特許第6857545号(P6857545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857545
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】カム装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/08 20060101AFI20210405BHJP
   B21D 37/08 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   F16H25/08
   B21D37/08
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-97592(P2017-97592)
(22)【出願日】2017年5月16日
(65)【公開番号】特開2018-194072(P2018-194072A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】桐明 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】店橋 純一
(72)【発明者】
【氏名】安部 哲
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−137026(JP,A)
【文献】 米国特許第5549281(US,A)
【文献】 特開2005−161360(JP,A)
【文献】 実開昭59−30327(JP,U)
【文献】 特公昭48−5337(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/08
B21D 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具取付面に取り付けられた工具を所望方向に移動させるカム装置であって、
前記工具取付面を有するカムスライドと、
前記カムスライドを往復移動自在に保持するホルダと、
前記カムスライドと当接して当該カムスライドを往路方向に移動させるカムドライバと、
前記カムドライバによって往路方向に移動したカムスライドを復路方向に付勢するスプリングと、
往路方向の終端にまで移動した前記カムスライドを復路方向に追加的に付勢する圧縮性液体スプリングと、を備え、
前記圧縮性液体スプリングは、
ピストンロッドと、
前記ピストンロッドが挿入される貫通穴を有する筒状のシリンダと、
前記シリンダ内に充填された圧縮性液体と、
前記ピストンロッドに連結され、前記シリンダ内を軸心方向に往復運動するピストンと、
前記シリンダの外周面に形成されたネジ部と、を有し、
前記ピストンロッドが前記カムスライドの往路方向側の端面から突出するように、前記シリンダの少なくとも一部が当該端面に埋設され、
前記カムスライドが往路方向の終端にまで移動するまでに、前記ピストンロッドが前記カムスライドの往路方向側の端面と対面する位置に配された部材の壁面に当接して、前記ピストンが前記シリンダ内の圧縮性液体を圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動した前記カムスライドを復路方向に追加的に付勢し、
前記カムスライは、
往路方向側の端面に形成され、前記シリンダのネジ部と螺合する装着穴を有する
ことを特徴とするカム装置。
【請求項2】
請求項に記載のカム装置であって、
前記圧縮性液体スプリングは、
前記シリンダの外周面に形成され、軸心に対して対象な一対の平坦面を含むスパナ掛け部を有する
ことを特徴とするカム装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のカム装置であって、
前記スプリングは、コイルスプリングであり、
前記圧縮性液体スプリングは、
前記コイルスプリングの内側に配置され、当該コイルスプリングのスプリングガイドピンとして機能する
ことを特徴とするカム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を所望方向に移動させるカム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工具取付面に取り付けられた工具を所望方向に移動させて金属板等のワークを加工するカム装置が知られている。例えば、特許文献1には、コンパクトで簡単な構造により終圧(加工後にワークから工具を引き抜く圧力、所謂ストリッピングパワー)を大きくすることができるカム装置が開示されている。
【0003】
このカム装置は、カム面および工具取付面を有するカムスライドと、カムスライドを往復移動自在に保持するホルダと、カムスライドのカム面と当接してカムスライドを往路方向に移動させるカムドライバと、カムドライバによって往路方向に移動したカムスライドを復路方向に付勢するコイルスプリングと、往路方向の終端にまで移動したカムスライドを復路方向に追加的に付勢するゴム製の弾性体と、を備えている。
【0004】
このカム装置において、カムドライバは、油圧ラム等の作動によりカムスライドに近づく方向に移動してカムスライドのカム面と当接し、カムスライドをホームポジションから往路方向に移動させる。そして、カムスライドが往路方向の終端にまで移動すると、カムスライドの工具取付面に取り付けられた工具がワークを加工する。この際、コイルスプリングおよび弾性体が圧縮される。
【0005】
ワーク加工後、カムドライバは、油圧ラム等の作動によりカムスライドから離れる方向に移動する。この際、圧縮されたコイルスプリングの反力に圧縮された弾性体の反力が加わって終圧が増大し、カムスライドが復路方向に移動して、カムスライドの工具取付面に取り付けられた工具がワークから引き抜かれる。その後、カムスライドは、コイルスプリングの反力のみにより復路方向に付勢されて、ホームポジションまで移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−137026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のカム装置では、カムスライドの往路方向側の端面とこの端面と対面するホルダの壁面との間にゴム製の弾性体を配置し、カムスライドが往路方向の終端にまで移動するまでに、ゴムが圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動したカムスライドを復路方向に追加的に付勢して終圧を増大させる。しかし、カム装置をコンパクトにするためには、カムスライドが往路方向の終端にまで移動したときのカムスライドの往路方向側の端面とこの端面に対面するホルダの壁面との隙間を小さくする必要があり、したがって、弾性体も小さくする必要があり、このため、つぎのような問題がある。
【0008】
すなわち、弾性体の反力の大きさはゴムの体積に依存する。また、弾性体の反力が追加された状態でのカムスライドの移動距離はゴムの圧縮長に依存する。このため、ワークから工具を引き抜くための終圧が大きい場合、およびワークから工具を引き抜くためのカムスライドの移動距離が長くなる場合に、特許文献1に記載のカム装置では対応できない可能性がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンパクトな構造でより大きな終圧をより長く付与することができるカム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のカム装置では、カムスライドの往路方向側の端面に、ピストンロッドがこの端面から突出するように圧縮性液体スプリングの少なくとも一部を埋設し、カムスライドが往路方向の終端にまで移動するまでに、このピストンロッドがカムスライドの往路方向側の端面と対面する位置に配された部材の壁面に当接して、圧縮性液体スプリング内の圧縮性液体を圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動したカムスライドを復路方向に追加的に付勢している。
【0011】
例えば、本発明は、
工具取付面に取り付けられた工具を所望方向に移動させるカム装置であって、
前記工具取付面を有するカムスライドと、
前記カムスライドを往復移動自在に保持するホルダと、
前記カムスライドと当接して当該カムスライドを往路方向に移動させるカムドライバと、
前記カムドライバによって往路方向に移動したカムスライドを復路方向に付勢するスプリングと、
往路方向の終端にまで移動した前記カムスライドを復路方向に追加的に付勢する圧縮性液体スプリングと、を備え、
前記圧縮性液体スプリングは、
ピストンロッドと、
前記ピストンロッドが挿入される貫通穴を有する筒状のシリンダと、
前記シリンダ内に充填された圧縮性液体と、
前記ピストンロッドと連結され、前記シリンダ内を軸心方向に往復運動するピストンと、
前記シリンダの外周面に形成されたネジ部と、を有し、
前記ピストンロッドが前記カムスライドの往路方向側の端面から突出するように、前記シリンダの少なくとも一部が当該端面に埋設され、
前記カムスライドが往路方向の終端にまで移動するまでに、前記ピストンロッドが前記カムスライドの往路方向側の端面と対面する位置に配された部材の壁面に当接して、前記ピストンが前記シリンダ内の圧縮性液体を圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動した前記カムスライドを復路方向に追加的に付勢し、
前記カムスライダは、
往路方向側の端面に形成され、前記シリンダのネジ部と螺合する装着穴を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、カムスライドの往路方向側の端面に、ピストンロッドがこの端面から突出するように、シリンダ内に圧縮性液体が充填された圧縮性液体スプリングの少なくとも一部を埋設し、カムスライドが往路方向の終端にまで移動するまでに、このピストンロッドがカムスライドの往路方向側の端面と対面する位置に配された部材の壁面に当接して、シリンダ内の圧縮性液体を圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動したカムスライドを復路方向に追加的に付勢している。圧縮性液体はゴムに比べて圧縮率が大きい。また、シリンダの少なくとも一部をカムスライド内に埋設しているので、カムスライドが往路方向の終端にまで移動したときにおけるカムスライドの往路方向側の端面とこの端面と対面する位置に配された部材の壁面との隙間を大きくすることなく、シリンダを大きくして圧縮性液体の充填量を増やすことができる。
【0013】
したがって、本発明によれば、カムスライドの往路方向側の端面とこの端面と対面する位置に配された部材の壁面との間にゴムからなる弾性体を配置し、カムスライドが往路方向の終端にまで移動するまでに、ゴムが圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動したカムスライドを復路方向に追加的に付勢する特許文献1に記載のカム装置に比べて、コンパクトな構造でより大きな終圧をより長く付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(A)、図1(B)および図1(C)は、本発明の一実施の形態に係るカム装置1の左側面図、一部断面正面図および右側面図である。
図2図2(A)、図2(B)および図2(C)は、圧縮性液体スプリング7の上面図、正面図および下面図であり、図2(D)は、図2(A)に示す圧縮性液体スプリング7のA−A断面図である。
図3図3(A)および図3(B)は、カム装置1の往路動作時(加工前)におけるカムスライド2、ホルダ3、およびカムドライバ4の配置関係を示す図である。
図4図4(A)および図4(B)は、カム装置1の復路動作時(加工後)におけるカムスライド2、ホルダ3、およびカムドライバ4の配置関係を示す図である。
図5図5(A)および図5(B)は、本発明の一実施の形態の変形例であるカム装置1Aの正面図および右側面図であり、図5(C)は、図5(B)に示すカム装置1AのB−B断面図である。
図6図6は、図5に示すカム装置1Aのさらなる変形例1A’を説明するための図であり、図5(C)に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1(A)、図1(B)および図1(C)は、本実施の形態に係るカム装置1の左側面図、一部断面正面図および右側面図である。
【0017】
本実施の形態に係るカム装置1は、図示していないパンチ等の工具を所望のH方向に往復移動させるための装置であり、図示するように、工具を保持するカムスライド2と、カムスライド2をH方向に往復移動自在に保持するホルダ3と、カムスライド2と当接してカムスライド2を往路方向(+H方向)に移動させるカムドライバ4と、カムスライド2のH方向の往復移動を案内するガイドバー5と、カムドライバ4によって往路方向に移動したカムスライドを復路方向(−H方向)に付勢するコイルスプリング6と、往路方向の終端にまで移動したカムスライド2を復路方向に追加的に付勢する圧縮性液体スプリング7と、を備えている。
【0018】
カムスライド2は、工具を取り付けるための工具取付面20と、カムドライバ4と接触して滑動するスライドプレート21と、ガイドバー5が挿入される段付貫通穴22と、圧縮性液体スプリング7を装着するための装着穴23と、を有する。
【0019】
工具取付面20は、カムスライド2の往路方向側の端面24に形成され、カムスライド2のH方向の往復移動に伴い、工具取付面20に取り付けられた工具をH方向に往復移動させる。
【0020】
スライドプレート21は、銅合金等の摺動特性の優れた部材で形成され、カムスライド2の上面29に復路方向側が低くなるように傾斜して取り付けられる。これにより、スライドプレート21の表面210はカムスライド2のカム面25を形成する。
【0021】
段付貫通穴22は、往路方向側に位置する大径部220と、復路方向側に位置し、大径部220より小さな内径の小径部221と、を有する。大径部220には、コイルスプリング6が収容される。
【0022】
装着穴23は、カムスライド2の往路方向側の端面24に形成され、内壁にネジ部(不図示)が形成されたネジ穴である。圧縮性液体スプリング7は、装着穴23と螺合することにより、装着穴23に装着される。
【0023】
ホルダ3は、カムスライド2をH方向に往復移動自在に収容する収容部30と、収容部30の前壁(往路方向側の壁面)31に形成され、ガイドバー5を挿入するための段付貫通穴33と、収容部30の後壁(復路方向側の壁面)32に形成され、ガイドバー5をホルダ3に装着するためのU字型の装着部34と、を有する。
【0024】
段付貫通穴33は、往路方向側が復路方向側より大きな内径になっており、これにより、段付貫通穴33に挿入されたガイドバー5のフランジ部50を係止する。
【0025】
装着部34には、段付貫通穴33に挿入されたガイドバー5をホルダ3に固定するためのボルト8と螺合するネジ穴35が形成されている。
【0026】
カムドライバ4は、図示していない油圧ラム等の作動により上下方向(V方向)に移動する。カムドライバ4の下面40には、カムスライド2のカム面25と同じ傾きを有する摺動面41が形成されている。カムドライバ4が下方(−V方向)に移動して摺動面41がカムスライド2のカム面25と摺接することにより、ホルダ3に保持されたカムスライド4が往路方向に移動する。
【0027】
ガイドバー5は、ホルダ3の収容部30に収容されたカムスライド2をH方向に案内する円柱状部材であり、カムスライド2の段付貫通穴22に挿入された状態でホルダ3に取り付けられる。また、ガイドバー5の往路方向側の端部51には、ホルダ3の段付貫通穴33に係止するフランジ部50が形成され、復路方向側の端部52には、ガイドバー5をホルダ3に固定するためのボルト8が挿入されるボルト穴53が形成されている。
【0028】
コイルスプリング6は、ガイドバー5が挿入された状態でカムスライド2の段付貫通穴22の大径部220に収容され、一端がカムスライド2の段付貫通穴22の大径部220の底面(段差面)222と当接し、他端がホルダ3の収容部30の前壁31と当接する。これにより、コイルスプリング6は、カムスライド2を復路方向に付勢する。
【0029】
圧縮性液体スプリング7は、カムスライド2の往路方向側の端面24に形成された装着穴23に装着されており、カムスライド2が往路方向の終端にまで近づくと、ホルダ3の収容部30の前壁31と当接して、カムスライド2を復路方向に追加的に付勢する。
【0030】
図2(A)、図2(B)および図2(C)は、圧縮性液体スプリング7の上面図、正面図および下面図であり、図2(D)は、図2(A)に示す圧縮性液体スプリング7のA−A断面図である。
【0031】
図示するように、圧縮性液体スプリング7は、円筒状のシリンダ70と、シリンダ70内に充填された圧縮性液体71と、シリンダ70内に配置された円柱状のピストン72と、ピストン72に連結されたピストンロッド73と、圧縮性液体71がピストン72を介して外部へ漏れるのを防止するピストンシール74と、シリンダ70に装着された円柱状のキャップ75と、圧縮性液体71がキャップ75から外部へ漏れるのを防止するキャップシール76と、ピストンロッド73に装着されたガイドブッシュ77と、を備えている。
【0032】
圧縮性液体71には、多数の細孔を有する多孔質体を含む液体、流動性を有するオルガノポリシロキサンからなる液体等を利用することができる。ここで、多数の細孔を有する多孔質体としては、シリカゲル、アエロゲル、セラミックス、多孔質ガラス、ゼオライト、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、多孔質ポリスチレン等を用いることができ、このような多孔質体を含む液体には、水、不凍液、あるいは、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリンから選ばれた少なくとも一種以上を含む水溶液等を用いることができる。また、流動性を有するオルガノポリシロキサンとしては、シリコーン生ゴム、シリカ等の充填材が配合されたシリコーン生ゴム、液状シリコーンゴムの架橋度を抑え流動性を持たせたシリコーンゲル等を用いることができる。
【0033】
シリンダ70は、大径部701、中径部702、および小径部703からなる貫通穴700を有する。貫通穴700の大径部701の内周面には、ネジ部704が形成されている。また、貫通穴700の大径部701および中径部702側におけるシリンダ70の外周面には、ネジ部705が形成されており、このネジ部705がカムスライド2の往路方向側の端面24に形成された装着穴23と螺合することにより、圧縮性液体スプリング7は、ピストンロッド73の先端部730をこの端面24から往路方向(+H方向)に突き出すようにして、カムスライド2に装着される。また、貫通穴700の小径部703側におけるシリンダ70の外周面には、軸心Oに対して対象な一対の平面からなるスパナ掛け部706が形成されている。スパナでスパナ掛け部706を把持することにより、圧縮性液体スプリング7をカムスライド2の往路方向側の端面24に形成された装着穴23に容易に螺合させることができる。
【0034】
圧縮性液体71は、シリンダ70の貫通孔700の中径部702に充填される。
【0035】
ピストン72は、シリンダ70の貫通孔700の小径部703より大きな外径を有し、シリンダ70の貫通孔700の中径部702内を軸心O方向に往復運動する。
【0036】
ピストンロッド73は、シリンダ70の貫通孔700の小径部703に挿入されており、その先端部730が外部へ突出している。
【0037】
ピストンシール74は、圧縮性液体71とピストン72との間に配置され、ピストン72とともにシリンダ70の貫通孔700の中径部702内を移動して、圧縮性液体71がピストン72を介して外部へ漏れるのを防止する。
【0038】
キャップ75の外周面には、ネジ部750が形成されており、このネジ部750をシリンダ70の大径部701のネジ部704と螺合させることにより、キャップ75がこの大径部701に装着される。キャップ75の表面には、六角レンチを挿入してキャップ75をシリンダ70の大径部701に螺合させるための六角穴751が形成されている。
【0039】
キャップシール76は、圧縮性液体71とキャップ75との間に位置するように、シリンダ70の貫通孔700の大径部701内に配置され、シリンダ70の貫通孔700の中径部702より大きな外径を有し、圧縮性液体71がキャップ74を介して外部へ漏れるのを防止する。
【0040】
ガイドブッシュ77は、シリンダ70の貫通孔700の小径部703に配置され、ピストンロッド73をスライド可能に保持する。
【0041】
上記構成の圧縮性液体スプリング7は、ピストンロッド73の先端部730がホルダ3の収容部30の前壁31に当接して、ピストンロッド72に連結されたピストン72がシリンダ70の貫通孔700の大径部701側に押し込まれると、シリンダ70の貫通孔700の中径部702に充填された圧縮性液体71が圧縮され、圧縮性液体71の圧力が高まる。この圧力がピストン72に加えられ、反力として、ピストンロッド72を介してホルダ3の収容部30の前壁31に伝わる。
【0042】
つぎに、本実施の形態に係るカム装置1の動作原理を説明する。
【0043】
図3(A)および図3(B)は、カム装置1の往路動作時(加工前)におけるカムスライド2、ホルダ3、およびカムドライバ4の配置関係を示す図である。また、図4(A)および図4(B)は、カム装置1の復路動作時(加工後)におけるカムスライド2、ホルダ3、およびカムドライバ4の配置関係を示す図である。
【0044】
図示していない油圧ラム等の作動によりカムドライバ4が下方(−V方向)に移動すると、図3(A)に示すように、カムドライバ4の摺動面41がカムスライド2のカム面25と当接する。これにより、カムスライド2は、復路方向側の端面26をホルダ3の収容部30の後壁32に当接させたホームポジション(図1(B)参照)からガイドバー5に案内されて往路方向(+H方向)に移動する。この際、コイルスプリング6が圧縮され、その圧縮量に応じた反力R1が生じる。
【0045】
つぎに、カムドライバ4がさらに下方に移動してカムスライド2が往路方向に移動すると、図3(B)に示すように、その分だけコイルスプリング6が圧縮されて反力R1が増大する。また、圧縮性液体スプリング7のピストンロッド73の先端部730がホルダ3の収容部30の前壁31に当接してシリンダ70内の圧縮性液体71が圧縮され、その圧縮量に応じた反力R2が生じる。その後、カムドライバ4が下死点まで下方に移動することにより、カムスライド2が往路方向の終端まで移動し、カムスライド2の工具取付面20に取り付けられた工具がワークを加工する。このとき、カムスライド2には、コイルスプリング6の反力R1と圧縮性液体スプリング7の反力R2との合計による終圧が付与される。
【0046】
さて、ワークの加工が終了し、下死点にまで移動したカムドライバ4が上方(+V方向)への移動を開始すると、図4(A)に示すように、コイルスプリング6の反力R1および圧縮性液体スプリング7の反力R2により、カムスライド2がガイドバー5に案内されて復路方向(−H方向)に押し戻される。これにより、カムスライド2の工具取付面20に取り付けられた工具がワークから引き抜かれる。
【0047】
つぎに、カムドライバ4がさらに上方に移動してカムスライド2が復路方向に移動すると、図4(B)に示すように、圧縮性液体スプリング7のピストンロッド73の先端部730がホルダ3の収容部30の前壁31から離れる。その後は、コイルスプリング6の反力R1のみにより、カムスライド2がガイドバー5に案内されて、ホームポジションに到達するまで復路方向に押し戻される。
【0048】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0049】
本実施の形態では、カムスライド2の往路方向側の端面24に、ピストンロッド73がこの端面24から突出するように、シリンダ70内に圧縮性液体71が充填された圧縮性液体スプリング7を埋設し、カムスライド2が往路方向の終端にまで移動するまでに、このピストンロッド73がカムスライド2の往路方向側の端面24と対面するホルダ3の収容部30の前壁31に当接して、シリンダ70内の圧縮性液体71を圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動したカムスライド2を復路方向に追加的に付勢している。ここで、圧縮性液体71はゴムに比べて圧縮率が大きい。また、シリンダ70をカムスライド2内に埋設しているので、カムスライド2が往路方向の終端にまで移動したときにおけるカムスライド2の往路方向側の端面24とこの端面24と対面するホルダ3の収容部30の前壁31との隙間を大きくすることなく、シリンダ70を大きくして圧縮性液体71の充填量を増やすことができる。
【0050】
したがって、本実施の形態によれば、カムスライド2の往路方向側の端面24とこの端面24と対面するホルダ3の収容部30の前壁31との間にゴムからなる弾性体を配置し、カムスライド2が往路方向の終端にまで移動するまでに、ゴムが圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動したカムスライド2を復路方向に追加的に付勢する従来のカム装置に比べて、コンパクトな構造でより大きな終圧をより長く付与することができる。
【0051】
例えば、カムスライド2の工具取付面20に複数の工具を取り付けてワークを複数加工する場合、複数の加工を同時に行うと、その反力がカム装置1に同時に加わり、カム装置1の加工能力を超える可能性がある。このため、それぞれの加工のタイミングをずらす必要がある。しかし、それぞれの加工のタイミングをずらすと、それだけ長い間、終圧を維持しなければならない。本実施の形態では、大きな終圧をより長く付与することができるため、このような場合に特に有用である。
【0052】
また、本実施の形態では、圧縮性液体スプリング7のシリンダ70の外周面にネジ部705を設けるとともに、カムスライダ2の往路方向側の端面24にシリンダ70のネジ部705と螺合する装着穴23を設けている。したがって、本実施の形態によれば、カムスライド2の往路方向側の端面24に圧縮性液体スプリング7を簡易な構造で埋設することができる。
【0053】
さらに、本実施の形態によれば、圧縮性液体スプリング7のシリンダ70の開口側端部の外周面に、軸心Oに対して対象な一対の平坦面を含むスパナ掛け部706を設けているので、スパナを使って容易に圧縮性液体スプリング7をカムスライド2の往路方向側の端面24に埋設することができる。
【0054】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0055】
例えば、上記の実施の形態では、カムドライバ4によって往路方向に移動したカムスライドを復路方向(−H方向)に付勢するスプリングとして、コイルスプリング6を用いているが、本発明はこれに限定されない。コイルスプリング6の代わりにガススプリング等を用いてもよい。
【0056】
また、上記の実施の形態では、圧縮性液体スプリング7のシリンダ70の外周面にネジ部705を形成し、このネジ部705をカムスライド2の往路方向側の端面24に形成された装着穴23に螺合させることにより、圧縮性液体スプリング7を端面24に取り付けているが、本発明はこれに限定されない。圧縮性液体スプリング7の端面24への取付方法は、どのような方法であってもよい。例えば、圧縮性液体スプリング7のシリンダ70の外周面にフランジを設け、このフランジをカムスライド2の往路方向側の端面24にネジ止めすることにより、圧縮性液体スプリング7を端面24に取り付けてもよい。この場合、圧縮性液体スプリング7が挿入される装着穴23にネジ部を形成しなくてもよい。また、圧縮性液体スプリング7のシリンダ70は、カムスライド2の往路方向側の端面24に形成された装着穴23にすべて埋設されている必要はなく、少なくとも一部が埋設されていればよい。
【0057】
また、上記の実施の形態では、カムスライド2の往路方向(+H方向)側の端面24のうち、ホルダ3の収容部30の前壁31と対面する領域に装着穴23を形成し、この装着穴23に圧縮性液体スプリング7を装着している。しかし、本発明はこれに限定されない。装着穴23は、カムスライド2の往路方向側の端面24のいずれかの領域に形成されていればよい。例えば、工具取付面20に装着穴23を形成し、この装着穴23に圧縮性液体スプリング7を装着してもよい。
【0058】
この場合、カムスライド2が往路方向の終端にまで移動するまでに、このピストンロッド73が工具取付面20と対面するワーク保持部材の壁面に当接して、シリンダ70内の圧縮性液体71を圧縮することにより、往路方向の終端にまで移動したカムスライド2を復路方向に追加的に付勢する。
【0059】
また、上記の実施の形態では、円柱状のガイドバー5を用いて、ホルダ3の収容部30に収容されたカムスライド2の移動を案内しているが、本発明はこれに限定されない。本発明のカム装置は、ホルダがカムスライドを所望の方向に往復移動自在に保持するものであればよい。
【0060】
図5(A)および図5(B)は、上記の実施の形態の変形例であるカム装置1Aの正面図および右側面図であり、図5(C)は、図5(B)に示すカム装置1AのB−B断面図である。ここで、図1に示すカム装置1と同じ機能を有するものには、同じ符号を付している。
【0061】
図示するように、カム装置1Aは、工具を保持するカムスライド2Aと、カムスライド2AをH方向に往復移動自在に保持するホルダ3Aと、カムスライド2と当接してカムスライド2Aを往路方向(+H方向)に移動させるカムドライバ4Aと、カムスライド2Aの往復移動を案内する一対のガイドプレート9と、カムドライバ4Aによって往路方向に移動したカムスライド2Aを復路方向(−H方向)に付勢するコイルスプリング6と、往路方向の終端にまで移動したカムスライド2Aを復路方向に追加的に付勢する圧縮性液体スプリング7と、を備えている。
【0062】
カムスライド2Aは、往路方向側の端面24Aに設けられた工具取付面20と、コイルスプリング6の一方の端部を後述するホルダ3Aの収容部30Aの前壁31Aに当接させた状態でコイルスプリング6を収容する収容穴27と、圧縮性液体スプリング7を装着するための装着穴23と、を有する。
【0063】
ホルダ3Aは、図示していない油圧ラム等の作動により上下方向(V方向)に移動する。ホルダ3Aは、カムスライド2Aを収容する収容部30Aと、ガイドプレート9の移動方向をH方向に規制する一対のガイド溝36と、を有する。収容部30Aは、カムスライド2Aの往路方向側の端面24Aと対面する前壁31Aと、カムスライド2Aの復路方向側の端面26Aと対面する後壁32Aと、を有しており、ガイドプレート9によって案内されるカムスライド2AのH方向の往復移動範囲を、この前壁31Aおよび後壁32Aにより規定している。
【0064】
ガイドプレート9は、ホルダ3Aのガイド溝36に挿入される挿入部90を有し、この挿入部90がホルダ3Aのガイド溝36に挿入された状態で、カムスライド2Aの側面28にボルト等により固定される。これにより、カムスライド2Aは、ホルダ3Aの収容部30A内をH方向に往復移動自在となる。
【0065】
カムドライバ4Aは、カムスライド2Aと当接してカムスライド2Aを往路方向(+H方向)に移動させることにより、カムスライド2Aの工具取付面20をワークの加工方向に移動させる。
【0066】
上記構成を有するカム装置の変形例1Aにおいて、図示していない油圧ラム等の作動によりホルダ3Aが下方(−V方向)に移動すると、カムドライバ4Aがカムスライド2Aと当接する。これにより、カムスライド2Aは、復路方向側の端面26Aをホルダ3Aの収容部30Aの後壁32Aに当接させたホームポジションからガイドプレート9に案内されて往路方向(+H方向)に移動する。この際、コイルスプリング6が圧縮され、その圧縮量に応じた反力が生じる。
【0067】
つぎに、ホルダ3Aがさらに下方に移動してカムスライド2Aが往路方向に移動すると、その分だけコイルスプリング6が圧縮されて反力が増大する。また、圧縮性液体スプリング7がホルダ3Aの収容部30Aの前壁31Aに当接してシリンダ70内の圧縮性液体71が圧縮され、その圧縮量に応じた反力が生じる。その後、ホルダ3Aが下死点まで下方に移動することにより、カムスライド2Aが往路方向の終端まで移動し、カムスライド2Aの工具取付面20に取り付けられた工具がワークを加工する。このとき、カムスライド2Aには、コイルスプリング6の反力と圧縮性液体スプリング7の反力との合計による終圧が付与される。
【0068】
さて、ワークの加工が終了し、下死点にまで移動したホルダ3Aが上方(+V方向)への移動を開始すると、コイルスプリング6の反力および圧縮性液体スプリング7の反力により、カムスライド2Aがガイドプレート9に案内されて復路方向(−H方向)に押し戻される。これにより、カムスライド2Aの工具取付面20に取り付けられた工具がワークから引き抜かれる。
【0069】
つぎに、ホルダ3Aがさらに上方に移動してカムスライド2Aが復路方向に移動すると、圧縮性液体スプリング7がホルダ3Aの収容部30Aの前壁31Aから離れる。その後は、コイルスプリング6の反力のみにより、カムスライド2Aがガイドプレート9に案内されて、ホームポジションに到達するまで復路方向に押し戻される。
【0070】
上記構成を有するカム装置の変形例1Aでは、一対のガイドプレート9によりカムスライド2Aの往復移動を案内しているので、カムスライド2Aの往復移動のために、コイルスプリング6に円柱状のガイドバーを挿入する必要がない。この場合、コイルスプリング6には、コイルスプリング6の伸縮方向を案内するスプリングガイドピンがあればよい。このように、コイルスプリング6に円柱状のガイドバーを挿入する必要がない場合、図6に示す変形例1A’のように、圧縮性液体スプリング7をコイルスプリング6の内側に配置してもよい。このようにすることにより、圧縮性液体スプリング7をスプリングガイドピンとして機能させることができる。
【0071】
本発明のカム装置は、工具取付面に取り付けられた工具によりワークに加工を施す様々な加工装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1、1A:カム装置、 2、2A:カムスライド、 3、3A:ホルダ、 4、4A:カムドライバ、 5:ガイドバー、 6:コイルスプリング、 7:圧縮性液体スプリング、 8:ボルト、 9:ガイドプレート、 20:工具取付面、 21:スライドプレート、 22:段付貫通穴、 23:装着穴、 24、24A:カムスライ2、2Aの往路方向側の端面、 25:カム面、 26、26A:カムスライ2、2Aの復路方向側の端面、 27:カムスライド2Aの収容穴、 28:カムスライド2Aの側面、 29:カムスライド2の上面、 30、30A:収容部、 31、31A:収容部30、30Aの前壁、 32、32A:収容部30、30Aの後壁、 33:段付貫通穴、 34:装着部、 35:ネジ穴、 36:ガイド溝、 40:カムドライバ4の下面、 41:摺動面、 50:フランジ部、 51:ガイドバー5の往路方向側の端部、 52:ガイドバー5の復路方向側の端部、 53:ボルト穴、 70:シリンダ、 71:圧縮性液体、 72:ピストン、 73:ピストンロッド、 74:ピストンシール、 75:キャップ、 76:キャップシール、 77:ガイドブッシュ、 210:スライドプレート21の表面、 220:段付貫通穴22の大径部、 221:段付貫通穴22の小径部221、 222:大径部220の底面、 700:貫通穴、 701:貫通穴700の大径部、 702:貫通穴700の中径部、 703:貫通穴700の小径部、 704:ネジ部、 705:ネジ部、 706:スパナ掛け部、 730:ピストンロッド73の先端部、 750:ネジ部、 751:六角穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6