【文献】
Wang L.、Dicarboxylate CaC8H4O4 as a high−performance anode for Li−ion batteries、Nano Research、2015.02.発行、8(2)、523−32
【文献】
Wang L.,他4名、Alkaline Earth Metal Terephthalates MC8H4O4 (M=Ca,Sr,Ba) as Anodes for Lithium Ion Batteries、Electrochimica Acta、英国、2016.04.01発行、Vol.196、Page.118−124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族環構造と2以上のカルボン酸アニオン部とを有する芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオン部に含まれる酸素にアルカリ土類金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ土類金属元素層と、を有するテレフタル酸カルシウム塩であり、粉末X線回折測定において、空間群P21/cに帰属される単斜晶を仮定した時の110,011,130,200,211,190面に相当するピークが現れる層状構造体を電極活物質として備えた、非水系二次電池用電極。
芳香族環構造と2以上のカルボン酸アニオン部とを有する芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオン部に含まれる酸素にアルカリ土類金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ土類金属元素層と、を有する層状構造体を電極活物質として備えた、非水系二次電池用電極の製造方法であって、
テレフタル酸と水酸化カルシウムとを用いて前記層状構造体であるテレフタル酸カルシウム塩を得る工程を含む、
非水系二次電池用電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水系二次電池は、正極と、負極と、正極と負極の間に介在するイオン伝導媒体と、を備えている。この非水系二次電池は、例えば、アルカリ金属を吸蔵・放出する正極活物質を有する正極と、アルカリ金属を吸蔵・放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えているものとしてもよい。本発明の非水系二次電池は、負極及び正極の少なくとも一方に、本発明の層状構造体を電極活物質として備えている。本発明の層状構造体は、芳香族環構造と2以上のカルボン酸アニオン部とを有する芳香族化合物を含む有機骨格層と、そのカルボン酸アニオン部に含まれる酸素にアルカリ土類金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ土類金属元素層と、を有している。この本発明の層状構造体は、負極活物質とするのが好ましい。また、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。ここでは、説明の便宜のため、層状構造体を負極活物質とし、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属をLiとした非水系二次電池を以下主として説明する。
【0012】
負極は、本発明の層状構造体を電極活物質として備えている。
図1は、本発明の層状構造体の構造の一例を示す説明図である。この層状構造体は、有機骨格層と、アルカリ土類金属元素層と、を有している。この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P2
1/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。
【0013】
有機骨格層は、芳香族環構造と2以上のカルボン酸アニオン部とを有する芳香族化合物を含む。芳香族環構造は、1つの芳香族環を備えていてもよいし、2以上の芳香族環を備えていてもよい。2以上の芳香族環を備えた芳香族環構造は、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香族環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香族環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。芳香族環構造を構成する芳香族環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。また、芳香族環は、1以上5以下とするのが好ましい。芳香族環が1以上では層状構造を形成しやすいなど、結晶構造を安定化しやすく、芳香族環が5以下ではエネルギー密度をより高めることができる。有機骨格層は2以上のカルボン酸アニオン部を有するものであればよいが、偶数個のカルボン酸アニオン部を有することが好ましく、2つのカルボン酸アニオン部を有するジカルボン酸アニオンであることがより好ましい。また、有機骨格層は、例えば、カルボン酸アニオン部のうちの2つが芳香族環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとすることが好ましい。すなわち、有機骨格層は、カルボン酸アニオン部の一方と他方とが芳香族環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとすることが好ましい。こうすれば、有機骨格層とアルカリ土類金属元素層とによる層状構造を形成しやすいなど、結晶構造を安定化しやすい。カルボン酸アニオン部が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸アニオン部の結合位置から他方のカルボン酸アニオン部の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香族環構造がナフタレンであれば2,6位が挙げられ、ピレンであれば2,7位が挙げられる。
【0014】
この有機骨格層は、一般式(1)で示される構造を含む芳香族化合物により構成されているものとしてもよい。但し、Rは1以上の芳香族環を有する上記芳香族環構造であるものとしてもよい。具体的には、有機骨格層は、次式(2)〜(4)のうちいずれか1以上の芳香族化合物を備えているものとしてもよい。但し、式(2)〜(4)において、nは1以上5以下の整数、mは0以上3以下の整数であることが好ましい。nが1以上5以下では、有機骨格層の大きさが好適であり、より充放電容量を高めることができる。また、mが0以上3以下では、有機骨格層の大きさが好適であり、より充放電容量を高めることができる。この式(2)〜(4)において、これらの芳香族化合物は、その構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。例えば、有機骨格層は、次式(5)〜(11)のうちいずれか1以上の芳香族化合物を備えているものとしてもよい。
【0018】
アルカリ土類金属元素層は、例えば
図1に示すように、カルボン酸アニオン部に含まれる酸素にアルカリ土類金属元素が配位して骨格を形成している。このアルカリ土類金属元素は、Ca及びMgのうちの少なくとも一方としてもよいが、このうちCaが好ましい。Caでは、層状構造体の作製がより容易である。アルカリ土類金属元素層に含まれるアルカリ土類金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないものと推察される。このように構成された層状構造体は、構造においては、
図1に示すように、有機骨格層とこの有機骨格層の間に存在するCa層(アルカリ土類金属元素層)とにより形成されている。また、エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層がレドックス(e
-)サイト、Ca層がイオン(例えばLi
+)吸蔵サイトとして機能するものと考えられる。
【0019】
本発明の層状構造体は、より具体的には、有機骨格層がテレフタル酸構造を含む芳香族化合物により構成され、アルカリ土類金属元素層に含まれるアルカリ土類金属元素がCaである、式(12)で示されるものであることがより好ましい。
【0021】
本発明の層状構造体は、3つの異なるカルボン酸アニオン部の酸素及び4つの水分子と、アルカリ土類金属元素と、が7配位を形成する次式(13)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。式(13)の層状構造体は、芳香族環構造Rと芳香族環構造Rに結合した2以上のカルボン酸アニオン部(−COO
-)とを有する芳香族化合物を含む有機骨格層と、そのカルボン酸アニオン部に含まれる酸素にアルカリ土類金属元素Mが配位して骨格を形成するアルカリ土類金属元素層と、を有している。この層状構造体は、Rとして2以上の芳香族環構造を有しており、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、この層状構造体は、Mとして2以上のアルカリ土類金属元素を有しており、複数あるMのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。アルカリ土類金属元素Mは、単独でカルボン酸アニオン部に配位していてもよいし、Mg,Li,Naなどと塩を形成したアルカリ土類金属塩としてカルボン酸アニオン部に含まれる酸素に配位していてもよい。このように、アルカリ土類金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0023】
本発明の層状構造体は、BET比表面積が1m
2/g以下であるものとしてもよい。こうしたものでは電解液の還元分解による不可逆容量をおさえることができるため、好ましい。このBET比表面積は、1m
2/g以上10m
2/g以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の層状構造体は、アルカリ金属を吸蔵放出可能であり、アルカリ金属を吸蔵放出する電極活物質として用いることができる。
【0025】
負極は、例えば層状構造体からなる負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、負極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。負極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。このうち、負極の集電体は、アルミニウム金属とすることがより好ましい。即ち、層状構造体は、アルミニウム金属の集電体に形成されていることが好ましい。アルミニウムは、豊富に存在し、耐食性に優れるからである。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0026】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、Li
(1-a)MnO
2(0<a<1など、以下同じ)、Li
(1-a)Mn
2O
4などのリチウムマンガン複合酸化物、Li
(1-a)CoO
2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li
(1-a)NiO
2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV
2O
3などのリチウムバナジウム複合酸化物、V
2O
5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiV
2O
3などが好ましい。また、正極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができる。正極の集電体には、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、負極と同様のものを用いることができる。
【0027】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。
【0028】
支持塩は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiSbF
6、LiSiF
6、LiAlF
4、LiSCN、LiClO
4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl
4などが挙げられる。このうち、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4などの無機塩、及びLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この電解質塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。電解質塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0029】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0030】
本発明の非水系二次電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明の非水系二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、本発明の非水系二次電池20の一例を示す模式図である。この非水系二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水系二次電池20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。正極22及び負極23の少なくとも一方は、芳香族環構造と2以上のカルボン酸アニオン部とを有する芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオン部に含まれる酸素にアルカリ土類金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ土類金属元素層と、を有する層状構造体を電極活物質として含んでいる。
【0032】
本発明では、非水溶性で耐還元性の高い非水系二次電池用電極を提供することができる。また、例えば、本発明の層状構造体が非水溶性であるため水系塗工で電極を形成できるし、本発明の層状構造体の還元性が高いためLi
+/Li基準で0.5V以下などの低電位でに曝されても電気化学特性が変化しない。また、負極に用いた場合、充放電電位がリチウム金属基準で0.5V以上1.0Vの範囲を示すため、電池の作動電圧低下に伴う大幅なエネルギー密度の低下を抑えることができる一方、リチウム金属の析出も抑制することができる。また、負極に用いた場合、特許文献1の非水系二次電池用電極と同等程の高い放電容量が得られる。この層状構造体は、有機骨格層が酸化還元部位及びリチウムイオンの吸蔵部位として機能するものと推察される。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば上述した実施形態では、非水系二次電池として説明したが、非水系二次電池用電極としてもよい。
【実施例】
【0035】
以下では、本発明の非水系二次電池を具体的に作製した例について、実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0036】
[実施例1]
層状構造体としてのテレフタル酸カルシウム塩(式(12)参照)を、以下のように合成した。テレフタル酸(0.1mol)と水酸化カルシウム(0.1mol)とを、水200mL中に分散し、80℃の水浴で4時間加熱撹拌することでテレフタル酸カルシウム塩の結晶を得た。結晶を濾過で分取して、室温で風乾した。
【0037】
[比較例1]
層状構造体としてのテレフタル酸リチウム塩を、以下のように合成した。メタノール50mLにLiOH・H
2Oを0.01525mol溶解させた溶液に、テレフタル酸を0.00694mol加えて、室温で攪拌した。テレフタル酸を加えた直後は完全に溶解した溶液状態を呈したが、20分程度攪拌を続けると結晶が析出を始めた。攪拌を1昼夜続けると析出した結晶が成長し、長さ10μm程度の柱状結晶を呈した。メタノールを蒸発させた後、120℃で真空乾燥を行い、テレフタル酸リチウム塩を得た。
【0038】
[比較例2]
層状構造体としての2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム塩を、以下のように合成した。メタノール50mLにLiOH・H
2Oを0.01525mol溶解させた溶液に、2,6−ナフタレンジカルボン酸を0.00694mol加えて、室温で攪拌した。2,6−ナフタレンジカルボン酸を加えた直後は完全に溶解した溶液状態を呈したが、20分程度攪拌を続けると結晶が析出を始めた。攪拌を1昼夜続けると析出した結晶が成長し、長さ10μm程度の柱状結晶を呈した。メタノールを蒸発させた後、120℃で真空乾燥を行い、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム塩を得た。
【0039】
[X線回折測定]
実施例1及び比較例1,2の層状構造体の粉末X線回折測定を行った。測定は、放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用し、X線回折装置(リガク製RINT2200)を用いて行った。また、測定は、X線の単色化にはグラファイトの単結晶モノクロメーターを用い、印加電圧を40kV、電流30mAに設定し、4°/分の走査速度で2θ=10°〜60°の角度範囲で行った。
図3は、実施例
1の層状構造体のX線回折測定結果である。
図3に示すように、実施例1は、空間群P2
1/cに帰属される単斜晶を仮定した時の110,011,130,200,211,190面に相当するピークが明確に現れていることから、
図1に示した、Ca層と有機骨格層とからなる層状構造を形成していると推察された。また、実施例1は、空間群P2
1/cに帰属される単斜晶であることから、3つの異なるカルボン酸アニオン部の酸素及び4つの水分子と、アルカリ土類金属元素と、が7配位を形成する構造であり、有機骨格の部分でπ電子共役雲による相互作用が働いているものと推察された。
【0040】
なお、例えば、Crystal Growth & Design, Vol. 8, No. 2, 2008, pp685-689において、2,6−ナフタレンジカルボン酸カルシウム塩などでも、空間群P2
1/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有し、Ca層と有機骨格層とが層状構造を形成していることが明らかにされている。
【0041】
[水に対する構造体の溶解度測定]
25℃に調温した100mLのイオン交換蒸留水をスターラで撹拌しながら、実施例1及び比較例1,2の構造体を0.1g〜1.0g程度投入し、目視により溶解状態を確認した。溶解しない場合には投入後、2時間後にも溶解していないことを確認した。こうして溶解量を測定し、溶解度を求めた。実施例1の構造体(テレフタル酸カルシウム塩)は水に溶解しなかったが、比較例1の構造体(テレフタル酸リチウム塩)、比較例2の構造体(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム塩)は水に溶解し、その溶解度はいずれも約10質量%であった。
【0042】
[リチウム吸蔵脱離時の電位−容量曲線計測]
実施例1の層状構造体(テレフタル酸カルシウム塩)、比較例1の層状構造体(テレフタル酸リチウム塩)、比較例2の層状構造体(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム塩)を、それぞれ活物質として用いた。活物質を70質量%、導電助剤としてカーボンブラックを15質量%、バインダとしてPVdFを15質量%、分散媒として少量のNMPを混合後、集電箔のCu箔に塗布・乾燥・プレスによる高密度化を行い電極を得た。
【0043】
得られた電極を作用極とし、対極にリチウム金属を用いてコインセルを作製した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC:DMC:EMC=30:40:30体積%)にLiPF
6が1Mとなるように添加した非水系電解液を用いた。セパレータとしては、微多孔性ポリプロピレン膜を用いた。
【0044】
コインセルは、室温において電位窓0.5−1.5V、電流20mA/g(活物質重量)で定電流放電/定電流充電を5サイクル実施し充放電容量と平均電位を測定した後、電位窓0−1.5V、活物質重量あたり電流20mA/g(活物質重量)で定電流放電/定電流充電を1サイクル実施し、充放電曲線が変化するか否かを調べた。
図4に、実施例1の充放電曲線を示した。最初の5サイクルでは、実施例1及び比較例1,2のいずれも充放電特性が類似していた。このことから、実施例1の層状構造体において、有機骨格層内でのレドックスによって無機層(Ca層)近傍においてリチウムの吸蔵放出が行われていると推察された。
【0045】
表1に、実験結果をまとめた。表1より、実施例1及び比較例1,2の全ての活物質で高容量を示すことがわかった。また、実施例1及び比較例1,2の全ての活物質で平均電位は炭素負極よりも高く、リチウム金属が析出しにくいことがわかった。一方、比較例1,2のようにリチウム塩を用いた場合には、0Vまでの還元によって充放電曲線が変化したのに対し、実施例1のようにカルシウム塩を用いた場合には、充放電曲線が変化しなかった。これは、リチウム塩では結晶構造が変化(破壊)したのに対し、カルシウム塩では耐還元性が高いく結晶構造が変化しなかったためと推察された。カルシウム塩で結晶構造が変化しない理由としては、金属と酸素との間の配位結合と水素と酸素との間の水素結合の2つにより、強固な結合体となり、結晶構造が安定化するためと考えられる。また、比較例1,2に用いたリチウム塩は、水に10質量%程度溶解したのに対し、実施例1に用いたカルシウム塩は、水に溶解しなかった。以上のことから、実施例1で用いたテレフタル酸カルシウム塩は、高容量、中電位、高耐還元性、非水溶性を兼ね備えた新規な負極活物質として利用可能なことが確認された。
【0046】
【表1】