【実施例】
【0037】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
【0038】
[実施例1]
様々ながん細胞由来の細胞株について、細胞外小胞におけるTERRAの発現量が上昇していることを確認した。
【0039】
(1)細胞株
がん細胞由来の細胞株としては、以下の細胞株を使用した。
(白血病由来)
U937(ATCC(American Type Culture Collection)から入手)
HL−60(ATCCから入手)
(多発性骨髄腫由来)
RPMI8226(ATCCから入手)
KMS−11(JCRB細胞バンクから入手)
(肺がん由来)
SCT−1(ATCCから入手)
(卵巣がん由来)
Kuramochi(JCRB細胞バンクから入手)
【0040】
また、比較例の正常細胞の細胞株としては、以下の細胞株を使用した。
(ヒト皮膚線維芽細胞)
NHDF(normal dermal fibroblast、JCRB細胞バンクから入手)
(EBウイルス形質転換B細胞)
HEV0034(理研バイオリソースセンター(RIKEN BRC)から入手)
HEV0046(RIKEN BRCから入手)
【0041】
(2)サンプル調製
各細胞について、培養液中で、37℃、5%CO
2の条件で24時間培養した。U937、HL−60、RPMI8226、KMS−11、HEV0034、およびHEV0046の培養液の組成は、10%牛胎児血清(Fetal bovine serum (FBS))および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地とした。また、SCT−1、Kuramochi、およびNHDFの培養液の組成は、10%FBS、1×非必須アミノ酸(Non-Essential Amino Acids Solution(NEAA))および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地とした。
【0042】
前記培養後、各細胞株の培養上清を回収した。つぎに、200μLの培養上清に、100μLのリン酸緩衝液(PBS)を添加し、希釈培養上清を調製した。さらに、前記希釈培養上清に、10μLのProteinaseK(Invitrogen社製)を添加し、よく混合した。前記混合後、37℃で10分間インキュベートした。つぎに、60μLのTotal Exosome Isolation Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)を加えよく混合し、4℃で30分間インキュベートした。前記インキュベート後、得られた混合物を10000×gで5分間遠心した。そして、上清を除去し、沈殿物を200μLのPBSで懸濁し、細胞外小胞画分として回収した。
【0043】
(3)総RNAの回収
200μLの細胞外小胞画分に、700μLのQIAzol Lysis Reagent(QIAGEN社製)を添加し、よく混合した。得られた混合液に、2.85μLの合成ath−miR−159(0.1nmol/L、シロイヌナズナ由来miR-159の合成miRNA mimic、北海道システムサイエンス社製)を添加し、よく混合し、室温(約25℃)で5分静置した。前記静置後、200μLのクロロホルムを添加し、40秒間激しく混合し、さらに、室温で5分静置した。つぎに、クロロホルム添加後の混合液について、4000rpmの条件で、15分間遠心し、2層に分離した状態の上段側の溶液を回収した。そして、回収した溶液と等量のエタノールを添加および混合後、得られた混合液をmiRNeasy mini Kit(QIAGEN社製)付属のスピンカラムに添加し、8000×gで1分間遠心した。つぎに、miRNeasy mini Kitの添付のプロトコルに従い、前記スピンカラムを洗浄し、さらに総RNAを溶出することにより35μLの総RNA溶液を取得した。
ath−miR−159(配列番号3)
5’-uuuggauugaagggagcucua-3’
【0044】
(4)TERRAの測定
つぎに、下記組成となるように各試薬を混合し、逆転写準備液を調製した。
【0045】
(逆転写準備液)
総RNA溶液 2.5μL
TERRA逆転写プライマー(2μmol/L) 1μL
dNTP 1μL
DNase/RNase free water 5.5μL
合計 10μL
【0046】
TERRA逆転写プライマー(配列番号4)
5’-CCCTAACCCTAACCCTAACCCTAACCCTAA-3’
【0047】
前記逆転準備液を氷上で1分間静置した後、下記組成の逆転写反応液を調製した。なお、逆転写準備液以外の試薬は、SuperScript(登録商標)III-Strand Synthesis System Kit(Invitrogen社製)に添付のものを使用した。
【0048】
(逆転写反応液)
逆転写準備液 10μL
10×RT buffer 2μL
MgCl(25mmoL/L) 4μL
DTT 2μL
RNase Inhibitor 1μL
SuperScript酵素 1μL
合計 20μL
【0049】
前記逆転写反応液を55℃で50分間インキュベート後、酵素反応の停止のため、85℃で4分間インキュベートし、さらに、氷上にサンプルを静置した。前記静置後、1μLのRNaseHを添加し、37℃で20分間インキュベートすることにより、cDNA溶液を得た。
【0050】
さらに、下記組成となるように各試薬を混合し、リアルタイム(RT)−PCR反応液を調製した。
【0051】
(RT−PCR反応液)
cDNA溶液 1μL
TERRA用フォワードプライマー(25nmol/L) 1μL
TERRA用リバースプライマー(25nmol/L) 1μL
2×SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems) 12.5μL
DNase/RNase free water 9.5μL
合計 25μL
【0052】
TERRA用フォワードプライマー(配列番号5)
5’-GAATCCTGCGCACCGAGAT-3’
TERRA用リバースプライマー(配列番号6)
5’-CTGCACTTGAACCCTGCAATAC-3’
【0053】
前記RT−PCR反応液について、RT−PCR装置(Applied Biosystems 7900HT Fast Real Time PCR System、Applied Biosystems社製)を用いて、95℃、10分で反応後、95℃、15秒および60℃、1分を1サイクルとし、50サイクル反応を実施することによりRT−PCRを実施した。
【0054】
(5)コントロールの測定
下記組成となるように各試薬を混合し、コントロールの逆転写準備液を調製した。なお、各試薬は、TaqMan MicroRNA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)に添付のものを使用した。
【0055】
(コントロールの逆転写準備液)
10×RT buffer 2μL
dNTP(100mmol/L) 0.2μL
RT Enzyme 1μL
ath-miR-159用5×RT primer 1μL
hsa-miR-16用5×RT primer 1μL
DNase/RNase free water 4.8μL
合計 10μL
【0056】
つぎに、10μLのコントロールの逆転写準備液に、10μLの総RNA溶液を添加することで、コントロールの逆転写反応液を調製し、これを氷上で5分間静置した。前記コントロールの逆転写反応液について、16℃で30分間インキュベート後、42℃で30分間インキュベートし、さらに、85℃で5分間インキュベートすることにより、コントロールのcDNA溶液を取得した。
【0057】
さらに、下記組成となるように各試薬を混合し、コントロールのRT−PCR反応液を調製した。なお、cDNA溶液以外の試薬は、TaqMan MicroRNA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)に添付のものを使用した。
【0058】
(コントロールのRT−PCR反応液)
cDNA溶液 1μL
20×assay reagent
(ath-miR-159用またはhas-miR-16用) 1μL
2×Universal PCR Master Mix 10μL
DNase/RNase free water 8μL
合計 20μL
【0059】
そして、前記コントロールのRT−PCR反応液について、前記実施例1(4)と同様にして、RT−PCRを実施した。
【0060】
(6)TERRAの発現量の算出
別途、コントロールRNA(Stratagene QPCR Human Reference Total RNA)からcDANを合成することにより調製したコントロールサンプルを1/10、1/100、および1/1000に段階希釈し、前記RT−PCR反応液と同時にRT−PCRを行い、得られた結果から検量線を作成した。そして、TERRAの発現量は、RT−PCRによって得られた各サンプルのCt値と、前記検量線とを用いて相対的な発現量として算出した。なお、NHDF細胞株由来のサンプルにおけるTERRAの発現量を1とした。
【0061】
つぎに、コントロールmiRNA(外来性ath−miR−159および内在性has−miR−16)について、RT−PCRにより得られたCt値から比較Ct法によって相対的な発現量として算出した。なお、NHDF細胞株由来のサンプルにおけるTERRAの発現量を1とした。
【0062】
そして、コントロールmiRNAの発現量を用いて、各サンプルのTERRAの発現量を標準化した(TERRAの発現量/コントロールmiRNAの発現量)。これらの結果を
図1に示す。
【0063】
図1は、細胞外小胞におけるTERRAの相対的発現量を示すグラフである。
図1において、横軸は、細胞株の種類を示し、縦軸は、TERRAの相対的発現量を示す。
図1に示すように、様々ながん細胞由来の細胞株において、正常細胞の細胞株と比較して、細胞外小胞のTERRAの発現量が増加していることが分かった。これらの結果から、細胞外小胞のTERRAが、がんマーカーになり得ることが分かった。
【0064】
[実施例2]
多発性骨髄腫の患者由来の血液試料の細胞外小胞において、TERRAの発現量が上昇していることを確認した。
【0065】
健常者20名(若年者10名、老年者10名)および多発性骨髄腫の患者37名から末梢血2mLを採取した。得られた末梢血を3000rpmで15分間で遠心し、上清部分(血漿成分)を回収した。つぎに、100μL血漿に100μLのPBSを添加し、希釈血漿を調製した。前記希釈培養上清に代えて、前記希釈血漿を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、標準化されたTERRAの発現量を算出した。この結果を
図2に示す。
【0066】
図2は、細胞外小胞におけるTERRAの相対的発現量を示すグラフである。
図2において、横軸は、被検者の種類(健常者:NC、多発性骨髄腫:MM)を示し、縦軸は、TERRAの相対的発現量を示す。
図2に示すように、多発性骨髄腫の患者由来の血液試料の細胞外小胞において、健常者と比較して、TERRAの発現量が有意に増加していることが分かった。これらの結果から、細胞外小胞のTERRAが、がんマーカーになることが分かった。
【0067】
[実施例3]
急性骨髄性白血病の患者由来の血液試料の細胞外小胞において、TERRAの発現量が上昇していることを確認した。
【0068】
健常者20名(若年者10名、老年者10名)、骨髄異形成症候群の患者20名(低リスク群6名、中リスク群4名、高リスク群8名)、および骨髄異形成症候群から転化した急性骨髄性白血病の患者8名から末梢血2mLを採取した。得られた末梢血を3000rpmで15分間で遠心し、上清部分(血漿成分)を回収した。つぎに、100μL血漿に100μLのPBSを添加し、希釈血漿を調製した。前記希釈培養上清に代えて、前記希釈血漿を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、標準化されたTERRAの発現量を算出した。この結果を
図3に示す。
【0069】
図3は、細胞外小胞におけるTERRAの相対的発現量を示すグラフである。
図3において、横軸は、被検者の種類(健常者:NC、骨髄異形成症候群(低リスク群):MDS_low_risk、骨髄異形成症候群(中リスク群):MDS_int_risk、骨髄異形成症候群(高リスク群):MDS_high_risk、骨髄異形成症候群から転化した急性骨髄性白血病:post MDS/AML)を示し、縦軸は、TERRAの相対的発現量を示す。
図3に示すように、いずれのリスク群の骨髄異形成症候群の患者由来の血液試料の細胞外小胞および急性骨髄性白血病の患者由来の血液試料の細胞外小胞においても、健常者と比較して、TERRAの発現量が有意に増加していることが分かった。これらの結果から、細胞外小胞のTERRAが、がんマーカーになることが分かった。
【0070】
[実施例4]
多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、および骨髄異形成症候群から転化した急性骨髄性白血病について、TERRAにより精度よく罹患の可能性を試験できることを確認した。
【0071】
前記実施例2および3における多発性骨髄腫の患者、骨髄異形成症候群の患者および骨髄異形成症候群から転化した急性骨髄性白血病の患者由来の血液試料の細胞外小胞におけるTERRAの発現量に基づき、ROC(receiver operating characteristic curve)解析を行なった。また、得られたROC曲線に基づき、ROC曲線下面積(AUC:area under the curve)を算出した。これらの結果を
図4および5に示す。
【0072】
図4は、多発性骨髄腫におけるROC曲線を示すグラフである。
図4において、横軸は、偽陽性率(100%−特異度(%))を示し、縦軸は、感度(陽性率)を示す。
図4に示すように、TERRAの発現量は、多発性骨髄腫の罹患と関係があり、また、AUCは、0.7956であり、診断に用いるのに十分な予測能を有していた。
【0073】
図5(A)〜(D)は、骨髄異形成症候群および骨髄異形成症候群から転化した急性骨髄性白血病におけるROC曲線を示すグラフである。
図5において、(A)は、骨髄異形成症候群(低リスク群)の結果を示し、(B)は、骨髄異形成症候群(中リスク群)の結果を示し、(C)は、骨髄異形成症候群(高リスク群)の結果を示し、(D)は、骨髄異形成症候群から転化した急性骨髄性白血病の結果を示す。
図5(A)〜(D)において、横軸は、偽陽性率(100%−特異度(%))を示し、縦軸は、感度(陽性率)を示す。
図5(A)〜(C)に示すように、TERRAの発現量は、骨髄異形成症候群の罹患と関係があり、また、骨髄異形成症候群の低リスク群、中リスク群および高リスク群のAUCは、それぞれ、0.8267、0.5900、および0.8250であり、診断に用いるのに十分な予測能を有しており、特に骨髄異形成症候群の低リスク群および高リスク群において、高い予測能を有していた。また、
図5(D)に示すように、TERRAの発現量は、急性骨髄性白血病の罹患と関係があり、また、AUCは、1.0000であり、診断に用いるのに十分、且つ高い予測能を有していた。
【0074】
これらの結果から、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、および骨髄異形成症候群から転化した急性骨髄性白血病について、TERRAにより精度よく罹患の可能性を試験できることがわかった。
【0075】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0076】
この出願は、2017年4月20日に出願された日本出願特願2017−083898を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。