(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857549
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ブレース
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20210405BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20210405BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20210405BHJP
F16F 9/54 20060101ALI20210405BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20210405BHJP
F16F 9/10 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/02 K
F16F15/02 Z
F16F15/023 Z
F16F9/54
F16F7/12
F16F9/10
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-106487(P2017-106487)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-119389(P2018-119389A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2020年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2017-9245(P2017-9245)
(32)【優先日】2017年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】増子 寛
【審査官】
松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−190599(JP,A)
【文献】
特開2008−121284(JP,A)
【文献】
特開平01−318627(JP,A)
【文献】
特開2002−097816(JP,A)
【文献】
特開平11−303222(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2015−0035086(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 7/12
F16F 9/10
F16F 9/54
F16F 15/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管部材と、
前記管部材内に配置された板部材であって前記管部材に該管部材の軸線に直交する第1の軸線の周りに回転可能に支持された板部材と、
前記板部材に前記第1の軸線と平行な2つの第2の軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結され前記管部材内をその両端に向けてそれぞれ伸びる一対の芯部材であって前記2つの第2の軸線がそれぞれ前記第1の軸線の周りに等しい角度をおいた位置にありかつ前記第1の軸線から等間隔をおいた位置にある一対の芯部材と、
前記板部材の回転に抵抗を与える抵抗付与機構とを備え、
前記第1の軸線及び前記2つの第2の軸線に直交する直線が前記管部材の軸線と非平行であり、また、前記第1の軸線から前記抵抗付与機構の前記板部材に対する連結箇所までの距離が前記第1の軸線から各第2の軸線までの距離より大きい、ブレース。
【請求項2】
前記抵抗付与機構は少なくとも1つの金属ダンパー及び少なくとも1つのオイルダンパーのいずれか一方からなり、
前記少なくとも1つの金属ダンパー及び少なくとも1つのオイルダンパーのいずれか一方は、前記管部材及び前記板部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された一端部及び他端部を有する、請求項1に記載のブレース。
【請求項3】
前記抵抗付与機構は、前記管部材の両端に向けてそれぞれ伸びる一対の金属ダンパー及び一対のオイルダンパーのいずれか一方からなり、
前記一対の金属ダンパー及び一対のオイルダンパーのいずれか一方は、前記管部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された2つの一端部と、前記板部材にその一箇所において前記第1の軸線と平行な軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結された2つの他端部とを有する、請求項2に記載のブレース。
【請求項4】
前記抵抗付与機構は、前記管部材の軸線に関して線対称に配置され前記管部材の両端に向けてそれぞれ伸びる二対の金属ダンパー及び二対のオイルダンパーのいずれか一方からなり、
各対の金属ダンパー及び各対のオイルダンパーのいずれか一方は、前記管部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された2つの一端部と、前記板部材にその一箇所において前記第1の軸線と平行な軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結された2つの他端部を有する、請求項2に記載のブレース。
【請求項5】
前記抵抗付与機構は、前記管部材に取り付けられた容器と、該容器内に収容された粘性流体と、前記粘性流体中を移動可能である粘性抵抗板との少なくとも1つの組み合わせからなり、前記粘性抵抗板は前記板部材に連結されている、請求項1に記載のブレース。
【請求項6】
前記抵抗付与機構は、前記管部材の軸線に関して線対称に配置された一対の前記組み合わせからなる、請求項5に記載のブレース。
【請求項7】
前記管部材は円形の横断面形状を有し、
前記抵抗付与機構は、前記管部材に支持され前記管部材の周囲を該管部材から間隔をおいて取り囲む、前記管部材の軸線の伸長方向への直線運動及び前記管部材の軸線の周りの回転運動が可能である円管と、前記管部材と前記円管との間に封入された粘性流体と、前記板部材に回転が生じるとき、前記板部材の回転運動を前記円管の直線運動及び回転運動に変換する変換手段とからなり、
前記変換手段は、前記管部材に該管部材の直径方向に関して互いに相対して設けられ前記管部材の軸線の伸長方向へ直線的に伸びる一対のスロットと、前記円管に該円管の直径方向に関して互いに相対して設けられ同じ方向へ伸びる一対のスロットであって前記管部材の両スロットに対して斜めにまた立体的に交差する一対のスロットと、前記板部材に設けられた一対の突起であって前記管部材の両スロット及び前記円管の両スロットをそれぞれ貫通する一対の突起とからなる、請求項1に記載のブレース。
【請求項8】
前記円管の両スロットはそれぞれ螺旋状に伸びる、請求項7に記載のブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の補強に用いられるブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物に地震力が作用したときの建物の制振に寄与するブレースが提案されている。このブレースは、比較的扁平な平行四辺形の四辺に沿って配置された4つの芯部材であって互いに平行な軸線の周りに揺動可能に連結された4つの芯部材と、前記平行四辺形の両対角線の一方上に配置されかつ芯部材に枢着されたばね部材とを備える。これによれば、4つの芯部材が互いに揺動して前記平行四辺形の他の一方の対角線の長さが変化するとき、ばね部材が圧縮力又は引張力を受けて伸縮する。これにより、ブレースが設置された建物に地震力が作用したときの建物の振動の減衰が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−228472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、前記従来の技術に鑑み、地震力を受けた建物に対してより一層効果的な制振作用を及ぼすことを可能とするブレースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るブレースは、管部材と、該管部材内に配置された板部材であって前記管部材に該管部材の軸線に直交する第1の軸線の周りに回転可能に支持された板部材と、該板部材に前記第1の軸線と平行な2つの第2の軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結され前記管部材内をその両端に向けてそれぞれ伸びる一対の芯部材であって2つの第2の軸線がそれぞれ前記第1の軸線の周りに等しい角度をおいた位置にありかつ前記第1の軸線から等間隔をおいた位置にある一対の芯部材と、前記板部材に連結された、前記板部材の回転に抵抗を与える抵抗付与機構とを備える。ここにおいて、前記第1の軸線及び2つの第2の軸線に直交する直線が前記管部材の軸線と非平行であり、また、前記第1の軸線から前記抵抗付与機構の前記板部材に対する連結箇所までの距離が前記第1の軸線から各第2の軸線までの距離より大きい。
【0006】
本発明に係るブレースは、例えば、建物の一対の柱及び上下一対の梁により構成され矩形の開口を規定する架構内に前記矩形の対角線に沿って配置され、その管部材内の板部材に連結され前記管部材の長手方向へ伸びる一対の芯部材を介して前記柱及び梁の上下2つの接合部に連結される。本発明に係るブレースによれば、前記建物が地震力を受けて前記架構に変形、すなわち前記矩形の対角線の長さに変化が生じるとき、各芯部材が引張力又は圧縮力からなる軸線方向力を受け、各芯部材の長さが増大し又は減少する。
【0007】
本発明にあっては、前記板部材が前記管部材の軸線に直交する第1の軸線の周りに回転可能に支持され、また、一対の芯部材が前記板部材に第1の軸線と平行な2つの第2の軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結され、2つの芯部材の第2の軸線がそれぞれ前記第1の軸線の周りに等しい角度をおいてかつ前記第1の軸線から等間隔をおいて配置され、また、第1及び第2の軸線はこれらの軸線に直交する直線が前記管部材の軸線と非平行であるように配置されている。このことから、2つの軸線方向力は、前記板部材に対して、互いに平行で大きさが等しく反対向きである偶力として作用し、前記板部材は前記偶力を受けて前記第1の軸線の周りに回転する。このとき、前記抵抗付与機構が前記板部材に対して回転抵抗を与える。その結果、両芯部材の長さの変化、したがって前記架構の変形が抑制され、また、前記地震エネルギの一部が吸収される。
【0008】
さらに、前記板部材の第1の軸線から前記抵抗付与機構の連結箇所までの距離が、前記第1の軸線から各第2の軸線までの距離より大きい。このため、前記板部材に回転が生じるときの前記第1の軸線の周りの前記抵抗付与機構の連結箇所の移動距離は、各芯部材の連結箇所の移動距離よりも大きい。このため、各芯部材に生じた長さの変化は前記抵抗付与機構に対して増幅して伝達される。その結果、各芯部材の変化が微小であっても地震力を受けた建物に対して効果的な制振作用を及ぼすことができる。
【0009】
前記抵抗付与機構は、低降伏点鋼のような少なくとも1つの金属ダンパー及び少なくとも1つのオイルダンパーのいずれか一方からなるものとすることができる。前記少なくとも1つの金属ダンパー及び少なくとも1つのオイルダンパーのいずれか一方は、前記管部材及び前記板部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された一端部及び他端部を有する。これによれば、前記金属ダンパー及び前記オイルダンパーのいずれか一方が前記板部材に回転抵抗を与える働きをなし、このときに生じる前記金属ダンパーの弾性変形又は塑性変形が前記地震エネルギの一部の吸収に寄与する。
【0010】
少なくとも1つの金属ダンパーの一態様として、前記管部材の両端に向けてそれぞれ伸びる一対の金属ダンパーからなるものとすることができる。一対の金属ダンパーは、前記管部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された2つの一端部と、前記板部材にその一箇所において前記第1の軸線と平行な軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結された2つの他端部とを有する。また、少なくとも1つの金属ダンパーの他の態様として、前記管部材の軸線に関して線対称に配置され前記管部材の両端に向けてそれぞれ伸びる二対の金属ダンパーからなるものとすることができる。各対の金属ダンパーは前記管部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された2つの一端部と、前記板部材にその一箇所において前記第1の軸線と平行な軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結された2つの他端部を有する。
【0011】
また、少なくとも1つのオイルダンパーの一態様として、前記管部材の両端に向けてそれぞれ伸びる一対のオイルダンパーからなるものとすることができる。一対のオイルダンパーは、前記管部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された2つの一端部と、前記板部材にその一箇所において前記第1の軸線と平行な軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結された2つの他端部とを有する。また、少なくとも1つのオイルダンパーの他の態様として、前記管部材の軸線に関して線対称に配置され前記管部材の両端に向けてそれぞれ伸びる二対のオイルダンパーからなるものとすることができる。各対のオイルダンパーは、前記管部材に前記第1の軸線と平行な軸線の周りに回転可能にそれぞれ連結された2つの一端部と、前記板部材にその一箇所において前記第1の軸線と平行な軸線の周りにそれぞれ回転可能に連結された2つの他端部を有する。
【0012】
前記抵抗付与機構は、また、前記管部材に取り付けられた容器と、該容器内に収容された粘性流体と、前記粘性流体中を移動可能である粘性抵抗板との少なくとも1つの組み合わせからなり、前記粘性抵抗板は前記板部材に連結されているものとすることができる。これによれば、前記板部材の回転に伴って前記容器内の粘性流体中を移動する粘性抵抗板が前記粘性流体から受ける移動抵抗が前記板部材に回転抵抗を与える働きをなし、また、前記地震エネルギの一部の吸収に寄与する。少なくとも1つの組み合わせは、前記管部材の軸線に関して線対称に配置された一対の記組み合わせからなるものとすることができる。
【0013】
さらに、前記管部材が円形の横断面形状を有し、前記抵抗付与機構が、前記管部材に支持され前記管部材の周囲を該管部材から間隔をおいて取り囲む、前記管部材の軸線の伸長方向への直線運動及び前記管部材の軸線の周りの回転運動が可能である円管と、前記管部材と前記円管との間に封入された粘性流体と、前記板部材に回転が生じるとき、前記板部材の回転運動を前記円管の直線運動及び回転運動に変換する変換手段とからなる。ここにおいて、前記変換手段は、前記管部材に該管部材の直径方向に関して互いに相対して設けられ前記管部材の軸線の伸長方向へ直線的に伸びる一対のスロットと、前記円管に該円管の直径方向に関して互いに相対して設けられ同じ方向へ伸びる一対の例えば螺旋状のスロットであって前記管部材の両スロットに対して斜めにまた立体的に交差する一対のスロットと、前記板部材に設けられた一対の突起であって前記管部材の両スロット及び前記円管の両スロットをそれぞれ貫通する一対の突起とからなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】建物の架構に設置されたブレースの正面図である。
【
図2】
図1に示すブレースの概略的な断面図である。
【
図4】他の例に係るブレースの概略的な横断面図である。
【
図5】さらに他の例に係るブレースの概略的な横断面図である。
【
図6】さらに他の例に係るブレースの概略的な横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係るブレースが全体に符号10で示されている。図上、ブレース10は、建物の補強のために、前記建物の互いに相対する一対の柱14と、両柱14に掛け渡された上下一対の梁16とにより構成された架構12内に設置されている。ブレース10は架構12が規定する矩形の開口18内に前記矩形の対角線に沿って伸びるように配置され、一対のブラケット20を介して架構12に連結されている。ブレース10は、前記建物が地震力を受けて架構12に変形、すなわち前記矩形の対角線の長さに変化が生じるとき、これに抵抗し、架構12の変形を抑制する働きをなす。
【0016】
図2に示すように、ブレース10は、鋼製の管部材22と、鋼製の板部材24と、一対の鋼製の芯部材26と、抵抗付与機構28とを備える。
【0017】
管部材22は半円の横断面形状を有する一対の半割体30(
図3参照)からなる。両半割体30は全体に円管状を呈するように互いに突き合わされている。互いに突き合わされた両半割体30は、これらの長手方向へ伸びる両縁部に沿ってそれぞれ配置されかつ両半割体30に固定された複数対(図示の例では4対)の板状のブラケット32と各対のブラケット32を貫通するボルト及びこれに螺合されたナットからなるボルトナット組立体34とを介して、互いに他の一方に固定されている。図示の例において、管部材22は、その両端22a、22b間の中央部に設けられた、管部材22の直径方向に関して互いに相対する一対のスロット36を有する。両スロット36はそれぞれ両半割体30の突合せ面の一部を切り欠いてなり、管部材22の長手方向へ伸びている。管部材22は、円形の横断面形状を有する図示の例に代えて、例えば矩形の横断面形状を有するものとすることができる。また、図示例に代えて、両半割体30をこれらの両縁部の一方において例えば一対の蝶番(図示せず)を介して両蝶番の軸線の周りに互いに揺動可能であるように結合(ヒンジ結合)し、かつ、両半割体30の両縁部の他の一方において一対のブラケット32及び一対のボルトナット組立体34を介して互いに固定することができる。
【0018】
図示の板部材24は円板からなる。板部材24は管部材22の内部に配置され、管部材22に軸部材38を介して該軸部材の周りに回転可能に支持されている。軸部材38は板部材24の中心部を経て管部材22の直径方向へ伸び、その両端部において管部材22に固定されている。したがって、板部材24は、管部材22の軸線l1に直交する軸部材38の中心線(図示せず)を軸線(第1の軸線)として、前記第1の軸線の周りに回転可能である。板部材24は、図示の例に代えて、長円形、楕円形、多角形等の平面形状を有するものとすることができる。
【0019】
一対の芯部材26はそれぞれ板部材24に連結され管部材22内を該管部材の両端22a、22bに向けて伸びている。図示の各芯部材26は全体に棒状(円柱状)を呈し、コ字形の両端部26a、26bを有する。各芯部材26は、図示の例に代えて、例えば全体に角柱状を呈するものとすることができ、また、前記棒状を呈するものに代えて板状を呈するものとすることができる。
【0020】
両芯部材26は、それぞれ、これらの一端部26aにおいて板部材24に連結されている。より詳細には、両芯部材26のコ字形の一端部26aと、該一端部にそれぞれ受け入れられた板部材24の一部とを経て軸部材38と平行に伸びるピンボルト及びこれに螺合されたナットからなる2つのピンボルトナット組立体40を介して板部材24に連結されている。これによれば、両芯部材26はそれぞれ2つのピンボルトナット組立体40の周りに回転可能である。より正確には、各芯部材26は、ピンボルトナット組立体40の中心線(図示せず)を軸線(第2の軸線)として、前記第2の軸線の周りに回転可能である。他方、両芯部材26の他端部26bはそれぞれ管部材22の両端22a、22bから管部材22の外部に突出している。両芯部材26は、架構12へのブレース10の設置の際、これらの他端部26bを介して両ブラケット20(
図1)にそれぞれ連結される。より詳細には、両芯部材26は、これらのコ字形の他端部26bと該他端部にそれぞれ受け入れられた両ブラケット20の一部とを経て軸部材38と平行に伸びる2つの他のピンボルトナット組立体42(
図1)を介して、ピンボルトナット組立体42の中心線の周りに回転可能であるように両ブラケット20にそれぞれ連結される。符号44は、各芯部材26の他端部26bに設けられた、ピンボルトナット組立体42が通される貫通孔を示す。
【0021】
抵抗付与機構28は、板部材24が前記第1の軸線(軸部材38の中心線)の周りに回転運動をするとき、板部材24に対して回転抵抗を与える機能を有する。
図2に示す抵抗付与機構28は、管部材22の内部に管部材22の軸線l1に関して線対称に配置され該管部材の両端22a、22bに向けてそれぞれ伸びる二対の金属ダンパー46、48からなる。金属ダンパー46、48は、それぞれ、例えば鋼、好ましくは極低降伏点鋼、低降伏点鋼等からなり、全体に板状又は棒状を呈する。
【0022】
図2において上側に位置する一対の金属ダンパー46は、それぞれ、これらの一端部46aにおいて、軸部材38と平行に伸びる2つの他のピンボルトナット組立体50を介して管部材22に連結されている。また、両金属ダンパー46は、軸部材38と平行に伸びる1つの他のピンボルトナット組立体52を介して板部材24にその一箇所において連結されている。同様に、下側に位置する他の一対の金属ダンパー48もまたそれぞれこれらの一端部48aにおいて、軸部材38と平行に伸びる2つの他のピンボルトナット組立体54を介して管部材22に連結され、また、軸部材38と平行に伸びる1つの他のピンボルトナット組立体56を介して板部材24にその一箇所において連結されている。
【0023】
ピンボルトナット組立体50、52、54、56は、それぞれ、軸部材38と平行に伸びていることから、各金属ダンパー46は、各ピンボルトナット組立体50、52の中心線を前記第1の軸線(軸部材38の中心線)と平行な軸線として該軸線の周りに回転可能である。また、同様に、各金属ダンパー48は、各ピンボルトナット組立体54、56の中心線を前記第1の軸線と平行な軸線として該軸線の周りに回転可能である。
【0024】
また、2つのピンボルトナット組立体40は、軸部材38の周りに等しい角度(180°)をおいて、また、軸部材38から等間隔をおいて配置されている。したがって、2つの第2の軸線(ピンボルトナット組立体40の中心線)は前記第1の軸線(軸部材38の中心線)の周りに等角度をおいた位置にあり、2つの第2の軸線はそれぞれ前記第1の軸線から等間隔aをおいた位置にある。加えて、軸部材38と2つのピンボルトナット組立体40、より正確には前記第1の軸線と2つの第2の軸線とに直交する直線l2と管部材22の軸線l1とが非平行である。
【0025】
このことから、前記建物が地震力を受けて架構12に変形が生じ、このためにブレース10の2つの芯部材26がそれぞれ引張力又は圧縮力からなる軸線方向力を受け、両芯部材26の長さが増大し又は減少するとき、2つの前記軸線方向力が板部材24に対して、互いに平行で大きさが等しく反対向きである偶力として作用し、偶力を受けた板部材24は前記第1の軸線(軸部材38の中心線)の周りに回転する。このとき、一対の金属ダンパー46がピンボルトナット組立体50、52の周りに揺動し、同時に、他の一対の金属ダンパー48がピンボルトナット組立体54、56の周りに揺動する。これに伴って、一対の金属ダンパー46がそれぞれこれらの長手方向に引張力及び圧縮力を受け、また、一対の金属ダンパー48がそれぞれこれらの長手方向に引張力及び圧縮力を受ける。これに伴って、二対の金属ダンパー46、48は前記引張力及び圧縮力の大きさに応じた弾性変形又は塑性変形をする。これにより、二対の金属ダンパー46、48は板部材24に回転抵抗を与える。その結果、両芯部材26の長さの変化、したがって架構12の変形が抑制され、また、地震エネルギの一部が吸収される。塑性変形をした二対の金属ダンパー46、48は、地震後、これらを新たなものに取り替えることが可能である。
【0026】
さらに、前記第1の軸線(軸部材38の中心線)から抵抗付与機構28の板部材24に対する連結箇所に位置する各ピンボルトナット組立体52、56の中心線(図示せず)までの距離bが、前記第1の軸線から各第2の軸線までの間隔aより大きい。このことから、板部材24に回転が生じるとき、抵抗付与機構28の前記連結箇所(ピンボルトナット組立体52、56)は、各芯部材26の連結箇所(ピンボルトナット組立体40)よりも前記第1の軸線の周りに大きい距離を移動する。このため、各芯部材26に生じる長さの変化が抵抗付与機構28に対して増幅して伝達される。したがって、各芯部材26の変化が微小であっても地震力を受けた前記建物に対するより効果的な制振作用が得られる。
【0027】
図示の例にあっては、抵抗付与機構28の前記連結箇所(ピンボルトナット組立体52、56)を前記第1の軸線(軸部材38の中心線)からより離れた位置に定め、これにより、より大きい距離bの値を得て前記増幅の程度をより大きいものとすべく、一対のスロット36が管部材22に設けられており、また、板部材24が管部材22の内径より大きい直径、具体的には管部材22の外径にほぼ等しい直径を有するものとされ、かつ、板部材24の直径方向における上下の一部がそれぞれ管部材22の一対のスロット36に受け入れられている。したがって、管部材22の内径より小さい直径を有する板部材24の使用が可能であり、この場合には、管部材22はスロット36を有しないものとすることができる。また、二対の金属ダンパー46、48はそれぞれ管部材22の外部に配置してもよい。このときには、板部材24として例えば
図5に示す形状を有する板部材24を使用し、また、
図5に示す二対のブラケット74及びピンボルトナット組立体50、52、54、56と同様のものを介して、二対の金属ダンパー46、48を板部材24と管部材22とに連結することができる。
【0028】
抵抗付与機構28は、前記した例に代えて、一対の金属ダンパー46のみからなるもの、一対の金属ダンパー48のみからなるもの、一対の金属ダンパー46のいずれか一方のみからなるもの、又は、一対の金属ダンパー48のいずれか一方のみからなるものとすることができる。
【0029】
抵抗付与機構28は、
図1〜
図3に示す例に代えて、例えば
図4に示すものとすることができる。
【0030】
図4に示す抵抗付与機構28は、管部材22の外部に管部材22の軸線l1に関して線対称に、又は管部材の直径方向に関して互いに相対して配置された2つの組み合わせを構成する2つの容器58、60と、両容器58、60内にそれぞれ収容された油や樹脂のような粘性流体62と、粘性流体62中を移動可能である2つの粘性抵抗板64とからなる。両粘性抵抗板64はそれぞれ管部材22の両スロット36を通して板部材24に連結されている。
【0031】
図示の容器58及び容器60は、それぞれ、管部材22の外周面上において両スロット36の両側に配置され該スロットの伸長方向へ伸びる2つの箱体58a及び2つの箱体60aからなり、両箱体58a、60a内に粘性流体62が満たされている。両箱体58a及び両箱体60aは、それぞれ、各箱体58a、60aに固定されたブラケット(図示せず)と該ブラケット及び各半割体30を貫通するボルトナット組立体(図示せず)とを介して、管部材22に着脱可能に取り付けられている。また、図示の粘性抵抗板64は、T形の横断面形状を有する支持板部66と、該支持板部から管部材22の径方向内方に向けて伸びる、互いに相対する一対の壁板部68とからなる。支持板部66は板部材24の周面に溶接により固定されている。また、両壁板部68は、それぞれ、両箱体58a及び両箱体60aにそれぞれ設けられ管部材22の両スロット36の伸長方向へ伸びる2つのスリット69を経て両箱体58a及び両箱体60a内に伸び、これらの内部の粘性流体62に浸かっている。
【0032】
これによれば、板部材24に前記第1の軸線(軸部材38の中心線)の周りの回転運動が生じるとき、板部材24と共に粘性抵抗板64が回転する。このとき、粘性流体62中を移動する壁板部68が粘性抵抗を受け、これによって板部材24が回転抵抗を受ける。その結果、前記した例におけると同様、両芯部材26の長さの変化、したがって架構12の変形が抑制され、また、地震エネルギの一部が吸収される。この例においても、抵抗付与機構28は、容器58並びにこれに関連する粘性流体62及び粘性抵抗板64のみ、あるいは、容器60並びにこれに関連する粘性流体62及び粘性抵抗板64のみからなるものとすることができる。また、抵抗付与機構28の更新を比較的容易に行うことができる。
【0033】
抵抗付与機構28の前記2つの組み合わせを構成する容器58、60と、粘性流体62と、粘性抵抗板64とは、管部材22の内部に配置してもよい。この場合には、板部材24として管部材22の内径より小さい直径を有するものを使用し、容器58、60をそれぞれ管部材22の内周面に固定する。また、粘性抵抗板64として、その両壁板部68が管部材22の径方向外方へ向けて伸びる形状のもの(図示せず)を使用する。粘性抵抗板64は、その支持板部66において板部材24の周面に溶接により固定する。これにより、両壁板部68がそれぞれ各容器の両箱体58a、60a内の粘性流体62に浸かるようにする。また、この場合には、管部材22がスロット36を有しないものとすることができる。
【0034】
抵抗付与機構28は、前記した例に代えて、前記2つの組み合わせのうちの一方の組み合わせを構成する容器58、粘性流体62及び粘性抵抗板64のみからなるもの、又は、前記2つの組み合わせのうちの他の一方の組み合わせを構成する容器60、粘性流体62及び粘性抵抗板64のみからなるものとすることができる。
【0035】
抵抗付与機構28は、また、
図1〜
図3に示す例及び
図4に示す例に代えて、例えば
図5に示すものとすることができる。
【0036】
図5に示す抵抗付与機構28は、管部材22の外部に管部材22の軸線l1に関して線対称に、又は管部材22の直径方向に関して互いに相対して配置され管部材22の長手方向へ伸びる一対のオイルダンパー70及び一対のオイルダンパー72からなる。二対のオイルダンパー70、72は、それぞれ、管部材22と、管部材22の2つスロットを通して管部材22の外部に突出する板部材24の一部(二箇所)24aとにそれぞれ連結された一端部70a、72a及び他端部70b、72bを有する。なお、二対のオイルダンパー70、72は管部材22の内部に配置してもよい。
【0037】
図示の例では、板部材24の一部24aがその直径方向外方へ突出する突起からなる。二対のオイルダンパー70、72は、それぞれ、管部材22の長手方向に互いに間隔をおいて配置されかつ管部材22にその外周面上において固定された板状の二対のブラケット74を介して、また、軸部材38と平行に伸びる3つのピンボルトナット組立体76、78を介してかつこれらのピンボルトナット組立体76、78の中心線の周りに回転可能であるように、管部材22に連結されている。板部材24は、図示の例に代えて、管部材22の外形より大きい直径を有する円板であってその一部が管部材22の両スロット36を経て管部材22の外部に突出する円板からなるものとすることができる。
【0038】
これによれば、板部材24に前記第1の軸線(軸部材38の中心線)の周りの回転運動が生じるとき、一対のオイルダンパー70がそれぞれ引張力及び圧縮力を受け、同時に他の一対のオイルダンパー72がそれぞれ引張力及び圧縮力を受ける。このとき、各オイルダンパー70、72がこれらの引張力及び圧縮力に抵抗し、板部材24に回転抵抗を与える。その結果、前記した例におけると同様、両芯部材26の長さの変化、したがって架構12の変形が抑制され、また、地震エネルギの一部が吸収される。また、抵抗付与機構28の更新又は取り替えを比較的容易に行うことができる。
【0039】
抵抗付与機構28を構成する一対のオイルダンパー70及び一対のオイルダンパー72は、管部材22の内部に配置してもよい。この場合には、板部材24として管部材22の内径より小さい直径を有する円板を使用することができる。また、二対のブラケット74を管部材22の内周面に固定し、さらに、板部材24と両ブラケット74にピンボルトナット組立体76、78を介してオイルダンパー70、72をそれぞれ連結することができる。また、この場合には、管部材22がスロット36を有しないものとすることができる。
【0040】
また、抵抗付与機構28は、前記した例に代えて、一対のオイルダンパー70のみからなるもの、一対のオイルダンパー72のみからなるもの、一対のオイルダンパー70のうちのいずれか一方のみからなるもの、又は、一対のオイルダンパー72のうちのいずれか一方のみからなるものとすることができる。
【0041】
抵抗付与機構28は、さらに、
図1〜
図3、
図4及び
図5に示す例に代えて、例えば
図6及び
図7に示すものとすることができる。
【0042】
図6及び
図7に示す抵抗付与機構28は、円形の横断面形状を有する管部材22に支持され管部材22の周囲を該管部材から間隔をおいて取り囲む鋼製の円管80と、管部材22及び円管80の間に封入された油や樹脂、例えばシリコンオイルのような粘性流体82と、板部材24に前記第1の軸線(軸部材38の中心線)の周りの回転運動が生じるときに板部材24の回転運動を管部材22に対する円管80の直線運動及び回転運動に変換する変換手段84とからなる。
【0043】
図示の例において、管部材22を構成する両半割体30は、これらの突合せ面間に配置されたシート状のシール材(図示せず)を介して互いに突き合わされ液密に接している。また、円管80は管部材22の外径より大きい内径を有し、また、管部材22と同じ長さ及び同じ厚さを有する。円管80は、管部材22と同様に半円の横断面形状を有する一対の半割体85からなる。両半割体85は、管部材22と同様に、これらの突合せ面間に配置されたシート状のシール材(図示せず)を介して互いに突き合わされ液密に接している。さらに、両半割体85は、管部材22を構成する両半割体30と同様に、4対の板状のブラケット32と各対のブラケット32を貫通するボルト及びこれに螺合されたナットからなるボルトナット組立体34とを介して、互いに他の一方に固定されている。また、図示例に代えて、両半割体85をこれらの両縁部の一方において例えば一対の蝶番(図示せず)を介して両蝶番の軸線の周りに互いに揺動可能であるように結合(ヒンジ結合)し、かつ、両半割体85の両縁部の他の一方において一対のブラケット32及び一対のボルトナット組立体34を介して互いに固定することができる。
【0044】
円管80は、二対のOリング(オーリング)86を介して、管部材22に該管部材と同軸に伸びるように支持されている。二対のOリング86は、それぞれ、管部材22の軸線l1の伸長方向に互いに間隔をおいて板部材24の両側の2箇所に配置されている。各Oリング86は、管部材22に設けられその内周面に開放する環状の凹所87内に保持され凹所87に沿って伸びかつ管部材22及び円管80に対して液密に接している。これにより、円管80は管部材22に対して管部材22の軸線l1の伸長方向への直線運動が可能とされ、また、管部材22の軸線l1の周りの回転運動が可能とされている。なお、管部材22と円管80との間の間隔、各対のOリング86の相互間隔、管部材22の軸線l1の伸長方向に関する各対のOリング86の配置位置、Oリング86の対の数等は任意に定めることができる。
【0045】
粘性流体82は、管部材22、円管80及び各対のOリング86が規定する環状の密閉空間88に収容され、これにより、管部材22と円管80との間に封入されている。粘性流体82は、円管80に設けられ各密閉空間88に連通する2つの孔90、92を通してそれぞれ各密閉空間88の内部に供給しまた各密閉空間88の外部に排出することができる。
【0046】
図示の変換手段84は、管部材22に設けられ管部材22の直径方向に関して互いに相対する一対のスロット94と、円管80に設けられ該円管の直径方向に関して互いに相対する一対のスロット96と、板部材24に設けられた一対の突起98とからなる。
【0047】
図示の例では、両スロット94及び両スロット96は、管部材22の軸線方向におけるほぼ中央の位置に設けられている。管部材22に設けられた一対のスロット94はそれぞれ両半割体30の突合せ面の一部を切り欠いてなり、管部材22の軸線l1の伸長方向へ直線的に伸びている。また、円管80に設けられた一対のスロット96はそれぞれ両半割体85の突合せ面を横切って同じ方向へ伸び、管部材22の両スロット94に対して斜めにまた立体的に交差している。円管80の両スロット96はそれぞれ曲線的に伸びるもの又は直線的に伸びるものとすることができる。図示の両スロット96はそれぞれ螺旋を描いて曲線的に伸びている。図示の例に代えて、例えば、両スロット96がそれぞれS字形を描いて曲線的に伸びるものとすることができる。
【0048】
板部材24に設けられた一対の突起98は、板部材24から前記第1の軸線(軸部材38の中心線)に直交する直線の伸長方向、図示の例にあっては板部材24の直径方向へ伸びている。各突起98は、管部材22の内部から該管部材の直線状の各スロット94と円管80の螺旋状の各スロット96との交差箇所を経て管部材22の外部に伸びている。
【0049】
これによれば、板部材24が前記第1の軸線(軸部材38の中心線)の周りに回転するとき、両突起98がそれぞれ管部材22の直線状の両スロット94内を該スロットに沿って移動する。このとき、両突起98が螺旋状の両スロット96を規定する円管80に突き当たり該円管に外力を及ぼす。円管80は前記外力を受けて螺旋状の両スロット96の伸長方向へ移動する。すなわち、円管80は、管部材22に対して、その軸線l1の伸長方向への直線運動及び軸線l1の周りの回転運動をする。このとき、円管80がその周面において粘性流体82の粘性抵抗を受け、また、Oリング86の摩擦抵抗を受ける。これにより、板部材24が両突起98を介して回転抵抗を受ける。その結果、前記した例におけると同様、両芯部材26の長さの変化、したがって架構12の変形が抑制され、また、地震エネルギの一部が吸収される。また、抵抗付与機構28の更新又は取り替えを比較的容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0050】
10 ブレース
22 管部材
24 板部材
26 芯部材
28 抵抗付与機構
36 スロット
38 軸部材
40、42、50、52、54、56、76、78 ピンボルトナット組立体
46、48 金属ダンパー
58、60 容器
62 粘性流体
64 粘性抵抗板
70、72 オイルダンパー
80 円管
82 粘性流体
84 変換手段
86 Oリング
94、96 スロット