(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る水分散体は、構成モノマーとしてポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはそのアンモニウム塩(A)(以下、「モノマー(A)」ともいう。)を含有する重合体を含む。該重合体は、構成モノマーとして更に(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群から選択される少なくとも1種(B)(以下、「モノマー(B)」ともいう。)を含有してもよい。
【0011】
[モノマー(A)]
本実施形態では、重合体を構成するモノマーとして、ポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテルリン酸エステルおよび/またはそのアンモニウム塩(モノマー(A))を用いる。モノマー(A)は、酸型のリン酸エステルでもよく、そのアンモニウム塩でもよく、またはこれらの併用でもよい。アンモニウム塩の場合、水分散体の加熱・乾燥時にその多くがアンモニアの脱離により酸型のリン酸エステルになる。このように少なくとも塗膜の状態で重合体がリン酸構造を有することにより、金属への密着性を向上することができる。なお、塗膜の状態では酸型であることが金属への密着性を向上する観点から好ましいが、水分散体の状態では塗膜の成膜性の観点からアンモニウム塩であることがより好ましい。ここで、モノマー(A)は、リン酸モノエステルでも、リン酸ジエステルでも、両者の混合物でもよい。なお、モノマー(A)としてはリン酸エステルの金属塩は含まれないが、下記化合物(C)としてポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテルリン酸エステル金属塩を併用することを除外するものではない。
【0012】
モノマー(A)としては、下記一般式(1)で表されるものが好ましく用いられる。
(X)
kP(=O)(OL)
3−k (1)
式(1)中、Xは、下記(2)で表される基であり、kは1又は2であり、k=1のものとk=2のものとの混合物でもよい。式(1)中のLは、水素原子またはアンモニウムを表し、一分子中にLを複数有する場合、それらは同一でも異なってもよい。また、Lが水素原子である酸型のものとLがアンモニウムであるアンモニウム塩との混合物でもよい。
【化1】
式(2)中、R
1は、1−プロペニル基又はアリル基を表し、Aは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、mは1〜3の範囲にある置換基数を表す。
【0013】
よって、一実施形態に係るモノマー(A)は、下記式(1−1)で表されるモノエステル、下記式(1−2)で表されるジエステル、又は、これらの混合物である。式(1−1)および(1−2)中のR
1、A、L、n、mは式(1)及び(2)中のR
1、A、L、n、mと同じである。
【化2】
【0014】
式中のR
1は1−プロペニル基又はアリル基(即ち2−プロペニル基)を表し、モノマー(A)全体として、R
1は全て同一でも、R
1が異なる化合物の混合物でもよい。また、ジエステルの場合に一分子中のR
1は同一でも異なってもよい。R
1は好ましくは1−プロペニル基である。R
1の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。
【0015】
式中のAは炭素数2〜4のアルキレン基(即ち、アルカンジイル基)を表し、直鎖状でも分岐状でもよい。従って、AOで表されるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。一般式(1)における(AO)
n鎖部分は、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(1,4−ブチレンオキサイド)等の1種又は2種以上を用いた付加重合体である。オキシアルキレン基の付加形態は特に限定されず、1種類のアルキレンオキサイドを用いた単独付加体でもよく、2種類以上のアルキレンオキサイドを用いたランダム付加体、ブロック付加体、或いはそれらランダム付加とブロック付加の組み合わせでもよい。
【0016】
上記オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基が好ましく、2種類以上のオキシアルキレン基を含む場合、その1種類はオキシエチレン基であることが好ましい。(AO)
n鎖部分は、好ましくはオキシエチレン基を50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%含有する(ポリ)オキシアルキレン鎖である。
【0017】
式中のnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜9の範囲の数であることが好ましく、より好ましくは2〜8である。一実施形態として、nは2〜6でもよく、2〜4でもよい。
【0018】
式中のmは、α−メチルベンジル基の置換基数を表し、平均値で1〜3の範囲にあり、好ましくは1〜2の範囲にある。α−メチルベンジル基の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましい。
【0019】
好ましい一実施形態に係る上記Xは下記式(2−1)で表される基である。
【化3】
式中のn、mは式(2)中のn、mと同じである。
【0020】
モノマー(A)の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することにより合成することができる。例えば、スチレン化フェノールとハロゲン化アリルを、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基性物質とともに反応させることにより、スチレン化アリルフェニルエーテルを得て、これを加熱することでアリル基を転位させてスチレン化アリルフェノールを得る。次いで、該スチレン化アリルフェノールにアルカリ触媒のもとでアルキレンオキサイドを高温、高圧下で付加させることにより、ポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテルを得て、これに公知のリン酸化剤を反応させることによりリン酸エステルを得ることができる。その後、必要に応じてアンモニアで中和することによりアンモニウム塩を得てもよい。
【0021】
[モノマー(B)]
本実施形態では、重合体を構成するモノマーとして、更に(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群から選択される少なくとも1種(モノマー(B))を用いることが好ましい。一実施形態において、モノマー(B)は、塗膜を構成する重合体の主成分であり、これに上記モノマー(A)を含有させることによってモノマー(B)からなる重合体を改質して金属に対する密着性を向上することができる。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうちの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデセニル、(メタ)アクリル酸イコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらはいずれか1種用いても、2種以上併用してもよい。
【0023】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−,p−メチルスチレン、o−,m−,p−エチルスチレン、o−,m−,p−イソプロピルスチレン、o−,m−,p−tert−ブチルスチレン等が挙げられる。これらはいずれか1種用いても、2種以上併用してもよい。
【0024】
[化合物(C)]
本実施形態では、重合体を構成するモノマーとして、更に重合性不飽和基およびポリオキシアルキレン基を有する化合物(C)(但し、モノマー(A)は除く。)を用いることが好ましい。化合物(C)は、重合性不飽和基とポリオキシアルキレン基を有しかつモノマー(A)以外であれば、種々の化合物を1種又は2種以上組み合わせて用いることができ、モノマー(A)と併用することにより金属に対する密着性の向上効果を高めることができる。
【0025】
重合性不飽和基としては、例えば、1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、アリル基、メタリル基などが挙げられ、これらを1種又は2種以上有してもよい。ポリオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられ、これらを1種又は2種以上有してもよい。ポリオキシアルキレン基は、オキシエチレン基を50〜100モル%含有することが好ましく、より好ましくは70〜100モル%含有することであり、ポリオキシエチレン基であることが好ましい。
【0026】
一実施形態において、化合物(C)は、重合体を合成する際の反応性乳化剤として用いられることが好ましい。反応性乳化剤としての化合物(C)は、その全てがモノマー(A)等とともに共重合されて重合体に取り込まれてもよく、あるいは、一部が重合体に取り込まれ、一部は取り込まれずにそのまま残り乳化剤として水分散体に含まれてもよい。
【0027】
化合物(C)は、乳化効果を高めるために、一実施形態において、アニオン性親水基を有することが好ましい。アニオン性親水基としては、SO
3M基、COOM基、PO
3M
2基、PO
2M基などが挙げられ、これらを1種又は2種以上有してもよい。ここで、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、アルキルアンモニウムまたはアルカノールアンモニウムを表す。これらの中でもアニオン性親水基としてはSO
3M基が好ましい。
【0028】
化合物(C)は、また、モノマー(A)との併用効果を高めて金属に対するより優れた密着性を付与できることから、芳香環を含むことが好ましい。すなわち、一実施形態において、化合物(C)は芳香族系アニオン性乳化剤であることが好ましい。
【0029】
好ましい実施形態において、化合物(C)としては、例えば、ポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、およびポリオキシアルキレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。より詳細には、下記式(3−1)で表される硫酸エステル塩および下記式(3−2)で表される硫酸エステル塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
【化4】
式中のR
2およびR
3は、上記式(2)中のR
1と同様であり、それぞれ1−プロペニル基又はアリル基を表し、好ましくは1−プロペニル基である。R
2およびR
3の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。
【0031】
式中のm1は、α−メチルベンジル基の置換基数を表し、平均値で1〜3の範囲にあり、好ましくは1〜2の範囲にある。α−メチルベンジル基の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましい。
【0032】
式中のR
4は、炭素数1〜20のアルキル基を表し、より好ましくは炭素数5〜15のアルキル基を表す。R
4の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。
【0033】
式中のA
1およびA
2は、上記式(2)中のAと同様であり、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基を表す。そのため、A
1OおよびA
2Oで表されるオキシアルキレン基はそれぞれオキシエチレン基が好ましく、2種類以上のオキシアルキレン基を含む場合、その1種類はオキシエチレン基であることが好ましい。(A
1O)
n1鎖部分および(A
2O)
n2鎖部分はそれぞれオキシエチレン基を50〜100モル%含むことが好ましく、より好ましくは70〜100モル%含むことである。
【0034】
式中のn1およびn2は、それぞれオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜50の範囲の数であることが好ましく、より好ましくは5〜30である。
【0035】
式中のMは、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属原子、アンモニウム、アルキルアンモニウムまたはアルカノールアンモニウムを表す。アルキルアンモニウムとしては、例えば、モノメチルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム等が挙げられ、アルカノールアンモニウムとしては、例えば、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等が挙げられる。
[その他のモノマー]
本実施形態に係る重合体は、上記モノマー(A)、モノマー(B)および化合物(C)以外のモノマーを構成モノマーとして含んでもよい。そのような他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジオレフィンモノマー、エチレン、無水マレイン酸、マレイン酸メチル等が挙げられる。
【0036】
[重合体]
本実施形態に係る重合体は、構成モノマーとして、モノマー(A)を含む重合体であり、好ましくは、更にモノマー(B)を含み、更に化合物(C)を含み、更に他のモノマーを含んでもよい共重合体である。すなわち、該重合体は、モノマー(A)由来の構成単位を含み、好ましくは、更にモノマー(B)由来の構成単位を含み、更に化合物(C)由来の単量体を含み、更に他のモノマー由来の構成単位を含んでもよい。ここで、構成モノマーとは、重合体を構成するモノマーのことであるが、必ずしも重合体を重合する際に用いるモノマーを意味するものではなく、重合体での各構成単位に相当する構造を持つモノマーを意味し、例えば、モノマー(A)であれば、重合後に塩型を酸型に変換したものでもよく、また重合後に酸型をアンモニアで中和してアンモニウム塩にしてもよい。
【0037】
モノマー(A)の含有量は、特に限定されず、例えば、構成モノマー中(即ち、重合体中)に、0.1〜20質量%でもよく、0.2〜15質量%でもよく、0.5〜10質量%でもよい。モノマー(B)の含有量は、特に限定されず、例えば、構成モノマー中に、70〜99.8質量%でもよく、80〜99.4質量%でもよく、85〜99質量%でもよい。化合物(C)の含有量は、特に限定されず、例えば、構成モノマー中に、0.1〜20質量%でもよく、0.2〜15質量%でもよく、0.5〜10質量%でもよい。これらの比率は、構成モノマー全体を100質量%とした比率である。
【0038】
実施形態に係る重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、例えば10万〜1000万でもよく、100万〜500万でもよい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0039】
[水分散体の製造方法]
本実施形態に係る水分散体の製造方法は、特に限定されず、公知の乳化重合法を用いて製造することができる。すなわち、重合用溶媒として水を用い、モノマー(A)を含むモノマーを、乳化剤を用いて水中に乳化させ、これに重合開始剤を加えて反応させることにより重合体が合成され、必要に応じてアンモニアで中和することにより、水分散体が得られる。
【0040】
なお、水分散体の製造に用いる上記モノマー(A)としては、一実施形態において、酸型のリン酸エステルを用いることが好ましい。
【0041】
乳化剤としては、非反応性乳化剤を用いてもよく、重合性不飽和基を有する反応性乳化剤を用いてもよい。
【0042】
好ましい一実施形態において、反応性乳化剤として上記化合物(C)を用いて、上記モノマー(A)を含むモノマーを重合させてもよい。反応性乳化剤としての化合物(C)の使用量は、特に限定されず、例えばモノマー(化合物(C)は除く。)の総量100質量部に対して0.1〜20質量部でもよく、0.2〜15質量部でもよく、0.5〜10質量部でもよい。
【0043】
また、好ましい一実施形態において、乳化剤として、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、およびポリオキシアルキレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選択される少なくとも1種の硫酸エステル型乳化剤を用いて、上記モノマー(A)を含むモノマーを重合させてもよい。より詳細には、乳化剤として、下記式(4−1)で表される乳化剤および下記式(4−2)で表される乳化剤からなる群から選択される少なくとも1種を用いることである。
【0044】
【化5】
式中のR
5およびR
6は、それぞれ、水素原子、1−プロペニル基又はアリル基を表し、好ましくは1−プロペニル基である。R
5およびR
6の置換位置は、オルト位及び/又はパラ位であることが好ましく、より好ましくはオルト位である。式中のm1、R
4、A
1、A
2、n1、n2、Mは、上記式(3−1)及び(3−2)中のm1、R
4、A
1、A
2、n1、n2、Mと同じである。
【0045】
式(4−1)及び(4−2)において、R
5およびR
6が水素原子のとき、これらの硫酸エステル型乳化剤は非反応性である。また、R
5およびR
6が1−プロペニル基又はアリル基のとき、これらの硫酸エステル型乳化剤は上記化合物(C)に該当し、より好ましい態様である。
【0046】
これらの硫酸エステル型乳化剤の使用量は、特に限定されず、例えばモノマー(化合物(C)は除く。)の総量100質量部に対して0.1〜20質量部でもよく、0.2〜15質量部でもよく、0.5〜10質量部でもよい。
【0047】
重合反応に用いる重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなど)、アゾアミジン化合物(2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩など)、アゾニトリル化合物(2−カルバモイルアゾイソブチロニトリルなど)などを使用できる。また、公知の反応促進剤を併用してもよい。
【0048】
重合温度や重合時間等の重合条件については特に限定されず、使用するモノマーの種類等に応じて適宜設定することができる。
【0049】
[水分散体]
本実施形態に係る水分散体は、上記重合体を含有するものである。一実施形態において、反応性乳化剤として用いた化合物(C)のうち重合体に取り込まれなかった一部を、上記重合体とともに含有してもよい。また、上記の非反応性の硫酸エステル型乳化剤を、上記重合体とともに含有してもよい。
【0050】
本実施形態に係る水分散体において、上記重合体の濃度は特に限定されず、例えば20〜70質量%でもよく、35〜55質量%でもよい。上記重合体に取り込まれなかった化合物(C)の一部の水分散体中における含有量は、特に限定されず、重合体に取り込まれたものとの合計量で、モノマー(化合物(C)は除く。)の総量100質量部に対して0.1〜20質量部でもよく、0.2〜15質量部でもよく、0.5〜10質量部でもよい。
【0051】
本実施形態に係る水分散体には、上記重合体、化合物(C)、及びその他の乳化剤の他に、着色剤、pH調整剤、増粘剤、顔料、防腐剤などの公知の添加剤を含有させてもよい。
【0052】
本実施形態に係る水分散体の用途は、特に限定されず、例えば塗膜を形成するために用いてもよい。そのため、一実施形態に係る塗膜は、上記水分散体を基材に塗布し、加熱・乾燥することにより得られるものであり、よって、表面に塗膜を有する基材が提供される。好ましくは、金属表面に塗布される金属用コーティング剤として用いられることである。そのため、好ましい一実施形態に係る塗膜は、金属表面に形成された塗膜であり、上記水分散体により形成された塗膜を表面に有する金属が提供される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記構造式中、EOはオキシエチレン基を表す。
【0054】
[合成例1:モノマー(A−1)の合成]
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応容器に、スチレン化フェノール(モノスチレン化フェノール:ジスチレン化フェノール:トリスチレン化フェノール=80:19:1(モル比)の混合物)230g(1.0モル)、NaOH40g(1.0モル)およびアセトン210gを仕込み、撹拌しながら内温を40℃に昇温した。次にアリルクロライド91g(1.2モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに40℃に2時間保ち、反応を行った。反応生成物を濾過し、副生したNaClを除去した後、減圧下にアセトンを除去し、スチレン化アリルフェニルエーテル314gを得た。
【0055】
このスチレン化アリルフェニルエーテルをオートクレーブに仕込み、200℃で5時間撹拌保持した。この段階で転位反応が起こり、スチレン化1−プロペニルフェノールとした。このスチレン化1−プロペニルフェノール290gをオートクレーブに移し、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件にて、エチレンオキサイド132g(3モル)を付加させた。
【0056】
次に、このスチレン化1−プロペニルフェノールEO3モル付加体に、20℃を超えないように冷却しながら無水リン酸63g(0.22モル)を滴下し、滴下終了後70℃に昇温して5時間反応することにより、下記式で表されるポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1−プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステル(A−1)を得た。
【化6】
【0057】
[合成例2:モノマー(A−2)の合成]
無水リン酸の使用量を94g(0.33モル)とした以外は合成例1と同様の操作を行うことにより、上記式で表されるリン酸モノエステルと下記式で表されるリン酸ジエステルとの混合物であるポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1−プロペニルフェニルエーテルリン酸セスキエステル(A−2)を得た。
【化7】
【0058】
[合成例3:モノマー(A−3)の合成]
無水リン酸の使用量を126g(0.44モル)とした以外は合成例1と同様の操作を行うことにより、上記式で表されるポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1−プロペニルフェニルエーテルリン酸ジエステル(A−3)を得た。
【0059】
[合成例4:モノマー(A−4)の合成]
エチレンオキサイドの使用量を220g(5モル)とした以外は合成例1と同様の操作を行うことにより、下記式で表されるポリオキシエチレン(5モル)スチレン化1−プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステル(A−4)を得た。
【化8】
【0060】
[合成例5:モノマー(A−5)の合成]
エチレンオキサイドの使用量を220g(5モル)とした以外は合成例2と同様の操作を行うことにより、上記式で表されるモノエステルと下記式で表されるジエステルとの混合物であるポリオキシエチレン(5モル)スチレン化1−プロペニルフェニルエーテルリン酸セスキエステル(A−5)を得た。
【化9】
【0061】
[合成例6:モノマー(A−6)の合成]
エチレンオキサイドの使用量を220g(5モル)とした以外は合成例3と同様の操作を行うことにより、上記式で表されるポリオキシエチレン(5モル)スチレン化1−プロペニルフェニルエーテルリン酸ジエステル(A−6)を得た。
【0062】
[実施例1〜10,比較例1〜4]
水107.15gに、下記表1に記載のC成分を溶解した。これに表1に記載のC成分以外の原料を加え、ホモミキサーで乳化させることによりプレエマルションを得た。別途、滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに、水117.11g及び炭酸水素ナトリウム0.25gを仕込み、上記プレエマルションのうち36.46gを加えて80℃に昇温して15分間混合した。次いで、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.38gを水10gに溶解した水溶液を加えて15分間反応させた後、残りのプレエマルションを3時間かけて滴下し、さらに1時間反応させた。続いて、過硫酸アンモニウム0.12gを水10gに溶解した水溶液を添加して1時間反応させた後、40℃に冷却し、アンモニア水でpH8に調整することにより、実施例1〜10及び比較例1〜4の水系樹脂分散体を得た。なお、アンモニア水で中和することにより、水分散体の段階では、A成分のリン酸エステルはアンモニウム塩になった。
【0063】
表1中の原料について、A−1〜A−6は上記で合成したものである。その他の原料については以下の通りである。
・B−1:アクリル酸ブチル
・B−2:メタクリル酸メチル
・B−3:スチレン
・C−1:ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム(製品名:アクアロンAR−10、第一工業製薬(株)製)
・C−2:ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム(製品名:アクアロンBC−10、第一工業製薬(株)製)
・a−1:アクリル酸
・a−2:ヒドロキシエチルメタクリレートリン酸モノエステル(製品名:ライトエステルP−1M、共栄社化学(株)製)
a−3:ポリオキシエチレン(3モル)スチレン化1−プロペニルフェニルエーテルリン酸モノエステルナトリウム塩(上記A−1を水酸化ナトリウムで中和したもの)
【0064】
得られた水分散体について、密着性1、密着性2、耐水密着性、耐水白化性および防錆性を評価した。なお、評価方法は以下の通りである。
【0065】
・密着性1:水分散液をステンレス(SUS)板に膜厚11μm(dry)となるように塗布し、105℃で10分乾燥し、試験片を得た。この試験片を用いて、JIS K 5400−8.5に準じて、碁盤目試験を実施した。剥がれの割合で評価し、下記基準により評価した。
A:剥がれの割合が0%
B:剥がれの割合が0%超25%未満
C:剥がれの割合が25%以上50%未満
D:剥がれの割合が50%以上75%未満
E:剥がれの割合が75%以上
【0066】
・密着性2:塗布後の乾燥温度を60℃に変更した以外は密着性1と同様に評価した。
【0067】
・耐水密着性:水分散液をステンレス(SUS)板に膜厚11μm(dry)となるように塗布し、105℃で10分乾燥して得たフィルムを、60℃の温水に24時間浸漬した後に、上記密着性1と同様の碁盤目試験を実施した。評価基準は密着性1と同様である。
【0068】
・耐水白化性:水分散液をガラス板に膜厚11μm(dry)となるように塗布し、105℃で10分乾燥して得たフィルムを、25℃の水に浸漬し、白化度を評価した。10ポイントの文字の上にフィルムを形成したガラス板を置き、フィルムを通して見た文字の識別性を下記基準により評価した。
A:3日浸漬後も文字が見える
B:3日浸漬後には文字が見えない
C:1日浸漬後には文字が見えない
【0069】
・防錆性:水分散液をステンレス(SUS)板に膜厚11μm(dry)となるように塗布し、105℃で10分乾燥して得たフィルムに、JIS K 5600−5−6のクロスカット法に準拠して切り込みを入れた。このフィルムを3質量%の塩水に20℃で10日間浸漬後の状態を評価した。評価は錆の発生の具合について行い、下記基準により評価した。
A:錆なし
B:クロスカット部のみ錆が見られる
C:全体に錆が見られる
【0070】
結果は下記表1に示す通りであり、構成モノマーとして特定のリン酸エステル(A−1)〜(A−6)を含む重合体を含有する水分散体であると、金属に対する密着性に優れ、耐水密着性および防錆性にも優れ、耐水白化性にも優れていた。
【0071】
【表1】