【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、内閣府革新的研究開発推進プログラム、電圧駆動MRAM開発タスクフォースプロジェクト、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スピントロニクスデバイスは、ハードディスク用磁気ヘッド、スピントルク書換え型MRAM(STT−MRAM)、3端子型MRAM、電圧駆動型MRAM、スピントルク発振素子、スピン共鳴トンネル素子の何れかであることを特徴とする請求項7に記載のスピントロニクスデバイス。
【背景技術】
【0002】
強磁性層/絶縁体層(バリア層)/強磁性層の三層構造からなる強磁性トンネル接合体(MTJ:Magnetic tunnel junction)は例えばハードディスク装置の磁気ヘッドや不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magneto−resistive random access memory)の情報記録セルとして用いられている。また、小型の高感度磁気センサーとしても利用される。MTJ素子は2つの強磁性層の相対磁化角度に対してバリア層を介したトンネル抵抗値が変化するトンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunnel magneto−resistance)を示す。このような応用分野では、磁気抵抗変化比(TMR比)が高いこと、作製が容易であること、幅広い基板上に作製可能なことが望まれる。
【0003】
強磁性層としてコバルト−鉄−ホウ素(CoFeB)、バリア層として酸化マグネシウム(MgO)からなるMTJ素子が広く用いられている。その主な理由として、CoFeBは非晶質であるため、幅広い下地構造の上に直接MTJ素子構造を作製可能であること、室温において100%を超える高いTMR比が比較的容易に得られることなど、幅広い素子応用に好ましい特長を有するためである。とりわけ高いTMR比は、MgOバリア層からCoFeB層の結晶化が進行することに起因する。非晶質CoFeB層上にスパッタなどを用いて成膜したMgOは(001)配向成長した層として得られ、200〜500℃程度の熱処理によって、CoFeB層がMgO層側界面から結晶化が進展し、結果として高品位な界面結晶構造が実現される。そのため、CoFeB/MgO/CoFeB構造を有するMTJ素子は、熱処理によってこの3層すべてが(001)結晶配向を持つ積層構造が実現されるためTMR比の大きな増大が観察される(非特許文献1)。この高いTMR比はMgO(001)のΔ
1バンドを介したコヒーレントトンネル効果によってもたらされる。
【0004】
一方、MgOとCoFeBとの間には3〜4%程度の格子不整合があることから、この界面にはミスフィット転位欠陥が多数導入されるという問題がある。そのため、CoFeB/MgO/CoFeB構造ではTMR比の向上には限界がある。また、強磁性層としてCoFeB以外に利用が期待される材料群とMgOとの格子不整合は一般的にさらに大きい。例えば、高スピン偏極材料であるCo
2FeAl、Co
2MnSiなどのCo基ホイスラー合金では3〜6%、垂直磁化材料であるFePtやMnGaなどでは8〜10%の大きな格子不整合のため、MgOをバリア層としてこれらの強磁性層を用いてコヒーレントトンネル効果を顕著に示すMTJ素子を作製することが困難である。
【0005】
このような大きな格子不整合を低減し、より高品質なMTJ素子を作製する方法としてバリア層としてMgAl
2O
4を用いる方法がある(特許文献1)。MgAl
2O
4は格子定数が約0.809nmのスピネル構造を安定構造として持つ。その結晶格子間隔は岩塩構造を有するMgOに比べて約4%小さいため、CoFeB、CoFe、Co基ホイスラー合金、FePt、CoPt、MnGa、MnGeなど、幅広い強磁性体と格子整合性がよい。また、スピネル構造の陽イオン位置がランダムに配置された構造(陽イオン不規則化スピネル構造)も準安定構造として得ることが可能である(特許文献2)。さらに、MgAl
2O
4では、MgとAlの比率は化学量論比である1:2である必要はなく、MgとAl比率の調整によって格子定数を連続的に変化させることができるため、強磁性層と格子整合性をより高めることができる。そのため、MgAl
2O
4のより一般的な表現として(Mg
1−xAl
x)−O
x(0<x<1)として記述できる。MgAl
2O
4バリア層を用いた場合にもコヒーレント効果が現れ、室温において300%を超える大きなTMR比が実現されている(特許文献2)。また、MTJ素子ではバイアス電圧の印加によってTMR比が低下する問題が知られており、実用上問題となる(バイアス電圧依存性)。MgAl
2O
4バリア層の導入により格子不整合が低減されると、このTMR比の低下の度合いを軽減できることも知られている(特許文献1)。さらに、MgAl
2Oに接した極薄の強磁性層には強い垂直磁気異方性を付加することができることが知られており、この効果によってMRAMの大容量化に適した垂直磁化型MTJ素子も構成することができる(特許文献3)。
【0006】
しかし、高い室温TMR比や良好なバイアス電圧特性などを示す高性能なMTJ素子を作製するためには、結晶質のMgAl
2O
4バリア層を得る必要があり、そのためには単結晶の強磁性層、例えばFe、CoFe合金、Co
2FeAl合金、の下地構造が必要であった。このため、利用可能な基板や下地材質は極めて限定されるという応用上の問題があった。とりわけ、非晶質CoFeB上にMgAl
2O
4層を成膜すると非晶質として得られるため、MTJ素子の結晶化を実現できないことから、コヒーレントトンネル効果は得られず、CoFeB層とMgAl
2O
4バリア層を用いて100%を超えるような高いTMR比は実現できないという問題があった(非特許文献2、非特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑み、従来の単結晶下地を用いずに、CoFeB層とMgAl
2O
4バリア層を有するMTJ素子を実現することによって、高いTMR比を達成することを課題としている。また、TMR比のバイアス電圧依存性を抑制することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはMgAl
2O
4をバリア層として用いたMTJ素子に関する研究を行っている過程で、CoFeB層上に非常に薄いMgOを形成した後に、MgAl
2O
4膜を形成することによってMgAl
2O
4層の結晶化が起こるとともに、MgO/MgAl
2O
4積層膜が(001)成長した配向膜として得られることを見出した。その結果、発明者らはCoFeB/MgO/MgAl
2O
4/CoFeB構造からなる積層膜が熱処理によって全層が結晶化することで高いTMR比が実現されるMTJ素子として機能することを見出した。さらに、MgO/MgAl
2O
4積層バリア層は、CoFeBとの格子不整合が小さいという効果によって、バイアス電圧依存性が改善することも同時に見いだしたことで、本発明に至っている。
【0011】
[1]第1磁性層と第2磁性層との間に設けられたトンネルバリア層を有する強磁性トンネル接合体であって、前記トンネルバリア層は第1絶縁層と第2絶縁層の積層構造からなる配向した結晶体であって、前記第1絶縁層はMg
1−xX
x(0≦x≦0.15)の酸化物からなり、XはAl、Tiの群から選ばれた少なくとも1つ以上の元素から構成され、
前記第1絶縁層の厚さは0.05nm以上1.2nm以下であり、前記第2絶縁層は
結晶性であり且つMg、Al、Zn、Liの群から選ばれた少なくとも2つ以上の元素から構成される合金の酸化物からなり、
前記第1絶縁層の前記厚さと前記第2絶縁層の厚さとの合計は0.6nm以上3nm以下であり、前記第1磁性層と前記第2磁性層がいずれも、CoとFeの群から選ばれた少なくとも1つ以上の元素とBから構成される合金からなる強磁性トンネル接合体。
【0012】
[2]前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層は(001)成長した配向膜であることを特徴とする[1]に記載の強磁性トンネル接合体。
[3]前記トンネルバリア層と
前記第1磁性層との間、又は前記トンネルバリア層と
前記第2磁性層との間の一方又は両方にCoとFeの群から選ばれた少なくとも1つ以上の元素から構成される層がさらに設けられた
ことを特徴とする[1]
又は[2]に記載の強磁性トンネル接合体。
[4]前記第1絶縁層がMgOからなる
ことを特徴とする[1]
乃至[3]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体。
[5]前記第2絶縁層がMg
1−yAl
y(0.2≦y≦0.8)の酸化物からなる
ことを特徴とする[1]乃至
[4]の何れかに記載の
強磁性トンネル接合体。
[6]室温において120%以上34000%以下のトンネル磁気抵抗を示す[1]乃至
[5]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体。
【0013】
[7][1]乃至
[6]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体を備えたスピントロニクスデバイス。
[8]前記スピントロニクスデバイスは、ハードディスク用磁気ヘッド、スピントルク書換え型MRAM(STT−MRAM)、3端子型MRAM、電圧駆動型MRAM、スピントルク発振素子、スピン共鳴トンネル素子の何れかであることを特徴とする
[7]に記載のスピントロニクスデバイス。
【0014】
[9]基板(例えばSi)をスパッタ装置に導入する工程と、この基板に第1磁性層(例えば、Co−Fe−B層)を成膜する工程と、この第1磁性層に重ねて
、厚さが0.05nm以上1.2nm以下の第1絶縁層(例えば、MgO膜)を成膜する工程と、この第1絶縁層に重ねて第2絶縁層(例えば、Mg−Al−O層)を
、前記第1絶縁層の前記厚さと前記第2絶縁層の厚さとの合計が0.6nm以上3nm以下となるように、成膜する工程と、この第2絶縁層に重ねて第2磁性層(例えば、Co
20Fe
60B
20層)を成膜する工程と、作製した多層膜構造を300℃から500℃の温度範囲で1分乃至60分間真空中熱処理を行なう工程とを備え
、前記熱処理の工程後において前記第2絶縁層は結晶性であることを特徴とする強磁性トンネル接合体の製造方法。
[10]前記熱処理の工程後において前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層は(001)成長した配向膜であることを特徴とする[9]に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
[11]前記基板に下地構造
層(例えば、Ta)を成膜してから、前記第1磁性層
の成膜工程を行うことを特徴とする[
9]又は[10]に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
[12]前記第1磁性層
の成膜工程と前記第1絶縁層
の成膜工程との間に、この第1磁性層に重ねて第
1磁性挿入層(例えば、CoFe膜)を成膜する工程を行うことを特徴とする
[9]乃至[11]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
[13]前記第2絶縁層
の成膜工程と前記第2磁性層
の成膜工程との間に、この第2絶縁層に重ねて第2磁性挿入層(例えば、CoFe膜)を成膜する工程を行うことを特徴とする
[9]乃至
[12]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
[14]前記第2磁性層
の成膜工程と前記熱処理
の工程との間に、前記第2磁性層に重ねて上部構造
層(例えば、Ta)を成膜する工程を行うことを特徴とする
[9]乃至
[13]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
【0015】
[9] 前記基板に下地構造膜(例えば、Ta)を成膜してから、前記第1磁性層成膜工程を行うことを特徴とする[8]記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
[10] 前記第1磁性層成膜工程と前記第1絶縁層成膜工程との間に、この第1磁性層に重ねて第2磁性挿入層(例えば、CoFe膜)を成膜する工程を行うことを特徴とする[8]又は[9]記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
[11] 前記第2絶縁層成膜工程と前記第2磁性層成膜工程との間に、この第2絶縁層に重ねて第2磁性挿入層(例えば、CoFe膜)を成膜する工程を行うことを特徴とする[8]乃至[10]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
[12] 前記第2磁性層と前記熱処理工程との間に、前記第2磁性層に重ねて上部構造膜(例えば、Ta)を成膜する工程を行うことを特徴とする[8]乃至[11]の何れかに記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、CoFeBと格子不整合が小さいMg−Al−Oからなるバリア層を提供し、その結果として例えば大きなTMR比が得られるMTJ素子とその作製方法を提供する。ここで大きなTMR比とは室温で120%以上のTMR比が得られるということである。またTMR比のバイアス電圧依存性が改善でき、その指標としてTMR比が半減するバイアス電圧V
halfを用いるとV
half=1Vを超える値を実現できる。このためMTJ素子の電気的出力を向上することが可能である。本発明のMTJ素子はハードディスク用磁気ヘッドやスピントルク書換え型MRAM(STT−MRAM)に応用できるほか、3端子型MRAM、電圧駆動型MRAM、スピントルク発振素子、スピン共鳴トンネル素子など多くのスピントロニクスデバイスに利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1及び
図2を参照して、本実施形態のトンネルバリアとそれを用いたMTJ素子の実施形態について説明する。
本実施形態のMTJ素子は、基板の上に、第1磁性層、第1絶縁層、第2絶縁層、及び第2磁性層がこの順で積層されたものである。前記第1絶縁層及び第2絶縁層は酸化物からなる。例として第1磁性層、第2磁性層はCoFeBからなり、また第1絶縁層及び第2絶縁層はそれぞれMgO及びMgAl
2O
4を主体とする。
【0019】
このとき、第2絶縁層ではMgAl
2O
4のMg:Al比率は、1:2である必要はなく、幅広い比率の組成が使用できる(以降、一般表記Mg−Al−Oと記載)。またMg−Al−Oの結晶構造として、スピネル構造および陽イオン不規則化スピネル構造の両方を用いることができる。またMg、Al以外のスピネル構造を形成する元素、例えばLi、Znを含む酸化物から構成されていても良い。また第1絶縁層はMgOの他、金属Mg層/MgO層の積層構造や、AlもしくはTiを少量含んだ構造でも良い。また第1磁性層と第1絶縁層との間、第2磁性層と第2絶縁層との間にCoFe合金が挿入されている構造においても効果を発揮する。
【0020】
(第1実施形態)
図1(A)に第1実施形態の基本構造であるMTJ膜第1形態101を示している。MTJ膜第1形態101は多層膜構造であり、下から第1磁性層1、第1絶縁層11、第2絶縁層12、第2磁性層2、の順番に積層されている。第1磁性層1と第2磁性層2はいずれが磁化固定層または磁化自由層であってもよい。また磁化方向は膜面内方向でも膜面垂直方向のいずれでも良い。以下にこのMTJ膜第1形態101の構造による効果と作製法について述べる。
【0021】
第1磁性層1は例えばスパッタ法や蒸着法などの物理的気相成長法で成膜されたCo−Fe−Bからなる層である。このCo−Fe−Bはこの段階ではアモルファス構造を持つ。CoおよびFeの組成はCo
1−nFe
n(0≦n≦1)であれば良く、CoBおよびFeBを含む組成である。Co−Fe−B中のB組成は、Co−Fe−B層が強磁性を持ちアモルファスを保つ範囲であれば良く、例えば15〜25原子%程度である。この層の厚さとして例えば0.8〜5nmであるが、第1磁性層1の下部層構造との兼ね合いで決定される。また、1.5nm程度以下の厚さと非常に薄くすることで、この層を垂直磁化した層として得ることもできる。
【0022】
次に第1絶縁層11は、MgOを主体とする酸化物からなる層である。酸素量としては多少の欠損、過剰であってもよく、MgO
1+δ(−0.2≦δ≦0.2)の範囲であれば効果を示す。この層はMgに対して15原子%程度までのAlもしくはTiを含んでいても結晶層として得られるため利用できる。また、この第1絶縁層11はその上に形成する第2絶縁層12の結晶化を促進する効果を持ち、おおむね(001)をもって成長した結晶膜であるが、この段階ではアモルファスや多結晶体が部分的に含まれていても良い。第1絶縁層11の結晶構造を制御するために、この層の形成後に例えば100〜400℃程度の範囲で真空中熱処理をすることもできる。
【0023】
次に第1絶縁層11の上に第2絶縁層12を形成する。第2絶縁層12はMg−Al−Oを主成分とする複合酸化物層である。この層は、立方晶の結晶体を持つことができる。また、スピネル構造が安定構造となる組成を含む。MgとAlの組成としてMg
1−yAl
y(0.2≦y≦0.8)を用いることができる。ここで、yが0.2以上としたのは、第1磁性
層1および第2磁性
層2との格子不整合を3%程度以下に小さくできることから、V
halfが向上するという効果が得られるためである。またyが0.8以下としたのは、Alリッチ組成になる効果によってMg−Al−Oの結晶化が難しくなるためである。また、この層の酸素量として化学量論組成から欠損や過剰があっても効果を示し、例えば一般式として、Mg
1−xAl
xO
1.5−x/2+δ’(−0.2≦δ’≦0.2)の範囲で利用できる。また、スピネル構造を安定化させ、絶縁特性および素子抵抗の調整や、TMR比の向上を目的として、MgおよびAlの一部をZn、Liに置換してもよい。これは、Zn、Liを含むAl酸化物、ZnAl
2O
4およびLiAl
2.5O
4は、MgAl
2O
4と同程度の格子定数のスピネル構造結晶を有する絶縁体であるためである。これらの材質の類似した特長から、MgAl
2O
4とは連続的に固溶体を作ることができるため、Zn、Liを含んでいても本実施形態において効果を発揮する。また第2絶縁層12の結晶構造を制御するために、この層の形成後に例えば100〜400℃の範囲で真空中熱処理をすることもできる。
【0024】
これらの第1絶縁層11および第2絶縁層12の作製は既知の種々の方法を用いることができる。例えば、酸化物からなるターゲット材からの高周波スパッタ、酸素ガスを用いた反応性蒸着や反応性スパッタ、MgやMg
1−aAl
a(0<a≦1)合金からなる金属層の成膜後に酸化する方法(後酸化)、また、多段後酸化法、及びこれらを組み合わせた手法である。これらの手法は、平坦性を悪化させない範囲の温度において、基板加熱を行いながら行っても良い。
【0025】
第1絶縁層11の厚さとして、例えば0.05〜1.2nmの範囲が好ましい。より好ましくは0.1〜1.0nmである。さらに好ましくは0.2〜0.8nmである。0.05nmはMgO(001)の1原子面の1/4程度の厚さに対応しており、この厚さ以上において第2絶縁層12を結晶層として得るための結晶テンプレートとして機能させることができる。第1絶縁層11膜厚の上昇に伴い結晶テンプレート効果が向上し、より低い熱処理温度で第2絶縁層12の結晶化を実現できる。一方、MgOとCo−Fe−Bとは4%程度の格子不整合があることから、第1絶縁層11膜厚をむやみに増やすことは第1磁性層1と第1絶縁層11との格子不整合の影響を大きくさせることにつながるため、V
halfが低下するおそれがある。
【0026】
第2絶縁層12を結晶化させる上で厚さの制限はないが、MTJ素子として実用的な面積抵抗(抵抗R×面積A、RA値)とするため3nm以下の厚さが好ましく、2nm以下の厚さがさらに好ましい。また、第1磁性層1及び第2磁性層2と積層絶縁層との間の格子不整合を有効に低減し、高いV
halfを得るためには、第2絶縁層12膜厚は第1絶縁層11層厚と同等以上であることが好ましい。以上のことを踏まえると、MTJ素子の目的では第1絶縁層と第2絶縁層の積層膜の合計の厚さとして、0.6nm〜3nmが好ましい。
【0027】
また、第1磁性層1と第1絶縁層11の間、第2絶縁層12と第2磁性層2の間にMg
1−bAl
b(0≦b≦1)からなる極薄の金属膜を例えば1nm以下の厚さで挿入することで、界面結晶構造の制御や垂直磁気異方性の調整をすることもできる。
【0028】
次に第2絶縁層12の上に第2磁性層2を形成する。第2磁性層2も第1磁性層1と同様にアモルファス構造を持つCo−Fe−Bを主体とする層である。作製法も第1磁性層1とおなじ手法を用いることができる。
【0029】
上記の多層膜構造を形成後に、例えば200〜500℃程度の温度範囲において、1分〜60分間、真空中で熱処理を行うことによって、全体として立方晶を持つ構造に変化するとともに、おおむね(001)配向した結晶多層膜となる。第1絶縁層11と第2絶縁層12は熱処理条件の調整によって、部分的もしくは全体的に相互原子拡散を促進させることができ、一体のMg−Al−Oバリア層として得ることもできる。この効果によって格子整合が良いCo−Fe−B/Mg−Al−O/Co−Fe−B積層構造を得ることが可能になり、既知の単層MgOバリア素子と同等の高いTMR比を実現しながら、より高いV
halfを得ることができる。例えば、本発明によれば、室温において120%以上34000%以下のトンネル磁気抵抗を示す強磁性トンネル接合体が作製される。
【0030】
(第2実施形態)
第2実施形態を
図1(B)にMTJ膜第2形態201として示し説明する。MTJ膜第2形態201では、MTJ膜第1形態101における第1磁性層1と第1絶縁層11の間に新たに磁性挿入層3を設けたものである。それ以外の構造、組成、製造方法はMTJ膜第1形態101と同等のものを用いることができる。この磁性挿入層3は、Co
1−mFe
m(0<m≦1)からなる薄い挿入層である。磁性挿入層3は第1絶縁層11と第2絶縁層12の両方の結晶化を促進させる効果があり、TMR比の向上につながる。この層の膜厚は第1磁性層1よりも薄いことが好ましく、例えば0.1〜1.5nmである。磁性挿入層3はスパッタ法や真空蒸着法などCo−Fe−Bと同じ手法で作製することができる。磁性挿入層3は平坦性の向上のために、100〜300℃の温度において真空中熱処理してもよい。また、第2絶縁層12と第2磁性層2との間にもCoFe合金層を磁性挿入層3と同様の手法を用いて挿入してもよい。
【0031】
(第3実施形態)
第3実施形態は、
図2(A)にMTJ膜第3形態301として代表的に示すように、MTJ膜第1形態101における第1磁性層1の下部構造と第2磁性層2の上部構造を新たに設けたものである。まず基板21が設けられ、その上に下地構造層22が設けられる。その上にMTJ膜第1形態101が設けられる。また、MTJ膜第1形態101の上に、上部構造層23が設けられる。
基板21として、平坦であり均質であることが望まれる。材料として例えば、Si、熱酸化膜付きSi(Si/SiO
2)、SiN、SiCなどSiベースのもの、GaAsなどの化合物半導体、MgOやMgAl
2O
4、サファイアなどの酸化物結晶を用いることができる。
【0032】
下地構造層22は基板21と第1磁性層1の間に設けられ、下部側の電極層となるとともに、第1磁性層の磁気特性や結晶構造を制御するために用いられる。この下地構造層22には既知の多層構造を利用することができる。例えば電極層としてTa、TaN、Ru、Ir、Pt、W、Ti、TiN、AlTiC、Cu、CuN、Mo、Cr、Au、Ag、NiAl、NiFe、IrMn、PtMnからなる群から選択される少なくとも一つを含む層を用いることができる。また電極層と基板21との間にはMgO、MgAl
2O
4、AlO
x、SiO
x、SrTiO
3などの酸化物層を有していても良い。これらの酸化物層は電極層の結晶方位を制御するために用いることができる。
【0033】
電極層と第1磁性層1との間には、磁性層を含んでいてもよく、例えばCo−Fe合金、Co−Fe−Tb合金、Mn−Ga合金、Mn−Ge合金、Mn−Ga−N、Fe−Pt合金、Co−Pt合金などやこれらの積層膜を用いても良い。また、Co
2YZ(YとしてFe、Mn、Ti、V、Crなど、ZとしてAl、Si、Sn、Ga、Geなど)と表されるCo基ホイスラー合金を用いることもできる。また、(Co,Fe)から選ばれた少なくとも1つの元素を含む層と(Pt,Pd)から選ばれた少なくとも1つの元素を含む層とを多層積層とした構造でもよい。これら磁性体を含む層は、Ru、Ti、W、Mo、Irなどの非磁性層が挿入されていても良い。これらの各層は真空中熱処理を行うこともできる。
【0034】
下地構造層22の積層化の例として、下から、Ta(5nm)/Ru(10nm)/NiFe(5nm)/IrMn(10nm)/CoFe(2.5nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(2nm)構造、Ta(5nm)/Ru(10nm)/Pt(3nm)/[Co(0.2nm)/Pt(0.4nm)]多層膜/Co(0.2nm)/Ru(0.8nm)/[Co(0.2nm)/Pt(0.4nm)]多層膜/CoFeB(1nm)/Ta(0.2nm)構造、MgO(7nm)/Cr(40nm)/Co
2FeAl(5nm)構造である。ここで()内は膜厚である。
【0035】
第2磁性層2の上には上部構造
層23が設けられる。この上部構造
層23は例えば上部電極となるとともに、強磁性トンネル接合体膜の保護膜としても機能する。例えばTa(5nm)/Ru(15nm)を用いることができる。TaはCo−Fe−Bの上に直接設けられることで、熱処理中にCo−Fe−BのBの一部を吸収する性質があり、結果としてCo−Fe−B層の結晶化を促進させる効果もある。さらに、第2磁性層2の磁気特性や結晶構造を制御するために、下地構造層22で示す磁性体を含む構造を含んでも良い。例えば、下から、Ta/CoFe/Ta/Ru構造や、W/[Co/Pd]多層膜/Ta/Ru構造である。さらに、MgOなどの薄い酸化物層を含んでも良く、例えばTa/Co−Fe−B/MgO/Ta/Ru構造である。
【0036】
(第4実施形態)
第4実施形態は、
図2(B)にMTJ膜第4形態401として代表的に示すように、MTJ膜第3形態301における第1磁性層1と第1絶縁層11の間に新たに磁性挿入層3を設けたものである。MTJ膜第2形態201で示すとおり、CoFe合金からなる層であり、第1絶縁層11及び第2絶縁層12の結晶化を促進する効果がある。
【0037】
以上は、本発明の実施形態の代表例を記述したものであり、特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲内に記載された要旨に適合する範囲内によって変形が可能であるのは当然である。
【0038】
以下、
図3乃至
図8を参照して、本実施形態のトンネルバリアとそれを用いたMTJ素子の実施例について説明する。
<実施例1>
【0039】
図3及び
図4を用いて実施例1を以下に説明する。基板を熱酸化膜付Si基板とし、イソプロピルアルコールを用いて洗浄した後スパッタ装置へ導入した。マグネトロンスパッタを用いて室温においてTa(5nm)/Co−Fe−B(5nm)を成膜した。Taは下地構造
層であり、Co−Fe−B層は第1磁性層である。Co−Fe−B層の成膜に用いたターゲットの組成はCo
20Fe
60B
20である。次に磁性挿入層としてCoFe膜を0(挿入層なし)、0.3、0.6、0.9nmをスパッタ成膜した。用いたターゲットはCo
75Fe
25組成である。次に第1絶縁層としてMgO焼結ターゲットを用いてMgO(0.25nm)を高周波スパッタにより成膜した。引き続きMg−Al−O層(10nm)を2つの異なる組成のターゲットを用いて高周波スパッタにより成膜した。
【0040】
1つ目の組成はMgリッチの(Mg
0.67Al
0.33)−O
xターゲットを用い、Mg−Al−O層中のMgとAlの実組成は、誘導結合プラズマ組成分析法を用いてMg
0.72Al
0.28であった。以後、便宜上この組成をMg
2Al−O
xと呼称する。
2つ目の組成はAlリッチの(Mg
0.33Al
0.67)−O
xターゲットを用いており、MgとAlの実組成はMg
0.39Al
0.61であった。以後、便宜上この組成をMgAl
2−O
xと呼称する。次に、Mg−Al−O層の上に第2磁性層としてCo
20Fe
60B
20(5nm)、さらにその上に上部構造
層としてTa(5nm)を成膜した。その後、作製した多層膜構造は300℃において30分真空中熱処理を行った。
【0041】
図3(A)はMgリッチMg
2Al−O
xを用いた場合における多層膜構造の膜面直方向にスキャンして得たX線回折パターンを示している。各CoFe挿入層厚さについて別々に示す。いずれのCoFe膜厚においても42°近傍にMgAl
2O
4(004)に対応するピークが観察されている。このピークの他には、基板とTa層以外のピークのみであることがわかる。このことはMg
2Al−O
x層が結晶化し、(001)成長が実現されたことを示している。MgAl
2O
4(004)ピーク強度はCoFe挿入厚さが厚くなるにつれ大きくなることもわかる。したがって、CoFe層の挿入がMgAl
2O
4の結晶化を促進することを示している。
【0042】
同様に、
図3(B)には各CoFe挿入層厚さの多層膜構造の膜面内方向にスキャンして得たX線回折パターンを示している。MgAl
2O
4(400)とCoFe(110)を起源とするピークが観察された。このピークもCoFe挿入層厚さを増やすことで強度が増すことから、CoFe層挿入によるMgAl
2O
4の結晶化促進効果があることが確認できる。なおX線回折パターンを測定した試料のいずれも、Mg−Al−O層のスピネル規則構造化は観察されていない。そのため、MgAl
2O
4本来の半分の格子定数をもつ陽イオン不規則スピネル構造になっているといえる。
【0043】
同様のMg−Al−O層の結晶化はMgAl
2−O
x組成においてもX線回折パターンから確認された。観測されたX線ピーク、MgAl
2O
4(004)および(400)位置から、形成されたMg−Al−Oの膜面内および膜面直方向の結晶格子間隔を見積もった。
【0044】
図4(A)にMg
2Al−O
xおよびMgAl
2−O
xそれぞれについて、結晶格子間隔のCoFe挿入層厚の関係を示す。この図から、いずれの組成においても格子間隔はCoFe膜厚にほとんど影響されないことがわかる。また、膜面内方向の格子間隔は膜面直方向の間隔よりも小さいこともわかる。面内格子間隔はいずれの組成においても0.405〜0.408nmの範囲となった。この値はMgAl
2O
4バルク値(0.4045nm)に近く、Co−Fe−B層と良好な面内格子整合が実現されるように膜面直方向に結晶が伸びている(正方晶歪みの導入)ことを示唆している。さらに、Mg−Al組成によって膜面直方向の格子定数は異なることがわかる。
【0045】
図4(B)には結晶格子体積を算出したものである。MgAl
2−O
xでは、MgAl
2O
4の格子定数を半分と見なした場合の値に換算したバルク値(1/8ユニットセル)に近い値を持つ。一方、Mg
2Al−O
xではMgOバルク値とMgAl
2O
4バルク換算値との平均値に近い値を持つことがわかる。したがって、Mg−Al組成の調整によって結晶格子体積の連続的な制御が可能であることも示唆している。本来は格子不整合があるMgリッチ組成においても、正方晶歪みが無理なく導入されることで、面内格子整合が実現されることもわかる。以上からMg−Al−O層とCo−Fe−B層の間に、極薄MgOを挿入することでMg−Al−O層が結晶化し、CoFe層挿入でさらにその結晶性が向上することが確認された。また、Mg−Alの広い組成においてCo−Fe−B層と面内格子整合状態を実現できることもわかった。
<実施例2>
【0046】
次に
図5及び
図6を用いて実施例2を説明する。実施例1と同等の方法を用いて熱酸化膜付Si基板上にTa(5nm)/Ru(10nm)/Ta(5nm)の下地構造
層を作製した。次に、Co
20Fe
60B
20(5nm)の第1磁性層を成膜した後に、Co
75Fe
25膜を磁性挿入層としてスパッタ成膜した。Co
75Fe
25層の膜厚は0.1〜1.0nmの範囲で変化させた。次に第1絶縁層としてMgO層を0.1〜0.8nmの膜厚として変化させて成膜した。引き続き、第2絶縁層としてMg
2Al−O
xもしくはMgAl
2−O
xを1.2nmの厚さで高周波スパッタ成膜した。その後Co
20Fe
60B
20(3nm)/Ta(5nm)/Ru(5nm)を成膜した。多層膜作製後に電子線リソグラフィ、フォトリソグラフィー、イオンエッチング装置を用いて400nm×200nmサイズの楕円形状に微細加工を行い、MTJ素子構造を形成させた。また、測定用電極としてAuを用いた。その後、MTJ素子を400℃において30分真空中で熱処理を行った。次に、直流四端子法によって外部磁場およびバイアス電圧に対するMTJ素子の電気抵抗の変化を室温において測定した。上下磁性層の磁化配列が反平行時の抵抗値をR
AP、平行時の抵抗値をR
Pとして、TMR比(%)は100×(R
AP−R
P)/R
Pで定義した。
【0047】
図5(A)は、Mg
2Al−O
xを用い、CoFe膜厚=0.16nm及び0.92nmと固定した場合の、TMR比とMgO層厚との関係を示すものである。この例では、最大で約200%のTMR比が得られている。これは非晶質のバリア層では実現が期待できない高い値であり、Mg−Al−O層が結晶化し、高品位な(001)配向膜が達成されたことによって、コヒーレントトンネル効果が顕著に現れたことを示している。MgO挿入層厚が増えるとともにTMR比が向上し、最終的に飽和する傾向があることがわかる。特に、CoFe層厚が厚い0.92nmを用いた場合、MgOは0.15nm程度あれば十分な効果を発揮する。また、0.05nmの薄いMgO領域においても130%程度の比較的高い値が実現されている。一方、CoFe層が薄い0.16nmの場合は、TMR比が全体的に低く、高いTMR比を得るためには比較的厚いMgO層挿入が必要であることもわかる。したがって、CoFe挿入層厚さもMg−Al−O層の結晶化に強い影響を与えていることが見て取れる。
図5(B)は、MgAl
2−O
xを用いた場合の結果を示している。最大で160%程度のTMR比が実現された。しかし、100%を超えるTMR比を得るためにはMg
2Al−O
x組成と比べ、より厚い0.3nm程度のMgO挿入が必要である。これはAlがより多い組成を用いたため、Mg−Al−O層の結晶化のためにより強いテンプレート効果が必要となったためであると考えられる。
【0048】
次に、ゼロバイアス電圧の値で規格化したTMR比のバイアス電圧依存性について、Mg
2Al−O
x組成による結果を
図6(A)に、MgAl
2−O
x組成による結果を
図6(B)にそれぞれ示す。これらの図では、MgO厚を0.45nmに固定し、異なるCoFe挿入層膜厚についての結果をそれぞれ示している。また、下部層から上部層へ電子トンネルする方向である正電圧方向として定義した。これらの図から、どちらのMg−Al組成においてもほぼ同等の振る舞いが見られる。すなわち、正電圧方向において、TMR比のバイアス電圧依存性が小さいことがわかる。特にCoFe層厚が増えると依存性がより小さくなる。一方、負電圧方向ではCoFe膜厚依存性が小さい。
【0049】
規格化TMR=0.5となるバイアス電圧はV
halfを意味し、バイアス電圧依存性の簡便な指標となる。正電圧方向(V
half+)はいずれのMg−Al組成においてもCoFe層挿入厚0.92nmのときに約1.4Vと非常に大きい値を示す。これは正電圧方向では上部バリア界面の状態を強く反映しており、高いV
half+はMg−Al−O層と上部Co−Fe−B層が接する界面の格子不整合欠陥の少なさに起因していると考えられる。
【0050】
負電流方向(V
half−)はいずれの条件においてもおおよそ0.8V程度であり、正電圧方向より小さい。CoFe挿入層とMgO層との界面に格子不整合が残存していることや過酸化などによるダメージによる影響がその可能性として考えられる。また、V
halfは一般的に磁性層組成によっても大きな影響を受け、Co−Fe−(B)系の場合Co組成上昇とともに低下する。したがって、挿入層にCoリッチ組成のCo
75Fe
25を用いたこともV
half−低下の要因といえる。
<実施例3>
【0051】
次に
図7を用いて実施例3を説明する。実施例2と同等の方法を用いて熱酸化膜付Si基板上にTa(5nm)/Ru(10nm)/Ta(5nm)/Co
20Fe
60B
20(5nm)/Co
75Fe
25(1.0nm)/MgO(0.4nm)/Mgリッチ組成Mg
2Al−O
x(1.2nm)/Co
20Fe
60B
20(3nm)/Ta(5nm)/Ru(5nm)を成膜し、微細加工を行った。その後500℃において30分真空中で熱処理を行った。素子抵抗及びTMR比の外部磁場依存性の測定結果を
図7に示す。この図から分かるようにTMR比=242%が得られ、この値は400℃熱処理時の最大値(〜200%)よりも高い値が得られた。これはより高い温度で熱処理を行ったことで各層の結晶化が効果的に進行したためである。
<実施例4>
【0052】
次に
図8を用いて実施例4を説明する。実施例2及び3と同等の方法を用いて熱酸化膜付Si基板上にTa(5nm)/Ru(10nm)/Ta(5nm)/Co
20Fe
60B
20(5nm)/Co
75Fe
25(1.0nm)/MgO(0.7nm)/Alリッチ組成MgAl
2−O
x(1.2nm)/Co
20Fe
60B
20(3nm)/Ta(5nm)/Ru(5nm)を成膜した後、500℃において30分真空中で熱処理を行った。この多層膜試料のTMR比は220%であった。
図8(A)には、この多層膜の断面電子顕微鏡像(STEM像)、
図8(B)にはエネルギー分散型X線分光(EDS)法によるMg、Al、O、Fe、Coの各元素の組成プロファイルの結果を示している。
【0053】
断面STEM像から、上下磁性層及び積層バリア層が結晶化していることがわかる。また、これらの層すべてが(001)に成長していることがわかった。また、MgO/MgAl
2−O
x積層バリア層内に明確な境界は見られず、一体にみえることもわかる。EDS元素プロファイルからも、MgO/MgAl
2−O
x積層バリア層内でMgとAlが相互拡散し、おおむね均一なMg−Al濃度となっており、上下磁性層の間に結晶化したMg−Al−Oバリアが実現されている。Co−Fe−(B)層との界面も極めて平滑であり、面内格子不整合もほとんど見られないことから高品位な格子整合界面が実現されていることがわかる。また、比較的厚いMgO挿入層を用いたため、バリア層はMgがAlより多い組成を持つこともわかる。
【0054】
したがって、本実施形態の構造と製造方法によって高品位なMg−Al−O結晶層が達成でき、高いTMR比と高いV
halfを併せ持つMTJ素子が構成できる。このことは高い素子電圧出力を実現可能であり、様々な用途に適した高性能MTJ素子を提供できることを示している。
【0055】
以下、
図9及び
図10を参照して、本実施形態のMTJ素子との比較例について説明する。
<比較例1>
【0056】
次に、
図9を用いて比較例1としてMgAl
2O
4層を持たない、MgO単一バリアのバイアス電圧依存性を測定した結果を説明する。実施例2乃至4と同等の方法を用いて熱酸化膜付Si基板上にTa(5nm)/Ru(10nm)/Ta(5nm)/Co
20Fe
60B
20(5nm)/MgO(約1.4nm)/Co
20Fe
60B
20(3nm)/Ta(5nm)/Ru(5nm)を成膜した後、微細加工を行い、400℃において30分真空中で熱処理を行った。ゼロバイアス電圧でのTMR比は250%であった。
図9にこのMTJ試料の規格化TMR比のバイアス電圧依存性を示す。比較として、MgO(0.45nm)/MgAl
2−O
x(1.2nm)およびMgO(0.45nm)/Mg
2Al−O
x(1.2nm)を用いた試料も示す(いずれも0.9nmのCoFe挿入層を使用)。
図9から明らかなとおり、正電圧方向においてMg−Al−Oを用いたバリアと比べMgO単一バリアのV
halfが小さいことがわかる。
<比較例2>
【0057】
次に、
図10を用いて比較例2としてMg−Al−O単一バリアのTMR比を測定した結果を説明する。実施例1乃至3と同等の方法を用いて熱酸化膜付Si基板上にTa(5nm)/Ru(20nm)/Ir
20Mn
80(5nm)/Co
75Fe
25(2.5nm)/Ru(1.1nm)/Co
20Fe
60B
20(5nm)/Mg−Al−O(0.8−1.2nm)/Co
20Fe
60B
20(3nm)/Ta(5nm)/Ru(8nm)を成膜した後、300℃において30分真空中において5kOeの磁場中で熱処理を行った。Mg−Al−Oとして、Mg
2Al−O
x、MgAl
2−O
xの両方を用いた。
図10は、作製したMTJ膜試料のTMR比とRAの関係を示している。いずれの組成の試料においてもRAの大小に関わらずTMR比は10〜30%程度の小さい値であった。したがって、MgO挿入層を用いない場合、Mg−Al−O層の結晶化が不十分なため、コヒーレントトンネル効果が有効に働かないことを示している。
<本発明の効果>
【0058】
本発明のMTJ素子によれば、MgOを主体とする極薄のテンプレート層をMg−Al−O層の下部に設けることで、非晶質Co−Fe−Bを磁性層として用いても、従来は達成不可能だった高いTMR比を室温で利用できることができる上、良好なバイアス電圧依存性を同時に達成することが可能になる。非晶質磁性層をMg−Al−Oバリア層とともに用いることができることが意味することは、格子整合性が良いバリア層を、基板や下地構造の種類を制限することなくMTJ素子に組み込むことが可能であることである。したがって、MTJ素子を利用する様々な用途に活用できることが見込まれる。
本発明のMTJ素子によれば、非潮解性のMg−Al−Oをバリア層に用いることで、微細素子作製時などに用いられるウェットプロセスによるダメージを最小限にすることが可能である。加えて、格子整合バリア界面が得られることから、高い信頼性をもつMTJ素子の達成も期待できる。
<本発明のMTJ膜が搭載されるデバイスの例>
【0059】
図11は、本発明のMTJ膜が搭載される磁気ヘッドを搭載可能な磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。
図11において、磁気記録再生装置100は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク110は、スピンドル140に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気記録再生装置100は、複数の媒体ディスク110を備えたものとしてもよい。
【0060】
媒体ディスク110に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダー120は、薄膜状のサスペンション152の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダー120は、例えば、実施の形態にかかる磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
媒体ディスク110が回転すると、ヘッドスライダー120の媒体対向面(ABS)は媒体ディスク110の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが媒体ディスク110と接触するいわゆる「接触走行型」であってもよい。
【0061】
サスペンション152は、駆動コイルを保持するボビン部(図示せず)などを有するアクチュエータアーム154の一端に接続されている。アクチュエータアーム154の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ130が設けられている。ボイスコイルモータ130は、アクチュエータアーム154のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路(図示せず)とから構成される。
アクチュエータアーム154は、スピンドル140に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ130により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0062】
図12は、アクチュエータアーム154から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアッセンブリ150は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム154を有し、アクチュエータアーム154の一端にはサスペンション152が接続されている。
サスペンション152の先端には、
図13に示す磁気ヘッドを具備するヘッドスライダー120が取り付けられている。サスペンション152は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線158を有し、このリード線158とヘッドスライダー120に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中156は磁気ヘッドアセンブリ150の電極パッドである。
【0063】
図13は、磁気ヘッド再生センサーの断面を模式的に示す構成図である。
図13に示すように、再生センサー180は、上部磁気シールド160と下部磁気シールド170との間に設けられている。再生センサー180は、非磁性導電層からなる下地層182、第1磁性層184、中間層186(非磁性絶縁層)、第2磁性層188、非磁性導電層からなるキャップ層190を、下部磁気シールド170側から上部磁気シールド160側に順に積層して構成されている。なお、第1磁性層184、中間層186、第2磁性層188の順に積層したが、第2磁性層、中間層、第1磁性層の順に積層してもよい。再生センサー180は絶縁層192を介して永久磁石材料からなる左右の磁区制御膜194の間に設けられている。
【0064】
下地層182からキャップ層190の積層構造には、前述したMTJ膜第1形態101から第4形態401を利用できる。下地層182は下地構造層22、第1磁性層184は第1磁性層1、中間層186は第1絶縁層11と第2絶縁層12からなる積層膜、第2磁性層188は第2磁性層2、キャップ層190は上部構造層23が例えば対応する。中間層186の層厚は、第1絶縁層11と第2絶縁層12を合わせて0.6から3nmとすることが望ましい。これにより第1磁性
層184と第2磁性層188との交換結合と、中間層186の抵抗値を最適な値に調節することが可能となる。