特許第6857529号(P6857529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857529
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20210405BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20210405BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20210405BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20210405BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C08L23/12
   C08L23/08
   C08K7/14
   C08K5/20
   C08L23/26
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-70204(P2017-70204)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172467(P2018-172467A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
(74)【代理人】
【識別番号】100181607
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 史子
(72)【発明者】
【氏名】武智 一義
(72)【発明者】
【氏名】串 聡志
(72)【発明者】
【氏名】木ノ内 智
(72)【発明者】
【氏名】徳原 渡
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−203070(JP,A)
【文献】 特開2013−067789(JP,A)
【文献】 特開2016−124993(JP,A)
【文献】 特開2011−068739(JP,A)
【文献】 特開2010−111784(JP,A)
【文献】 特開2002−275332(JP,A)
【文献】 特開2003−221478(JP,A)
【文献】 特表2003−522222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)を含み、(A)〜(C)の含有量の合計を100質量部としたとき、(A)の含有量が45〜85質量部、(B)の含有量が5〜25質量部、(C)の含有量が10〜30質量部、(D)の含有量が0.01〜1.0質量部、(E)の含有量が0.1〜3質量部であるプロピレン系樹脂組成物であって、
(A)ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度230℃の条件で測定したメルトフローレートが5〜100g/10分であり、エチレン由来の構造単位の全構造単位に対する含有比率が1.3質量%を超えない、Mw/Mnが1.8〜3.5であるプロピレン単独重合体、
(B)エチレンと炭素原子数3〜10のα−オレフィンから選ばれる1種以上のα−オレフィンとの共重合体であって、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度190℃の条件で測定したメルトフローレートが0.1〜30g/10分である、エチレン−α−オレフィン共重合体
(C)平均繊維長が0.1〜2mmである繊維状フィラー
(D)滑剤
(E)変性ポリプロピレン
プロピレン系樹脂組成物全体の、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度230℃の条件で測定したメルトフローレートが10g/10分以上70g/10分以下である
ことを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
(B)エチレン−α−オレフィン共重合体中、共重合体の全構造単位に対するα−オレフィン由来の構造単位の含有比率が5〜60mol%である請求項に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
(C)繊維状フィラーが、ガラス繊維フィラーである請求項1または2に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
(B)エチレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィン由来の構造単位が、プロピレン、1−ブテン、1−へキセンおよび1−オクテン由来の構造単位から選ばれる1種以上である請求項1〜のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
(D)滑剤が、エルカ酸アミドである請求項1〜のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
(E)酸変性ポリプロピレンが、無水脂肪酸変性ポリプロピレンである請求項1〜5のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
(E)変性ポリプロピレンが、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは無水フタル酸変性ポリプロピレンである請求項1〜のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
(C)繊維状フィラーの平均繊維径が1〜25μmである請求項1〜7のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
シボ模様付き成形体の形成用である請求項1〜8のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物から形成される成形体。
【請求項11】
シボ模様付きである請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物から形成される自動車内外装部品。
【請求項13】
シボ模様付きである請求項12に記載の自動車内外装部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性および耐傷付き性に優れたシボ模様付き成形品を製造しうるプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより得られる成形体は、その優れた機械物性、成形性、経済性により、自動車部品や家電部品など種々の分野で利用されている。
【0003】
自動車部品分野では、ポリプロピレンを単体で用いるほか、ポリプロピレンにエチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−ブテン共重合体(EBR)、エチレン−オクテン共重合体(EOR)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリスチレン−エチレン/ブテン−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)等のゴム成分を添加して衝撃性を改善した材料(特許文献1,2参照)、タルク、マイカ、ガラス繊維等の無機充填剤を添加し剛性を改善した材料、またゴム成分、無機充填剤を共に添加し優れた機械物性を付与したブレンドポリマーが使用されている。
【0004】
一方、ポリプロピレン成形品は、一般に耐傷付き性が低いことが知られている。ポリプロピレン成形品に生じる傷としては、鋭利な先端部によって成形品の表面が削られることにより生じる引っ掻き傷や、幅のある物体や面積の広い物体または柔らかい物体により成形品の表面が圧迫されたり擦られたりすることにより生じるテカリ傷などがある。
【0005】
また、従来より自動車ダッシュボードなどの成形体には高級イメージを出すためにシボ模様を有する塩化ビニル樹脂が用いられており、最近ではポリオレフィン樹脂からなる成形体も用いられ始めている。しかし、自動車全体の高性能化によって自動車の使用可能な期間が延びるとともに、屋外光線がフロントガラス等を通して直接照射されるダッシュボードなどは、表面が長時間の熱履歴に曝されるようになってきた。これによって、ダッシュボード表面のシボ模様がダレたり、テカリを生じてグロスが上昇するなどの課題が顕在化しつつある。なお特許文献3には、機械特性や耐傷つき性に優れた成形品を製造しうるプロピレン系樹脂組成物が開示されているが、高温条件下におけるシボ状態の変化抑制という課題については検討されておらず、かつ分子量分布や成分(A)のエチレン含量などの構成が後述する本願発明とは相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−307015号公報
【特許文献2】特開2006−316103号公報
【特許文献3】国際公開第2015/005239号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、引っ掻き傷やテカリ傷などが生じにくく、さらに機械的特性に優れ、高温条件下であってもシボ状態の変化が少ないシボ模様付き成形品を製造しうるプロピレン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記のプロピレン系樹脂組成物を用いることで、引っ掻き傷やテカリ傷などが生じにくく、さらに機械的特性に優れたシボ模様付き成形品を製造することができ、このプロピレン系樹脂組成物が自動車内外装部品等を製造するのに好適であることを見出し、発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明のプロピレン系樹脂組成物は、
下記(A)〜(E)を含み、(A)〜(C)の含有量の合計を100質量部としたとき、(A)の含有量が45〜85質量部、(B)の含有量が5〜25質量部、(C)の含有量が10〜30質量部、(D)の含有量が0.01〜1.0質量部、(E)の含有量が0.1〜3質量部であるプロピレン系樹脂組成物であって、
(A)ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度230℃の条件で測定したメルトフローレートが5〜100g/10分であり、エチレン由来の構造単位の全構造単位に対する含有比率が1.3質量%を超えない、Mw/Mnが1.8〜3.5であるプロピレン単独重合体、
(B)エチレンと炭素原子数3〜10のα−オレフィンから選ばれる1種以上のα−オレフィンとの共重合体であって、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度190℃の条件で測定したメルトフローレートが0.1〜30g/10分である、エチレン−α−オレフィン共重合体
(C)平均繊維長が0.1〜2mmである繊維状フィラー
(D)滑剤
(E)変性ポリプロピレン
プロピレン系樹脂組成物全体の、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度230℃の条件で測定したメルトフローレートが10g/10分以上70g/10分以下である
ことを特徴とする。
【0011】
本発明において、(B)エチレン−α−オレフィン共重合体中、共重合体の全構造単位に対するα−オレフィン由来の構造単位の含有比率が5〜60mol%であることが好ましい。
【0012】
本発明において、(C)繊維状フィラーがガラス繊維フィラーであることが好ましい。
【0013】
本発明において、(B)エチレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィン由来の構造単位が、プロピレン、1−ブテン、1−へキセンおよび1−オクテン由来の構造単位から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0014】
本発明において、(D)滑剤がエルカ酸アミドであることが好ましい。
【0015】
本発明において、(E)変性ポリプロピレンが無水マレイン酸変性ポリプロピレンであることが好ましい。
【0016】
本発明のプロピレン系樹脂組成物から成形体、例えば自動車内外装部品等を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐傷付き性および機械的特性、特に剛性と耐衝撃性に優れ、かつ高温下で長期間保持しても安定的なシボ模様を維持できる成形品を製造することができるプロピレン系樹脂組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0019】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、下記特徴を有する(A)プロピレン単独重合体、(B)エチレン−α−オレフィン共重合体、(C)繊維状フィラー、(D)滑剤、および(E)変性ポリプロピレンを含んでなる。以下、それぞれの構成成分および任意に含んでいてもよい成分について詳説する。
なお、本発明における成分(A)として利用できる重合体としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体及びプロピレン単独重合体を挙げることができ、これらについて以下に説明するが、本発明においては成分(A)としてプロピレン単独重合体が用いられる。
【0020】
<(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体>
本発明において、成分(A)のうち、プロピレン−エチレンランダム共重合体は、プロピレンとエチレンを共重合して得られる。
【0021】
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体の、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度230℃の条件で測定したメルトフローレートは5〜100g/10分、好ましくは5〜75g/10分、より好ましくは5〜50g/10分である。メルトフローレートが5g/10分より小さいと、成形時の樹脂流動性が悪く、インパネやドアトリム等の大型成形品を成形した際、金型細部まで樹脂が充填されない可能性がある。また、メルトフローレートが100g/10分より大きいと、成形品に十分な衝撃性が発現しない。
【0022】
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体における共重合体の全構造単位に対するエチレン由来の構造単位の含有比率は、1.3質量%を超えない。成分(A)としてプロピレン−エチレンランダム共重合体を用いる場合、エチレン由来の構造単位の含有比率は、好ましくは0.1質量%以上、1.3質量%を超えない、より好ましくは0.1〜1.2質量%である。成分(A)として、共重合体を用いるか単独重合体を用いるかは、成形体性能のどの項目を優先するかによって適宜選定される。すなわち、成形体の機械強度を重視する場合はプロピレン単独重合体が好ましく用いられ、成形体のシボグロスの耐熱性を重視する場合はプロピレン−エチレンランダム共重合体が好ましく用いられる。なお、共重合体中のエチレン由来の構造単位の含有比率は、赤外分光分析法あるいはNMRにて測定することができる。含有比率が1.3質量%以上であると、成形品の耐衝撃性と剛性のバランスが悪化する傾向にあり、また熱履歴後のシボグロスがやや増大する傾向にある。
【0023】
本発明において、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体は、オレフィン重合用触媒を用いて重合されたものである。
【0024】
上記オレフィン重合触媒は、特に限定されないが、(a)特定のフルオレニル骨格を有する配位子を含む周期律表IV属の遷移化合物と、(b)有機アルミニウムオキシ化合物とを含むオレフィン重合用触媒を用いて重合されたものが好ましい。
【0025】
本発明において、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.5〜3.5であり、好ましくは1.6〜3.4、より好ましくは1.8〜3.3である。この分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる。具体的には、GPCによるポリプロピレン(PP)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)は、東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)HLC−8321GPC/HT型を用い以下のようにして測定した。
【0026】
分離カラムは、TSKgel GMH6−HTとTSKgel GMH6−HTLを直列で4本繋ぎ、カラムサイズはそれぞれ内径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相には、濃度0.25g/kgで酸化防止剤BHT(和光純薬工業製)を含むo−ジクロロベンゼン(和光純薬工業製)を用い、1.0mL/分で移動させ、典型的な試料濃度は1.5mg/mLとし、試料注入量は400Lとし、検出器として示差屈折計を用いた。カラム較正は、東ソー社製の分子量500から2060万の範囲の標準ポリスチレンを用い、ポリスチレン(PS)分子量の常用対数値と保持時間の関係を多項式で近似し、多項式よりPS換算分子量を決定し、汎用較正の概念と組み合わせて、PE換算分子量およびPP換算分子量を決定した。
【0027】
なお、汎用較正の概念は、Z. Grubisicらが提唱(J. Polym. Sci., Part B, 5, 753 (1967))し、今日では、分子量計算に広く用いられる概念であり、換算に必要なPS、PE、PPのMark-Houwink係数は、それぞれ文献(J. Polym. Sci., Part A-2, 8, 1803 (1970), Eur. Polym. J., 7, 1537 (1971), Makromol. Chem., 177, 213 (1976))に記載された以下の値を用いた。
PSの係数: Kps=1.38×10−4,ps=0.70
PPの係数: Kpp=2.42×10−4,pp=0.707
【0028】
本発明において、成分(A)としてプロピレン−エチレンランダム共重合体を用いる場合は、プロピレン単独重合体を用いる場合に比べて、弾性回復性や柔軟性が高いため、当該重合体を含む成形品が外部からの力により傷ついても、その傷がある程度修復され目立たなくなる傾向にある。
【0029】
<(B)エチレン−α−オレフィン共重合体>
本発明において、(B)エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンと、炭素原子数3〜10のα−オレフィンから選ばれる1種以上のα−オレフィンとを共重合して得られる。α−オレフィンは、好ましくはプロピレン、1−ブテン、1−へキセン、1−オクテンから選ばれ、α−オレフィンは1種単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。これらのモノマーを用いるのが、弾性回復性、柔軟性および耐傷付き性の点から特に好ましい。
【0030】
(B)エチレン・α−オレフィン共重合体の、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度190℃の条件で測定したメルトフローレートは0.1〜30g/10分、好ましくは1〜20g/10分、より好ましくは1〜10g/10分である。メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合、樹脂流動性の低下や混練時の分散不良が起こり易く、成形品の耐衝撃性等の物性の低下や成形品表面外観の悪化に繋がる。一方、30g/10分を超えると成形品に十分な耐衝撃性が得られず、また成形品シボ表面の熱履歴後の光沢性上昇に繋がるので好ましくない。
【0031】
(B)エチレン−α−オレフィン共重合体における、共重合体の全構造単位に対するα−オレフィン由来の構造単位の含有比率は、好ましくは5〜60mol%、より好ましくは7〜50mol%、特に好ましくは10〜45mol%である。
【0032】
(B)エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体が好ましい。
【0033】
<(C)繊維状フィラー>
本発明において、(C)繊維状フィラーとしては、例えば、カーボンファイバー(炭素繊維)、カーボンナノチューブ、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、各種金属繊維、綿、セルロース類、絹、羊毛および麻などの天然繊維、レーヨンおよびキュプラなどの再生繊維、アセテートおよびプロミックスなどの半合成繊維、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミドおよびポリオレフィンなどの合成繊維、さらにはそれらの表面および末端を化学修飾した変性繊維などが挙げられる。
【0034】
これらのなかで、ナノセルロース、TEMPO酸化ナノセルロースなどのセルロース類;ガラス繊維;カーボンファイバー;シングルウオールカーボンナノチューブ、マルチウオールカーボンナノチューブなどのカーボンナノチューブが、本発明の樹脂組成物、および樹脂組成物からなる成形体において、成形外観、物性バランス、寸法安定性の付与(線膨張係数の低減化など)、寸法や物性などに要求される多様な性能への対応性などの点から好ましい。
【0035】
さらに、これらの中でガラス繊維、カーボンファイバーおよびセルロースが、汎用性があり入手性も優れ、価格も安価であるので、最も好適に使用される。
【0036】
本発明のプロピレン系樹脂組成物中に含まれる(C)繊維状フィラーの平均繊維長は0.1〜2mmであり、好ましくは0.3〜1.5mm、より好ましくは0.4〜1.3mmである。
【0037】
(C)繊維状フィラーの平均繊維長は、プロピレン系樹脂組成物中に含まれた状態における繊維状フィラーの数値であるが、組成物に含有させる前の繊維状フィラーとしては、平均繊維長が約0.1〜10mm程度のものを例示できる。組成物の調製前にこれらのサイズを有する繊維状フィラーは、後述するプロピレン系樹脂組成物の調製中に割れることで、上記範囲内のサイズとなる。また、組成物に含有させる前の繊維状フィラーの平均繊維径は一般的に用いられる繊維状フィラーの繊維径であれば制限ないが、通常1〜25μmであり、好ましくは5〜17μm、より好ましくは8〜15μmである。また、組成物中の繊維状フィラーの平均繊維径は組成物に含有させる前の平均繊維径とほぼ同等である。
【0038】
(C)繊維状フィラーの平均繊維長は、次のように測定することができる。サンプルを電気炉に600℃で3時間処理して、灰化させ、灰化物を画像処理器(例えば、LUZEX(登録商標)−AP、ニレコ社製)にて画像処理することによって繊維の長さを計算し、その長さから算出される重量平均繊維長を平均繊維長とする。
【0039】
(C)繊維状フィラーを供給するための原料の形態は、短繊維状、長繊維状、クロス状、紙のように抄造で固められたシート状、圧縮魂状、顆粒状など、各種処理を行った形態のものを用いてもよい。特に短繊維状、長繊維状、クロス状、抄造のシート状がハンドリングしやすくまた材料としての性能も上がりやすいので好適に用いられる。また一般にクロス状もしくは抄造のシート状のものは、繊維同士の結合が期待できるので材料の強度の向上にきわめて有効であることから好ましい。
【0040】
(C)繊維状フィラーとしては、結晶性樹脂である(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体との接着性あるいは樹脂組成物中での分散性を向上させるなどの目的で、各種の有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、またはその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどによって表面処理されたものを用いてもよい。あるいは表面を熱硬化性もしくは熱可塑性のポリマー成分で処理され変性処理されたものでも問題ない。
【0041】
なお、(C)繊維状フィラーは単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
【0042】
<(D)滑剤>
本発明において、(D)滑剤としては、脂肪酸アミド等が挙げられる。脂肪酸アミドの脂肪酸残基としては、炭素数15〜30程度の飽和および不飽和脂肪酸由来の残基が挙げられる。脂肪酸アミドの具体例としては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、パルミチン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ラウリン酸アミド、カプリル酸アミド、カプロン酸アミド、n−オレイルパルミトアミド、n−オレイルエルカアミド、およびそれらの2量体などが挙げられる。これらの滑材は、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体を用いる場合に特有な使用上のベタツキ感を改良する上で好ましく、中でも、エルカ酸アミドが好ましい。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
<(E)変性ポリプロピレン>
本発明において、(E)変性ポリプロピレンは、ポリプロピレンを酸変性することにより得られる。ポリプロピレンの変性方法としては、グラフト変性や共重合化がある。
【0044】
変性に用いる変性剤には不飽和カルボン酸およびその誘導体などがある。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、フタル酸等が挙げられる。また、その誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等がある。例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水フタル酸、アクリル酸メチル、メタクル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、マレイン酸モノエチルエステル、アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、不飽和ジカルボン酸およびその誘導体が好ましく、特に無水マレイン酸および無水フタル酸が好適である。
【0045】
溶融混練過程で酸変性する場合は、ポリプロピレンと不飽和カルボン酸またはその誘導体を、有機過酸化物と共に押出機中で混練することにより、不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト共重合し変性する。
【0046】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、ビス(t−ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等を挙げることができる。
【0047】
本発明は、例えばガラス繊維とプロピレン系樹脂との親和性の改良に有効であり、特に剛性を上げる点で効果的な場合があり、その観点から(E)変性ポリプロピレンとして無水脂肪酸変性ポリプロピレンが好ましく、特に無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0048】
(E)変性ポリプロピレンとして無水マレイン酸変性ポリプロピレンを使用する場合、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの使用量は、プロピレン系樹脂組成物100質量部に対してマレイン酸変性基含有量(M値)が0.5〜5.0質量部、さらには0.8〜2.5質量部となる量であることが好ましい。使用量がこの範囲より低い場合は成形品に対する耐傷付き性改良効果が認められず、高い場合は成形品の機械物性における衝撃強度が低下する場合がある。このM値は、赤外吸収スペクトルによって求める。酸変性樹脂2gを採取し、500mlの沸騰p−キシレンに完全に加熱溶解し、冷却後、1200mlのアセトンに投入し、析出物を濾過、乾燥してポリマー精製物を得る。この精製物を熱プレスにより厚さ20μmのフィルムを作製し、フィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、変性に用いた酸に特有の吸収から、変性に用いた酸の含有量を測定した。なお、変性に用いた酸に特有の吸収は、無水マレイン酸であれば、1780cm-1付近である。
【0049】
(E)変性ポリプロピレンを構成するベースとなるポリプロピレンの、135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]は、通常0.2〜2.0dl/g、より好ましくは0.4〜1.0dl/gである。
【0050】
無水マレイン酸変性ポリプロピレンとしては、具体的には、三井化学社製アドマー(登録商標)、三洋化成工業社製ユーメックス(登録商標)、デュポン社製MZシリーズ、Exxon社製Exxelor(登録商標)、ケムチュラジャパン株式会社製ポリボンドPB3200等の市販品を使用することができる。
【0051】
<その他成分>
本発明のプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、顔料などの他の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。配合する添加剤などの混合順序は任意であり、同時に混合してもよいし、一部成分を混合した後に他の成分を混合するというような多段階の混合方法を採用することもできる。
【0052】
<プロピレン系樹脂組成物>
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、上述した成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)と、必要に応じてその他の添加剤とを配合することにより製造することができる。これらの各成分は、任意の順序で配合することができる。
【0053】
本発明のプロピレン系樹脂組成物では、組成物全体の、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度230℃の条件で測定したメルトフローレートが10g/10分以上70g/10分以下であることが好ましく、特に、10g/10分以上45g/10分以下であることが好ましい。
【0054】
本発明のプロピレン系樹脂組成物中の上記各成分の配合割合は、成分(A)、(B)および(C)の合計を100質量部とした場合に、(A):45〜85質量部、(B)5〜25質量部、(C):10〜30質量部、(D):0.01〜1.0質量部、(E):0.1〜3質量部である。
【0055】
成分(A)の配合量は、好ましくは45〜85質量部、より好ましくは55〜75質量部である。成分(A)の配合量が45質量部未満であると、成形品のテカリ傷等の耐傷付き性が低下する。また、成分(A)の配合量が85質量部より大きいと、成形品の剛性が低下する。
【0056】
成分(B)の配合量は、好ましくは7〜25質量部、より好ましくは8〜23質量部である。成分(B)の配合量が5質量部未満であると、成形品は十分な耐衝撃性が得られない。また、成分(B)の配合量が25質量部より大きい場合、成形品の剛性(引張弾性率)が低下してしまう。
【0057】
成分(C)の配合量は、好ましくは20〜30質量部である。成分(C)の配合量が10質量部未満であると、成形品の剛性(引張弾性率)の低下がみられる。また、成分(C)の配合量が30質量部を超える場合、成形品の表面外観が悪化する可能性があり、また繊維状フィラーであるため、成形品のMD方向とTD方向に収縮率の異方性が出易くなり、成形品の反り等が発生する可能性がある。
【0058】
成分(D)の配合量は、好ましくは0.05〜0.7質量部、より好ましくは0.1〜0.5質量部である。成分(D)の配合量が、0.01質量部未満であると、成形品に十分な耐傷付き性能が得られないことがある。また、成分(D)の配合量が1.0質量部より大きい場合、フォギング性が悪化してしまう可能性がある。
【0059】
成分(E)の配合量として好ましくは0.5〜2質量部、より好ましくは0.5〜1.5質量部である。成分(E)の配合量が、0.1質量部未満であると、繊維状フィラーの分散性が低下し、成形品の衝撃性や剛性などの機械物性に悪影響を与えることがある。また、成分(E)の配合量が3質量部より大きい場合、成形品の衝撃性が低下する。
【0060】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体を必須の構成成分として含む。成分(A)は比較的柔軟な材料であるため、当該重合体を含む成形品は、他の物体によって傷を付けても弾性回復するので、成形品基材表面の変化が少ないことを確認している。この特徴により、耐傷付き性が良好になると考えている。
【0061】
また、成分(A)は結晶化温度が低い材料であるため、成形品表面にシボ形状を形成する場合に、形状が十分転写するまで組成物が固化しないので、シボ転写性が良好になり、成形品表面のグロスが低下し、テカリ傷を抑えることが可能になると考えられる。
【0062】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、成分(A)に加えて、(C)繊維状フィラーを含むことにより、成分(A)の柔軟性を補い、剛性と耐衝撃性のバランスに優れた材料に仕上がる。
【0063】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、前記成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の各成分と、必要に応じて配合するその他の添加剤とを、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機などの混合装置により混合または溶融混練することにより得ることができる。
【0064】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、特に射出成形に好適に用いられる。本発明のプロピレン系樹脂組成物を射出成形して得られる成形品は、優れた機械的特性及び引っ掻き傷やテカリ傷などの傷に対する耐性を有するとともに、高温下で長期間保持しても安定的なシボ模様を維持できる。
【0065】
このような本発明のプロピレン系樹脂組成物は、自動車内外装部品などの種々の分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
各成分および本発明のプロピレン系樹脂組成物の特性の測定、並びに本発明のプロピレン系樹脂組成物および成形品の評価は、以下のようにして行った。
【0068】
(1)メルトフローレートの測定
メルトフローレートは、ASTM D1238に準拠し、試験荷重2.16kg、試験温度230℃[成分(A)および樹脂組成物全体]または190℃[成分(B)]の条件で測定した。
【0069】
(2)変性基含有量の測定
酸変性樹脂2gを採取し、500mlの沸騰p−キシレンに完全に加熱溶解した。冷却後、1200mlのアセトンに投入し、析出物を濾過、乾燥してポリマー精製物を得た。ポリマー精製物を熱プレスして厚さ20μmのフィルムを作製した。この作製したフィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、変性に用いた酸の特有の吸収から、変性に用いた酸の含有量を測定した。尚、変性に用いた酸の特有の吸収は、無水マレイン酸であれば、1780cm-1付近である。
(3)分子量分布(Mw/Mn)の測定
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)を求めた。
【0070】
(4)常温シャルピー衝撃強度(kJ/m2)の測定
ISO 179に準拠し、ノッチ付、ハンマー容量4Jの条件で常温シャルピー衝撃強度の測定を実施した。
【0071】
(5)引張弾性率の測定
ISO 527に準拠し、引張速度1mm/minの条件で引張弾性率の測定を実施した。
【0072】
(6)シボグロスの測定
キャビティサイズが長さ130mm,幅120mm,厚み2mmtでキャビティ表面を皮シボ(深さ90μm)加工した金型を40℃に設定し、樹脂温度210℃に設定し射出成形して得られた成形品のシボ面をグロスメーター(コニカミノルタ(株)製UNIGLOSS60)により光源照射角度60°でシボグロスを測定した。次いで、前記試験片を、110℃および120℃の恒温槽中で400時間エージングした後の試験片についても同様なシボグロスを測定した。
【0073】
(7)耐テカリ傷性の評価
キャビティサイズが長さ130mm,幅120mm,厚み2mmtでキャビティ表面を皮シボ(深さ90μm)加工した金型を40℃に設定し、樹脂温度210℃に設定し射出成形して得られた成形品のシボ面をFord 5−Finger Test (針先端R:7mm、試験荷重:0.6、2、3、5、7、10、15、20N)の試験を実施した後、Weld−Line−Tester(FW−098 日本電色工業株式会社製)を用いて、傷跡部と未傷跡部のグロス変化率([傷跡部のグロス] /[未傷跡部のグロス])を測定した。グロス変化率が小さいほど耐テカリ傷性が高いと評価される。
【0074】
以下の実施例および比較例において、使用した各成分は、次の通りである。
【0075】
<(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体またはプロピレン単独重合体>
(A−1)プロピレン単独重合体
MFR:60g/10min、分子量分布:2.7
(A−2)プロピレン・エチレンランダム共重合体
MFR:60g/10min、エチレン量由来の構造単位含有量:1.0質量%、分子量分布:2.7
(A−3)プロピレン・エチレンランダム共重合体
MFR:60g/10min、エチレン量由来の構造単位含有量:2.2質量%、分子量分布:2.4
(A−4)プロピレン・エチレンランダム共重合体
MFR:60g/10min、エチレン量由来の構造単位含有量:1.0質量%、分子量分布:6.1
【0076】
<(B)エチレン・α−オレフィン共重合体>
(B−1)エチレン・1−ブテンランダム共重合体(三井化学社製 製品名:A35070、以下の説明では、TF−1と略記する場合がある)
MFR(190℃):35g/10min
(B−2)エチレン・1−ブテンランダム共重合体(三井化学社製 製品名:A4050S、以下の説明では、TF−2と略記する場合がある)
MFR(190℃):3.6g/10min
(B−3)エチレン・1−ブテンランダム共重合体(三井化学社製 製品名:A1050S、以下の説明では、TF−3と略記する場合がある)
MFR(190℃):1.2g/10min
【0077】
<(C)繊維状フィラー>
ガラス繊維フィラー(日本電気硝子工業株式会社製 製品名:T−480,平均繊維長3mm、平均繊維径13μm)
【0078】
<(D)滑剤>
エルカ酸アミド(日本精化製 ニュートロン(登録商標)S)
【0079】
<(E)変性ポリプロピレン>
無水マレイン酸変性ポリプロピレン(ケムチュラジャパン株式会社製 製品名:ポリボンドPB3200)、酸変性基含有量:0.4質量%
【0080】
なお、前記(A−1)〜(A−3)のプロピレン単独重合体又はプロピレン・エチレンランダム共重合体は、本出願人によって出願され国際公開第201/5239号として公開されている明細書に記載された処方を基本として、ジフェニルメチレン(3−t−ブチル−5−メチルシクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリドとメチルアルミノキサンを組み合わせた触媒の存在下で、プロピレンを単独重合させる又はプロピレンとエチレンを共重合させることによって得た重合体である。
【0081】
また、前記(A−4)のプロピレン・エチレンランダム共重合体も、国際公開第201/5239号として公開されている明細書に記載された処方を基本として、塩化マグネシウム担持型TiCl触媒とトリエチルアルミニウムを用いて重合した重合体である。
【0082】
[実施例1、参考例1〜2、比較例1〜4]
表1に配合割合(質量部)を示す各成分と、さらに酸化防止剤として(株)チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製のIRGANOX(登録商標)1010を0.1質量部、同じく酸化防止剤として(株)チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製のIRGAFOS168を0.1質量部、耐光安定剤として(株)ADEKA製のLA−402AFを0.15質量部、耐光安定剤としてBASF製のTinuvin(登録商標)を0.10質量部配合して、ヘンシェルミキサーでドライブレンドし、二軸押出機(ナカタニ機械(株)製NR−II、同方向回転2軸押出機)により、バレル温度(混練温度)210℃、スクリュー回転速度200rpm、押出し量20kg/hの条件で混練および押出しを行い、実施例1、参考例1〜2および比較例1〜4のプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0083】
次いで、各樹脂組成物を用いて、射出成形機にて成形温度200℃、金型温度40℃にてシャルピー衝撃強度および引張弾性率測定用テストピースを成形し、また、成形温度220℃、金型温度40℃にて角板を成形した。得られたテストピースを用いて樹脂物性を、角板を用いて成形体の外観特性を評価した。表1に実施例1、参考例1〜2、比較例1〜の結果をそれぞれ示す。
【0084】
【表1】
【0085】
参考例1と比較例4との対比より、成分(A)のエチレン由来構造単位の含有量が1.3質量%を超えると、熱履歴後のシボグロスが大きくなる、すなわち耐熱シボグロスが悪化することが分かる。
【0086】
参考例1またはと比較例1との対比により、成分(B)のメルトフローレートが30g/10分を超えると、耐熱シボグロスが極端に悪化することも分かる。
【0087】
参考例2と比較例2との対比から、Mw/Mnが1.8〜3.5の範囲にある成分(A)としてのプロピレン−エチレンランダム共重合体を、同一含量のエチレン由来構造単位量を含むMw/Mnが3.5以上のプロピレン−エチレンランダム共重合体に変更することにより耐熱シボグロスが悪化することも分かる。
【0088】
実施例1及び参考例1〜2と比較例3との対比により、ガラス繊維量を最適量用いることで衝撃性と剛性のバランスを最適化していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、インパネ、コンソールボックスなどの自動車内外装部品等、種々の分野のシボ模様付き成形品材料として好適に用いることができる。