のポリメチルペンテン性フィルム体は、上記の如く、4.0×10
−10mol/m
2・s・Pa、7.0×10
4cc/m
2・24hr・atmの優れた酸素の透過性を備えたものであり、上記酸素供給の要求に応え得るものとなる。
【0034】
さて、上記培養前記工程で菌糸が蔓延していくと、やがて原基形成が開始される。
この原基形成にあっては、上記酸素供給に加えて、光の照射が必要となる。
その理由は、原基形成にあっては、キノコの成長が栄養成長から生殖成長へと切り替わる時期であり、この光の存在によって、刺激が与えられ、成長段階の切り替えの契機となるからである。
しかし、従来、一般的に半透明の素材を用いているため、素材通過後の照度は83%程度に減少し、原基形成の遅れを招き、培養期間短縮の妨げとなっていた。
これに対し、本発明のポリメチルペンテン性フィルム体は、透明体であり、優れた透光性を備えたもので、上記光照射の要求に応え得るものとなる。
【0035】
この光照射の要求に対し、光源とするのは自然光でも良いが、必要に応じて人工照明を施す。
自然光を利用する場合には、容器本体2の上部に自然光が射し込み可能な空間を確保し、人工照明の場合には、上部にLED等の照明具6を配設する。
【0036】
さて、原基形成が進むと、容器の表面に、
図3(e)に示す如く、培地3が隆起3aする現象が見られることがある。
その理由は、以下の如くに、推察される。
培地全体に菌糸が蔓延すると、菌糸は原基形成のための被膜を形成すると共に、培地内部の菌糸体量を増加させ、養分蓄積を充実させるため菌床の上部の方から菌糸塊をつくることがある。つまり、原基を形成する菌糸体量を確保するのに必要な空間が培地内だけでは確保できず、形成された菌糸塊が培地を膨張させ、培地3表面を隆起させるものと考えられる。
従って、この菌糸塊の形成を抑制してしまうことは、菌糸体量の増加を阻害することになり、適正な原基形成を妨害する結果を招くことになる。
これに対し、本発明フィルム体は上記の如く、伸び率がMD方向に90%、TD方向に570%を示す如く、優れた展伸性を示すものである。
従って、菌糸塊の形成により培地3が隆起3aする場合に、その隆起に展伸性のポリメチルペンテン性フィルム体4が追随し、菌糸体量の増加を妨害することなく適正な原基形成を促すものとなる。
【0037】
培地表面の略全体が茶褐色を呈し始める等して原基形成が完了したら、容器本体2からフィルム体4を外した状態で子実体の成長を促す生育工程へと進む(
図3(f)参照)。
原基形成が終期に近づくと、培地表面の略全体が褐色化する変化が見られ、これは原基形成が略完了した証左でもある。又、原基形成がほぼ終了し、子実体の発生初期に幼子実体が見られる時期となる。
そこで、この原基形成が終了し、又は、幼子実体の発生の見られる附近の時期を原基形成の完了時と捉え、この時期に、固着手段5を解いてフィルム体4を容器本体2から外し、子実体の生育を促すべく15℃程度の発生室へと移動させる。
ここでフィルム体4を容器本体2から外すとは、フィルム体が容器を密閉する状態を脱することをいい、フィルム体を切って培地が露出する状態とすることも含む意である。
フィルム体を外すとき、フィルム体4とキノコが癒着すると、キノコ発生を損傷させるものとなるが、本発明フィルム体表面を平坦状とすれば、キノコとの癒着性のないものとなる。
この工程は、基本的に通常の子実体の生育と変わらぬ環境であるが、上記菌糸体量の増加が妨害されず充分な原基形成が促された後での子実体の生育となり、適正で多くの子実体の生育が確認されている。
【0038】
子実体が成熟したら、これを採取し、キノコ製品とする(
図3(g)参照)。
【0039】
以上の如く、本発明によれば、その使用する栽培容器により、例えば
図4(A)に示す如く、容器底部に自立用の脚2aを適当長さに配すると、容器本体を重ねて積むことができ、又、
図4(B)に示す如く、棚に積む場合にも、棚の高さを短寸とすることができる。従って、栽培室内により多くの数の栽培容器を設置することができ、室内に効率良く収納し、収納密度を高めることができる。
同時に、上記の如く、培地が隆起する場合に、培地の隆起に追随して展伸性に富んだポリメチルペンテン性フィルム体を伸長させることができ、菌糸塊を抑制してしまい菌糸体量の増加を阻害するという発生上の欠点を克服することができる。
従って、高い収納密度と良好なキノコの発生条件の確保という双方の要求を両立させることができるものとなる。
【0040】
又、充分な酸素供給の確保とその培地全体への偏りのない均一性から、キノコ発生部位を均質化することができ、且つ、透光性により充分な光が投与され、適正な原基形成が促されると共に栽培期間を短縮させ得ることも上記した通りである。
【0041】
<実施例>
対象をシイタケとし、これに適した培地として、広葉樹オガコに栄養体としてフスマを培地重量の10wt%を添加・混合し、加水して62wt%の水分量に調整した。
150×150×50mmの箱型のポリプロピレン製の容器本体に、上記培地を上面摺り切りの平坦面状に充填し、そこをポリメチルペンテン性フィルム体(フォーラップ)で覆い、ゴム紐で縛着した。これを120℃で60分間の蒸気殺菌を施した。
冷却後、フィルム体を一旦外し、シイタケ種菌を接種し、再びフィルム体を縛着した。
これを20℃、RH60〜80%に管理した部屋で、60日間培養した。照明は、作業中に室内照明灯を点灯し、培地表面付近で200〜300lux、1日に0.5〜4時間の照射とした。
【0042】
30日目から培地の隆起が始まり、高さが10mm程度に至ったが、被覆したポリメチルペンテン性フィルム体はこれに追随して伸長し、その後45日目から培地表面の褐色化が始まり、さらに原基形成が進行した。
培養完了した菌床を15℃、RH80〜90%に管理した発生室に移し、フィルム体を除去し24時間浸水した。その後10日目にキノコ(シイタケ)を得た(
図5)。
【0043】
この時の初回発生のみのキノコ生重は、単位培地重量あたり20%〜25%であり、培養期間と発生期間を合わせた栽培期間は70日であった。
一般に用いられている3Kg菌床の場合は、100日の培養期間と120日の発生期間を合わせた220日の栽培期間に収穫できるキノコ生重が700〜1000gであり、培地重量の23%〜30%である。
今回のラップ利用栽培と既存の3kg袋栽培を比較すると、単位培地重量あたりで比較した場合は同等の生重のキノコを、ラップ利用栽培においては既存袋栽培と比較して30%以下の栽培期間で得られたことになる。
【0044】
培養完了時点における害菌汚染はなく、フィルム体のフィルターとしてのバクテリアバリア性も確認できた。