特許第6857729号(P6857729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6857729スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板及びその製造方法
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  • 6857729-スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板及びその製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857729
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210405BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20210405BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20210405BHJP
   B21B 1/38 20060101ALI20210405BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20210405BHJP
   B21B 1/02 20060101ALI20210405BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C22C38/00 301A
   C22C38/14
   C22C38/58
   B21B1/38 L
   B21B3/02
   B21B1/02 D
   C21D8/02 B
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-527295(P2019-527295)
(86)(22)【出願日】2017年11月24日
(65)【公表番号】特表2020-509159(P2020-509159A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】CN2017112818
(87)【国際公開番号】WO2018099326
(87)【国際公開日】20180607
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】201611083883.2
(32)【優先日】2016年11月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】チャン、アイウェン
(72)【発明者】
【氏名】リアン、シャオジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ、スハイ
(72)【発明者】
【氏名】ディン、ジェンフア
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジユ
(72)【発明者】
【氏名】ハオ、インミン
【審査官】 橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−108665(JP,A)
【文献】 特開平01−301842(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104760351(CN,A)
【文献】 特開2003−328069(JP,A)
【文献】 特開平06−065686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
B21B 1/02
B21B 1/38
B21B 3/02
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層及び基層に接合圧延されたスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層を含み、前記基層における化学元素の構成は質量%で、C:0.02〜0.09%、0<Si0.35%、Mn:1.0〜2.0%、Al:0.02〜0.04%、Ti:0.005〜0.018%、Nb:0.010〜0.030%、N0.006%、残部が鉄及びその他の不可避的不純物であり、前記スーパーオーステナイトステンレス鋼がS31254(254SMo)、S32654(654SMo)、N08904(904L)、N08367またはN08926であり、前記スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層の微細組織がオーステナイトを主体とし、微細組織中のδフェライト相の比率が5%以下であり、σ相の比率が2%以下であり、前記基層の微細組織が、ベイナイト、又はベイナイト+5%以下のマルテンサイト、又はベイナイト+5%以下のM−A島であることを特徴とするスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板。
【請求項2】
前記基層が、さらに、Ni、Cr及びMoのうちの少なくとも1つの元素を含有し、且つNi0.20%、Cr0.20%、Mo0.10%であることを特徴とする請求項1に記載のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板。
【請求項3】
前記スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層の表面から0.5〜1.0mmの範囲内におけるσ相の比率が0.2%以下であることを特徴とする請求項に記載のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板。
【請求項4】
基層とスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層との接合部に遷移層を有し、前記遷移層の厚みが100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板。
【請求項5】
基層の降伏強度が345MPa以上であり、引張強度が460MPa以上であり、伸び率が20%以上であり、−20℃でのシャルピー衝撃値Akvが100J以上であり、−40℃でのシャルピー衝撃値Akvが47J以上であり、スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の剪断強度が365MPa以上である請求項1〜のいずれか1項に記載のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の製造方法であって、
(1)基板スラブ及びクラッド層用ステンレス鋼スラブを製造する工程と、
(2)中間の二層としてクラッド層用ステンレス鋼スラブを用い、外側の層として基板スラブを用い、前記の二層のクラッド層用ステンレス鋼スラブの間に分離剤層を敷設し、少なくとも二層のクラッド層用ステンレス鋼スラブと少なくとも二層の基板スラブとを溶接してなる複合スラブを形成することにより、基板スラブとクラッド層用スラブをアッセンブリする工程と、
(3)得られた複合スラブを1140〜1200℃の温度で加熱した後、仕上げ圧延温度が1000℃以上の条件下で、基板スラブとクラッド層用スラブのオーステナイトの再結晶領域において多パス圧延を行う接合圧延工程と、
(4)接合圧延後に直ちに水冷し、水冷の開始温度を940℃以上とし、最終温度を430〜550℃とし、冷却速度を10〜100℃/sとする工程と、
(5)複合板を加熱矯正し、次に枚葉状態で室温まで空冷した後、冷間矯正する工程と、
を含むことを特徴とするスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記工程(4)において、水冷の冷却最終温度を430〜470℃とすることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程(3)において、仕上げ圧延温度を1020〜1060℃とすることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合鋼板及びその製造方法に関し、特に接合圧延により形成された複合鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合鋼板は重要な鉄鋼材料として、その独特なステンレス鋼の耐食性と炭素鋼の力学的特性の総合性能を兼備し、海水淡水化、熱交換器、製紙設備、リン酸貯蔵タンク、排煙脱硫装置、発電所凝縮管、軍事及び船舶製造などの業界に広く応用される。中国の工業の急速な発展及び様々な軍用及び民用機器の耐用年数の要求の向上、及び生産や使用過程のグリーンで環境に優しい超低炭素排出の規制に伴い、複合板に対する性能要求もそれに伴って向上する。
【0003】
従来の技術において、複合鋼板は一般的に従来の機械的圧着及び爆発圧着を採用し、この二種類のプロセスでは複合板のクラッド層と基層の性能をそれぞれ制御でき、その後、あわせて接合する。すなわち、接合前にステンレス鋼と炭素鋼をそれぞれ要求された性能となるように適切な状態までに処理し、次に機械的圧着力又は爆発衝撃力を施して接合し、複合板を得る。しかし、これらの複合方法はそれぞれ欠点を有する。例えば、機械的に接合された複合板は、ステンレス鋼クラッド層と炭素鋼基層の間を冶金的に接合させたのではなく、機械的な力で貼り合わせただけで、使用過程において接合界面が割れやすく、脱落しやすく、故障が早い。爆発圧着はその自体のプロセス環境への規制が厳しく、過疎地域等の人口のほとんどない地域で実施する必要があるという欠点を有する。また、爆発時に発生する騒音、振動及び衝撃波が周辺環境に大きく影響し、環境意識が高い現在に、このようなプロセス方法は環境条件要因により制限される。また、爆発圧着製造された複合板は、接合界面においての剪断強度が低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的の一つは、スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板を提供することであり、接合圧延により得られたスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の強度が高く、冷間曲げ性が優れ、耐腐食性に強い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、基層及び基層に接合圧延されたスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層を含むスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板を提供し、前記基層における化学元素の質量%が以下のとおりである。
【0006】
C:0.02〜0.09%、0<Si0.35%、Mn:1.0〜2.0%、Al:0.02〜0.04%、Ti:0.005〜0.018%、Nb:0.010〜0.030%、N0.006%、残部が鉄及びその他の不可避的不純物である。
【0007】
ここで、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層における各化学元素の設計原理は、以下のとおりである。
【0008】
C:炭素は、鋼中の重要な合金元素である。炭素含有量の向上は、鋼板の強度及び硬さを向上させることができるが、同時に鋼板の塑性靱性の低下を招く。本発明にかかる技術案において、炭素の基層鋼板性能への影響を総合的に考慮し、同時に接合圧延時の炭素のスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層への拡散移動を考慮するため、Cの質量%を限定する。スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層に採用されたスーパーオーステナイトステンレス鋼における炭素の質量%が0.03%未満であるため、基層における炭素の質量%は0.02〜0.09%に制御することにより、炭素のステンレス鋼耐食性への影響を減少させ、同時に基層の力学的特性及び溶接性を保証する。
【0009】
Si:鋼中にケイ素を添加することにより、鋼の純粋度を向上させ、かつSiは脱酸の作用を果たす。本発明の技術案において、ケイ素は鋼中に固溶強化作用を果たすが、過剰のケイ素は鋼の溶接性に不利である。スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層にもケイ素が存在するため、基層におけるSiは0<Si0.35%に限定され、この範囲内にあると、ケイ素のスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層に対する耐食性の影響が低く、かつ基層に良好な溶接性を有させる。
【0010】
Mn:本発明にかかる技術案において、マンガンはオーステナイト組織を安定させる作用を果たし、同時に鋼の焼入れ性を増加させ、かつマルテンサイトの形成の臨界冷却速度を低減することに役立つ。しかしながら、過剰のマンガンは高い偏析傾向にあり、同時にスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層におけるマンガンの質量%が2.0%未満であるため、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層のMnの質量%は1.0〜2.0%に限定される。この範囲内にあると、スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層への悪影響を与えず、同時に鋼の強度レベルを向上させることに役立つ。
【0011】
マンガンと炭素の相互作用を考慮し、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板の強度をさらに向上させるために、いくつかの好ましい実施形態において、マンガンの質量%は1.5〜1.7%に制御される。
【0012】
Al:本発明にかかる技術案において、Alは強脱酸元素である。鋼中の酸素元素の含有量を低減するために、アルミニウムの質量%は0.02〜0.04%に制御する。また、脱酸後の余分なアルミニウムや鋼中の窒素元素は、AlN析出物を形成することにより、鋼の強度を高め、かつ熱処理での加熱時に鋼のオーステナイト結晶粒度を微細化することができる。
【0013】
Ti:Tiは強炭化物形成元素であり、鋼中に微量のTiを添加して鋼中のNを固定することに役立ち、形成されたTiNは複合スラブを加熱する時に基層オーステナイト結晶粒を過度に成長させず、旧オーステナイト結晶粒度を微細化する。さらにチタンは鋼中にそれぞれ炭素及び硫黄と結合してTiC、TiS、Tiを生成することができ、上記化合物は介在物と第二相粒子の形式で存在する。チタンの上記炭窒化物の析出物は溶接時に熱影響部の結晶粒の成長を阻止し、溶接性を改善することができる。したがって、本発明にかかるTiの質量%は0.005−0.018%に制御される。
【0014】
Nb:ニオブは強炭化物形成元素であり、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板では、基層にニオブを添加するのは、主に再結晶温度を高めるためであり、これによってオーステナイト再結晶圧延終了後に結晶粒が速やかに成長することができず、基層の鋼の低温衝撃靭性の向上に寄与する。したがって、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層中のNbの質量%を0.010〜0.030%に制御する。
【0015】
N:Nはオーステナイト安定化元素であり、基層に製鋼ガスの残部として残留されたものであるため、本発明にかかるオーステナイトステンレス圧延複合鋼板ではNの質量%を0.006%以下に制御する。
【0016】
本発明に記載のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板では、不可避的不純物は主にSとP元素であるため、基層中のP0.015%、S0.010%を制御する必要がある。
【0017】
なお、鋼衝撃靭性に影響する主要な不純物元素として、スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層のSの質量%も0.01%以下に制御する必要がある。
【0018】
さらに、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板では、前記基層はさらにNi、Cr及びMo元素のうちの少なくとも一つを含有し、且つNi0.20%、Cr0.20%、Mo0.10%である。
【0019】
本発明にかかるオーステナイトステンレス圧延複合鋼板の実施効果をさらに向上させるために、上記化学元素の設計原理は以下のとおりである。
【0020】
Ni:Niはオーステナイトを安定させる元素であり、鋼の強度をより高めるのに有利である。また、鋼中にニッケルを添加することにより鋼の低温衝撃靭性を大幅に向上させることができる。ニッケルは高価な合金元素であるため、添加量が多すぎると製造コストの向上につながる。したがって、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層のニッケルの質量%はNi0.20%に限定される。
【0021】
Cr:クロムの偏析はマンガンよりも小さいため、基層の鋼中に顕著な偏析帯及び帯状組織がある場合、クロムを添加することにより鋼の性能を改善する。また、基層にクロムを添加することはスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層中のクロムの基層への拡散も抑制することに役立つ。そこで、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板の基層のCrの質量%はCr0.20%に限定される。
【0022】
Mo:モリブデンは結晶粒を微細化し、鋼の強度及び靭性を向上させることができる。また、モリブデンは鋼の焼戻し脆性を減少することができ、焼戻し時に非常に細かい炭化物を析出させ、鋼の基層である基体を著しく強化することができる。また、モリブデンの添加は本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板の水冷停止後の自己焼戻し脆性を抑制することに役立ち、しかし、モリブデンを添加しすぎると製造コストが増加するため、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板の基層中のモリブデンの質量%はMo0.10%に限定される。
【0023】
本発明にかかる技術案において、スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層としては、スーパーオーステナイトステンレス鋼、例えばS31254(254SMo)、S32654(654SMo)、N08904(904L)、N08367、N08926又は他の当業者に知られるスーパーオーステナイトステンレス鋼を採用することができる。
【0024】
好ましくは、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板では、前記スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層の微細組織の主体はオーステナイトであり、微細組織中のδフェライト相の比率は5%以下であり、σ相の比率は2%以下である。
【0025】
さらに、好ましくは、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板では、前記スーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層の表面から0.5〜1.0mmの範囲内におけるσ相の比率が0.2%以下である。
【0026】
さらに、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板では、前記基層の微細組織はベイナイト、又はベイナイト+少量のマルテンサイト、又はベイナイト+少量の島状マルテンサイト(M−A島)である。
【0027】
さらに、基層の微細組織がベイナイト+少量のマルテンサイトである場合、マルテンサイト相の比率が5%以下である;基層の微細組織がベイナイト+少量の島状マルテンサイト(M−A島)である場合、島状マルテンサイト(M−A島)相の比率が5%以下である。
【0028】
さらに、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板では、基層とスーパーオーステナイトステンレス鋼のクラッド層の接合部に遷移層を有し、前記遷移層の厚さが100μm以下である。
【0029】
さらに、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板は、その基層の降伏強度が345MPa以上であり、引張強度が460MPa以上であり、伸び率が20%以上であり、−20℃でのシャルピー衝撃値Akvが100J以上であり、−40℃でのシャルピー衝撃値Akvが47J以上であり、スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の剪断強度が365MPa以上である。
【0030】
本発明の他の目的は上記スーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板を製造するための製造方法を提供することであり、該製造方法を採用して強度の高いスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板を得ることができる。
【0031】
上記発明の目的を達成するために、本発明はさらに上記スーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板の製造方法を提供し、以下の工程を含む。
【0032】
(1)基板スラブ及びクラッド層用ステンレス鋼スラブを製造する工程;
【0033】
(2)中間の二層としてクラッド層用ステンレス鋼スラブを用い、外側の層として基板スラブを用い、前記の二層のクラッド層用ステンレス鋼スラブの間に分離剤層を敷設し、少なくとも二層のクラッド層用ステンレス鋼スラブと少なくとも二層の基板スラブとを溶接してなる複合スラブを形成することにより、基板スラブとクラッド層用スラブをアッセンブリする工程;
【0034】
(3)得られた複合スラブを1140〜1200℃の温度で加熱した後、仕上げ圧延温度が1000℃以上の条件下で、基板スラブとクラッド層用スラブのオーステナイトの再結晶領域において多パス圧延を行う接合圧延工程;
【0035】
(4)接合圧延後に直ちに水冷し、水冷の開始温度を940℃以上とし、最終温度を430〜550℃とし、冷却速度を10〜100℃/sとする工程;
【0036】
(5)複合板を加熱矯正し、次に枚葉状態で室温まで空冷した後、冷間矯正する工程。
【0037】
本発明は、クラッド層用スラブとしてスーパーオーステナイトステンレス鋼を使用して、基板スラブとペアリングし、クラッド層用スラブと基板スラブを接合して形成された複合スラブに合理的な加熱、圧延及び冷却プロセスパラメータの設計を行い、総合性能に優れたスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板を得た。
【0038】
基板スラブとクラッド層用スラブとをアッセンブリする前に、基板スラブとクラッド層用スラブとのそれぞれの接合されるスラブ表面を前処理することにより、接合される表面の酸化物を除去し、それにより接合効果を向上させる。また、二層のクラッド層用スラブの分離界面に一層の分離剤層を敷設し、圧延した後に二枚の複合鋼板をスムーズに分離するために用いられる。
【0039】
クラッド層に均一なオーステナイト化組織を得るために、複合スラブの接合圧延の加熱温度は1140〜1200℃であり、この温度範囲内でσ相及び炭化物を完全に溶解させることができ、同時に基層中の合金元素の化合物を十分に溶解させることもできる。
【0040】
クラッド層中のオーステナイト再結晶粒を残留させ、σ相又は炭化物を析出させないために、接合圧延を完了した後に直ちに水冷を行う必要があり、水冷冷却方式は当業者に知られる方式、例えばDQ、ACC又はDQ+ACCを採用することができる。冷却速度を10〜100℃/sに制御することにより、基層オーステナイト結晶粒が急速冷却を経て、またその後の変態過程でベイナイト組織を取得し、結晶粒が微細化される。
【0041】
さらに、本発明にかかる製造方法では、前記工程(4)において、水冷の冷却最終温度は430〜470℃である。
【0042】
さらに、本発明にかかる製造方法では、前記工程(3)において、仕上げ圧延温度は1020〜1060℃である。
【発明の効果】
【0043】
本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板は成分設計及びプロセスパラメータを最適化することにより、得られたスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板は、基層の降伏強度が345MPa以上であり、引張強度が460MPa以上であり、伸び率が20%以上であり、−20℃でのシャルピー衝撃値Akvが100J以上であり、−40℃でのシャルピー衝撃値Akvが47J以上であり、スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の剪断強度が365MPa以上である。
【0044】
また、本発明にかかる製造方法は基板スラブとクラッド層用スラブとを接合圧延を行うことにより、複合鋼板は優れた力学的特性を有するだけでなく、スーパーオーステナイトステンレス鋼の優れた耐食性も有する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は実施例2のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層の微細組織の写真である。
【0046】
図2図2は実施例2のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板のクラッド層の微細組織の写真である。
【0047】
図3図3は実施例2のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層とクラッド層の間の遷移層の微細組織の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に具体的な実施例を参照しながら、本発明にかかるスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板及びその製造方法について更に解釈・説明するが、該解釈及び説明は、本発明の技術案を不当に限定するものではない。
【0049】
実施例1〜10
【0050】
表1は実施例1〜10のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の各スラブ層の化学元素の質量%を示す。
【0051】
表1.(wt%、残部がFe及びP、S以外のその他の不可避免的不純物である。)
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1〜10のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の製造方法は以下の工程で製造される(各実施例における具体的なプロセスパラメータは表2に示す。)。
【0054】
(1)基板スラブ及びクラッド層用ステンレス鋼スラブを製造する工程;
【0055】
(2)中間の二層としてクラッド層用ステンレス鋼スラブを用い、外側の層として基板スラブを用い、前記の二層のクラッド層用ステンレス鋼スラブの間に分離剤層を敷設し、少なくとも二層のクラッド層用ステンレス鋼スラブと少なくとも二層の基板スラブとを溶接してなる複合スラブを形成することにより、基板スラブとクラッド層用スラブをアッセンブリする工程;
【0056】
(3)得られた複合スラブを1140〜1200℃の温度で加熱した後、仕上げ圧延温度が1000℃以上の条件下で、基板スラブと複合クラッド層用スラブのオーステナイトの再結晶領域において多パス圧延を行い、仕上げ圧延温度を1000℃以上とする接合圧延接合工程;
【0057】
(4)接合圧延を完了した後に直ちに水冷し、水冷の開始温度を940℃以上とし、最終温度を430〜550℃とし、冷却速度を10〜100℃/sとする工程;
【0058】
(5)複合板を加熱矯正し、次に枚葉状態で室温まで空冷した後、冷間矯正する工程。
【0059】
なお、最終的に、基板スラブは各実施例のスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板の基層を形成し、クラッド層ステンレス鋼スラブは各実施例のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板のクラッド層を形成する。
【0060】
表2は実施例1〜10のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の製造方法の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0061】
表2.
【0062】
【表2】
【0063】
表3は実施例1〜10のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の力学的特性試験結果及び各層の微細組織を示す。
【0064】
表3.
【0065】
【表3】
【0066】
表3から分かるように、実施例1〜10のスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板は、その基層の降伏強度が355MPa以上であり、引張強度が460MPa以上であり、伸び率が20%以上であり、−20℃でのシャルピー衝撃値Akvが100J以上であり、−40℃でのシャルピー衝撃値Akvが47J以上であり、スーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の剪断強度が365MPa以上であり、これにより各実施例の力学的性質が良好であることが説明された。また、各実施例のスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板は、冷間曲げ試験の結果として、冷間曲げ及び成形性に優れていたことを合格とした。
【0067】
また、実施例2のスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板に対してそのクラッド層を剥離し、サンプリングして6%の塩化第二鉄浸食試験を行い、試験方法はGB/T17897−1999に基づき、スポット腐食試験結果を表4に示す。
【0068】
表4.
【0069】
【表4】
【0070】
また、実施例2−3のスーパーオーステナイトステンレス圧延複合鋼板に対してそのクラッド層を剥離し、サンプリングして硫酸−硫酸銅腐食試験を行い、試験方法はGB/T4334−2008に従い、粒間腐食試験結果を表5に示す。
【0071】
表5.
【0072】
【表5】
【0073】
表4及び表5から分かるように、試験された実施例のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板は接合された後のクラッド層の耐食性が良好であった。
【0074】
図1は実施例2のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層の微細組織の写真である。図1から明らかなように、実施例2の基層微細組織はベイナイトであった。
【0075】
図2は実施例2のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板のクラッド層の微細組織の写真である。図2から分かるように、実施例2のクラッド層の微細組織はオーステナイトであった。
【0076】
図3は実施例2のスーパーオーステナイトステンレス鋼圧延複合鋼板の基層とクラッド層の間の遷移層の微細組織の写真である。図3から分かるように、遷移層は基層とクラッド層の接合部に位置し、遷移層の厚さが100μm以下であった。
【0077】
本発明は、上記した実施例に限定されるものではないことは明らかであり、これに伴う多くの同様の変更ができる。当業者が、本発明の開示から直接導くまたは想到できる全ての変形はいずれも本発明の保護範囲内に含まれるものである。
図1
図2
図3