(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステージ走査方式のEPMA線分析では、試料ステージの走査方向がバックラッシュの影響が出る方向であるとき、ステージ走査開始(分析開始)直後には実質的には試料ステージが移動しない。この時、X線信号を取得する間隔(あるX線データを取得する試料ステージ位置と、次のX線データを取得する試料ステージ位置との間隔。ステップサイズ)をバックラッシュ量よりも大きく設定していた場合は、バックラッシュの影響はほぼ無視できる。一方、X線信号を取得する間隔をバックラッシュ量よりも小さく設定していた場合は、試料ステージが移動し始めるまでに検出したX線信号に付された検出位置(試料ステージ位置)データが実際の試料ステージ位置を反映していないため、正確な線分析データが得られないという問題があった。
【0006】
例として、ある元素の濃度が一定の割合で連続的に変化している試料の線分析結果を
図6に示す。縦軸はX線信号の強度、横軸は試料ステージの移動距離である。ここで、各X線信号データの間隔60がステップサイズに相当する。バックラッシュの影響がない場合に、
図6(a)において点の連なりで表されるように、移動につれて一定の割合でX線強度が増加するデータが得られるとすると、バックラッシュの影響がある場合は、
図6(b)のようなデータとなる。
図6(b)の区間70は、分析開始直後に、実際にはステージが移動していなかった区間で、この区間の4つのデータは実際には同一の試料ステージ位置で取得されたためX線強度が同一であるのに、検出位置のデータは歩進され、正しい試料ステージ位置を反映していないことがわかる。
【0007】
また、バックラッシュの影響があると、試料上の線分析終了位置が、予め設定した線分析の終了位置とずれてしまう。これにより、複数の連続した直線(第一の直線の終点と第二の直線の始点が同一位置であるような連続した直線)上を走査する線分析(連続線分析)では、第二の直線以降の分析位置が、予め設定した分析位置とずれるという問題もあった。
【0008】
線分析は、任意方向に試料ステージを走査しながらX線信号などを検出するため、面分析で実施している方法(ある決まった方向へのバックラッシュ除去操作を常に行う)では、線分析におけるバックラッシュ問題を解決することはできない。また、特許文献1のバックラッシュ補正方法では、線分析開始直後のX線信号に付された検出位置データと実際の試料ステージ位置とを正確に一致させることはできない。
【0009】
本発明は、ステージ走査方式のEPMA線分析において、バックラッシュの影響のない正確なデータを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る分析装置は、
電子線を試料に照射し、試料が載置される試料ステージをX軸方向、Y軸方向に移動しながら試料から発生する信号を検出する分析装置において、
前記試料ステージを走査するステージ走査部と、
前記ステージ走査部を制御するステージ制御部と、
分析条件を入力する入力部と、
前記分析条件を記憶する分析条件記憶部と、
分析開始時に、前記分析条件記憶部に記憶された分析条件に
おいて、線分析を行う際にステージを移動させる方向が、前記試料ステージのバックラッシュの影響が出るX軸方向、Y軸方向であるか否かを判定するバックラッシュ判定部と、
を含み、
前記試料ステージの軸に対してプラス方向のバックラッシュ取りを行う分析装置の場合、前記バックラッシュ判定部が、線分析を行う
際にマイナスX方向またはマイナスY方向にステージを移動させると判定すると、前記ステージ制御部は、前記ステージ走査部にマイナス方向を含む軸に対して
マイナス方向のバックラッシュ取り動作を実行させることを特徴とする。
【0011】
このような分析装置では、ステージ走査方式の線分析において、バックラッシュの影響のないデータを得ることができる。
【0012】
(2)本発明に係る分析装置はさらに、
前記ステージ制御部は、前記試料ステージが移動した後に停止した際に、常に特定の方向に前記試料ステージのバックラッシュが存在するように前記ステージ走査部を制御する。
【0013】
このような分析装置では、ステージ走査方式の線分析において、分析装置に予め設定されたバックラッシュ制御情報(試料ステージが停止した時にバックラッシュが常に存在する方向)を参照してバックラッシュ判定およびバックラッシュ取り動作を実行することで、バックラッシュの影響のない線分析のデータを得ることができる。
【0014】
(3)本発明に係る分析装置はさらに、
前記試料ステージの移動方向を記憶する移動方向記憶部を含み、
前記バックラッシュ判定部は、分析開始時に、前記移動方向記憶部に記憶された最新の前記試料ステージの移動方向と、前記分析条件記憶部に記憶された分析条件におけるステージ走査方向とを比較して、前記ステージ走査方向が前記試料ステージのバックラッシュの影響が出る方向であるか否かを判定する。
【0015】
このような分析装置では、ステージ走査方式の線分析において、移動方向記憶部に記憶された試料ステージの移動方向を参照してバックラッシュ判定およびバックラッシュ取り動作を実行することで、バックラッシュの影響のない線分析のデータを得ることができる。
【0016】
(4)本発明に係る分析装置はさらに、
前記電子線を走査するビーム走査部と
前記電子線の照射位置を補正するビーム位置補正部と
検出された二次電子あるいは反射電子の二次元画像を作成する電子画像作成部と、
作成された電子画像の一つを参照画像として保存する参照画像記憶部と
取得した電子画像と前記参照画像記憶部に保存された前記参照画像とを比較して画像のずれ量を算出するずれ量算出部と、
を含み、
前記ずれ量算出部は、分析開始位置に前記試料ステージが位置した状態で保存された参照画像と、前記ステージ走査部が前記バックラッシュ取り動作を実行した後に取得した電子画像とを比較して分析開始位置ずれ量を算出し、前記ビーム位置補正部は、分析開始時に、前記分析開始位置ずれ量分のビーム位置補正を行う。
【0017】
このような分析装置では、プローブトラッキングを利用することで、ステージ走査方式の線分析における分析開始位置設定時と分析開始時との観察視野を合わせることができる。
【0018】
(5)本発明に係る分析装置は、
ステージ走査方式の線分析における分析開始位置設定時と分析開始時との観察視野を合わせる手段として、リニアエンコーダによるフィードバック制御を利用してもよい。
【0019】
このような分析装置では、リニアエンコーダを利用することで、ステージ走査方式の線分析における分析開始位置設定時と分析開始時との観察視野を合わせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0022】
1. 第1実施形態
まず、第1実施形態に係る分析装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る分析装置100を模式的に表した図である。分析装置100は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)である。EPMAは、電子線を試料に照射して電子線の照射に応じて試料から発生する特性X線を検出し、試料に含まれている元素の定性分析、定量分析、線分析、面分析等を行う。
【0023】
分析装置100は、電子銃11と、集束レンズ12と、偏向器13と、対物レンズ14と、試料ステージ15と、ステージ走査部16と、二次電子検出器17と、反射電子検出器18と、波長分散型分光器19と、制御部20を含んで構成されている。制御部20は、入力部21と、分析条件記憶部22と、ステージ制御部23と、バックラッシュ判定部24と、ビーム制御部25と、ビーム走査系26と、画像処理部29と、X線処理部33と、表示部34とを含んで構成されている。
【0024】
電子銃11は、電子線EBを発生させる。電子銃11は、所定の加速電圧により加速された電子線EBを試料Sに向けて放出する。集束レンズ12は、電子銃11の後段(電子線EBの下流側)に配置されている。集束レンズ12は、電子線EBを集束させるためのレンズである。偏向器13は、集束レンズ12の後段に配置されている。偏向器13は、電子線EBを偏向させることができる。偏向器13にビーム走査系26から走査信号が入力されることによって、集束レンズ12および対物レンズ14で集束された電子線EBで試料S上を走査する。対物レンズ14は、偏向器13の後段に配置されている。対物レンズ14は、電子線EBを試料S上で集束させて、電子線EBを電子プローブとして試料Sに照射するためのレンズである。
【0025】
試料ステージ15は、試料Sを支持することができる。試料ステージ15上には、試料Sが載置される。ステージ走査部16によって、試料ステージ15は水平面内のX方向とY方向に移動することができる。ステージ走査部16の動作は、ステージ制御部23によって制御される。試料ステージ15の移動により、電子線EB(電子プローブ)が照射される試料S上での分析位置(分析箇所)を相対的に移動させることができる。
【0026】
二次電子検出器17は、試料Sから放出された二次電子を検出するための検出器である。二次電子検出器17の測定結果(出力信号)から、二次電子像(SEM像)を得ることができる。反射電子検出器18は、試料Sから放出された反射電子を検出するための検出器である。反射電子検出器18の測定結果(出力信号)から、反射電子像を得ることができる。これらの電子像は、画像処理部29に含まれる、画像生成部30により生成される。生成された画像は表示部34に表示される。
【0027】
波長分散型分光器19は、電子線EBを試料Sに照射した際に発生する特性X線を分離して検出する。波長分散型分光器19は、例えば、分光結晶によるX線のブラッグ反射を利用して特定波長のX線を分離する。検出された特性X線から、特性X線スペクトルや二次元マッピング等のデータが得られる。これらのデータはX線処理部33により生成される。生成されたデータは表示部34に表示される。なお、本実施形態では波長分散型分光器により特性X線を検出する装置について説明するが、本発明に係る分析装置は、波長分散型分光器によりX線の検出を行うと同時に、エネルギー分散型分光器によりX線の検出を行ってもよい。
【0028】
入力部21は、たとえばキーボード、タッチパネル型ディスプレイであり、操作者は入力部21を用いて分析装置100を制御するための各種パラメーターや、所望する分析の分析条件を入力する。分析装置を制御するためのパラメーターにはステージ位置情報やビーム位置情報が含まれる。これらの情報はそれぞれ、ステージ制御部23、ビーム制御部25に送られる。分析条件には、分析種(定性分析、定量分析、線分析、面分析等)、分析位置、分析対象X線、検出器条件、電子光学系条件等が含まれる。本実施形態に係る分析装置においては、入力される分析種はステージ走査方式による線分析である。ステージ走査方式による線分析は、試料ステージ15を走査しながら特性X線の検出を行う分析方法であるため、分析条件には試料ステージ走査方向が含まれる。入力された分析条件は分析条件記憶部22に記憶される。
【0029】
ステージ制御部23は、ステージ走査部16の制御を行う。入力部21に、現在のステージ位置と異なるステージ位置が入力された場合、ステージ制御部23は、入力されたステージ位置に試料ステージ15が位置するよう、ステージ走査部16を移動させる。また、分析時には、分析条件記憶部22から分析位置のデータを読み出し、設定された分析位置に試料ステージ15が位置するよう、ステージ走査部16を移動させる。
【0030】
また、ステージ制御部23は、ステージ走査部16を移動させ、停止させた後に、常に特定の方向に試料ステージ15のバックラッシュが存在するようにステージ走査部16を制御する。この動作については、後で詳細に説明する。
【0031】
バックラッシュ判定部24は、分析開始時に、分析条件記憶部22に記憶された分析条件におけるステージ走査方向が、試料ステージ15のバックラッシュの影響が出る方向であるか否かを判定する。ステージ制御部23はバックラッシュ判定部24の判定結果を受けて、必要に応じてステージ走査部16にバックラッシュ取り動作を実行させる。この動作については、後で詳細に説明する。
【0032】
ビーム制御部25は、ビーム走査方式による分析時に、ビーム走査系26により偏向器13を介して電子線EBを走査する。ビーム走査系26は、ビーム走査部27と、ビーム位置補正部28とを含んで構成されている。
【0033】
画像処理部29は、画像生成部30と、参照画像記憶部31と、ずれ量算出部32とを含んで構成されている。画像生成部30は、二次電子検出器17および反射電子検出器18の測定結果から、二次電子像および反射電子像を生成する。参照画像記憶部31は、画像生成部30で生成された画像を、必要に応じて参照画像として記憶する。ずれ量算出部32は、参照画像記憶部31に記憶された参照画像と、生成された画像とを比較して、両画像間での位置ずれ量を算出する。ずれ量算出部32で算出された位置ずれ量は、ビーム位置補正部28に送られる。ビーム位置補正部28は、画像の位置ずれを相殺する方向に、位置ずれ量の分だけビーム位置を補正するように、偏向器13を介して電子線EBを走査する。
【0034】
(試料ステージのバックラッシュ取り動作)
ここで、試料ステージ15のバックラッシュ取り動作について説明する。試料ステージ15(ステージ走査部16)は送りねじ方式で移動させられる。
図2は、ステージ走査部16と送りねじ40の模式図である。試料ステージ15はX軸方向とY軸方向に移動させられるが、ここでは簡単のため、X軸方向の移動のみを考える。
【0035】
試料ステージ15がX軸方向のマイナス側からプラス側に移動した時、停止時におけるステージ走査部16と送りねじ40との関係は
図2(a)のようになる。試料ステージ15がX軸方向のプラス側からマイナス側に移動した時、停止時におけるステージ走査部16と送りねじ40との関係は
図2(b)のようになる。EPMAは通常、試料ステージ15が停止した際に、
図2に示すギャップ50が常に同じ側(プラス側かマイナス側かのいずれか一方)に位置するような制御、つまり、常に特定の方向に試料ステージ15のバックラッシュが存在するような制御を行っている。
【0036】
例えば、ギャップ50が常にマイナス側に位置するような制御を行う場合、試料ステージ15がプラス側からマイナス側に移動して停止した後に(
図2(b)の状態)、ステージ制御部23は、試料ステージ15(ステージ走査部16)を、マイナス側に一定の距離だけ移動させ、さらにプラス側に同じ距離だけ移動させる。この時、移動させる距離は、ギャップ50よりも大きい必要がある。これにより、ステージ走査部16と送りねじ40との関係は、
図2(b)の状態から
図2(a)の状態になる。つまり、ギャップ50がマイナス側に位置する。このように、試料ステージ15(ステージ走査部16)を、ギャップ50より大きい距離だけ、ある方向に移動させ、同じ距離だけ反対方向に移動させることを、バックラッシュ取りという。
【0037】
なお、ギャップ50が常にマイナス側に位置するような制御を行う場合、試料ステージ15がマイナス側からプラス側に移動して停止した際には、停止した時点でギャップ50はマイナス側に位置しているため(
図2(a)の状態)、バックラッシュ取り動作を行う必要はない。
【0038】
このように、ギャップ50が常にマイナス側に位置するように制御すること、つまり、常にマイナス側からプラス側に移動させた後に試料ステージ15を停止させる制御を行うことを、ここでは「プラス方向のバックラッシュ取りを行う」と呼ぶ。プラス側からマイナス側に移動させた後に試料ステージ15を停止させる制御は、「マイナス方向のバックラッシュ取りを行う」と呼ぶ。
【0039】
次に、本実施形態の動作について、さらに詳細に説明する。
図3は本実施形態の動作を示したフローチャートであり、(a)は線分析条件入力段階、(b)はその後の線分析実行段階をそれぞれ示す。
【0040】
(ステージ走査による線分析の分析条件の入力)
図3(a)において操作者が線分析条件入力の開始を指示すると、ステージ制御部23は、入力部21に入力されたステージ位置に試料ステージ15が位置するように、試料ステージ15(ステージ走査部16)を移動させる(S101)。試料ステージ15が停止した後、ステージ制御部23は、直前の移動方向に応じて、必要であればステージ走査部16にバックラッシュ取りを実行させる。ここで、分析装置100は、X軸方向、Y軸方向ともに、プラス方向のバックラッシュ取りを行う装置であるとする(S103)。
【0041】
操作者は表示部34に表示される電子像を観察し、現在の視野が所望する分析開始位置であると判断した場合には、分析条件の入力を開始する(S105)。入力部21には、分析開始位置として現在のステージ位置と、線分析を行う方向(ステージ走査方向)が入力される。また、ステップサイズ(X線信号を取得する際の試料ステージ15の移動間隔)や、分析対象となる元素(特性X線の種類)も入力される。入力された分析条件は、分析条件記憶部22に記憶される。
【0042】
画像生成部30は、分析開始位置における二次電子検出器17および反射電子検出器18の測定結果から二次電子像あるいは反射電子像を生成し、参照画像記憶部31は、この画像を参照画像として保存する(S107)。つまり、参照画像は、プラス方向のバックラッシュ取りを行った状態(ステージ走査部16と送りねじ40との関係が
図2(a)の状態)で取得されたものである。
【0043】
(分析条件のステージ走査方向のバックラッシュ判定)
図3(b)において操作者が線分析の開始を指示すると、ステージ制御部23は分析条件記憶部22から分析条件を読み出し、線分析開始位置へと試料ステージ15(ステージ走査部16)を移動させる(S109)。試料ステージ15が停止した後、ステージ制御部23は、直前の移動方向に応じて、必要であればステージ走査部16にプラス方向のバックラッシュ取りを実行させる(S111)。
【0044】
次に、バックラッシュ判定部24は、分析条件記憶部22から、これから実行する線分析のステージ走査方向を読み出し(S113)、読み出したステージ走査方向に、X軸方向とY軸方向のどちらか一方にマイナス方向の走査が含まれているか否かを判断する(S115)。ステージ走査方向にマイナス方向の走査が含まれている場合、バックラッシュ判定部24は、バックラッシュの影響有りの判定をステージ制御部23に送る(S117)。ステージ走査方向にマイナス方向の走査が含まれていない場合には、バックラッシュ判定部24はバックラッシュ判定を終了し、線分析が開始される(S127)。
【0045】
(マイナス方向のバックラッシュ取り動作)
ステージ制御部23は、バックラッシュ判定部24からバックラッシュの影響有りの判定を受け取った場合、ステージ走査部16に、マイナス方向の走査が含まれている軸に対するマイナス方向のバックラッシュ取り動作を実行させる(S119)。例えばX軸方向にマイナス方向の走査が含まれている場合、ステージ制御部23は、試料ステージ15(ステージ走査部16)を、プラス側に一定の距離だけ移動させ、さらにマイナス側に同じ距離だけ移動させる。この時、移動させる距離は、ギャップ50よりも大きい必要がある。マイナス方向のバックラッシュ取りが実行されると、ステージ走査部16と送りねじ40との関係は
図2(b)の状態になる。
【0046】
(プローブトラッキングによる視野合わせ)
この時、試料ステージ位置(座標)は、座標値としては分析開始位置(座標)にあるが、実際にはギャップ50の分だけ、分析開始位置設定時とは試料ステージ位置、すなわち観察視野がずれている可能性がある。この観察視野のずれ分を補正するために、プローブトラッキングが実行される。プローブトラッキングとは、参照画像と比較画像とから視野の位置ずれ量を算出して、位置ずれ量をビーム走査系にフィードバックして視野を一致させるプロセスである。
【0047】
画像生成部30は、マイナス方向のバックラッシュ取りが終了した段階の、二次電子検出器17および反射電子検出器18の測定結果から二次電子像あるいは反射電子像を生成する(S121)。ずれ量算出部32は、参照画像記憶部31に記憶された参照画像(S107で取得された画像)と、現時点で生成された画像とを比較して、両画像間での位置ずれ量を算出する(S123)。算出された位置ずれ量は、ビーム位置補正部28に送られる。ビーム位置補正部28は、画像の位置ずれを相殺する方向に、位置ずれ量の分だけビーム位置を補正するように、偏向器13を介して電子線EBを走査する(S125)。これにより、試料ステージ位置(座標)と観察視野との両方が、分析開始位置設定時点の試料ステージ位置(座標)および観察視野とそれぞれ一致する。
【0048】
(線分析の開始)
ステージ走査部16と送りねじ40とが、ステージ走査方向に対してバックラッシュの影響が出ない状態で、且つ、試料ステージ位置(座標)と観察視野との両方が、分析開始位置設定時点の試料ステージ位置(座標)および観察視野とそれぞれ一致している状態から、線分析が開始(ステージ走査が開始)される(S127)。分析開始(ステージ走査開始)直後から試料ステージ15の実際の移動が始まるため、分析開始直後に検出したX線信号に付された検出位置データは実際の試料ステージ位置を反映する。これにより、正確な線分析データが得られる。
【0049】
(連続線分析)
試料ステージ15が線分析終了位置まで移動すると、線分析が終了(ステージ走査が終了)する(S129)。ここで、現在の試料ステージ位置(線分析終了位置)が始点となる線分析の実行が予め指示されているか否かが判断され(S131)、指示されている場合(複数の連続した直線上を走査する連続線分析の場合)は、S111に戻り、指示された全ての線分析が終了するまでS111からS129の処理が繰り返される。このような処理により、第二の直線以降の分析位置が、設定した分析位置とずれることなく、連続線分析が実行される。
【0050】
このように、本実施形態に係る分析装置では、線分析開始時に、分析装置に予め設定されたバックラッシュ制御情報(試料ステージ15が停止した時にバックラッシュが常に存在する方向)を参照してバックラッシュ判定およびバックラッシュ取り動作を実行することで、バックラッシュの影響のない線分析のデータを得ることができる。また、プローブトラッキングを実行することで、分析開始時の観察視野を分析開始位置設定時の観察視野に一致させることができる。
【0051】
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係る分析装置について、図面を参照しながら説明する。
図4は、第2実施形態に係る分析装置200を模式的に表した図である。分析装置200は、第1実施形態に係る分析装置100の構成に加え、制御部20に、移動方向記憶部35を含んで構成されている。以下、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0052】
ステージ制御部23は、ステージ走査部16の制御を行う。入力部21に、現在のステージ位置と異なるステージ位置が入力された場合、ステージ制御部23は、入力されたステージ位置に試料ステージ15が位置するよう、ステージ走査部16を移動させる。また、分析時には、分析条件記憶部22から分析位置のデータを読み出し、設定された分析位置に試料ステージ15が位置するよう、ステージ走査部16を移動させる。
【0053】
また、ステージ制御部23は、試料ステージ位置を変更する(移動する)場合、現在の試料ステージ位置(座標)と、変更後(移動後)の試料ステージ位置(座標)とから、試料ステージ15の移動方向を算出する。
【0054】
移動方向記憶部35は、ステージ制御部23が算出した試料ステージ15の移動方向を記憶する。移動方向記憶部35に記憶される試料ステージ15の移動方向は、試料ステージ位置が変更されるたびに更新される。つまり、移動方向記憶部35には、現在の試料ステージ位置に、どの方向から試料ステージ15が移動してきたかという情報が記憶されている。
【0055】
バックラッシュ判定部24は、分析開始時に、分析条件記憶部22に記憶された分析条件におけるステージ走査方向が、試料ステージ15のバックラッシュの影響が出る方向であるか否かを判定する。判定の際、バックラッシュ判定部24は、移動方向記憶部35に記憶された試料ステージ15の移動方向を参照する。この動作については、後で詳細に説明する。
【0056】
次に、本実施形態の動作について、さらに詳細に説明する。
図5は本実施形態の動作を示したフローチャートであり、(a)は線分析条件入力段階、(b)はその後の線分析実行段階をそれぞれ示す。
【0057】
(ステージ走査による線分析の分析条件の入力)
図5(a)において操作者が線分析条件入力の開始を指示すると、ステージ制御部23は、入力部21に入力されたステージ位置に試料ステージ15が位置するように、試料ステージ15(ステージ走査部16)を移動させる(S201)。この時、移動方向記憶部35には試料ステージ15の移動方向が記憶される。
【0058】
操作者は表示部34に表示される電子像を観察し、現在の視野が所望する分析開始位置であると判断した場合には、分析条件の入力を開始する(S205)。入力部21には、分析開始位置として現在のステージ位置と、線分析を行う方向(ステージ走査方向)が入力される。また、ステップサイズ(X線信号を取得する際の試料ステージ15の移動間隔)や、分析対象となる元素(特性X線の種類)も入力される。入力された分析条件は、分析条件記憶部22に記憶される。
【0059】
画像生成部30は、分析開始位置における二次電子検出器17および反射電子検出器18の測定結果から二次電子像あるいは反射電子像を生成し、参照画像記憶部31は、この画像を参照画像として保存する(S207)。
【0060】
(分析条件のステージ走査方向のバックラッシュ判定)
図5(b)において操作者が線分析の開始を指示すると、ステージ制御部23は分析条件記憶部22から分析条件を読み出し、線分析開始位置へと試料ステージ15(ステージ走査部16)を移動させる(S209)。この時、移動方向記憶部35には試料ステージ15の移動方向が記憶される。
【0061】
次に、バックラッシュ判定部24は、移動方向記憶部35から、最新の試料ステージ15の移動方向を読み出し(S211)、さらに分析条件記憶部22から、これから実行する線分析のステージ走査方向を読み出す(S213)。バックラッシュ判定部24は、読み出したステージ走査方向と、最新の試料ステージ15の移動方向とを比較する。つまり、ステージ走査方向の、X軸方向とY軸方向のどちらか一方に、最新の試料ステージ15の移動方向と逆方向の走査が含まれているか否かを判断する(S215)。ステージ走査方向に、最新の試料ステージ15の移動方向と逆方向の走査が含まれている場合、バックラッシュ判定部24は、バックラッシュの影響有りの判定をステージ制御部23に送る(S217)。ステージ走査方向に、最新の試料ステージ15の移動方向と逆方向の走査が含まれていない場合には、バックラッシュ判定部24はバックラッシュ判定を終了し、線分析が開始される(S227)。
【0062】
(バックラッシュ取り動作)
ステージ制御部23は、バックラッシュ判定部24からバックラッシュの影響有りの判定を受け取った場合、ステージ走査部16に、最新の試料ステージ15の移動方向と逆方向の走査が含まれている軸に対するバックラッシュ取り動作を実行させる(S219)。ここでのバックラッシュ取り動作は、これから実行する線分析のステージ走査方向と逆方向に、試料ステージ15(ステージ走査部16)を一定の距離だけ移動させ、さらに逆方向(これから実行する線分析のステージ走査方向)に同じ距離だけ移動させる動作である。この時、移動させる距離は、ギャップ50よりも大きい必要がある。これにより、ステージ走査部16と送りねじ40とが、ステージ走査方向に対してバックラッシュの影響が出ない状態になる。
【0063】
(線分析の実行)
試料ステージ位置(座標)と観察視野との両方を、分析開始位置設定時点の試料ステージ位置(座標)および観察視野とにそれぞれ一致させるため、プローブトラッキングが実行される(S221からS225)。プローブトラッキングの動作については第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0064】
ステージ走査部16と送りねじ40とが、ステージ走査方向に対してバックラッシュの影響が出ない状態で、且つ、試料ステージ位置(座標)と観察視野との両方が、分析開始位置設定時点の試料ステージ位置(座標)および観察視野とそれぞれ一致している状態から、線分析が開始(ステージ走査が開始)される(S227)。分析開始(ステージ走査開始)直後から試料ステージ15の実際の移動が始まるため、分析開始直後に検出したX線信号に付された検出位置データは実際の試料ステージ位置を反映する。これにより、正確な線分析データが得られる。連続線分析の場合には、指示された全ての線分析が終了するまでS211からS229の処理が繰り返される。このような処理により、第二の直線以降の分析位置が、設定した分析位置とずれることなく、連続線分析が実行される。
【0065】
このように、本実施形態に係る分析装置では、線分析開始時に、移動方向記憶部35に記憶された試料ステージ15の移動方向を参照してバックラッシュ判定およびバックラッシュ取り動作を実行することで、バックラッシュの影響のない線分析のデータを得ることができる。本実施形態に係る分析装置では、通常のEPMAで行われているような、常に特定の方向に試料ステージのバックラッシュが存在するような制御を行う必要がない。
【0066】
3. 変形例
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。上述した実施形態では、分析開始位置設定時と分析開始時との観察視野を合わせる手段としてプローブトラッキングを利用したが、リニアエンコーダ―によるフィードバック制御を利用してもよい。
【0067】
リニアエンコーダ―を利用する場合は次のような動作を行う。線分析開始時にバックラッシュ判定およびバックラッシュ取り動作が実行された後、ステージ制御部23は、リニアスケールを参照して、分析開始位置に試料ステージ15を移動させる。これにより、分析開始時の観察視野を、分析開始位置設定時の観察視野に精密に合わせることができる。
【0068】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0069】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。