特許第6857562号(P6857562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857562
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】化学修飾セルロース繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/28 20060101AFI20210405BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20210405BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210405BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20210405BHJP
   C08B 11/193 20060101ALI20210405BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   D01F2/28 Z
   D06M13/11
   C08L101/00
   C08L1/08
   C08B11/193
   D06M101:06
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-126502(P2017-126502)
(22)【出願日】2017年6月28日
(65)【公開番号】特開2019-7117(P2019-7117A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】北野 結花
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賀之
【審査官】 南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−171402(JP,A)
【文献】 特開昭48−019233(JP,A)
【文献】 特開2017−053077(JP,A)
【文献】 特開2013−044076(JP,A)
【文献】 特開昭61−190501(JP,A)
【文献】 特開2016−124974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 2/00−2/30
C08B 11/00−11/22
C08L 1/08
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースの水酸基の一部が下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Aは炭素数3又は4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、n個のAは同一でも異なってもよいが、セルロース一分子中のAが炭素数3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基のみであることはなく、nは付加モル数を表し1以上の整数であって、nの平均値は1.00〜5.00である。)
で表される置換基によって置換され、セルロースI型結晶構造を有し、結晶化度が56%以上である、化学修飾セルロース繊維。
【請求項2】
置換度が0.10以上1.00以下である、請求項1に記載の化学修飾セルロース繊維。
【請求項3】
平均繊維幅が5μm超100μm以下である、請求項1又は2に記載の化学修飾セルロース繊維。
【請求項4】
平均繊維幅が3nm〜5μmである、請求項1又は2に記載の化学修飾セルロース繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学修飾セルロース繊維を製造する方法であって、
シート状のセルロース繊維集合体に対しエーテル化剤を含む薬液を含浸させ、得られた薬液含浸シートを加圧下、加熱攪拌することでエーテル化反応を行う化学修飾工程、
を含む化学修飾セルロース繊維の製造方法。
【請求項6】
前記化学修飾工程により得られた化学修飾セルロース繊維を機械的に解繊し、平均繊維幅が3nm〜5μmの化学修飾セルロース繊維を得る、請求項5に記載の化学修飾セルロース繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学修飾セルロース繊維(A)、及び樹脂(B)を含む樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂(B)が親水性樹脂である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学修飾セルロース繊維及びその製造方法、並びに樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は、食品、化粧品、機能紙、樹脂補強材等の工業原料として用いられる。また、セルロース繊維表面を化学修飾した化学修飾セルロース繊維は有機溶媒中への分散が容易となるため、工業原料としての適用範囲が広がり有望視されている。特に、化学修飾されるとともに微細化処理された化学修飾セルロース繊維は補強性に優れるため、多岐用途に適用可能である。
【0003】
たとえば、特許文献1には、バクテリアセルロースと酸無水物を反応させ誘導体化バクテリアセルロースを得て、当該繊維を樹脂と複合化した繊維強化複合材料が記載されている。当複合材料は温度条件や波長域によらず高透明性を保持していることが示されている。
【0004】
特許文献2には、植物繊維と修飾剤とオレフィン系樹脂を溶融混練することで、得られた樹脂組成物が高い繊維分散性を保持することが示されている。これは、修飾剤により植物繊維が化学修飾され繊維の分散性を高めるだけでなく、溶融混練を行うことで繊維が樹脂中に分散されることを示している。得られた樹脂組成物は繊維分散性に優れ、高強度を示すことが記されている。
【0005】
特許文献3には、セルロース繊維を有機酸中で芳香族化合物と反応させ、芳香族含有置換基で修飾された修飾セルロース繊維、および繊維複合体が示されている。当該修飾セルロース繊維は、平均繊維径、結晶性、修飾率を制御することで高耐熱性、易解繊性を達成できることが示されている。
【0006】
特許文献4には、総炭素数が3以上4以下の酸化アルキレン化合物と、総炭素数が5以上32以下の酸化アルキレン化合物及び総炭素数5以上100以下のグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種の化合物とを、セルロース原料に対しエーテル結合を介して導入した、改質セルロース繊維が示されている。当該改質セルロース繊維は、有機溶剤中で安定分散可能であり、また当該改質セルロース繊維を樹脂に配合した際には、樹脂組成物の機械的強度や耐熱性、寸法安定性が向上することが示されている。
【0007】
しかしながら、従来のセルロース繊維含有複合材料では、複合化する樹脂はいずれも疎水性が高く、修飾剤も疎水性が高いものであった。特許文献1では、親水性樹脂を用いることも開示されているものの、セルロース繊維として高価なバクテリアセルロースを用い、また修飾剤に副生成物で酸が生成する酸無水物を用いていることから、産業利用上好ましくない。特許文献2では、樹脂にオレフィン系樹脂を用いており、親水性用途での利用可能性が不明である。また特許文献3では、芳香族化合物をセルロース繊維表面に導入しているため疎水性が高く、親水性用途での利用可能性が不明である。
【0008】
特許文献4では、疎水性の高い有機溶媒中での分散が容易な改質セルロース繊維を提示しており、修飾剤は炭素数が5以上32以下あるいは5以上100以下と大きい。用途においても、樹脂と複合する際には、改質セルロース繊維と樹脂を非極性有機溶媒中に分散させキャスト法で複合化をするか、あるいは真空乾燥した改質セルロース繊維とゴムを混練することで複合化する方法をとっており、改質繊維の疎水性が高いことを示している。
【0009】
以上のように、上記特許文献には、親水性樹脂への適用を可能とする水分散性と有機溶媒分散性の両方を兼ね備え、機械的強度に優れる化学修飾セルロース繊維については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−51266号公報
【特許文献2】特開2014−193959号公報
【特許文献3】WO2010/143722号
【特許文献4】特開2017−53077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の実施形態では、水分散性および有機溶媒分散性の両方を兼ね備え、セルロースI型結晶構造を有し機械的強度が優れる化学修飾セルロース繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態は、下記〔1〕〜〔3〕に関する。
〔1〕 セルロースの水酸基の一部が式(1):
【化1】
(式(1)中、Aは炭素数3又は4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、n個のAは同一でも異なってもよいが、セルロース一分子中のAが炭素数3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基のみであることはなく、nは付加モル数を表し1以上の整数であって、nの平均値は1.00〜5.00である。)
で表される置換基によって置換され、セルロースI型結晶構造を有し、結晶化度が56%以上である、化学修飾セルロース繊維。
【0013】
〔2〕 前記〔1〕に記載の化学修飾セルロース繊維を製造する方法であって、
シート状のセルロース繊維集合体に対しエーテル化剤を含む薬液を含浸させ、得られた薬液含浸シートを加圧下、加熱攪拌することでエーテル化反応を行う化学修飾工程、
を含む化学修飾セルロース繊維の製造方法。
【0014】
〔3〕 前記〔1〕に記載の化学修飾セルロース繊維(A)、及び樹脂(B)を含む樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
本実施形態によれば、セルロースI型結晶構造を有し、機械的強度、水分散性および有機溶媒分散性を兼ね備えた化学修飾セルロース繊維を提供することができる。また、化学修飾セルロース繊維を樹脂に配合した際に、機械的強度に優れる樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[化学修飾セルロース繊維]
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維は、セルロース繊維の水酸基の一部が下記一般式(1)で表される置換基によって置換されたものである。
【化2】
式(1)中、Aは炭素数3又は4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、nは付加モル数を表し1以上の整数であって、nの平均値は1.00〜5.00である。
【0017】
(セルロースI型結晶構造、結晶化度)
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、その結晶化度が56%以上である。結晶化度は、樹脂に含有させて複合材料とした時の機械的強度を向上させる観点から高いことが好ましく、好ましくは60%以上であり、より好ましくは65%以上であり、更に好ましくは70%以上である。また、エーテル化反応の反応効率を向上させる観点から、結晶化度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下であり、85%以下でもよい。
【0018】
本明細書において、セルロースの結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したセルロースI型結晶化度であり、下記式により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。
【0019】
(置換基)
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維は、上記の式(1)で表される置換基が導入されたものであり、下記式で表されるように、波線部分をセルロース分子として、セルロース中の水酸基の酸素原子に対して水素原子の代わりに−(AO)−Hで表されるアルキレンオキシド鎖が結合した構造を持つ。
【化3】
【0020】
式中のAは、炭素数3又は4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基(即ち、アルカンジイル基)を表す。n個のAは、同一でも異なってもよく、即ち、一置換基中のAは同一でも異なってもよい。そのため、セルロース一分子中の複数のAも同一でも異なってもよい。但し、セルロース一分子中のAは、炭素数3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基のみであることはなく、即ち、セルロース一分子中のAは炭素数4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基のみであるか、又は、炭素数3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基と炭素数4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基との組み合わせである。なお、炭素数3のアルキレン基と炭素数4のアルキレン基のモル比は、特に限定されず、例えば、炭素数4のアルキレン基が30モル%以上でもよく、50モル%以上でもよく、60モル%以上でもよく、70モル%以上でもよく、炭素数4のアルキレン基の単独、即ち100モル%でもよい。
【0021】
の炭素数が3又は4であることにより、親水性と疎水性のバランスをよくして、水分散性および有機溶媒分散性を両立することができる。より詳細には、炭素数4のアルキレン基の単独、又は炭素数4のアルキレン基と炭素数3のアルキレン基の併用により、適度な疎水性が付与され、有機溶媒分散性が向上するとともに、過度な疎水性を抑えて水分散性を向上することができ、親水性樹脂に対する相溶性を向上することができる。また、アルキレン基が比較的短いことで樹脂に混ぜたときに可塑剤として作用するのを抑えて、樹脂組成物の強度低下を抑えることができる。
【0022】
で表される炭素数3又は4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基は、プロピレンオキシド、オキセタン(即ち、1,3−プロピレンオキシド)、1,2−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、又は、テトラヒドロフラン(即ち、1,4−ブチレンオキシド)に由来し、これらのエーテル化剤を1種又は2種以上を選択して、付加重合させることにより−(AO)−鎖を得ることができる。付加させるアルキレンオキシド等の重合形態は特に限定されず、1種類のアルキレンオキシドの単独重合体、2種類以上のアルキレンオキシドのランダム共重合体、ブロック共重合体、又はそれらランダム共重合体とブロック共重合体の組み合わせのいずれであってもよい。ここで、炭素数4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基は、コストや反応性の観点から、1,2−ブチレンオキシドからなることが好ましい。
【0023】
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維は、ノニオン性置換基として上記式(1)で表される置換基を持つものであり、式(1)で表される置換基以外のノニオン性置換基は持たないものであることが好ましい。
【0024】
(付加モル数)
式中のnで表されるアルキレンオキシドの付加モル数は、1以上の整数を表す。付加モル数nの平均値(以下、平均付加モル数という。)は、セルロース繊維の表面特性を変えるという観点から、好ましくは1.00以上である。また、付加モル数nの平均値は、セルロース繊維本来の特性を保持するという観点から、好ましくは5.00以下、より好ましくは3.00以下、さらに好ましくは2.00以下であり、1.50以下でもよく、1.20以下でもよい。なお、付加モル数は、洗浄により原料として用いた変性化剤や、それらの加水分解物等の副生成物を除去した後、分析することができ、本明細書では、後述の実施例に記載の通り、13C−NMR法により測定される値である。
【0025】
(置換度)
化学修飾セルロース繊維は、置換度、即ちエーテル置換度(DS)が0.10以上1.00以下であることが好ましい。置換度とは、アンヒドログルコース単位1モルに対する上記式(1)で表される置換基のモル数の比である。置換度は、セルロース微細繊維表面全体を覆うという観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.12以上、さらに好ましくは0.15以上である。また、セルロース結晶構造を保持するという観点から、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.60以下、さらに好ましくは0.50以下である。置換度は、洗浄により原料として用いた変性化剤や、それらの加水分解物等の副生成物を除去した後、分析することができ、本明細書では、後述の実施例に記載の通り、H−NMR法により測定される値である。
【0026】
(平均繊維幅)
本実施形態に係る化学修飾セルロース繊維としては、解繊処理(微細化処理)がなされていないマイクロオーダーの化学修飾セルロース繊維(形態1)と、解繊処理されたナノオーダーの化学修飾セルロース繊維(形態2)が例示される。
【0027】
形態1の化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は、パルプ形態(即ち、セルロース原料としてのセルロース繊維形状)を保持するという観点から、5μmよりも大きいことが好ましく、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。平均繊維幅の上限は特に限定されないが、セルロース原料の形態を考慮して、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。
【0028】
なお、形態1の化学修飾セルロース繊維は、前記式(1)記載の置換基が親水性であるため、一部がフィブリル化していてもよい。
【0029】
形態2の化学修飾セルロース繊維は、解繊処理された微細な化学修飾セルロース繊維であるため、化学修飾解繊セルロース繊維ないしは化学修飾セルロース微細繊維と称することができる。形態2の化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は、セルロースI型結晶構造を保持した微細な化学修飾セルロース繊維を製造する観点から、平均繊維幅が3nm以上であることが好ましく、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは8nm以上であり、10nm以上でもよく、30nm以上でもよい。また、化学修飾セルロース繊維を製造する段階でパルプの他構成要素(有縁壁孔、導管要素など)を除去し純粋な化学修飾セルロース繊維を得るという観点から、平均繊維幅は5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、より一層好ましくは0.1μm以下である。
【0030】
なお、本明細書において、化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は、顕微鏡観察により50本の繊維について測定される繊維幅の平均値であり、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0031】
[化学修飾セルロース繊維の製造方法]
上記の化学修飾セルロース繊維を製造する方法は特に限定されないが、好ましい一実施形態に係る製造方法として、シート状のセルロース繊維集合体に対しエーテル化剤を含む薬液を含浸させ、得られた薬液含浸シートを加圧下、加熱攪拌することでエーテル化反応を行う工程(化学修飾工程)を含むものが挙げられる。
【0032】
この化学修飾工程により、上記形態1に係るマイクロオーダーの化学修飾セルロース繊維が得られる。また、化学修飾工程により得られた化学修飾セルロース繊維(形態1)に対し、機械的に解繊する工程(微細化工程)を行ってもよい。形態1の化学修飾セルロース繊維を機械的に解繊することにより、上記形態2に係るナノオーダーの化学修飾セルロース繊維を得ることができる。
【0033】
(セルロース繊維集合体)
化学修飾工程ではシート状のセルロース繊維集合体を用いる。ここで、シート状には、膜状のように比較的薄いものから板状のように比較的厚いものも含まれる。シート状のセルロース繊維集合体の厚みは、特に限定されず、例えば0.1〜10mmでもよい。
【0034】
セルロース繊維集合体(セルロース原料)の具体例としては、植物(例えば木材、綿、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌)、微生物産生物等を起源とするものが知られているが、本実施形態ではそのいずれも使用できる。これらの中で、植物由来パルプが好ましい原材料として挙げられる。
【0035】
前記パルプとしては、植物原料を化学的、若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得られる、ケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)が好ましいものとして挙げられる。
【0036】
また、セルロース原料としては、本実施形態の目的を阻害しない範囲内で化学修飾されていてもよく、即ち、化学変性パルプを用いてもよい。例えば、セルロース繊維表面に存在する一部の水酸基が酢酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステルを含むエステル化されたもの、またメチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテルを含むエーテル化されたもの、また一級水酸基を酸化させたTEMPO酸化処理パルプを含むことができる。
【0037】
セルロース原料としては、セルロースI型結晶を有しその結晶化度が56%以上であるものが用いられる。セルロース原料のセルロースI型結晶化度の値は、60%以上が好ましく、より好ましくは70%以上であり、80%以上でもよい。セルロースI型結晶化度の上限は、特に限定されないが、例えば、98%以下でもよく、95%以下でもよく、90%以下でもよい。
【0038】
(前処理工程)
セルロース繊維集合体の坪量が800g/m以上の場合、そのまま用いてもよいが、必要に応じて前処理を行い、坪量を800g/m未満にしてもよい。前処理方法としては、シート形状から別の形状、たとえば、綿状、スラリー状、フレーク状、チップ状、球状、粉末状にしてから、坪量が800g/m未満のシート状にしてもよい。この前処理を行うことにより、化学修飾をより効率的に行うことができる。シート形状から別形状にする際に使用する機械や処理条件は、特に限定はされないが、たとえば、シュレッダー、ボールミル、ローラーミル、振動ミル、石臼、グラインダー、ブレンダー、高速回転ミキサー、リファイナーなどがあげられる。また別形状からシート形状にする際に使用する機械や処理条件は、特に限定はされないが、たとえば、加圧プレス、ローラー、減圧吸引機などがあげられる。坪量は、好ましくは50〜800g/m、より好ましくは80〜700g/m、さらにより好ましくは90〜600g/mである。
【0039】
シート状のセルロース繊維集合体の大きさは、特に限定されず、表裏一方面の面積が1〜2.5×10cmでもよく、1〜2.5×10cmでもよい。例えば、裁断処理により矩形状に裁断する場合、1〜100cm角でもよく、1〜50cm角でもよく、1〜5cm角でもよい。裁断処理方法としては、特に限定されないが、例えば、ペーパーカッター、シュレッダー、ロータリーカッター等を使用する方法が挙げられる。
【0040】
(含浸工程)
化学修飾工程において、セルロース繊維集合体とエーテル化剤との反応(即ち、エーテル化反応)は、エーテル化剤を含む薬液にセルロース繊維集合体を浸漬することにより行うことができる。好適に使用可能なエーテル化剤については上述した通りである。ここで、シート状のセルロース繊維集合体に対して、その形状を崩さずに薬液を含浸させることが好ましい。形状を保持することで反応工程の際に取り扱いが簡便となり、仕込み作業を効率的に行うことができる。
【0041】
また本実施形態では、セルロース繊維形状を保ったまま、当該セルロース繊維の構成要素であるセルロース微細繊維の表面をエーテル化剤で化学修飾することが好ましい。すなわち、セルロース繊維は、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバーとも称される)を構成要素として、これが束になったものである。本実施形態では、かかるセルロース微細繊維の束であるセルロース繊維の形状を保持したまま(即ち、解繊することなく)、セルロース微細繊維の表面をエーテル化剤で化学修飾することが好ましい。このようにセルロース繊維を解繊しない状態でエーテル化処理するため、セルロース繊維分散液の粘性上昇を抑えて、効率性及び生産性を向上することができる。なお、上記のように化学修飾セルロース繊維の一部がフィブリル化されていたとしても、セルロース微細繊維を束ねた状態が概ね維持されていれば、実質的には解繊されておらず、よってセルロース繊維形状は保たれているといえる。
【0042】
エーテル化剤の使用量は、セルロース繊維集合体に含まれるセルロース繊維への置換基の導入量を考慮して適宜調整することができる。エーテル化剤は、例えば、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり、好ましくは0.01〜50モル、より好ましくは0.1〜30モル、さらにより好ましくは0.5〜15モルで使用することができる。
【0043】
エーテル化反応を行う薬液は、エーテル化剤と溶媒を混合してなるものであり、更に触媒を添加してもよく、添加しなくてもよい。触媒としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジン、トリエチルアミン、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩化水素、硫化水素、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、三フッ化ホウ素、トリフルオロ酢酸、酢酸、硫化アンモニウムなどが挙げられる。
【0044】
触媒の使用量は、特に限定されないが、たとえば、系内における濃度が、反応効率の観点から、0.001〜5.0質量%が好ましく、0.01〜3.0質量%がより好ましく、0.1〜2.0質量%がより好ましい。触媒は、高濃度のものをそのまま用いてもよく、或いは、事前に溶媒で希釈して用いてもよい。また、特に限定するものではないが、塩基性触媒の添加方法は、一括添加、分割添加、連続的添加、又はこれらの組合せで行うことができる。
【0045】
薬液に使用する溶媒は、水のほか、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ドデカノール等の炭素数1〜12の直鎖あるいは分岐のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3〜6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1〜6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2〜5の低級アルキルエーテル;ジオキサン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ピリジン等の溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。上記の有機溶媒の中では、セルロース原料の膨潤を促進する観点から、たとえば、水または極性有機溶媒がより好ましい。なお、上記溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、たとえば、セルロース繊維集合体の溶媒含有量(即ち、セルロース繊維集合体の乾燥質量に対する溶媒の質量の比率)が、好ましくは10〜10000質量%、より好ましくは20〜5000質量%、更に好ましくは50〜2000質量%で使用される。溶媒量が少ないほど、洗浄工程の利便性が向上する。
【0047】
セルロース繊維集合体の薬液中の固形分濃度は、特に限定されないが、セルロース繊維集合体の形状を保持する観点から、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。また固形分濃度が高いことにより洗浄工程の利便性が向上する。
【0048】
(反応工程)
化学修飾工程において、セルロース繊維集合体とエーテル化剤との反応は、加圧下加熱条件下にて行う。具体的には、例えば、薬液を含浸したシート状のセルロース繊維集合体(即ち、薬液含浸シート)を耐圧反応容器内に投入し、加圧加温条件にて攪拌することによりエーテル化反応を行う。この際、熱伝導性の観点から、薬液含浸シートが反応容器壁面、あるいは、容器壁面に接した金属板あるいは金網に、接していることが好ましい。なお、反応時の攪拌は、例えば、耐圧反応容器全体を動かすことにより行うことができる。
【0049】
反応温度は、エーテル化の反応性の観点から、50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上である。また、上限は特に設定されないが、セルロース原料の熱分解性の観点から、180℃以下が好ましい。
【0050】
反応時の圧力は、エーテル化の反応性の観点から、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.4MPa以上である。また、上限は特に設定されないが、製造設備の負担低減の観点から、好ましくは2MPa以下であり、より好ましくは1.5MPa以下であり、さらに好ましくは1.2MPa以下である。
【0051】
反応時間は、用いるエーテル化剤の種類や量、反応温度、圧力、用いる反応容器の形状に応じて適宜設定することができる。例えば、1〜15時間である。
【0052】
(洗浄工程)
本実施形態では、必要に応じて、エーテル化反応の反応停止作用を有する化合物を添加して反応を停止する工程を設けてもよい。反応の停止は、例えば、化学修飾セルロース繊維を含む分散液中に触媒作用を停止する物質を投入すればよく、その物質の種類は特に限定されない。例えば、塩酸、硫酸、酢酸等の酸を投入することによって中和し反応を終了させることができる。
【0053】
また、反応停止の目的、及び/又は、エーテル化剤残渣、残留触媒、溶媒などの除去の目的で、湿潤状態の化学修飾セルロース繊維を洗浄する工程を設けてもよい。この時、洗浄条件は特に限定されないが、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、有機溶媒を用いて、反応終了後の化学修飾セルロース繊維を洗浄するのが好ましい。
【0054】
脱溶媒方法は、特に限定されないが、遠心沈降法、濾過、プレス処理などが使用できる。ここで、有機溶媒を完全に除去せず、シートを有機溶媒で湿潤状態にしておくことが好ましい。化学修飾セルロース繊維の有機溶媒含有量(即ち、化学修飾セルロース繊維の乾燥質量に対する有機溶媒の質量の比率)は1〜500質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜100質量%であり、更に好ましくは10〜50質量%である。
【0055】
以上の工程により上記形態1に係るマイクロオーダーの化学修飾セルロース繊維が得られる。得られる化学修飾セルロース繊維において、セルロース繊維の構成要素であるセルロース微細繊維は式(1)の置換基によりエーテル化されており、かかるエーテル化されたセルロース微細繊維により化学修飾セルロース繊維が構成されている。式(1)の置換基は、セルロース繊維を構成するセルロース微細繊維の表面に導入されており、セルロース繊維の表面に存在するセルロース微細繊維だけでなく、セルロース繊維の内部に存在するセルロース微細繊維についても、それらセルロース微細繊維の表面に置換基が導入されていることが好ましい。
【0056】
(微細化工程)
上記形態1の化学修飾セルロース繊維に対して、機械的解繊による微細化処理を行うことにより、上記形態2に係るナノオーダーの化学修飾セルロース繊維を得ることができる。化学修飾セルロース繊維の微細化処理を行う装置としては、例えば、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル(例えば、ロッキングミル、ボールミル、ビーズミルなど)、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等が挙げられる。なお、本微細化工程を行わずに製品化してもよい。
【0057】
[化学修飾セルロース繊維を含む樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、化学修飾セルロース繊維(A)、及び、樹脂(B)を含有するものである。化学修飾セルロース繊維(A)としては、前記の化学修飾セルロース繊維を用いることができる。樹脂(B)としては、親水性樹脂を用いることが好ましく、具体的に、親水性樹脂としては、溶解度パラメータ(SP値)が9.0(cal/cm1/2以上の樹脂、またSP値が9.0未満の樹脂においては高分子表面に親水基が存在する樹脂、の2種類が挙げられる。
【0058】
上記SP値は、Robert F. Fedors, Polymer Engineering andScience,14,147-154(1974)に示されたFedors法によって求められる。
【0059】
溶解度パラメータ(SP値)が9.0以上の樹脂としては、ポリ乳酸樹脂等の飽和ポリエステル系樹脂;酢酸セルロース、硝酸セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂;塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ビニルエーテル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂などの親水基を持つビニルモノマーを原料とした樹脂;ポリウレタン樹脂;ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム等の親水基を含む繰り返し単位を持つゴムポリマーからなるゴム系樹脂;ナイロン樹脂などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスルホン系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ケイ素樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。
【0060】
SP値が9.0未満の樹脂において高分子表面に親水基が存在する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンを変性して親水基を導入した樹脂(例えば、無水マレイン酸変性した変性ポリオレフィン);乳化剤を用いた乳化重合により合成した樹脂;乳化剤を用いて水中に乳化分散させることで樹脂粒子表面を親水化した樹脂などが挙げられる。親水基としては、例えば、水酸基、カルボニル基、アミノ基などの、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも一種を含む基が挙げられる。
【0061】
これらのうち、化学修飾セルロース繊維との親和性の観点からポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0062】
樹脂組成物には硬化剤を配合してもよい。硬化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシリレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド等のアミン系硬化剤;ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ヘッド酸等の酸無水物系硬化剤;ノボラック型フェノール樹脂等のポリフェノール系硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル等のポリメルカプタン系硬化剤;イソシアネートプレポリマー等のイソシアネート系硬化剤;ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン系硬化剤;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール系硬化剤;BFモノエチルアミン、BFピペラジン等のルイス酸系硬化剤等が挙げられる。尚、硬化剤の含有量は、使用する硬化剤の種類により適宜設定すればよい。
【0063】
また、上記樹脂組成物中に含まれる各成分に加え、例えば、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン;消泡剤;防腐剤;ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されても良いが、例えば、樹脂組成物中10質量%程度以下が好ましく、5質量%程度以下がより好ましい。
【0064】
樹脂組成物中の樹脂(B)の含有量、及び化学修飾セルロース繊維(A)の含有量は、特に限定されず、樹脂の種類にもよるが、例えば、樹脂(B)の含有量は、成形体を製造する観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。また、99.9質量%以下が好ましくは、より好ましくは99.5質量%以下であり、更に好ましくは99.0質量%以下である。
【0065】
樹脂組成物中の化学修飾セルロース繊維(A)の含有量は、得られる樹脂組成物の機械的強度の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がより更に好ましい。また、樹脂組成物の成形性の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0066】
樹脂組成物の用途としては、特に限定されず、塗料などのコーティング材、家電部品、電子部品、自動車部品などの様々樹脂部材に用いることができる。
【0067】
[化学修飾セルロース繊維を含む樹脂組成物の製造方法]
化学修飾セルロース繊維を含む樹脂組成物は、化学修飾セルロース繊維(A)と樹脂(B)を混合することで調製することができる。
【0068】
例えば、化学修飾セルロース繊維(A)と樹脂(B)とを、室温下で加熱せずに混合しても良く、加熱して混合しても良い。また、この際、任意の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、前記で挙げられたものを用いることができる。
【0069】
また混合の際、適宜溶媒を用いてもよい。用いる溶媒としては、特に限定されないが、化学修飾セルロース微細繊維および樹脂組成物が均一に分散させることのできるものが好ましい。中でも環境負荷の観点から、水が好ましい。
【0070】
化学修飾セルロース繊維(A)及び樹脂(B)(及び、任意成分としての添加物)を混合する方法としては、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機により混練する方法、攪拌羽により混合する方法、公転・自転方式の攪拌機により混合する方法等が挙げられる。混合温度としては、混合に不都合を生じさせない温度であれば、特に限定されない。
【0071】
[樹脂成形材料]
上記樹脂組成物を用いて樹脂成形材料を調製してもよい。樹脂成形材料は、上記樹脂組成物を所望の形状に成形することにより得られる。樹脂成形材料の形状としては、例えば、シート、ペレット、粉末等が挙げられる。一実施形態において、該成形材料を用いて樹脂成形体を成形することができる。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
[実施例1.化学修飾セルロース繊維]
各実施例及び各比較例における測定・評価方法は以下の通りである。
【0074】
(1)セルロースI型結晶化度
セルロース原料および化学修飾セルロース繊維のX線回折強度をX線回折法にて測定し、その測定結果からSegal法を用いて下記式(A)により算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (A)
式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。また、サンプルのX線回折強度の測定を、株式会社リガク製の「RINT2200」を用いて以下の条件にて実施した:
X線源:Cu/Kα−radiation
管電圧:40Kv
管電流:30mA
測定範囲:回折角2θ=5〜35°
X線のスキャンスピード:10°/min
【0075】
(2)化学修飾セルロース繊維の同定
化学修飾セルロース繊維において導入基(置換基)の同定は、微細化処理前の化学修飾セルロース繊維について、HNMR及び13CNMR分析により行った。
【0076】
(3)置換度(DS)およびエーテル化剤の平均付加モル数の算出
化学修飾セルロース繊維の置換度の算出は、脱溶媒処理後における未乾燥の化学修飾セルロース繊維をトリアセチル化処理した後、生成したセルロース誘導体をNMRで定量することで算出した。詳細には、9mLスクリュー管に化学修飾セルロース繊維(50mg)、酢酸(1mL)、トルエン(1mL)、60%過塩素酸(5μL)を入れて攪拌した後、無水酢酸(0.5mL)を投入し室温中2時間攪拌を行った。繊維形状が消失し溶解したことを確認した後、水を投入し反応を停止した。これを20質量%メタノール/ジクロロメタン溶液に希釈させ、トリエチルアミンで中和させた。この溶液を水中に投入することで、セルロース誘導体を沈殿させた。沈殿物を回収し、乾燥(50℃、2時間)させた後、NMR用溶媒に溶解させHNMR分析を行った(溶媒:d−DMSO、積算回数:64回)。得られたスペクトルを用いて、下記計算式(B)からDSを算出した。
【数1】
【0077】
また、同様のサンプルで13CNMR分析を行った(溶媒:d−DMSO、積算回数:10000回)。得られたスペクトルを用いて、下記計算式(C)から付加モル数nの平均値(平均付加モル数)を算出した。
平均付加モル数=(PO又はBO由来のピーク積分値/末端のPO又はBO由来のピーク積分値) (C)
【0078】
(4)平均繊維幅の測定
化学修飾後(即ち、解繊前)の化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅の測定は、光学顕微鏡観察で行い、倍率100〜400倍で観察した繊維50本の繊維幅の平均値を算出し、平均繊維幅とした。
【0079】
一方、微細化工程後(即ち、解繊後)の化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)で行った。湿潤した化学修飾セルロース繊維をろ過し脱溶媒することで、微細繊維シートを得て、液体窒素中で凍結乾燥しSEM観察を行った。倍率100〜10000倍で観察した繊維50本の繊維幅の平均値を算出し、平均繊維幅とした。
【0080】
(5)溶媒分散性評価
化学修飾セルロース繊維(固形量:10mg)を水で溶媒置換した後、水5mLに投入し、攪拌を行った(固形分率:0.2質量%)。それから一晩静置した後、繊維状態を目視で観察し、下記の基準で水分散性を評価した。水をエタノールに代え、その他は同様にしてエタノール分散性を評価した。
○:繊維が溶媒中で分散している。
△:繊維が溶媒中で膨潤している。
×:繊維が溶媒中で凝集している。
+:繊維が溶媒中で一部溶解している。
=:繊維が溶媒中で溶解している。
【0081】
[実施例1−1]
(化学修飾工程)
セパラブルフラスコにt−ブタノール(7.8g)、6質量%NaOH水溶液(1.8g)を投入し5分間攪拌した後、ブチレンオキシド(20g)を加え5分間攪拌を行って化学修飾用の薬液を得た。セルロース原料であるシート状のセルロース繊維集合体として、一辺2cmにカットしたシート状の針葉樹クラフトパルプ(NBKP、厚み:5mm、坪量:300g/m、セルロースI型結晶化度:85%)4.0gを用い、上記薬液を針葉樹クラフトパルプに対して少量ずつ滴下しながら攪拌する操作を行い、薬液含浸シートを得た。
【0082】
ここで、エーテル化剤であるプロピレンオキシドの仕込量は、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり11.2モルとした。また、触媒であるNaOHの仕込量は、系内における濃度が0.32質量%(セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり0.18モル)とした。
【0083】
上記薬液含浸シートをSUS製のネジ式耐圧反応容器(380mL容)に移し、ポット回転式恒温槽にセットして60℃、9時間反応させた(0.4MPa)。反応後冷却し、水200mLに分散させ1Lビーカーに移した。ここに酢酸をpHが7になるまで滴下、攪拌を行った。得られた化学修飾セルロース繊維水分散液を、水洗浄およびエタノール洗浄を行い、遠心分離操作により繊維が乾燥しない程度に脱溶媒処理し、化学修飾セルロース繊維を得た(パルプ固形量:3.5g)。
【0084】
(微細化工程)
上記で得られた化学修飾セルロース繊維を固形分濃度5.0質量%になるよう水で希釈した。得られた化学修飾セルロース繊維水分散液を、ジルコニア製ビーズ(直径20mm:30個、直径10mm:100個)を充填したジルコニア製容器(容量:1L、直径:10cm)に入れ、室温下で60rpm(自転)、12時間ボールミル処理を行った。その後、固形分濃度1.0質量%になるように水で希釈し、マイクロフルイダイザーによる処理(150MPa、4パス)を行うことで、化学修飾セルロース繊維の水分散体を得た(固形量:3.2g、固形分率:1.0質量%)。
【0085】
[実施例1−2〜1−5、比較例1−1〜1−4]
実施例1−1において、エーテル化剤の種類および仕込量、触媒の種類および仕込量、溶媒の種類および仕込量、反応条件、微細化処理条件を、表1,2に示す条件に変えた以外は、実施例1−1と同様にして反応、洗浄、脱溶媒処理、微細化処理を行った。なお、比較例1−4では化学修飾工程を実施しなかった。
【0086】
得られた化学修飾セルロース繊維について、結晶化度の測定、導入基の同定、置換度の算出、平均付加モル数の算出、平均繊維幅の測定、溶媒分散性の評価を行った。結果を表1、表2に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
表1、表2中の成分の詳細は以下の通りである。
・NBKP:針葉樹クラフトパルプ
・PO:プロピレンオキシド
・BO:1,2−ブチレンオキシド
・t−BtOH:tert−ブタノール
・IPA:イソプロピルアルコール
・AGE:アルキルグリシジルエーテル(C12−13)(四日市合成(株)製、エポゴーセーEN)
【0090】
表2に示すように、比較例1−1ではプロピレンオキシドで化学修飾したものの、置換度が高く、セルロースI型結晶構造を喪失していたため、水に溶解してしまい、化学修飾セルロース繊維は得られなかった。そのため、微細化処理も行わなかった。比較例1−2では、プロピレンオキシドとともにアルキルグリシジルエーテル(炭素数12〜13)で化学修飾しており、そのため、疎水性が強すぎて水分散性に劣っていた。比較例1−3では、プロピレンオキシドとブチレンオキシドで化学修飾したものの、結晶化度が低く、水及びエタノールに一部溶解した。比較例1−4では、化学修飾せずに微細化処理を行ったため、エタノール分散性に劣っていた。これに対し、表1に示すように、実施例1−1〜1−5に係る化学修飾セルロース繊維であると、セルロースI型結晶構造を有し、水分散性およびエタノール分散性に優れていた。
【0091】
[実施例2.化学修飾セルロース繊維を含む樹脂組成物(ポリウレタン樹脂)]
各実施例及び各比較例における測定・評価方法は以下の通りである。
【0092】
(皮膜物性:100%モジュラス、200%モジュラス)
皮膜をダンベル状試験片(3号)の大きさに切断することにより評価サンプルを作製した。JIS−K6251に準じて、引張速度100mm/minで100%モジュラス(100%伸張時応力)および200%モジュラスを測定した。また、100%モジュラスについて比較例2−3の値を100とした指数を算出した。
【0093】
(実施例2−1)
実施例1−1で得られた微細化処理後の化学修飾セルロース繊維の水分散体10g(固形量:0.1g、固形分率:1.0質量%)をスターラーで攪拌しながら、ポリウレタン水分散体(水系ウレタン樹脂(非反応、自己乳化型)、商品名:スーパーフレックス470、第一工業製薬(株)製、固形量:2g、固形分率:38質量%)を滴下した。その後、室温下攪拌を30分間行い、化学修飾セルロース繊維/ポリウレタン樹脂水分散体を得た。この分散体を、膜厚300μmとなるようにテフロン(登録商標)コーティングシャーレに投入し、40℃で一晩乾燥した。その後、80℃で6時間乾燥した後、120℃で30分間乾燥することで、皮膜を作製した。
【0094】
(実施例2−2〜2−5、比較例2−1〜2−4)
セルロース繊維の種類を、表3に示すものに変えた以外は、実施例1と同様にして化学修飾セルロース繊維/ポリウレタン樹脂水分散体を得て、皮膜を作製した。なお、実施例2−2,2−3,2−4,2−5及び比較例2−4で用いたセルロース繊維は、いずれも微細化処理後の化学修飾セルロース繊維である。
【0095】
得られた皮膜について、皮膜物性(100%モジュラス、200%モジュラス)の評価を行った。結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3中の成分の詳細は以下の通りである。
・HPC:比較例1−1で作製したヒドロキシプロピルセルロース
・CNF:セルロースナノファイバー(NBKP由来、化学修飾なし、平均繊維幅:20nm)
・SF470:第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス470」
【0098】
表3に示すように、実施例2−1〜2−5であると、繊維を配合していない比較例2−3に対して機械的強度が顕著に向上していた。
【0099】
[実施例3.化学修飾セルロース微細繊維を含む樹脂組成物(アクリル樹脂)]
各実施例及び各比較例における測定・評価方法は以下の通りである。
【0100】
(剥離試験)
厚さ100μmのコロナ処理したPETシートの上に、得られた化学修飾セルロース繊維/アクリル樹脂乳化分散液を、乾燥厚20μmとなるようにコーティングし、100℃×15分で乾燥した。これを2枚貼り合せローラーで圧着後、25mm×150mmの短冊状に切り出し、20℃下で6時間静置した。50mm/分の速度で180度剥離試験を実施した。また、剥離強度について比較例3−2の値を100とした指数を算出した。
【0101】
(塗工性)
上記剥離試験において基板に化学修飾セルロース繊維/アクリル樹脂乳化分散液を塗布した際の塗工性を下記の基準で評価した。
○:塗工可能
×:塗工不可能
【0102】
(製造例3−1.アクリル樹脂乳化分散液の調製)
モノマーとして、メタクリル酸2−エチルヘキシル123.75g、アクリル酸ブチル123.75g、アクリル酸2.5gを配合し、次いでアニオン性界面活性剤5.0g(第一工業製薬(株)製、「ハイテノール NF−13」)、及びイオン交換水105gを加え、ホモミキサーで混合して、混合モノマー乳濁液を調製した。次に、攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下漏斗を備えた反応器に、イオン交換水122g、炭酸水素ナトリウム0.25gを仕込み、窒素を通気しながら撹拌を継続し、ここに上記の事前調製した混合モノマー乳濁液の一部36gを仕込み、80℃に昇温した。その後、15分間撹拌を継続した後に、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5gをイオン交換水20gに溶解したものを加えて重合を開始させた。次いで、重合開始剤の添加15分後より3時間かけて、混合モノマー乳濁液の残部324部を滴下して重合させた。さらに、続けて2時間熟成した後、冷却してアンモニア水でpH8に調整してアクリル樹脂乳化分散液を得た。
【0103】
(実施例3−1 化学修飾セルロース繊維/アクリル樹脂乳化分散液の調製)
実施例1−1で得られた微細化処理後の化学修飾セルロース繊維の水分散体2.0g(固形量:0.02g、固形分率:1.0質量%)を化学修飾セルロース繊維とアクリル樹脂の固形分質量比が50/50となるようにアクリル樹脂乳化分散液に投入し、20分間攪拌した後、化学修飾セルロース繊維/アクリル樹脂乳化分散液を得た。
【0104】
(実施例3−2〜3−3、比較例3−1〜3−2)
セルロース繊維の種類を表4に示すものに変えた以外は、実施例1と同様にして化学修飾セルロース繊維/アクリル樹脂乳化分散液を得た。なお、実施例3−2,3−3で用いたセルロース繊維は、いずれも微細化処理後の化学修飾セルロース繊維である。
【0105】
得られた化学修飾セルロース繊維/アクリル樹脂乳化分散液について、塗工性、剥離試験の評価を行った。結果を表4に示す。なお、表4中のCNFは表3と同じである。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示すように、実施例3−1〜3−3であると、繊維を配合していない比較例3−2に対して剥離強度が顕著に向上していた。
【0108】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。