特許第6857724号(P6857724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857724
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】摩擦材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20210405BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20210405BHJP
   F16D 13/62 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C09K3/14 520J
   C09K3/14 520M
   C09K3/14 520F
   C09K3/14 520C
   F16D69/02 A
   F16D13/62 A
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-520783(P2019-520783)
(86)(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公表番号】特表2020-504192(P2020-504192A)
(43)【公表日】2020年2月6日
(86)【国際出願番号】US2016062071
(87)【国際公開番号】WO2018093353
(87)【国際公開日】20180524
【審査請求日】2019年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】500124378
【氏名又は名称】ボーグワーナー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・バレシュ
(72)【発明者】
【氏名】フェン・ドン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ラム
(72)【発明者】
【氏名】ワンジュン・リュー
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−188656(JP,A)
【文献】 特開平01−224536(JP,A)
【文献】 特開昭62−285973(JP,A)
【文献】 特開平09−176983(JP,A)
【文献】 特開2003−073436(JP,A)
【文献】 特表2016−530366(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0125306(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0031787(US,A1)
【文献】 特開2002−348561(JP,A)
【文献】 特表平10−507732(JP,A)
【文献】 米国特許第6060536(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/14
F16D69/02
F16D13/62
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有するとともに、摩擦発生面と、前記摩擦発生面の反対側に対向する接合面とを有する摩擦材料であって、
(A)構造繊維;
(B)摩擦粒子;
(C)前記構造繊維とは異なるポリビニルアルコール系繊維;
(D)樹脂;
の硬化生成物を含み、前記ポリビニルアルコール繊維は11μm未満の平均直径、mm未満の平均長さ、及び未満の平均デニールを有し、かつ水の存在下で前記構造繊維及び前記摩擦粒子と組み合わされ、前記ポリビニルアルコール繊維は、前記摩擦材料が100μmの平均孔径及び/または0.41.5g/cmの密度を有するように前記構造繊維及び前記摩擦粒子を可溶化及び結合させる、摩擦材料。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール繊維が、
μmの平均直径及び3.5mm未満の平均長さを有し、かつ/または
60℃以上の温度で水に可溶である、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項3】
ASTM D3528−96に従って試験したとき、2,500kPaより大きい剪断強度を有する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の摩擦材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の前記摩擦材料の前記接合面に接合された基材を含む摩擦板。
【請求項5】
請求項4に記載の前記摩擦板とセパレータ板とを備える湿式クラッチアセンブリ。
【請求項6】
多孔質構造を有するとともに、摩擦発生面及び前記摩擦発生面の反対側に対向する結合面を含む摩擦材料の形成方法であって、
構造繊維、摩擦粒子、及び該構造繊維とは異なるポリビニルアルコール繊維を組み合わせるステップであって、前記ポリビニルアルコール繊維が、基材材料を形成するために11μm未満の平均直径、mm未満の平均長さ、未満の平均デニールを有する、組み合わせるステップと、
前記基材材料に樹脂を含浸させるステップと、
前記摩擦材料を形成するために前記樹脂を硬化させるステップと、を含む方法。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール繊維が、
μmの平均直径及び3.5mm未満の平均長さを有し、かつ/または
0.20.9の平均デニールを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール繊維が、
2,000800,000g/molの数平均分子量(M)を有するポリビニルアルコールを含み、かつ/または
60℃以上の温度で水に可溶である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール繊維が、前記摩擦発生面の3000ft当たり25lbsの量で前記摩擦材料中に存在する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記摩擦粒子が、シリカ、カーボン、グラファイト、アルミナ、マグネシア、酸化カルシウム、チタニア、セリア、ジルコニア、コージエライト、ムライト、シリマナイト、スポジュメン、ペタライト、ジルコン、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化ハフニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、ホウ化チタン、カシューナッツ、ゴム、及びこれらの組み合わせから選択され、かつ前記摩擦粒子が前記摩擦発生面の3000ft当たり10100lbsの量で存在し、
前記構造繊維が、アクリル繊維、アラミド繊維、炭素繊維、セルロース繊維、及びこれらの組み合わせから選択され、かつ前記構造繊維が、前記摩擦発生面の3000ft当たり150lbsの量で存在し、かつ/または
前記樹脂が、フェノール樹脂及び/または改質フェノール樹脂であり、前記樹脂が前記摩擦材料の100重量部に基づき75重量%未満の量で存在する、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記基材材料が0.3mmの厚さを有し、前記基材材料が、
ASTM D828−97に従って試験したとき、3,250g/インチより大きい湿潤引張強度、及び/または
ASTM D828−97に従って試験したとき、4,500g/インチより大きい乾燥引張強度を有する、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記摩擦材料が、100μmの平均孔径及び/または0.41.5g/cm3の密度を有する、請求項6〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記摩擦材料が、ASTM D3528−96に従って試験したときに、2,500kPaより大きい剪断強度を有する、請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に摩擦材料に関する。摩擦材料は、変速機内のクラッチアセンブリの摩擦板に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
自動車パワートレインのいくつかの構成部品は、湿式クラッチを使用して車両の動力発生機(すなわち、内燃機関、電気モーター、燃料電池など)から駆動ホイールに動力の伝達を容易にすることができる。動力発生機から下流に位置され、車両発進、ギヤ変速、及び他のトルク伝達事象を可能にする変速機は、このような構成部品中の1つである。なんらかの形態の湿式クラッチは、自動車の作動のために、現在利用可能な多くの様々なタイプの変速機の全般を通じて見出すことができる。湿式クラッチは、自動変速機用トルクコンバータ、自動変速機または半自動デュアルクラッチトランスミッション(DCT)用の多板湿式クラッチパック、及びトルクコンバータの代用品としておおよそ7〜9個ものギヤを備えた比較的スポーティーな自動変速機に組み込まれ得る湿式発進クラッチに利用され得るが、これは、いくつかの例示的な用途を挙げてみたに過ぎない。類似の湿式クラッチは、変速機以外に車両パワートレインのどこでも見出すことができる。
【0003】
湿式クラッチは、2つ以上の対向する回転面の間に選択的な界面摩擦係合を付与することにより潤滑油の存在下でこのような表面を連動させるアセンブリである。このような係合可能な回転面のうちの1つを提供する摩擦クラッチ板、バンド、シンクロナイザーリング、または一部の他の部品は、通常的に摩擦材料を支持して、意図された連動摩擦係合を誘発する。摩擦材料は通常的に接着剤を用いて係合可能な回転面に固定される。摩擦界面における潤滑油の存在は、摩擦材料を冷却し、その摩耗を減らして若干の初期滑りが起こるようにして、急激なトルク伝達事象(すなわち、変速ショック)に伴う不快感を非常に迅速に回避しようとする努力にもかかわらず、トルク伝達が徐々に進行する。
【0004】
摩擦材料は、湿式クラッチ適用において、特に湿式始動クラッチ適用及び変速機適用、例えば、半自動DCT適用のようなより最近のクラッチ適用において信頼可能に機能しなければならない。すなわち、摩擦材料は、広範囲の状態にわたって、十分な性能特性、例えば摩擦係数(「COF」)、強度、及び耐久性を維持しなければならない。摩擦材料は典型的には多孔質構造を有し、そして繊維、粒状充填剤、添加剤、及び樹脂/ポリマーバインダーを含む。摩擦材料の組成(例えば、繊維、粒子状物質、樹脂など、及びそれらの量)は、湿式クラッチ適用における摩擦材料の性能特性を最適化するように配合される。摩擦材料の多孔質構造は、潤滑油が摩擦材料を通って流れるのを可能にし、これにより摩擦材料が冷却され、さらに摩擦材料の性能特性及び耐久性が改良される。
【0005】
摩擦材料は、製造ライン上での連続製造プロセスを経て製造される。連続製造プロセス中に、繊維のブレンドと粒状物質とが組み合わされて、所望の幅及び厚さを有する繊維ウェブが形成される。繊維ウェブを、製造ラインに沿って移動させ、樹脂で飽和させる。樹脂で飽和したら、繊維ウェブはローラーを通じて引っ張られ、ローラーが繊維ウェブを所望の厚さに圧縮し、余分な樹脂を絞り出して摩擦材料を形成する。摩擦材料はローラーを出て、溶媒を除去し摩擦材料を硬化させる一連のオーブンを通って搬送される。硬化した樹脂を含む摩擦材料は、その後圧延され、通常的には後で使用するために保管される。
【0006】
連続製造プロセス全体を通して、繊維ウェブ/摩擦材料は、支持されていない方法で空気中につるされている状態で(例えばコンベヤー上で搬送されるのでなく、空気中で引っ張られる)製造ラインに沿って(例えばベルト、ローラー、オーブンなどの間で)移動するので、それ自体を支持しなければならない。しかしながら、繊維ウェブ及びそれから形成される摩擦材料の組成及び多孔性は、結果的に不十分な湿潤強度をもたらし、繊維ウェブ及び/または摩擦材料を引き裂くかまたは破断させ、製造プロセスを減速または停止させて、品質問題及び費用のかかる「ダウンタイム」を引き起こす。したがって、摩擦材料の所望の孔隙率及び組成は、効率的な製造の必要性と釣り合いがとれていなければならない。
【0007】
この目的のために、或る特定の組成の摩擦材料は、湿式クラッチ適用において改良された性能特性を示すことができるが、製造上の問題を提起する。同様に、孔隙率が増加した摩擦材料は、湿式クラッチ適用において改良された性能特性を示すことができるが、製造上の問題を引き起こす。そういうわけで、摩擦材料の配合及び製造は、性能特性と製造性との釣り合いをとることをしばしば要求する。
【0008】
既存の摩擦材料の不適切性によって、効率的に製造することができ、そして最適な性能特性を示すことができる摩擦材料を提供する機会がまだ残っている。
【発明の概要】
【0009】
摩擦発生面と、前記摩擦発生面の反対側で対向する接合面とを有する摩擦材料が開示されている。摩擦材料は、構造繊維、摩擦粒子、ポリビニルアルコール系繊維、及び樹脂を含む。ポリビニルアルコール繊維は構造繊維とは異なる。
【0010】
摩擦材料を形成する方法も開示されている。本方法は、構造繊維、摩擦粒子、及び平均直径が約11μm未満、平均長さが約4mm未満、平均デニールが約1未満のポリビニルアルコール繊維を組み合わせて基材材料を形成するステップと、基材材料に樹脂を含浸させるステップと、樹脂を硬化させて摩擦材料を形成するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の他の利点は、添付された図面に関連して考慮されるとき、以下の詳細な説明を参照してよりよく理解されるはずなので、容易に認められるだろう。
図1図1は、未硬化樹脂を含む摩擦材料の拡大断面図である。
図2図2は、図1の摩擦材料と基材とを含む摩擦板の拡大断面図である。
図3図3は、図2の摩擦板を含むクラッチアセンブリを示す切欠きを有する変速機の斜視図である。
【0012】
図1図3は、事実上の例示であり、一定の縮尺で描かれていないため、摩擦材料の様々な構成要素、例えば摩擦調節粒子、構造繊維、ポリビニルアルコール繊維、孔隙などの相対的なサイズを示すのは意図していない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照すると、類似の参照符号は、いくつかの図面全体にわたって対応する部品を示しており、樹脂を含む摩擦材料は一般的に10で示され、摩擦材料10を含む摩擦板は一般的に30で示されている。
【0014】
摩擦材料10を効率よく製造し硬化させることができる。いったん硬化されると、摩擦材料10は通常的に、自動車の変速機36内の湿式クラッチアセンブリに含まれる摩擦板30上で利用される。摩擦板30は、摩擦材料10と基材32とを含む。当技術分野で知られているように、摩擦材料10は基材32、例えば金属板に接着して摩擦板30を形成するように設計されている。基材32は2つの表面を有し、摩擦材料10は、当該技術分野において既知の任意の接着剤を用いて、これらの表面の一方または両方に接着することができる。摩擦板30は、クラッチパックまたはクラッチアセンブリを形成するために使用されるか、販売されるか、または分離板を備えてもよい。
【0015】
摩擦材料10は、構造繊維12、摩擦粒子14、及びポリビニルアルコール繊維16を含む。構造繊維12、摩擦粒子14、及びポリビニルアルコール繊維16の配置は、通常的に、複数の孔隙18を画定する。摩擦材料10は典型的には樹脂20が全体に分散した多孔質である。摩擦材料10は、摩擦発生面22と、摩擦発生面22の反対側に(そして摩擦発生面22に平行に)対向する結合面24とを提供する。いったん摩擦材料10が硬化すると、例えば樹脂20が架橋または硬化するような高温にさらされると、接合面24は基材32(例えば金属板)に通常接着され、摩擦発生面22は摩擦を発生させるために使用される。構造繊維12、摩擦粒子14、ポリビニルアルコール繊維16、及び樹脂20については、以下でさらに詳細に説明する。
【0016】
多くの実施形態では、摩擦材料10は、構造繊維12、摩擦粒子14、ポリビニルアルコール繊維16、及び樹脂20の硬化生成物を含む。このような実施形態では、約11μm未満の平均直径、約4mm未満の平均長さ、及び約1未満の平均デニールを有するポリビニルアルコール繊維16は、水の存在下で構造繊維12及び摩擦粒子14と組み合わされる。組み合わせると、ポリビニルアルコール繊維16は構造繊維12と摩擦粒子14を可溶化及び結合させる。典型的な実施形態では、ポリビニルアルコール繊維16は或る特定の直径、長さ、デニール及びその他の特性(本開示全体を通じて説明される)を用いて構造繊維12及び摩擦粒子14と組み合わされる。ただし、これらの特性は、加工中のポリビニルアルコール繊維16の可溶化、折り畳みなどに起因して摩擦材料10の形成中に変化する可能性がある。もちろん、理論に束縛されることなく、ポリビニルアルコール繊維16の可溶化は、ポリビニルアルコール繊維16がバインダーとして作用することを可能にする柔軟性を提供し、かつより大きいサイズを有する複数の孔隙18も提供すると考えられる。
【0017】
構造繊維:
摩擦材料10は、構造繊維12を含む。構造繊維12は、複数の構造繊維12として代替的に説明されてもよい。様々な実施形態において、構造繊維12は、摩擦発生面22の3000ft当たり約1〜約300、あるいは約2〜約250、あるいは約2〜約150、あるいは約10〜約150、あるいは約10〜約120lbsの量で摩擦材料10中に存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0018】
とりわけ、本明細書で提供される摩擦材料10中の成分の量は、3000ft当たりのlbsの単位であり、そのような単位は、材料製造業界では、樹脂20を含浸させるか否かにかかわらず、薄い層の所与の表面積に基づく重量の測定として慣例的に使用されている。
【0019】
代替的に、様々な実施形態において、構造繊維12は、摩擦材料10の全重量(樹脂を含まない)を基準として、10重量%から95重量%未満の量で摩擦材料10中に存在する。様々な実施形態において、構造繊維12は、摩擦材料10の総重量(樹脂を含まない)を基準として、約14〜約89、あるいは約34〜約79、あるいは約44〜約74、あるいは約61〜約69重量%の量で存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0020】
摩擦材料10中に存在する構造繊維12の量は、上記の範囲外で変わり得るが、典型的には、これらの範囲内の全部及び部分の値の両方である。さらに、1種以上の構造繊維12が摩擦材料10に含まれ得、この場合、摩擦材料10に存在するすべての構造繊維12の総量が上記範囲内にあるということが理解されるであろう。
【0021】
構造繊維12の種類は特に限定されず、アクリル繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、炭素繊維、及びこれらの組み合わせから選択することができる。構造繊維12は、織布、不織布、またはその他の任意の好適な構成であってもよい。様々な実施形態において、摩擦材料10の構造繊維12は、アクリル繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、炭素繊維、及びこれらの組み合わせであるとか、それらを含むとか、それらを含有するとか、それらから本質的になるとか、またはそれらからなる。前述の繊維の種類の様々な組み合わせのすべての重量範囲及び比率は、様々な非限定的な実施形態において本明細書によって明示的に企図される。
【0022】
様々な実施形態では、構造繊維12はさらに、上述したもののいずれか、例えば、ABホモポリマー、AABBポリマーなどであるとか、それらを含むとか、それらを含有するとか、それらから本質的になるとか、またはそれらからなるとか定義することができる。アラミド繊維に関係して、当技術分野で知られているように、アラミドは一般的にアミン基とカルボン酸ハライド基との間の反応によって調製される。単純なABホモポリマーは、nNH2−Ar−COCl→−(NH−Ar−CO)−+nHClのように見える。アラミドの様々な非限定的な例には、AABBポリマーであるKevlar、Twaron、Nomex、New Star及びTeijinconexが挙げられる。Nomex、Teijinconex及びNew Starは、圧倒的にメタ結合を含み、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(MPIA)である。KevlarとTwaronはどちらもp-フェニレンテレフタルアミド(PPTA)で、最も単純な形態のAABBパラ−ポリアラミドである。PPTAは、p−フェニレンジアミン(PPD)とテレフタロイルジクロリド(TDCまたはTCl)との生成物である。1種以上のアラミドを使用することができる。一実施形態では、アラミドはポリパラフェニレンテレフタルアミドである。別の実施形態では、アラミドは2種以上のタイプのアラミド、例えば第1のポリパラフェニレンテレフタルアミド及び第1のとは異なる第2のポリパラフェニレンテレフタルアミドであるか、またはそれらを含む。一実施形態では、Twaron製品が使用される。その他の実施形態では、Kevlarが使用される。さらにその他の実施形態では、その他のアラミドが使用される。
【0023】
特定の実施形態において、炭素繊維の存在は、耐熱性を増加させ、摩擦係数を安定的に維持させ、鳴き音抵抗(squeal resistance)を増加させることを助ける。摩擦材料10が所望の耐熱性を有するように炭素繊維は、良好な熱伝導を提供することができる。その他の実施形態において、アラミド繊維及び炭素繊維の使用は、高温に耐えるための摩擦材料10の能力を向上させる。
【0024】
その他の実施形態では、セルロース繊維は摩擦材料10の表面の滑らかさに寄与し、それによって動作中に摩擦材料10をより安定させる。特定の実施形態では、セルロース繊維は、平らで広い表面を有する繊維を含む。平らで幅広のセルロース繊維は、摩擦材料10を構成する個々の繊維の表面上により多くの摩擦調節剤を保持することができる。いくつかの実施形態では、木材から誘導されるものである、カバノキ繊維及び/またはユーカリ繊維などのセルロース繊維が使用される。セルロース繊維はまた、経済的なコストで摩擦材料の「慣らし」(break−in)特性を改良することができる。
【0025】
さらなる実施形態において、木綿繊維は摩擦材料10に剪断強度を与えるのを助ける。木綿繊維は典型的には主繊維コアに付着したフィブリル化ストランドを有し、使用中の摩擦材料10の層間剥離を防止するのを助ける。さらにその他の実施形態では、アクリル繊維は、少なくとも85重量%のアクリロニトリルモノマーから形成されるものなどの1種以上の合成アクリルポリマーであってもよい、またはそれらから形成されてもよい。
【0026】
好ましい実施形態では、摩擦材料10はアラミド繊維及び炭素繊維を含む。様々な実施形態において、2種以上の構造繊維12を使用する場合、使用されるすべての構造繊維12の総重量が、摩擦材料10の総重量に基づいて、約20〜約80重量%である限り、構造繊維12の各々は、構造繊維12の総結合重量に基づいて、約1〜約99重量%の任意の量で存在してもよい。例えば、任意の1種以上の個別の構造繊維12は、構造繊維12の総結合重量に基づいて、約1、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、または約80重量%の量で利用できる。いくつかの実施形態では、2種の構造繊維12が使用され、この場合、第1種の繊維は、構造繊維12の総結合重量に基づいて、約50〜約95、あるいは約60〜約90、あるいは約70〜約90、あるいは約75〜約85、あるいは約10〜約50、あるいは約10〜約40、あるいは約10〜約30、あるいは約15〜約25重量%の量で利用でき、そして第2種の繊維は、構造繊維12の総重量%が、上述のように、摩擦材料10の総重量に基づいて、20〜80重量%であるように残量で使用される。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0027】
様々な実施形態において、構造繊維12は、約1〜約500μm、あるいは約2〜約80μm、あるいは約2〜約60μmの平均直径、及び約1〜約20mm、あるいは、約2〜約20mm、あるいは約2〜約15mm、あるいは約2〜約10mm、あるいは約2〜約8mm、あるいは約4〜約6mmの平均長さを有する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。このような実施形態において、構造繊維12は、典型的には、カナダ標準濾水度(Canadian Standard Freeness=「CSF」)に従って測定されたような、約5〜約650ml CSF、あるいは約5〜約300ml CSF、あるいは約10〜約200ml CSF、あるいは約10〜約100ml CSFのフィブリル化度(degree of fibrillation)を有する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。CSFは、1リットルの水中で3グラムの繊維パルプ材が水切りされる速度を測定する経験的試験手続きである。CSF計測は、TAPPI T227試験手続きに従って行われる。CSF計測を行うのにあって、よりフィブリル化された繊維パルプ材がさらに低い水切り速度及び、これによるさらに低い「ml CSF」値を有するはずであり、不十分にフィブリル化された繊維パルプ材がさらに高い「ml CSF」値を有するはずであるということに留意されたい。
【0028】
約430〜約650のCSFを有する構造繊維12を含む摩擦材料10は、よりフィブリル化された構造繊維12を含む摩擦材料10よりも優れた摩擦性能を提供し、より良好な材料特性を有することができる。高いカナダ標準濾水度とともに、より長い繊維長さは、高い孔隙率及び良好な耐摩耗性を有する摩擦材料10を提供する傾向がある。フィブリル化の少ない構造繊維12(約530〜約650のCSF)は、良好な長期耐久性及び安定した摩擦係数を示すことができる。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0029】
さらに、様々な実施形態において、構造繊維12は、約200℃以上、あるいは250℃以上、あるいは350℃以上の熱安定性を有する。熱安定性とは、構造繊維12が溶融せず、軟化せず、または分解されないものを意味する。構造繊維12の熱安定性は、典型的には、TGAによって決定される。TGAを介して分析されたエラストマー粒子の試験サンプルが、試験サンプルの総重量を基準に5重量%を失う温度は、エラストマー粒子が熱安定性を失う温度である。
【0030】
摩擦粒子:
摩擦材料10は、摩擦粒子14を含む。摩擦粒子14は、複数の摩擦粒子14として代替的に説明されてもよい。
【0031】
様々な実施形態において、摩擦粒子14は、摩擦材料10中に、摩擦発生面22の3000ft当たり約1〜約300、あるいは約2〜約200、あるいは約10〜約100、あるいは約15〜約80lbsの量で存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0032】
代替的に、様々な実施形態において、摩擦粒子14は、摩擦材料10の総重量(樹脂を含まない)を基準として、10重量%〜85重量%未満の量で摩擦材料10中に存在する。様々な実施形態において、摩擦粒子14は、摩擦材料10(樹脂を含まない)の総重量に基づいて、約15〜約75、あるいは約15〜約70、あるいは約15〜約65、あるいは約20〜約60、あるいは約21〜約39、あるいは約31〜約39重量%の量で存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0033】
摩擦材料10中に存在する摩擦粒子14の量は、上記範囲外で変わり得るが、典型的には、これらの範囲内の全部及び部分の値の両方である。さらに、当然のことながら、1種以上の摩擦粒子を摩擦材料10に含まれ得るが、その場合、摩擦材料10中に存在するすべての摩擦粒子14の総量が上記範囲内にあるということが理解されるであろう。
【0034】
摩擦粒子14の種類は特に限定されず、シリカ、珪藻土、グラファイト、及びこれらの組み合わせから選択することができる。摩擦粒子14は補強性でも非補強性でもよい。様々な実施形態において、摩擦材料10の摩擦粒子14は、シリカ、珪藻土、グラファイト、及びこれらの組み合わせであるとか、それらを含むとか、それらを含有するとか、それらから本質的になるとか、またはそれらからなる。様々な実施形態において、摩擦粒子14は珪藻土である。摩擦粒子14はシリカを含まなくてもよい。前述の摩擦粒子タイプの様々な組み合わせのすべての重量範囲及び比率は、様々な非限定的な実施形態において本明細書によって明示的に企図される。例えば、そのような実施形態はグラファイトを含み得るが、シリカ及び/または珪藻土を含まなくてもよい。
【0035】
その他の実施形態において、摩擦粒子14は、シリカ、炭素、グラファイト、アルミナ、マグネシア、酸化カルシウム、チタニア、セリア、ジルコニア、コージエライト、ムライト、シリマナイト、スポジュメン、ペタライト、ジルコン、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化ハフニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、ホウ化チタン、カシューナッツ、ゴム、及びこれらの組み合わせであるとか、それらを含むとか、本質的にそれらからなるとか、またはそれらからなる。
【0036】
種々の実施形態では、摩擦粒子14は、珪藻土であるとか、それを含むとか、それから本質的になるか、またはそれらからなる。珪藻土はシリカを含む鉱物である。いくつかのそのような実施形態では、珪藻土は、約0.1μm〜約30μmの平均直径及び約3〜約9のモース硬度を有する。もちろん、摩擦粒子14の粒子のすべてが珪藻土または珪藻土であってもよい、あるいは、代替的に、珪藻土、炭素、グラファイト、及びアルミナの様々な組み合わせなどの異なる種類の粒子の組み合わせを含んでもよい。摩擦粒子14の1つまたは複数の種類は、求められる物理的特性に応じて変わってもよい。
【0037】
様々な実施形態において、摩擦材料10は、摩擦粒子14の一部として、またはそれとは独立してのいずれかで、珪藻土を含む。例えば、いくつかの実施形態では、摩擦材料10は、摩擦材料10(樹脂を含まない)の総重量に基づいて最大約50重量%の量の珪藻土をさらに含んでもよい。珪藻土が含まれる場合、それは、摩擦材料10の総重量に基づいて、0より大きく、典型的には約40重量%未満の量で含まれることになる。様々な実施形態において、珪藻土は、摩擦材料10(樹脂を含まない)の総重量に基づいて、約1〜約80、あるいは約2〜約70、あるいは約3〜約60、あるいは約4〜約50、あるいは約5〜約40、あるいは約10〜約30、あるいは約15〜約25重量%の量で存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0038】
摩擦粒子の二次層すなわち最上層はまた、摩擦材料10の摩擦発生面22上に堆積させることができる。珪藻土を含む様々な摩擦調整粒子(friction modifying particles)は、繊維質基材上の二次層として有用である。いくつかの実施形態において、上述した摩擦調整粒子の任意の組み合わせは、摩擦材料10(樹脂を含まない)の総重量に基づいて、約0.2〜約20、あるいは約2〜約10、あるいは約3〜約5重量%の量で摩擦材料10の摩擦発生面22上に均一に堆積させることができる。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0039】
その他の実施形態では、珪藻土は、摩擦粒子14を基準にして上述した任意の量で、例えば摩擦材料10中の摩擦粒子14の総重量に基づいて、約5〜約100、あるいは約10〜約50、あるいは約10〜約30、あるいは約15〜約25重量%の量で含まれる。言い換えれば、珪藻土は、摩擦粒子14となり得、それによって摩擦粒子14は、摩擦粒子14が存在し得る上記の任意の量で存在し得る。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。「から本質的になる」という用語は、前述の摩擦粒子14のうちの1つ以上を含み、かつ前述の摩擦粒子14のうち1つ以上を同時に含まない実施形態を記載し得る。
【0040】
様々な実施形態において、摩擦材料10は、摩擦粒子14の一部として、またはそれとは独立してのいずれかで、グラファイトを含む。例えば、いくつかの実施形態では、摩擦材料10は、摩擦材料10の総重量に基づいて最大約20重量%の量のグラファイトをさらに含んでもよい。グラファイトが含まれている場合、それは摩擦材料10の総重量に基づいてゼロより大きくかつ典型的には約20重量%未満の量で含まれることになる。様々な実施形態において、グラファイトは、摩擦材料10の総重量に基づいて、1〜20、2〜19、3〜18、4〜17、5〜16、6〜15、7〜14、8〜13、9〜12、10〜11、5〜10、5〜15、5〜19、10〜15、10〜19、または15〜19重量%の量で存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0041】
その他の実施形態において、グラファイトは、摩擦粒子14を基準にして上述した任意の量で、例えば摩擦材料10の総重量に基づいて約31〜約49、32〜48、33〜47、34〜46、35〜45、36〜44、37〜43、38〜42、39〜41、30〜45、30〜40、30〜35、35〜49、35〜45、35〜40、40〜49、40〜45、または45〜49重量%の量で含まれる。言い換えれば、グラファイトは、摩擦粒子14となり得、それによって摩擦粒子14は、摩擦粒子14が存在し得る上記の任意の量で存在し得る。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。「から本質的になる」という用語は、前述の摩擦粒子14のうちの1つ以上を含み、かつ前述の摩擦粒子14のうちの1つ以上を同時に含まない実施形態を記載し得る。
【0042】
様々な実施形態において、摩擦粒子14は、カシューナッツシェルオイル、ゴム、またはこれらの組み合わせから誘導される粒子を含む。カシューナッツシェルオイルから誘導されるかまたはゴムを含む摩擦粒子14は弾性でありかつゴム様の性質を示す。本開示では、カシューナッツシェルオイル及び/またはゴムから誘導される摩擦粒子14はエラストマー粒子とも呼ばれる。
【0043】
いくつかの実施形態において、摩擦粒子14は、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム(「SBR」)、ブチルゴム、ハロゲン化ゴム(例えば、クロロブチルゴム、ブロモブチルゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム)、及びこれらの組み合わせであるとか、それらを含むとか、それらから本質的になるとか、またはそれらからなるゴム粒子を含む。
【0044】
種々の実施形態において、摩擦粒子14は、約0.04μm〜約40μm、あるいは約1μm〜約20μmの平均直径を有する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。さらに、様々な実施形態において、摩擦粒子14は、約400℃以上、あるいは約450℃以上、あるいは約500℃以上の熱安定性を有する。熱安定性とは、摩擦粒子14が溶融せず、軟化せず、あるいは分解しないものを意味する。摩擦粒子14の熱安定性は、典型的には、熱重量分析(「TGA」)によって決定される。TGAを介して分析された摩擦粒子14の試験サンプルが、試験サンプルの総重量を基準に10重量%を失う温度は、摩擦粒子14が熱安定性を失う温度である。
【0045】
摩擦粒子14は、摩擦材料10の孔径に影響を与え、また弾性/圧縮にも影響を与える可能性があり、それぞれ以下により詳細に説明する。例えば、摩擦粒子14の個々の粒子のサイズがより大きい場合、摩擦材料10が形成されるときに粒子はそれほど密には詰まらない。これは、より大きい孔径の形成をもたらす傾向がある。逆に、摩擦粒子14の個々の粒子のサイズがより小さいと、摩擦材料10が形成されたときに粒子はより密に詰まる。これはより小さい孔径の形成をもたらす傾向がある。
【0046】
ポリビニルアルコール繊維:
摩擦材料10は、ポリビニルアルコール繊維16を含む。ポリビニルアルコール繊維16は、複数のポリビニルアルコール繊維16として代替的に説明されてもよい。様々な実施形態において、ポリビニルアルコール繊維16は、摩擦発生面22の3000ft当たり約1〜約50、あるいは約2〜約25、あるいは約2〜約15lbsの量で摩擦材料10中に存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0047】
代替的に、様々な実施形態において、ポリビニルアルコール繊維16は、摩擦材料10(樹脂を含まない)の総重量を基準として、1重量%〜50重量%未満の量で摩擦材料10中に存在する。様々な実施形態において、ポリビニルアルコール繊維16は、摩擦材料10(樹脂を含まない)の総重量を基準として、約1〜約19、あるいは約1〜約14、あるいは約1〜約9、あるいは約1〜約4重量%の量で存在する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0048】
摩擦材料10中に存在するポリビニルアルコール繊維16の量は、上記の範囲外で変わり得るが、典型的には、これらの範囲内の全部及び部分の値の両方である。さらに、当然のことながら、1種類以上のポリビニルアルコール繊維16が、摩擦材料10に含まれることがあって、この場合、摩擦材料10中に存在する全てのポリビニルアルコール繊維16の総量は上記範囲内にあるということが理解されるであろう。
【0049】
ポリビニルアルコール繊維16は、ポリビニルアルコールを含む。ポリビニルアルコールは市販されているか、または酢酸ビニルモノマーを重合することによって製造することができる。ポリビニルアルコールは、対応するモノマーの重合によって調製することができると考えられる。多くの実施形態では、ポリビニルアルコールは対応するモノマーの重合によっては調製されない。代わりに、モノマー、ビニルアルコールは、典型的には互変異性体の形態、アセトアルデヒドで存在する。したがって、ポリビニルアルコールは、典型的には、アセテート基を除去するためにポリ酢酸ビニルの部分的または完全な加水分解(例えば、鹸化)によって調製される。本開示において、ポリビニルアルコールは、任意の加水分解度、加水分解率(%)、または加水分解量を有してもよい。様々な実施形態において、ポリビニルアルコールは、(少なくとも)50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99モル%の加水分解率を有する。ポリビニルアルコールはまた、完全に、例えば、100モル%加水分解され得る。
【0050】
種々の実施形態において、ポリビニルアルコールは、約2,000〜約800,000、あるいは約5,000〜約450,000、あるいは約10,000〜約300,000、あるいは約15,000〜約200,000あるいは、約20,000〜約200,000、あるいは約25,000〜約200,000、あるいは約30,000〜約200,000、あるいは約35,000〜約200,000、あるいは約40,000〜約200,000、あるいは約45,000〜約200,000、あるいは約50,000〜約200,000、あるいは約55,000〜約200,000、あるいは約60,000〜約200,000、あるいは約60,000〜約120,000g/molの数平均分子量(M)を有する。その他の実施形態において、ポリビニルアルコールは、約70,000〜約190,000、あるいは約80,000〜約180,000、あるいは約90,000〜約170,000、あるいは約100,000〜約160,000、あるいは約110,000〜約150,000、あるいは、約120,000〜約140,000、あるいは約130,000〜約140,000、g/molのMを有する。さらにその他の実施形態において、ポリビニルアルコールは、約85,000g/mol未満、または約60,000から約85,000g/mol未満のMを有する。分子量は、上記の任意の1つまたは複数の値の範囲内またはそれらの間の、全部及び部分の両方の任意の値、または複数の値の範囲であり得ることが企図される。様々な実施形態において、前述の分子量のうちの任意の1つまたは複数は、±1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10%だけ変化し得る。
【0051】
様々な実施形態において、ポリビニルアルコール繊維16は60℃以上の温度で水に可溶である。ポリビニルアルコール繊維16の溶解度は、摩擦材料10の「湿潤強さ」を改良すると考えられる。摩擦材料10の湿潤強さの増加は、材料に含まれる成分の最適化を可能にし、そしてまた効率的な製造を可能にする。樹脂添加前の摩擦材料10の湿潤強さは、試験方法ASTM D828−97によって評価される。
【0052】
多くの実施形態において、ポリビニルアルコール繊維16は、約11μm未満の平均直径、約4mm未満の平均長さ、及び約1未満の平均デニールを有する。様々な実施形態において、ポリビニルアルコール繊維16は、約11未満、約1〜約11、あるいは約2〜約10、あるいは約3〜約9、あるいは約5〜約7、あるいは約6μmの平均直径;約0.5〜約3.9、あるいは約1〜約3.9、あるいは約2〜約3.9、あるいは約2〜約3.5、あるいは約2.5〜約3.5mmの平均長さ;及び/または約1未満、あるいは約0.2〜約0.9の平均デニールを有する。
【0053】
いくつかの実施形態において、ポリビニルアルコール繊維16は、約2μmより大きい平均アスペクト比、及び約11μmより小さい平均直径を有する。もちろん、ポリビニルアルコール繊維16は、同じまたは異なる特性(例えば、M、直径、長さ、及びデニールの繊維)を有するポリビニルアルコール繊維を含むことができる。いくつかの実施形態において、摩擦材料10はポリビニルアルコール繊維16及びポリビニルアルコール粒子を含む。そのような実施形態では、摩擦材料10は、約2μm未満の平均アスペクト比を有するポリビニルアルコール粒子をさらに含むことができる。もちろん、摩擦材料10は、同じまたは異なる特性を有するポリビニルアルコール粒子、例えば異なる直径及びアスペクト比のポリビニルアルコール粒子、を含むことができる。
【0054】
樹脂:
摩擦材料10は樹脂20(硬化または未硬化にすることができる)を含む。樹脂20は、当技術分野ではバインダーとも呼ばれる。「基材材料」という用語は、樹脂を含まない摩擦材料10の実施形態を説明する。
【0055】
種々の実施形態において、樹脂20は、摩擦材料10の総重量に基づき、約300未満、あるいは約250未満、あるいは約200未満、あるいは約150未満、あるいは約100未満あるいは、約75未満、あるいは約60未満、あるいは約55未満、あるいは約45未満、あるいは約40未満、あるいは約40未満、あるいは約40〜約55、あるいは約20〜約35、あるいは約25〜約30、重量%の量で摩擦材料10中に存在する。この量は、「目標含浸率(ピックアップ)」として記載されることがある。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。摩擦材料10中に存在する樹脂20の量は、上記の範囲外で変わり得るが、典型的には、これらの範囲内で全部及び部分の値の両方である。さらに、1種類以上の樹脂20が摩擦材料10に含まれることがあって、その場合、摩擦材料10中に存在するすべての樹脂20の総量は上記範囲内にあるということが理解されるであろう。樹脂20は、摩擦材料10全体にわたって配置または分散している。言い換えれば、樹脂20は、摩擦材料10全体にわたって均一にまたは不均一に分散していてもよい。様々な実施形態において、樹脂20は繊維、摩擦粒子及び/またはポリビニルアルコール繊維16を部分的または全体的に包み込んでもよい。
【0056】
種々の実施形態において、摩擦材料10の形成段階に応じて、樹脂20は全く硬化しない、部分的に硬化する、または完全未満に硬化することがある。言い換えれば、樹脂20は、製造プロセスのどの段階が検討されるかに応じて、硬化、未硬化、または部分的に硬化することができる。典型的な実施形態において、樹脂は熱的に(例えば高温焼付を介して)硬化される。いったん硬化すると、樹脂20は摩擦材料10に強度及び剛性を付与し、適切な潤滑剤の流動及び保持のために所望の孔隙率を維持しながら、繊維、摩擦粒子14などを接着させる。摩擦材料10が「硬化した」または「反応生成物」を含むと記載される場合、摩擦材料は硬化された樹脂を含んでいるとも理解されるべきである。
【0057】
ここで、摩擦材料10全体に分散している樹脂20に関して言及する。樹脂20は、摩擦材料10に構造強度を与えるのに適した任意の熱硬化性樹脂であり得る。樹脂20は、例えばフェノール樹脂または改質フェノール樹脂(例えばエポキシフェノールなど)であり得る。フェノール樹脂は、芳香族アルコール、典型的にはフェノールと、アルデヒド、典型的にはホルムアルデヒドとの縮合によって製造される熱硬化性樹脂の一種である。フェノール基樹脂は、全樹脂の総重量に基づいて少なくとも50重量%のフェノール樹脂を含み、あらゆる溶媒または加工酸を除く熱硬化性樹脂ブレンドである。フェノール樹脂とブレンドすることができるその他の熱硬化性樹脂のいくつかの例として、ほんの数例を挙げると、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びポリブタジエン樹脂が挙げられる。すなわち、様々なフェノール基樹脂は、シリコーン、エポキシ、ブタジエン、きり油、ベンゼン、カシューナッツ油などのような改質成分を含むことができる。フェノール改質樹脂では、フェノール樹脂は一般的に50重量%以上存在する(存在するあらゆる溶媒を除く)。しかしながら、1つ以上の実施形態において、樹脂20は、シリコーン−フェノール樹脂混合物(溶媒及びその他の加工酸を除く)の混合物の重量に基づいて、例えば5〜80重量%のシリコーン樹脂を含むことができる。使用され得るフェノール樹脂及びフェノール−シリコーン樹脂の例は、米国特許第5,998,307号明細書に記載されており、これは様々な非限定的な実施形態においてその全体が本明細書に明示的に組み込まれている。
【0058】
使用され得るシリコーン樹脂は、熱硬化性シリコーンシーラント及びシリコーンゴムを含むことができる。キシレン及びアセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)を含むものなど種々のシリコーン樹脂も使用できる。さらにその他の実施形態においては、5〜25重量%のエポキシ化合物を残部(溶媒及びその他の加工助剤を除く)のフェノール樹脂と共に含むエポキシ改質フェノール樹脂も使用することができる。
【0059】
添加剤:
摩擦材料10はまた、1種以上の添加剤を含むことができる。そのような添加剤は、消泡剤、加工添加剤、可塑剤、界面活性剤、接着促進剤、難燃剤、酸化防止剤、水捕捉剤、着色剤、染料、紫外線安定剤、充填剤、チキソトロープ剤、発泡剤、表面活性剤、不活性希釈剤、及びこれらの組み合わせの群から選択することができる。添加剤は、当業者によって所望されるような任意の量で含まれてもよい。
【0060】
摩擦材料:
ここで、図1を参照すると、摩擦材料10は、構造繊維12、摩擦粒子14、ポリビニルアルコール繊維16、及び樹脂20を含む。構造繊維12、摩擦粒子14、及びポリビニルアルコール繊維16の配置は、典型的には複数の孔隙18を画定する。摩擦材料10は、典型的には多孔質であり、全体に分散した樹脂20を含んでも含まなくてもよい。本開示の目的のために、摩擦材料10は樹脂(硬化または未硬化)を含む。以上に開示したように、構造繊維12、摩擦粒子14、ポリビニルアルコール繊維16を含むが樹脂20を含まない材料10は、基材材料と呼ばれる。いったん摩擦材料10の硬化性樹脂が硬化すると、摩擦材料10は、例えば摩擦板30上での使用に適している。
【0061】
摩擦材料10は、摩擦発生面22と、摩擦発生面22の反対側(かつ平行に)に対向する接合面24とを有する。接合面24は、通常的に、基材32(例えば金属板)に接着されている。摩擦発生面22は摩擦を発生させるために使用される。
【0062】
摩擦材料10は単プライとして記載されてもよく、それは単層であり、2プライではないものを意味する。言い換えれば、摩擦材料10は、2プライ構造に存在し得る2つの別個の層を含まない。しかしながら、摩擦材料10は、ベースとデポジットを含むと説明することができる。
【0063】
摩擦材料10は典型的には、孔隙18、例えば複数の孔隙18を画定する。孔隙18の各々は孔径を有する。平均孔径は、典型的には分布として表される。孔径は、ASTM D4404−10を用いて決定することができる。様々な実施形態において、メジアン孔隙径は、あるいは摩擦材料10の全孔径の範囲は、ASTM D4404−10を用いて測定されるように、0.5μm〜50μm、1μm〜50μm、5μm〜50μm、10μm〜45μm、15μm〜40μm、20μm〜35μm、25μm〜30μm、30μm〜35μm、5μm〜15μm、5μm〜10μm、10μm〜15μm、10μm〜20μm、5μm〜20μm、5μm〜7μm、7μm〜10μm、または7μm〜15μmである。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0064】
その他の実施形態では、摩擦材料10は、ASTMD4404−10を用いて決定されるように25%〜85%の孔隙率を有する。摩擦材料10の孔隙率は、空気に開放されている全摩擦材料10の百分率、または空気であるか固体ではない容積に基づいて、全摩擦材料10の百分率として代替的に説明されてもよい。様々な実施形態において、摩擦材料10は、ASTMD4404−10を用いて測定されるように、25〜80、35〜80、25〜70、35〜70、45〜85、45〜75、55〜85、55〜75、60〜80、60〜75、60〜70、60〜65、65〜85、65〜75、65〜70、70〜85、70〜80、70〜75、75〜85、75〜80、または80〜85%の孔隙率を有する。さらにその他の実施形態では、摩擦材料10は、ASTMD4404−10を用いて決定されるように、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、または70%の孔隙率を有する。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0065】
摩擦材料10の構造がより多孔質であるほど、より効率的に熱が放散される。使用中の摩擦材料10の係合中に摩擦材料10に出入りするオイルの流れは、摩擦材料10が多孔質であるときに、より迅速に起こる。例えば、摩擦材料10がより高い平均流量細孔径及び孔隙率を有する場合、自動変速機36の孔隙18全体にわたる流体の流れが良好であるため、摩擦材料10がより低温になりやすく、すなわち変速機36における発熱がより少なくなる。変速機36システムの作動中、摩擦材料10上のオイルデポジットは、特に高温では、自動変速機流体の分解に起因して時間とともに進行する傾向がある。オイルデポジットは、孔隙18のサイズを減少させる傾向がある。したがって、摩擦材料10がより大きな孔隙18を有するように形成される場合、オイル堆積後に残る/結果として生じる孔径はより大きくなる。摩擦材料10の孔隙率は、繊維、樹脂、充填剤、充填剤粒子サイズ、及び基材材料の重量の選択に基づいてさらに修正することができる。
【0066】
様々な実施形態において、摩擦材料10は、使用中に高い流体透過容量があるように高い孔隙率を有することができる。そのような実施形態では、摩擦材料10が多孔質であるだけでなく圧縮性でもあることが重要であり得る。例えば、摩擦材料10に浸透した流体は、典型的には、変速機36の作動中に加えられる圧力下で摩擦材料10から素早く圧搾または放出されなければならないが、摩擦材料10は典型的には崩壊してはならない。摩擦材料10が、変速機36の作動中に発生する熱を迅速に放散させるのを助けるために高い熱伝導率を有することも重要である。
【0067】
様々な実施形態において、摩擦材料10は、約0.4〜約1.5、あるいは約0.4〜約1.0、あるいは約0.4〜約1.0、あるいは約0.4〜約0.8g/cm、あるいは約0.5〜約0.8g/cmの密度を有する。そのような実施形態では、摩擦材料10の全厚は、典型的には約0.3〜約1、例えば、0.3〜0.9、0.4〜0.8、0.5〜0.7、0.6〜0.7、0.5mm未満、あるいは約0.3mm〜約5mm、あるいは約0.3mm〜約3mm、あるいは約0.3mm〜約2mm、あるいは約0.31〜約0.39、あるいは約0.32〜約0.38、あるいは約0.33〜約0.37、あるいは約0.34〜約0.36、あるいは約0.34mmである。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。この厚さは、樹脂を含める前または後の厚さを指すことがある。
【0068】
様々な実施形態において、摩擦材料10は、典型的には、ASTMD828−97に従って試験した場合、約3,000超、あるいは約3,250超、あるいは約3,500超、あるいは約3,500超、あるいは約3,500〜約8,000、あるいは約3,800〜約8,000g/インチの湿潤引張強度(樹脂添加前、10重量%を超える水を含む)を有する。ASTMD828−97に関しては、幅1インチ×長さ10インチの摩擦材料サンプル10を1インチ/分の速度で引っ張る。
【0069】
様々な実施形態において、摩擦材料10(樹脂添加前)は、典型的には、ASTMD828−97に従って試験した場合、約3,500超、約4,000超、約4,500超、約5,000、あるいは約5,200超、あるいは約3,000〜約8,000、あるいは約3,500〜約7,000、あるいは約4,800〜約10,000、あるいは約5,000〜約9,000g/インチの乾燥引張強度(2重量%未満の水を含む)を有する。ASTM D828−97に関しては、幅1インチ×長さ10インチの摩擦材料サンプル10を1インチ/分の速度で引っ張る。
【0070】
理論に拘束されることなく、ポリビニルアルコール繊維16は、それが乾燥しているとき、特に繊維状の形態で、付加的な強度を提供し、かつ湿っているとき溶解して中間バインダーとして作用すると考えられる。この中間バインダーは硬化する前に加工中に摩擦材料10を結合させる。
【0071】
様々な実施形態では、摩擦材料10は、使用中のより均一な熱放散を可能にする弾性/圧縮及び/または孔隙率の向上とともに、震動(shudder)防止特性の向上を示す。変速機内の流体は、摩擦材料10の孔隙18を通って急速に移動することができる。さらに、弾性/圧縮及び/または孔隙率の向上は、不均一なライニング摩耗または「ホットスポット」がを最小限に抑えられるように摩擦材料10に対してより一様な圧力または一様な圧力分布さえも提供する。
【0072】
さらにその他の実施形態では、摩擦材料10は、2MPaで、6〜8%、6〜7%、または7〜8%の圧縮を有する。圧縮は、摩擦材料10が金属板上に配置されたときに(すなわち、摩擦板30の一部、下方が配置されたときに測定される)、または摩擦材料10が金属板上に配置されていないときに、測定され得る摩擦材料10の材料特性である。典型的には、圧縮は、摩擦材料10が或る特定の荷重下で圧縮される距離の測定値(例えば、mm)である。例えば、荷重がかかる前の摩擦材料10の厚さを測定することができる。次に、荷重がかかってもよい。続いて、一定時間荷重をかけた後の摩擦材料10の新たな厚さを測定する。摩擦材料10が荷重を受けているときに新しい厚さが測定される。圧縮は、摩擦材料10の跳ね返り特性とは異なる。典型的には、圧縮は、(荷重をかける前の厚さ):(荷重を一定時間かけた後の厚さ)の比として報告される。前述の圧縮範囲では、6〜8%を生成するために使用される負荷は2MPaである。あるいは、6〜8%の圧縮は、荷重が加えられる前の元の厚さと比較したときに、荷重が加えられた後の厚さの6〜8%の損失が報告されてもよい。当業者には理解されるように、圧縮は典型的には弾性に関連している。摩擦材料10がより弾性的であるほど、圧縮後に観察される戻りが多くなる。これは典型的には、より少ないライニングロスにつながり、より少ないホットスポットにつながり、どちらも望ましい。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0073】
摩擦材料10の圧縮は、繊維、樹脂、充填剤、充填剤粒子サイズ、及び基材材料の重量の選択に基づいてさらに修正することができる。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0074】
本開示の摩擦材料10は、例えば、摩擦板30を形成するために使用されるとき、当業者には認識されるように、以下に記載される試験及びそれから生成されるトルク曲線を用いて決定されるように、典型的には、例えば、0.10〜0.16、0.11〜0.15、0.12〜0.14、または0.12〜0.13の動的摩擦係数(COF)を示す。様々な実施形態では、摩擦材料10は、当業者には理解されるように、特に低速では、経時的に安定的にまたは徐々に減少するトルク曲線を示す。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0075】
COFを決定するために使用される試験は、GK3試験台で行われる。4つの両面摩擦板30及び対応する塗布デュアルクラッチトランスミッション(DCT)流体を使用して、440℃までの境界温度での車両発進時においてデュアルクラッチトランスミッション36の動作環境をシミュレートする。
【0076】
様々な実施形態において、摩擦材料10は、典型的には、ASTMD3528−96に従って試験した場合、約2,250超、あるいは約2,500超、あるいは約2,000〜約10,000、あるいは約2,000〜約8,000、あるいは約2,000〜約5,000、あるいは約2,000から約4,000、あるいは約3,000〜約5,000、あるいは約3,000〜約4,000kPaのせん断強度を有する。ASTM D3528−96に関しては、試験方法は、4平方インチの総サンプル剪断面積を用いて周囲空気中で乾燥摩擦材料10に対して行われた二重重ね剪断試験である。理論に縛られることなく、ポリビニルアルコール繊維16は摩擦材料10の均質性に影響を与えかつまた繊維と結合剤の両方として作用するので付加的な強度を与えると考えられる。
【0077】
摩擦板
本開示はまた、上で最初に導入したように、基材32(例えば金属板)を含む摩擦板30も提供する。基材32は(少なくとも)2つの表面を有し、摩擦材料10は典型的にはこれらの表面の一方または両方に結合されている。典型的には、摩擦板30は、摩擦材料10が片面または両面に接着または接合されると形成される。片面または両面への摩擦材料10の接合または接着は、当技術分野で知られている任意の接着剤または手段、例えばフェノール樹脂または上記のいずれかの樹脂20によって達成することができる。本開示はまた、当業者によって選択されるように、摩擦板30と分離板とを含むクラッチアセンブリを提供する。本開示はまた、クラッチアセンブリを含む変速機36を提供する。図3は、クラッチアセンブリを示す切欠きを有する変速機36の斜視図である。変速機36は、自動変速機36または手動変速機36であり得る。
【0078】
ここで図2を参照すると、摩擦板30は摩擦材料10を含み、摩擦材料10は硬化され(すなわち硬化樹脂を含む)、接合用接着剤34を用いて基材32に接合される。摩擦材料10の接合面24は、基材32またはその他の材料への結合が達成されるように意図される箇所である。したがって、摩擦材料10の接合面24は基材32に接合される。
【0079】
摩擦材料10は、当業者に公知の任意の好適な技術によって基材に接着される。典型的には、摩擦材料10は、当業者に一般的に公知である、接合用接着剤34、例えばフェノール改質ニトリルゴムを含む接合用接着剤34で基材32に接合される。例示的な基材32は、摩擦板/クラッチ板、シンクロナイザーリング、及びトランスミッション36バンドを含むが、これらに限定されない。基材32は典型的には金属である。
【0080】
上で示唆されたように、本明細書に説明された摩擦材料10の様々な実施形態は、湿式クラッチに利用され得る。摩擦材料10の摩擦発生面22は、潤滑剤の存在下で対向する合わせ面(図示せず)と界面摩擦係合を経験するようになる。摩擦発生面22は、潤滑剤の存在下で対向する回転面(図示せず)と選択的な界面摩擦係合を経験するようになり、結合面24は、接合用接着剤34または一部の他の適切な接合技術の助けで基材32への接合取付けを達成するようになる。潤滑剤は、例えば、自動変速機流体のような任意の適切な潤滑流体であり得る。摩擦材料10は、摩擦発生面22の温度を350℃未満に維持するように設計された湿式クラッチでは満足のいくように機能する一方、所望の場合、約350℃超過、あるいは約400℃、あるいは約450℃の高温環境でも利用され得る。
【0081】
多くの実施形態において、本開示の摩擦材料10は、例えば、摩擦板30を形成するために使用される場合、樹脂の硬化及び金属板への接着後の最終ライニング厚さ0.4〜1.2mmを有する。その他の実施形態において、この厚さは0.5〜1.1、0.6〜1、0.7〜0.9、または0.8〜0.9mmである。これは、上記で最初に導入介したように、Tとして代替的に説明されてもよい。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0082】
種々の実施形態において、摩擦材料10/摩擦板30は、当業者には理解されるように、基材32に接合した後の摩擦材料10(硬化樹脂を含む)の厚さと比較して、基材32に接合する前に繊維及び摩擦粒子14の厚さ(樹脂20なし、「基材材料」としても知られている)を測定した後に決定されたように、10〜30%または10〜20%、例えば11〜19、12〜18、13〜17、14〜16、または15%の圧縮%を示す。様々な実施形態において、圧縮は、上で最初に導入したように、T及びTを使用して計算することができる。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0083】
さらに別の実施形態では、本開示の摩擦材料10は、例えば、摩擦板30を形成するために使用されるとき、10、50、100、200、500、1000、または2000サイクル後、当業者によって理解されるように、ホットスポット及び/または熱汚染を示さない。この場合、サイクルは当業者によって理解されている。追加の非限定的な実施形態において、前述した範囲の端点を含みかつ両端点区間内のすべての値及び値の範囲は、本明細書によって明示的に企図される。
【0084】
摩擦材料の形成方法
本開示はまた、摩擦材料10の形成方法を提供する。本方法は、以下のステップを含む。構造繊維12、摩擦粒子14、及びポリビニルアルコール繊維16を組み合わせるステップと、基材材料を樹脂20に含浸させるステップと、摩擦材料20を形成するために樹脂20を硬化させるステップと、を含む。構造繊維12、摩擦粒子14、ポリビニルアルコール繊維16、基材材料、樹脂20、及びその他のすべての成分は、上述の通りである。
【0085】
構造繊維12、摩擦粒子14、及びポリビニルアルコール繊維16を組み合わせるステップは、典型的には水の存在下で行われる。例えば、構造繊維12、摩擦粒子14、及びポリビニルアルコール繊維16と水とを、混合物の全重量に基づいて、約70超、または約80超、または約90超、または約70〜約95、または約80〜約95重量%の水を含む混合物の中で混合することができる。典型的な実施形態では、本方法で使用されるポリビニルアルコール繊維16は、上記の直径、長さ、デニール、及びその他の特性とともに始まるが、これらの特性は、ポリビニルアルコール繊維16の水への溶解性に起因して加工中に変化し得る。
【0086】
典型的な実施形態10において、摩擦材料10は製造ライン上での連続製造プロセスを介して生産される。連続製造プロセス中に、構造繊維12、摩擦粒子14、及びポリビニルアルコール繊維16を組み合わせて、所望の幅及び厚さを有する基材材料を形成する。基材材料は製造ラインに沿って移動し、樹脂20で飽和する。樹脂20で飽和したら、基材材料はローラーを通じて引っ張られ、ローラーは繊維ウェブを所望の厚さに圧縮し、余分な樹脂20を絞り出して摩擦材料10を形成する。摩擦材料10はローラーを出てから、一連のオーブンを通って搬送され、オーブンは水分を除去し摩擦材料10を硬化させる。その後、硬化樹脂20を含む摩擦材料10は圧延され、典型的には後の使用のために貯蔵される。
【0087】
そのような実施形態では、連続製造プロセス全体を通して、繊維状基材材料は、支持されていない方法で空気中につるされている状態で(例えばコンベヤー上で搬送されるのでなく空気中で引っ張られる)製造ラインに沿って(例えばベルト、ローラー、オーブンなどの間で)移動するので、それ自体を支持しなければならない。ポリビニルアルコール繊維16は優れた乾燥強度及び湿潤強度を提供し、それは製造プロセスを減速または停止させて、品質問題及び費用のかかる「ダウンタイム」を引き起こす可能性がある基材材料の裂けまたは破断を防止する。さらに、ポリビニルアルコール繊維16は、(上記のように)優れた剪断強度及びより大きい孔径を有する摩擦材料を提供する。
【0088】
その他の様々な実施形態において、本方法は、摩擦発生面22上に堆積物を形成するために、付加的な摩擦粒子14及び構造繊維16を摩擦材料10に任意選択的に塗布するステップをさらに含む。
【0089】
様々な実施形態において、摩擦材料10にフェノール樹脂またはフェノール基樹脂を含浸させ、次いで所定の時間所望の温度に加熱して摩擦材料10を形成してもよい。約350°F〜450°Fの温度で加熱するとフェノール樹脂は硬化する。シリコーン樹脂のような他の樹脂が存在するとき、約350°F〜700°Fの温度で加熱するとシリコーン樹脂は硬化する。その後、含浸及び硬化した摩擦材料10を適切な手段によって所望の基材32に接着することができる。
【0090】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図しており、決して本発明の範囲を限定するものと見なすべきではない。
【実施例】
【0091】
本開示を代表する摩擦材料の1つの実施例(実施例1)は、本開示を代表しない摩擦材料の2つの比較例(比較例1及び2)と共に形成される。実施例1並びに比較例1及び比較例2を評価して、以下に記載するように様々な物理的性質を決定する。実施例1並びに比較例1及び比較例2の組成物を以下の表1に示す。表1に示される成分は摩擦材料の総重量に基づく重量%で示す。
【0092】
【表1】
【0093】
利用される樹脂の量は、典型的には当該技術分野において「樹脂ピックアップ」として記載されている。表1に示される樹脂の量は、摩擦材料の全重量に基づく重量%である。
【0094】
繊維A及び繊維Bはアラミド繊維及び炭素繊維である。
【0095】
摩擦粒子A及びBは、グラファイト及び珪藻土である。
【0096】
比較ポリビニルアルコール繊維は、平均直径11μm、平均デニール1.0、平均長さ4mmのポリビニルアルコール繊維である。
【0097】
ポリビニルアルコール繊維は、平均直径6μm、平均デニール0.4、平均長さ3mmのポリビニルアルコール繊維である。
【0098】
摩擦材料は、樹脂含浸摩擦材料を所定の時間約350〜450°Fの温度で加熱し、摩擦材料を室温まで冷却させることによって硬化される。
【0099】
ここで表1を参照すると、約3%のポリビニルアルコール繊維を含む実施例1の摩擦材料は、優れた引張強度(乾燥及び湿潤の両方)を示す。「乾燥」引張強度に関して、実施例1の摩擦材料は、比較例1(ポリビニルアルコール繊維を含まない)と比較して乾燥引張強度が88.5%増加し、比較例2(ポリビニルアルコール繊維よりも大きい直径、長さ、及びデニールを有する比較ポリビニルアルコール繊維を含む)と比較して乾燥引張強度が21.9%増加した。「湿潤」引張強度に関して、実施例1の摩擦材料は、比較例1(ポリビニルアルコール繊維を含まない)と比較して湿潤引張強度が148.5%増加し、比較例2(ポリビニルアルコール繊維よりも大きい直径、長さ、及びデニールを有する比較ポリビニルアルコール繊維を含む)と比較して湿潤引張強度が24.9%増加した。
【0100】
さらに、実施例1の摩擦材料(樹脂を硬化させることによって形成される)は優れた剪断強度を示す。剪断強度に関して、実施例1の摩擦材料は、比較例1(ポリビニルアルコール繊維を含まない)と比較して剪断強度が44.0%増加し、比較例2(ポリビニルアルコール繊維よりも大きい直径、長さ、及びデニールを有する比較ポリビニルアルコール繊維を含む)と比較して剪断強度が29.7%増加した。
【0101】
開示内容全体にわたる上記実施形態のすべての組み合わせは、たとえそのような開示内容が上記の単一の段落またはセクションにおいて逐語的に説明されていなくても、1つ以上の非限定的実施形態において本明細書によって明示的に企図される。言い換えれば、明示的に企図された実施形態は、本開示内容の任意の部分から選択され組み合わされた任意の1つ以上の要素を含み得る。
【0102】
分散(variance)が本開示の範囲内にとどまっている限り、上述した値のうちの1つ以上は、例えば±5%、±10%、±15%、±20%、±25%だけばらついても構わない。その他のすべてのメンバー(構成物)から独立したマーカッシュ(Markush)グループ(群)の各構成物から予期しない結果が得られる可能性がある。各構成物は、個別的に及び/または組み合わせて添付された特許請求の範囲内で特定の実施形態に依存され得、このような実施形態のための適切なサポートを提供することができる。独立請求項及び従属請求項のすべての組み合せの主題は、単一従属及び複数従属の両方ともで、本明細書において明示的に企図されている。本開示内容は、限定するのではなく説明に使用される用語を含んだ例示的なものである。前記の教示に照らして見て、本開示内容の多くの修正形態及び変形形態が可能であり、本開示内容は、本明細書で具体的に記載される以外の方法で実施され得る。
【0103】
本開示内容の様々な実施形態を説明することにおいて、依存される任意の範囲及びサブ範囲は、独立的にかつ総括的に、添付された特許請求の範囲内に含まれることを理解すべきであり、ここに全部及び/または一部の値を含むすべての範囲を、たとえこのような値が本明細書に明示的に記載されていなくても、説明し、考慮することを理解すべきである。当業者は、列挙された範囲及びサブ範囲が本開示内容の様々な実施形態を十分に説明し、可能にすることを容易に認識するはずであり、これらの範囲及びサブ範囲は、さらに関連する半分、3等分、4等分、5等分などに区分してさらに記述され得る。ほんの一例のように、「0.1〜0.9」の範囲は、個別的にかつ総称的に、添付された特許請求の範囲内にある3等分の下位、すなわち0.1〜0.3、3等分の中間、すなわち0.4〜0.6、3等分の上位、すなわち0.7〜0.9にさらに記述され得、個別的に及び/または総括的に添付された特許請求の範囲内で特定の実施形態に依存され得、このような実施形態のためのサポートを提供することができる。また、「少なくとも」、「より大きい(超過)」、「未満」、「僅かに」などのような範囲を定義するとか修正する表現に関して、そのような表現は、サブ範囲及び/または上限または下限を含むことを理解すべきである。別の例として、「少なくとも10」の範囲は、本質的に、少なくとも10〜35のサブ範囲、少なくとも10〜25のサブ範囲、25〜35のサブ範囲などを含み、各サブ範囲は、以下のものを含み得る。個別的に及び/または総括的に添付された特許請求の範囲内で特定の実施形態に依存され得、このような実施形態のための適切なサポートを提供することができる。最終的に、開示された範囲内の個別的な数字は、添付された特許請求の範囲内の特定の実施形態に依存され得、このような実施形態のための適切なサポートを提供することができる。例えば、「1〜9」の範囲は、4.1などの小数点(または分数)を含む個別的な数字だけでなく、3のような様々な個々の整数を含み、これらは、特定のものに依存し、添付された特許請求の範囲内で特定の実施形態に依存され得、このような実施形態のための適切なサポートを提供することができる。
図1
図2
図3