(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857512
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】血管内皮細胞の遊走と増殖を促進する脂溶性抽出物およびその抽出方法、並びに血管新生促進剤及び創傷治癒剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/07 20060101AFI20210405BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210405BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20210405BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20210405BHJP
【FI】
A61K36/07
A61P43/00 107
A61P17/02
A23L33/10
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-38285(P2017-38285)
(22)【出願日】2017年3月1日
(65)【公開番号】特開2018-145104(P2018-145104A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】390034142
【氏名又は名称】ホクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177275
【弁理士】
【氏名又は名称】稲冨 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 崇光
(72)【発明者】
【氏名】森 光一郎
【審査官】
大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−232751(JP,A)
【文献】
特開2004−300438(JP,A)
【文献】
特開2016−185923(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第105777931(CN,A)
【文献】
Cancer Letters,2001年,Vol. 172,p193-198
【文献】
Jpn. J. Pharmacol.,2000年,Vol. 84,p.293-300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A23L、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒によりマイタケから一次抽出物を得て、当該一次抽出物を水と酢酸エチルとで分配することで酢酸エチル層から二次抽出物を得て、当該二次抽出物をヘキサンと酢酸エチルとのグラジエント溶液で溶出し、ヘキサン:酢酸エチルが1:4の割合で溶出した脂溶性抽出画分を血管新生を促進する成分として得る事を特徴とする、血管新生促進成分の抽出方法。
【請求項2】
有機溶媒によりマイタケから一次抽出物を得て、当該一次抽出物を水と酢酸エチルとで分配することで酢酸エチル層から二次抽出物を得て、当該二次抽出物をヘキサンと酢酸エチルとのグラジエント溶液で溶出し、ヘキサン:酢酸エチルが1:4の割合で溶出した脂溶性抽出画分を血管新生促進成分として得て、当該血管新生促進成分を主成分とする血管新生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞の遊走と増殖を促進する脂溶性抽出物および当該脂溶性抽出物をマイタケから抽出する方法並びに当該脂溶性抽出物および当該脂溶性抽出物を有効成分として含有してなる血管新生促進剤又は創傷治癒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮細胞は、血管の恒常性維持に重要な役割を果たしている。血管内皮細胞が虚血状態の組織または細胞から放出される血管新生促進因子を認識すると、血管内皮細胞は遊走および増殖をして管腔形成を誘導し血管が新生される。新生した血管により組織や細胞を維持するために必要な酸素や栄養が虚血状態の組織または細胞に供給され、炎症の修復や創傷治癒がされる。
【0003】
また、運動不足や高脂肪食の摂取などの生活習慣によってもたらされる動脈硬化症は、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、血管性認知症および末梢動脈疾患などの虚血性疾患を引き起こす原因になっているが、その治療法として血管新生促進剤が利用されることも多い。
【0004】
本発明に関連性を有する血管新生促進剤の文献として特許文献1乃至4及び非特許文献1に開示されている。特許文献1には、クエルセチン配糖体を有効成分とする虚血後血管新生促進剤が開示されていて、特許文献2には、シクロブチルプリン誘導体を有効成分とする血管新生促進剤が開示されている。
【0005】
ここで、クエルセチンは薬物代謝酵素CYP2C8の阻害作用が知られ一部の抗がん剤との併用で副作用が懸念され、シクロブチルプリン誘導体は、生体内に及ぼす影響について不明な点が多く、プリン塩基を含むため高尿酸血症の原因になる可能性が懸念されている。
【0006】
さらに非特許文献1には、現在行われている血管新生治療は薬剤あるいは増殖因子などの血管新生促進剤の患部への注射や遺伝子治療に限定されることが開示されている。
【0007】
これらは、血管新生促進の効果は優れていると考えられるが、副作用や開胸及び開頭などにより患者への精神的および肉体的負担が大きい。そのため、患者に大きな負担を追わせることなく血流を改善できるような血管新生促進剤が待望されている。
【0008】
一方、副作用が軽減されることや注射や遺伝子治療に代わって食生活において心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、血管性認知症および末梢動脈疾患などの虚血性疾患の改善を促進することが期待され、日常的に摂食できる天然物中から血管新生促進作用のある物質の探索も進められている。
【0009】
特許文献3には、天然物のモズクなどから抽出されたフコステロールを主成分とする血管新生促進剤が開示され、特許文献4には、天然物の冬虫夏草からの抽出物を有効成分とした血管新生促進剤が開示されている。これらは、いずれも食経験のある天然物由来であって、副作用が低減されていると考えられる。
【0010】
しかしながら、モズクは季節により収穫量が変化し、安定した収穫および供給が困難であり、冬虫夏草は種類が様々であり栽培が可能な種もあるが、特許文献4にかかる冬虫夏草は人工栽培例がなく、また、他のすべての冬虫夏草に一律に血管新生促進作用があるとは限らないことや、冬虫夏草は虫に寄生して死に至らしめるため人への安全性が懸念されるところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−266215号公報
【特許文献2】再表2010−061931号公報
【特許文献3】特開2011−121917号公報
【特許文献4】特開2008−143868号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Therapeutic angiogenesis for revascularization in peripheral artery disease. Gene, 525, 220-228, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、通年で安定的に原料を供給でき、かつ、食経験が豊かで安全性が確保されている生鮮食品のマイタケ(学名:Grifola frondosa)から血管内皮細胞の遊走と増殖を促進する脂溶性抽出物を得る方法を提供し、当該脂溶性抽出物を得て、さらに当該脂溶性抽出物を有効成分として副作用が懸念されない血管新生促進剤又は創傷治癒剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機溶媒によりマイタケから一次抽出物を得て、当該一次抽出物を水と酢酸エチルとで分配することで酢酸エチル層から二次抽出物を得て、さらに当該二次抽出物をヘキサンと酢酸エチルとのグラジエント溶液で溶出し、ヘキサン:酢酸エチルが1:4の割合で溶出した画分を脂溶性抽出物として得た。
【0015】
この方法により、得られた脂溶性抽出物は血管内皮細胞の遊走と増殖とを顕著に促進するものであって、血管新生促進剤又は創傷治癒剤の有効成分となり得る。本発明は上述のような知見に基づいて完成された。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる血管新生促進剤は、日常の食生活における食品素材であるマイタケから抽出された脂溶性抽出物を有効成分としているため、副作用が生じるおそれが無く、また、当該脂溶性抽出物は天然物質のため合成などの手間も不要である。さらに、マイタケは通年で安定して大量生産が可能なため材料の提供も安定的に行うことができる。
【0017】
発明の効果をより詳述すると、請求項1の発明にかかる方法を用いれば、通年で安定して栽培が可能なマイタケから、血管内皮細胞の遊走と増殖とを顕著に促進する脂溶性抽出物を容易に得る事ができ、安定的な供給もできる。
【0018】
請求項2にかかる発明は、マイタケから抽出された血管内皮細胞の遊走と増殖とを顕著に促進する脂溶性抽出物であって、当該脂溶性抽出物を乾燥粉末化あるいは液状化などすることで血管新生促進剤または創傷治癒剤の有効成分として利用することができる。
【0019】
請求項3にかかる発明は、マイタケから抽出された血管内皮細胞の遊走と増殖とを顕著に促進する脂溶性抽出物を有効成分として錠剤、顆粒、粉末、カプセルへの封入、内服液への添加など様々な形態にして投与をできるようにすることで、副作用が生じることの無い血管新生促進剤として利用をすることができる。
【0020】
請求項4にかかる発明は、マイタケから抽出された血管内皮細胞の遊走と増殖とを顕著に促進する脂溶性抽出物を有効成分として錠剤、顆粒、粉末、カプセルへの封入、内服液への添加など様々な形態にして投与をできるようにすることで、副作用が生じることの無い創傷治癒剤として利用をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】マイタケから血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進する脂溶性物質を抽出する方法の工程の概略図である。
【
図2】マイタケから得られた脂溶性抽出物が血管内皮細胞の遊走を促進させたことを示した図である。
【
図3】マイタケから得られた脂溶性抽出物が血管内皮細胞の増殖を促進させたことを示した図である。
【
図4】マイタケから得られた脂溶性抽出物が血管内皮細胞の管腔様形成を促進させたことを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る血管新生促進剤及び創傷治癒剤は、マイタケから抽出した血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進する脂溶性抽出物を有効成分として構成される。
【0023】
マイタケは担子菌類の食用きのこであって、日本国内では、2015年の農林水産省の統計によれば国内で年間約48800トンの生産量があって、通年で栽培がされている。本発明の材料であるマイタケの入手については、タンク培養などにより菌糸体を集める事もできるが、市販されている子実体を入手する方が容易である。
【0024】
また、本願発明の効果を得るためには、菌糸体の培養物を利用する事もできるが、本発明の効果を十分に得るためには、マイタケの子実体からマイタケ脂溶性抽出物を抽出することが好ましい。
【0025】
次にマイタケからの脂溶性抽出物の抽出方法を説明する。
【0026】
材料のマイタケの子実体又は菌糸体は、乾燥粉末化したものも使用できる。抽出収率を考慮するとマイタケを乾燥した後微粉末化する事が望ましいが、乾燥工程及び微粉末化の工程を省略すればコストを低減できるため、新鮮なマイタケを使用する事がより好ましい。
【0027】
また、マイタケの子実体または菌糸体の乾燥は、天日干し、温風乾燥、熱風乾燥又は凍結乾燥などの方法を適用することができる。
【0029】
新鮮なマイタケまたはマイタケ乾燥微粉末は、溶媒中に浸漬し、その後当該溶媒を吸引濾過して抽出液を回収する。回収した抽出液は減圧下で溶媒を除去し、残渣を一次抽出物として得ることができる。
【0030】
ここで、溶媒は、極性有機溶媒を用いる事ができ、詳しくは1−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エタノール、アセトン、アセトニトリルまたはエタノールを単独または2以上の混合溶媒とすることができ、より好ましくはエタノールを使用する。さらに、水分の無い粉末状のマイタケから抽出する場合は、酢酸エチル、ヘキサン、トルエンなどの無極性有機溶媒の使用もできる。
【0031】
また、浸漬期間や有機溶媒の量等は、抽出効率を考慮して適宜変更する事ができる。
【0032】
次に二次抽出について説明する。一次抽出物は血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進する作用をもつが、更に分画を行うことで血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進する作用をより強力にすることができる。
【0033】
一次抽出物に蒸留水と低極性の有機溶媒から選択される1または2以上の有機溶媒とを添加して混合し、静置した後混合液が分離したら、蒸留水層を除いて有機溶媒層のみを残す。次に当該有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧濃縮して二次抽出物を得ることができる。
【0034】
ここで、上記低極性の有機溶媒には、塩化メチレン、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、ベンゼン、ヘキサン等があり、好ましくは酢酸エチル、クロロホルム、ヘキサンの何れかを単独または2以上の混合溶媒として用いる。より好ましくは酢酸エチルを用いる。
【0035】
次に脂溶性抽出物について説明する。二次抽出物は、一次抽出物よりも強い血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進する作用を示すが、さらに純度を向上させるために分画することができる。すなわち、二次抽出物をシリカゲルに吸着させ、その後当該シリカゲル吸着物を有機溶媒で溶出させることで、血管内皮細胞の遊走と増殖とをさらに強く促進する作用を得る事ができる。
【0036】
すなわち、オープンカラムに充填されたシリカゲルに二次抽出物を吸着させ、ヘキサンと酢酸エチルとの混合有機溶媒を使用してグラジエント溶出法にしたがって分画操作を行い、ヘキサン:酢酸エチルが1:4の割合で溶出した分画を脂溶性抽出物として得ることができる。当該脂溶性抽出物は血管内皮細胞の遊走と増殖とをより強く促進する作用を有する。
【0037】
ここで、上記シリカゲル吸着物を溶出させる有機溶媒は、無極性有機溶媒と極性有機溶媒との全ての中から選択される2以上の有機溶媒を混合して得られる有機溶媒を使用する事ができるが好ましくは、ヘキサンと酢酸エチルとを混合した有機溶媒を使用することができる。
【0038】
また、オープンカラムに充填されるシリカゲルは順相カラムクロマトグラフィー充填用の各種シリカゲルが使用でき、シリカゲルの粒径は40〜200μmが好ましい。
【0039】
なお、脂溶性抽出物を血管内皮細胞の細胞培養液に添加してCO
2インキュベーター内に所定時間放置することで、血管内皮細胞の遊走や増殖が促進された事を観察でき、さらに血管内皮細胞の管腔様形成も確認する事ができる。
【0040】
血管内皮細胞の管腔様形成は、血管が新生されたことを示す現象である。従って、上記した方法により三次抽出された血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進する脂溶性抽出物を、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、乳化剤、着色剤、香料などに有効成分として添加して、食品に配合し、錠剤に打錠し、顆粒化し又はカプセルに内包した状態にして血管新生促進剤または創傷治癒剤とすることができる。
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明の構成は、下記実施例に記載された内容に限られるものではなく、また、実施例の記述については、特許請求の範囲を限定し、あるいは特許請求の範囲を減縮するように解すべきものでもない。そして、本発明の構成は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内においての種々の変形が可能である。
【実施例1】
【0042】
マイタケ脂溶性抽出物の抽出工程の概略を
図1に示すとともに、以下に新鮮なマイタケ子実体から脂溶性抽出物を抽出する実施例を詳説する。
【0043】
新鮮なマイタケ子実体12.5kgを、エタノール21L中に浸漬して3日間常温で放置した。その後当該新鮮なマイタケが浸清しているエタノール溶液を吸引濾過して抽出液を回収して1回目の抽出液を得た。当該濾過の残渣を再び、エタノール21L中に浸清し同様に3日間放置後吸引濾過をして2回目の抽出液を得た。1回目の抽出液と2回目の抽出液とを混合し、エバポレーターを使用して当該混合した抽出液から溶媒を蒸発させ、残留物を一次抽出物として得た。
【0044】
次に一次抽出物を酢酸エチルと水とを1:1に混合した溶媒に添加した後、攪拌し放置した。しばらくして酢酸エチル層と水層に分かれた時に、酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水操作を行った。その後、エバポレーターを使用して酢酸エチル層から溶媒を蒸発させ、残留物を二次抽出物として得た。
【0045】
次に、酢酸エチルに溶解した二次抽出物をセライトに吸着させて完全に乾燥させた後、オープンカラムに充填したシリカゲル上にのせ、酢酸エチルとn−ヘキサンとの濃度比率を調整した混合溶媒を用いて濃度勾配溶出を行った。そして、n−ヘキサンと酢酸エチルとの混合比が1:4で溶出した画分を脂溶性抽出物とした。本実施例では、脂溶性抽出物は26.9mg得る事ができた。
なお、本実施例で得られた一次抽出物、二次抽出物および脂溶性抽出物はそれぞれ、血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進することを実験的に確認をした。
【実施例2】
【0046】
次に実施例1で得られた脂溶性抽出物を用いた細胞遊走試験について実施例を説明するとともに、その結果として得られた血管内皮細胞の遊走率を
図2に示した。
【0047】
本実施例では、血管内皮細胞としてヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells:以下、HUVECという。)を使用した。あらかじめ継代培養されたHUVECを培養培地であるHuMedia-EG2に懸濁して、HUVECが2×10
4個/ ウェルになるように、RadiusTM 96-well Cell Migration Assay (Cell Biolabs社製)に播種した。常法により24時間培養後、脂溶性抽出物をジメチルスルホキシドに溶解して、当該培養後の培養培地に添加した。このときの脂溶性抽出物の濃度は0、10μg/mLになるように調整をした。また、ポジティブコントロールとして血管内皮増殖因子 (Vascular endothelial growth factor: 以下VEGF)を20ng/mLになるように加えた試験区を設けた。それぞれを添加した後16時間経過後、RadiusTM Gelを除き、さらに8時間後、それぞれ細胞染色を行った。細胞染色を写真撮影してその画像から細胞遊走率(%)を画像処理ソフトImageJを用いて算出した。
【0048】
本実施例の結果、HUVECの細胞遊走率は
図2に示したとおりであり、脂溶性抽出物はHUVECの遊走を活性化した。
【実施例3】
【0049】
次に実施例1で得られた脂溶性抽出物を用いた細胞増殖試験について実施例を説明するとともに、その結果得られた細胞増殖率を
図3に示した。
【0050】
あらかじめ継代培養されたHUVECを培養培地であるHuMedia-EG2に懸濁して、コラーゲンコート96ウェルプレートにHUVECが1×10
4個/ ウェルになるように播種した。そして、HUVECを常法により24時間培養した後、ジメチルスルホキシドに溶解させた脂溶性抽出物を当該培養培地に添加した。このときの脂溶性抽出物の濃度はそれぞれ0、2.4、12、60 μg/mLになるように調整した。当該脂溶性抽出物を添加して24時間経過後にそれぞれに細胞増殖測定試薬を添加し、さらに3時間経過後、それぞれの吸光度を測定し、その測定値から細胞増殖率(%)を算出した。
【0051】
本実施例の結果、HUVECの細胞増殖率は
図3に示したとおりとなった。脂溶性抽出物の濃度に依存してHUVECの細胞増殖率が上昇し、脂溶性抽出物がHUVECの増殖を促進させた結果が得られた。
【実施例4】
【0052】
次に実施例1で得られた脂溶性抽出物を用いたHUVECの管腔様形成試験の実施例を説明するとともに、その結果得られた管腔様の全長について
図4に示した。
【0053】
あらかじめ継代培養されたHUVECを培養培地であるHuMedia-EG2 (倉敷紡績株式会社製)に懸濁して、コラーゲンコート96ウェルプレートに、HUVECが1.5×10
4個/ ウェルになるように播種した。常法で2時間培養後、培養培地を除去し、コラーゲン溶液 (株式会社高研製)を各ウェルにそれぞれ50μL加えてゲル化させた。その後、脂溶性抽出物をジメチルスルホキシドに溶解させてから上記培養培地に懸濁して、上記ゲル化させた各ウェルに添加した。このときの脂溶性抽出物の濃度は0、10 μg/mLになるようにそれぞれ調整した。また、ポジティブコントロールとしてVEGFを20ng/mLになるように加えた試験区も設けた。当該添加48時間経過後、それぞれの試験区において管腔様の形成についての結果を写真撮影し、画像処理ソフトのImageJを用いて管腔様の全長(mm)を計測した。
【0054】
本実施例の結果、HUVECの管腔様の全長は
図4に示したとおりとなった。脂溶性抽出物によってHUVECの管腔様が伸長し、血管新生が促進される事が示された。
【0055】
本発明によれば、マイタケから得られた脂溶性抽出物は、HUVECの遊走と増殖とを促進し、管腔様形成が顕著に見られた。このことにより、本発明にかかる脂溶性抽出物が血管内皮細胞の管腔様形成を促し、血管新生をさせることが明確となった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかる脂溶性抽出物の抽出方法は、マイタケから血管内皮細胞の遊走と増殖とを促進する脂溶性抽出物を得る事ができ、当該脂溶性抽出物は血管新生促進剤または創傷治癒剤の有効成分として使用する事が期待でき、さらに、当該脂溶性抽出物は食経験豊富な生鮮食品のマイタケから抽出した成分であるため、副作用が無く安全性を備えた医薬品や健康食品分野で利用することが可能である。