(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算部は、選択した前記差分の区間内の前記差分強度比データの前記差分に対して、前記差分に対応する前記強度比を重み付けし、選択した前記差分の区間における重心を算出する
請求項3に記載の質量分析データ処理装置。
前記演算部は、予め設定した残差の区間に内包される前記残差を有する前記ピークデータを検索し、検索した前記ピークデータの数からなる度数をカウントし、残差度数分布データを算出する
請求項5に記載の質量分析データ処理装置。
前記演算部は、残差度数分布データから前記ピークデータの前記度数が所定値以上の前記残差の区間を選択し、選択した前記残差の区間の前記ピークデータを前記ピークリストから抽出する
請求項6に記載の質量分析データ処理装置。
前記演算部は、前記差分強度比分布データを算出する際に、前記差分の区間内に存在する前記差分強度比データの数をカウントし、カウントした前記差分強度比データの数が所定の数以下の区間を排除する
請求項1から10のいずれか1項に記載の質量分析データ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の質量分析データ処理装置、質量分析システム及び質量分析データ処理方法の実施の形態例について、
図1〜
図22を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、説明は以下の順序で行うが、本発明は、必ずしも以下の形態に限定されるものではない。
【0013】
1.質量分析システムの構成
まず、本発明の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる質量分析システムについて
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本例の質量分析システムを示す概略構成図、
図2は、質量分析システムを示すブロック図である。
【0014】
図1に示す質量分析システム100は、導入された試料を解析するために用いられるシステムである。
図1に示すように、質量分析システム100は、質量分析計(MS)1と、質量分析データ処理装置10と、を備えている。質量分析計1と質量分析データ処理装置10は、無線、又は有線のネットワーク(LAN(Local Area Network)、インターネット、専用線等)を介して接続され、互いにデータの送受信が可能である。
【0015】
質量分析計1は、導入された試料をイオン化し、イオンの質量電荷比(m/z)毎の検出強度を検出し、マススペクトルデータを生成する装置である。
図2に示すように、質量分析計1は、試料を導入するサンプル導入部21と、イオン源22と、分離部23と、検出部24と、を備えている。
【0016】
イオン源22は、サンプル導入部21に導入された試料をイオン化させる。イオン源22によるイオン化法としては、電子イオン化(electron ionization:EI)法、化学イオン化(chemical ionization:CI)法、高速原子衝撃(fast atom bombardment:FAB)法、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization:ESI)法、大気圧化学イオン化(atmospheric pressure chemical ionization:APCI)法や、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(matrix-assisted laser desorption/ ionization:MALDI)法等その他各種のイオン化法が適用されるものである。なお、本例のイオン源のイオン化法としては、MALDI法が用いられている。
【0017】
分離部23は、イオン源22で生成されたイオンを質量に応じて分離させる。分離部23としては、磁場型、四重極型、イオントラップ型、フーリエ変換イオンサイクトロン共鳴型、飛行時間型等や、これらを複数組み合わせたもの等その他各種の型の質量分離部が適用されるものである。なお、本例の質量分離部としては、飛行時間型が用いられている。
【0018】
検出部24は、分離部23により分離されたイオンを検出する。また、検出部24は、検出したイオンの検出強度をアナログ信号に変換して、後述する質量分析データ処理装置10のデータ処理部2cに送信する。
【0019】
質量分析データ処理装置10は、制御部2と、記憶部3と、入力部4と、表示装置5とを備えている。制御部2は、質量分析計1の制御を行うコントロール部2aと、質量分析計1から質量分析データを取得する取込部2bと、データ処理部2cと、表示装置5を制御する表示制御部2dとを有している。
【0020】
コントロール部2aには、入力部4が接続されている。入力部4としては、例えばキーボードやスイッチ等の各種入力手段が適用される。取込部2bは、質量分析計1からマススペクトルデータを所得する。そして、取込部2bは、取得した質量分析データをデータ処理部2cに送信する。
【0021】
データ処理部2cには、取得した質量分析データに対して演算処理を行う。データ処理部2cは、演算部11と、演算部11は、取込部2bが取得した質量分析データに対して演算処理を行い、導入された試料の繰り返し構造や末端構造を算出する。
【0022】
また、データ処理部2cには、不図示の探索部や、絞り込み部が設けられている。探索部は、演算部11が演算処理を行った情報と、入力部4に入力された情報や、記憶部3に格納された情報に基づいて、組成を推定する。絞り込み部は、探索部が探索した組成を、予め設定された条件に基づいて、絞り込み処理を行う。絞り込み部は、絞り込まれた組成の候補を表示制御部2dや記憶部3に送信する。
【0023】
また、表示制御部2dは、データ処理部2cで演算処理されたデータや、取込部2bが取得した質量分析データ等を表示装置5に表示させるための処理を行う。
【0024】
記憶部3には、制御部2から送信された各種データや、組成推定の際に用いられる原子の精密質量等が質量電荷比(m/z値)として格納されている。
【0025】
質量分析データ処理装置10としては、質量分析計1と一体に設けられた制御装置を適用してもよく、あるいは、外部の携帯情報処理端末や、PC(パーソナルコンピューター)等を適用してもよい。
【0026】
2.第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法
次に、上述した構成を有する質量分析システム100を用いた第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法について
図3〜
図19を参照して説明する。
図3は、データ処理方法を示すフローチャートである。また、
図4は、このデータ処理方法の説明で測定を行う試料のデータである。
【0027】
図4に示す試料A、試料B及び試料Cは、繰り返し構造を有するポリマーである。試料Aと試料Bは、同じ繰り返し構造(C
2H
4O)を有している。そして、試料Cは、試料A及び試料Bと異なる繰り返し構造(C
3H
6O)を有している。また、試料Aと試料Bは、異なる末端構造(試料Aの末端構造は、H
2ONa、試料Bの末端構造はH
2Na)を有している。なお、試料Cは、試料Aと試料Bとは異なる末端構造(C
2H
4ONa)を有している。ここでは、試料A、試料B及び試料Cの混合物のマススペクトルデータのデータ処理方法について説明する。
【0028】
図5Bは、試料Aのマススペクトルデータ、
図5Cは、試料Bのマススペクトルデータ、
図5Dは、試料Cのマススペクトルデータである。そして、
図5Eは、ランダムに質量電荷比(m/z値)のピーク位置を決めたノイズデータである。そして、
図5Aは、サンプルデータとして、試料A、試料B及び試料Cの混合物からなる混合試料のマススペクトルデータである。なお、
図5Aに示す混合試料のマススペクトルデータには、
図5Eに示すノイズデータが含まれている。
【0029】
そして、
図5A〜
図5Eにおいて、縦軸は、強度(I)を示し、横軸は、質量電荷比(m/z値)を示している。強度(I)としては、相対強度でもよく、あるいは絶対強度を用いてもよい。ここでは、多数のピークが観測されて複雑な
図5Aに示すマススペクトルデータを用いたデータ処理方法について説明する。
【0030】
図3に示すように、まず、使用者は、質量分析計1を用いて導入された試料のマススペクトルを測定する(ステップS11)。次に、質量分析データ処理装置10における制御部2の取込部2bは、質量分析計1から
図5Aに示すマススペクトルデータを取得する。
【0031】
図6は、
図5Aのマススペクトルデータから作成されたピークリストである。
次に、制御部2のデータ処理部2cは、取得したマススペクトルデータからピークを抽出し、
図6に示すピークリストを作成する(ステップS12)。
図6に示すように、ピークリストには、ピークデータ毎に、質量電荷比(m/z)と、強度(I)が登録される。なお、ピークリストを作成する際に、同一組成由来の同位体イオンのピークデータのピークを一つにまとめる処理を実施することが好ましい。
【0032】
そして、データ処理部2cは、作成したピークリストを記憶部3に格納する。また、データ処理部2cは、表示制御部2dを介して作成した
図6に示すピークリストを表示装置5に表示させてもよい。これにより、使用者は、測定した混合試料のマススペクトルデータのピークリストを視認することができる。次に、演算部11は、作成したピークリストから差分リストを作成する(ステップS13)。
【0033】
図7は、差分リストの作成方法を示す説明図である。
図7に示すように、演算部11は、マススペクトルデータ又はピークリストにおける全てのピークデータ間の質量電荷比(m/z値)、すなわち質量の差分dを算出する。例えば、ピークデータがn個ある場合は、算出される差分dの数は、n(n−1)/2個となる。
【0034】
具体的には、演算部11は、以下に示す処理を全てのピークデータの組み合わせに対して実施する。まず、2つのピークデータの質量電荷比(m/z値)の差分dを算出する。差分dの算出は、質量電荷比が大きいものから小さいものを差し引く。なお、差分dとしては、2つのピークデータの質量電荷比の差の絶対値を用いてもよい。次に、差分dを算出する際に用いた2つのピークデータの強度(I)の比である強度比(重み)yを算出する。強度比(重み)yは、2つのピークデータのうち強度(I)が大きい方を分母とし、強度(I)が小さい方を分子として算出する。
【0035】
そして、演算部11は、算出した差分dと、この差分dに対応する強度比(重み)yからなる差分強度比データを差分リストに登録する。これにより、
図8に示すような、差分リストが作成される。演算部11は、作成した差分リストを記憶部3に格納する。また、演算部11は、表示制御部2dを介して作成した差分リストを表示装置5に表示させてもよい。
【0036】
次に、演算部11は、後述するステップS15の処理で用いる区間条件を設定する(ステップS14)。区間条件としては、後述する差分強度比分布データを作成する範囲と、差分強度比分布データにおける区間の刻み幅を設定する。差分強度比分布データを作成する範囲は、解析を行う試料の繰り返し構造として想定される組成の質量電荷比(m/z値)、すなわち繰り返し構造の想定される精密質量を内包する範囲に設定される。区間の刻み幅は、組成推定を行う際の質量精度や、解析を行う繰り返し構造の質量精度等よりも大きい値に設定される。
【0037】
例えば、繰り返し構造の質量が44であると想定される場合、差分強度比分布データの作成する範囲は、20−60に設定される。また、求める質量精度が0.005uであれば、区間の刻み幅は、0.01に設定される。
【0038】
なお、区間の刻み幅のみを設定し、差分強度比分布データの作成の範囲は設定しなくてもよい。しかしながら、差分強度比分布データの作成の範囲を予め設定することで、演算処理を簡略化することができると共に、同位体イオンの差分強度比データを排除することができる。また、ステップS14の区間条件は、質量分析データ処理装置10の演算部11で行ってもよく、使用者が、入力部4を介して質量分析データ処理装置10に入力してもよい。
【0039】
次に、演算部11は、ステップS14の処理で設定された区間条件に基づいて、差分強度比分布表及び差分ヒストグラムを作成する(ステップS15)。具体的には、設定された条件を元に、演算部11は、
図8に示す差分リストから各区間に内包される差分dを有する差分強度比データを検索する。そして、演算部11は、検索した各区間に内包される差分dを有する差分強度比データの全ての強度比(重み)yの合計する。例えば、ある区間に内包される差分dを有する差分強度比データが複数個該当する場合、該当する全ての差分強度比データの強度比(重み)yの値を加算し、合計を算出する。これにより、演算部11によって、差分dの区間と、各区間の強度比(重み)yの合計からなる差分強度比分布データが算出される。
【0040】
また、演算部11によって算出された差分強度比分布データを用いることで、後述する解析処理を容易に行うことができ、多数のピークが観測される複雑なマススペクトルデータから特定の試料の繰り返し構造や、末端構造の解析等を行うことができる。
【0041】
次に、演算部11は、算出した差分強度比分布データに基づいて、
図9に示すような差分強度比分布表及び
図10に示すような差分ヒストグラムを作成する。
図10に示す差分ヒストグラムでは、縦軸が強度比(重み)yの合計を示しており、横軸が差分dの分布を示している。また、
図11に示す差分ヒストグラムは、
図10に示す差分ヒストグラムからステップS14で設定された範囲を抽出したものである。
【0042】
そして、演算部11は、算出した差分強度比分布データや、
図9に示す差分強度比分布表、
図10及び
図11に示す差分ヒストグラムを記憶部3に格納する。また、データ処理部2cは、作成した差分強度比分布表や差分ヒストグラムを、表示制御部2dを介して表示装置5に表示させてもよい。これにより、表示装置5に表示された差分強度比分布表や差分ヒストグラムから、使用者は、試料の繰り返し構造を解析することができる。
【0043】
次に、演算部11は、差分強度比分布表又は差分ヒストグラムから予め設定された第1所定値以上の強度比(重み)yの合計を有する差分dの区間があるか否かを判断する(ステップS16)。ステップS16の処理において、第1所定値以上の強度比の合計を有する差分dの区間がないと演算部11が判断した場合(ステップS16のNO判定)、作成した差分ヒストグラムには選択する対象が存在していないと判断し、質量分析データ処理装置10は、データ処理動作を終了する。
【0044】
これに対して、ステップS16の処理において、第1所定値以上の強度比(重み)yの合計を有する差分dの区間があると演算部11が判断した場合(ステップS16のYES判定)、演算部11は、強度比(重み)yの合計の値が最も高い差分dの区間を選択する(ステップS17)。例えば、
図10及び
図11に示す差分ヒストグラムでは、44.02−44.03の区間が選択される。なお、このステップS17の処理で選択された差分dの区間内に、繰り返し構造の質量が内包されている。
【0045】
また、ステップS16の処理及びステップS17の処理は、表示装置5に表示された差分強度比分布表や差分ヒストグラムを用いて使用者が行ってもよい。または、演算部11は、算出した差分強度比分布データからステップS16の処理及びステップS17の処理を行ってもよい。
【0046】
ここで、取得したマススペクトルデータ上に強度(I)が同程度のピークデータが2つある場合、ある差分dの区間の差分強度比データの数(出現数)が1つであるにも関わらず、差分強度比分布データでの強度比(重み)yの合計が高くなる場合がある。その結果、ステップS17の処理で、演算部11が、差分dの差分強度比データの数(出現数)が1つしかない差分dの区間を選択してしまう場合がある。
【0047】
このような不具合を回避するために、演算部11は、差分強度比分布データを算出する際に、区間内の差分強度比データの強度比(重み)yを合計するだけでなく、各区間内に存在する差分強度比データの数(出現数)をカウントしてもよい。そして、区間内に存在する差分強度比データの出現数が所定の数以下の区間のデータを排除する。これにより、ステップS17の処理において、差分強度比データの数(出現数)が少ない区間を選択してしまうという不具合を回避することができ、繰り返し構造の質量が含まれる差分dの区間を正確に演算部11で選択することができる。
【0048】
次に、演算部11は、選択した区間に該当する全ての差分強度比データの差分dに対して、該当する差分強度比データの強度比(重み)yを重み付けとして用いて、選択した差分dの区間の重心mrを算出する(ステップS18)。この算出された重心mrが、繰り返し構造の質量となる。これにより、多数のピークが観測される複雑なマススペクトルデータから繰り返し構造の質量を正確に解析することができる。
【0049】
なお、ステップS18の処理における重心mrの算出は、表示装置5に表示された差分強度比分布表及び差分ヒストグラムを用いることで、使用者が行うこともできる。
【0050】
次に、演算部11は、算出した重心(繰り返し構造の質量)mrから、全てのピークデータの残差eと、重合度(繰り返し構造の数)nを算出する(ステップS19)。ここで、残差eと、重合度nは、各ピークデータの質量電荷比をm、重心mrとすると、下記式から算出される。なお、重合度nは、下記式を満たす整数である。
[式]
e=m−n・mr
n・mr<m<(n+1)・mr
【0051】
演算部11は、ステップS19の処理で算出した各ピークデータの残差eと、重合度nを記憶部3に格納すると共に、
図6に示すピークリストにおいて、対応するピークデータに残差eと重合度nを追加し、登録する。これにより、
図12に示すような、ピークデータに残差eと重合度nが追加されたピークリストを作成することができる。また、演算部11は、
図12に示す各ピークデータに残差eと重合度nが追加されたピークリストを、表示制御部2dを介して表示装置5に表示させてもよい。
【0052】
次に、演算部11は、ステップS19の処理で算出した各ピークデータの残差eを用いて残差度数分布データを算出し、残差度数分布表及び残差ヒストグラムを作成する(ステップS20)。まず、演算部11は、残差度数分布データを作成する範囲と、残差度数分布データにおける残差eの区間の刻み幅を設定する。残差度数分布データを作成する範囲は、0から重心mrまでとなる。また、残差eの区間の刻み幅は、差分ヒストグラムと同様に、求める質量精度よりも大きい値に設定される。例えば、求める質量精度が0.005uであれば、区間の刻み幅は、0.01uに設定される。
【0053】
そして、演算部11は、設定した範囲と、区間の刻み幅に基づいて、
図12に示すピークリストから残差eの各区間に内包される残差eを有するピークデータを検索する。次に、演算部11は、検索した各区間に内包される残差eを有するピークデータの数(出現数)をカウントする。このピークデータの数(出現数)が度数となる。これにより、演算部11によって残差度数分布データが算出される。
【0054】
次に、演算部11は、算出した残差度数分布データに基づいて、
図13に示すような残差度数分布表及び
図14に示すような残差ヒストグラムを作成する。
図14に示す残差ヒストグラムでは、縦軸が度数(出現数)を示しており、横軸が残差eの分布を示している。
【0055】
そして、演算部11は、算出した残差度数分布データや、
図13に示す残差度数分布表、
図14に示す残差ヒストグラムを記憶部3に格納する。また、データ処理部2cは、作成した残差度数分布表や残差ヒストグラムを、表示制御部2dを介して表示装置5に表示させる。これにより、表示装置5に表示された残差度数分布表や残差ヒストグラムから、使用者は、試料の末端構造を解析することができる。
【0056】
次に、演算部11は、残差度数分布表又は残差ヒストグラムから予め設定された第2所定値以上の度数(出現数)を有する残差eの区間があるか否かを判断する(ステップS21)。第2所定値は、解析の対象となる試料で想定される重合度の分布に基づいて設定する。例えば、重合度の分散が広いと想定される試料の場合は、第2所定値の値を増やし、重合度の分散が狭いと想定される試料の場合は、第2所定値の値を減らす。
【0057】
なお、演算部11は、算出した残差度数分布データを用いてステップS21の処理を行ってもよい。
【0058】
ステップS21の処理において第2所定値以上の度数(出現数)を有する残差eの区間がないと演算部11が判断した場合(ステップS21のNO判定)、演算部11は、差分ヒストグラムからステップS17で選択した差分dの区間以外に、第1所定値以上の強度比(重み)yの合計を有する差分dの区間が残っているか否かを判断する(ステップS23)。ステップS23の処理において、第1所定値以上の強度比の合計を有する差分dの区間がないと演算部11が判断した場合(ステップS23のNO判定)、作成した差分リストには選択する対象が存在していないと判断し、質量分析データ処理装置10は、データ処理動作を終了する。
【0059】
また、ステップS23の処理において、第1所定値以上の強度比(重み)yの合計を有する差分dの区間が残っていると演算部11が判断した場合(ステップS23のYES判定)、演算部11は、強度比(重み)yの合計の値が2番目に高い区差分dの間を選択する(ステップS24)。そして、ステップS24の処理において、演算部11が2番目に高い差分dの区間を選択すると、データ処理部2cは、ステップS18の処理に戻る。
【0060】
また、ステップS21の処理において第2所定値以上の度数(出現数)を有する残差eの区間があると演算部11が判断した場合(ステップS21のYES判定)、演算部11は、
図12に示すピークストから、その区間に該当するピークデータを抽出する(ステップS22)。
図14に示す残差ヒストグラムでは、24.99−25.00の区間と、40.98−40.99の区間が選択され、これらの区間に該当するピークデータがそれぞれ抽出される。
【0061】
また、演算部11は、ピークデータを抽出する際に、各ピークデータに登録された重合度nを用いて、重合度nの連続性を判定してもよい。例えば、抽出されたピークデータの重合度nが、他の抽出されたピークデータの重合度nに対して3以上離れているピークデータは連続していないと判断できる。そして、演算部11は、該当するピークデータを抽出しない。具体的には、選択した区間に該当するピークデータの重合度nが、それぞれn=1、8、9,11、12の場合、重合度nが1のピークデータは、他のピークデータの重合度nに対して3以上離れているため、連続していないと判断され、演算部11によって抽出されない。
【0062】
そして、データ処理部2cは、抽出されたピークデータを、それぞれ対応する重心(繰り返し構造の質量)mrや、残差aの区間ごとにグループ分けして管理する。そして、各グループは、同一の繰り返し構造と末端構造をもつ試料のピークデータの集まりとしてみなすことができる。
【0063】
次に、演算部11は、各グループにある全てのピークデータの残差eに対して強度(I)を重み付けし、グループ内における残差eの重心meを算出する。この算出された残差eの重心meがグループに対応する試料の末端構造の質量となる。これにより、各グループ、すなわち特定の試料の末端構造の正確な質量を算出することができる。
【0064】
また、データ処理部2cは、グループ毎に、重心(繰り返し構造の質量)mrと、重心(末端構造の質量)meを用いて組成推定を行うこともできる。ここで、算出された末端構造の質量meが10を下回る等の想定される分子量として小さすぎる場合は、適宜繰り返し構造の質量mrを加えることで組成推定を行うことができる。さらに、各グループの平均分子量や、分散度を演算部11によって算出することができる。
【0065】
図15Aは、ステップS22の処理で選択された残差eの区間が40.98−40.99に該当するピークデータを抽出したピークリストであり、
図15Bは、ステップS22の処理で選択された残差eの区間が24.99−25.00に該当するピークデータを抽出したピークリストである。
【0066】
図15Aに示すピークリストから、残差e、すなわち末端構造の質量の範囲は、40.98−40.99であり、繰り返し構造の質量は、44であると解析できる。さらに、各ピークデータの強度(I)は、100以下であり、重合度nは、15〜29である。そのため、
図15Aに示す抽出されたピークリストは、
図4に示す試料Aに相当するピークリストであと判断できる。
【0067】
また、
図15Bに示ピークリストから、残差e、すなわち末端構造の質量の範囲は、24.99−25.00であり、繰り返し構造の質量は、44であると解析できる。さらに、各ピークデータの強度(I)は、5以下であり、重合度nは、17〜31である。そのため、
図15Bに示す抽出されたピークリストは、
図4に示す試料Bに相当するピークリストであると判断できる。
【0068】
また、データ処理部2cは、
図15A及び
図15Bに示すピークリストを、表示制御部2dを介して表示装置5に表示させてもよい。これにより、使用差は、表示装置5に表示された
図15A及び
図15Bに示すピークリストを用いて、各試料の解析を容易に行うことができる。
【0069】
次に、データ処理部2cは、
図6に示すピークリストからステップS22の処理で抽出したピークデータを除外し、ステップS13の処理に戻る。そして、演算部11は、ステップS22の処理で抽出したピークデータが除外されたピークリストを用いて差分リストを作成する(ステップS13)。そして、作成された差分リストから演算部11は、再度、区間条件を設定(ステップS14)すると共に、差分強度比分布データを算出し、差分ヒストグラム及び差分強度比分布表を作成する(ステップS15)。
【0070】
図16は、ステップS22の処理で抽出したピークデータが除外されたピークリストを用いて作成された差分ヒストグラムである。
図16に示す差分ヒストグラムでは、58.04−58.05の区間が選択される(ステップS17)。そして、演算部11は、選択した差分dの区間に該当する差分強度比データの差分dに対して強度比(重み)yを重み付けとして用いて、選択した差分dの区間の重心、すなわち繰り返し構造の質量を算出する(ステップS18)。
【0071】
そして、演算部11は、算出した重心から、ステップS22の処理で抽出したピーデータクが除外されたピークリストにおける全てのピークデータの残差eと、重合度nを算出する(ステップS19)。そして、演算部11は、算出した各ピークデータの残差eを用いて、再度、残差度数分データを算出し、残差度数分布表及び残差ヒストグラムを作成する(ステップS20)。
【0072】
図17は、ステップS22の処理で抽出したピークデータが除外されたピークリストに基づいて算出された残差度数分布データから作成された残差ヒストグラムである。
図17に示す残差ヒストグラムでは、8.97−8.98の残差eの区間が選択され、この区間に該当するピークデータが抽出される(ステップS21、ステップS22)。
【0073】
図18は、
図17で選択された残差eの区間に該当するピークデータを抽出したピークリストである。
図18に示すピークリストから、残差e、すなわち末端構造の質量の範囲は、8.97−8.98であり、繰り返し構造の質量は、58であると解析できる。さらに、各ピークデータの強度(I)は、10以下であり、重合度nは、12〜24である。なお、算出された残差eの範囲は、8.97−8.98で10以下の小さい数字であるため、この残差eに繰り返し構造の質量を加算すると、66.97−66.98となる。そのため、
図18に示す抽出されたピークリストは、
図4に示す試料Cに相当するピークリストであると判断できる。
【0074】
このように、本例のデータ処理方法によれば、
図5Aに示す3つの試料A、B、Cを混合させた混合物のマススペクトルデータから各試料A、試料B、試料Cのピークリストを容易に抽出することができ、それぞれの繰り返し構造や末端構造を解析することができる。
【0075】
また、ステップS22が再度終了すると、データ処理部2cは、
図6に示すピークリストからステップS22の処理で抽出したピークデータを除外し、ステップS13の処理に戻る。そして、演算部11は、ステップS22の処理で抽出したピークデータが除外されたピークリストを用いて差分リストを作成し、差分ヒストグラムを作成する。
【0076】
図19は、残りのピークデータのピークリストで作成された差分ヒストグラムである。
図19に示す差分ヒストグラムには、第1所定値以上の強度比の合計を有する差分dの区間が存在していない。そのため、演算部11は、作成した差分ヒストグラムには選択する対象が存在していないと判断(ステップS16のNO判定)する。このような工程により、質量分析データ処理装置10は、データ処理動作を終了する。
【0077】
3.第2の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法
次に、
図20を参照して第2の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法について説明する。
図20は、第2の実施の形態例にかかる差分ヒストグラムである。
【0078】
第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法では、差分強度比分布データを算出する際に、ある差分dの区間に該当する差分強度比データの強度比(重み)yの合計を算出している。これに対して、第2の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法では、差分強度比分布データを算出する際に、ある差分dの区間に該当する差分強度比データの強度比(重み)yの2乗した値を合計している。なお、強度比(重み)yを2乗する処理は、差分強度比分布データを算出する際に行ってもよく、差分強度比データすなわち差分リストを作成する際におこなってもよい。
【0079】
これにより、
図20に示すように、差分ヒストグラムを作成した際に、差分dの区間毎における強度比(重み)yの合計した値の差が大きくなる。その結果、上述したステップS16やステップS17の処理において、差分dの区間を選択する際を正確に行うことができる。
【0080】
なお、第2の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法では、強度比(重み)yを2乗した例を説明したが、強度比(重み)yを自乗する指数は2に限定されるものではなく、任意に設定されるものである。
【0081】
その他の構成及び処理方法は、第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成及び処理を有する質量分析データ処理方法によっても第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法と同様の作用効果を得ることができる。
【0082】
4.第3の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法
次に、
図21及び
図22を参照して第3の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法について説明する。
図21は、第1の実施の形態例にかかる差分ヒストグラム及び残差ヒストグラムを示す説明図、
図22は、第3の実施の形態例にかかる差分ヒストグラム及び残差ヒストグラムを示す説明図である。
【0083】
第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法では、差分強度比分布データ及び残差度数分布データを算出する際に、差分d及び残差eの区間の刻み幅t1を質量精度よりも大きい値に設定している。そして、算出された差分強度比分布データ及び残差度数分布データから
図21A及び
図21Bに示すような差分ヒストグラム及び残差ヒストグラムを作成している。また、
図21Cに示すように、区間毎に重心を算出することで、繰り返し構造や末端構造の質量を算出している。
【0084】
これに対して、第3の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法では、分強度比分布データ及び残差度数分布データを算出する際に、差分d及び残差eの区間の刻み幅t2を質量精度よりも小さい値に設定している。例えば、求める質量精度が0.005uであれば、差分d及び残差eの区間の刻み幅t2は、0.001uに設定される。
【0085】
そして、算出された分強度比分布データ及び残差度数分布データから
図22A及び
図22Bに示すような差分ヒストグラム及び残差ヒストグラムを作成する。そして、
図22Bに示す差分ヒストグラム及び残差ヒストグラムからピーク検出を行う。そして、このピーク検出を用いて上述するステップS17やステップS21の処理を行い、残差強度比データ及びピークデータから繰り返し構造や末端構造の質量を解析する。
【0086】
その他の構成及び処理方法は、第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成及び処理を有する質量分析データ処理方法によっても第1の実施の形態例にかかる質量分析データ処理方法と同様の作用効果を得ることができる。
【0087】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0088】
上述した実施の形態例では、データ処理部2cがピークリスト、差分リスト、差分強度比分布表、差分ヒストグラム、残差強度分布表、残差ヒストグラムや抽出したピークリスト等を表示装置5に表示させる例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、質量分析データ処理装置10に、データ処理部2cで処理されたデータを用紙に印刷部を設けてもよい。そして、この印刷部を用いて用紙に、ピークリスト、差分リスト、差分強度比分布表、差分ヒストグラム、残差強度分布表、残差ヒストグラムや抽出したピークリスト等に印刷させてもよい。
【0089】
質量分析データ処理装置10に外部の携帯情報端末や、PC(パーソナルコンピュータ)に情報を出力する出力部を設けてもよい。そして、この出力部から外部の携帯情報端末やPCに情報を出力し、外部の携帯情報端末やPCにピークリスト、差分リスト、差分強度比分布表、差分ヒストグラム、残差強度分布表、残差ヒストグラムや抽出したピークリスト等を表示させたり、外部の携帯情報端末やPCを用いて用紙に印刷させたりしてもよい。