(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このように吊りピースを鉄骨から大きく突出させると、吊りピースに対するシャックルの組み付け及び取り外しは良くなるが、鉄骨に対して後付けされる他の構造材や床の仕上げが前記鉄骨に溶接された吊りピースと干渉することがある。この場合には前記干渉を避けるために、この干渉箇所を切除する必要がある。例えば、ビル建築において床面や屋上面をデッキプレートでスラブを形成する場合、建築基準法ではスラブの最低厚みを80mm以上としている。あるいはスラブ厚が100mmだとしても、吊りピースの鉄骨からの突出高さが100mmではコンクリートのかぶり厚が確保出来ないので、やはり吊りピースを切断しないとスラブが仕上げられない。
【0006】
なお、建築基準法ではコンクリートスラブのかぶり厚は30mm以上としているので、例えば最小スラブ厚80mmの場合、かぶり厚30mmを確保すると、高さは50mmとなり、それ以上高いと建築基準を満たさないことになる。
【0007】
また、工場倉庫などの屋根を支える小屋組の鉄骨では、柱と梁の接合はボルト接合が主体であり、屋根材の下地を葺くのにボルト部の突出が邪魔になり、ボルト部と干渉しないように、鉄骨梁上にリップみぞ形鋼などを溶接固定して、このリップみぞ形鋼にこれら屋根下地材を載置する。一般に、リップみぞ形鋼は高さが50mmのものを採用することから、吊りピースとして高さが100〜150mmのものを使用すると、吊りピースの上部がリップみぞ形鋼よりも上方へ突出してしまい、やはり吊りピースを切除する必要がある。しかしながら、この切除作業は、足場の悪い高所での作業となるので、作業者の安全や作業性の悪さなど危険な作業であり、大きな負担となっていた。
【0008】
小屋組の鉄骨の吊り金具としては、上記の説明の如く、吊りピースの高さは50mmを超えると、屋根下地材と干渉し屋根下地材が葺けなくなる。また最小高さの限界は45mmであり、これより低いと嵌合部の鋼材の容積が足りなくなり、鋼の性質から吊り荷重を受けるのには厳しい寸法となり、荷重の伝達がうまくできない。
【0009】
以上説明したように、従来から建設現場で鉄骨を組立てる際に、安全で切断処理の不要な吊り具を望む意見が多かったが、簡単な機構で開発されたものが無かった。
【0010】
そこで本発明は、現場で鉄骨組立ての時、吊り治具と鉄骨の切り離しを高所作業でも安全な軽作業で行なえ、且つ鉄骨に溶接する受けピースの高さを低く押さえ、鉄骨に対して後付けされる他の構造材や床の仕上げが吊り治具と干渉しない鉄骨の揚重装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題を解決するために第1の発明は、建設現場等において鉄骨を揚重するために用いる鉄骨の揚重装置であって、
前記鉄骨に溶接される受けピースと、この受けピースと着脱可能に連結すると共にシャックルを連結したクレーン等にて吊りワイヤーを介して前記鉄骨を吊り上げるための吊り治具と
を備え、
前記吊り治具を前記受けピースと嵌合し合う嵌合溝を備えた吊りピースと、該吊りピースの一方の面を支承するための添え板と、その下部から上方に延びて開設された固定用嵌合溝内に上方向から前記吊りピースと嵌合する固定板と、前記吊りピースの他方の面を支承するための押さえ板と、前記添え板、前記吊りピース及び前記押さえ板に開設した孔内に挿通するボルト及び該ボルトが挿通した状態で締め付けするためのナットとで構成し、
前記鉄骨に溶接された前記受けピースと前記吊り治具の前記吊りピースとを連結した後に前記ナットを締め付けることにより前記受けピースと前記吊り治具とを固定する
ことを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、建設現場等において鉄骨を揚重するために用いる鉄骨の揚重装置であって、
前記鉄骨に溶接される受けピースと、この受けピースと着脱可能に連結すると共にシャックルを連結したクレーン等にて吊りワイヤーを介して前記鉄骨を吊り上げるための吊り治具とを備え、
前記吊り治具
を前記受けピースと嵌合し合う嵌合溝を備えた吊りピースと、該吊りピースの一方の面を支承するための添え板と、その下部から上方に延びて開設された固定用嵌合溝内に上方向から前記吊りピースと嵌合する固定板と、前記吊りピース、前記添え板及び前記固定板を溶接により固定した状態で前記吊りピースの他方の面を支承するための押さえ板と、前記添え板、前記吊りピース及び前記押さえ板に開設した孔内に挿通するボルト及び該ボルトが挿通した状態で締め付けするためのナットとで構成し、
前記鉄骨に溶接された前記受けピースと前記吊り治具の前記吊りピースとを連結した後に前記ナットを締め付けることにより前記受けピースと前記吊り治具とを固定する
ことを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、建設現場等において鉄骨を揚重するために用いる鉄骨の揚重装置であって、
前記鉄骨に溶接される受けピースと、この受けピースと着脱可能に連結すると共にシャックルを連結したクレーン等にて吊りワイヤーを介して前記鉄骨を吊り上げるための吊り治具とを備え、
前記吊り治具を前記受けピースと嵌合し合う嵌合溝を備えた吊りピースと、該吊りピースの一方の面を支承するための添え板と、その下部から上方に延びて開設された固定用嵌合溝内に上方向から前記吊りピースと嵌合する固定板と、
前記吊りピース、前記添え板及び前記固定板を溶接により固定した状態で前記吊りピースの他方の面を支承するための押さえ板と、前記添え板、前記吊りピース及び前記押さえ板に開設した孔内に挿通するボルト及び該ボルトが挿通した状態で締め付けするためのナットとで構成し、
前記押さえ板と前記添え板との間隔を前記受けピース1の厚さの2倍以上となるように前記ボルトに前記ナットを取り付けた状態とした前記吊り治具の前記吊りピースを前記鉄骨に溶接された前記受けピース
に連結した後に
、前記ナットを締め付けることにより前記受けピースと前記吊り治具とを固定する
ことを特徴とする。
【0014】
第4の発明は、
第1乃至第3の発明において、前記受けピースと前記吊り治具とが連結した際に、前記吊りピースの両側面に位置する前記添え板の下端及び前記押さえ板の下端は、前記鉄骨と前記受けピースとの溶接のビードを避けるように上方に位置するような構成としたことを特徴とする。
【0015】
第5の発明は、
第1乃至第3の発明において、前記ボルトが前記添え板、前記吊りピース及び前記押さえ板を挿通した後で、前記ナットを嵌合させた後に、前記ナットの落下を防止するためのボルトピンを前記ボルトに装着したことを特徴とする。
【0016】
第6の発明は、
第1乃至第3の発明において、
前記受けピースの高さを45mm以上〜50mm以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
そこで本発明は、現場で鉄骨組立ての時、吊り治具と鉄骨の切り離しを高所作業でも安全な軽作業で行なえ、且つ鉄骨に溶接する受けピースの高さを低く押さえ、鉄骨に対して後付けされる他の構造材や床の仕上げが吊り治具と干渉しない鉄骨の揚重装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。先ず、
図1は本発明の実施形態に係る鉄骨の揚重装置の正面図であり、柱用鉄骨や梁用鉄骨などの鉄骨Gに溶接された受けピース1と吊りピース2とが嵌合され、この嵌合した状態を押さえ板3A、スペーサ3B、添え板4、一対の固定板5、5、ボルトB及びナットNにより拘束している状態を示している。
図2は
図1に示す鉄骨の揚重装置を上から見た状態で、
図3は
図1示す鉄骨の揚重装置の右側面図である。なお、前記受けピース1、前記吊りピース2、前記押さえ板3A、前記スペーサ3B、前記添え板4、前記一対の固定板5、5は、ともに鋼材の平板から作製される。
【0022】
前記鉄骨Gを吊り上げるための基本的な機構は、前記鉄骨Gに溶接された前記受けピース1と吊る側の吊り治具TJとから構成され、前記受けピース1と前記吊り治具TJとは着脱可能な可能である。そして、前記吊り治具TJは、前記吊りピース2、押さえ板3A、スペーサ3B、添え板4、一対の固定板5、5、ボルトB及びナットNから構成される。即ち、前記吊りピース2は他の部材、即ち前記押さえ板3A、スペーサ3B、前記添え板4及び一対の前記固定板5、5と共に前記吊り治具TJを構成し、この吊り治具TJと前記受けピース1とで上下に2分割されて連結したり、切り離したりすることができて、着脱可能な鉄骨の
揚重装置を構成する。
【0023】
前記受けピース1と前記吊り治具TJの主たる前記吊りピース2とは、
図5と
図6に示すように、互いに嵌合し合う嵌合部分が形成されており、以下詳述する。
【0024】
即ち、
図5に示すように、前記受けピース1は鋼材で作製され、外形は凸凹しており、厚さは12mmである。そして、前記受けピース1は凹凸した形状であり、2つの嵌合部1A、1Bと、3つの被嵌合部1C、1D、1Eと、1つの横長の嵌合部1Fとが形成されている。また、
図6に示すように、前記吊りピース2は鋼材で作製され、厚さは12mmであり、前記受けピース1が嵌合する嵌合溝KMが下部に形成される。即ち、前記吊りピース2は前記受けピース1の前記嵌合部1Aが嵌合する被嵌合部2Aと、同じく前記嵌合部1Bが嵌合する被嵌合部2Bと、前記嵌合部1Fが嵌合する被嵌合部2Fが形成されている。更に前記吊りピース2は、前記受けピース1の前記被嵌合部1Cに嵌合する嵌合部2Cと、同じく前記被嵌合部1Dに嵌合する嵌合部2Dと、同じく前記被嵌合部1Eに嵌合する嵌合部2Eとが形成されている。
【0025】
また、前記吊りピース2には、前記被嵌合部2A、2Bの上方に丸孔であるボルト孔2R2A、2R2Bが開設されると共に前記ボルト孔2R2Aと2R2Bとの間の上方に丸孔である吊り孔2R1が開設されている。
【0026】
なお、前記吊りピース2は、前記被嵌合部2Aと2B、前記嵌合部2C、2Dと2E、前記被嵌合部2F、前記ボルト孔2R2A、2R2Bが開設された下部2Lと、前記吊り孔2R1が開設された上部2Uとから構成される。
【0027】
そして、前記吊りピース2の前記下部2Lの外形は上底が下底より短い概ね台形状を呈し、前記上部2Uは緩やかな山形形状の概ね半円形状を呈しており、前記下部2Lの最上端部の横幅は前記上部2Uの最下端部の横幅より長く、前記下部2Lの最上端部と前記上部2Uの最下端部との間には、左右に段差部2S、2Sが形成されている。従って、前記下部2Lの前記受けピース1が嵌合する溝の外側にはスカート部2Gが形成されることになる。
【0028】
なお、本発明に係る前記受けピース1は、高さが45mm以上〜50mm以下であって、常識はずれの高さで、あまりにも低い。しかしながら、鋼材の性質や耐力性能からは十分荷重を吊り上げる能力があり、前述した吊り治具TJの相手側としての吊り具として実施させるのに、嵌合部分における連結方法や座屈防止の有効な機能を備えている。
【0029】
なお、小屋組の鉄骨の吊り金具としては、前記受けピース1の高さが50mmを超えると、屋根下地材と干渉し屋根下地材が葺けなくなる。45mmより低いと、嵌合部の鋼材の容積が足りなくなり、鋼の性質から吊り荷重を受けるのには厳しい寸法となり、荷重の伝達がうまくできない。このため、本発明に係る前記受けピース1は、高さが45mm以上〜50mm以下とした。
【0030】
本発明の鉄骨の揚重装置は、建設現場で前記鉄骨Gを所定の位置に納めた後に、前記吊りピース2と前記受けピース1とが嵌合し合う嵌合部分を、高所で嵌合連結の解除をするので、嵌め合いやその解除がスムーズに行えるように、互いに嵌合し合う面には隙間が必要であって、これらの隙間寸法は0.5mm〜1.0mmの間に設定すれば、嵌合は緩くも無く、またきつくもなくスムーズに行うことができ、前記吊り治具TJと前記受けピース1の脱着に無理のない嵌め合いバランスとなる。
【0031】
即ち、夫々嵌合する前記受けピース1の前記嵌合部1A、1Bと前記吊りピース2の前記被嵌合部2A、2Bとの隙間寸法や、夫々嵌合する前記吊りピース2の前記嵌合部2C、2D、2Eと前記受けピース1の前記被嵌合部1C、1D、1Eとの隙間寸法、夫々嵌合する前記受けピース1の前記嵌合部1Fと前記吊りピース2の前記被嵌合部2Fとの隙間寸法は、前述したように、0.5mm〜1.0mmの間に設定される。
【0032】
次に、
図7は前記押さえ板3Aと前記スペーサ3Bとを示し、ともに鋼材で作製され、厚さは9mmである。前記押さえ板3Aの横寸法は前記スペーサ3Bの最大寸法(最下部の横寸法)より片側それぞれ1〜1.5mm短い寸法で、前記吊り治具TJの組み付け時には前記押さえ板3Aの上端面と前記スペーサ3Bの下端面とは0.5〜1.0mmの隙間を存して配設されることとなる。前記押さえ板3Aにはボルト孔3R2A、3R2Bが開設され、また前記スペーサ3Bには丸孔である吊り孔3BR1が開設されている。
【0033】
図8は前記添え板4を示し、該添え板4は鋼材で作製され、厚さは9mmである。該添え板4の最大横寸法は前記スペーサ3Bの横寸法と同じ寸法である。前記添え板4には、六角形状のボルト孔4R2A、4R2Bと吊り孔4R1とが開設されている。
【0034】
図9は前記固定板5を示し、本実施形態では2枚使用する。この固定板5の下端中央部には略半円形状の導入嵌合溝6Aが開設されると共にこの導入嵌合溝6Aに下から連通して上方へ延びる固定用嵌合溝6Bが開設される。この固定用嵌合溝6Bの短い方の横幅は12mmより少し長い寸法である。即ち、前記固定板5、5の前記固定用嵌合溝6Bの上の開口形成上端部が前記吊りピース2の前記段差部2S、2Sに当接するまで、前記吊りピース2と各固定板5、5は平面視概ねT字形状を呈して直交するように、前記固定用嵌合溝6B内に前記吊りピース2を上方から嵌合させるために、前記固定用嵌合溝6Bの短い方の横幅は12mmより少し長い。
【0035】
次に、前述した吊り治具TJの組み付け及び鉄骨の揚重装置の動作について、説明する。工場等において、前記鉄骨Gには前記受けピース1が溶接により固定されているものとして、以下説明する。前記スペーサ3Bの最大横寸法(最下部の横寸法)と、前記添え板4の最大横寸法と、前記吊りピース2の前記上部2Uの最大横寸法(最下部の横寸法)とは、同じ寸法であり、初めに作業者が前記吊り治具TJを一体化させる組み付けについて説明する。
【0036】
先ず、作業者は前記吊りピース2を挟むように、前記添え板4と前記スペーサ3Bを配設して、前記固定板5、5をそれぞれに開設された前記導入嵌合溝6Aを介して前記固定用嵌合溝6B内に前記吊りピース2の上方から嵌合させる。即ち、
図9に示すように、前記固定板5の幅方向の中心には、上方から前記吊りピース2に差し込んで組み付けるための前記固定用嵌合溝6Bが上方へ延びるように形成される。なお、前記固定板5は、本実施形態では前記吊りピース2の左右にそれぞれ設けるが、前記吊り治具TJの組み付け精度を考えると、前記固定用嵌合溝6Bを設けた1枚の鋼板から構成してもよい。
【0037】
そして、上述したように、前記吊りピース2の前記段差部2S、2Sに前記固定板5、5の前記固定用嵌合溝6Bの開口形成上端部が当接するまで、各固定板5、5の前記固定用嵌合溝6B内に前記吊りピース2を嵌合させた状態において、
図2、
図4等に示すように、作業者は前記吊りピース2と各固定板5の外側(前記固定板5、5の各固定用嵌合溝6Bの外側開口部の周囲部分)を溶接WDで固定すると共に、前記添え板4の外側と各固定板5、5の内側(外側から見える前記添え板4と各固定板5、5の合わせ部分)を同様に溶接WDで固定し、更に前記固定板5、5の上面と前記添え板4、前記吊りピース2及び前記スペーサ3Bとの接触部を溶接WDで固定する。
【0038】
即ち、前記吊りピース2を挟んだ状態で、該吊りピース2、前記添え板4、前記スペーサ3B及び固定板5、5が前述した各溶接WDによって、一体化される(
図4参照)。なお、前記押さえ板3Aと前記スペーサ3Bとの合計高さと、前記添え板4の高さは、ともに前記吊りピース2より長さHだけ短い長さであって、前述したように、一体化された状態、更には前記押させ板3Aを取り付けた状態では、前記添え板4及び前記押さえ板3Aの下端は前記鉄骨Gの面一より長さHだけ上方に位置することになる。この長さHは、前記受けピース1を前記鉄骨Gに取り付けた前記溶接WDのビードを避けるための長さである。
図4に示す前記嵌合溝KMを介して見える前記添え板4の部分が、後に前記吊り治具TJに連結する前記受けピース1の片面を押さえる(支承する)役目を果たす。
【0039】
次に、該吊りピース2、前記添え板4、前記スペーサ3B及び固定板5、5が前述した各溶接WDによって一体化された状態において、作業者は前記スペーサ3Bの下方に連続するように、且つ前記押さえ板3Aを前記吊りピース2に接触するように配置し、各ボルトB、Bの軸を前記添え板4の前記ボルト頭部孔4R2A、4R2Bから挿通して、次に前記吊りピース2のボルト孔2R2A、2R2Bを挿通させる。この後、前記吊りピース2のボルト孔2R2A、2R2Bから突出した各ボルトB、Bの軸を前記押さえ板3Aの丸孔であるボルト孔3R2A、3R2Bを挿通させる。
【0040】
そして、各ボルトB、Bの軸の頭部BTが前記添え板4の前記ボルト頭部孔4R2A、4R2Bに内に納まって、前記頭部BT裏面が前記吊りピース2の前記添え板4と当接する面に接触するまで挿通させた後、作業者は各ナットN、Nを前記ボルトB、Bの軸に軽く締め付けた後、各ボルトピンBP、BPを前記ボルトB、Bの軸に装着して各ナットN、Nが各ボルトB、Bの軸から脱落しないようにして、前記吊り治具TJを完成させる(
図10(a)参照。)。
【0041】
この場合、前記押さえ板3Aの内側面と該押さえ板3Aと面する前記吊りピース2の側面との間隔は、前記吊りピース2の板厚の最低1倍以上の間隔を存して離さなければならない。これは、前記吊りピース2と同厚の前記受けピース1の板厚の1倍以上に相当する長さ(間隔)で、前記押さえ板3Aと前記添え板4との間隔が前記受けピース1の厚さの2倍以上となって、前記吊りピース2の下方の前記押さえ板3Aと前記添え板4との間の空間内に前記受けピース1を容易に呼び込むことができる。
【0042】
なお、
図10(a)は前記鉄骨Gに溶接して取り付けた前記受けピース1が連結部になる前記吊りピース2と嵌合する前の断面図であるが、実際は作業者が前記吊り治具TJを前記受けピース1にかぶせる様に装着するので、前記スペーサ3Bなどが視界を妨げ、前記吊りピース2はよく見えにくいが、前記受けピース1が連結部になる前記吊りピース2と嵌合するのに妨げるものは何もないので、たとえ見え隠れしても、前記受けピース1と前記吊りピース2の嵌合部分はお互い呼び込みあって直ぐに連結結合できることとなる。
【0043】
そして、前記吊りピース2と前記押さえ板3Aが隙間無く密着すれば、前記受けピース1と前記吊りピース2の嵌合部分は互いに嵌合出来ていることとなるので、その連結結合の確認は容易にできる。なお、前記スペーサ3Bは必ずしも必要ないが、前記吊りピース2と前記受けピース1との嵌合部分が嵌合して連結結合されていれば、前記押さえ板3Aと前記スペーサ3Bの面が揃うので十分に連結結合したことの確認の目安になる。
【0044】
そして、前述したように、作業者は前記吊りピース2と前記受けピース1との連結結合の確認をしたら、各ナットN、Nを締め付け、前記吊ピース2を前記添え板4と前記押さえ板3Aとで挟むように固定して支承し、
図10(b)に示すような状態となる。従って、前述した吊り治具TJの組み付けが終了することになる。
【0045】
次に、
図1、
図2及び
図3に示すように、作業者はU字形状を呈した連結具であるシャックルSCを上方から前記吊り治具TJを概ね前記U字形状の空間内に納めるように配置させ、ネジ軸部を有するシャックルピンSPを前記シャックルSCの両ネジ孔、前記スペーサ3Bの吊り孔3BR1、前記吊りピース2の吊り孔2R1、前記添え板4の丸孔である吊り孔4R1を挿通させ、回動させて締め付けネジ止めする。
【0046】
このような状態にした後、
図11及び
図12に示すように、建設現場において、クレーン等からの吊りワイヤーTWの連結具を前記鉄骨Gの溶接された2個の受けピース1にそれぞれ取り付けた前記シャックルSCに連結させて、前記クレーン等にて前記吊り治具TJ(及び前記受けピース1)を介して前記鉄骨Gを吊り上げて、所望の場所(位置)へと
揚重して移動搬送し、作業者はこの搬送後において、前記吊り治具TJと前記シャックルSCとを連結させたまま、前記受けピース1と前記吊り治具TJとの結合を解いて分離させる。即ち、前記ナットN、Nの締め付けを緩めることにより、前記受けピース1と前記吊りピース2との連結を解除し、次の作業に備える。
【0047】
以上説明したように、本発明の第1の特徴は鉄骨の揚重装置を吊る側(前記吊り治具TJ)と吊られる側(前記受けピース1)の2分割にしたことにより、それらの前記嵌合部分だけの拘束と解除だけで、前記鉄骨Gに溶接された前記受けピース1と前記吊り治具TJとは連結したり、切り離したりすることができて着脱可能であり、
図13及び
図14に示す従来のような前記鉄骨Gに溶接して固定された前記吊りピース22に直接装着した大きくて重たいシャックルSCの脱着をしなくてすむことが特徴である。
【0048】
また、第2の特徴であるが、
図13に示す従来の前記吊りピース22から比較説明する。従来の吊りピース22はクレーン等による前記鉄骨Gの建て起こしの時に、どうしても前記吊りピース22には曲げ荷重が掛かる。即ち、建設現場でトラックから荷降ろしした時、鉄骨Gの荷姿は横向きが多く、実際に吊り上げる方向は上なのにもかかわらず、前記吊りピース22が横向きから引き起こさなければならないのが一般的である。この吊りピース22の本来の性能は、垂直荷重に対して有効なのだが、横向きの吊りピース22にシャックルSCを装着して建て起こすと、前記吊りピース22の板の厚み方向に荷重が掛かる。
【0049】
つまり、前記吊りピース22に曲げ応力が発生してしまうので、垂直荷重に耐えても、横方向の荷重に弱くては、更に大きく厚い前記吊りピース22にしなければならない欠点がある。垂直荷重だけに耐える従来の前記吊りピース22では、
図14の如く建て起こすので、前記鉄骨Gの自重で前記吊りピース22が角度θ分曲がってしまい、見てくれも悪くて不信感を招き、安全係数の低下や溶接部の変形や損傷などの不安がある。
【0050】
しかし、本発明の前記吊り治具TJで前記鉄骨Gを建て起こすと、
図12に示すように、前記吊り治具TJは前記鉄骨Gに対してほぼ垂直である。この場合でも、前記受けピース1には前記鉄骨Gから長さH分離れた近傍部位に当然曲げ応力が発生するが、その曲げ応力を前記固定板5、5が支え負担してくれる。
図3に基づいて説明すると、各固定板5、5の前記底辺5Aと前記鉄骨Gとの間は隙間無く接している。従って、前記クレーン等による前記鉄骨Gの建て起こしの時に、引張り荷重NAが作用するが、各固定板5、5の前記底辺5Aが反発し、前記受けピース1の前記鉄骨Gから長さH分離れた近傍部位が曲がろうとする力を押さえてくれる。同様に、
図1でシャックルSCに引張り荷重NBが作用した場合は、各スカート部2Gの底辺2Hが反発してくれるので、曲げ応力の全てが前記受けピース1に伝わることはない。従って、小さな前記受けピース1でも座屈が起こりにくい。
【0051】
更には、前記吊りピース2の前記嵌合部2C、2Eは、そのすぐ際に前記固定板5、5があり、前記溶接WBで固定されているために、仮に前記嵌合部分に前記吊りピース2が保有する吊れる性能以上の衝撃などの荷重が加わった時は、前記受けピース2の前記嵌合部1A、1Bと前記被嵌合部1Dは鋼の性質で伸びようと作用するが、被嵌合部1C、1Eは各固定板5の近傍であって前記吊りピース2と各固定板5とが前記溶接WDで固定されているため、鋼材の破断加荷重近くまで耐える作用が働く。つまり、前記被嵌合部1C、1Eは強制的に拘束されているため、前記受けピース1全体の変形が極めて少なく、小さな前記受けピース1でも前記鉄骨Gを十分揚重する能力がある。
【0052】
以上のように、前記固定板5、5、前記受けピース2の前記スカート部2G、2G及び前記嵌合部2C、2Eは、前記受けピース1が鋼の性質により弾性域から塑性変形域に移ろうとする時でも、前記受けピース1を強制拘束しているので、長さ(高さ)Hを有する空間が変形や座屈しないように助けてくれる役目をすることである。
【0053】
次に、本発明の第3の特徴であるが、前記受けピース1の高さが45mm以上〜50mm以下であるため、前記吊り具TJとの連結を解除した後の作業は、従来の工法と違い、吊りピースの切断処理が不要になり、工事費、工期ともに短縮され且つ作業員の現場滞在時間が少なくなる。
【0054】
なお、従来は
図14に示すように、通常の鉄骨Gの組立てでは、前記鉄骨Gを揚重するとき柱や梁等の前記鉄骨Gに鋼材でできた吊りピース22を溶接してシャックルSCを介して吊り上げているが、前記鉄骨Gの荒組立て後直ちに前記吊りピース22を切断する訳ではない。手順は鉄骨組み立て完了後本設のボルトを締め付けて倒壊のおそれがなくなった時点、また次の建設資材や仮設足場など配置される頃の切断作業となる。例えば、5階建てビルの上階で前記鉄骨Gに溶接した吊りピース22の切断作業を行うには、切断のガスボンベは地上にあり、切断トーチは地上数十mになり、ガスホースの引き回しだけでも大変な作業である。
【0055】
建設中の建物の上階で切断した前記吊りピース22の破材とはといえ、絶対に落下させてはならず、落下防止対策、切断火の粉養生など間接的な問題点が多くある。故に、本発明の突出高さが45mm以上〜50mm以下の前記吊りピース2で、かつ前記鉄骨Gに溶接された前記受けピース1との連結結合が脱着式であれば、前記の問題は全て解消される。更に作業員の現場滞在時間が短いことは、つまり危険作業に接する時間が短いということで、安全管理につながる大きな特徴でもある。
【0056】
次に、本発明の第4の特徴であるが、建設現場で前記鉄骨Gの組立て中は足場の不安定な高所作業であるため、吊り治具も落下防止対策が必要である。通常は、作業員も道具も命綱を装備しており、もし道具が滑って手元から離れても落下を防止する対策をしている。本発明は、この落下防止対策として、前記吊り治具TJは前記シャックルSCと連結した状態で、前記鉄骨Gと連結した部分(前記受けピース1)の拘束(連結)を解除して前記鉄骨Gから切り離した時、前記吊り治具TJを構成している部品は脱落しない。
【0057】
詳述すると、前記押さえ板3Aを拘束する前記ボルトB、Bは前記添え板4のボルト頭部孔4R2A、4R2Bに各ボルト頭部BT、BTを装填(挿入)して半固定させ、各ボルト頭部孔4R2A、4R2Bと各ボルト頭部BT、BTとは緩みがないように、ほとんど隙間は設けず、また溶接で固定もしない。これは、何度も前記吊り治具TJを繰り返し使用するうちに、前記ボルトB、Bが損傷を受けて交換する時期が来た際に、該ボルトB、Bの交換が容易にできるように溶接で固定はしない。
【0058】
そして、前記鉄骨Gから前記吊り治具TJを切り離す時は、前記吊り治具TJは前記シャックルSCと連結した状態で、締め付けていた各ナットN、Nを緩めて前記押さえ板3Aを取り外すが、前記ボルトB、Bの軸の先端に設けた前記ボルトピンBPがストッパーとなり、前記ナットN、Nや前記押さえ板3Aの脱落を防ぐことができる。なお、前記ストッパーとして前記ボルトピンBPとしたが、前記ナットN、Nが脱落しなければ他の機構でも良い。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の実施態様について説明したが、上述の説明に基づいて当業者にとって種々の代替例、修正または変形が可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で前述の種々の代替例、修正または変形を包含するものである。
【解決手段】受けピース1と嵌合し合う嵌合溝KMを備えた吊りピース2と、吊りピース2の一方の面を支承するための添え板4と、その下部から上方に延びて開設された固定用嵌合溝6B内に上方向から吊りピース2と嵌合する固定板5と、吊りピース2の他方の面を支承するための押さえ板3Aと、添え板4、吊りピース2及び押さえ板3Aに開設した孔内に挿通するボルトB及びボルトBが挿通した状態で締め付けするためのナットNとで吊り治具TJを構成し、鉄骨Gに溶接された受けピース1と吊り治具TJの吊りピース2とを連結した後にナットNを締め付けて、受けピース1と吊り治具TJとを固定する。