【実施例1】
【0016】
本発明の第1の実施例にかかる光学装置を
図1〜
図9を参照して説明する。本実施例にかかる光学装置1は、
図1に示したように、光源2と、コリメートレンズ3と、ビームスプリッタ4と、MEMSミラー5と、投受光レンズ6と、回折格子7と、集光レンズ8と、ラインセンサ9と、制御部10と、を備えている。
【0017】
出射部としての光源2は、例えばレーザダイオードで構成されている。光源2は、所定の波長のレーザ光をパルス状に発光(出射)する。
【0018】
コリメートレンズ3は、光源2から出射されたレーザ光を平行光束にする。ビームスプリッタ4は、コリメートレンズ3で平行光にされたレーザ光をMEMSミラー5へ出力し、MEMSミラー5で反射された後述する入射光を回折格子7へ向けて反射する。
【0019】
MEMSミラー5は、ビームスプリッタ4から出射したレーザ光を対象物100が存在する領域へ向けて水平方向および垂直方向に走査する。また、MEMSミラー5は、対象物100で反射した光が投受光レンズ6に入射した入射光をビームスプリッタ4へ反射する。MEMSミラー5は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により構成されたミラーであり、ミラーと一体的に形成されたアクチュエータ(図示しない)によって駆動される。また、MEMSミラー5はガルバノミラーやポリゴンミラーなど他のビーム偏向手段でもよい。
【0020】
投受光レンズ6は、MEMSミラー5で反射されたレーザ光を対象物100が存在する領域へ照射(投光)する。また、投受光レンズ6には、対象物100で反射したレーザ光である反射光及び太陽光などの環境光(太陽光が対象物100で反射した光を含む)が入射光として入射(受光)する。
【0021】
光学素子としての回折格子7は、ビームスプリッタ4から入射した入射光を、その入射光の有する波長成分に応じた回折角でラインセンサ9へ回折する。なお、本実施例では、反射型の回折格子で説明するが、透過型の回折格子であってもよい。つまり、光の波長に応じて光を分光する構成を有している。
【0022】
集光レンズ8は、回折格子7とラインセンサ9との間に設けられ、回折格子7で回折された入射光をラインセンサ9へ集光する。
【0023】
受光部としてのラインセンサ9は、回折格子7に入射した光が回折される方向(分光される方向)に沿って複数の受光素子が1列に並んで形成された受光センサである。これらの複数の受光素子の各々は、回折格子7で回折された入射光のうち、波長成分に応じた光を、それぞれ受光することになる。ラインセンサ9の各受光素子は、受光した光の強度(受光強度)に応じた信号を制御部10に出力する。また、ラインセンサ9は、例えば受光素子としてアバランシェフォトダイオード(APD)により構成することができる。
【0024】
検出手段としての制御部10は、ラインセンサ9の各受光素子の受光強度を示す信号に基づいて光源2から出射したレーザ光の反射光を検出する。
【0025】
次に、上述した構成の光学装置1における動作について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は出射時(投光系)の動作の説明図である。
【0026】
まず、光源2から出射したレーザ光はコリメートレンズ3で平行光束とされた後、ビームスプリッタ4を経てMEMSミラー5に入射する。そして、MEMSミラー5で反射したレーザ光は投受光レンズ6により光学装置1の外部に向けてパルス状に照射される。このとき、各々の照射のタイミング毎にMEMSミラー5の角度を変化させることにより対象物100が存在する領域に向けて照射されるビームスポットの位置を時間的に変化させることができ、水平方向および垂直方向の走査が行われる。
【0027】
図3は、入射時(受光系)の動作である。対象物100で反射(散乱)したレーザ光は、投受光レンズ6で受光された後、投光時とは逆の光路をたどり、MEMSミラー5で反射され、ビームスプリッタ4で反射されて、回折格子7へと入射する。回折格子7は溝のピッチと入射光の波長に応じて回折角が決まる。本実施例ではレーザ光を使用しており回折格子7に入射する光の波長は単一であるので、そのレーザ光の波長で定まる所定の方向へと回折した後、集光レンズ8によりラインセンサ9上にある所定の受光素子に集光する。
【0028】
このとき、投受光レンズ6に入射する光は光源2から発したレーザ光の反射光だけではない。太陽光や街灯の光など対象物100を照明するあらゆる光や、それらの光が対象物100で反射した光が投受光レンズ6に入射し、MEMSミラー5を介して回折格子7に入射する。太陽光などの環境光は様々な波長を含む光であり、回折格子7により様々な方向に回折し、含まれる波長範囲に応じてラインセンサ9上の複数の受光素子へと入射する。即ち、ラインセンサ9(受光部)は、光源2(出射部)からの出射光が対象物100で反射した反射光及び環境光の両方を受光する。しかし、投受光レンズ6に入射してきた環境光は、対象物100との距離の測定には不要な光であり、除外することが望ましい。制御部10では、ラインセンサ9の複数の受光素子のうち、レーザ光の反射光が入射した受光素子の情報だけを使用し、その他の受光素子の情報を使用しないことで、ラインセンサ9へ入射してくる光からほとんどの環境光を除去することが可能となる(詳細は後述する)。
【0029】
回折格子7の作用について
図4及び
図5を参照して詳細に説明する。溝間隔pの回折格子7に波長λ
0の単色光を角度θ
1の方向から入射させた時の回折角θ
2は、次の(1)式で表される。
【数1】
【0030】
図4のように、回折格子7は、単色光(レーザ光)を入射させる状況では特定の方向θ
2のみに回折させる。なお以降において、特に断らない限り回折光は、+1次の回折光を意味することとする。また、本実施例では、回折格子として鋸歯状の溝形状を有するブレーズド回折格子を使用する。ブレーズド回折格子により+1次光の回折効率を理論上100%とすることが出来るため、ブレーズド回折格子の使用が望ましい。一方、
図5のように、λ
1〜λ
2の波長範囲を有する光を同じ回折格子7に入射させた場合、波長成分ごとに異なる方向へ回折する。即ち、回折格子7(光学素子)には、レーザ光の反射光及び環境光が入射光として入射する。当該入射光には様々な波長の光が含まれており、その光を波長に応じて複数の受光素子のうちいずれかの受光素子に導いている。つまり、回折格子7は、入射光に含まれる成分に応じた受光部上の位置に導いている。
【0031】
次に、集光レンズ8の作用について説明する。レーザ光であっても、実際は所定の幅のビームであるので、本実施例では、回折格子7で回折した回折光をラインセンサ9に集光するために集光レンズ8を設けている。集光レンズ8の焦点距離をfとすると、回折格子7から集光レンズ8までの距離と集光レンズ8からラインセンサ9までの距離が共に焦点距離fとなる位置に配置することにより(
図6及び
図7参照)、所定の回折角で受光素子の並んでいる方向に回折した回折光はラインセンサ9上のいずれかの受光素子に集光する。入射光が単色光(レーザ光)の場合にはラインセンサ9上の特定の受光素子のみに入射し(
図6)、ある波長範囲を持つ入射光の場合には複数の受光素子に入射する(
図7)。つまり、回折光のうち、光源2から出射されたレーザ光の反射光はラインセンサ9上の特定の受光素子のみに入射し、環境光は含まれる波長成分に応じた複数の受光素子に入射する。
【0032】
この焦点距離fは、使用するラインセンサ9の大きさ、受光素子数に応じて適切な波長分解能となるように設定すればよい。
【0033】
次に、ラインセンサ9で受光した結果に基づいて、制御部10がレーザ光(反射光)を検出する方法について
図8及び
図9を参照して説明する。前述のとおり、ラインセンサ9は、回折格子7に入射した光が回折される方向に沿って複数の受光素子が1列に並んで形成された受光センサである。従って、レーザ光(反射光)と環境光が同時に回折格子7を介してラインセンサ9に入射した場合、ラインセンサ9上の各受光素子の受光量は、例えば
図8のようになる。
図8の横軸は波長、つまりラインセンサの受光素子の位置、縦軸は受光量である。つまり、
図8は受光部上における受光強度の分布となる。レーザ光は相応の強度をもって照射されているため、
図8において、特に高い受光量を示している受光素子は環境光だけでなくレーザ光も入射している受光素子といえる。したがって、このような高い受光量を示している受光素子を特定することで、ラインセンサ9が受光する光の中からレーザ光の反射光の受光による信号と特定して検出することができる。
【0034】
また、光源2の温度変化によるレーザ光の波長の変動があった場合や個体バラツキによりレーザ光の波長が想定されたものと相違する場合でも、
図9のように、高い受光量を示す受光素子を検出することで、容易にレーザ光を検出することができる。つまり、ラインセンサ9は、光源2の温度変化や個体バラツキによるレーザ光の波長の変動により、回折格子7よって回折するレーザ光の回折角の変化の範囲をカバーできる程度の数の受光素子が並んでいる。
【0035】
本実施例によれば、光学装置1は、光源2から出射されたレーザ光が対象物100で反射した反射光及び環境光を受光する複数の受光素子を有するラインセンサ9と、反射光及び環境光が入射光として入射し、当該入射光の波長に応じて複数の受光素子のうちいずれかの受光素子に導く回折格子7と、を有している。そして、ラインセンサ9は、光源2から出射されたレーザ光の波長を含む所定範囲の波長が受光可能となっている。このようにすることにより、光源2の温度変動によるレーザ光の波長の変動があった場合や個体バラツキにより出射光想定されたものと相違する場合でも、回折格子7によって、反射光をその波長に応じた複数の受光素子のいずれかに導くことができる。したがって、反射光を確実に受光することが出来る。
【0036】
また、回折格子7とラインセンサ9との間に集光レンズ8が設けられている。このようにすることにより、ラインセンサ9の受光素子の大きさ等の特性に応じて適切な波長分解能となるように、入射光の焦点距離を調節することが可能となる。
【0037】
また、ラインセンサ9の複数の受光素子の各々は、受光した光の受光強度に応じた信号を出力し、制御部10が、それらの受光強度が最大であることを示す信号を出力した受光素子を特定している。このようにすることにより、受光強度が最大である受光素子を特定することで、光源2が出射した出射光を検出することが容易にできる。
【0038】
また、本光学装置は対象物までの距離を測定に用いることができる。すなわち、本光学装置を搭載した距離測定装置のCPU等により、光源がレーザ光を出射してから対象物100で反射した反射光として受光素子に受光されるまでの時間を測定することで、光学装置から対象物までの距離を測定することができる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明の第2の実施例にかかる光学装置を
図10及び
図11を参照して説明する。なお、前述した第1の実施例と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
本実施例にかかる光学装置1Aは、
図11に示したように、光源2と、レンズ11と、シリンドリカルレンズ12と、レンズ14と、ビームスプリッタ4と、MEMSミラー15と、投受光レンズ6と、回折格子7と、集光レンズ8と、受光センサ16と、制御部10と、を備えている。
【0041】
光源2、ビームスプリッタ4、投受光レンズ6、回折格子7、集光レンズ8は、第1の実施例と同様である。なお、回折格子7は、後述するラインビームの伸長方向と直交する方向に入射光を回折するように配置されている。
【0042】
伸長手段としてのレンズ11及びシリンドリカルレンズ12は、光源2から出射されたレーザ光を点状から強度分布が均一な線状の光(即ち、光束断面が帯状の光であるラインビーム)にしている。つまり、レンズ11及びシリンドリカルレンズ12は、出射光を所定の方向に伸長させている。符号13は、前記したラインビームの中間像(線像)である。レンズ14は、ラインビームのビームススプリッタ4への結像用のレンズである。
【0043】
MEMSミラー15は、本実施例では、シリンドリカルレンズ12から出射したラインビームの伸長方向と直交する方向のみに走査する1軸のミラーである。
【0044】
受光センサ16は、本実施例では、受光素子がマトリクス状(二次元状)に配置された二次元の受光部となっている。即ち、受光センサ16は、回折格子7(光学素子)が入射光の波長に応じて分光される方向(第一の方向)だけでなく、その方向と直交する方向(第二の方向)にも受光素子が設けられている。
【0045】
図11に受光センサ16の概略構成を示す。
図11に示したように、受光センサ16は、受光素子16aがマトリクス状(二次元状)に配置されている。
図11の例では、縦方向がラインビームの伸長方向に対応した素子、横方向が回折格子で回折される光に各々に対応する素子となる。
【0046】
本実施例の光学装置1Aは、対象物100が存在する領域に向けてラインビームを投射し、そのラインビームにより1軸方向(
図11では水平方向)に走査することでビームスポットの位置を時間的に変化させることができる。そして、光をラインビームの伸長方向と直交する方向に回折させる回折格子7を介して、ラインビームの反射光と環境光を、受光センサ16で受光する。受光センサ16には受光素子が二次元状に配置されており、波長に応じた光を受光できるように構成されていることにより、各々の受光素子からラインビームの反射光及び環境光に含まれている波長情報を同時に得ている。
【0047】
投光系では、レンズ11とシリンドリカルレンズ12によりライン状の中間像13を生成し、それをレンズ14と投受光レンズ6により対象物100が存在する領域に向けてラインビームを照射している。
【0048】
受光系では、対象物100が存在する領域に向けて照射されたラインビームの反射光は回折格子7において、ラインビームの波長で定まる所定の方向へと回折した後、集光レンズ8によりラインセンサ9上にあるいずれかの受光素子に集光するように構成されている。回折格子7は、入射光を波長に応じてラインビームを当該ラインビームの伸長方向と直交する方向に回折させる。光源2から出射したレーザ光は単一の波長を持つ光であるので、回折格子7により特定の方向のみに回折し、受光センサ16上では特定の列に集光する。一方、ラインビームの反射光と同時に受光する環境光には様々な波長成分が含まれるので、その波長成分に応じて回折格子7で回折された光が、その光の波長に応じて受光センサ16を構成する受光素子の各々で受光される。制御部10は、受光強度の高い受光素子の列を特定することにより、受光センサ16が受光した光の中から、ラインビームの反射光が入射した受光素子の情報だけを使用し、レーザ光と波長の異なる環境光成分を除去することができる。
【0049】
本実施例によれば、受光センサ16は、ラインビームが入射光の波長に応じて回折格子7で回折される方向と直交する方向にも受光素子16aが設けられている。このようにすることにより、出射光が点ではなくラインビームであった場合に、ラインビームの反射光を検出することが可能となる。
【0050】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の光学装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。