特許第6857519号(P6857519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857519
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】接合構造体
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20210405BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   E04B1/58 506L
   E04B1/26 G
   E04B1/58 508L
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-49989(P2017-49989)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-154963(P2018-154963A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 諭司
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−129798(JP,A)
【文献】 特開2006−083676(JP,A)
【文献】 特開2003−306979(JP,A)
【文献】 特開平08−218497(JP,A)
【文献】 特開2002−322817(JP,A)
【文献】 特開2005−194818(JP,A)
【文献】 特開2009−121030(JP,A)
【文献】 特開2012−167538(JP,A)
【文献】 米国特許第05061111(US,A)
【文献】 韓国登録実用新案第20−0467887(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料からなる複数の木質部材が、L字型プレートを有する接合金物を用いて接合されており、L型プレートには、そのプレートの両側が木質部材と接している部分と、プレートの片側のみが木質部材と接し、もう一方の片側は外側に直接面している部分が存在し、そのプレートの片側のみが木質部材と接している部分において、そのプレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートが配置されていることを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
木質部材が二つのL型プレートによって、他の2本の木質部材と結合されており、プレートと木質部材の間に配置されている繊維補強樹脂シートが、二つのL型プレート間において連続している請求項1記載の接合構造体。
【請求項3】
繊維補強樹脂シートが複数であって、重なることなく複数並んで配置されている請求項1又は2記載の接合構造体。
【請求項4】
繊維補強樹脂シートの圧縮強度が100N/mm以上、5000N/mm以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の接合構造体。
【請求項5】
2本以上の垂直方向の木質部材と、その間に存在し、下の面に繊維補強樹脂シートが配置された木質部材とからなる請求項1〜4のいずれか1項記載の接合構造体。
【請求項6】
木質材料からなる複数の木質部材を、L字型プレートを有する接合金物によって接合する方法であって、L型プレートには、そのプレートの両側が木質部材と接している部分と、プレートの片側のみが木質部材と接し、もう一方の片側は外側に直接面している部分とが存在し、そのプレートの片側のみが木質部材と接している部分において、そのプレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートが配置されていることを特徴とする木質部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木質材料の接合構造体に関し、さらには施工性に優れかつ高い接合強度を発現する接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題や産業の活性化を背景に国産木材のさらなる活用が求められており、従来の木造戸建住宅に加えて、大型化・高層化した木造建築物に関する技術開発が、盛んに行われている。
【0003】
本来的に木質材料は、軽量で加工性が良いという構造材料としての特徴と、癒し効果やリラックス効果などの意匠的な特徴を合わせ持つ。しかしながら、大空間建築物や中低層建築物を木造化するためには、梁や柱などの構造材としての木質材料そのものの物性の向上に加えて、それらの接合部についても、強度向上が強く求められている。接合部の強度が不足すると、建物として成り立ちえないからである。
【0004】
このような接合方法に関し、木造構造材においても近年では接合具を使用した接合方法が主流である。たとえば特許文献1では、T字型の金具にボルト孔や固定留め具の孔を設けて、数多くのボルトやネジを用いて接合させる方法が開示されている。しかし使用する部品数が多く、施工性が低下するものであった。また特許文献2では、鉄鋼やステンレス鋼などの重い金属材料に代えて、FRPや軽金属などの軽量材料を用いた、形状に特徴がある補強用具が開示されている。しかしそのような材料は耐火性能を確保しにくいことに加えて、接合形状が特殊になることで、耐火被覆の施工性の悪化や被覆材の高コスト化を伴いがちであった。
【0005】
特にこのような問題は、中低層建築物や大空間建築物を木造化する際に顕著であった。そして特殊な接合具を用いることなく、施工性に優れ、高い接合強度を発現できる木質の接合構造体や、木質材料用の接合方法の開発が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−348658号公報
【特許文献2】特開2004−003177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、施工性に優れかつ高い接合強度を発現する木質材料の接合構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の接合構造体は、木質材料からなる複数の木質部材が、L字型プレートを有する接合金物を用いて接合されており、L型プレートには、そのプレートの両側が木質部材と接している部分と、プレートの片側のみが木質部材と接し、もう一方の片側は外側に直接面している部分が存在し、そのプレートの片側のみが木質部材と接している部分において、そのプレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートが配置されていることを特徴とする。
【0009】
さらには、木質部材が二つのL型プレートによって他の2本の木質部材と結合されており、プレートと木質部材の間に配置されている繊維補強樹脂シートが二つのL型プレート間において連続していることや、繊維補強樹脂シートが複数であって重なることなく複数並んで配置されていることが好ましい。また、繊維補強樹脂シートの圧縮強度が100N/mm以上、5000N/mm以下であることや、2本以上の垂直方向の木質部材と、その間に存在し下の面に繊維補強樹脂シートが配置された木質部材とからなることが好ましい。
【0010】
もう一つの本発明の木質部材の接合方法は、木質材料からなる複数の木質部材を、L字型プレートを有する接合金物によって接合する方法であって、L型プレートには、そのプレートの両側が木質部材と接している部分と、プレートの片側のみが木質部材と接し、もう一方の片側は外側に直接面している部分とが存在し、そのプレートの片側のみが木質部材と接している部分において、そのプレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートが配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、施工性に優れかつ高い接合強度を発現する木質材料の接合構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明で用いるL字金型例の模式図
図2】本発明の接合構造体例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の接合構造体は、木質材料からなる複数の木質部材が、L字型プレートを有する接合金物を用いて接合されたものである。そしてそのL字型プレートには、そのプレートの両側が木質部材と接している部分と、プレートの片側のみが木質部材と接し、もう一方の片側は外側に直接面している部分が存在し、そのプレートの片側のみが木質部材と接している部分において、そのプレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートが配置されていることを特徴とする。
【0014】
そして本発明の接合構造体では、L字型プレートとしては[図1]に示した、一般的なL字型プレートを接合金物として用いるものである。ここでL字型プレートを有する接合金物とは、接合される部材間に配置されるプレート1と一方の部材の自重および建物荷重などによる変形に対して支持する部分に配置されたプレート2を有した接合金型であり、それぞれのプレートを側面方向から見た際に、プレート1とプレート2の部分とが、L字型に配置されている接合金具である。このL字型プレートを有する接合金物は、好ましくは一方の木質部材の内部に挿入されるプレート3や、金具棒状のピン状物又はボルト等を打ち込むための孔を有することが好ましい。この時、金具棒状のピン状物又はボルト等の直径は5〜30mmの範囲であることが好ましく、金具棒状のピン状物又はボルト等を、接合対象の木質部材にあらかじめ穴を開けておくか、または開けずにそのまま打ち込み、接合構造体とする。
【0015】
そして本発明の接合構造体では、木質材料からなる複数の木質部材がL字型プレートを有する接合金物を用いて接合されており、L字型プレートには、そのプレートの両側が木質部材と接している部分と、プレートの片側のみが木質部材と接し、もう一方の片側は外側に直接面している部分が存在し、そのプレートの片側のみが木質部材と接している部分において、そのプレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートが配置されていることを特徴とする。
【0016】
また接合構造体としては、2本以上の垂直方向の木質部材と、その間に存在し、下の面に繊維補強樹脂シートが配置された木質部材とからなるものであることが好ましい。ここで、垂直方向の木質部材は通常「柱部材」、その間に存在する木質部材は「梁部材」となる。
【0017】
そして、木質部材の接合構造体のL字型プレートと木質部材の間に配置された繊維補強樹脂シートとしては、その圧縮強度を100N/mm以上、5000N/mm以下のものであることが好ましい。この繊維補強樹脂シートは、接合金物の部材自重および梁にかかる荷重などの変形に対して、木質部材の損傷を有効に防止する。圧縮強度としては、より好ましくは500N/mm以上4,500N/mm以下、さらには1000N/mm以上4,000N/mm以下であることが好ましい。
【0018】
繊維補強樹脂シートの圧縮強度が低すぎる場合には、柱部材の補強にするには強度が低すぎるため、繊維補強樹脂シートの厚さを厚くする必要が生じ、コスト高になることに加えて、厚くなることにより接合部材と木材との密着性も阻害する傾向にある。一方、圧縮強度が高すぎた場合には、破壊部位がその近辺に集中する場合がある。そのため破壊部位や形状をコントロールするために、梁材料と接合部材との間の接合形態や接着状態を過剰に補強する必要が生じるなどの問題が発生しやすい。すなわち本発明の接合構造体では、繊維補強樹脂シートの圧縮強度を適切な範囲とすることにより、接合強度の向上や、各材料の強度バランスを最適化し、過剰な荷重がかかった場合であっても、その破壊形態をコントロールすることが可能となる。また接合構造体全体のコストも適切な範囲内に抑えることが可能となる。
【0019】
本発明で用いる繊維補強樹脂シートとしては、通常の補強用の強化繊維と樹脂からなるものを用いることができる。さらには、ここで用いる補強用の強化繊維としては、耐熱性の有機繊維または無機繊維であることが好ましい。また、そのような繊維の周囲に存在するマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0020】
補強樹脂シートを構成する強化繊維として有機材料からなる繊維を採用する場合、融点またはガラス転移温度が200℃以上であることが好ましい。さらには250℃以上であることが好ましい。本発明の接合構造体は、建物を成り立たせるための重要な部分であって、荷重が集中する部分となる。そして構造材料に使用される木質材料の燃焼温度は一般的に低いもので200〜250℃である。したがって、本発明の接合構造体に用いられる材料としては、これらの耐熱温度、特には木質材料の200℃より高い温度まで接合強度を保持することが好ましい。そのような材料をもちいることにより、火災時においても、接合強度低下を避けることが可能となる。特に木造建築の中でも大空間建物や中低層建物などの規模が大きく、公共性が高くなる建物用途において用いる際に、準耐火または耐火の性能を得るために特に有用である。このような本発明の接合構造体は、高い防火性を付与することが可能となる。ちなみに木造の耐火技術については、これまでも種々の方法が考案されてきているが、ほとんどが木質材料そのものを火炎、熱から保護する技術であって、本願発明のように接合構造体に有効な耐火技術は極めて有効である。
【0021】
さらに具体的に本発明で用いる繊維補強樹脂シートに好適な繊維の例としては、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、四フッ化エチレン繊維、ガラス繊維などが例示でき、これらを単独または2種類以上を複合して用いてもよい。また、繊維の形態としては、一方向に繊維を引き揃えたUD基材やその2方向以上の組合せ、織物、不織布など様々な形態が採用可能であって、必要とする圧縮強度に対して設計することができる。中でも実際の接合補強性能とコストとのバランスを加味した場合、一方向に引き揃えたUD基材を用いることが特に好ましい。
【0022】
一方、繊維補強樹脂シートに用いるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂などを好ましくは挙げることができる。中でもマトリックス樹脂については、以下に述べる接着剤との相性の観点からもフェノール樹脂であることが好ましい。
【0023】
そしてこのような繊維補強樹脂シートとしては、特には炭素繊維からなるUD基材とフェノール樹脂との組み合わせであることが好ましい。さらに引張強度や引張弾性率が高く、かつ耐熱性が高い炭素繊維は、柱材料などの木質部材における木質繊維と平行方向に引き揃えたUD基材として用いることが好ましく、熱硬化性樹脂の中でも耐熱性に優れ、比較的安価であるフェノール樹脂との組合せは、耐熱性の観点からも特に好適である。
【0024】
繊維補強樹脂シートにおける繊維と樹脂の比率としては20/80〜80/20の範囲であることが好ましい。目付としては0.4〜50kg/mであることが好ましい。さらに厚さとしては0.3〜30mmであることが好ましい。
【0025】
また繊維補強樹脂シートの大きさとしては、接合する木質部材の大きさにもよるが、L字型プレートと接する木質部材の面全体を覆うことが好ましい。また繊維補強樹脂シートを最少面積に抑える場合であっても、長さ方向としてはL字型プレートの端部から20mm以上の位置まで貼り付けられていることが好ましい。より好ましくは50mm以上、さらに好ましくは100mm以上の位置まで繊維補強樹脂シートが接着されていることが好ましい。幅方向については分断されていてもよく、接合のために木質部材内部に挿入されるプレートが存在する場合、そのプレートの数に応じて決めることができる。例えば図1の金具の場合は、木質部材内部に挿入されるプレートが1枚であるため、繊維補強樹脂シートを幅方向に2か所分断しておくことが好ましい。したがって木質部材内部に挿入されるプレートが2枚の場合は、繊維補強樹脂シートを幅方向に3か所に分断すればよい。本発明では、繊維補強樹脂シートが複数であって、重なることなく複数並んで配置されていることが好ましい。この時各シートを分断する距離はプレートの厚さにより決まるが、一般的には2〜50mmのプレートを使用することが多いため、2〜50mの間隔をおいて配置することが最適である。
【0026】
そしてもう一つの本発明の木質部材の接合方法は、木質材料からなる複数の木質部材を、L字型プレートを有する接合金物によって接合する方法であって、L型プレートには、そのプレートの両側が木質部材と接している部分と、プレートの片側のみが木質部材と接し、もう一方の片側は外側に直接面している部分とが存在し、そのプレートの片側のみが木質部材と接している部分において、そのプレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートが配置されていることを特徴とする方法である。
【0027】
ここで用いられる木質部材、L字型プレート、繊維補強樹脂シートとしては、上述のものを用いることが可能である。
【0028】
以下、接合構造体が柱部材と梁部材から成る場合を例に、さらに詳細を説明する。[図2]は、そのような本発明の接合構造体の全体図を示している。この接合構造体は、木質材料から成る柱部材1と、該柱部材に接合する木質の梁部材2からなる接合構造体である。L字型プレートを有する接合金物6は柱部材1と梁部材2の間と梁部材2の下面に接する形でL字型のプレートを配置したものである。梁部材2の内部に挿入されるプレート1枚と梁部材2は予め梁部材2に開けておいた穴を介してドリフトピン4で接合される。梁部材2の下面には繊維補強樹脂シート3が幅方向に2か所分断されて接着され、梁部材2の長さ方向には全長に渡り接着されている。この繊維補強樹脂シート3は梁部材2とその自重または建物とした場合の荷重による変形を支持する側に位置するプレートの間に接着されている。これは、プレートが変形を支持する際に、木質材料である梁部材2に金属製のプレートがめり込むことを阻害し、接合強度を向上するために非常に効果的である。
【0029】
らに加えて、本発明の接合構造体は、木造建築物の接合部として、大空間建物や中低層建築物を建物として成り立たせるために重要な部材となる。通常、上階の荷重や防風、地震などの外部力などが建物にかかった場合に建物が倒壊しないよう安全率などが考慮されて設計されるのであるが、さらに大きな外力にさらされて、本発明の方法にて得られた接合構造体は、脆性的な破壊を防止し得るのである。仮に接合構造体の一部が破壊するような場合であっても、容易には全体の破壊にまで至らないのである。
【0030】
一般的にこのような接合構造体では、梁部材2の表面が補強されればされるほど、柱部材1と接合金物の間位に掛かる負担が増加し、柱部材1と接合金物の間で脆性的な破壊が起る懸念があった。しかし設計力以上の力が加わった場合に、梁部材1の下面に設置された繊維補強樹脂シート3は破損し、梁部材2へのプレートめり込みによる靱性的な破壊へ移行するため、破壊形状をコントロールできることが可能となった。逆に例えば、本発明で用いる繊維補強樹脂シート3の代わりに、鉄材料などを用いた場合には、鉄材料自体が降伏耐力以上で靱性的な破壊を示す。そのため変形しながらも梁部材2の下面を鉄材料が保護し続けるため、上述したような破壊形状のコントロールはできない。
【0031】
また柱部材や梁部材の大きさとしては、短辺100〜240mm、長辺100〜1200mmの範囲であることが好ましい。また柱部材の大きさは、1辺100〜1200mmの範囲であることが好ましい。
【0032】
また本発明の接合構造体においては、繊維補強樹脂シートが木質部材とが十分に接着されていることが好ましく、その時の接着強度としては3MPa以上15MPa以下であることが望ましい。さらに好ましくは6MPa以上10MPa以下の接着強度である。接合部繊維補強樹脂シートにおいては、プレート角部から梁部材の下面に対して垂直方向に応力がかかるため、応力が集中的にかかる部分から離れた場所において木質材料と繊維補強樹脂シートの接着が高いことが望まれるためである。少なくとも従来の集成材などで用いられる程度の接着強度を満たすことが好ましい。接着強度がより低くなると、梁部材や接合部材の角など、集中的に応力がかかっている部分と離れた部分の接着が外れてしまい、柱部材の補強効果を十分に発現できなくなる恐れがある。一方、接着強度が高すぎる場合、より特殊な接着剤や多量の接着剤を使用することになり、経済性が低下する傾向にある。
【0033】
繊維補強樹脂シートを木質部材の表面に接着する接着剤としては、木材の建築物や構造物として必要とされる耐水性、耐腐食性、耐火性、耐熱性、接着性などの面から、フェノール樹脂、レゾルシノール系などの接着剤であることが好ましい。
【0034】
また本発明の接合構造体に用いられる木質部材としては、単一木材および集成材を使用することが好ましい。また従来用いられている木材であれば特に限定されるものではなく、スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツ、ベイマツ、トウヒ等の建築物に用いられる公知の木材やナラ、キリ、ケヤキ、カエデ、トチ、ホオ、サクラ、チーク、ラワン、スピナールなどの合板などに用いられる公知の木材が使用できる。
【0035】
本発明の接合構造体は、上記のようなL字型プレートを有する接合金物を用いて木質材料からなる複数の木質部材を接合するものであり、そのL字型プレートと木質部材の間に繊維補強樹脂シートを配置することにより、有効に接合構造体の強度を確保する発明なのである。
【実施例】
【0036】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。なお、繊維補強樹脂シートの圧縮強度は下記の方法により測定した。
【0037】
(繊維補強樹脂シートの圧縮強度)
繊維補強樹脂シートを幅10mmm長さ50mmに切り出し、ステンレス製厚さ2mm、幅4mmの圧縮端子を繊維補強樹脂シートの長さ方向に直行する向きで上から置き、圧縮速度0.5mm/分で圧縮し、試料が破壊された時の最大荷重(N)を測定した。各材料の圧縮強度は繊維補強樹脂シートの厚さあたりの荷重(N/mm)で示した。
【0038】
[実施例1]
接合構造体に用いる木質材料としては、幅30mm×梁成150mmの断面でかつ長さ300mmの梁部材1本と柱部材2本を用いた。梁、柱共に樹種はスギ(E65−F225)を用いた。梁部材の下面に、梁部材の木質繊維方向と平行に引き揃えられた炭素繊維(UDシート)によって補強された繊維補強樹脂シートを接着した。繊維補強樹脂シートは梁部材の幅方向中心部に6mmの幅を開けて2か所に分断して接着した。
【0039】
繊維補強樹脂シート中の炭素繊維としては太さ7μm、引張強度4200MPa、引張弾性率240GPa、の東邦テナックス株式会社製の炭素繊維を用いた。繊維補強樹脂シートのマトリックス樹脂としてはフェノール樹脂を用いた。そして炭素繊維の量は60vоl%、含浸樹脂の量は40vоl%であった。この繊維補強樹脂シートの目付は1.5kg/m、厚さは1mmであり、繊維補強樹脂シートの圧縮強度は3700N/mmであった。
【0040】
そして木材と繊維補強樹脂シートとの接着には、フェノール樹脂含浸紙(目付300g/m、厚さ0.3mm)を用い、さらにレゾルシノール系接着剤を用いて、繊維樹脂補強シートを梁部材の下面に接着した。繊維補強樹脂シートと木質柱材との接着強度は、7MPaであった。
【0041】
そして梁部材の両端部には、接合用に断面の幅方向中心部に縦方向の2mm幅スリットを入れ、梁部材の下面が柱部材1の下から100mm、上面が柱部材の上から50mmの位置にくるように鉄製接合金物を用いて柱部材の間に梁部材が接合されたH型の接合構造体を作製した。
【0042】
ここで接合金物としては[図1]に例示した一般的なL字型プレートを有する接合金具を用いた。このプレート6の厚さは2mmで、ドリフトピン4およびボルト5の径は6mmのものを用いた。この接合金物をもちいた接合構造体を[図2]に示す。
【0043】
そしてこの接合構造体の梁部材の中心部を上から加圧し、接合部のせん断強度を測定したところ、せん断接合強度(N)は、7600Nであった。
【0044】
[比較例1]
実施例1の接合構造体サンプルにおいて、梁部材の下面に繊維補強樹脂シートを使用しなかったこと以外は実施例1と同様に接合構造体サンプルを作製し、接合部のせん断強度を測定した。せん断接合強度(N)は、6400Nに過ぎなかった。
【符号の説明】
【0045】
11 柱部材と梁部材の間に配置されるプレート
12 梁部材の自重および荷重支持するプレート
13 梁部材の内部に挿入されるプレート
21 柱部材
22 梁部材
23 繊維補強樹脂シート
24 ドリフトピン
25 ボルト
26 L字型プレートを有する接合金具
図1
図2