(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0011】
<携帯電話機の表示部の構成>
図1は、携帯電話機(スマートフォン)MPを表面側から見た平面図である。
図1に示すように、本実施の形態における携帯電話機MPは、略矩形形状をしており、携帯電話機MPの表面側には、画像を表示するための表示部DUが設けられている。例えば、本実施の形態における表示部DUは、有機EL素子を利用した有機EL表示部(有機エレクトロルミネッセンス表示部)である。また、図示はしないが、携帯電話機MPは、表示部DUを駆動する回路部も有している。
【0012】
表示部DUには、複数の画素がアレイ状に配列されており、画像の表示を可能としている。回路部には、必要に応じて種々の回路が形成されている。例えば、回路部は、表示部DUを構成する複数の画素のそれぞれと電気的に接続された駆動回路を含むように構成されており、この駆動回路は、表示部DUを構成する複数の画素を制御することにより、表示部DUにおいて、画像を表示できるように構成されている。
【0013】
次に、
図2は、表示部DUの一部領域である領域RAに形成されているレイアウト構成を模式的に示す平面図である。
図2に示すように、領域RAにおいては、例えば、それぞれx方向に延在する下部電極層ELBがy方向に離間しながら並んで配置されているとともに、それぞれy方向に延在する上部電極層ELAがx方向に離間しながら並んで配置されている。したがって、領域RAにおいては、下部電極層ELBと、上部電極層ELAとが交差するようにレイアウト配置されていることになる。
【0014】
続いて、
図3は、
図2のA−A線で切断した断面図である。
図3に示すように、例えば、可視光に対して透光性を有するガラス基板GS上には、パッシベーション膜PASが形成されている。パッシベーション膜PASは、絶縁材料(絶縁膜)からなり、例えば、酸化シリコン膜からなる。パッシベーション膜PASは、ガラス基板GS上に形成しない場合もあり得るが、形成した方がより望ましい。パッシベーション膜PASは、ガラス基板GSの上面のほぼ全体にわたって形成することができる。
【0015】
パッシベーション膜PASは、ガラス基板GS側から有機EL素子(特に有機層OEL)への水分の浸入を防止する機能を有している。このため、パッシベーション膜PASは、有機EL素子の下側の保護膜として機能することになる。一方、保護膜PFは、有機EL素子の上側の保護膜として機能することになり、上側から有機EL素子(特に有機層OEL)への水分の浸入を防止する機能を有していることになる。
【0016】
ガラス基板GSの上面上には、パッシベーション膜PASを介して、有機EL素子が形成されている。有機EL素子は、下部電極層ELBと有機層OELと上部電極層ELAとからなる。つまり、ガラス基板GS上のパッシベーション膜PAS上には、下部電極層ELBと有機層OELと上部電極層ELAとが、下から順に積層して形成されており、これらの下部電極層ELBと有機層OELと上部電極層ELAとにより、有機EL素子が構成されることになる。
【0017】
下部電極層ELBは、陽極および陰極うちの一方を構成し、上部電極層ELAは、陽極および陰極うちの他方を構成する。すなわち、下部電極層ELBが陽極(陽極層)の場合は、上部電極層ELAは陰極(陰極層)であり、下部電極層ELBが陰極(陰極層)の場合は、上部電極層ELAは陽極(陽極層)である。下部電極層ELBおよび上部電極層ELAは、それぞれ導電膜からなる。
【0018】
下部電極層ELBおよび上部電極層ELAのうちの一方は、反射電極として機能できるように、アルミニウム膜(Al膜)などの金属膜から構成することが望ましい。また、下部電極層ELBおよび上部電極層ELAのうちの他方は、透明電極として機能できるように、ITO(インジウムスズオキサイド)などからなる透明導体膜から構成することが望ましい。ガラス基板GSの下面側から光を取出す、いわゆるボトムエミッション方式を採用する場合は、下部電極層ELBを透明電極とすることができる。一方、ガラス基板GSの上面側から光を取出す、いわゆるトップエミッション方式を採用する場合は、上部電極層ELAを透明電極とすることができる。また、ボトムエミッション方式を採用する場合は、ガラス基板GSとして、可視光に対して透光性を有する透明基板とすることができる。
【0019】
ガラス基板GS上のパッシベーション膜PAS上に下部電極層ELBが形成され、かつ、下部電極層ELB上に有機層OELが形成され、かつ、有機層OEL上に上部電極層ELAが形成されているため、下部電極層ELBと上部電極層ELAとの間には、有機層OELが介在していることになる。
【0020】
有機層OELは、少なくとも有機発光層を含んでいる。有機層OELは、有機発光層以外にも、ホール輸送層、ホール注入層、電子輸送層および電子注入層のうちの任意の層を、必要に応じて更に含むことができる。このため、有機層OELは、例えば、有機発光層の単層構造や、ホール輸送層と有機発光層と電子輸送層との積層構造や、ホール注入層とホール輸送層と有機発光層と電子輸送層と電子注入層との積層構造などから構成される。
【0021】
例えば、
図2に示すように、下部電極層ELBは、例えば、x方向に延在するストライプ状のパターンを構成している。すなわち、下部電極層ELBのそれぞれは、x方向に延在しながら、y方向に所定の間隔で複数配列されている。一方、上部電極層ELAは、例えば、y方向に延在するストライプ状のパターンを構成している。すなわち、上部電極層ELAは、y方向に延在しながら、x方向に所定の間隔で複数配列されている。つまり、下部電極層ELBは、x方向に延在するストライプ状の電極群からなり、上部電極層ELAは、y方向に延在するストライプ状の電極群からなる。ここで、x方向とy方向とは、互いに交差する方向であり、より特定的には、互いに直交する方向である。また、x方向とy方向は、ガラス基板GSの上面に略平行な方向でもある。
【0022】
下部電極層ELBの延在方向はx方向であり、上部電極層ELAの延在方向はy方向であるため、下部電極層ELBと上部電極層ELAとは、平面視において互いに交差している。なお、「平面視」とは、ガラス基板GSの上面に略平行な平面で見た場合を言う。
【0023】
下部電極層ELBと上部電極層ELAとの各交差部においては、下部電極層ELBと上部電極ELAとで有機層OELが上下に挟まれた構造をしている。このことから、下部電極層ELBと上部電極ELAとの各交差部に、下部電極ELBと上部電極ELAと有機層OELとで構成される有機EL素子が形成され、その有機EL素子により画素が形成される。下部電極ELBと上部電極ELAとの間に所定の電圧を印加することにより、下部電極ELBと上部電極ELAとの間に挟まれた有機層OEL中の有機発光層が発光する。
【0024】
なお、有機層OELは、表示部DUの全体にわたって形成することもできるが、下部電極層ELBと同じパターンとして形成することもできる。同様に、有機層OELは、上部電極層ELAと同じパターンとして形成することもできる。いずれにしても、下部電極層ELBと上部電極層ELAとの各交点には、有機層OELが存在している。
【0025】
このように、平面視において、表示部DUでは、平面視において、ガラス基板GS上に画素を構成する有機EL素子がアレイ状に配置されていることになる。
【0026】
なお、ここでは、下部電極層ELBおよび上部電極層ELAがストライプ状のパターンから構成されている場合について説明している。このため、アレイ状に配列した複数の有機EL素子(画素)において、x方向に並んだ有機EL素子同士は、共通の下部電極層ELBを有する。一方、y方向に並んだ有機EL素子同士では、共通の上部電極層ELAを有する。しかしながら、これに限定されず、アレイ状に配列する有機EL素子の構造は、種々変更可能である。
【0027】
例えば、アレイ状に配置された数の有機EL素子が、上部電極層ELAでも下部電極層ELBでも互いにつながっておらず、独立に配置されている場合もあり得る。この場合は、各有機EL素子は、下部電極層と有機層と上部電極層との積層構造を有する孤立パターンから形成され、この孤立した有機EL素子が、アレイ状に複数配置されることになる。この場合、各画素においては、有機EL素子に加えてTFT(薄膜トランジスタ)などのアクティブ素子を設けるとともに、画素同士を配線で接続することができる。
【0028】
ガラス基板GS(パッシベーション膜PAS)の上面上には、有機EL素子を覆うように、したがって下部電極層ELBと有機層OELと上部電極層ELAとを覆うように、保護膜PFが形成されている。表示部DUに有機EL素子がアレイ状に配列している場合は、アレイ状に配列した有機EL素子を覆うように、保護膜PFが形成されている。このため、保護膜PFは、表示部DUの全体に形成されていることが望ましい。また、ガラス基板GSの上面のほぼ全体上にわたって形成されていることが望ましい。有機EL素子を保護膜PFで覆うことにより、有機EL素子への水分の浸入(特に、有機層OELへの水分の浸入)を保護膜によって防止することができる。
【0029】
保護膜PF上には、樹脂膜PIFが形成されている。樹脂膜PIFの材料としては、例えばPET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)などから構成される。樹脂膜PIFは、その形成を省略することもできる。ただし、樹脂膜PIFを形成しない場合よりも、樹脂膜PIFを形成する場合の方が望ましい。樹脂膜PIFは、柔らかいため、樹脂膜PIFを設けることにより、表示部DUを扱いやすくなる。以上のようにして、携帯電話機MPの表示部DUが構成されていることになる。
【0030】
<表示部の製造方法>
次に、表示部DUの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図4は、表示部DUの製造工程の流れを示すフローチャートである。まず、例えば、可視光に対して透光性を有するガラス基板を準備する(S101)。続いて、ガラス基板の上面上に、パッシベーション膜を形成する(S102)。パッシベーション膜は、例えば、スパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法を使用して形成することができる。パッシベーション膜は、絶縁材料からなり、例えば、酸化シリコン膜からなる。特に、CVD法により形成した酸化シリコン膜を、パッシベーション膜として使用することができる。
【0031】
次に、パッシベーション膜上に、下部電極層と、下部電極層上の有機層と、有機層上の上部電極層とからなる有機EL素子を形成する。すなわち、パッシベーション膜上に、下部電極層と有機層と上部電極層とを順に形成する(S103〜S105)。この工程は、例えば、次のようにして行うことができる。
【0032】
すなわち、パッシベーション膜上に下部電極層を形成する(S103)。下部電極層は、例えば、導電膜をパッシベーション膜上に形成した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用して導体膜をパターニングすることにより形成することができる。その後、下部電極層上に有機層を形成する(S104)。有機層は、例えば、マスクを用いた蒸着法(真空蒸着法)により形成することができる。そして、有機層上に上部電極層を形成する(S105)。上部電極層は、例えば、マスクを用いた蒸着法により形成できる。
【0033】
続いて、下部電極層と有機層と上部電極層とからなる有機EL素子を形成した後、上部電極上に保護膜を形成する(S106)。保護膜は、有機EL素子を覆うように形成される。複数の有機EL素子がアレイ状に配列している場合は、これらの複数の有機EL素子が保護膜で覆われることになる。保護膜は、例えば、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜あるいは、酸窒化アルミニウム膜のいずれかの膜から形成される。
【0034】
その後、保護膜上に樹脂膜を形成する(S107)。樹脂膜は、例えばPETからなり、スピンコート法(塗布法)を使用することにより形成することができる。以上のようにして、表示部DUを製造することができる。
【0035】
<表示部と回路部との接続構成>
表示部において画像を表示するためには、表示部を構成する複数の画素(有機EL素子)を駆動制御する必要があり、この有機EL素子を駆動制御する機能が回路部で実現される。したがって、表示部において画像を表示させるため、表示部は、回路部と電気的に接続される必要がある。
【0036】
図5は、表示部DUと回路部CRUとを電気的に接続する構成例を模式的に示す図である。
図5に示すように、表示部DUを構成する画素(有機EL素子)と電気的に接続される電極EL1が表示部DUを囲む額縁領域に形成されており、この額縁領域に形成された電極EL1は、表示部DUを構成する画素(有機EL素子)と電気的に接続されている。そして、この電極EL1は、接続用テープ電極TEに形成されている電極EL2と接続される。さらに、接続用テープ電極TEには、電極EL2とともに、電極EL2と電気的に接続された電極EL3も形成されており、この電極EL3は、回路部CRUと電気的に接続される。したがって、表示部DUは、額縁領域に形成された電極EL1→接続用テープ電極TEに形成された電極EL2→接続用テープ電極TEに形成された電極EL3→回路部CRUの経路で、回路部CRUと電気的に接続される。
【0037】
ここで、表示部DUを囲む額縁領域に形成されている電極EL1上に、接続用テープ電極TEに形成されている電極EL2を重ね合わせるように配置することにより、額縁領域に形成されている電極EL1と接続用テープ電極TEを構成する電極EL2とを電気的に接続する。このことから、電極EL1と電極EL2との電気的な接続を確保するためには、電極EL1を覆うように保護膜が形成されないようにする必要がある。なぜなら、電極EL1を覆うように絶縁膜からなる保護膜が形成されると、電極EL1と接続用テープ電極TEの電極EL2とを電気的に接続することができなくなるからである。
【0038】
したがって、保護膜は、有機EL素子を水分の浸入から保護するために、表示部DUに形成されている画素(有機EL素子)を覆うように形成する必要がある一方で、電極EL1と接続用テープ電極TEの電極EL2との導通を確保するために、電極EL1が形成されている額縁領域には形成しない必要がある。
【0039】
<保護膜を形成する際におけるマスクの必要性>
上述したように、保護膜は、表示部DUに形成されている画素(有機EL素子)を覆うように形成する必要がある一方で、電極EL1が形成されている額縁領域には形成しない必要がある。ここで、
図6に示すように、一枚のガラス基板GSには、表示部DUを形成する領域が複数存在するため、例えば、マスクを使用せずに、有機EL素子を形成したガラス基板GSの主面の全面に保護膜を形成することになると、表示部DUだけでなく、表示部DUを囲む額縁領域にまで保護膜が形成されてしまうことになる。このことは、額縁領域に形成されている電極EL1を覆うように保護膜が形成されてしまうことを意味し、これによって、電極EL1と接続用テープ電極TEの電極EL2との導通を確保することができなくなることになる。したがって、保護膜を形成する際には、マスクが必要となるのである。すなわち、
図6に示すように、表示部DUに対応した開口領域OPRと、額縁領域に対応した被覆領域CVRとを有するマスクMKをガラス基板GSに重ね合わせた状態で、保護膜を形成する。この場合、マスクMKに形成された開口領域OPRから露出するガラス基板GSの領域(表示部DUを形成する領域)に保護膜が形成される一方、マスクMKに形成された被覆領域CVRで覆われるガラス基板GSの領域(額縁領域となる領域)には保護膜が形成されないことになる。このようにして、保護膜を形成する際には、表示部DUに対応した開口領域OPRと、額縁領域に対応した被覆領域CVRとを有するマスクMKを使用する。これにより、表示部DUに形成されている画素(有機EL素子)を覆うように保護膜を形成することができるとともに、電極EL1が形成されている額縁領域には保護膜を形成しないようにすることができる。
【0040】
<保護膜の形成に原子層成長法(ALD法)を使用する理由>
次に、有機EL素子を水分の浸入から保護する保護膜は、例えば、原子層成長法(ALD法)を使用して形成されるが、以下に、この理由について説明する。
【0041】
原子層成長法は、原料ガスと反応ガスとを基板上に交互に供給することにより、基板上に原子層単位で膜を形成する成膜方法である。この原子層成長法は、原子層単位で膜を形成することから、段差被覆性や膜厚制御性に優れているという利点を有している。そして、特に、段差被覆性に優れているという利点によって、原子層成長法によれば、膜厚を薄くしながらも、充分に、有機EL素子を水分の浸入から保護する機能を発揮できる保護膜を形成することができるのである。このことから、有機EL素子を水分の浸入から保護する保護膜の形成には、原子層成長法が使用されるのである。
【0042】
例えば、異物PCLの付着したガラス基板GS上に保護膜PFを形成する場合を考える。ここで、保護膜PFの形成方法として、CVD法を使用することも考えられる。ところが、CVD法による保護膜の形成傾向として、垂直指向性が強い傾向がある。このため、例えば、
図7(a)に示すように、CVD法によって、異物PCLの付着したガラス基板GS上に保護膜PFを形成すると、垂直指向性の強い傾向によって、異物PCLを覆うように保護膜PFが形成されないことになる。この結果、異物PCLの周囲に保護膜PFが形成されないデッドスペースが形成されることになり、このデッドスペースから水分の浸入が生じやすくなる。すなわち、CVD法では、垂直指向性が強い傾向によって、異物PCLが付着しているガラス基板GSを覆うように保護膜PFを形成しようとしても、異物PCLとガラス基板GSとの段差部分に保護膜PFが形成されないデッドスペースが生まれることになり、このデッドスペースから有機EL素子への水分の浸入を許してしまうのである。このため、CVD法で保護膜PFを形成する場合、例えば、
図7(b)に示すように、CVD法で形成する保護膜の膜厚を厚くすることにより、ガラス基板GSに付着した異物PCLを完全に覆うように保護膜PFを形成している。つまり、垂直指向性の強いCVD法で保護膜PFを形成する場合、保護膜PFの膜厚を厚くすることによって、異物PCLとガラス基板GSとの段差部分に保護膜PFが形成されないデッドスペースが生まれることを抑制することになるのである。つまり、ガラス基板GSに異物PCLが付着することを完全に抑制することは困難であるため、ガラス基板GSに異物PCLが付着していることを考慮して、保護膜PFによる有機EL素子への水分の浸入を効果的に防止するためには、保護膜PFの形成にCVD法を使用する場合においては、保護膜PFの膜厚を厚くしなければならなくなるのである。
【0043】
これに対し、保護膜PFの形成方法として、プラズマ原子層成長法を使用する場合を考える。例えば、プラズマ原子層成長装置では、基板を保持する下部電極と、下部電極と対向配置される上部電極との間に、原料ガスと反応ガスとを交互に供給し、かつ、反応ガスを供給する際にプラズマ放電することにより、基板上に原子層単位で膜を形成する。このとき、プラズマ原子層成長装置では、原子層単位で膜を形成することにより、段差被覆性に優れた膜を形成することができる。特に、プラズマ原子層成長装置では、段差被覆性を良好にするため、原料ガスとして拡散しやすい材料が使用されるとともに、それぞれのガス(原料ガスやパージガスや反応ガス)が成膜容器内に充分に拡散するだけの時間を確保しながら、それぞれのガスを交互に供給している。このため、プラズマ原子層成長装置では、微細な隙間においても、原料ガスと反応ガスが反応して膜が形成されることになる。つまり、原子層成長装置では、(1)原子層単位で膜を形成すること、(2)微細な隙間の隅々まで原料ガスや反応ガスが行き渡ること、(3)プラズマ放電が生じていない場所でも原料ガスと反応ガスとが反応しやすいことという特徴を有する結果、微細な隙間にも膜が形成されることになる。
【0044】
この結果、プラズマ原子層成長法では、段差被覆性が優れているという利点が得られることになり、これによって、例えば、
図8に示すように、保護膜PFの膜厚を薄くしても、異物PCLの付着したガラス基板GSを覆うように保護膜PFを形成することができるのである。すなわち、プラズマ原子層成長法は、段差被覆性に優れていることから、異物PCLとガラス基板GSとの段差部分に保護膜PFが形成されないデッドスペースが生じることを防止できる結果、保護膜PFの膜厚を薄くしながらも、有機EL素子への水分の浸入を効果的に抑制することができるのである。つまり、プラズマ原子層成長法で保護膜PFを形成する場合、膜厚を厚くすることなく、有機EL素子への水分の浸入を効果的に抑制することができる保護膜PFを形成することができるのである。
【0045】
以上のように、プラズマ原子層成長法によれば、段差被覆性に優れている利点によって、ガラス基板GSに異物PCLが付着している場合であっても、膜厚を厚くすることなく、水分の浸入防止効果に優れた保護膜PFを形成することができるのである。このことから、有機EL素子への水分の浸入を効果的に保護する保護膜PFは、プラズマ原子層成長法を使用して形成することが望ましいのである。
【0046】
このように、プラズマ原子層成長法によって保護膜PFを形成する場合、保護膜PFの膜厚を薄くすることができるので、例えば、フレキシブル基板に表示部DUを形成する構成にプラズマ原子層成長法によって形成される保護膜PFを適用することも有効である。
【0047】
図9は、表示部DUの基板としてフレキシブル基板1Sを使用し、このフレキシブル基板1Sを折り曲げた場合の状態を模式的に示す図である。
図9には、フレキシブル基板1S上にパッシベーション膜PASが形成され、かつ、パッシベーション膜PAS上に有機EL層OLDLが形成され、かつ、有機EL層OLDL上に保護膜PFが形成され、かつ、保護膜PF上に樹脂膜PIFが形成された表示部DUの折り曲げ状態が図示されている。このように、表示部DUをフレキシブル基板1Sに形成することによって、表示部DUの折り曲げが可能になることがわかる。基板としてフレキシブル基板1Sを使用する場合には、曲げに伴って無機絶縁膜からなる保護膜PFにクラックが生じるリスクがある。このため、無機絶縁膜からなる保護膜PFは、できるだけ薄くすることが望ましい。
【0048】
この点に関し、基板としてフレキシブル基板1Sを使用する場合において、プラズマ原子層成長法を使用して形成された保護膜PFを採用することにより、保護膜PFの膜厚を薄くすることができる。この結果、無機絶縁膜からなる保護膜PFにクラックが形成されることを抑制しながらも、保護膜PFによる水分の侵入を防止する効果を効率的に得ることができる点で、プラズマ原子層成長法を使用して形成された保護膜PFは、有用である。
【0049】
<プラズマ原子層成長法による保護膜の形成方法>
上述したように、保護膜PFの膜厚を薄くしながらも、有機EL素子を水分の浸入から効果的に保護するためには、プラズマ原子層成長法によって、保護膜を形成することが有用である。そこで、以下では、プラズマ原子層成長法による保護膜の形成方法について説明する。
図10は、プラズマ原子層成長法による保護膜の形成方法の流れを説明するフローチャートである。
【0050】
まず、ガラス基板を準備した後、プラズマ原子層成長装置の下部電極(ステージ)上にガラス基板を搭載する。続いて、プラズマ原子層成長装置のガス供給部から成膜容器(処理室)の内部に原料ガスを導入する(S201)。このとき、原料ガスは、例えば、0.1秒間、成膜容器の内部に供給される。これにより、成膜容器内に原料ガスが供給され、かつ、ガラス基板上に原料ガスが吸着して吸着層が形成される。
【0051】
続いて、原料ガスの供給を停止した後、ガス供給部からパージガスを成膜容器(処理室)内に導入する(S202)。これにより、パージガスは、成膜容器の内部に供給される一方、原料ガスは、排気部から成膜容器の外部に排出される。パージガスは、例えば,0.1秒間、成膜容器の内部に供給される。そして、排気部は、例えば、2秒間、成膜容器内の原料ガスやパージガスを排気する。これにより、成膜容器内にパージガスが供給され、かつ、ガラス基板上に吸着していない原料ガスが成膜容器からパージされる。
【0052】
次に、ガス供給部から反応ガスを供給する(S203)。これにより、反応ガスは、成膜容器の内部に供給される。反応ガスは、例えば,1秒間、成膜容器の内部に供給される。この反応ガスを供給する工程において、上部電極と下部電極との間に放電電圧を印加することにより、プラズマ放電を生じさせる(S204)。この結果、反応ガスにラジカル(活性種)が生成される。このようにして、成膜容器内に反応が供給され、かつ、ガラス基板上に吸着している吸着層が反応ガスと化学反応することにより、原子層からなる保護膜が形成されることになる。
【0053】
続いて、反応ガスの供給を停止した後、ガス供給部からパージガスを供給する(S205)。これにより、パージガスは、成膜容器の内部に供給される一方、反応ガスは、排気部から成膜容器の外部に排出される。パージガスは、例えば,0.1秒間、成膜容器の内部に供給される。そして、排気部は、例えば、2秒間、成膜容器内の反応ガスやパージガスを排気する。これにより、成膜容器内にパージガスが供給され、かつ、反応に使用されない余分な反応ガスが成膜容器からパージされる。
【0054】
以上のようにして、ガラス基板上に一層の原子層からなる保護膜が形成される。その後、上述したステップ(S201〜S205)を所定回数繰り返すことにより(S206)、複数の原子層からなる保護膜を形成する。これにより、成膜処理が終了する(S207)。以上のようにして、プラズマ原子層成長法によって、保護膜PFを形成できる。
【0055】
<改善の検討>
以上のことから、有機EL素子を水分の浸入から保護する保護膜は、表示部に対応した開口領域と額縁領域に対応した被覆領域とを有するマスクを使用したプラズマ原子層成長法によって形成することができる。
【0056】
このとき、本発明者の検討によると、表示部に対応した開口領域と額縁領域に対応した被覆領域とを有するマスクを使用したプラズマ原子層成長法によって保護膜を形成する工程においては、改善の余地が存在することを新たに見出した。
【0057】
まず、「<保護膜を形成する際におけるマスクの必要性>」の欄で説明したように、保護膜を形成する際には、マスクMKが必要であり、このマスクMKは、例えば、ガラス基板GSと同程度のサイズである。なぜなら、複数の表示部DUに対応したガラス基板GSの領域全部に対して一度に保護膜を形成する必要があるからであり、かつ、保護膜を形成する際に、すべての額縁領域に保護膜が形成されないように、額縁領域となる領域(複数の表示部DU以外の領域)をすべて被覆する必要があるからである。
【0058】
ここで、近年では、製造効率を向上する観点から、一枚のガラス基板GSから取得できる表示部DUの数を多くするため、ガラス基板GSのサイズは、大きくなってきている。このことは、ガラス基板GSと同程度のサイズのマスクMKのサイズも大型化することを意味する。そして、マスクMKのサイズの大型化は、マスクMKの平坦性を確保することが困難になる状況を生み出すことになる。なぜなら、マスクMKのサイズの大型化によって、マスクMK自体の重量が重くなる結果、マスクMKに撓みが発生しやすくなり、マスクMKの平坦性を確保することが困難となるからである。
【0059】
そして、マスクMKのサイズの増大に伴って、マスクMKの平坦性を確保することが難しくなることから、マスクMKとガラス基板GSとの間に微細な隙間が存在する。このとき、関連技術では、(1)マスクMKとガラス基板GSとの間に微細な隙間が存在することと、(2)保護膜の形成方法がプラズマ原子層成長方法であることに起因して、ガラス基板GSの額縁領域の一部にも保護膜が形成されてしまう。例えば、
図11は、ガラス基板GSとマスクMKとの間に生じた微細な隙間にも保護膜が入り込むように形成されている様子を模式的に示す図である。この場合、マスクMKの下層に存在する額縁領域には、表示部と電気的に接続される電極が形成されており、この電極上に絶縁材料からなる保護膜が形成されてしまうと、電極を介した表示部と回路部との導通を確保することができなくなる。
【0060】
すなわち、保護膜を形成するプラズマ原子層成長方法では、段差被覆性を良好にするため、原料ガスとして拡散しやすい材料が使用されるとともに、それぞれのガス(原料ガスやパージガスや反応ガス)が成膜容器内に充分に拡散するだけの時間を確保しながら、それぞれのガスを交互に供給している。このため、例えば、原料ガスや反応ガスは、基板上だけでなく、成膜容器の隅々まで行き渡ることになる。さらには、プラズマ原子層成長装置においては、反応ガスをプラズマ放電させることにより活性種(ラジカル)を形成して、この活性種と基板に吸着した原料ガスとが反応して膜が形成されるだけでなく、プラズマ放電によって活性種(ラジカル)が生じない状態においても、原料ガスと反応ガスとが反応しやすい傾向がある。したがって、プラズマ原子層成長装置では、プラズマ放電が生じていない微細な隙間においても、原料ガスと反応ガスが反応して膜が形成されることになる。つまり、原子層成長装置では、(1)原子層単位で膜を形成すること、(2)成膜容器の隅々まで原料ガスや反応ガスが行き渡ること、(3)プラズマ放電が生じていない場所でも原料ガスと反応ガスとが反応しやすいことという特徴を有する結果、例えば、マスクMKとガラス基板GSとの間に生じる微細な隙間にも膜が形成されることになる。
【0061】
図12は、関連技術において、マスクエッジからマスク側に入り込む距離と、形成される保護膜の膜厚との関係を示すグラフである。
図12において、横軸は、マスクエッジからマスク側に入り込む距離(mm)を示しており、縦軸は、形成される保護膜の膜厚(nm)を示している。
図12に示すように、マスクエッジからマスク側に入り込んだ位置においても、保護膜が形成されていることがわかる。すなわち、
図11に示す実測結果から、関連技術では、マスクで覆われているはずのガラス基板GSの額縁領域の一部にも保護膜が形成されてしまうことがわかる。ここで、携帯電話機(スマートフォン)においては、できるだけ表示部のサイズを大きくする一方、額縁領域のサイズを小さくすることが望まれている。なぜなら、携帯電話機(スマートフォン)においては、表示部のサイズを確保しながら、携帯電話機の全体サイズを小型化することが望まれているからである。この点に関し、関連技術において、額縁領域のサイズを小さくすると、保護膜の入り込みによって、額縁領域に形成されている電極を覆うように保護膜が形成されてしまう可能性が高くなり、この場合、電極を介した表示部と回路部との導通を確保することができなくなるおそれがある。一方、額縁領域のサイズを大きくして、保護膜の入り込みが生じない奥の領域に電極を形成するように構成すると、額縁領域のサイズが大きくなることに起因して、表示部のサイズを大きくしないにも関わらず、携帯電話機の全体のサイズが大きくなってしまう。したがって、関連技術においては、額縁領域のサイズを小さくしながら、額縁領域に形成されている電極を介した表示部と回路部との電気的な接続信頼性を確保する観点から、改善の余地が存在することがわかる。
【0062】
ここで、額縁領域への保護膜の入り込みは、ガラス基板とマスクとの間に微細な隙間が生じることが主原因であることから、この微細な隙間を無くすことが考えられる。特に、この微細な隙間は、マスクの平坦性の低下に起因することから、マスクを構成するマスク材の選択によって対応することが考えられる。例えば、マスク材を金属(メタル)から構成する場合、保護膜の入り込む距離は3mm程度となる一方、マスク材をセラミックから構成する場合、保護膜の入り込む距離は1mm程度となる。このことから、マスク材を金属からセラミックに変更することにより、額縁領域への保護膜の入り込みを抑制することができると考えられる。ただし、マスクの材料をセラミックに変更したとしても、マスクの平坦性の低下が完全に解決されるものではなく、特に、セラミックからなるマスクにおいても、マスクの大型化に伴って、額縁領域への保護膜の入り込みが拡大することが懸念される。このように、額縁領域への保護膜の入り込みを抑制するために、マスクの材料を変更するという対策は、本質的な対策ではなく、さらなる根本的な対策が必要とされる。
【0063】
すなわち、マスクMKとガラス基板GSとの間に微細な隙間が形成されることを抑制するためには、マスクMKの平坦性を確保することが本質的に重要である。この点に関し、マスクMKの剛性を高めることにより、マスクMKの撓みを抑制して、マスクMKの平坦性を向上させるために、マスクMKの厚さを厚くすることが考えられる。
【0064】
しかしながら、剛性の高いマスクMKでは、完全に平坦なマスクMKを製造することができないと、例えば、
図13に示すように、マスクMKとガラス基板GSとの間に微細な隙間が生じてしまう。つまり、剛性の高いマスクMKでは、完全な平坦性が実現できないと、かえって剛性が高いがゆえに、マスクMKとガラス基板GSとの間に微細な隙間が生じてしまうのである。そして、完全な平坦性を実現するマスクMKを製造することは困難であることを考慮すると、マスクMKの厚さを厚くして、剛性の高いマスクMKを製造する手法では、実際上、マスクMKの平坦性を確保することが困難となると考えられる。
【0065】
一方、マスクMKの厚さを薄くすると、マスクMKの剛性が低くなる。このため、例えば、
図14に示すように、厚さの薄いマスクMKをガラス基板GS上に配置すると、ガラス基板GSの凹凸形状を反映して、凹凸形状を有するガラス基板GS上にマスクMKを配置することができる。すなわち、厚さの薄いマスクMKは、剛性が低い結果、凹凸形状を有するガラス基板GSに馴染み、マスクMKとガラス基板GSとの密着性を向上することができる。このことから、マスクMKとガラス基板GSとの密着性を向上させて、マスクMKとガラス基板GSとの間の微細な隙間の発生を抑制する観点からは、剛性の高い厚いマスクMKよりも、剛性の低い薄いマスクMKの方が望ましい。ところが、例えば、
図15に示すように、薄いマスクMKは、剛性が低い結果、ピンPNで保持することが困難であるという事情が存在する。つまり、薄いマスクMKは、マスクMKとガラス基板GSとの密着性を向上する観点から有用である一方、薄いマスクMKを保持する観点から工夫が必要とされる。
【0066】
この点に関し、まず、薄いマスクMKを確実に保持するために、例えば、
図16(a)に示すように、薄いマスクMKにテンションを掛けて、マスクMKの両端を保持部材100で固定する手法が考えられる。ところが、この手法を採用する場合、
図16(b)に示すように、ガラス基板GSに凹凸形状(うねり形状)が存在すると、薄いマスクMKにテンションが加わっている結果、薄いマスクMKは、ガラス基板GSの凹凸形状に馴染むことはなく、凹凸形状を有するガラス基板GSと薄いマスクMKとの間に微細な隙間が生じることになる。つまり、薄いマスクMKにテンションを掛けて、マスクMKの両端を保持部材100で固定する手法は、マスクMKを保持する観点から有効であるが、ガラス基板GSの凹凸形状に追従するという薄いマスクMKの利点を失う犠牲を払うことになる。したがって、薄いマスクMKにテンションを掛けて、マスクMKの両端を保持部材100で固定する手法では、ガラス基板GSの凹凸形状に馴染むという薄いマスクMKの利点を維持しながら、薄いマスクMKを確実に保持することを実現することは困難である。つまり、マスクMKとガラス基板GSとの密着性を向上することと、マスクMKを確実に保持することとを両立するためには、工夫が必要とされる。
【0067】
そこで、本実施の形態では、マスクMKとガラス基板GSとの密着性を向上することと、マスクMKを確実に保持することとを両立するための工夫を施している。以下に、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明することにする。
【0068】
<マスク保持体の平面構成>
本実施の形態では、マスクを保持するマスク保持体を使用する。以下では、まず、本実施の形態におけるマスク保持体の平面構成について説明し、その後、本実施の形態におけるマスク保持体の断面構成について説明することにする。
【0069】
図17は、本実施の形態におけるマスク保持体MSPの平面構成を示す平面図である。
図17に示すように、本実施の形態におけるマスク保持体MSPは、矩形形状の平面形状をしており、内部に複数の開口部OPUが形成されている。このマスク保持体MSPは、
図6に示すマスクMK上に配置されるように構成されており、特に、マスク保持体MSPの開口部OPUが、
図6に示すマスクMKの開口領域OPR上に位置するように配置されるように構成されている。
【0070】
<マスク保持体の断面構成>
図18は、マスク保持体MSPの断面構成を示す模式図であり、
図17のA−A線で切断した断面図である。
図18に示すように、本実施の形態におけるマスク保持体MSPは、マスクMKを保持可能なように構成されており、マスクMKを吊ることが可能で、かつ、上下に移動可能な吊り部HUと、吊り部HUを支持可能で、かつ、吊り部HUと離間可能な支持部SUとを備えている。
【0071】
具体的に、支持部SUは、表面(上面)と、表面とは反対側の裏面(下面)とを有し、
図18に示すように、この支持部SUには、表面に形成された溝DIT1と、溝DIT1と連通し、かつ、溝DIT1の幅よりも小さい幅を有する溝DIT2と、裏面に形成され、かつ、溝DIT2と連通し、かつ、溝DIT2の幅よりも小さい幅を有する溝DIT3とが形成されている。そして、吊り部HUは、溝DIT2の内部に配置され、かつ、上下方向に移動することができるようになっており、溝DIT2の底面と接触/非接触可能に構成されている。また、支持部SUの裏面は、マスクMKと接触/非接触可能に構成される。さらに、
図18に示すように、支持部SUには、溝DIT1を埋め込むキャップCPが設けられている。そして、吊り部HUは、支持部SUの厚さ方向(上下方向)に移動可能に構成されており、吊り部HUに吊られたマスクMKが、支持部SUの裏面に接触する場合において、吊り部HUの上面とキャップCPの下面との間に隙間が存在するように構成されている。
【0072】
例えば、
図18に示すように、マスクMKは、複数のシャフトと溶接されており、このシャフトの先端部には、ねじ切りが形成されている。そして、複数のシャフトのそれぞれの先端部は、複数の吊り部HUのそれぞれに形成されているネジ穴に挿入されており、これによって、複数のシャフトのそれぞれと、複数の吊り部HUのそれぞれとが接続されている。この結果、マスクMKは、シャフトを介して、吊り部HUに吊られていることになる。このように、吊り部HUは、マスクMKを吊ることができるように構成されていることになる。そして、吊り部HUが配置されている溝DIT2と連通する溝DIT1には、キャップCPが埋め込まれており、このキャップCPは、例えば、ビスによって支持部SUに固定されている。このとき、吊り部HUとキャップCPとの間には、隙間が存在し、吊り部HUが上下方向に移動しても、キャップCPと接触しないサイズで形成されている。つまり、本実施の形態におけるマスク保持体MSPは、吊り部HUが上方向に移動することによって、吊り部HUで吊られているマスクMKが支持部SUに接触する場合であっても、吊り部HUとキャップCPとの間には隙間が存在するように構成されていることになる。
【0073】
ここで、
図18に示すように、支持部SUの厚さは、吊り部HUの厚さに比べて、遥かに厚くなっており、支持部SUの質量は、吊り部HUの質量よりも大きくなっている。また、マスクMKは、剛性が低くなるように薄くなっており、例えば、マスクMKの厚さは、1mmよりも小さくなっている。
【0074】
<マスク保持体による基板上へのマスクの配置動作>
本実施の形態におけるマスク保持体MSPは、上記のように構成されており、以下に、本実施の形態におけるマスク保持体MSPを使用して、基板上にマスクMKを配置する動作について、図面を参照しながら説明することにする。
【0075】
具体的に、基板搭載部を有するプラズマ原子層成長装置を使用して、基板上に成膜処理を実施する方法において、基板搭載部上に搭載されたガラス基板上にマスクMKを配置する工程に、本実施の形態におけるマスク保持体MSPを使用する例について説明する。
【0076】
特に、画像を表示する表示部を有する電子装置の製造方法において、マスク保持体MSPによってマスクMKをガラス基板上に配置する動作について説明する。詳細には、基板搭載部上に基板を配置する工程と、マスク保持体MSPによってマスクMKをガラス基板上に配置する工程と、ガラス基板の上方に原料ガスを供給する工程と、ガラス基板の上方に反応ガスを供給する工程と、ガラス基板の上方にプラズマを発生させる工程とを備える成膜方法において、マスク保持体MSPによってマスクMKをガラス基板上に配置する動作について説明する。
【0077】
まず、
図19に示すように、マスク保持体MSPは、ピンPNによって、ステージ(基板搭載部)ST上に配置されたガラス基板GSの上方に位置するように支持されている。このとき、マスク保持体MSPは、マスクMKを吊る吊り部HUと、吊り部HUを支持する支持部SUとを有し、支持部SUの内部に配置された吊り部HUによって、マスクMKは吊られている。つまり、支持部SUに形成されている溝DIT2の底面に吊り部HUを接触させることによって、吊り部HUを支持部SUで支持した状態で、吊り部HUでマスクMKが吊られている。この状態において、マスクMKは、支持部SUの裏面から離れており、マスクMKには、吊り部HUからの引っ張り力が加わることになる。このマスクMKの厚さは、ガラス基板GSの厚さよりも小さくなっている。なお、ガラス基板GSには、アライメントマークAM1が形成されているとともに、マスクMKには、アライメントマークAM2が形成されている。
【0078】
次に、
図20に示すように、ガラス基板GSが搭載されたステージSTを上方向に移動させる。これにより、ガラス基板GSと、マスク保持体MSPで吊られたマスクMKとの間の距離が小さくなる。このように、ガラス基板GSと、マスク保持体MSPで吊られたマスクMKとの間の距離を小さくした状態で、ガラス基板GSとマスクMKとの位置合わせを実施する。具体的には、ガラス基板GSに形成されているアライメントマークAM1と、マスクMKに形成されているアライメントマークAM2とが平面的に一致するように、ガラス基板GSが搭載されたステージSTを水平方向(左右方向)に動かす。
【0079】
なお、ガラス基板GSが搭載されたステージSTを上方向に移動させる替わりに、マスク保持体MSPを支持しているピンPNを下方向に移動させることによって、ガラス基板GSと、マスク保持体MSPで吊られたマスクMKとの間の距離を小さくしてもよい。
【0080】
そして、
図21に示すように、ガラス基板GSとマスクMKとの位置合わせが終了すると、さらに、ステージSTを上昇させて、ガラス基板GSとマスクMKとを接触させる。すなわち、ガラス基板GSとマスクMKとの位置合わせを実施した後、吊り部HUを支持部SUで支持した状態で、吊り部HUによって吊られたマスクMKをガラス基板GS上に接触させる。このとき、マスクMKは、ガラス基板GSによって支持されることになることから、マスクMKに吊り部HUからの引張り力が加わらなくなる。ここで、大面積のマスクMKの厚さは、1mmよりも小さく、剛性が低い結果、ガラス基板GSの表面の凹凸形状に追従するように、マスクMKが変形する。つまり、剛性の低いマスクMKであるため、マスクMKがガラス基板GSの表面に馴染むように配置される。
【0081】
なお、ステージSTを上昇させて、ガラス基板GSとマスクMKとを接触させる替わりに、マスク保持体MSPを支持しているピンPNを下方向に移動させることによって、ガラス基板GSとマスクMKとを接触させるようにしてもよい。
【0082】
続いて、
図22に示すように、ガラス基板GSが搭載されたステージSTを上昇させる。これにより、マスクMKをガラス基板GS上に接触させた状態を維持しながら、吊り部HUを支持部SUから離間する。この結果、吊り部HU(シャフトを含む)の質量に基づく重力がマスクMKに加わるため、マスクMKには、吊り部HUからの押し付け力が加わることになる。したがって、この押し付け力によって、さらに、ガラス基板GSとマスクMKとの密着性が向上することになる。
【0083】
なお、ガラス基板GSが搭載されたステージSTを上昇させる替わりに、マスク保持体MSPを支持しているピンPNを下方向に移動させることによって、マスクMKをガラス基板GS上に接触させた状態を維持しながら、吊り部HUを支持部SUから離間するようにしてもよい。
【0084】
次に、
図23に示すように、さらにステージSTを上昇させることにより、マスクMKをマスク保持体MSPの裏面に接触させる。なお、さらにステージSTを上昇させる替わりに、マスク保持体MSPを支持しているピンPNを下方向に移動させることによって、マスクMKをマスク保持体MSPの裏面に接触させるようにしてもよい。
【0085】
その後、
図24に示すように、マスク保持体MSPを支持しているピンPNを下降させる。これにより、吊り部HUを支持部SUから離間した状態を維持しながら、支持部SUをマスクMKに接触させる。この結果、支持部SUの質量に基づく重力がマスクMKに加わる。すなわち、この状態では、マスクMKに吊り部HUから押し付け力が加わるとともに、マスクMKに支持部SUからの押し付け力がさらに加わる。したがって、吊り部HUからの押し付け力と支持部SUからの押し付け力との加算によって、さらに、ガラス基板GSとマスクMKとの密着性が向上することになる。特に、支持部SUの質量は、吊り部HUの質量よりも遥かに大きいので、支持部SUからの押し付け力が加わることによって、ガラス基板GSとマスクMKとの密着性の向上効果は大きくなる。
【0086】
以上のようにして、マスク保持体MSPを使用して、ガラス基板GS上にマスクMKを配置する動作が完了することになる。その後、ガラス基板GS上にマスクMKが配置され、かつ、マスクMK上にマスク保持体MSPが配置された状態を維持しながら、プラズマ原子層成長装置によって、ガラス基板GS上への膜の成膜処理が実施される。
【0087】
<実施の形態における特徴>
続いて、本実施の形態における特徴点について説明する。本実施の形態における第1特徴点は、例えば、
図19に示すように、マスク保持体MSPの吊り部HUをマスク保持体MSPの支持部SUで支持した状態で、吊り部HUによってマスクMKを吊りながら、吊り部HUで吊られたマスクMKをガラス基板GSに接触させる点にある。これにより、本実施の形態によれば、ガラス基板GSの凹凸形状に追従して、ガラス基板GSとの密着性を向上できる利点を有する薄くて剛性の低いマスクMKを使用しながらも、吊り部HUでマスクMKを吊る構成によって、ピンで支持することが困難な薄くて剛性の低いマスクMKを確実に支持することができる。つまり、本実施の形態では、マスクMKを吊る吊り部HUと、吊り部HUを支持する支持部SUとを有するマスク保持体MSPを使用して、薄くて剛性の低いマスクMKを支持することにより、ガラス基板GSとマスクMKとの密着性を向上することと、マスクMKの保持容易性を向上することとを両立することができる。この結果、本実施の形態によれば、ガラス基板GSとマスクMKとの密着性を高めて、ガラス基板GSとマスクMKとの間における微細な隙間の発生を抑制することができる。これにより、本実施の形態によれば、微細な隙間にも容易に膜が形成されやすいプラズマ原子層成長法を使用する場合であっても、マスクMKで覆われるガラス基板GSの領域への膜の形成を抑制することができる。したがって、本実施の形態によれば、
図6に示す表示部DUに対応した開口領域OPRと、額縁領域に対応した被覆領域CVRとを有するマスクMKを使用してガラス基板GS上に保護膜を形成する際、表示部DUに形成されている画素(有機EL素子)を覆うように保護膜を形成することができるとともに、電極が形成されている額縁領域には保護膜を形成しないようにすることができる。この結果、本実施の形態によれば、例えば、
図5に示す表示部DUと電気的に接続される電極EL1と、接続用テープ電極TEに形成されている電極EL2との接続信頼性を向上することができる。このことは、最終製品である電子装置に着目した観点からは、表示部DUを含む電子装置の信頼性を向上することができることを意味するとともに、電子装置の製造工程に着目した観点からは、表示部DUを含む電子装置の製造歩留りを向上できることを意味する。したがって、本実施の形態における第1特徴点によれば、電子装置の製造コストを削減しながら、信頼性の高い電子装置を実現することができる。
【0088】
次に、本実施の形態における第2特徴点は、例えば、
図24に示すように、最終的に、マスクMKに対して、マスク保持体MSPの支持部SUを接触させる点にある。これにより、マスク保持体MSPの支持部SUからマスクMKに対して、ガラス基板GSに押し付ける押し付け力を加えることができる。このことは、剛性の低いマスクMKとガラス基板GSとのさらなる密着性の向上を図ることができることを意味し、これによって、マスクMKとガラス基板GSとの間での微細な隙間の発生をさらに低減できる。特に、支持部SUの質量は、吊り部HUの質量よりも大きいので、マスクMKに加わる押し付け力を大きくすることができ、これによって、ガラス基板GSとマスクMKとの間に微細な隙間が発生することを効果的に抑制することができる。
【0089】
さらに、ガラス基板GSとマスクMKとの間に微細な隙間が発生することを効果的に抑制する観点から、マスクMKを磁性体から構成することも有効である。なぜなら、例えば、ステージST内に電磁石を埋め込み、この電磁石に磁性体からなるマスクMKを引き付けることによって、ガラス基板GSへのマスクMKの押し付け力をさらに大きくすることができるからである。さらには、マスクMKだけでなく、マスク保持体MSPの支持部SUも磁性体から構成することも望ましい。なぜなら、この場合、マスク保持体MSPにも電磁石からの磁力が作用する結果、マスク保持体MSPからマスクMKに対して、マスク保持体MSPの質量に基づく押し付け力だけでなく、磁力に基づく押し付け力も加わることになるからである。
【0090】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。