特許第6857717号(P6857717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857717
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/344 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
   F04C18/344 351N
   F04C18/344 351C
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-515069(P2019-515069)
(86)(22)【出願日】2017年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2017017074
(87)【国際公開番号】WO2018198370
(87)【国際公開日】20181101
【審査請求日】2019年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】小倉 崇寛
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−194549(JP,A)
【文献】 特開2006−046206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジングに設けた収容空間内にロータを配設し、該ロータの両側面に前記収容空間の両側面をそれぞれ対応させると共に、該ロータの外周面と前記収容空間の内周面との間にポンプ室を画成し、前記ロータの回転に伴いベーンの先端を前記収容空間の内周面に摺接させながら前記ポンプ室を容積変化させて、吸入ポートから前記ポンプ室に流体を吸入して吐出ポートから吐出するベーンポンプにおいて、
前記吸入ポートと前記吐出ポートとの少なくとも一方は、前記収容空間の一側面に凹設されて前記ポンプ室内に開口すると共に、前記収容空間の外周側に形成された前記流体を案内する流体通路と連通し、
前記収容空間の一側面に凹設されたポート開口部のベーン進行側部位には、前記ロータの回転に伴って前記ポンプ室内を進行する前記ベーンの前面に対して所定角度で交差する斜状緩衝部が形成され
前記ポート開口部は、前記流体通路から前記収容空間の内周面を超えて前記ポンプ室内へと膨出すると共に、該収容空間の内周面に対して内周側に離間しながらベーン進行方向側へと延設されて、該内周面との間に前記収容空間の一側面を補助摺接面として残し、
前記斜状緩衝部として、前記ベーン進行方向側へと延設された領域において前記収容空間の内周面を基点として前記ベーンの進行方向側ほど内周側に変位した箇所が機能し、
前記斜状緩衝部には、前記収容空間の内周面に対して略平行を保ちながら前記ベーンの進行方向側へと連続する平行部が形成されている
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ベーンは、自己潤滑性を有する材料により製作されている
ことを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに係り、詳しくは、ポンプハウジングの収容空間内にロータを配設してポンプ室を画成し、ロータの回転に伴い外周面に出没可能に設けられたベーンの先端を収容空間の内周面に摺接させながら、ポンプ室を容積変化させて空気を吸入・吐出するベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のベーンポンプとして、例えば特許文献1には、車両のブレーキアシスト装置に負圧を供給するためのバキュームポンプが記載されている。特許文献1の図2に示すように、ポンプハウジング内にはカムリングが配設され、このカムリングの上下両側面はアッパプレート及びロアプレートにより閉塞されて内部に収容空間が形成されている。収容空間内の偏芯位置には円筒状のロータが配設されて三日月状をなすポンプ室が画成され、ロータの外周面には複数枚のベーンが出没可能に設けられている。
【0003】
アッパプレートの下面にはポンプ室内に開口するように吸入ポートが凹設され、この吸入ポートはカムリングに形成された吸入路(以下の図7に示す)を介してニップルと連通し、ニップルには空圧ホースを介してブレーキアシスト装置が接続されるようになっている。
【0004】
モータによりロータが回転駆動されると、各ベーンが先端を収容空間の内周面に摺接させながら、複数に区画したポンプ室を次第に容積変化させる。結果として、ブレーキアシスト装置からの空気が空圧ホースを経て吸入ポートからポンプ室内に吸入され、ポンプ室内から吐出ポートを経て外部に排出される。
【0005】
図7は特許文献1のバキュームポンプの吸入ポートとベーンとの関係を示す模式図である。
カムリング101の上面には上記した吸入路102が開口形成され、吸入路102はアッパプレートの下面に形成された吸入ポート103を介してポンプ室104と連通している。
【0006】
バキュームポンプの作動中において、ポンプ室104内での吸入ポート103の開閉はベーン105の上端面により行われる。矢印方向のロータ106の回転に伴ってベーン105が吸入ポート103を通過している間は、ベーン105を挟んだ前後のポンプ室104は吸入ポート103を介して連通しているが、ベーン105が通過し終えると吸入ポート103が閉じられて前後のポンプ室104が区画される。このため、ベーン105の前側のポンプ室104は内部の空気を吐出ポートへと吐出しながら容積を縮小し、ベーン105の後側のポンプ室104は吸入ポート103からの空気を吸入しながら容積を拡大する。結果として、上記のように吸入ポート103からポンプ室104内を経て吐出ポートへと空気が移送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−20213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、この種のベーンポンプには、その用途等に応じて無潤滑での作動が要求される場合があり、上記特許文献1のバキュームポンプについても、無潤滑でも機能し得るように自己潤滑性を有するカーボン製のロータ106及びベーン105を採用している。
【0009】
ところが、カーボンはアルミ等の金属材料に比して脆弱であり、特に板状をなすベーン105は、ポンプ室104内での摺接による力(以下、摺接抵抗と称する)を受けたときに折損等のトラブルを生じ易い。ベーン105が摺接するカムリング101の内周面、アッパプレートの下面及びロアプレートの上面は基本的に平坦であるため、折損等の要因になる摺接抵抗の変動はほとんど生じない。しかしながら、ベーン105が吸入ポート103や吐出ポートを通過する際に摺接抵抗は急変する。
【0010】
その要因は、アッパプレート及びロアプレート上の吸入ポート103や吐出ポートの開口部(以下、ポート開口部と称する)、特にポート開口部の全周の中でもベーン105の進行方向側の部位(以下、ベーン進行側部位と称し、図7中にEで示す)にある。例えばベーン105が吸入ポート103や吐出ポートを通過し始める際には、ポート開口部のベーン105の反進行方向側の部位からベーン105の上端面や下端面(詳しくは、ベーン前面との間で形成されるエッジ部分)が離間するだけのため、摺接抵抗はほとんど変動しない。
【0011】
しかし、ベーン105が吸入ポート103や吐出ポートを通過し終える際には、ベーン105の上端面や下端面がポート開口部のベーン進行側部位Eと接触し、この接触した瞬間に摺接抵抗が急増する。ポート開口部の周囲は断面R状に形成されているものの、この対策だけでは摺接抵抗の急変を抑制するには不十分である。そして、ベーン105の折損等のトラブルが生じるとポンプ効率が著しく低下することから、従来より抜本的な対策が要望されていた。
【0012】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、カーボン等の金属材料に比して脆弱な材料からなるベーンを用いた場合であっても、その折損等のトラブルを未然に防止して耐久性を向上することができるベーンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明のベーンポンプは、ポンプハウジングに設けた収容空間内にロータを配設し、ロータの両側面に収容空間の両側面をそれぞれ対応させると共に、ロータの外周面と収容空間の内周面との間にポンプ室を画成し、ロータの回転に伴いベーンの先端を収容空間の内周面に摺接させながらポンプ室を容積変化させて、吸入ポートからポンプ室に流体を吸入して吐出ポートから吐出するベーンポンプにおいて、吸入ポートと吐出ポートとの少なくとも一方が、収容空間の一側面に凹設されてポンプ室内に開口すると共に、収容空間の外周側に形成された流体を案内する流体通路と連通し、収容空間の一側面に凹設されたポート開口部のベーン進行側部位には、ロータの回転に伴ってポンプ室内を進行するベーンの前面に対して所定角度で交差する斜状緩衝部が形成され、ポート開口部が、流体通路から収容空間の内周面を超えてポンプ室内へと膨出すると共に、収容空間の内周面に対して内周側に離間しながらベーン進行方向側へと延設されて、内周面との間に収容空間の一側面を補助摺接面として残し、斜状緩衝部として、ベーン進行方向側へと延設された領域において収容空間の内周面を基点としてベーンの進行方向側ほど内周側に変位した箇所が機能し、斜状緩衝部には、収容空間の内周面に対して略平行を保ちながらベーンの進行方向側へと連続する平行部が形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0017】
その他の態様として、ベーンが、自己潤滑性を有する材料により製作されていることが好ましい(請求項)。
【発明の効果】
【0018】
本発明のベーンポンプによれば、カーボン等の金属材料に比して脆弱な材料からなるベーンを用いた場合であっても、その折損等のトラブルを未然に防止して耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態のバキュームポンプを示す斜視図である。
図2】バキュームポンプを示す分解斜視図である。
図3】収容空間内のロータ及びベーンを示す図1のIII-III線断面図である。
図4】ロータとモータの出力軸との連結箇所を示す図3のIV-IV線断面図である。
図5】第1実施形態のバキュームポンプの吸入ポートとベーンとの関係を示す模式図である。
図6】第2実施形態のバキュームポンプの吸入ポートとベーンとの関係を示す模式図である。
図7】特許文献1のバキュームポンプの吸入ポートとベーンとの関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をベーン式のバキュームポンプに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のバキュームポンプを示す斜視図、図2はバキュームポンプを示す分解斜視図、図3は収容空間内のロータ及びベーンを示す図1のIII-III線断面図、図4はロータとモータの出力軸との連結箇所を示す図3のIV-IV線断面図である。
【0021】
本実施形態のバキュームポンプ1は、車両のブレーキアシスト装置に供給する負圧を発生させるために車両に搭載されている。各図では、車両に設置されたときの姿勢でバキュームポンプ1が示されており、以下の説明では、車両を主体として前後、左右、上下方向を表現する。
【0022】
全体としてバキュームポンプ1はポンプハウジング2を中心として、その下側にモータ3を固定し、上側に消音ハウジング4を固定して構成されている。
【0023】
ポンプハウジング2はアルミダイカスト成型により製作されて上下方向に延びる円筒状をなし、その外周壁5に対して内外二重の位置関係となるように内周壁6が形成されている。内周壁6の下部は底壁7が一体形成されて閉塞され、内周壁6の上方への開口部にはアッパプレート8がビス9により固定され、これらの内周壁6、底壁7及びアッパプレート8により収容空間10が画成されている。平面視において収容空間10は、前後方向を長軸とし、左右方向を短軸としたトラック状をなしている。但し収容空間10の形状はこれに限るものではなく、例えば平面視で楕円状としてもよい。
【0024】
ポンプハウジング2の下面にはモータ3がビス12により固定され、モータ3内には上下方向に延びる軸線Lに沿って出力軸13が配設されて上下一対のベアリング14(図4に上側を示す)により回転可能に支持されている。モータ3の上部には出力軸13を中心としてボス部15が上方に向けて突設され、ポンプハウジング2の底壁7の下面には円筒状の筒部16が下方に向けて突設されている。筒部16はボス部15に対してOリング17を挟んで外嵌しており、これにより軸線L上でポンプハウジング2とモータ3とが位置決めされている。
【0025】
モータ3の出力軸13はボス部15の軸孔15aから上方に突出し、ポンプハウジング2の筒部16内及び底壁7の軸孔7aを経て上部を収容空間10内に位置させている。詳しくは出力軸13の上部は、平面視において収容空間10のトラック中心(前後及び左右方向で共に中心)に位置している。
【0026】
収容空間10内には軸線Lを中心とした円筒状をなすロータ18が配設され、ロータ18には軸線Lに沿って下方より軸孔18aが穿設されて出力軸13の上部が挿入されている。軸孔18a内に配設された回止め部材19により出力軸13とロータ18との相対回転が規制されており、モータ3によりロータ18が所定方向(図3に矢印で示す平面視で反時計回り)に回転駆動されるようになっている。
【0027】
ロータ18の下面(両側面)は収容空間10の底壁7(両側面)に対し微小クリアランスを介して相対向し、ロータ18の上面(両側面)はアッパプレート8の下面(両側面、一側面)に対し微小クリアランスを介して相対向している。結果として収容空間10内のロータ18の前後両側には、平面視で三日月形状をなすポンプ室20がそれぞれ画成されている。
【0028】
ロータ18の外周面の等分6箇所には、ロータ18の上下幅全体に亘ってベーン溝18bが凹設され、各ベーン溝18b内には、板状のベーン21がそれぞれ軸線Lを中心とした内外方向に出没可能に配設されている。各ベーン21の上下幅はロータ18の上下幅と略一致すると共に、その基端(内周端)に対して先端(外周端)をロータ18の回転方向に傾けた姿勢を採っている。
【0029】
以下に述べるように、バキュームポンプ1の作動中にはロータ18及びベーン21が収容空間10内で無潤滑で摺接するため、これらのロータ18及びベーン21は自己潤滑性を有するカーボンにより製作されている。
【0030】
ポンプハウジング2の上面には消音ハウジング4がビス22により固定され、図示はしないが消音ハウジング4内には、バキュームポンプ1から吐出される空気の脈動を緩和するための拡張室や共鳴室が形成されている。
【0031】
図3に示すように、ポンプハウジング2の外周壁5の前側にはモータ3に給電するためのコネクタ24、及び図示しない空圧ホースを介してブレーキアシスト装置に接続されるニップル25が設けられている。アッパプレート8の下面には一対の吸入ポート26が凹設され、各吸入ポート26はそれぞれポンプ室20内に開口している(図3に仮想線で示す)。吸入ポート26の形状は、本発明の要旨に関わるため後に詳述する。
【0032】
ポンプハウジング2の内周壁6上には第1吸入路27が開口形成され、この第1吸入路27はポンプハウジング2内を介して上記ニップル25と連通している。またアッパプレート8の下面には、収容空間10を取り囲むように環状の第2吸入路28(流体通路)が凹設され、この第2吸入路28上の180°対向する部位に各吸入ポート26がそれぞれ接続されている。
【0033】
このため、第1吸入路27に近接する一方の吸入ポート26は、第2吸入路28を幅方向に横切るように第1吸入路27と連通し、第1吸入路27から離間した他方の吸入ポート26は、第2吸入路28を周方向に経て第1吸入路27と連通している。
また、各ポンプ室20内には図示しない吐出ポートがそれぞれ開口し、これらの吐出ポートは吐出路29から消音ハウジング4内の拡張室及び共鳴室を介して外部と連通している。
【0034】
従って、モータ3により収容空間10内でロータ18が回転駆動されると、各ベーン21は先端を収容空間10の内周面に摺接させながら、複数に区画したポンプ室20を次第に容積変化させる。これにより、ブレーキアシスト装置からの空気が空圧ホース及びニップル25及び第1吸入路27を経て一方の吸入ポート26から一方のポンプ室20内に吸入されると共に、第2吸入路28を経て他方の吸入ポート26から他方のポンプ室20内に吸入される。
【0035】
各ポンプ室20内ではベーン21により空気が吸入ポート26側から吐出ポート側へと移送され、それぞれの吐出ポートから吐出路29を経て消音ハウジング4内に流入する。空気の脈動は拡張室及び共鳴室を流通する過程で緩和され、その後に空気が外部に吐出される。
【0036】
ポンプハウジング2の内周壁6と外周壁5との間には環状の空間30が形成され、この環状空間30は、外周壁5の前後両側に形成された開口31を介してそれぞれ外部と連通している。図示はしないが、バキュームポンプ1の前方にはエンジン冷却用ファンが配設され、冷却風の一部がバキュームポンプ1に送られる。冷却風は前側の開口31から環状空間30内に流入して左右に分岐し、内周壁6の左右両側を流通した後に合流して後側の開口31から外部に排出される。この冷却風の流通により、バキュームポンプ1の温度上昇が抑制される。
【0037】
一方、ポンプハウジング2の左右両側には緩衝部材32を備えた取付フランジ33が一体形成され、これらの取付フランジ33を介してバキュームポンプ1が車体に固定されるようになっている。
【0038】
ところで、本実施形態のバキュームポンプ1の吸入ポート26も、特許文献1の吸入ポートと同様にアッパプレート8の下面に凹設されている。このため、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、ベーン21が吸入ポート26の開口部(ポート開口部)を通過し終える際には、ベーン21の上端面がポート開口部のベーン21の進行方向側の部位(ベーン進行側部位)と接触する。よって、ベーン保護の対策が何ら講じられていない場合には、接触の瞬間に摺接抵抗が急増してベーン21の折損等のトラブルが発生してしまう。
【0039】
そして、吸入ポート26自体はポンプ室20内に開口しているものの、収容空間10を取り囲む第2吸入路28からの空気をポンプ室20内に導くために、吸入ポート26は収容空間10の内周面を超えて外周側の第2吸入路28まで延設されている。換言すると吸入ポート26は、必ず一側を収容空間10の内周面に接続した形状をなす必要があり、この点は、図7に示す特許文献1の吸入ポート103も同様である。
【0040】
このため吸入ポート26上を進行中のベーン21の先端は、アッパプレート8の下面に摺接することなくロータ18側から片持ち梁的に支持されることになり、このようなベーン21の支持状態もポート開口部のベーン進行側部位との接触、ひいては摺接抵抗の急増を助長させる要因になっている。
【0041】
以上の不具合を鑑みて本発明者は、摺接抵抗の急増の要因である接触が生じる期間(以下、接触期間と称する)に着目した。実質的な摺接抵抗の急増は、ベーン21の上端面と前面とのエッジ部分がポート開口部のベーン進行側部位と接触することで発生する。そして、ベーン21は長手方向の所定の領域をポート開口部内に位置させつつロータ18の回転方向に進行しており、進行に従ってポート開口部内に位置するベーン21の長手方向の領域は増減する。
【0042】
ベーン21がポート開口部を通過し終える際には、ベーン前面のポート開口部に位置する領域は次第に減少し、最終的に領域が消失してポート開口部がベーン21により閉じられる(前後のポンプ室20が区画)。この領域が減少する期間中において、ベーン21の上端面がポート開口部のベーン進行側部位に接触して摺接抵抗が急増するため、この期間を接触期間と見なすことができる。
【0043】
図7に示す特許文献1の吸入ポート103の形状では、ベーン105が実線から仮想線まで進行する間に、ベーン前面のポート開口部に位置する長手方向の領域X0が減少・消失し、その間のロータ106の軸線を中心としたベーン移動距離Y0が非常に短いことが判る。その要因は、ポート開口部のベーン進行側部位Eがベーン前面に沿った形状(ほとんど交差しない形状)をなしているためである。
【0044】
従って、ごく短い接触期間中に集中して摺接抵抗が急増し、摺接抵抗のピークが非常に高いものとなる。結果として接触期間の前後でベーン105に作用する摺接抵抗が急変してベーン折損等の要因となる。
以上の観点から、接触期間(=ベーン移動距離Y0)を延長化すれば、接触期間中に生じる摺接抵抗の急増が分散されて摺接抵抗のピークが低められ、結果としてベーン折損等のトラブルを回避できるとの知見に至り、以下に第1及び第2実施形態として順次説明する。
【0045】
[第1実施形態]
図5は本実施形態のバキュームポンプ1の吸入ポート26とベーン21との関係を示す模式図であり、図3中のA領域を拡大表示したものである。以下の説明では、第1吸入路27に近接する一方の吸入ポート26の形状について述べるが、他方の第1吸入路27から離間した吸入ポート26の形状も全く同様であり、その作用効果についても相違ない。
【0046】
上記したように第2吸入路28からの空気の導入のために、吸入ポート26は一側を収容空間10の内周面に接続した形状をなす必要があり、この要件を踏まえた上で吸入ポート26の形状が設定されている。
【0047】
吸入ポート26は、収容空間10の内周面に沿った周方向のある程度長い領域で第2吸入路28と接続されると共に、収容空間10の内周面を超えてポンプ室20内へと膨出しており、この箇所をポート外周部41と称する。ポート外周部41のベーン進行方向側の約半分の領域は更に内周側へと膨出しており、この箇所をポート内周部42と称する。吸入ポート26は、これらのポート外周部41及びポート内周部42により構成される。
【0048】
全体としてポート内周部42は、内周側に凸の山形状をなしている。即ち、ポート外周部41と接するベーン反進行方向側を起点として、ベーン進行方向側ほど内周側となる(収容空間10の内周面から離間する)ように略直線状に変位し、山形状の頂点を経た後にベーン進行方向側ほど外周側となる(内周面に接近する)ように略直線状に変位して、収容空間10の外周側の第2吸入路28に接続されている。このベーン進行方向側ほど外周側に変位した略直線状の箇所を斜状緩衝部42aと称する。
【0049】
バキュームポンプ1の作動中において、ポンプ室20内での吸入ポート26の開閉はベーン21の上端面により行われる。ロータ18の回転に伴ってベーン21が吸入ポート26を通過している間は、ベーン21を挟んだ前後のポンプ室20は吸入ポート26を介して連通しているが、ベーン21が吸入ポート26を通過し終えると前後のポンプ室20が区画される。このため、ベーン21の前側のポンプ室20は内部の空気を吐出ポートへと吐出しながら容積を縮小し、ベーン21の後側のポンプ室20は吸入ポート26からの空気を吸入しながら容積を拡大する。結果として、上記のように吸入ポート26からポンプ室20内を経て吐出ポートへと空気が移送される。
【0050】
本実施形態の吸入ポート26の形状では、ベーン21が図5中の実線から仮想線まで進行する間に、ベーン前面のポート開口部に位置する長手方向の領域X1が減少・消失するため、この期間を接触期間と見なすことができる。そして、接触期間中のベーン21はポート内周部42の斜状緩衝部42a上を進行することから、この斜状緩衝部42aは特許文献1のベーン進行側部位Eでもあるが、以下に述べるように、その形状により摺接抵抗の急増を抑制する機能を奏する。
【0051】
即ち、上記のように斜状緩衝部42aは、ベーン進行方向側ほど外周側に変位する略直線状をなしており、結果としてベーン前面に対して斜状緩衝部42aは大きな角度で交差している。このため、ベーン21が斜状緩衝部42a上を実線から仮想線まで進行する間の軸線Lを中心としたベーン移動距離Y1は特許文献1に比して格段に長いものとなり、必然的に接触期間も延長化される。よって、接触期間中に生じる摺接抵抗の急増が分散されて摺接抵抗のピークが低められ、接触期間の前後でのベーン21に作用する摺接抵抗の急変が抑制される。
【0052】
このため本実施形態のバキュームポンプ1によれば、金属材料に比して脆弱なカーボン製のベーン21を用いているものの、その折損等のトラブルを未然に防止して耐久性を向上することができる。
【0053】
[第2実施形態]
図6は本実施形態のバキュームポンプ1の吸入ポート26とベーン21との関係を示す模式図である。第1実施形態と同じく、第1吸入路27に近接する一方の吸入ポート26の形状について述べるが、他方の吸入ポート26の形状及び作用効果も全く同様である。
【0054】
吸入ポート26はポート外周部51及びポート内周部52により構成されている。ポート外周部51は第1実施形態のポート外周部41と同様の形状をなしており、第2吸入路28と接続されると共に、収容空間10の内周面を超えてポンプ室20内へと膨出している。
ポート外周部41のベーン進行方向側の約半分の領域が更に内周側へと膨出してポート内周部52として機能する点も第1実施形態と同じであるが、ポート内周部52の形状が相違する。
【0055】
本実施形態のポート内周部52は、収容空間10の内周面に対して内周側に離間しながらベーン進行方向側へと延設されている。結果として、収容空間10の内周面とポート内周部52との間にはアッパプレート8の下面(一側面)が残されており、この領域を補助摺接面53と称する。
【0056】
そして、このように収容空間10の内周面から延設されたポート内周部52は、基端側の斜状緩衝部52aと先端側の平行部52bとからなる。斜状緩衝部52aは収容空間10の内周面を基点として、ベーン進行方向側ほど内周側となる(内周面から離間する)ように略直線状に変位する形状をなしている(図6中のY2相当)。第1実施形態と同じく、斜状緩衝部52aは特許文献1のベーン進行側部位Eでもあるが、摺接抵抗の急増を抑制する機能を奏する。
【0057】
また、斜状緩衝部52aから連続する平行部52bは、収容空間10の内周面に対して略平行を保ちながらベーン進行方向側へと延設され、その端部は半円状をなしている(以下、半円状端部52cと称する)。
【0058】
バキュームポンプ1の作動中において、本実施形態の吸入ポート26の形状では、ベーン21が図6中の実線から仮想線まで進行する間に、ベーン前面のポート開口部に位置する長手方向の領域がX2からX2’まで減少するため、この期間を接触期間(以下、第1接触期間と称する)と見なすことができる。そして、第1接触期間中のベーン21はポート内周部52の斜状緩衝部52a上を進行し、この斜状緩衝部52aは、ベーン進行方向側ほど内周側に変位する略直線状をなすため、ベーン前面に対して大きな角度で交差している。
【0059】
このため、ベーン21が斜状緩衝部52a上を実線から仮想線まで進行する間の軸線Lを中心としたベーン移動距離Y2が長いものとなり、必然的に第1接触期間も延長化される。よって、第1接触期間中に生じる摺接抵抗の急増が分散されて摺接抵抗のピークが低められ、第1接触期間の前後でのベーン21に作用する摺接抵抗の急変が抑制されてベーン21の折損等が防止される。
【0060】
このようにして第1接触期間を経た後、ベーン21は平行部52b上を進行して半円状端部52cに到達する。この半円状端部52cの進行中にも、ベーン前面のポート開口部に位置する長手方向の領域が減少・消失するため、この期間を接触期間(以下、第2接触期間と称する)と見なせる。そして、この半円状端部52cは斜状緩衝部52aのような機能は備えないため、特許文献1のベーン進行側部位Eと同じく摺接抵抗を急増させる要因になり得る。
【0061】
しかしながら、斜状緩衝部52aを通過中にベーン21の上端面は補助摺接面53と摺接し始め、続く平行部52bでは補助摺接面53との摺接が安定化する。即ち、斜状緩衝部52aから平行部52bへと進行する過程で、ベーン21の先端が補助摺接面53に支えられて片持ち梁的な支持が解消されている。
【0062】
このため続く半円状端部52cの通過中にも、ベーン21は半円状端部52を挟んだ内周側及び外周側を共にアッパプレート8の下面に摺接させて、両持ち梁的に支持されながら進行する。必然的にベーン21の上端面が半円状端部52cに接触する事態が防止され、摺接抵抗の急増も抑制される。よって第2接触期間の前後においても、ベーン21に作用する摺接抵抗の急変が抑制されてベーン21の折損等が防止される。
【0063】
しかも、斜状緩衝部52aを通過中のベーン21は、接触期間の延長化により摺接抵抗の急増が抑制されるとはいえ、片持ち梁的な支持であるが故に多少の摺接抵抗の増加は避けられない。これに対して半円状端部52cの通過中には、ベーン21が両持ち的に支持されることから、摺接抵抗がほとんど増加しない。
【0064】
このため、第1実施形態に比してトータルでのベーン21に作用する摺接抵抗を一層低減でき、これにより折損等のトラブルを防止して、更にバキュームポンプ1の耐久性を向上することができる。
但し、ポート内周部52の平行部52bは必ずしも形成する必要はなく、基端側の斜状緩衝部52aのみを形成し、そのベーン進行方向側の端部を半円状端部52cとしてもよい。
【0065】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、流体として空気を吸入・吐出して負圧を発生させるバキュームポンプ1に適用したが、ベーンポンプの種類はこれに限るものではない。例えば、吐出した空気をアクチュエータに供給して作動させるエアポンプとして具体化してもよいし、オイルや燃料等の液体を吸入・吐出するポンプとして具体化してもよい。
【0066】
また上記実施形態では、ポンプハウジング2をアルミダイカスト製とし、ロータ18及びベーン21をカーボン製としたが、それらの材料に限るものではない。ポンプハウジング2については熱伝導の良好な材料であれば良いため、例えばステンレス製或いは鋳鉄製としてもよい。またロータ18及びベーン21については、必ずしも自己潤滑性を有する材料とする必要はなく、例えばオイルによる潤滑を前提としてアルミにより製作してもよいし、無潤滑の場合であってもカーボンに限る必要はなく、他の自己潤滑性を有する材料、例えば、樹脂製としてもよい。
【0067】
また上記実施形態では、吸入ポート26の形状に適用したが、これに代えて吐出ポートに適用したり、双方のポートに適用したりしてもよい。
また上記実施形態では、ポンプハウジング2の外周壁5、内周壁6及び底壁7を一体形成したが、これに限るものではなく、例えば内周壁6を別部材のカムリングとし、底壁7を別部材のロアプレートとし、これらをポンプハウジング2に対して組み付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 バキュームポンプ(ベーンポンプ)
2 ポンプハウジング
10 収容空間
18 ロータ
20 ポンプ室
21 ベーン
26 吸入ポート
28 第2吸入路(流体通路)
42a,52a 斜状緩衝部
52b 平行部
53 補助摺接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7