【文献】
HALLYNCK Thierry et al.,Prediction of creatinine clearance from serum creatinine concentration based on lean body mass,Clinical pharmacology and therapeutics,1981年,Vol.30, No.3,pp.414-421
【文献】
SYLVIE Robert et al.,Predictability of creatinine clearance estimates in critically ill patients,Critical Care Medicine,1993年,Vol.21, No.10,pp.1487-1495
【文献】
SAXENA Sanjiv,Timing of Initiating Dialysis.,Journal International Medical Sciences Academy,2012年,Vol.25, No.2,pp.115-116
【文献】
LIM Wai H. et al.,Lean body mass-adjusted Cockcroft and Gault formula improves the estimation of glomerular filtration rate in subjects with normal-range serum creatinine,Nephrology,2006年,Vol.11,pp.250-256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記患者のバイオインピーダンス測定を利用することによって、体内総水分量を算定するステップ(201)を含み、前記患者の糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスを算定する前記ステップは、前記患者の前記体内総水分量に基づく、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の方法。
前記患者の糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスは、複数の時点で算定され、前記患者の糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスの適時平均値が算定され、異常値は前記適時平均値の前記算定から無視される、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の方法。
前記処理ユニット(306)は、前記患者の前記算定された糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスに基づいて利尿薬の処方箋のための基準を決定するよう構成されている、請求項7〜9のうちいずれか一に記載の器械。
前記処理ユニット(306)は、前記患者の前記算定された糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスに基づいて腎代替療法を前記患者に適用するかどうかを決定するよう構成されている、請求項7〜10のうちいずれか一に記載の器械。
患者のバイオインピーダンス測定を利用することによって体内総水分量を測定するためのバイオインピーダンス測定ユニット(317)を有し、前記処理ユニットは、前記患者の前記体内総水分量に基づいて前記患者の糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスを算定するよう構成されている、請求項7〜11のうちいずれか一に記載の器械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
患者からのサンプルとしてクレアチニンの血液(または血漿)サンプルだけを利用するこの方法および他の方法の一欠点は、例えば年齢または性別のような母集団固有のパラメータからの利用方程式に依存していることである。かくして、患者の属する母集団の一部に照らしてクレアチニン値が解釈される。したがって、これら方法によって提供される糸球体濾過量の評価の正確さは、患者を母集団の特定の一部への患者の関連づけの正確さに制限される。
【0007】
したがって、本発明の課題は、上述の欠点を解決し、患者の糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスを算定する改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、独立形式の請求項に記載された教示によって解決される。有利な実施形態が従属形式の請求項に記載されている。
【0009】
一実施形態では、患者の糸球体濾過量または患者のクレアチニンクリアランスを算定するまたは概算する方法が開示される。この方法は、次のステップ、すなわち、患者の血清クレアチニン濃度を算定するステップと、患者の除脂肪組織量(lean tissue mass)を算定するステップと、患者の血清クレアチニン濃度および患者の除脂肪組織量に基づいて患者の糸球体濾過量または患者のクレアチニンクリアランスを算定するステップとを含む。
【0010】
この方法の一実施形態では、除脂肪組織量を算定するステップは、除脂肪組織量を測定するステップを含む。
【0011】
一実施形態では、除脂肪組織量を測定するステップは、バイオインピーダンス測定を利用するステップを含む。これにより、特に好都合な方法が提供される。
【0012】
一実施形態では、血清クレアチニン濃度を算定するステップは、患者の血液サンプルから血清クレアチニン濃度を測定するステップを含む。これにより、特に高信頼度の方法が提供される。
【0013】
一実施形態では、糸球体濾過量Q
gfrは、次の公式、すなわち、
【数1】
を利用することによって算定され、上式において、M
LT_mは、患者の除脂肪組織量であり、[Cr]
sは、血清クレアチニン濃度であり、α
ltmおよびβ
tsは、比例定数である。特に、α
ltmは、次のようにクレアチニンの生成量G
Crと除脂肪組織量M
LT_mを関連付ける比例定数であり、次のとおりであり、すなわち、G
Cr=α
ltmM
LTであり、β
tsは、糸球体濾過量Q
gfrとクレアチニンクリアランスK
Cr_WBを関連付ける比例定数であり、次のとおりであり、すなわち、Q
gfrβ
ts=K
Cr_WBである。比例定数α
ltmの代表的な値は、すなわち、α
ltm=0.0184mg/min/kg_M
LTである。無次元比例定数β
tsの代表的な値は、1.15である。
【0014】
別の実施形態では、本方法は、患者の算定された糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスに基づいて腎代替療法を患者に適用するための基準を決定するステップを含み、腎代替療法は、透析治療、特に血液透析治療または腹膜透析治療を含む。基準は、患者について透析治療を開始すべきであるかどうかの基準である場合がある。基準は、患者に適用される治療モダリティを第1の治療モダリティから第2の治療モダリティ、例えば腹膜透析から血液透析にまたは血液透析から腹膜透析に変更するかどうかの基準である場合がある。基準は、腎代替療法を適用する際のある特定の投与量、例えば、患者から抜き出されるべき流体の量または血液透析セッションと関連した標的クリアランスを利用するための基準であっても良い。
【0015】
一実施形態では、患者は、腎代替療法を受けている患者であり、腎代替療法は、腹膜透析または血液透析を含む。この実施形態では、血清クレアチニン濃度を算定するステップは、腎代替療法の治療セッション相互間の第1の時点で第1の血清クレアチニン濃度を算定するステップ、および腎代替療法の治療セッション相互間の第2の時点で第2の血清クレアチニン濃度を算定するステップを含む。第1の時点は、血液透析(hemodialysis)の場合、腎代替療法の実施を結論づけた直後であり、すなわち、post HD であるのが良く、第2の時点は、血液透析の場合、腎代替療法の準備の際、すなわち、pre HDであるのが良い。この実施形態では、患者のGFRまたはクレアチニンクリアランスを算定するステップは、第1のクレアチニン濃度および第2のクレアチニン濃度に基づく。
【0016】
特定の一実施形態では、本方法は、第1の時点と第2の時点との間で患者の体重増加を算定し、特に測定するステップを含み、患者のGFRまたはクレアチニンクリアランスを算定するステップは、患者の体重増加に基づく。
【0017】
一実施形態では、本方法は、患者の体内総水分量を測定し、特に患者のバイオインピーダンス測定を利用することによって体内総水分量を算定するステップを含み、患者のGFRまたはクレアチニンクリアランスを算定するステップは、患者の体内総水分量に基づく。
【0018】
本方法の一実施形態では、患者のGFRまたはクレアチニンクリアランスは、複数の時点で算定され、患者のGFRまたはクレアチニンクリアランスの適時平均値が算定され、1又は2以上の極端な値又は異常値は適時平均値の
算定から無視される。この目的のため、時系列をフィルタリングするメジアンフィルタを利用するのが良い。この方式により、患者のダイエットのばらつきに由来する測定値に対する影響を抑えることができる。
【0019】
一実施形態では、本方法は、患者の算定された糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスに基づいて糸球体濾過量またはクレアチニンクリアランスの減少で苦しんでいる患者の治療の際に用いられる尿の生成を促進する薬物、すなわち、利尿薬の指示書のための基準を決定するステップを含む。例えば、基準は、患者について利尿薬治療を開始すべきであるかどうかの基準である場合がある。代替的にまたは追加的に、基準は、患者のための利尿薬の投与量を算定するための基準である場合がある。一実施形態では、患者に投与される薬物、好ましくは利尿薬が提供され、薬物の投与量および/または投与計画が上記算定基準に基づいて決定される。
【0020】
別の実施形態では、患者のGFRまたは患者のクレアチニンクリアランスを算定するまたは概算する器械が提供される。本器械は、患者の血清クレアチニン濃度を算定するよう構成された第1の算定ユニットと、患者の除脂肪組織量を算定するよう構成された第2の算定ユニットと、患者の血清クレアチニン濃度および患者の除脂肪組織量に基づいて患者のGFRまたは患者のクレアチニンクリアランスを算定するよう構成された処理ユニットとを有する。
【0021】
この器械は、上記において開示した方法と同一の有利な改造または改良が可能である。
【0022】
一実施形態では、処理ユニットについての第1および第2の作動モードが規定され、処理ユニットは、第1の作動モードにおいて上述したように、次の公式、すなわち、
【数2】
を利用することによって濾過量Q
gfrを算定するよう構成されており、処理ユニットは、血清クレアチニン濃度を算定する方法を実施するよう構成されており、この方法は、第2の動作モードにおいて上述したように、腎代替療法の治療セッション相互間の第1の時点で第1の血清クレアチニン濃度を算定するステップおよび腎代替療法の治療セッション相互間の第2の時点で第2の血清クレアチニン濃度を算定するステップを含む。これによって、ESRD前療法、腎代替療法および移植術を含む腎療法のあらゆる段階について利用できる患者のGFRまたは患者のクレアチニンクリアランスの算定または概算器械が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、患者の糸球体濾過量(GFR)または患者のクレアチニンクリアランスを算定しまたは概算する方法100を示している。
【0025】
方法100は、患者の血清クレアチニン濃度を算定するステップ101を含み、一実施形態では、このステップ101に先行して、患者から先に採取された血液サンプルについて血清クレアチニン濃度を測定するステップ111が実施され、またはステップ101は、このステップ111を含む。変形例として、血清クレアチニン濃度は手動でシステム300のユーザインターフェースに入力される。
【0026】
方法100は、患者の除脂肪組織量を算定するステップ102を更に含む。一実施形態では、ステップ102に先行してバイオインピーダンス測定を利用することによって除脂肪組織量を測定するステップ112が実施され、またはステップ102は、このステップ112を含む。
【0027】
方法100は、ステップ101で算定された患者の血清クレアチニン濃度およびステップ102で算定された患者の除脂肪組織量に基づいて患者のGFRまたは患者のクレアチニン濃度を算定するステップ103を更に含む。
【0028】
一実施形態では、クレアチニンクリアランスK
Cr_WBを次の公式を利用することによってステップ103において算定する。
【数3】
上式において、M
LT_mは、患者の除脂肪組織量であり、[Cr]
sは、血清クレアチニン濃度であり、α
ltmは、クレアチニンの生成量G
Crと除脂肪組織量M
LT_mを関連付ける比例定数であり、次のとおりであり、すなわち、G
Cr=α
ltmM
LT。
【0029】
比例定数α
ltmの代表的な値は、次のとおりであり、すなわち、α
ltm=0.0184mg/min/kg_M
LT。
【0030】
別の実施形態では、糸球体濾過量Q
gfrを次のようにステップ103で算定する。
【数4】
上式において、α
ltm、[Cr]
s、およびM
LT_mは、上述したとおりであり、β
tsは、糸球体濾過量Q
gfrとクレアチニン濃度K
Cr_WBを関連付ける比例定数であり、次のとおりであり、すなわち、Q
gfrβ
ts=K
Cr_WB。
【0031】
無次元比例定数β
tsの代表的な値は、1.15である。比例定数β
tsは、腎臓の近位管によるクレアチニンの分泌を考慮に入れている。
【0032】
一実施形態では、方法100は、患者の算定されたGFRまたはクレアチニンクリアランスに基づいてGFRまたはクレアチニンクリアランスの減少で苦しんでいる患者の治療の際に用いられる尿生成促進薬物、すなわち、利尿薬の指示書または投与量または投与計画のための基準を決定するステップ114を含む。例えば、基準は、患者について利尿薬治療を開始すべきであるかどうかの基準である場合がある。
【0033】
別の実施形態では、方法100は、患者の算定されたGFRまたはクレアチニンクリアランスに基づいて腎代替療法を患者に適用するための基準を決定するステップ115を含み、腎代替療法は、透析治療、特に血液透析治療または腹膜透析治療を含む。基準は、患者について透析治療を開始すべきであるかどうかの基準である場合がある。基準は、患者に利用される治療モダリティを第1の治療モダリティから第2の治療モダリティ、例えば腹膜透析から血液透析にまたは血液透析から腹膜透析に変更するかどうかの基準である場合がある。基準は、腎代替療法を利用する際のある特定の投与量、例えば、患者から抜き出されるべき流体の量または血液透析セッションと関連した標的クリアランスを利用するための基準であっても良い。
【0034】
図2は、腎代替療法を受けている患者のクレアチニンクリアランスおよび/またはGFRを算定する方法200を示しており、腎代替療法は、腹膜透析またはHD(血液透析)治療を含む。方法200は、腎代替療法の治療セッション相互間の第1の時点で第1の血清クレアチニン濃度を算定するステップ205を含み、第1の時点は、好ましくは、血液透析の場合、腎代替療法の実施を結論づけた直後であり、post HD である。以下において、第1の時点における血清クレアチニン濃度をC
0=[Cr]
s(Post)と称するものとする。
【0035】
方法200は、腎代替療法の治療セッション相互間の第2の時点、血液透析の場合、pre HDで第2の血清クレアチニン濃度を算定するステップ204を更に含む。第2の時点における血清クレアチニン濃度を、C=[Cr]
s(Pre)と称するものとする。
【0036】
方法200は、第1の時点と第2の時点との間で患者の体重増加を算定し、特に測定するステップ203を更に含む。体重増加は、Q・tと称され、この式において、tは、第1の時点と第2の時点との間で経過した時間であり、好ましい実施形態では、tは、治療セッション相互間で経過した時間である。
【0037】
方法200は、好ましくは第1の時点で、より好ましくは腎代替療法の実施を結論づけた直後、すなわちpost HD で患者の体内総水分量を算定し、特に患者のバイオインピーダンス測定を利用することによって、体内総水分量を測定するステップ201を更に含む。TBW(体内総水分量、total body water)をV
0=TBW(Post)と称するものとする。
【0038】
さらに、方法200は、バイオインピーダンス測定を利用することによって先に算定された患者の除脂肪組織量からクレアチニン生成量を算定するステップ202を含む。
【0039】
かくして、クレアチニン生成量をG
Cr=α
ltmM
LTと表現することができ、この場合、除脂肪組織量M
LT_mは、患者の除脂肪組織量であり、α
ltmは、
図1を参照して上述したようにクレアチニンの生成量と除脂肪組織量M
LT_mを関連付ける比例定数である。
【0040】
最後に、方法200は、第1の時点で、すなわち好ましくは腎代替療法後の血清クレアチニン濃度C
0、第2の時点での、すなわち好ましくは腎代替療法前の血清クレアチニン濃度C、クレアチニン生成量G=G
Cr、体内総水分量V
0および第1の時点と第2の時点との間における、すなわち好ましくは治療セッション相互間における体重増加Q・tに基づいてクレアチニンクリアランスK
Crを算定するステップ206を含む。
【0041】
この目的のため、クレアチニンクリアランスK=K
Crを入力パラメータG、C、C
0、V
0、およびQ・tを関連付ける以下の公式、すなわち、
【数5】
を利用するのが良く、上式において、
【数6】
この場合、公式をKについて好ましくは繰り返し解く。
【0042】
ステップ207でクレアチニンクリアランスKの値を算定し、ステップ208においてK
Cr_WB=Kおよび
【数7】
を用いて糸球体濾過量GFR=Q
gfrを算定し、上式において、β
tsは、
図1を参照して上述してある。
【0043】
このようにして算定された糸球体濾過量Q
gfrまたはクレアチニンクリアランスK
Cr_WBは、
図1を参照して上述したように腎代替療法のある特定の投与量を利用するための基準として利用されるのが良い。
【0044】
図3は、
図1または
図2を参照して上述した方法のうちの任意のものを実施するよう構成されたシステム309を示している。システム309は、器械300を含む。
【0045】
器械300は、患者について実施された測定の結果および上述の方法のうちの任意のものについて必要な他の全てのデータを含む外部データベース302に接続されている。データベース302は、器械300の内部手段であっても良い。
【0046】
器械300は、オプションとして、データを入力してデータを処理ユニット306に提供する手段304を有するのが良い。かかるデータは、
図1または
図2を参照して説明した方法と関連して必要な任意のデータであるのが良い。
【0047】
器械300は、測定かデータベース302または手段304から受け取ったデータかのいずれかに基づいて患者の血清クレアチニン濃度を算定するよう構成された第1の算定ユニット307を有する。
【0048】
さらに、器械300は、測定かデータベース302または手段304から受け取ったデータかのいずれかに基づいて患者の除脂肪組織量を算定するよう構成された第2の算定ユニット308を有する。
【0049】
さらにまた、器械300は、患者の血清クレアチニン濃度および患者の除脂肪組織量に基づいて患者のGFRまたは患者のクレアチニン濃度を算定するよう構成された処理ユニット306を有する。
【0050】
処理ユニットは、更に、
図1および
図2の説明を参照して上述した方法のうちの任意のものを実施するよう構成されているのが良い。
【0051】
測定結果をモニタ305上に表示することができまたはデータベース302もしくは任意他の記憶手段によって記憶することができる。
【0052】
図4は、システム309の改造例であるシステム310を示している。
図4に示されたシステム310から理解できるように、器械300は、患者の除脂肪組織量を算定するための測定結果を算定ユニット308に提供するために一測定手段としてのバイオインピーダンス測定手段317に連結されるのが良い(ワイヤまたはワイヤレスで)。代替的にまたは追加的に、バイオインピーダンス測定手段317は、患者の体内総水分量を算定するための測定結果を処理ユニット306に提供しても良い。
【0053】
バイオインピーダンス測定から患者の除脂肪組織量を算定することおよび/またはバイオインピーダンス測定から患者の体内総水分量を算定することは、国際公開第2006/002685(A1)号パンフレットに記載されているように実施されるのが良く、この国際公開を参照により明示的に引用し、その開示内容を本明細書の一部とする。
【0054】
一般に、バイオインピーダンス測定手段317は、測定結果および
図1または
図2を参照して上述した方法について必要なデータを含むデータベース302に加えてまたはデータベース302に代えて提供されるのが良い。
【0055】
バイオインピーダンス測定手段317は、接触抵抗のようなインピーダンスデータに対する影響を自動的に補償することができる。
【0056】
バイオインピーダンス測定手段317の一例は、商標名Hydra(商標)で流通しているキシトロン・テクノロジーズ(Xitron Technologies)から入手できる装置であり、この装置は、国際公開第92/19153号パンフレットに更に記載されており、この国際公開を参照により明示的に引用し、その開示内容を本明細書の一部とする。
【0057】
バイオインピーダンス測定手段317は、患者に取り付け可能な種々の電極を含むのが良い。
図4では、2つの電極317a,317bしか示されておらず、これら電極は、バイオインピーダンス測定手段317に取り付けられている。当然のことながら、追加の電極もまた想定される。
【0058】
意図した各電極は、2つまたは3つ以上の(「サブ」‐)電極を含むのが良い。電極は、電流注入(「サブ」‐)電極および電圧測定(「サブ」‐)電極を含むのが良い。すなわち、
図4に示されている電極317a,317bは、2つの電流注入電極および2つの電圧測定電極(すなわち、全部4つの電極)を含むのが良い。
【0059】
本器械は、この器械によって実施されるべき方法に必要な患者の身体パラメータを測定する別の手段319を更に有するのが良い。身体パラメータを測定する手段319は、患者の体重を測定する秤または患者の血清クレアチニン濃度を算定するために必要な任意の実験室機器であって良い。
【0060】
図5は、
図1を参照して説明した方法を用いて算定されたクレアチニンクリアランスの結果と血液サンプルと尿サンプルの両方の使用を利用した関連技術からの方法の結果を比較した統計的分析を示している。両方の方法が腎代替治療を受けていない124名の患者、いわゆるpre‐ESRD(末期前の腎疾患、pre-end-stage renal disease)患者を含む患者コホートに適用された。関連技術から得られた測定値は、基準としての役目を果たし、“Lab”として示されている。
図5は、互いに異なる方法からの測定結果と両方の方法からの平均値の差をプロットした統計的分析のプロットである。測定値相互間の差が縦軸上にプロットされ、これに対し平均値が横軸上にプロットされている。
図1を参照して説明した方法からの結果は、“BCM”として示され、関連技術の方法から得られた結果は、“Lab”として示されている。本発明の方法の結果とブラント‐アルトマン(Bland-Altman)分析を利用する先行技術の方法の結果を比較すると、これにより、−0.89±13.2mL/minの平均差が得られる。
【0061】
図6は、
図5で提供された統計的分析と同様な統計的分析を示しており、ここでは、先行技術からの別の方法、いわゆるコッククロフト・ゴールト(Cockcroft-Gault)法の結果が同じ上述の患者コホートに関する血液および尿サンプルに基づく方法の結果と比較されており、この場合、コッククロフト・ゴールト法の結果が“CG”として示されている。ブラント‐アルトマン分析の結果は、0.3±14.7mL/minの一致を提供している。
【0062】
図7は、
図5および
図6で提供された統計的分析と同様な統計的分析を示しており、
図1と関連して説明した方法の結果がコッククロフト・ゴールト法からの結果と比較されている。理解できるように、これら2つの方法相互間の差は、患者が「肥満である」と診断されるか「痩せている」と診断されるかどうかに寄与する場合がある。
【0063】
図8〜
図13は、漸変する体の組成および一定の糸球体濾過量を有する患者の身体モデルのシミュレーション結果を示している。
【0064】
特に、
図8は、シミュレーションのために用いられた互いに異なる体組成を有する2人の被験者、すなわち肥満の被験者(上側の図)および痩せた被験者(下側の図)を示しており、これらの結果が、
図10〜
図13に示されている。具体的に説明すると、
図8の図の下側は、シミュレーションに用いられた身体組成を表し、これらの結果が
図10および
図12に示されている。
図8の上側の図は、
図11および
図13に示されたシミュレーションで用いられた身体組成を表している。
【0065】
図8の上側の図および下側の図の両方において、互いに異なるシミュレートされた日々での全体重の値が楕円のドットで示されている。全体重は、MAT(脂肪性組織の質量または脂肪組織量、adipose tissue mass)およびMLT(除脂肪組織の質量または除脂肪組織量、lean tissue mass)で構成されている。ドットのような十字記号は、実質的に一定である脂肪組織量の進展状況を表し、長方形のドットは、漸変する除脂肪組織量を表している。
【0066】
図9は、
図8の下側の図に示されているモデル身体中のクレアチニン濃度の適時進展をシミュレートしたシミュレーション結果を示している。
【0067】
クレアチニン濃度の適時進展のシミュレーションは、以下の過程に基づいている。
【0068】
時間につれたクレアチニン質量の変化率、すなわち、
【数8】
は、クレアチニンの生成量G
Cr、クレアチニン濃度[Cr]、クレアチニンクリアランスK
Crおよび更に体内総水分量の変化率、すなわち、
【数9】
に依存している。かくして、
【数10】
でd[Cr]/dtについて整理すると、次式が導かれる。
【数11】
【0069】
この方程式は、クレアチニンクリアランスK
Crおよびシミュレーションに用いられた身体組成パラメータに応じてクレアチニン濃度の適時進展をシミュレートするよう積分されるのが良い。クレアチニンクリアランスK
Crは、関係式Q
gfrβ
ts=K
Cr_WBからの糸球体濾過量Q
gfrに関連付けられる。
【0070】
身体内のクレアチニンの分配空間は、体内総水分量(total body water)(V
TBW)と均等であるとみなされ、それゆえ、これは、国際公開第2006/002685号パンフレットに記載されている方法から算定でき、すなわち、次の通りである。
【数12】
上式において、
M
ATは、脂肪組織量(adipose tissue mass)であり、
M
LTは、除脂肪組織量(lean tissue mass)であり、
H
tw_LTおよびH
tw_ATは、除脂肪組織および脂肪組織の水和係数(hydration coefficient)であり、
M
FOは、存在している場合には流体オーバーロード(OH(過剰水和))の質量である。
【0071】
経時的に(数週間ないし数ヶ月)、身体組成の変化は、身体全体を変えることになり、それによりクレアチニン分布空間が変化する。したがって、V
TBVについての微分方程式により次式が得られる。
【数13】
【0072】
時間依存性クレアチニン濃度を次に
図1の方法と関連して説明したGFRの算定方法に用いる。加うるに、糸球体濾過量GFRを時間依存性クレアチニン濃度および以下において従来方法と呼ばれる先行技術からのGFRの推定値を算定する別の方法による他のパラメータから算定する。
【0073】
以下の従来方法を用いてGFRの推定値をシミュレートしたが、かかるシミュレートされた推定値からの結果が
図10〜
図13に示されている。
【0074】
“コッククロフト・ディーダブリュ(Cockcroft DW)およびゴールト・エムエイチ(Gault MH),「プレディクション・オブ・クレアチニン・クリアランス・フロム・シーラム・クレアチニン(Prediction of creatinine clearance from serum creatinine)」,ネフロン(Nephron ),1976年,第16巻,第1号,p.31〜41”に記載された方法から得られた結果は、“Cockcroft-Gault ”と呼ばれ、これら結果は、三角形としてプロットされている。
【0075】
図1を参照して説明した方法の利用から得られた結果は、“BCM”と呼ばれ、これら結果は、円としてプロットされている。
【0076】
“エー・エス・レヴィ・ティージー(A. S. Levi TG ),ジェー・ダブリュ・クーセク(J. W. Kusek)およびジー・ジェイ・ベック(G. J. Beck),「ア・シンプリファイド・イクエイション・トゥ・プレディクト・グロウメリューラ・フィルタレーション・レイト・フロム・シーラム・クレアチニン・(A simplified equation to predict glomerular filtration rate from serum creatinine )[アブストラクト(abstruct)]」,ジャーナルズ・オブ・ザ・アメリカン・ソサイエティ・オブ・ネフロロジー(J Am Soc Nephrol),2000年,11:155A”に記載された方法から得られた結果は、“Abbrev 4 var MDRD”(short for Abbreviated 4 variable Modification of Diet in Renal Disease)(腎疾患におけるダイエットの短縮された4つの可変改造の略)と呼ばれ、これら結果は、星印としてプロットされている。
【0077】
“ルール・エーディー(Role AD),ラーソン・ティーエス(Larson TS),バーグストラル・イージェイ(Bergstralh EJ),スレザク・ジェイエム(Slezak JM),ヤコブセン・エスジェイ(Jacobsen SJ)およびコシオ・エフジー(Cosio FG),「ユージング・シーラム・クレアチニン・トゥ・エスティメイト・グロウメリューラ・フィルタレーション・レイト:アキュラシー・イン・グッド・ヘルス・アンド・イン・クロニック・キドニー・ディジーズ(Using serum creatinine to estimate glumerular filtration rate: accuracy in good health and in chronic kidney disease)」,アナルズ・オブ・インターナル・メディシン(Annals of internal medicine),2004年,第141巻,第12号,p.929〜937”に記載された方法から得られた結果は、“Quad Mayo ”(クアドラティック・メイヨー・クリニック(Quadratic Mayo Clinic )の略語)と呼ばれ、これら結果は、正方形としてプロットされている。
【0078】
“ムラタ・ケー(Murata K),バウマン・エヌエー(Baumann NA),サエンジャー・エーケー(Saenger AK),ラーソン・ティーエス(Larson TS),ルール・エーディー(Role AD ),リスキ・ジェイシー(Lieske JC),「レラティブ・パフォーマンス・オブ・ザ・エムディーアールディー・アンド・シーケーディー‐イーピーアイ・イクエイションズ・フォア・エスティメイティング・グロウメリューラ・フィルタレーション・レイト・アマング・ペイションツ・ウィズ・ヴァリッド・クリニカル・プレゼンテイションズ(Relative performance of the MDRD and CKD-EPI equations for estimating glomerular filtration rate among patients with varied clinical presentations)」,クリニカル・ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ソサエティ・オブ・ネフロロジー(Clinical journal of the American Society of Nephrology: CJASN),2011年,第6巻,第8号,p.1963〜1972”に記載された方法から得られた結果は、“CKD EPI”と呼ばれており、これら結果は、菱形としてプロットされている。
【0079】
図10は、糸球体濾過量Q
gfr=20mL/minおよび20%の相対体脂肪量を有する痩せた患者をシミュレートした身体モデルに関するシミュレーション測定結果を示している。
【0080】
除脂肪組織量が
図8に従って変えられる場合、
図10の結果の示すところによれば、低い糸球体濾過量では痩せた患者に関し、糸球体濾過量を算定する従来方法は、シミュレーションに送られた基準GFRを実際より低く見積もっていることを示している。驚くべきこととして、従来方法は、クレアチニン濃度の変化に起因してGFRのシミュレーション測定における見掛けの変化を示している。この理由は、GFRを算定する従来方法が脂肪分の少ない組織のばらつきを補償していないということにある。
【0081】
図11は、糸球体濾過量Q
gfr=20mL/minおよび40%の割合の脂肪組織を有する患者をシミュレートした身体モデル、すなわち、肥満の被験者として特徴付けることができる患者のモデルについてのシミュレーション測定結果を示している。シミュレーション結果の示すように、肥満の被験者のケースでは、GFRを推定する従来方法は、シミュレーションにインプットされたGFRを実際より多く見積もっている。
【0082】
図12は、糸球体濾過量Q
gfr=100mL/minおよび20%の割合の脂肪組織、即ち脂肪を有する患者、すなわち、生理学的GFRでは痩せた被験者として特徴付けることができる患者をシミュレートした身体モデルのシミュレーション測定結果を示している。GFRのこのレベル及び痩せた被験者では、BCMとともに示したシミュレーションにインプットされたGFRと従来方法から得られた結果の大部分との一致は、良好である(代表的には、約±5mL/min)。“Quadratic Mayo Clinic”と称された方法は、インプットされたGFRを実際より著しく大きく見積もっている。
【0083】
図13は、糸球体濾過量Q
gfr=100mL/minおよび40%の割合の脂肪組織、即ち脂肪を有する患者、すなわち、生理学的GFRでは肥満の被験者として特徴付けることができる患者を真似た身体モデルのシミュレーション測定結果を示している。シミュレーション結果が示すように、肥満の被験者の生理学的GFRは、GFRを算定する従来方法における最も大きな誤差源のうちの幾つかとなっている。従来方法の大部分は、GFRの上側の生理学的範囲を超えたGFRレベルを生じさせる。
【0084】
図10〜
図13は、
図1を参照して説明した方法の利用からのシミュレーション結果と比較して通常の実務で用いられているGFRを推定する従来方法を用いた場合に生じる誤差の大きさを示している。シミュレーション結果の示すところによれば、腎機能に変化がなく、かくしてシミュレーションへの入力としてGFRを仮定すると、
図1の方法の利用から得られるシミュレーション測定結果はまた、筋肉の質量(MLT)のばらつきとは独立して不変のままである。クレアチニンの濃度およびその生成量は、MLTの変化に応答して変わることになるが、これは、GFRに悪影響を及ぼすわけではない。換言すると、GFRは、身体組成の変化とは独立しているはずである。これは、GFRを推定する従来方法とは対照的に、シミュレーションに入力された身体組成の変化に応じてGFR推定値の変化を示している。
【0085】
患者の糸球体濾過量または患者のクレアチニンクリアランスを算定するまたは概算する方法および器械が開示される。この方法は、次のステップ、すなわち、患者の血清クレアチニン濃度を算定するステップと、患者の除脂肪組織量を算定するステップと、患者の血清クレアチニン濃度および患者の除脂肪組織量に基づいて患者の糸球体濾過量または患者のクレアチニンクリアランスを算定するステップとを含む。