(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857422
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】印刷機のダクターローラ及びダクターローラに内蔵の電磁弁の保護部材
(51)【国際特許分類】
B41F 31/14 20060101AFI20210405BHJP
B41F 31/30 20060101ALI20210405BHJP
B41F 31/26 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
B41F31/14 A
B41F31/30
B41F31/26 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-559510(P2019-559510)
(86)(22)【出願日】2018年11月19日
(86)【国際出願番号】JP2018042649
(87)【国際公開番号】WO2019116831
(87)【国際公開日】20190620
【審査請求日】2020年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2017-239316(P2017-239316)
(32)【優先日】2017年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593073528
【氏名又は名称】アイマー・プランニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】井爪 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】青山 淑女
【審査官】
上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−063071(JP,A)
【文献】
特開2000−141610(JP,A)
【文献】
特開2015−139975(JP,A)
【文献】
特開平9−141833(JP,A)
【文献】
特開平6−071862(JP,A)
【文献】
特開平6−071863(JP,A)
【文献】
特開2009−056764(JP,A)
【文献】
特開昭60−038161(JP,A)
【文献】
特開2002−205375(JP,A)
【文献】
特開平5−293944(JP,A)
【文献】
米国特許第4467720(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第19828142(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/00−35/06
B41F 5/00−13/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気供給用のパイプを備える軸に、複数の個別ダクターローラと複数の電磁弁とが取り付けられ、前記電磁弁を介して空気圧で個別ダクターローラを前進させる、印刷機のダクターローラであって、
個別ダクターローラは、前記軸に係合し前後進が自在なハウジングと、インキ壺ローラ及び練りローラに接触するローラ部と、ローラ部をハウジングに取り付けるベアリングを備え、
前記電磁弁は前記ハウジングの内部に収容され、かつ
耐油性で、前記軸に係合し前記軸により支持され、かつ前記ハウジングの端部の少なくとも上部を覆う円筒状もしくは弧状のカバーを備えている電磁弁の保護部材が、個別ダクターローラ間の隙間に収容されている、印刷機のダクターローラ。
【請求項2】
前記保護部材は、前記軸と係合する係合孔を有するプレート部と前記カバーから成ることを特徴とする、請求項1の印刷機のダクターローラ。
【請求項3】
前記カバーは円筒状で、かつ前記軸の軸方向に沿っての高低で、両端が高く内側が低い谷が、円筒の円周面に設けられていることを特徴とする、請求項1の印刷機のダクターローラ。
【請求項4】
前記谷の軸方向中央部に、印刷機の洗浄液を下方へ導くためのガイドが設けられていることを特徴とする、請求項3の印刷機のダクターローラ。
【請求項5】
洗浄液を垂らして滴下するための突起が、前記谷の下端に設けられていることを特徴とする、請求項3または4の印刷機のダクターローラ。
【請求項6】
空気供給用のパイプを備える軸に、複数の電磁弁と、ハウジングにベアリングを介してローラ部を取り付けた複数の個別ダクターローラとが取り付けられ、前記電磁弁を介して空気圧で個別ダクターローラをインキ壺ローラ側へ前進させ、前記電磁弁は前記ハウジングの内部に収容されている、印刷機のダクターローラに内蔵の電磁弁を保護するための、保護部材であって、
耐油性で、前記軸に係合する係合孔を備え、個別ダクターローラのハウジングの端部の少なくとも上部を覆う円筒状のカバーを備え、さらに円筒の軸方向に沿っての高低で、両端が高く内側が低い谷が、円筒の円周面に設けられている、ダクターローラに内蔵の電磁弁を保護するための、保護部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は印刷機のダクターローラに関し、特にダクターローラに内蔵される電磁弁の保護部材に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機や凸版印刷機では、インキ壺ローラと練りローラとの間にダクターローラを配置し、ダクターローラをインキ壺ローラと接触する状態と練りローラと接触する状態との間で切り替える。ダクターローラはインキ壺ローラと接触してインキを受け取り、練りローラと接触するとインキを引き渡す。ここでダクターローラがインキ壺ローラと接触する時間を制御すると、版胴側へのインキの供給量を制御できる。
【0003】
ダクターローラを複数の個別ダクターローラで構成し、個別ダクターローラの前後進を独立して制御すると、インキ壺ローラの軸方向に沿って、インキの供給量を調整できる(特許文献1:JP3008026B)。個別ダクターローラは固定軸に係合し、軸から空気圧でピストンを進出させることにより、インキ壺ローラ側へ前進する。また個別ダクターローラは、バネと接触片により練りローラ側へ付勢され、空気の供給を遮断すると、練りローラ側へ復帰する。そして個別ダクターローラの制御のため、固定軸に電磁弁を設ける。
【0004】
電磁弁に印刷機の洗浄液やインキ、その他の汚れ等が付着すると、電磁弁の動作が不良になる可能性がある。そこで特許文献1では、個別ダクターローラのハウジング間の隙間を耐油性のゴムで覆い、隙間に油性の洗浄液等が侵入しないようにしている。即ち、個別ダクターローラのハウジングの端部をゴムでカバーし、洗浄液等を遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】JP3008026B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、耐油性のゴムは洗浄液により短期間で劣化し、高い頻度で耐油性のゴムを交換しなければならないことを見出した。
この発明は、印刷機のダクターローラでの電磁弁の保護部材の耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の印刷機のダクターローラでは、空気供給用のパイプを備える軸に、複数の個別ダクターローラと複数の電磁弁とが取り付けられ、前記電磁弁を介して空気圧で個別ダクターローラを前進させる。
この発明の印刷機のダクターローラは、
個別ダクターローラは、前記軸に係合し前後進が自在なハウジングと、インキ壺ローラ及び練りローラに接触するローラ部と、ローラ部をハウジングに取り付けるベアリングを備え、
前記電磁弁は前記ハウジングの内部に収容され、かつ
耐油性で、前記軸に係合し前記軸により支持され、かつ前記ハウジングの端部の少なくとも上部を覆う円筒状もしくは弧状のカバーを備えている電磁弁の保護部材が、個別ダクターローラ間の隙間に収容されている。なお好ましくは、保護部材は前記軸と係合する係合孔を有するプレート部と前記カバーから成る。
【0008】
この発明では、保護部材のカバーにより、ハウジングの端部の少なくとも上部を覆い、洗浄液等を受け止める。カバーは円筒状あるいは弧状で、受け止めた洗浄液を下方へ導き、電磁弁に洗浄液が達することを防止する。保護部材はゴムのように変形するものではなく、一定の形状を有し、耐油性なので基本的に交換の必要はない。
【0009】
好ましくはカバーは円筒状で、かつ前記軸の軸方向に沿っての高低で、両端が高く内側が低い谷が、円筒の円周面に設けられている。カバーに付着した洗浄液は谷に沿って流れて、電磁弁側へ侵入しない。そして洗浄液は、個別ダクターローラ間の隙間から外部へ排出される。
【0010】
より好ましくは、谷の軸方向中央部に、印刷機の洗浄液を下方へ導くためのガイドが設けられている。ガイドは突起でも溝でも良く、洗浄液はガイドに沿って下方へ移動する。
【0011】
もっとも好ましくは、洗浄液を垂らして滴下するための突起が、谷の下端に設けられている。谷の下端に達した洗浄液は、突起に集まって垂れ、個別ダクターローラ間の隙間から外部へ排出される。
【0012】
空気供給用のパイプを備える軸に、複数の電磁弁と、ハウジングにベアリングを介してローラ部を取り付けた複数の個別ダクターローラとが取り付けられ、前記電磁弁を介して空気圧で個別ダクターローラをインキ壺ローラ側へ前進させ、前記電磁弁は前記ハウジングの内部に収容されている、印刷機のダクターローラがある。この発明の電磁弁の保護部材は、このような印刷機のダクターローラに用いる。そして保護部材は、耐油性で、前記軸に係合する係合孔を備え、個別ダクターローラのハウジングの端部の少なくとも上部を覆う円筒状のカバーを備え、さらに円筒の軸方向に沿っての高低で、両端が高く内側が低い谷が、円筒の円周面に設けられている。カバーによりハウジングの端部を覆って、個別ダクターローラ間の隙間から侵入する洗浄液を受け止める。洗浄液は谷に沿って下方へ流れ、個別ダクターローラ間の隙間から外部へ排出される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例のダクターローラの要部と、前後のインキ壺ローラ及び練りローラを部分的に示す平面図
【
図2】
図1のII-II方向に沿っての、ダクターローラの鉛直断面図
【
図3】実施例の保護部材と個別ダクターローラのハウジングを示す図
【
図5】
図3のV-V方向に沿っての保護部材の断面図
【
図6】
図4のVI-VI方向に沿っての保護部材の断面図
【
図9】第3の変形例の保護部材と、左右の個別ダクターローラ(ローラ部を除く)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0015】
図1〜
図10に、実施例とその変形とを示す。
図1に示すように、実施例のダクターローラ2は、インキ壺ローラ4と練りローラ6との間に配置され、固定の軸8に複数の個別ダクターローラ12が取り付けられている。また軸8の上面の溝9に、電磁弁10が個別ダクターローラ12毎に取り付けられている。個別ダクターローラ12,12の間では、保護部材14が軸8に係合し、保護部材14は個別ダクターローラ12のハウジング13の端部を覆い、個別ダクターローラ12,12間の隙間に収容されている。なお個別ダクターローラ12は列を成して軸8に取り付けられ、個別ダクターローラ12の列の両端にも保護部材14を配置することが好ましい。
【0016】
図2、
図3に示すように、個別ダクターローラ12は外周にローラ部16を備え、ベアリング18を介してハウジング13に取り付けられ、ハウジング13は軸8に係合している。軸8には空気供給用のパイプ20が設けられ、電磁弁10を介して空気圧によりピストン21を前進させる。軸8のピストン21とは反対側に、例えば球状の接触片22とバネ23が設けられ、個別ダクターローラ12を練りローラ6側へ付勢している。また電磁弁10は個別ダクターローラ12毎に設けられ、ハウジング13によりカバーされ、図示しないコントローラにより制御される。
【0017】
個別ダクターローラ12は空気圧によりインキ壺ローラ4側へ前進し、バネ23と接触片22により練りローラ6側へ後退する。この明細書での方向を、
図1,
図2に示す。ダクターローラ2を印刷機に取り付けた状態を基準に上下を定め、実施例では電磁弁10が軸8の上側にある。またインキ壺ローラ4側を前、練りローラ6側を後とし、軸8の長手方向に沿って左右を定める。軸方向は左右方向と同じで、軸8の長手方向である。保護部材14は円筒状で、円筒の周方向を単に周方向といい、円筒の軸方向を単に軸方向という。
【0018】
図3は、保護部材14と、左右の個別ダクターローラ12,12のハウジング13を示す。保護部材14は耐油性の材料、例えば鋼、アルミニウム、耐油性の樹脂等から成り、軽量化のため、実施例ではナイロン、フッ素樹脂等の耐油性樹脂を用いる。モノマーが同じでも、変形自在なゴムか、一定の形をしている樹脂かで、耐油性は著しく異なり、ナイロン、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂等は高い耐油性を示す。保護部材14は、ハウジング13の端部を覆い、洗浄液等の汚れがハウジング13の内部へ侵入することを防止する。実施例の保護部材14は、実質上交換の必要はない。
【0019】
保護部材14の構造を
図4〜
図6に示す。保護部材14は軸方向の中心にプレート部27を備え、軸方向に沿ってその両側に円筒部32,32を備えている。そして円筒部32とプレート部27との間のリセス29に、ハウジング13の端部を収容する。26は円筒部32の軸方向に沿っての端面である。プレート部27には係合孔30があり、軸8を通して、保護部材14を個別ダクターローラ12,12間に配置する。円筒部32の内径(リセス29の直径)はハウジング13の外径よりもやや大きく、ハウジング13が前後進できるようにする。
【0020】
円筒部32の周方向表面には、軸方向の中心にリング状のガイド25があり、その両側に軸方向の中央部が低く端部が高い谷24がある。洗浄液のミスト等が衝突した際に、谷24はミストが飛散することを防止する。谷24に付着した洗浄液は、谷24に沿ってガイド25により下部へガイドされる。ガイド25の下端に突起28があり、洗浄液は突起28から垂れて、ローラ部16,16間の隙間へ排出される。
【0021】
実施例の作用を示す。保護部材14は耐油性で、交換の必要はない。円筒部32の内径はハウジング13の外径よりもやや大きく、個別ダクターローラ12の前後進を許容する。そして印刷機の洗浄時にダクターローラ2に吹き付けられた洗浄液(主成分は有機溶剤あるいは機械油)は、ローラ部16,16の隙間から谷24に当たって、ハウジング13側への飛散が防止され、谷24を通って下方へ移動する。ガイド25により、洗浄液は谷24に溜まらずに移動する。ガイド25の下端で、洗浄液は突起28から垂れて、ローラ部16,16の隙間から落下する。このようにして、電磁弁10への洗浄液の侵入を防止する。インキのミスト、その他の汚れも谷24に付着し、洗浄液等により外部へ排出される。
【0022】
図7に変形例の保護部材34を示す。保護部材34では、谷24の中央の溝から成るガイド35を設けて、洗浄液をガイドする。他の点では、
図1〜
図6の保護部材14と同様である。
【0023】
図8に第2の変形例の保護部材44を示す。保護部材44では、ガイド25の下端に複数の突起48を設けて、洗浄液を滴下する。即ち、保護部材の谷24の下端に設ける突起は、ガイド25,35から洗浄液を受け取り、下方へ滴下するものであればよい。保護部材44は、他の点では
図1〜
図6の保護部材14と同様である。
【0024】
図9,
図10は、谷24とガイド25及び突起28を備えない、第3の変形例の保護部材54を示す。保護部材54の上部に弧状のカバー56があり、洗浄液を受け止め、保護部材54の下端から滴下させる。
【0025】
実施例では個別ダクターローラ12の後退にバネ23と接触片22を用いたが、ピストン21を空気圧で後退させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0026】
2 ダクターローラ 4 インキ壺ローラ 6 練りローラ
8 軸 9 溝 10 電磁弁 12 個別ダクターローラ
13 ハウジング 14 保護部材 16 ローラ部
18 ベアリング 20 パイプ 21 ピストン
22 接触片 23 バネ 24 谷 25 ガイド
26 端面 27 プレート部 28 突起 29 リセス
30 係合孔 32 円筒部 34 保護部材
35 ガイド 44 保護部材 48 突起 54 保護部材
56 カバー