特許第6857736号(P6857736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジーの特許一覧

<>
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000003
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000004
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000005
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000006
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000007
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000008
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000009
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000010
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000011
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000012
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000013
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000014
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000015
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000016
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000017
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000018
  • 特許6857736-新規なエクソソーム系抗癌剤 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857736
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】新規なエクソソーム系抗癌剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20210405BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20210405BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20210405BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20210405BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20210405BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20210405BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210405BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C12N5/10ZNA
   C12N15/62 Z
   C07K14/705
   C07K14/47
   C07K16/28
   C07K19/00
   A61K35/12
   A61K38/17
   A61K38/02
   A61K39/395 D
   A61P35/00
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-534796(P2019-534796)
(86)(22)【出願日】2017年12月29日
(65)【公表番号】特表2020-504613(P2020-504613A)
(43)【公表日】2020年2月13日
(86)【国際出願番号】KR2017015784
(87)【国際公開番号】WO2018124835
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2019年6月25日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0182573
(32)【優先日】2016年12月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】コ,ウン−イ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ウン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユ ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,イン−サン
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/201323(WO,A1)
【文献】 特表2016−501896(JP,A)
【文献】 特表2015−504899(JP,A)
【文献】 特開2005−314284(JP,A)
【文献】 Science, 2013, Vol.341, pp.88-91
【文献】 Annu. Rev. Immunol., 2014, Vol.32, pp.25-50
【文献】 Am. J. Respir. Crit. Care Med., 2008, Vol.178, pp.158-167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SIRPまたは前記SIRPのCD47結合ドメインを含む断片、Surfactant protein A、Surfactant protein D及び抗CD47抗体からなる群から選択される貪食作用促進タンパク質がエクソソーム表面に提示された組換えエクソソーム。
【請求項2】
前記貪食作用促進タンパク質は、受容体型チロシンキナーゼの膜通過ドメインのN末端に連結された融合タンパク質である請求項1に記載の組換えエクソソーム。
【請求項3】
前記受容体型チロシンキナーゼは、PDGFR、EGFR、FGFR、VEGFR、HGFR、Trk、IR、LTK、アンジオポエチン受容体、ROR、DDR、RETR、PTK、RYK、またはMuSKである請求項2に記載の組換えエクソソーム。
【請求項4】
前記SIRPは、SIRPα、SIRPγ、またはこれらの高親和性変異体である請求項1ないし請求項3のうち何れか一項に記載の組換えエクソソーム。
【請求項5】
前記SIRPは、配列番号1〜61のうち何れか1つのアミノ酸配列で構成される請求項に記載の組換えエクソソーム。
【請求項6】
前記エクソソームは、内部に抗癌剤を含む請求項1に記載の組換えエクソソーム。
【請求項7】
前記抗癌剤は、抗癌タンパク質または抗癌化合物である請求項に記載の組換えエクソソーム。
【請求項8】
前記抗癌タンパク質は、アスパラギナーゼ、タンパク質毒素、癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片、腫瘍抑制遺伝子または抗血管生成因子である請求項に記載の組換えエクソソーム。
【請求項9】
前記抗癌化合物は、メトトレキサート、ピリミジン類似体、ヒドロキシウレア、プリン類似体、アルキル化剤、免疫原性細胞死誘導剤、有糸分裂抑制剤、新生血管抑制剤、挿入性物質または放射性核種である請求項に記載の組換えエクソソーム。
【請求項10】
前記免疫原性細胞死誘導剤は、アントラサイクリン系抗癌剤、抗EGFR抗体、BKチャネル作用剤、ボルテゾミブ、強心性配糖体+非免疫原性細胞死誘導剤、シクロホスファミド系抗癌剤、GADD34/PP1阻害剤+マイトマイシン、LV−tSMAC、Measlesウイルス、またはオキサリプラチンである請求項に記載の組換えエクソソーム。
【請求項11】
前記アントラサイクリン系抗癌剤は、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ピクサントロン、サバルビシン、またはバルビシンである請求項10に記載の組換えエクソソーム。
【請求項12】
治療的に有効な量の請求項1ないし請求項11のうち何れか一項に記載の組換えエクソソーム及び薬学的に許容可能な担体を含む抗癌用薬学的組成物。
【請求項13】
1つ以上の抗癌剤をさらに含む請求項12に記載の抗癌用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗癌剤に係り、より具体的には、癌細胞の食細胞作用を増加させる新規なエクソソーム系抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍(tumor)は、生存・増殖のために、兔疫細胞の表面から発見される受容体と相互作用する活性化及び抑制リガンドを発現することにより、免疫監視(immune surveillance)を避ける。腫瘍と免疫細胞との間のこのような相互作用は、免疫系(immune system)によって腫瘍の死滅を防止する(Pardoll DM.Nat.Rev.Cancer.12:252−64、2012)。腫瘍免疫回避のメカニズムの1つは、腫瘍が先天性免疫監視を避けるようにするCD47の過発現でCD47が大食細胞のような先天性免疫細胞の信号調節タンパク質α(SIRPα)と結合すれば、樹状細胞は、「私を食べないでください」という信号を活性化させて、腫瘍が食細胞作用(phagocytosis)から避けるように誘導するが、多様な悪性細胞から豊かなCD47が発現されて、癌患者の生存率が低くなるので、CD47−SIRPα相互作用の治療標的化のための強力な根拠を提示する。SIRPαのN末端が、CD47のN末端と相互作用する免疫グロブリンスーパーファミリーV−類似ドメインを含むために、いくつかの競争的拮抗剤が、これらの相互作用を遮断するために開発されたが、ヒトCD47遮断単一クローン抗体(CD47mAb)は、多様な前臨床腫瘍モデルで効能を立証し、免疫原性腫瘍のT細胞媒介の破壊(destruction)を誘発した(Tseng D,et al.Proc Natl Acad Sci USA.110:11103−8.2013)。また、CD47−SIRPα相互作用は、組換えSIRPαタンパク質やSIRPα−FC融合タンパク質と共に拮抗効果を示すことができるが、天然CD47とSIRPαとの間の弱い相互作用が治療拮抗剤として野生型SIRPαタンパク質の有用性を制限することができるということを勘案する時、SIRPαの高親和性(high−affinity)変異体が生成されて、癌細胞でCD47を拮抗すると表われた。しかし、SIRPα変異体のみで腫瘍特異的抗体に対する補助剤(adjuvants)として作用したが、期待以上に大食細胞の食細胞作用と腫瘍成長抑制を刺激しなかった(Sockolosky JT et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、113:E2646−E54、2016)。これと関連して、米国公開特許第2015−0376288号は、宿主食細胞(host phagocytic cell)上の感染された細胞でSIRPαでCD47の結合を減少させる薬剤を投与して、病原体感染を治療する治療方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記先行技術の場合、感染性疾患治療のために、抗CD47製剤を投与してSIRPαの結合を減少させるので、抗癌治療のための治療剤としては不適である。
【0004】
本発明は、前記問題点を含んだ多様な問題点を解決するためのものであって、大食細胞と樹状細胞との食細胞作用を増加させて、癌細胞を除去する抗癌治療に効果的な新規なエクソソーム系抗癌剤を提供することを目的とする。しかし、このような課題は、例示的なものであって、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によれば、貪食作用促進タンパク質がエクソソーム(exosome)表面に提示された組換えエクソソームが提供される。
【0006】
本発明の他の一観点によれば、治療的に有効な量の前記組換えエクソソーム及び薬学的に許容可能な担体を含む抗癌用薬学的組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
前記のようになされた本発明の一実施例によれば、大食細胞と樹状細胞との癌細胞貪食能を向上させて、抗癌免疫効果が増加した効果的なエクソソーム系抗癌剤の生産効果を具現することができる。特に、本発明の一実施例によるSiRPが表面に提示された組換えエクソソームは、前記SiRPがエクソソーム表面に脂質ラフト(lipid raft)の形態でクラスタリングされることにより、同様に癌細胞表面に脂質ラフトの形態でクラスタリングしているCD47タンパク質に対して高い結合能(high binding avidity)を有し、結合するので、少量のエクソソームのみでも、SiRP−CD47相互作用を遮断して、抗癌免疫反応をより効率的に刺激可能にする。もちろん、このような効果によって、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例によってSIRPα変異体(SIRPα−エクソソーム)を発現するプラズマDNAの構造を概略的に示す概要図である。
図2】本発明の一実施例によって製造された組換えエクソソーム(SIRPα−エクソソーム)の発現を確認したウェスタンブロットゲル写真(A)であり、流細胞分析(flow cytometry)を通じてエクソソーム表面のSIRPαの発現を分析したグラフ(B)であり、SIRPα−エクソソームのイメージを示す電子顕微鏡写真(C)である。
図3】本発明の一実施例によって製造したSIRPα−エクソソームのサイズを動的光散乱(DLS)法で分析したグラフ(A)であり、SIRPα−エクソソームの透過電子顕微鏡写真(B)であり、流細胞分析グラフ(C)であり、動的光散乱(DLS)分析グラフ(D)である。
図4】本発明の一実施例によって精製された組換えSIRPα−Myc単量体タンパク質(mSIRPα)の発現を分析したウェスタンブロットゲル写真(A)であり、組換えSIRPα−エクソソームのSIRPαの量を定量したグラフ(B)である。
図5】本発明の一実施例によって細胞結合分析を通じてHT29(A)、Raji(B)及びCT26.CL25細胞(C)表面でCD47の発現を確認したグラフである。
図6】本発明の一実施例によって組換えSIRPαのCD47結合能を分析したものであって、HT29細胞の蛍光強度を分析したグラフ(A)であり、流細胞分析を行ったグラフ(B)であり、Raji及びCT26.CL25細胞の蛍光強度を分析したグラフ(C)である。
図7】本発明の一実施例によってHT29細胞で組換えSIRPαの効果的な結合を示す蛍光顕微鏡写真である。
図8】本発明の一実施例によって骨髄由来大食細胞(BMDMs)による食細胞作用を分析したものであって、骨髄由来大食細胞の分化を分析したグラフ(A)であり、骨髄由来大食細胞(BMDMs)によるHT29細胞の食細胞作用を分析したFACSデータ(B)である。
図9】本発明の一実施例によってSIRPα−エクソソームによって食細胞作用が増加したことを分析したグラフ(A)であり、骨髄由来大食細胞(BMDMs)によってRaji及びCT26.CL25細胞の食細胞作用を分析したグラフ(B)であり、食細胞作用指数(PI)を示しているグラフ(C)であり、骨髄由来大食細胞(BMDMs)によってHT29細胞の形状を示している蛍光顕微鏡写真(D)である。
図10】本発明の一実施例によって腫瘍保有免疫欠乏マウスでSIRPα−エクソソームを腫瘍に処理して抗腫瘍効果を観察したものであって、腫瘍の成長(A)、腫瘍の重量(B)を分析したグラフであり、切開された腫瘍のイメージ(C)を示す写真である。
図11】本発明の一実施例によってSIRPα−エクソソームの抗腫瘍効果を分析したものであって、HT29腫瘍保有マウスでCy5.5標職されたエクソソームの生体分布を分析した写真(A)であり、SIRPα−エクソソームを注入後、24時間経過時点で腫瘍の蛍光イメージ(B)であり、腫瘍の平均放射効率の変化を示す写真(C)である。
図12】本発明の一実施例によってマウスにCy5.5標職されたエクソソームを注射した後、臓器別に分析したIVISイメージである。
図13】本発明の一実施例によって免疫欠乏(immuno−deficient)及び免疫感応(immunocompetent)マウスを用いてSIRPα−エクソソームの抗腫瘍効果を観察したものであって、HT29腫瘍保有BALB/c免疫欠乏マウスにSIRPα−エクソソームを注入して腫瘍成長抑制を分析したグラフ(A)及び前記免疫欠乏マウスモデルから切開された腫瘍の重量を分析したグラフ(B)、CT26.CL25腫瘍保有免疫感応BALB/cマウスの腫瘍成長において、SIRPα−エクソソームの注入による抗腫瘍効果を分析したグラフ(C)及び前記CT26.CL25腫瘍保有免疫感応マウスモデルから切開された腫瘍の重量を分析したグラフ(D)である。
図14】本発明の一実施例によってSIRPα−エクソソームの抗腫瘍効果を分析したものであって、HT29マウスモデルから切開された腫瘍を形状を示している写真(A)であり、CT26.CL25腫瘍保有マウスモデルから切開された腫瘍の形状を示している写真(B)である。
図15】本発明の一実施例によって単量体SIRPαタンパク質の効果を分析したものであって、単量体SIRPαタンパク質がCD47に結合する程度を分析したグラフ(A)であり、HT29細胞で単量体SIRPα媒介食細胞作用を分析したグラフ(B)であり、Raji及びCT26.CL25細胞で単量体SIRPα媒介食細胞作用を分析したグラフ(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[用語の定義]
本明細書で使われる用語「エクソソーム」は、ヒト細胞から分泌される2層の膜からなる小さな小体であって、これらは、凝固、細胞間の信号伝達及び細胞の「廃棄物管理」のような専門機能を行い、疾病特異的核酸とタンパク質とを形成し、体液として放出されるものと知られている。
【0010】
本明細書で使われる用語「SIRP(signal−regulatred protein)」は、骨髄細胞から主に発現され、そして、幹細胞または神経細胞から発現されるSIRP族タンパク質のうち、調節性膜糖タンパク質である。前記SIRPには、SIRPα、SIRPβ、SIRPγ及びSIRPδの4種が知られているが、これらのうち、SIRPα及びSIRPγは、抑制性受容体として作用し、広範囲に発現される膜貫通タンパク質であるCD47タンパク質と相互作用するが、これは、いわゆる「私を食べないで(don’t eat me)」信号と呼ばれる。このような相互作用は、宿主細胞貪食作用のような先天的兔疫細胞の効果器作用を陰性的に調節する。これは、Ig−類似またはLy49受容体を経由したMHC I系分子によって提供される自己信号と類似している。CD47を過発現する癌細胞は、SIRPαまたはSIRPγを活性化させて、大食細胞−媒介破壊を抑制する。最近の研究によれば、SIRPαの高親和性変異体が癌細胞上でCD47をマスキングして、癌細胞に対する貪食作用を増加させるという報告がある(Weiskopf et al.,Science 341(6141):88−91,2013)。
【0011】
本明細書で使われる用語「受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase、RTK)」は、細胞の増殖、分化、癌化、形態形成などに関与する重要なタンパク質群であって、例えば、上皮増殖因子受容体、神経生長因子受容体、インスリン受容体、造血管細胞増殖因子受容体など多数がある。受容体は、これら増殖及び分子因子と細胞外で結合する時にのみ細胞内チロシンリン酸化酵素を活性化して、信号を伝達する。
【0012】
本明細書で使われる用語「CD−47結合ドメイン(rCD−47 binding domain)」は、CD47と結合するN末端ドメインであって、N末端の112a.aまでにCD47と結合することができるドメインを意味する。
【0013】
[発明の詳細な説明]
本発明の一観点によれば、貪食作用促進タンパク質がエクソソーム表面に提示された組換えエクソソームが提供される。
【0014】
前記組換えエクソソームにおいて、前記貪食作用促進タンパク質は、受容体型チロシンキナーゼの膜通過ドメインのN末端に連結された融合タンパク質であり、前記受容体型チロシンキナーゼは、PDGFR(platelet−derived growth factor receptor)、EGFR(epidermal growth factor receptor)、FGFR(fibroblast growth factor receptor)、VEGFR(vascular endothelial growth factor receptor)、HGFR(hepatocyte growth factor receptor)、Trk(tropomyosin receptor kinase)、IR(insulin receptor)、LTK(Leukocyte receptor tyrosine kinase)、アンジオポエチン受容体(angiopoietin receptor)、ROR(receptor tyrosine kinase−like orphan receptors)、DDR(discoidin domain receptor)、RETR(rearranged during transfection receptor)、PTK(tyrosine−protein kinase−like)、RYK(related to receptor tyrosine kinase)、またはMuSK(muscle−specific kinase)であり得る。
【0015】
エクソソームは、細胞によって生成される一種の天然物質であって、生体親和的な物質として免疫反応を最小化し、受容体のような細胞表面に発現される細胞膜タンパク質を細胞と同じ方向に定向させて、表面に提示することができるために、細胞表面提示タンパク質を表面に提示して表出させるのに大きな長所を有している物質である。
【0016】
前記組換えエクソソームにおいて、前記貪食作用促進タンパク質は、SIRPまたは前記SIRPのCD47結合ドメインを含む断片、Surfactant protein A、Surfactant protein Dまたは抗CD47抗体であり、前記SIRPは、SIRPα、SIRPγ、またはこれらの高親和性変異体であり得る。
【0017】
前記組換えエクソソームにおいて、前記SIRPは、配列番号1〜61のうち何れか1つのアミノ酸配列で構成され、前記エクソソームは、内部に抗癌剤を含み、前記抗癌剤は、抗癌タンパク質または抗癌化合物であり得る。特に、前記貪食作用促進タンパク質は、CD47タンパク質のクラスタリング(clustering)による信号伝達体系を遮断することができるものであって、抗CD47抗体やSiRPタンパク質であることが望ましい。特に、エクソソーム表面に提示されたSIRPは、SIRPのエクソソーム表面提示に使われたPDGFRの膜通過ドメイン(transmembrane domain)に起因してエクソソーム表面に脂質ラフトの形態でクラスタリングされることにより、同様に癌細胞表面に脂質ラフトの形態でクラスタリングしているCD47タンパク質に対して高い結合能を有し、結合することにより、少量のエクソソームのみでも、SIRP−CD47相互作用を遮断することにより、抗癌免疫反応をより効率的に刺激可能にする。前記のようなエクソソームに積載されたSiRPαの相乗作用は、本発明者によって初めて究明されたものである。
【0018】
前記組換えエクソソームにおいて、前記抗癌タンパク質は、アスパラギナーゼ(asparaginase)、タンパク質毒素、癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片、腫瘍抑制遺伝子(tumor suppressor gene)または抗血管生成因子(antiangiogenic factor)であり得る。この際、前記タンパク質毒素は、ボツリヌス毒素(Botulinum toxin)、テタヌス毒素(Tetanus toxin)、シガ毒素(Shiga toxin)、ジフテリア毒素(Diphtheria toxin、DT)、リシン(ricin)、シュードモナス外毒素(Pseudomonas exotoxin、PE)、サイトリシンA(cytolysin A、ClyA)、γ−Geloninであり、前記梗塞組織の組織治療用タンパク質は、血管生成因子であり、前記血管生成因子は、VEGF(vscular endothelial growth factor)、アンジオポエチン1(angiopoietin 1、Ang1)、アンジオポエチン2(Ang2)、形質転換成長因子−(transforming growth factor−、TGF−β)、インテグリン(integrin)、血管内皮カドヘリン(VE−cadherin)、プラスミノゲン活性剤(plasminogen activator、PA)、エフリン(ephrin)、AC−133、血小板由来成長因子(PDGF)、単球走化性タンパク質−1(MCP−1、monocyte chemotactic protein−1)、線維芽細胞成長因子(FGF)、または胎盤成長因子(placenta growth factor、PIGF)であり得る。前記腫瘍抑制遺伝子は、腫瘍の発生を抑制する遺伝子であって、代表的に、VHL(von Hippel Lindau)、APC(Adenomatous polyposis coli)、CD95(cluster of differentiation 95)、ST5(Suppression of tumorigenicity 5)、YPEL3(Yippee like 3)、ST7(Suppression of tumorigenicity 7)及びST14(Suppression of tumorigenicity 14)であり得る。
【0019】
前記組換えエクソソームにおいて、前記抗癌化合物は、メトトレキサート(methotrexate)、ピリミジン類似体(pyrimidine analogs)、ヒドロキシウレア(hydroxy urea)、プリン類似体(purine analogs)、アルキル化剤(alkylating agents)、免疫原性細胞死誘導剤、有糸分裂抑制剤(mitotic inhibitors)、新生血管抑制剤、挿入性物質(intercalating agents)または放射性核種(radionuclides)であり得る。
【0020】
前記抗癌化合物は、下記のものなどが使われる。
(i)メトトレキサート;
(ii)ピリミジン類似体
5−フルオロウラシル(5−fluorouracil)、ゲムシタビン(gemcitabine)及びアラビノシルシトシン(arabinosylcytosine);
(iii)ヒドロキシウレア;
(iv)プリン類似体
メルカプトプリン(mercaptopurine)及びチオグアニン(thioguanine);
(v)アルキル化剤
ナイトロジェンマスタード(nitrogen mustad)及びシクロスポラミド(cyclosporamide);
(vi)抗生剤(antibiotics)
アントラサイクリン(anthracycline)、ドキソルビシン(doxorubicin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、イダルビシン(idarubicin)及びアクチノマイシンD(actinomycin D);
(vii)有糸分裂抑制剤
ビンクリスチン(vincristine)及びタキソール(taxol);
(viii)抗血管生成剤
VEGFに特異的な抗体、コンブレタスタチンA4(combretastatin A4)、フマギリン(Fumagillin)、ハービマイシンA(herbimycin A)、2−メトキシエストラジオール(2−methoxyestradiol)、OGT 2115、TNP 470、トラニラスト(tranilast)、XRP44X、サリドマイド(thalidomide)、エンドスタチン(endostatin)、サルモシン(salmosin)、アンギオスタチン(angiostatin)またはプラスミノゲン(plasminogen)、またはアポリポタンパク質(apolipoprotein)のクリングルドメイン(kringle domain);
(ix)挿入性物質
カルボプラチン(carboplatin)及びシスプラチン(cisplatin);及び
(x)放射性核種
18F、90Y、188Re、32P、89Sr、165Dy、186Re、198Au、153Sm、131I、169Er、125I、99Tc及び166Hoなど。
【0021】
前記組換えエクソソームにおいて、前記免疫原性細胞死誘導剤は、アントラサイクリン系抗癌剤、抗EGFR抗体、BKチャネル作用剤、ボルテゾミブ(Bortezomib)、強心性配糖体(cardiac glycoside)+非免疫原性細胞死誘導剤、シクロホスファミド系抗癌剤、GADD34/PP1阻害剤+マイトマイシン、LV−tSMAC、Measlesウイルス、またはオキサリプラチンであり、前記アントラサイクリン系抗癌剤は、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン(epirubicin)、イダルビシン、ピクサントロン(pixantrone)、サバルビシン(sabarubicin)、またはバルビシン(valrubicin)であり得る。
【0022】
本発明の他の一観点によれば、治療的に有効な量の前記組換えエクソソーム及び薬学的に許容可能な担体を含む抗癌用薬学的組成物が提供される。
【0023】
前記抗癌用薬学的組成物において、1つ以上の抗癌剤をさらに含みうる。薬学的に許容可能な担体を含む前記組成物は、経口または非経口のさまざまな剤型であり得るが、非経口のための剤型であることが望ましい。製剤化する場合には、通常の充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。経口投与のための固型製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固型製剤は、1つ以上の化合物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロースまたはラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤の以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使われる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使われる単純希釈剤である水、流動パラフィンの以外に、さまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれうる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、座剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使われる。座剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、トウイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使われる。
【0024】
前記薬学的組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び座剤からなる群から選択される何れか1つの剤型を有しうる。
【0025】
本発明の薬学的組成物は、経口または非経口投与されうるが、非経口投与される場合、静脈内注射、鼻腔内吸入、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮吸収など多様な経路を通じて投与することが可能である。
【0026】
前記本発明の組成物は、薬学的に有効な量で投与される。
【0027】
本明細書で使われる用語「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/危険の比率で疾患の治療に十分な量を意味し、有効容量レベルは、個体の種類及び重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時使われる薬物を含んだ要素及びその他の医学分野によく知られた要素によって決定されうる。本発明の薬学的組成物は、0.1mg/kg〜1g/kgの容量で投与され、さらに望ましくは、1mg/kg〜500mg/kgの投与量で投与される。一方、前記投与量は、患者の年齢、性別及び状態によって適切に調節される。
【0028】
本発明の薬学的組成物は、個別治療剤として投与するか、他の抗癌剤と併用して投与され、従来の他の抗癌剤と順次または同時に投与される。そして、単一または多重投与される。前記要素をいずれも考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者によって容易に決定されうる。
【0029】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明は、以下で開示される実施例及び実験例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態として具現可能なものであって、以下の実施例及び実験例は、本発明の開示を完全にし、当業者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。
【実施例1】
【0030】
[プラズマDNA構築]
本発明の一実施例によって腫瘍細胞表面でCD47を遮断して食細胞作用を増加させるSIRPα変異体(SIRPα−エクソソームs)を発現するプラスミドDNAを構築した。具体的に、SIRPα変異体遺伝子は、遺伝子合成サービス(Cosmo Genetech Co.)を通じて収得し、前記SIRPα変異体(配列番号1)をエンコーディングするDNA配列(配列番号62)をpDisplayベクターで血小板由来成長因子受容体(PDGFR)のN末端の信号ペプチド及びメンブレンアンカーの間のフレームに挿入した(図1)。
【実施例2】
【0031】
[エクソソーム分離]
本発明の一実施例によってエクソソーム分離のために、HEK293T細胞(6x10)は、10% FBS、1% 抗生剤が添加された高ブドウ糖培養培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium、DMEM、4,500mg/L glucose)で培養し、37℃、5% CO条件で保持され、15cm培養皿で80〜90%の細胞飽和度(confluency)を示す時、インスリン−トランスフェリン−セレン(insulin−transferrin−selenium、Gibco)を添加した無血清DMEM培養液に取り替えた。2時間経過後、前記細胞を製造社の指針によって形質感染試薬(lipofectamine 3000、Invitrogen)を使用してSIRPα変異体をエンコーディングするプラズマDNA(20μg)で形質感染(transfection)させた。次いで、エクソソームを分離するために、形質注入48時間後、細胞培養上澄み液を分別遠心分離(differential centrifugation)方法で収得し、詳細な方法は、下記の通りである:
まず、エクソソームを含む培養液から細胞の滓と他の細胞成分とを除去するために、300gで10分、2000gで10分及び10000gで30分間順次に遠心分離を行い、前記培養液を0.22μmフィルターで濾過後、70 Ti rotor(Beckman Instruments)を用いて36,900rpmで2時間超遠心分離(ultra−centrifugation)を行った。以後、収得した組換えエクソソーム(SIRPα−エクソソーム)は、タンパク質分解酵素抑制剤(Roche)を含むPBSに再懸濁し、BCAタンパク質分析キット(Bio−Rad)を用いて、前記分離されたエクソソームのタンパク質濃度を測定した。
【実施例3】
【0032】
[組換えエクソソームの特性分析]
本発明の一実施例によって製造された組換えエクソソーム(SIRPα−エクソソーム)の品質と特徴は、下記のようにウェスタンブロット(WB)、流細胞分析、動的光散乱(DLS)及び透過電子顕微鏡(TEM)を用いて確認した。
【0033】
まず、ウェスタンブロット分析のために、前記超遠心分離された組換えエクソソームペレットは、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Protease Inhibitor Cocktail、Calbiochem)を含むRIPA緩衝液(Cell Signaling Technology)を用いて溶解し、エクソソームタンパク質同量(10μg)をSDS−PAGEで分析し、ニトロセルロース膜(membranes)で転写させた。次いで、SIRPα発現を探知するために、ブロットに抗Myc抗体(1:3000、Abcam、ab9106)及び抗HA抗体(1:500、Santa Crus、sc−805)を添加した後、4℃の条件で一晩放置し、抗Alix抗体(1:500、Santa Crus、sc−99010)、抗Tsg101抗体(1:500、Santa Crus、sc−22774)及び抗CD63抗体(1:500、Santa Crus、sc−15363)をエクソソームマーカー(exosome marker)として使用した。次いで、前記膜にHRP結合された2次抗体(1:4000、Sigma−Aldrich)を添加し、化学発光(chemiluminescence)によって視覚化された。また、エクソソーム表面のSIRPαの発現を流細胞分析を用いて分析した。まず、エクソソーム10μgを常温で2時間最終ボリューム1ml PBSで4μm アルデヒド/硫酸塩ラテックスビーズ(Invitrogen)で挿入し、次いで、0.5% BSAを添加したPBSで2回洗浄し、Alexa fluor 488標職された2次抗体(1:800、Jackson ImmunoResearch)と培養した後、4℃で1時間抗Myc抗体(1:400、Abcam、ab9106)と共に培養して、SIRPαを染色した。蛍光信号(Fluorescence signals)は、AccuriTM C6流細胞分析器(BD biosciences)及びFlowJo_V10ソフトウェア(FlowJo)を使用して分析した。
【0034】
同時に、組換えエクソソームの形態は、まず、サンプルを炭素フィルム(Electron microscopy science)が備えられた銅格子(copper grids)に位置し、酢酸ウラニル溶液を用いて陰性で染色した。SIRPαの内部発現は、免疫電子顕微鏡イメージを通じて確認し、表面SIRPαは、抗Myc抗体(1:100、Abcam、ab9106)及び金結合抗体(1:50、Aurion)を用いてキャプチャーし、透過電子顕微鏡(Tecnai)を用いて分析した。最後に、組換えエクソソームのサイズ分布は、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments,Ltd.,UK)利用した動的光散乱分析法(dynamic light scattering、DLS)を通じて分析し、エクソソームサイズは、装備から提供されたソフトウェアを用いて25℃条件で173゜の固定された角度で数比率(z−average)を通じて分析した。
【0035】
その結果、前記精製したSIRPα−エクソソームは、表面膜上にSIRPα変異体(variant)を保有しており、エクソソームマーカータンパク質を含有していることを観察した(図2)。また、透過電子顕微鏡(TEM)イメージと動的光散乱(DLS)分析結果、組換えエクソソームの平均サイズが、100nmの平均サイズを有した丸状であることを確認した(図3)。
【実施例4】
【0036】
[単量体SIRPαタンパク質の発現及び精製]
本発明の一実施例によって単量体(monomer)SIPRαタンパク質(mSIRPα)を得るために、NH2−Nde I−SIRPα変異体−Myc−Hind III−COOHをエンコーディングするプライマーを利用したPCR増幅を通じて遺伝子クローン(gene clone)を製造し、前記遺伝子クローンは、N末端ヒスチジンタグと共にSIRPαを発現するために、pET−28aプラスミドベクターで結紮した。
【0037】
以後、形質転換された細菌細胞は、37℃でO.D.600が0.5になるまでカナマイシンを含むLB培地で培養し、mSIRPαを生産するために、0.5mM イソプロピルβ−D−1−thiogalactopyranoside(IPTG)(Bioneer、大韓民国)を添加して誘導した。20℃で18時間培養した後に、前記細胞は、6000gで10分間遠心分離を通じて収得し、超音波粉砕機を用いて均一化した後、前記ペレットを溶解バッファ(1M Tris−HCl、pH8.0、150mM NaCl、1mM PMSF)に再懸濁し、Ni−NTA親和度クロマトグラフィーを通じてmSIRPαを精製し、抗Myc抗体(1:5000、Abcam、ab9106)及びHRP連結された2次抗体(1:4000、Sigma Aldrich)を利用したウェスタンブロットで分析した。
【0038】
その結果、HEK293T細胞から100μgの総タンパク質とSIRPα−エクソソーム2x10を収得し、精製された組換えSIRPα−Myc単量体タンパク質(mSIRPα)のウェスタンブロットイメージから標準曲線(standard curve)を使用してエクソソームのSIRPαの量を定量し、前記測定されたSIRPα−エクソソームの量は、1μg exosomes当たり5ng以下に確認された(図4)。前記PCR増幅に使われたプライマーについての情報を下記表1に表示した。
【0039】
【表1】
【実施例5】
【0040】
[細胞結合分析]
本発明の一実施例による細胞結合分析は、HT29ヒト結腸腺癌腫(ATCC)、RajiヒトB細胞リンパ腫(ATCC)及びCT26.CL25マウス結腸癌(ATCC)細胞を10% FBS及び1% 抗生剤を添加したRPMI−1640培養培地で培養し、37℃及び5% CO条件で保持した。次いで、HT29及びRaji細胞は、抗ヒトCD47抗体[B6H12.2](Abcam、ab3283)を添加して培養し、癌細胞表面でCD47発現を探知するために、CT26.CL25細胞は、抗マウスCD47抗体(Santa Crus、sc−12731)を添加して培養した。細胞結合分析のために、HT29、Raji及びCT26.CL25細胞(1x10)は、PBS、エクソソームまたはmSIRPαを添加して4℃で30分間培養した。次いで、前記細胞は、抗Myc抗体(1:400、Abcam、ab9106)を添加して培養し、Alexa fluor488結合された2次抗体(1:800、Jackson ImmunoResearch)を添加して探知した。引き続き、前記細胞は、AccuriTM C6流細胞分析器(BD Biosciences)を用いて測定し、FlowJo_V10ソフトウェア(FlowJo)を用いて分析した。SIRPα−エクソソームのCD47に対する結合特異性は、抗ヒトCD47抗体(1:100、Abcam、ab3283)を添加した細胞を前培養する方法を通じるブロック実験で分析した。
【0041】
また、蛍光顕微鏡分析のために、HT29細胞(2x10)は、前述したように、ガラス底4ウェルチャンバに播種し、抗Myc抗体(1:400、Abcam、ab9106)及びAlexa fluor 488結合された2次抗体(1:800、Jackson ImmunoResearch)を添加して培養した。残留非特異性信号(non−specific signals)の除去後に、前記細胞は、Hoechst 33258を用いて25℃で10分間核染色した後に、4% パラホルムアルデヒドを用いて7分間固定した。エクソソームの細胞結合能は、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse Ti、Nikon)で観察し、LAS AF Liteソフトウェア(Leica)を用いて分析した。
【0042】
その結果、腫瘍細胞をエクソソームと共に培養して、CD47+ヒト腫瘍細胞株で細胞表面CD47を拮抗するSIRPα−エクソソームの能力を確認した(図5)。また、SIRPα−エクソソームは、効果がSIRPα−エクソソーム濃度依存的に確認された対照群のエクソソームと比較して、HT29腫瘍細胞表面の結合でさらに高いCD47に対する親和力を示した。SIRPα−エクソソームの結合は、抗ヒトCD47抗体との事前培養によって減少して、SIRPα−エクソソームが腫瘍細胞表面のCD47に特異的に結合するということを示し、ヒトRaji Burkitt’sリンパ腫(Raji)及びマウスCT26.CL25結腸癌細胞でSIRPα−エクソソームのCD47結合の類似した結果を観察した。前記結果は、エクソソームで膜関連SIRPα変異体の発現が癌細胞でCD47に結合する能力を有していることを明らかにする(図6及び図7)。
【実施例6】
【0043】
[食細胞作用分析]
本発明の一実施例によって腫瘍細胞の拮抗作用を有したCD47が、腫瘍細胞の大食細胞媒介食細胞作用(phagocytosis)を増加させるか否かを観察するために、食細胞作用分析を行った。具体的に、体外(In vitro)食細胞作用分析のための骨髄由来大食細胞(BMDMs)を製造するために、BALB/cマウスを犠牲させ、骨髄細胞を足骨(leg bones)から分離した。前記分離した骨髄細胞を10% FBS及び1% 抗生剤が添加されたRPMI培地で保持させ、7日間大食細胞コロニー刺激因子(M−CSF)に分化させた。食細胞作用は、BMDMと癌細胞とを無血清RPMI培地で4時間共培養して分析した。流細胞分析のために、分化された大食細胞(2.5x10)は、0.5μM CellTrackerTM Greenで染色し、エクソソームまたはmSIRPαタンパク質を癌細胞と事前培養した後、BMDMを4時間混合物と共に培養した。食細胞作用の比率は、AccuriTM C6流細胞分析器(BD biosciences)及びFlowJo_V10ソフトウェア(FlowJo)を使用して二重陽性信号(double positive signals)の百分率で評価した。
【0044】
また、食細胞作用指数(phagocytosis index、PI)を測定するための蛍光顕微鏡分析のために、CellTrackerTM Green(Thermo fisher scientific)で染色したBMDMを2.5x10の密度で35mmガラス底ディッシュに播種し、HT29細胞(1x10)の混合物をpHrodo Deep red(Thermo fisher scientific)で染色し、エクソソームを大食細胞で処理した。4時間の共培養後、大食細胞によるHT29細胞の貪食(engulfment)は、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse Ti、Nikon)によって大食細胞での捕食細胞形成と関連した赤色陽性信号で分析した。
【0045】
その結果、二重陽性信号(濃い赤色及び緑色)を有する大食細胞の食細胞作用は、対照群(PBS処理または対照群−エクソソーム処理)と比較して、SIRPα−エクソソーム処理群で濃度依存的に増加すると表われ(図8)、SIRPα−エクソソームを処理したRaji及びCT26.CL25結腸癌細胞でも、類似して表われた。また、SIRPα−エクソソームの処理が腫瘍細胞の貪食を増加させ、これにより、PIがSIRPα−エクソソーム処理群で有意に増加したと表われた(図9)。したがって、SIRPα−エクソソームによるCD47−SIRPα相互作用を遮断することは、骨髄由来大食細胞(BMDMs)によって多様な癌細胞の食細胞作用の増加を誘導するということを明らかにする。
【実施例7】
【0046】
[生体分布(biodistribution)研究]
本発明の一実施例によってSIRPα−エクソソームの生体分布を調査するために、エクソソームをCy5.5−NHSで標識し、Cy5.5−NHS染料(1μg)を100μgのエクソソームに処理した後、室温で2時間培養し、airfuse遠心分離機(Beckman coulter)を使用して45分間遠心分離した。以後、非結合された染料を除去するために、2回洗浄を行った後に、標職されたエクソソームペレットをPBSに再懸濁し、蛍光強度(fluorescence intensity)は、蛍光マイクロプレート判読器(Infinite M200 Pro、TECAN)を使用して測定し、調整した。また、HT29腫瘍保有BALB/cヌードマウスにCy5.5標職されたエクソソーム(500μg)、ガラス染料及びPBSを静脈内(intravenously)投与し、あらゆるサンプルの蛍光強度は、蛍光マイクロプレート判読器で収得したデータに基づいて同じ値で調整した。マウスの生体(In vivo)全身イメージングは、IVISスペクトル(Caliper Life Sciences)を使用して多様な時点(5分、2時間、4時間、8時間、16時間及び24時間)で行った。同時に、腫瘍の蛍光強度を分析するために、Analysis Workstationソフトウェア(Advanced Research Technologies Inc.)を使用して関心領域(ROI)で立体角(steradian)当たりセンチメートルスクエア当たり総光子(total photons)を計算し、注入後、24時間経過時点でマウスを犠牲させ、肝、肺、脾臓、腎臓及び心臓を含んだ腫瘍及び主要器官を前記と同じ方法で切除し、分析した。
【0047】
その結果、切除された腫瘍の平均重量は、腫瘍成長の観察された退化(regression)と一致して、対照群よりもSIRPα−エクソソーム処理群で著しく低く表われた(図10)。
【実施例8】
【0048】
[抗腫瘍効果分析]
本発明の一実施例によって生体内実験(in vivo experiments)のために、免疫欠乏BALB/cヌードマウス及び免疫感応BALB/cマウスは、7週齢になった時点で腫瘍を移植し、韓国科学技術研究院(KIST)の収容施設で管理された。次いで、HT29細胞(1×10)をBALB/cヌードマウスの左側足に皮下接種し、腫瘍を一週間成長させた後、対照群−エクソソーム、SIRPα−エクソソーム及び対照群PBSを3日ごとに5回ずつ注入した。次いで、局所抗腫瘍効果の分析のために、100μgのエクソソームをマウスの腫瘍内に注入した。腫瘍成長に対するSIRPα−エクソソームの全身効果(systemic effect)のために、エクソソーム(200μg)及びPBSをHT29腫瘍保有マウスに3日ごとに5回ずつ注入し、腫瘍が1000mmまで成長させた後、切開し、重量を測定した。また、CT26.CL25細胞(1×10)を免疫感応BALB/cマウスの左側足の皮下に移植し、平均サイズが80mmである腫瘍の安定化のために、一週間経過後、エクソソーム 200μg、SIRPα−エクソソーム 200μg、mSIRPα 1μg(SIRPα−エクソソームs 200μgでSIRPα量に該当)またはPBSをそれぞれ前記マウス(それぞれn=7マウスグループ)のしっぽ静脈を通じて注入し、総5回処理が完了すれば、腫瘍を切開し、重量を測定した。
【0049】
その結果、Cy5.5染料で標職されたSIRPα−エクソソームは、腫瘍部位に連続して蓄積され、これは、腫瘍細胞から過発現されたCD47との相互作用だけではなく、ナノ粒子のようなエクソソームの浸透性及び保有効果が向上したことを明らかにする(図11)。また、体外(ex vivo)イメージ分析結果、マウスの肝と腎臓とでCy5.5に標職されたエクソソームが蓄積されて、全体動物イメージング分析結果を裏付け(図12)、SIRPα−エクソソームで処理したマウスは、対照群と比較して腫瘍成長が多少減少したが、有意な差を示さなかった。一方、免疫欠乏及び免疫感応マウスを用いてSIRPα−エクソソーム注入による抗腫瘍効果を観察した結果、HT29腫瘍保有BALB/c免疫欠乏マウスにSIRPα−エクソソームを投与する場合、腫瘍の成長を少し減少させるが、有意なレベルではなかった一方、CT26.CL25腫瘍保有免疫感応BALB/cマウスにSIRPα−エクソソームを投与する場合には、非常に優れた抗腫瘍効果を示した。これは、本発明のSIRPα−エクソソームを投与することにより、免疫機能を経由したSIRPα−エクソソームの顕著な抗腫瘍効果を立証するものである(図13及び図14)。一方、組換えSIRPαタンパク質(mSIRPα)を投与する場合には、癌細胞のCD47に効率的に結合することができるにも拘らず、腫瘍の食細胞作用を正しく誘導することはできなかった(図15)。
【0050】
結論的に、本発明の一実施例によって製造した組換えエクソソーム(SIRPα−エクソソーム)は、CD47−SIRPα相互作用を遮断することによって、大食細胞と樹状細胞との食細胞作用を増加させて、試験管内条件はもとより、動物モデル実験で非常に顕著な抗腫瘍効果を示したので、癌治療のための新規な抗癌剤として活用可能である。
【0051】
本発明は、実施例を参考にして説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他実施例が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されるべきである。
図1
図2
図2C
図3
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]