(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料に照射される電子ビームを収束する対物レンズと、前記試料を透過した電子ビームを検出する検出器と、を備えた電子顕微鏡における対物レンズの収差測定方法であって、
前記対物レンズにコマ収差を導入する工程と、
前記対物レンズにコマ収差を導入する工程の前に、前記対物レンズの収差を測定する工程と、
前記対物レンズにコマ収差を導入する工程の後に、前記対物レンズの収差を測定する工程と、
コマ収差を導入する前後の前記対物レンズの収差の測定結果に基づいて、前記検出器の検出面における前記対物レンズの光軸の位置を求める工程と、
を含む、収差測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0026】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0027】
電子顕微鏡100は、走査透過電子顕微鏡(STEM)である。すなわち、電子顕微鏡100は、電子ビームで試料S上を走査し、電子ビームの照射位置ごとに試料Sを透過した電子ビームの強度情報を取得して走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を生成する装置である。
【0028】
電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子源10と、照射系レンズ12と、照射系絞り14と、照射系偏向器16と、走査コイル18と、対物レンズ20と、試料ステージ22と、試料ホルダー23と、中間レンズ24と、投影レンズ26と、結像系偏向器28と、分割型検出器30(検出器の一例)と、収差測定用絞り32と、制御装置40と、処理部50と、操作部60と、表示部62と、記憶部64と、を含む。
【0029】
電子源10は、電子ビームを放出する。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子ビームを放出する電子銃である。
【0030】
照射系レンズ12は、電子源10から放出された電子ビームを試料Sに照射する。照射系レンズ12は、図示はしないが、コンデンサーレンズやコンデンサーミニレンズなどの複数の電子レンズで構成されていてもよい。コンデンサーレンズは、電子源10から放出
された電子ビームを収束する。コンデンサーミニレンズは、コンデンサーレンズと対物レンズ20との間に配置される。コンデンサーミニレンズは、観察モードに適した収束角を持つ電子ビームを形成する。
【0031】
照射系絞り14は、試料Sに照射される電子ビームの開き角や照射量を制御するための絞りである。
【0032】
照射系偏向器16は、電子源10から放出された電子ビームを二次元的に偏向させる。照射系偏向器16は、電子ビームを試料S上でシフトさせたり、電子ビームを試料S上で傾斜させたりすることができる。照射系偏向器16は、例えば、2段の偏向コイルで構成されており、1段目の偏向コイルで電子ビームを偏向し、2段目の偏向コイルで偏向した電子ビームを振り戻すことができる。なお、照射系偏向器16は、2段の偏向コイルで構成されている例に限定されない。照射系偏向器16は、例えば、多段に配置された偏向素子(偏向コイル、偏向板など)で構成されてもよい。照射系偏向器16で電子ビームを偏向させることにより、試料Sに入射する電子ビームを傾斜させることができる。
【0033】
走査コイル18(走査偏向器の一例)は、電子源10から放出された電子ビームを二次元的に偏向させる。走査コイル18は、電子ビーム(電子プローブ)で試料S上を走査するためのコイルである。
【0034】
対物レンズ20は、電子ビームを試料S上に収束させて、電子プローブを形成する。また、対物レンズ20は、試料Sを透過した電子ビームで結像する。
【0035】
電子顕微鏡100では、試料Sに電子ビームを照射するための照射系が、照射系レンズ12、照射系絞り14、照射系偏向器16、走査コイル18、および対物レンズ20を含んで構成されている。また、図示はしないが、照射系に、照射系(対物レンズ20)の収差を補正するための収差補正装置が組み込まれていてもよい。これにより、後述する収差測定の結果に基づき収差補正装置を動作させることで、照射系(対物レンズ20)の収差を低減できる。なお、電子顕微鏡100の照射系は、これらのレンズや、絞り、偏向器以外の光学素子を備えていてもよい。
【0036】
試料ステージ22は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ22は、試料ホルダー23を介して、試料Sを保持している。試料ステージ22は、試料Sを水平方向や鉛直方向に移動させることができる。また、試料ステージ22は、傾斜機構を有しており、試料Sを、互いに直交する2つの軸まわりに傾斜(回転)させることができる。
【0037】
中間レンズ24および投影レンズ26は、対物レンズ20で形成された像を分割型検出器30の検出面302に投影する。
【0038】
結像系偏向器28は、試料Sを透過した電子ビームを二次元的に偏向させる。結像系偏向器28は、分割型検出器30の前段(電子ビームの流れの上流側)に配置されている。結像系偏向器28で電子ビームを偏向させることにより、分割型検出器30の検出面302の所望の位置に電子ビームを入射させることができる。
【0039】
分割型検出器30は、試料Sを透過した電子ビームを検出する検出面302が複数の検出領域に分割された検出器である。
【0040】
図2は、分割型検出器30の検出面302を模式的に示す図である。
【0041】
分割型検出器30の検出面302は、
図2に示すように、複数の検出領域D1,D2,
D3,D4,D5,D6,D7,D8に分割されている。
図2に示す例では、分割型検出器30は、円環状の検出面302を偏角方向(角度方向、円周方向)に4等分することで形成された、4つの検出領域D1〜D8を備えている。各検出領域D1〜D8では、独立して電子ビームを検出することができる。
【0042】
なお、検出面302における検出領域の数は特に限定されない。分割型検出器30は、図示はしないが、例えば、偏角方向にN個(Nは正の整数)、動径方向にM層(Mは正の整数)に分割されて、N×M個の検出領域D1〜D(N×M)を有することができる(
図2に示す例ではN=4,M=2)。
【0043】
分割型検出器30は、例えば、図示はしないが、電子ビームを光に変換する電子−光変換素子(シンチレーター)と、電子−光変換素子を複数の検出領域D1〜D8に分割するとともに各検出領域D1〜D8からの光を伝送する光伝送路(光ファイバー束)と、光伝送路から伝送された検出領域D1〜D8ごとの光を電気信号に変換する複数の光検出器(光電子増倍管)と、を含んで構成されている。分割型検出器30は、検出領域D1〜D8ごとに、検出された電子ビーム(信号)の強度(信号量)に応じた信号を出力する。分割型検出器30の出力信号は、制御装置40で所定の処理(A/D変換、増幅など)が行われ、処理部50に送られる。
【0044】
収差測定用絞り32は、分割型検出器30(検出面302)の上方に配置されている。収差測定用絞り32は、移動可能に構成されており、例えば、収差を測定するためのSTEM像の撮影を行う際には分割型検出器30の上方に配置され、通常の試料Sの観察のためのSTEM像の撮影を行う際には退避位置(電子ビームの経路外)に配置される。収差測定用絞り32は、分割型検出器30の検出領域D1〜D8の電子ビームが入射する領域を制限する。
【0045】
図3は、収差測定用絞り32を分割型検出器30の上方に配置した状態を模式的に示す図である。なお、
図3は、収差測定用絞り32を電子ビームの入射方向から見た図である。
【0046】
収差測定用絞り32は、複数の絞り孔322を有している。各絞り孔322は、検出領域D1〜D8に対応して設けられている。
図3に示す例では、絞り孔322は、検出領域D1〜D8に1対1に対応して8個設けられている。絞り孔322の大きさ(開口の面積)は、対応する検出領域D1〜D8の大きさ(面積)よりも小さい。各検出領域D1〜D8には、対応する絞り孔322を通過した電子のみが検出される。すなわち、絞り孔322によって、各検出領域D1〜D8の電子が入射する領域を制限することができる。これにより、例えば、偏角方向の分解能を向上させることができる。
【0047】
なお、分割型検出器30では、絞り孔322の大きさが小さくなるに従って偏角方向の分解能が向上するが、検出される信号量が減少してしまうためSN比が悪化してしまう。そのため、絞り孔322の大きさは、要求される分解能およびSN比に応じて適宜設定される。
【0048】
収差測定用絞り32が、検出面302の中心からm層目(m=1,2,・・・,M)に配置されたN個の検出領域に対応するN個の絞り孔322を有している場合、絞り孔322は、360/N度おきに設けられる。例えば、
図3に示す例では、1層目に配置された4個の検出領域D1〜D4に対応する4個の絞り孔322が90度(360/4度)おきに設けられている。2層目についても同様に、4個の検出領域D5〜D8に対応する4個の絞り孔322が90度おきに設けられている。
【0049】
また、検出面302の中心からm層目に配置されたN個の検出領域に対応するN個の絞り孔322の偏角方向の配置は、検出面302の中心(軸304)からm−1層目に位置するN個の検出領域に対応するN個の絞り孔322の偏角方向の配置を、180/N度回転させた配置である。例えば、
図3に示す例では、2層目に配置された4個の検出領域D5〜D8に対応する4個の絞り孔322の偏角方向の配置は、1層目に配置された4個の検出領域D1〜D4に対応する4個の絞り孔322の角度方向の配置を45度(180/4度)回転させた配置である。検出領域D1と検出領域D2との境界を0度とした場合、検出領域D5〜D8に対応する4個の絞り孔322は、それぞれ65°、155°、245°、335°に配置され、検出領域D1〜D4に対応する4個の絞り孔322は、それぞれ20°、110°、200°、290°に配置されている。
【0050】
なお、収差測定用絞り32における絞り孔322の数や配置はこの例に限定されない。収差測定用絞り32における絞り孔322の数や配置は、測定する収差の種類に応じて決定される。
【0051】
収差測定用絞り32を挿入した状態で、試料Sを透過した電子ビームを分割型検出器30で検出することにより、分割型検出器30の各検出領域D1〜D8で得られるSTEM像は、試料Sに対する入射角および方位角の異なる電子ビームで得られた像となる。すなわち、収差測定用絞り32および分割型検出器30を用いることで、試料Sに対する入射角および方位角の異なる電子ビームで得られる複数のSTEM像を、同時に取得することができる。
【0052】
ここで、試料Sに対する電子ビームの入射角は、試料Sに入射する電子ビームの収束角ということもできる。また、試料Sに対する電子ビームの入射角は、対物レンズ20の光軸202に対する電子ビームの傾き角である。
【0053】
電子顕微鏡100では、分割型検出器30および収差測定用絞り32を用いて得られた、検出領域D1〜D8ごとのSTEM像を用いて、対物レンズ20(照射系)の収差を測定することができる。この収差測定方法については、後述する。
【0054】
制御装置40は、電子顕微鏡100を構成する各部(上述した光学系や試料ステージ22等)を制御するための装置である。制御装置40は、例えば、制御部52からの制御信号に基づいて、電子顕微鏡100を構成する各部を制御する。
【0055】
操作部60は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部50に送る処理を行う。操作部60は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0056】
表示部62は、処理部50によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。
【0057】
記憶部64は、処理部50が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部64は、処理部50の作業領域として用いられ、処理部50が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部64の機能は、ハードディスク、RAMなどのメモリー(記憶装置)により実現できる。
【0058】
処理部50は、記憶部64に記憶されているプログラムに従って、各種の制御処理や計算処理を行う。処理部50は、記憶部64に記憶されているプログラムを実行することで、以下に説明する、制御部52、画像生成部54、収差測定部56として機能する。処理
部50の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)でプログラムを実行することにより実現することができる。なお、処理部50の機能の少なくとも一部を、ASIC(ゲートアレイ等)などの専用回路により実現してもよい。処理部50は、制御部52と、画像生成部54と、収差測定部56と、を含む。
【0059】
制御部52は、電子顕微鏡100を構成する各部を制御するための制御信号を生成する処理を行う。制御部52は、例えば、操作部60を介したユーザーの指令に応じて制御信号を生成し、制御装置40に送る処理を行う。
【0060】
画像生成部54は、分割型検出器30の出力信号に基づいて、STEM像を生成する処理を行う。画像生成部54は、分割型検出器30の検出領域D1〜D8ごとにSTEM像を生成する。
【0061】
収差測定部56は、対物レンズ20(照射系)の収差を測定する処理を行う。収差測定部56の処理の詳細については、後述する。
【0062】
1.2. 収差測定方法
次に、第1実施形態に係る収差測定方法について説明する。第1実施形態に係る収差測定方法は、電子顕微鏡100における対物レンズ20(照射系)の収差測定方法である。
【0063】
図4は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の動作を説明するための図である。なお、
図4では、便宜上、照射系を構成するレンズ群(照射系レンズ12など)を照射系合成レンズ2とし、結像系を構成するレンズ群(中間レンズ24、投影レンズ26など)を結像系合成レンズ4としている。また、
図4は、照射系偏向器16で電子ビームを傾斜させている様子を図示している。また、
図4では、対物レンズ20の光軸202を通る電子ビームの経路を破線で表し、電子ビームの主光線の経路を一点鎖線で示している。
【0064】
対物レンズ20の上方には、電子源10側から、照射系絞り14、照射系合成レンズ2、照射系偏向器16、走査コイル18、対物レンズ20が配置されている。照射系偏向器16で電子ビームを偏向させることにより、対物レンズ20の光軸202に対する電子ビームの傾き(試料Sに対する電子ビームの入射角)を変化させることができる。そのため、電子顕微鏡100では、対物レンズ20の光軸202に対して電子ビームを傾けた状態で、試料Sを走査することができる。
【0065】
分割型検出器30の上方には、収差測定用絞り32が配置されている。そのため、電子顕微鏡100では、STEMモードにおける透過ディスク(ロンチグラム)の一部を選択してSTEM像を形成することができる。
【0066】
図5は、第1実施形態に係る収差測定方法の一例を示すフローチャートである。
【0067】
(1)電子顕微鏡の調整(S100)
照射系および結像系の調整、分割型検出器30のゲインおよびオフセットの調整、結像系のカメラ長の調整、収差測定用絞り32の挿入、などを行い、電子顕微鏡100を、収差測定用絞り32および分割型検出器30を用いてSTEM像が取得可能な状態にする。
【0068】
ここでは、
図4に示すように、対物レンズ20の光軸202と、分割型検出器30の軸304は一致していない。すなわち、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304との間に軸ずれが生じているものとする。
【0069】
ここで、対物レンズ20の光軸202とは、レンズの中心と焦点とを通る直線である。
分割型検出器30の軸304は、例えば、分割型検出器30の検出面302の中心である。分割型検出器30の軸304は、収差の計算の際に、座標原点となる位置である。
【0070】
(2)STEM像の取得(S102)
分割型検出器30の検出領域D1〜D8ごとにSTEM像を取得する。例えば、試料Sにて輪郭のはっきりとした目標物(粒子、膜孔など)を探し、当該目標物が視野内に含まれるようにSTEM像を取得する。STEM像は、分割型検出器30および収差測定用絞り32を用いて取得される。STEM像の倍率(走査倍率)は、幾何収差による像シフトが検出可能な程度の倍率とする。
【0071】
(3)収差の測定(S104)
取得した検出領域D1〜D8ごとのSTEM像の像シフト(幾何収差)から、対物レンズ20(照射系)の収差を計算する。収差測定用絞り32の絞り孔322の孔径を十分小さくすることで、各STEM像は、単一の入射角の電子ビームを用いて取得された像と近似できる。すなわち、得られた各STEM像を、検出面積が無限小の理想的な検出器によって得られたものと仮定して収差の計算を行うことができる。
【0072】
ここで、検出領域D1〜D8ごとのSTEM像から、収差を測定する手法について説明する。
【0073】
一般的な収差が存在している場合の像の移動量は、例えば、次式(1)のように表すことができる。ただし、ωは試料Sに対する複素入射角を表している。
【0075】
例えば、一次の収差係数(b
1,a
1)が残留していると考えられる場合には、1層の検出領域(例えば
図3に示す1層目の検出領域D1〜D4)で得られた4つのSTEM像により収差を測定することができる。
【0076】
また、例えば、一次の収差係数に加えて二次の収差係数(b
2,a
2)が残留していると考えられる場合には、二層の検出領域(例えば
図3に示す1層目の検出領域D1〜D4と、2層目の検出領域D5〜D8)で得られた8つのSTEM像により収差を測定することができる。
【0077】
分割型検出器30の検出面302における検出領域の層数を増やすことで、さらに、高次の収差(c
3,s
3,a
3,・・・)を測定することができる。
【0078】
なお、収差係数を決定するために必要な枚数以上のSTEM像がある場合には、最小二乗法等を用いて測定精度を向上させることができる。
【0079】
収差の測定は、検出領域D1〜D8ごとのSTEM像の二次元像シフトベクトルに、検出面302上の検出位置ベクトルを合わせた4次元のデータセットを構築し、最小二乗法によって収差係数を算出することで行うことができる。このとき、検出面302上の検出位置ベクトルの座標原点は、分割型検出器30の軸304の位置とする。
【0080】
(4)コマ収差の導入(S106)
次に、
図4に示すように、照射系偏向器16によって、試料Sに入射する電子ビームを傾斜させる。これにより、対物レンズ20のコマ収差が変化する(コマ収差が導入される)。ここでは、試料Sに入射する電子ビームを単純傾斜させる(すなわち電子ビームのシフトを伴わずに傾斜させる)。これにより、コマ収差のみを変化させることができる(コマ収差のみを導入することができる)。照射系偏向器16は、2段の偏向コイルで構成されているため、電子ビームを単純傾斜させることができる。
【0081】
なお、照射系偏向器16の偏向により、電子ビームが分割型検出器30の検出面302上で大きく移動した場合には、必要に応じて結像系偏向器28で電子ビームを振り戻す。
【0082】
(5)STEM像の取得(S108)
対物レンズ20にコマ収差を導入した状態で、分割型検出器30の検出領域D1〜D8ごとにSTEM像を取得する。STEM像の取得は、上述したステップS102と同様に行われる。
【0083】
(6)収差の測定(S110)
次に、ステップS108で取得した検出領域D1〜D8ごとのSTEM像の像シフト(幾何収差)から、対物レンズ20の収差を計算する。収差測定は、上述したステップS104と同様に行われる。このように本実施形態では、対物レンズ20にコマ収差を導入する前と、対物レンズ20にコマ収差を導入した後と、にそれぞれ収差測定が行われる。
【0084】
(7)対物レンズの光軸の位置の測定(S112)
次に、コマ収差を導入する前後の収差の測定結果に基づいて、分割型検出器30の検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を求める。ここで、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置とは、検出面302に投影された光軸202の位置であり、当該位置で電子ビームを検出して得られたSTEM像に見かけの収差が発生しない位置である。
【0085】
電子ビームの傾斜前後の対物レンズ20における収差の変化は、コマ収差の変化のみであるから、対物レンズ20の光軸202を基準として収差を計算すると、電子ビームの傾斜前後のSTEM像からはコマ収差の変化のみが測定されるはずである。一方、ここでは、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とがずれている(すなわち、角度計算の際の座標原点が対物レンズ20側と分割型検出器30側とでずれている)ため、分割型検出器30の軸304を基準として収差を計算すると、電子ビームの傾斜前後のSTEM像からはコマ収差の変化のほかに二回非点およびデフォーカス(以下、「見かけの二回非点」、「見かけのデフォーカス」ともいう)の変化が検出される。以下、見かけの二回非点、見かけのデフォーカスについて、数式を用いて説明する。
【0086】
対物レンズ20の光軸202を基準として、電子ビームの傾斜によるコマ収差係数の変化がΔP
3であると仮定する。波面収差χのコマ収差による変化量は、収束角α(入射角に対応する)と方位角θを組み合わせた複素角Ω=α×exp(iθ)を用いて表すと、次式のように表される。
【0088】
この波面収差の変化を分割型検出器30の軸304を基準として測定する際には、Ωの
原点を軸ずれ分(dΩ)だけずらした座標系にて、収差計算が行われることとなる。これに伴い、対物レンズ20側で入射角Ωであった電子ビームは、分割型検出器30側では、入射角Ω´=Ω−dΩの電子ビームとして取り扱われる。検出される最終的な波面収差は、高次の微小項を無視して次式のようになる。
【0090】
上記式において、第1項がコマ収差の変化を表し、第2項が見かけの二回非点の変化を表し、第3項がみかけのデフォーカスの変化を表している。変数を下記のように収束角αと方位角θに戻す。
【0094】
幾何収差Gは、波面収差χを収束角αおよび方位角θで微分したベクトル量である。上記式を分割型検出器30の軸304を座標原点とする座標上の収束角α、および方位角θで微分すれば、対物レンズ20のコマ収差の導入による(見かけの収差成分も含めた)幾何収差の変化が求められる。
【0096】
上述したように、各STEM像から計算される、電子ビームの傾斜前後の収差の変化は、コマ収差成分の変化と見かけの収差成分の変化の和となる。しかしながら、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304との間の軸ずれによる座標原点のずれが打ち消されるような位置に検出点が存在した場合には、この検出点では見かけの収差が消えてコマ収差成分の変化のみが検出される。この検出点は、検出面302に投影された対物レンズ20の光軸202の位置に相当し、見かけの収差の変化の大きさは、この検出点において極小値(零)となる。分割型検出器30の軸304とこの極小値をとる検出点(極小点)とを一致させれば、見かけの収差が消滅する。
【0097】
この極小点を特定するためには、分割型検出器30の検出面302上の検出位置ベクトルをxy座標で表し、見かけの収差の変化の絶対値をz座標で表した三次元曲面をプロットする。そして、実測したデータ中のノイズを考慮して、最小二乗法を用いて見かけの収差の変化の極小値をとる極小点を探索する。このようにして、極小点を特定することで、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を特定することができる。
【0098】
(8)軸合わせ(S114)
次に、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とを一致させる(軸合わせ)。具体的には、結像系偏向器28を用いて分割型検出器30の検出面302に入射する電子ビームを偏向させて、特定した極小点の位置を分割型検出器30の軸304に一致させる。これにより、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とを一致させることができる。
【0099】
(9)コマ収差の排除(S116)
次に、導入したコマ収差を排除する。具体的には、コマ収差を導入する際(ステップS106)に照射系偏向器16で加えた電子ビームの傾斜を、元の状態(ステップS106で電子ビームを傾斜させる前の状態)に戻す。また、結像系偏向器28による電子ビームの振り戻しを行っていた場合には、結像系偏向器28でその振り戻し量と同じ大きさであって逆方向に電子ビームを偏向させて、電子ビームを元の状態に戻す。
【0100】
(10)STEM像の取得(S118)
次に、分割型検出器30の検出領域D1〜D8ごとにSTEM像を取得する。STEM像の取得は、上述したステップS102と同様に行われる。
【0101】
(11)収差測定(S120)
次に、ステップS118で取得した検出領域D1〜D8ごとのSTEM像から、対物レンズ20の収差を計算する。収差の測定は、ステップS104と同様に行われる。ここでは、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とが一致している(軸ずれが補正されている)ため、対物レンズ20の収差を正確に測定することができる。
【0102】
1.3. 電子顕微鏡の動作
電子顕微鏡100では、上述した収差測定方法による収差の測定を自動で行うことができる。
図6は、電子顕微鏡100における処理部50(収差測定部56)の処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、電子顕微鏡100は、収差測定用絞り32が挿入され、分割型検出器30を用いてSTEM像が取得可能な状態になっているものとする。
【0103】
まず、収差測定部56は、ユーザーが収差測定を開始する指示(開始指示)を行ったか否かを判断し(S200)、開始指示が行われるまで待機する(S200のNo)。収差測定部56は、例えば、操作部60を介して開始指示が入力された場合に、ユーザーが開始指示を行ったと判断する。
【0104】
収差測定部56は、開始指示が行われたと判断した場合(S200のYes)、制御部52を介して電子顕微鏡100の光学系(走査コイル18等)を制御し、画像生成部54で生成された検出領域D1〜D8ごとのSTEM像を取得する(S202)。
【0105】
次に、収差測定部56は、取得した検出領域D1〜D8ごとのSTEM像の像シフト(幾何収差)から、対物レンズ20の収差を計算する(S204)。収差の計算方法は、上述したステップS104で説明した通りである。
【0106】
次に、収差測定部56は、制御部52を介して照射系偏向器16を動作させて、試料Sに入射する電子ビームを単純傾斜させる(S206)。これにより、対物レンズ20にコマ収差が導入される。
【0107】
次に、収差測定部56は、制御部52を介して電子顕微鏡100の光学系(走査コイル18等)を制御し、画像生成部54で生成された検出領域D1〜D8ごとのSTEM像を取得する(S208)。
【0108】
次に、収差測定部56は、ステップS208で取得した検出領域D1〜D8ごとのSTEM像の像シフト(幾何収差)から、対物レンズ20の収差を計算する(S210)。収差の計算は、上述したステップS204と同様に行われる。
【0109】
次に、収差測定部56は、コマ収差を導入する前後の収差の測定結果に基づいて、分割型検出器30の検出面302上における対物レンズ20の光軸202の位置を求める(S212)。収差測定部56は、コマ収差を導入する前後の収差の測定結果から、検出面302において見かけの収差の変化量が極小となる位置(極小点)を探索し、当該極小点を検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置とする。
【0110】
次に、収差測定部56は、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とを一致させる(S214)。収差測定部56は、例えば、制御部52を介して結像系偏向器28を動作させて、分割型検出器30に入射する電子ビームを偏向させ、特定した対物レンズ20の光軸202の位置を、分割型検出器30の軸304に一致させる。
【0111】
次に、収差測定部56は、制御部52を介して照射系偏向器16を動作させて、コマ収差を導入する際に照射系偏向器16で加えた電子ビームの傾斜を、元の状態(ステップS206で電子ビームを傾斜させる前の状態)に戻し、導入したコマ収差を排除する(S216)。
【0112】
次に、収差測定部56は、検出領域D1〜D8ごとのSTEM像を取得し(S218)、取得した検出領域D1〜D8ごとのSTEM像から、対物レンズ20の収差を計算する(S220)。STEM像の取得および収差の測定は、それぞれステップS202およびステップS204と同様に行われる。収差測定部56は、例えば、収差の測定結果を表示部62に表示させる制御を行う。また、収差測定部56は、収差の測定結果に基づき収差補正装置(図示せず)を動作させてもよい。そして、収差測定部56は、処理を終了する。
【0113】
1.4. 特徴
本実施形態に係る収差測定方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0114】
本実施形態に係る収差測定方法は、対物レンズ20にコマ収差を導入する工程と、対物レンズ20にコマ収差を導入する工程の前に対物レンズ20の収差を測定する工程と、対物レンズ20にコマ収差を導入する工程の後に対物レンズ20の収差を測定する工程と、コマ収差を導入する前後の収差の測定結果に基づいて分割型検出器30の検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を求める工程と、を含む。そのため、本実施形態に係る収差測定方法では、対物レンズ20にコマ収差を導入する前後における見かけの収差の変化に基づいて、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を求めることができるため、当該位置を容易かつ正確に求めることができる。
【0115】
例えば、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を測定する場合に、
対物レンズ20のデフォーカスを変えた前後のSTEM像を用いると、当該STEM像には、見かけの収差による像シフトと、電流軸のずれに起因する像シフト(
図21参照)と、が生じる。これらの像シフトは分離することはできず、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を正確に求めることは難しい。
【0116】
これに対して、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を測定する場合に、対物レンズ20にコマ収差を導入した前後のSTEM像を用いると、コマ収差は、対物レンズ20の励磁を変えることなく、電子ビームを傾斜させることで導入できるため、STEM像には、電流軸のずれに起因する像シフトが生じない。したがって、本実施形態によれば、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を正確に求めることができる。
【0117】
本実施形態によれば、上述したように、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を求めることができるため、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とが合った状態で収差の測定を行うことができる。したがって、見かけの収差が発生せず(または見かけの収差の影響を小さくでき)、補正したい収差を正確に測定することができる。この結果、対物レンズ20の収差を正確に測定することができる。
【0118】
本実施形態に係る収差測定方法では、対物レンズ20の光軸202の位置を求める工程において、検出面302において見かけの収差の変化量が極小となる位置を、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置とする。そのため、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を容易かつ正確に求めることができる。
【0119】
本実施形態に係る収差測定方法では、対物レンズ20にコマ収差を導入する工程の前に対物レンズ20の収差を測定する工程、および対物レンズ20にコマ収差する工程の後に対物レンズ20の収差を測定する工程において、収差測定用絞り32を用いて得られた検出領域D1〜D8ごとのSTEM像から収差を求める。そのため、対物レンズ20の収差を正確に求めることができる。以下、その理由について説明する。
【0120】
分割型検出器30では、各検出領域D1〜D8の形状は、扇形に近い形状を有している。このような検出領域D1〜D8で、収差測定用絞り32を用いずに、STEM像を取得すると、各検出領域D1〜D8の広がりが大きい(すなわち各検出領域D1〜D8に入射する電子ビームの角度範囲が大きい)ため、像がぼけてしまい、像の移動量を正確に計算することが難しい。特に、扇形形状の検出領域では、偏角方向(円周方向)の広がりがおおきいため、偏角方向の対称性の次数が高い収差が存在する場合に像のぼけが顕著になる。
【0121】
本実施形態では、収差測定用絞り32を用いているため、上記のような問題が生じない。例えば、収差測定用絞り32の絞り孔322の径を小さくすることで、検出領域D1〜D8ごとのSTEM像を、単一の入射角の電子ビームを用いて取得された像と近似することもできる。したがって、本実施形態によれば、検出領域D1〜D8ごとのSTEM像から対物レンズ20の収差を正確に求めることができる。
【0122】
本実施形態に係る収差測定方法では、対物レンズ20にコマ収差を導入する工程において、試料Sに入射する電子ビームを傾斜させることで、コマ収差を導入する。そのため、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を容易かつ正確に求めることができる。
【0123】
本実施形態に係る収差測定方法では、照射系偏向器16は、多段に配置された偏向素子を有し、照射系偏向器16を用いて、試料Sに入射する電子ビームを傾斜させる。そのた
め、電子ビームを単純傾斜させることができる。したがって、対物レンズ20にコマ収差のみを導入することができる。
【0124】
本実施形態に係る収差測定方法では、分割型検出器30の検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を求める工程の後に、求めた検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置に基づいて、対物レンズ20の光軸202を、分割型検出器30の軸304に一致させる工程を含む。そのため、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とが合った状態で収差の測定を行うことができ、対物レンズ20の収差を正確に測定することができる。
【0125】
本実施形態に係る収差測定方法では、対物レンズ20の光軸202を分割型検出器30の軸304に一致させる工程では、求めた検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置に基づいて、結像系偏向器28で電子ビームを偏向させる。そのため、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とが合った状態で収差の測定を行うことができ、対物レンズ20の収差を正確に測定することができる。
【0126】
本実施形態に係る収差測定方法では、対物レンズ20の光軸202を分割型検出器30の軸304に一致させる工程の後に、対物レンズ20の収差を測定する工程を含む。そのため、本実施形態によれば、見かけの収差の影響が低減されるため、対物レンズ20の収差を正確に測定することができる。
【0127】
本実施形態に係る電子顕微鏡100では、収差測定部56は、対物レンズ20にコマ収差を導入する前後の収差の測定結果に基づいて、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を求める処理を行う。そのため、電子顕微鏡100では、対物レンズ20の収差を正確に測定することができる。
【0128】
1.5. 変形例
次に、第1実施形態に係る電子顕微鏡の変形例について、図面を参照しながら説明する。以下では、上述した電子顕微鏡100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0129】
上述した実施形態では、検出面302に入射する電子ビームを偏向させて対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とを一致させる場合(
図5に示すステップS112)について説明したが、例えば、収差の計算の際に、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置に基づいて、収差測定の結果を補正してもよい。
【0130】
図7は、第1実施形態に係る収差測定方法の変形例を示すフローチャートである。
【0131】
図7に示すように、本変形例では、対物レンズ20の光軸202と分割型検出器30の軸304とを一致させる工程(
図5に示すステップS114)を行わない。本変形例では、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置を測定する工程(S112)の後に、検出領域D1〜D8ごとのSTEM像を取得し(S118)、対物レンズ20の収差の測定を行う(S120)。この収差測定を行う際に、検出面302における対物レンズ20の光軸202の位置に基づいて、対物レンズ20の収差の測定結果を補正する。具体的には、収差の計算の際に、波数空間の原点が見かけの収差の変化の極小値をとる極小点と一致するように補正を加える。これにより、収差計算の結果に見かけの収差が現れない。
【0132】
本変形例によれば、上述した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、本変形例の処理を、収差測定部56が行ってもよい。
【0133】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。
図8は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0134】
上述した電子顕微鏡100は、
図1に示すように、試料Sを透過した電子ビームを検出する検出器として分割型検出器30を備えていた。
【0135】
これに対して、電子顕微鏡200では、
図8に示すように、試料Sを透過した電子ビームを検出する検出器として固体撮像素子230を備えている。
【0136】
固体撮像素子230は、複数の受光素子が配列された検出面232を有している。固体撮像素子230は、例えば、CCD(charge−coupled device)カメラ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラなどのデジタルカメラである。
【0137】
収差測定部56は、固体撮像素子230で取得されたロンチグラムを用いた収差測定方法によって、対物レンズ20の収差を計算する。
【0138】
2.2. 収差測定方法
次に、第2実施形態に係る収差測定方法について説明する。第2実施形態に係る収差測定方法は、電子顕微鏡200における対物レンズ20(照射系)の収差測定方法である。以下では、上述した第1実施形態に係る収差測定方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0139】
図9は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の動作を説明するための図である。なお、
図9は、
図4に対応している。
図10は、第2実施形態に係る収差測定方法の一例を示すフローチャートである。
【0140】
(1)電子顕微鏡の調整(S300)
試料Sのアモルファス領域が視野に含まれるように視野を移動させる。そして、照射系および結像系の調整、結像系のカメラ長の調整などを行い、電子顕微鏡100を、ロンチグラムが撮影可能な状態にする。
【0141】
ここでは、
図9に示すように、対物レンズ20の光軸202と、固体撮像素子230の軸234は一致していない。すなわち、対物レンズ20の光軸202と固体撮像素子230の軸234との間に軸ずれが生じているものとする。固体撮像素子230の軸234は、収差の計算の際に、座標原点(座標原点O)となる位置である。
【0142】
(2)ロンチグラムの取得(S302)
固体撮像素子230でロンチグラムを撮影する。具体的には、試料Sのアモルファス領域に電子ビームを収束させて、試料Sを透過した電子ビームを固体撮像素子230で検出する。このとき、フォーカスを変化させてロンチグラムを撮影することで、デフォーカス量の異なる複数のロンチグラムを取得する。以下、このデフォーカス量の異なる複数のロンチグラムをデータセットDS1ともいう。
【0143】
(3)コマ収差の導入(S304)
次に、
図9に示すように、照射系偏向器16によって、試料Sに入射する電子ビームを傾斜させる。これにより、対物レンズ20にコマ収差が変化する(コマ収差が導入される)。本工程は、上述したステップS106と同様に行われる。
【0144】
(4)ロンチグラムの取得(S306)
次に、対物レンズ20にコマ収差を導入した状態で、固体撮像素子230でロンチグラムを撮影する。本工程は、上述したステップS302と同様に行われる。これにより、デフォーカス量の異なる複数のロンチグラム(以下、「データセットDS2」ともいう)を取得する。
【0145】
(5)対物レンズの光軸の位置の測定(S308)
次に、コマ収差を導入する前後の収差の測定結果に基づいて、固体撮像素子230の検出面232における対物レンズ20の光軸202の位置を求める。ここで、検出面232における対物レンズ20の光軸202の位置とは、検出面232に投影された光軸202の位置であり、当該位置で電子ビームを検出することにより得られたSTEM像に見かけの収差が発生しない位置である。
【0146】
図11は、ロンチグラムにおいて、対物レンズ20の光軸202の位置と、収差計算の座標原点Oの位置と、を示す図である。
【0147】
図11に示すように、対物レンズ20の光軸202の位置と、収差計算の座標原点Oの位置と、がずれている場合、上述したように、コマ収差以外の見かけの収差(二回非点およびデフォーカス)の変化が検出される。検出される収差の変化がコマ収差成分のみとなるときの座標原点Oの位置が検出面232における対物レンズ20の光軸202の位置に相当する。
【0148】
具体的には、まず、データセットDS1およびデータセットDS2に対して、角度空間の座標原点Oの位置を変えながら、収差計算を繰り返し行う。そして、見かけの二回非点の変化量、および見かけのデフォーカスの変化量が零となる極小点を、反復法、または最小二乗法によって探索する。このようにして、極小点を特定することで、検出面232における対物レンズ20の光軸202の位置を特定することができる。
【0149】
(6)軸合わせ(S310)
次に、対物レンズ20の光軸202と収差計算の座標原点Oとを一致させる(軸合わせ)。具体的には、結像系偏向器28を用いて固体撮像素子230の検出面232に入射する電子ビームを偏向させて、特定した極小点の位置を座標原点Oに一致させる。これにより、対物レンズ20の光軸202と座標原点Oとを一致させることができる。
【0150】
(7)コマ収差の排除(S312)
次に、導入したコマ収差を排除する。本工程は、上述したステップS116と同様に行われる。
【0151】
(8)ロンチグラムの取得(S314)
次に、固体撮像素子230でロンチグラムを撮影する。本工程は、上述したステップS302と同様に行われる。これにより、デフォーカス量の異なる複数のロンチグラム(以下「データセットDS3」ともいう)を取得する。
【0152】
(9)収差測定(S316)
次に、データセットDS3を用いて対物レンズ20の収差の測定を行う。取得したロンチグラムの局所領域の自己相関関数から、幾何収差の微分を求めることにより、収差を測
定することができる。ここでは、対物レンズ20の光軸202と座標原点Oの位置とが一致している(軸ずれが補正されている)ため、ロンチグラムを用いて対物レンズ20の収差を正確に測定することができる。
【0153】
2.3. 電子顕微鏡の動作
電子顕微鏡200では、上述した収差測定方法による収差の測定を自動で行うことができる。
図12は、電子顕微鏡200における処理部50(収差測定部56)の処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、電子顕微鏡200は、固体撮像素子230を用いてロンチグラムが取得可能な状態になっているものとする。
【0154】
まず、収差測定部56は、ユーザーが収差測定を開始する指示(開始指示)を行ったか否かを判断し(S400)、開始指示が行われるまで待機する(S400のNo)。収差測定部56は、例えば、操作部60を介して開始指示が入力された場合に、ユーザーが開始指示を行ったと判断する。
【0155】
収差測定部56は、開始指示が行われたと判断した場合(S400のYes)、制御部52を介して電子顕微鏡100の光学系を制御し、画像生成部54で生成されたロンチグラムを取得する(S402)。このとき、フォーカスを変化させてロンチグラムを撮影することで、デフォーカス量の異なる複数のロンチグラム(データセットDS1)を取得する。
【0156】
次に、収差測定部56は、制御部52を介して照射系偏向器16を動作させて、試料Sに入射する電子ビームを傾斜させる(S404)。これにより、対物レンズ20にコマ収差が導入される。
【0157】
次に、収差測定部56は、制御部52を介して電子顕微鏡100の光学系を制御し、画像生成部54で生成されたロンチグラムを取得する(S406)。このとき、フォーカスを変化させてロンチグラムを撮影することで、デフォーカス量の異なる複数のロンチグラム(データセットDS2)を取得する。
【0158】
次に、収差測定部56は、コマ収差を導入する前後の収差の測定結果に基づいて、固体撮像素子230の検出面232上における対物レンズ20の光軸202の位置を求める(S408)。
【0159】
次に、収差測定部56は、対物レンズ20の光軸202と収差計算の座標原点Oとを一致させる(S410)。収差測定部56は、例えば、制御部52を介して結像系偏向器28を動作させて、固体撮像素子230に入射する電子ビームを偏向させ、特定した対物レンズ20の光軸202の位置を、座標原点Oに一致させる。
【0160】
次に、収差測定部56は、制御部52を介して照射系偏向器16を動作させて、コマ収差を導入する際に照射系偏向器16で加えた電子ビームの傾斜を、元の状態(ステップS404で電子ビームを傾斜させる前の状態)に戻し、導入したコマ収差を排除する(S412)。
【0161】
次に、収差測定部56は、ロンチグラムを取得し(S414)、対物レンズ20の収差の測定を行う(S416)。収差測定部56は、例えば、収差の測定結果を表示部62に表示させる制御を行う。また、収差測定部56は、収差の測定結果に基づき収差補正装置(図示せず)を動作させてもよい。そして、収差測定部56は、処理を終了する。
【0162】
2.4. 特徴
本実施形態に係る収差測定方法では、対物レンズ20にコマ収差を導入する工程の前に対物レンズ20の収差を測定する工程、および対物レンズ20にコマ収差を導入する工程の後に対物レンズ20の収差を測定する工程において、固体撮像素子230を用いて取得したロンチグラムから収差を求める。そのため、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0163】
2.5. 変形例
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡の変形例について、図面を参照しながら説明する。以下では、上述した電子顕微鏡200の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0164】
上述した実施形態では、検出面302に入射する電子ビームを偏向させて対物レンズ20の光軸202と座標原点Oとを一致させる場合(
図10に示すステップS310)について説明したが、例えば、収差の計算の際に、検出面232における対物レンズ20の光軸202の位置に基づいて、対物レンズ20の収差の測定結果を補正してもよい。
【0165】
図13は、第2実施形態に係る収差測定方法の変形例を示すフローチャートである。
【0166】
図13に示すように、本変形例では、対物レンズ20の光軸202と座標原点Oとを一致させる工程(
図10に示すステップS310)を行わない。本変形例では、検出面232における対物レンズ20の光軸202の位置を測定する工程(S308)の後に、ロンチグラムを取得し(S314)、対物レンズ20の収差の測定を行う(S316)。この収差測定を行う際に、検出面232における対物レンズ20の光軸202の位置に基づいて、対物レンズ20の収差の測定結果を補正する。具体的には、座標原点Oの位置を、見かけの収差の変化の極小値をとる極小点と一致するように補正を加えて、計算を行う。これにより、収差計算の結果に見かけの収差が現れない。
【0167】
本変形例によれば、上述した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、本変形例の処理を、収差測定部56が行ってもよい。
【0168】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0169】
例えば、上述した第1実施形態では、取得した検出領域D1〜D8ごとのSTEM像の像シフト(幾何収差)から、対物レンズ20の収差を計算し、上述した第2実施形態では、ロンチグラムから対物レンズ20の収差を計算したが、収差の計算方法はこれに限定されず、公知の様々な収差の計算方法を適用できる。
【0170】
また、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0171】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。