(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ローラ本体にジャケット室を設ける構成では、ローラ本体の径方向における厚みを大きくする必要があるため、ローラ本体の熱容量が大きくなり、ローラ本体の加熱効率が悪くなる。そこで、本願発明者は、ローラ本体よりも熱伝導性が高い筒状の均熱部材を、ローラ本体の内周面に接触させた状態で設けることを検討している。これにより、均熱部材がヒートパイプの役割を果たすため、ローラ本体の表面温度の分布を均一化できる。また、ローラ本体を薄く保つことで熱容量の増大を抑制できるため、ローラ本体を効率良く加熱できる。
【0006】
ここで、特許文献1に記載のように片持ち支持されている誘導加熱ローラに均熱部材を適用する場合、均熱部材は、ローラ本体の軸方向基端側に形成された開口から、ローラ本体の径方向内側の空間内に挿入される。さらに、例えば、ローラ本体の軸方向基端部に、ローラ本体と均熱部材とを固定するためのリング状の固定部材(以下、固定リングとする)が取り付けられる。固定リングは、ローラ本体の径方向内側に配置された均熱部材をしっかり固定するために、均熱部材よりも径方向内側に延びることとなる。
【0007】
前述のように、ローラ本体の軸方向端部では、外部への放熱が起こりやすいため、表面温度が低くなりやすい。そこで、本願発明者は、以下の理由から、固定リングの材質として、強磁性体である炭素鋼を適用した。すなわち、固定リングに磁束を通しやすくして渦電流を発生させやすくし、ローラ本体の基端部における発熱量を増加させて、ローラ本体の表面温度の分布を改善するために、そのような固定リングを用いた。しかし、この構成において実際にヒータを動作させたとき、固定リングが過剰に発熱し、ローラ本体の基端部の温度が軸方向中央部の温度よりも高くなるという問題が生じた。つまり、上記構成においては、ローラ本体よりも径方向内側(コイルに近い側)に延びた固定リングに磁束が過剰に通って渦電流が過剰に発生し、固定リングが発熱し過ぎることが、本願発明者により知見された。
【0008】
本発明の目的は、誘導加熱ローラに設けられた固定リングの発熱を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の誘導加熱ローラは、回転可能なローラユニットと、前記ローラユニットの径方向における内側に配置されたコイルを有するヒータと、を備える誘導加熱ローラであって、前記ローラユニットは、 前記コイルに流れる電流によって生成される磁束が前記ローラユニットの軸方向に通ることで誘導加熱される円筒状の被加熱部、を有するローラ本体と、前記被加熱部の内周面と接触し、且つ、前記軸方向に延びた、前記被加熱部の少なくとも前記内周面よりも熱伝導率が高い均熱部材、を有する均熱部と、前記被加熱部の前記軸方向における一方側の端部及び前記均熱部の前記軸方向における前記一方側の端部と接触するように設けられた、前記ローラ本体と前記均熱部とを固定する固定リングと、前記径方向において前記被加熱部と前記コイルとの間に配置され、且つ、前記軸方向において前記被加熱部の中心よりも前記一方側且つ前記固定リングよりも他方側に配置された第1磁性部材と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
まず、本発明では、固定リングが、ローラユニットの軸方向(以下、単に軸方向とする)において、被加熱部の一端部及び均熱部の一端部と接触するように設けられ、ローラ本体と均熱部とを固定している。そして、このような固定リングの少なくとも一部は、通常、被加熱部及び均熱部よりも、径方向においてコイルに近い位置関係にある。一般的に、磁束は、磁束が通る経路のうち、磁束が通りやすい最短経路に集中しようとする性質を有するため、上記構成では、固定リングに磁束が流れ込みやすくなる。このため、誘導加熱によって固定リングが発熱しやすくなるおそれがある。
【0011】
そこで、本発明では、被加熱部よりも径方向内側、且つ、被加熱部の軸方向中心よりも軸方向一方側且つ固定リングよりも軸方向他方側に、第1磁性部材が設けられている。このため、第1磁性部材を適切に配置することで、固定リングを経由する経路以上に磁束が通りやすい別の経路を新たに形成することができる。これにより、第1磁性部材が配置されていない場合と比べて、固定リングを通る磁束の量を減少させることができ、固定リングにおける渦電流の発生を抑制できる。したがって、誘導加熱ローラに設けられた固定リングの発熱を抑制することができる。
【0012】
第2の発明の誘導加熱ローラは、前記第1の発明において、前記均熱部材の比透磁率は、前記固定リングの比透磁率よりも低いことを特徴とするものである。
【0013】
均熱部材の比透磁率が低い構成では、磁束が均熱部材を通りにくいため、磁束はますます固定リングに集中しやすくなるおそれがある。本発明では、このような構成において、第1磁性部材によって磁束が通りやすい別の経路を形成することで、固定リングを通る磁束の量を効果的に減少させることができる。
【0014】
第3の発明の誘導加熱ローラは、前記第1又は第2の発明において、前記第1磁性部材は、前記固定リングの周方向において、全周に亘って配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、第1磁性部材が固定リングの周方向の一部にのみ配置されている場合と比べて、固定リングに磁束が流れ込むことをさらに抑制できる。
【0016】
第4の発明の誘導加熱ローラは、前記第1〜第3のいずれかの発明において、前記第1磁性部材は、前記被加熱部の内周面と接触していることを特徴とするものである。
【0017】
第1磁性部材と被加熱部との間で磁束が通りにくいと、磁束が迂回して固定リングの方に流れ込むおそれがある。本発明では、第1磁性部材が被加熱部と接触していない場合(第1磁性部材と被加熱部との間に隙間がある場合)と比べて、第1磁性部材と被加熱部との間で磁束が通りやすくなるので、磁束が迂回して固定リングの方に流れ込むことを抑制できる。
【0018】
第5の発明の誘導加熱ローラは、前記第1〜第4のいずれかの発明において、前記第1磁性部材は、前記均熱部材と接触していることを特徴とするものである。
【0019】
磁束が第1磁性部材を通ることで、第1磁性部材も誘導加熱される。本発明では、第1磁性部材が均熱部材と接触しているので、第1磁性部材に発生した熱を、均熱部材を介して被加熱部に伝導させることができる。したがって、被加熱部を効率良く加熱することができる。
【0020】
第6の発明の誘導加熱ローラは、前記第1〜第5のいずれかの発明において、前記軸方向において、前記第1磁性部材と前記固定リングとの間に隙間が形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明では、第1磁性部材と固定リングとの間に隙間がない場合(第1磁性部材と固定リングが互いに接触している場合)と比べて、第1磁性部材に流れる渦電流により発生する熱が固定リング側に伝わることを抑制できる。したがって、固定リングの温度上昇を抑制できる。また、隙間が形成されていることで、磁束を固定リング側に流れ込みにくくすることができる。
【0022】
第7の発明の誘導加熱ローラは、前記第1〜第6のいずれかの発明において、前記均熱部は、前記均熱部材の前記軸方向における前記一方側に並べて配置された、前記均熱部材を押圧するための押圧部材と、前記軸方向において前記押圧部材と前記固定リングとの間に配置され、前記押圧部材を前記軸方向における前記他方側へ付勢する付勢部材と、を有し、前記第1磁性部材として前記押圧部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明では、押圧部材が軸方向に付勢されることで、押圧部材によって均熱部材が軸方向に押圧される。したがって、軸方向において均熱部材をしっかり固定することができる。また、押圧部材が第1磁性部材として設けられているため、第1磁性部材と押圧部材とが別々に設けられる場合と比べて、コストの増大を抑えることができる。
【0024】
第8の発明の誘導加熱ローラは、前記第1〜第7のいずれかの発明において、前記ヒータは、前記コイルよりも前記径方向における外側に配置され、且つ、前記径方向において前記第1磁性部材と対向するように設けられた第2磁性部材を有することを特徴とするものである。
【0025】
本発明では、ヒータに第2磁性部材が設けられている。これにより、第2磁性部材に沿って、磁束が通りやすい経路を形成することができる。このため、磁束は、径方向内側に配置されたヒータと径方向外側に配置されたローラユニットとの間で流れる際に、径方向において互いに対向する第1磁性部材と第2磁性部材との間で流れやすくなる。したがって、固定リングを通る磁束の量を確実に減少させることができる。
【0026】
第9の発明の誘導加熱ローラは、前記第8の発明において、前記第2磁性部材は、前記固定リングの周方向において、複数配置されていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明では、第2磁性部材が固定リングの周方向の一部にのみ配置されている場合と比べて、第1磁性部材との間で磁束をさらに流しやすくすることができる。
【0028】
第10の発明の誘導加熱ローラは、前記第8又は第9の発明において、前記ヒータは、 前記コイルの前記軸方向における前記一方側の端部に隣接配置され、前記コイルよりも前記径方向における外側に延びた第3磁性部材を有し、前記第2磁性部材は、前記第3磁性部材と接触するように配置されていることを特徴とするものである。
【0029】
本発明では、コイルに流れる電流によって生成される磁束を、第3磁性部材によって第2磁性部材へ積極的に導くことができる。したがって、磁束を確実に第2磁性部材に通すことができる。
【0030】
第11の発明の誘導加熱ローラは、前記第1〜第10のいずれかの発明において、前記固定リングの比透磁率は、前記第1磁性部材の比透磁率よりも低いことを特徴とするものである。
【0031】
本発明では、固定リングの比透磁率が低く、磁束が固定リングを通りにくいため、固定リングに渦電流が流れにくい。したがって、固定リングの発熱をさらに抑制できる。
【0032】
第12の発明の誘導加熱ローラは、回転可能なローラユニットと、前記ローラユニットの径方向における内側に配置されたコイル、を有するヒータと、を備える誘導加熱ローラであって、前記ローラユニットは、前記コイルに流れる電流によって生成される磁束が前記ローラ
ユニットの軸方向に通ることで誘導加熱される円筒状の被加熱部、を有するローラ本体と、前記被加熱部の内周面と接触し、且つ、前記軸方向に延びた、前記被加熱部の少なくとも前記内周面よりも熱伝導率が高い均熱部材、を有する均熱部と、前記被加熱部の前記軸方向における一方側の端部及び前記均熱部の前記軸方向における前記一方側の端部と接触するように設けられた、前記ローラ本体と前記均熱部とを固定する固定リングと、を有し、前記固定リングは、前記固定リングの周方向における一部に設けられた、前記周方向に流れる渦電流を弱める高抵抗部を有することを特徴とするものである。
【0033】
まず、本発明では、第1の発明と同様に、被加熱部及び均熱部よりも、固定リングの方が径方向内側に延びることとなるため、固定リングに磁束が流れ込みやすくなる。このため、固定リングを通る磁束によって、固定リングの周方向に沿って回るように渦電流が生じることで、固定リングが大きく発熱する懸念がある。そこで、本発明では、固定リングの周方向の一部に高抵抗部が設けられており、高抵抗部によって、固定リングの周方向に流れる渦電流が弱められる。したがって、誘導加熱ローラに設けられた固定リングの発熱を抑制することができる。
【0034】
第13の発明の誘導加熱ローラは、前記第12の発明において、前記高抵抗部は、前記固定リングのうち、前記高抵抗部以外の部分と比べて、前記周方向に直交する断面の面積が小さい部分であることを特徴とするものである。
【0035】
本発明では、高抵抗部において、周方向に直交する断面の面積が小さいため、周方向における電気抵抗が高くなる。したがって、固定リングの周方向における電気抵抗を高くして、渦電流を流しにくくすることができる。
【0036】
第14の発明の誘導加熱ローラは、前記第13の発明において、前記高抵抗部には、
前記高抵抗部以外の部分と比べて前記断面の面積を小さくするための穴が形成されていることを特徴とするものである。
【0037】
本発明では、固定リングの一部に穴を開けるだけで、断面積が小さい高抵抗部を容易に形成することができる。
【0038】
第15の発明の誘導加熱ローラは、前記第14の発明において、前記穴が、絶縁部材によって塞がれていることを特徴とするものである。
【0039】
固定リングの周方向の一部に穴が開いている構成では、高抵抗部において固定リングの強度が低下するおそれがある。本発明では、穴を塞いでいる絶縁部材によって、固定リングの強度低下を抑制することができる。
【0040】
第16の発明の誘導加熱ローラは、前記第12の発明において、前記固定リングは、前記周方向において複数のリング片に分割されており、前記複数のリング片は、絶縁部材を介して互いに連結されており、前記高抵抗部は、前記固定リングの前記周方向における、前記絶縁部材が配置された部分であることを特徴とするものである。
【0041】
本発明では、複数のリング片の間に介在する絶縁部材によって、固定リングの周方向に回るように渦電流が流れることを確実に抑制できる。
【0042】
第17の発明の誘導加熱ローラは、前記第1〜第16のいずれかの発明において、前記ローラ本体は、片持ち支持されており、前記固定リングは、前記軸方向において、前記被加熱部の前記一方側の端部である基端部に設けられていることを特徴とするものである。
【0043】
ローラ本体が片持ち支持されている構成では、ローラ本体の基端部は先端部と比べて外気に接する部分が少なく、放熱されにくい。このため、被加熱部の基端部に設けられた固定リングが発熱すると、発生した熱は、外部に放出されるよりも前に被加熱部の先端側へ伝わりやすい。これにより、被加熱部の軸方向において基端側の温度が高く、先端側の温度が低くなるという温度勾配が生じやすくなり、被加熱部の表面の温度分布が悪くなるおそれがある。本発明では、基端部に配置された固定リングの発熱を抑制することで、上述したような温度勾配の発生を抑制し、被加熱部の基端部における表面の温度分布を改善できる。
【0044】
第18の発明の紡糸延伸装置は、前記第1〜第17のいずれかの発明の誘導加熱ローラを備える紡糸延伸装置であって、前記誘導加熱ローラの外周面に複数の糸が前記軸方向に並んで巻き掛けられていることを特徴とするものである。
【0045】
本発明では、ローラ表面の温度分布を均一化できるとともに、ローラ表面を効率的に昇温することが可能となる。したがって、誘導加熱ローラに巻き掛けられた糸の品質が安定し、高品質な糸を生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について、
図1〜
図6を参照しながら説明する。
【0048】
(紡糸引取機)
まず、
図1を用いて、第1実施形態に係る誘導加熱ローラ20を備える紡糸引取機1の構成について説明する。
図1は、紡糸引取機1の正面図である。なお、
図1に示す上下方向、前後方向、及び、左右方向を、紡糸引取機1の上下方向、前後方向、及び、左右方向とそれぞれ定義して、以下の説明を進める。紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取る構成となっている。
【0049】
紡糸装置2は、ナイロンやポリエステル等の溶融ポリマーを連続的に紡出することで、複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。
【0050】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱12の内部に収容された複数のゴデットローラ21〜25を有している。ゴデットローラ21〜25は、モータによってそれぞれ回転駆動される。ゴデットローラ21〜25は、それぞれが、コイルによって誘導加熱される誘導加熱ローラ20である。ゴデットローラ21〜25の外周面には、複数の糸Yが巻き掛けられている。保温箱12の右側面部の下部には、複数の糸Yを保温箱12の内部に導入するための導入口12aが形成され、保温箱12の右側面部の上部には、複数の糸Yを保温箱12の外部に導出するための導出口12bが形成されている。複数の糸Yは、下側のゴデットローラ21から順番に、各ゴデットローラ21〜25に対して360度未満の巻き掛け角で巻き掛けられている。
【0051】
下側の3つのゴデットローラ21〜23は、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、これらのローラ表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば90〜100℃程度)に設定されている。上側の2つのゴデットローラ24、25は、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラであり、これらのローラ表面温度は、下側3つのゴデットローラ21〜23のローラ表面温度よりも高い温度(例えば150〜200℃程度)に設定されている。また、上側2つのゴデットローラ24、25の糸送り速度は、下側3つのゴデットローラ21〜23よりも速くなっている。
【0052】
導入口12aを介して保温箱12に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ21〜23によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ23とゴデットローラ24との間の糸送り速度の差によって延伸される。さらに、複数の糸Yは、ゴデットローラ24、25によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、導出口12bを介して保温箱12の外に導出される。
【0053】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ13を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14やコンタクトローラ15等を備えている。ボビンホルダ14は、前後方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ14には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ14を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ15は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0054】
(誘導加熱ローラの構成)
次に、ゴデットローラ21〜25に適用される誘導加熱ローラ20の構成について、
図2及び
図3を用いて説明する。
図2は、誘導加熱ローラ20の断面図である。
図3(a)は、後述する均熱部32等の斜視図である。
図3(b)は、均熱部材41が押圧部材42によって押圧されている状態を示す図である。ここで、誘導加熱ローラ20のローラ本体31は、ローラ本体31を回転駆動するモータ100によって片持ち支持されている。以下では、ローラ本体31の延びている方向(
図2の紙面左右方向)を軸方向と呼ぶ。なお、本実施形態では、ローラ本体31の軸方向は、ローラユニット30(後述)の軸方向及び均熱部32(後述)の軸方向と一致している。軸方向において、モータ100側を基端側(本発明の一方側)とし、その反対側を先端側(本発明の他方側)とする。また、ローラ本体31の径方向を、単に径方向とも呼ぶ。同じく、ローラ本体31の周方向を、単に周方向とも呼ぶ。
【0055】
誘導加熱ローラ20は、回転可能なローラユニット30と、ローラユニット30の径方向における内側に配置されたヒータ50とを有する。誘導加熱ローラ20は、ヒータ50に設けられたコイル52による誘導加熱を利用してローラユニット30の外周面を昇温させ、それによって、ローラユニット30に巻き掛けられた複数の糸Yを加熱する。ローラユニット30は、モータ100によって回転駆動される。ヒータ50は、モータ100に取り付けられたヒータ支持部(不図示)に固定されている。つまり、ローラユニット30は回転し、ヒータ50は回転しないように構成されている。
【0056】
まず、ローラユニット30について説明する。ローラユニット30は、ローラ本体31と、均熱部32と、固定リング33とを有する。ローラ本体31は、円筒状の部材であり、モータ100によって回転駆動される。均熱部32は、ローラ本体31の径方向内側且つコイル52の径方向外側に配置され、ローラ本体31の軸方向における温度分布を均一化させるためのものである。固定リング33は、ローラ本体31の軸方向基端部に取り付けられ、ローラ本体31と均熱部32とを固定する。以下、各構成要素の詳細について説明する。
【0057】
ローラ本体31は、例えば、磁性体且つ導体である炭素鋼からなる。ローラ本体31は、コイル52の径方向外側に配置されて軸方向に延びた円筒状の外筒部34(本発明の被加熱部)と、コイル52の径方向内側に配置された円筒状の軸心部35と、外筒部34の先端部と軸心部35の先端部とをつなぐ端面部36とを有する。ローラ本体31の基端側は、開口している。外筒部34と軸心部35と端面部36とは、例えば、1つの部材として一体的に形成されている。或いは、外筒部34、軸心部35及び端面部36のうち少なくとも2つが異なる部材から形成されていても良い。一例として、外筒部34が1つの第1部材からなり、軸心部35及び端面部36が1つの第2部材からなる構成でも良い。この場合、第1部材と第2部材とが、例えば、溶接や、ネジ等の固定部材を用いた固定方法等によって、互いに固定されている。また、ローラ本体31全体が必ずしも1種類の材料(例えば、上述した炭素鋼)で形成されていなくても良い。つまり、外筒部34及び端面部36が、磁性体且つ導体であれば良い(なお、軸心部35は必ずしも磁性体でなくても良い)。外筒部34の外周面34aには、複数の糸Yが巻き掛けられる。外周面34aの軸方向における長さは、例えば180mmである。外筒部34の内周面34bには、均熱部32が接触している。軸心部35には、モータ100の駆動軸101が挿通される軸取付孔35aが形成されている。駆動軸101が軸取付孔35aに嵌装されることで、ローラ本体31が駆動軸101に固定される。これにより、ローラ本体31は、モータ100によって片持ち支持されており、且つ、駆動軸101と一体回転可能となっている。端面部36の径方向外側端部には、均熱部材41の先端部が当接する当接面36aが形成されている。当接面36aは、径方向外側へ向かうほど軸方向先端側へ傾斜しているテーパ面となっている。
【0058】
均熱部32は、均熱部材41と、押圧部材42と、ばね43(本発明の付勢部材)とを有する。均熱部材41は、ローラ本体31の外筒部34の表面温度の分布を軸方向において均一化するためのものである。均熱部材41は、ローラ本体31の外筒部34の径方向内側、且つ、コイル52の径方向外側に設けられた円筒状の部材である。均熱部材41は、押圧部材42及びばね43によって軸方向先端側及び径方向外側へ押圧されることで、ローラ本体31に固定されている(詳細は後述)。
【0059】
均熱部材41は、例えば、炭素繊維と黒鉛との複合材料であるC/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材料)からなる、軸方向に延びた円筒状の部材である。均熱部材41は、炭素鋼からなるローラ本体31よりも(少なくとも、外筒部34の内周面34bよりも)高い熱伝導率を有しており、熱伝導により外筒部34の軸方向における温度分布を均一化する役割を持つ。例えば、炭素鋼の熱伝導率が51.5W/(m・K)であるのに対し、C/Cコンポジットの軸方向における熱伝導率は404W/(m・K)である。また、均熱部材41は、ローラ本体31よりも低い比透磁率を有する。例えば、炭素鋼の比透磁率が100〜2000であるのに対し、C/Cコンポジットの比透磁率は概ね1である。
【0060】
均熱部材41は、ローラ本体31の外筒部34の内周面34bに接触している。外筒部34の外周面34aのうち、複数の糸Yが巻き掛けられる軸方向の領域を巻掛領域Rとしたとき、均熱部材41は、軸方向において巻掛領域Rを含む範囲に亘って設けられている。また、均熱部材41は、周方向において複数の均熱片44に分割されている(
図3(a)参照)。各均熱片44の基端側の端面44a及び先端側の端面44bは、テーパ面となっている。すなわち、端面44aは、径方向外側に向かうほど軸方向基端側に突出し、端面44bは、径方向外側に向かうほど軸方向先端側に突出している。端面44bは、ローラ本体31の端面部36の当接面36aと合致する形状となっている。
【0061】
押圧部材42は、ばね43によって付勢されることで、均熱部材41を軸方向先端側及び径方向外側へ押圧するためのものである。押圧部材42は、リング状の部材であり(
図3(a)参照)、外径及び内径が均熱部材41と略等しい。押圧部材42の先端側の端面42aは、径方向内側に向かうほど軸方向先端側に突出するテーパ状の押圧面となっている。つまり、端面42aと、上述した均熱片44の基端側の端面44aとが、互いに合致する形状となっている。ばね43は、軸方向において押圧部材42と固定リング33との間に形成された隙間45に収容されている。ばね43は、基端部が固定リング33に、先端部が押圧部材42にそれぞれ接触しており、軸方向に圧縮されている。これにより、ばね43は、復元力によって押圧部材42を軸方向先端側へ付勢する。押圧部材42がばね43によって付勢されることで、均熱部材41が軸方向先端側へ押圧される(
図3(b)の紙面左右方向の矢印参照)と、テーパ状の端面42aによって均熱部材41が径方向外側にも押圧される(
図3(b)の紙面上下方向の矢印参照)。これにより、各均熱片44の外周面44cが、ローラ本体31の外筒部34の内周面34bとしっかり接触する。なお、ばね43の数はいくつでも良い。また、押圧部材42を付勢するための付勢部材として、ばね43の代わりにゴム製の弾性部材等を用いても良い。
【0062】
固定リング33は、ローラ本体31の外筒部34の軸方向基端部に設けられた、リング状の部材である。固定リング33は、例えば、ローラ本体31と同じく炭素鋼からなる。つまり、前述した均熱部材41の比透磁率は、固定リング33の比透磁率よりも低い。固定リング33は、ローラ本体31の外筒部34よりも径方向外側、且つ、均熱部32よりも径方向内側に延びている。固定リング33の径方向内側端部は、外筒部34及び均熱部32よりも、径方向においてコイル52に近い。つまり、固定リング33とコイル52との径方向における間隔が、均熱部32とコイル52との径方向における間隔よりも小さい。固定リング33は、ローラ本体31の軸方向基端部及び均熱部32の軸方向基端部と接触するように設けられている。具体的には、
図3(b)に示すように、固定リング33には、囲い部33aが形成されている。囲い部33aは、ローラ本体31と均熱部32とを径方向外側、径方向内側及び軸方向基端側の三方向から囲う形状を有している。これにより、ローラ本体31の外筒部34の基端部と押圧部材42の基端部とが囲われ、ローラ本体31と均熱部32とが固定されている。また、固定リング33には、ばね43を収容するための凹部33bが形成されている。凹部33bによって、軸方向において押圧部材42と固定リング33との間に隙間45が形成されている。
【0063】
次に、ヒータ50について説明する。ヒータ50は、ボビン部材51と、コイル52と、フランジ53とを有する。ヒータ50においては、軸方向に延びたボビン部材51にコイル52が巻き付けられている。ボビン部材51の軸方向基端部は、フランジ53に取り付けられている。
【0064】
ボビン部材51は、径方向において、ローラ本体31の外筒部34よりも内側且つ軸心部35よりも外側に配置された円筒状の部材である。ボビン部材51は、例えば、ローラ本体31と同じく炭素鋼からなる。ボビン部材51の外周にコイル52が巻き付けられる。
【0065】
コイル52は、ローラ本体31を誘導加熱するためのものである。コイル52は、ボビン部材51に巻き付けられ、ローラ本体31の外筒部34よりも内側且つ軸心部35よりも外側に配置されている。コイル52に交流電圧が印加されることで、コイル52に交流電流が流れて交流磁場が発生する。
【0066】
フランジ53は、円板状の部材である。フランジ53の径方向中心部には、フランジ53とモータ100の駆動軸101とが互いに干渉しないように、貫通孔53aが形成されている。フランジ53は、例えば、ローラ本体31と同じく炭素鋼からなる。フランジ53は、ヒータ
50の軸方向基端部に配置されている。フランジ53には、ボビン部材51の軸方向基端部が取り付けられている。フランジ53は、モータ100のヒータ支持部(不図示)に固定されている。フランジ53は、コイル52よりも径方向外側に延びている。フランジ53の径方向外側端部は、ローラユニット30の固定リング33よりも軸方向基端側に位置し、固定リング33を覆うように配置されている。回転しないヒータ50のフランジ53と、回転するローラユニット30の固定リング33とが互いに干渉しないよう、フランジ53と固定リング33との間には隙間が設けられている。
【0067】
以上のような構成を有する誘導加熱ローラ20において、コイル52に交流電圧が印加されることで、コイル52に交流電流が流れて交流磁場が生成され、磁束が、ローラ本体31の外筒部34を軸方向に通る。これにより、ローラ本体31において周方向に渦電流が流れ、ジュール熱によって外筒部34が加熱される。誘導加熱ローラ20においては、一般的に、軸方向において発熱が均一になりにくいことや、軸方向端部においてローラ本体31から外部への放熱が起こりやすいことに起因して、ローラ本体31の表面温度の分布が均一になりにくい。そこで、均熱部材41によって、外筒部34の軸方向における温度分布の均一化がなされる。なお、上述したように、均熱部材41の比透磁率は低いため、磁束は均熱部材41を通りにくく、均熱部材41自体は発熱しにくい。
【0068】
(固定リングの過剰発熱の問題)
上述したように、ローラ本体31の軸方向端部では、外部への放熱が起こりやすいため、表面温度が低くなりやすい。そこで、本願発明者は、固定リング33に磁束を通しやすくして渦電流を発生させやすくし、ローラ本体31の基端部における発熱量を増加させてローラ本体の表面温度の分布を改善するために、固定リング33の材質を強磁性体である炭素鋼とした。また、磁束は、磁束が通る経路のうち、磁束が通りやすい最短経路に集中しようとする性質を有するため、当初、押圧部材42の材質を非磁性体であるSUSとし、押圧部材42よりも固定リング33に磁束が通りやすくなるようにしていた。しかし、この構成において実際にヒータ50を動作させると、固定リング33が過剰に発熱し、ローラ本体31の基端部の温度が軸方向中央部の温度よりも高くなるという問題が生じた。
【0069】
上記問題について、
図4を用いて模式的に説明する。誘導加熱ローラ20においては、強磁性体である炭素鋼からなる部材によって、磁束が通りやすい経路201が形成されている(なお、矢印は単に見やすさのために記載しているものであり、コイル52に流れる電流の向きの変化に応じて、磁束の向きも変わる)。具体的には、経路201は、ボビン部材51、フランジ53、固定リング33、ローラ本体31の外筒部34及び端面部36を通る経路である。なお、磁束は、強磁性体の表面を通りやすい性質を有する(表皮効果)ので、経路201は、上述した部材の表面又はその近傍を通るように形成されている。
【0070】
経路201に磁束が集中的に通ると、固定リング33に渦電流が過剰に発生し、固定リング33の発熱が大きくなる。特に、磁束が固定リング33を軸方向に通ることで、固定リング33の周方向に回るように渦電流が発生するため、発熱がいっそう顕著となる。さらに、片持ち支持されたローラユニット30の基端部に設けられた固定リング33においては、ローラユニット30の先端部と比べて外部に面する部分が小さく、外部への放熱が起こりにくい。このため、固定リング33が発熱すると、発生した熱は、外部に放出されるよりも前にローラ本体31の外筒部34の先端側へ伝わりやすい。これにより、外筒部34の基端側の温度が高く、先端側の温度が低くなるという温度勾配が生じやすくなり、外筒部34の外周面34aの温度分布が悪くなるという問題が発生したと、本願発明者は考察した。
【0071】
そこで、固定リング33の発熱を抑制するために、誘導加熱ローラ20は、以下の構成を有する。具体的には、
図2及び
図3に戻って説明する。
【0072】
(第1磁性部材及び第2磁性部材)
第1実施形態においては、上述した経路201(
図4参照)とは別の、磁束が通りやすい経路が形成されるように、誘導加熱ローラ20が以下の構成を有する。まず、均熱部材41を押圧するための押圧部材42は、ローラ本体31等と同じく、強磁性体である炭素鋼からなる。以下では、押圧部材42を第1磁性部材46と称する。言い換えると、押圧部材42は、第1磁性部材46として用いられる。
図2に示すように、第1磁性部材46は、径方向においてローラ本体31の外筒部34とコイル52との間に配置され、且つ、外筒部34の軸方向における中心よりも基端側且つ固定リング33よりも先端側に配置されている。第1磁性部材46は、外筒部34の内周面34bと接触し、且つ、均熱部材41と接触している。軸方向において、第1磁性部材46と固定リング33との間に、隙間45が形成されている。第1磁性部材46は、例えば
図3(a)に示すように、周方向において全周に亘って配置されていることが好ましいが、これに限られるものではない。例えば、第1磁性部材46が周方向において分割されており、互いに離間して複数配置されていても良い。
【0073】
また、ヒータ50は、第2磁性部材54を有する。第2磁性部材54は、第1磁性部材46と同様、炭素鋼からなる部材である。
図2に示すように、第2磁性部材54は、コイル52よりも径方向外側に配置され、径方向において第1磁性部材46と対向するように設けられている。第2磁性部材54は、フランジ53(本発明の第3磁性部材)に取り付けられ、フランジ53と接触している。第2磁性部材54は、回転するローラユニット30に設けられている第1磁性部材46とは互いに干渉しないように配置されている。第2磁性部材54は、例えば
図3(a)に示すように、周方向において互いに離間させて複数配置されていることが好ましいが、これに限られるものではない。
【0074】
(磁束の経路について)
以上の構成を有する誘導加熱ローラにおいては、第1磁性部材46及び第2磁性部材54によって、磁束が通りやすい経路が新たに形成される。以下、
図5を用いて模式的に説明する。
【0075】
図5に示すように、第1磁性部材46及び第2磁性部材54によって、経路201とは別の、磁束が通りやすい経路202(
図5の太線参照)が形成されている。具体的には、経路202は、ボビン部材51、フランジ53、第2磁性部材54、固定リング33の一部、第1磁性部材46、ローラ本体31の外筒部34及び端面部36を通る経路である。特に、磁束が通りうる経路のうち、ローラユニット30に形成される経路については、ローラ本体31の基端部及び固定リング33を通る経路(経路201を参照)よりも、第1磁性部材46を通る経路(経路202を参照)の方が短くなっている。このため、磁束は経路201以上に経路202を通りやすくなっており、固定リング33を通る磁束の量が減少する。これにより、固定リング33において渦電流の発生が抑制される。
【0076】
上述した構成においては、以下の2つの理由により、磁束が固定リング33側に流れ込むことがさらに抑制されている。1つ目の理由は、第1磁性部材46が、外筒部34の内周面34bと接触していることである。これにより、第1磁性部材46と外筒部34との間で磁束が通りやすくなっているため、磁束が迂回して固定リング33に流れ込むことが抑制される。2つ目の理由は、軸方向において、第1磁性部材46と固定リング33との間に隙間45が形成されていることである。これにより、第1磁性部材46を通っている磁束が固定リング33に流れ込むことが抑制される。
【0077】
ここで、磁束が第1磁性部材46を通ることで、第1磁性部材46も誘導加熱される。上述したように、第1磁性部材46は、外筒部34の内周面34bと接触し、且つ、均熱部材41と接触している。このため、第1磁性部材
46に発生した熱が外筒部34に直接伝導され、或いは均熱部材41を介して外筒部34に伝導される。これにより、外筒部34が効率良く加熱される。
【0078】
(第1磁性部材及び第2磁性部材の有無による温度分布の差異)
次に、第1磁性部材46及び第2磁性部材54の有無による、ローラ本体31の外筒部34の外周面34aにおける軸方向の温度分布の差異について、
図6を用いて説明する。本願発明者は、第1磁性部材46及び第2磁性部材54を設けた場合と設けない場合(押圧部材42を非磁性体とし、第2磁性部材54を設けない場合)とで、外周面34aの軸方向における温度分布を実測して比較した。共通条件として、外周面34aの軸方向中心における設定温度を150℃とした。また、ローラユニット30の運転速度(周速度)を5500m/minとした。その上で、第1磁性部材46及び第2磁性部材54を設けた場合(実施例)と設けない場合(比較例)とで、外周面34aの軸方向における温度分布を比較した。
【0079】
比較結果を
図6に示す。横軸は、外周面34aの、ローラ本体31の先端からの距離を表す。つまり、上記距離が小さい部分はローラ本体31の先端に近く、大きい部分はローラ本体31の基端に近い。なお、上述したように、外周面34aの軸方向長さは180mmである。縦軸は、外周面34aの軸方向中心(上記距離が90mmの位置)における表面温度との差を表す。比較例(
図6の破線参照)においては、ローラ本体31の先端からの距離が大きくなる(すなわち、基端側の固定リング33に近づく)ほど表面温度が高くなり、位置によっては、軸方向中心部における表面温度よりも1℃以上高くなった。一方、実施例(
図6の実線参照)においては、外周面34aの軸方向基端部の温度が、軸方向中心部の温度よりもやや低くなった。さらに、外周面34aの軸方向基端部と軸方向中心との表面温度差は、いずれの位置においても1℃以下となり、外周面34aの軸方向基端部における温度勾配が改善された。つまり、第1磁性部材46及び第2磁性部材54を設けることによって、経路201以上に磁束が通りやすい経路202(
図5参照)が形成され、固定リング33の発熱が抑制されることが裏付けられた。
【0080】
以上のように、外筒部34よりも径方向内側、且つ、外筒部34の軸方向中心よりも軸方向基端側且つ固定リング33よりも軸方向先端側に、第1磁性部材46が設けられている。このため、第1磁性部材46を適切に配置することで、固定リング33を経由する経路201以上に磁束が通りやすい別の経路202を新たに形成することができる。これにより、第1磁性部材46が配置されていない場合と比べて、固定リング33を通る磁束の量を減少させることができ、固定リング33における渦電流の発生を抑制できる。したがって、誘導加熱ローラ20に設けられた固定リング33の発熱を抑制することができる。
【0081】
また、均熱部材41の比透磁率が低く、磁束が固定リング33に集中しやすくなる構成において、第1磁性部材46によって磁束が通りやすい経路202を形成することで、固定リング33を通る磁束の量を効果的に減少させることができる。
【0082】
また、第1磁性部材46が周方向において全周に亘って配置されている構成では、第1磁性部材46が周方向の一部にのみ配置されている場合と比べて、固定リング33に磁束が流れ込むことをさらに抑制できる。
【0083】
また、第1磁性部材46は、外筒部34の内周面34bと接触している。したがって、第1磁性部材46と外筒部34との間に隙間がある場合と比べて、第1磁性部材46と外筒部34との間で磁束が通りやすくなるので、磁束が迂回して固定リング33の方に流れ込むことを抑制できる。
【0084】
また、第1磁性部材46が均熱部材41と接触しているので、均熱部材41を介して、誘導加熱によって第1磁性部材46に発生した熱を外筒部34に伝導させることができる。したがって、外筒部34を効率良く加熱することができる。
【0085】
また、第1磁性部材46と固定リング33との間に隙間45が形成されている。このため、第1磁性部材46と固定リング33が互いに接触している場合と比べて、第1磁性部材46に流れる渦電流により発生する熱が固定リング33側に伝わることを抑制できる。したがって、固定リング33の温度上昇を抑制できる。また、隙間45が形成されていることで、磁束を固定リング33側に流れ込みにくくすることができる。
【0086】
また、押圧部材42(第1磁性部材46)が軸方向に付勢されることで、押圧部材42によって均熱部材41が軸方向に押圧されるので、軸方向において均熱部材41をしっかり固定することができる。また、押圧部材42が第1磁性部材46であるため、第1磁性部材46と押圧部材42とが別々に設けられる場合と比べて、コストの増大を抑えることができる。
【0087】
また、ヒータ50に第2磁性部材54が設けられているので、第2磁性部材54に沿って、磁束が通りやすい経路を形成することができる。このため、磁束は、径方向内側に配置されたヒータ50と径方向外側に配置されたローラユニット30との間で流れる際に、径方向において互いに対向する第1磁性部材46と第2磁性部材54との間で流れやすくなる。したがって、固定リング33を通る磁束の量を確実に減少させることができる。
【0088】
また、第2磁性部材54が周方向において複数配置されている構成では、第2磁性部材54が周方向の一部にのみ配置されている場合と比べて、第1磁性部材46との間で磁束をさらに流しやすくすることができる。
【0089】
また、生成される磁束を、第3磁性部材であるフランジ53によって第2磁性部材54へ積極的に導くことができる。したがって、磁束を確実に第2磁性部材54に通すことができる。
【0090】
また、ローラ本体31が片持ち支持されている構成において、基端部に配置された固定リング33の発熱を抑制することで、温度勾配の発生を抑制し、外筒部34の外周面34aの軸方向基端部における温度分布を改善できる。
【0091】
また、上記のような誘導加熱ローラ20を備える紡糸延伸装置3においては、ローラ表面の温度分布を均一化できるとともに、ローラ表面を効率的に昇温することが可能となる。したがって、誘導加熱ローラ20に巻き掛けられた糸Yの品質が安定し、高品質な糸を生産することができる。
【0092】
次に、第1実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0093】
(1)前記第1実施形態においては、固定リング33が強磁性体である炭素鋼からなるものとしたが、これには限られない。すなわち、固定リング33が炭素鋼からなる第1磁性部材46よりも低い比透磁率を有していても良い。例えば、固定リング33は、比透磁率が概ね1であるSUS等の非磁性体で形成されていても良い。これにより、磁束が固定リング33を通りにくくなるため、固定リング33に渦電流が流れにくくなる。したがって、固定リング33の発熱をさらに抑制できる。なお、このような構成でも、第1磁性部材46が設けられていることで、ローラ本体31の外筒部34に磁束が通りやすいように、磁束の経路が形成される。これにより、外筒部34の誘導加熱の効率悪化は抑制される。
【0094】
(2)前記第1実施形態においては、第2磁性部材54がフランジ53と接触しているものとしたが、これには限られない。すなわち、第2磁性部材54とフランジ53との間に隙間が形成されていても良い。このような構成でも、隙間を小さくすることで、第2磁性部材54とフランジ53との間で磁束を通しやすくすることができる。
【0095】
(3)前記第1実施形態においては、ヒータ50に第2磁性部材54が設けられているものとしたが、これには限られない。すなわち、ローラユニット30に第1磁性部材46が設けられているだけでも、固定リング33を避けて磁束が通りやすい経路が形成されるため、固定リング33に流れ込む磁束の量を減らし、固定リングの発熱を抑えることができる。
【0096】
(4)前記第1実施形態においては、第1磁性部材46がばね43によって付勢されるものとしたが、これには限られない。第1磁性部材46は、必ずしも軸方向に付勢されていなくても良い。また、第1磁性部材46と固定リング33との間に、必ずしも隙間45が形成されていなくても良い。また、第1磁性部材46がばね43によって付勢されていない構成では、固定リング33は、必ずしもローラ本体31及び均熱部32を囲う形状を有していなくても良い。
【0097】
(5)前記第1実施形態においては、押圧部材42が第1磁性部材46であるものとしたが、これには限られない。第1磁性部材46は、押圧部材42とは別に設けられていても良い。この場合でも、前述したとおり、押圧部材42が必ずしもばね43によって付勢されていなくても良い。また、第1磁性部材46は、必ずしも外筒部34や均熱部材41と接触していなくても良い。
【0098】
(6)前記第1実施形態においては、ローラ本体31が片持ち支持されているものとしたが、これには限られない。すなわち、誘導加熱ローラは、両持ち支持されている構成でも良い。このような構成でも、固定リング33が設けられた軸方向端部において、固定リング33が誘導加熱されることで過剰に発熱するおそれがある。このような構成においても、第1磁性部材46等を設けて磁束が通りやすい経路を形成し、固定リング33への磁束の流入を抑制し、渦電流の発生を抑制して固定リング33の発熱を抑制することは有効である。
【0099】
(7)前記第1実施形態においては、糸Yを加熱する誘導加熱ローラ20について説明した。しかしながら、誘導加熱ローラ20は、糸Yの加熱に限定されず、糸Y以外のフィルム、紙、不織布、樹脂シート等のシート材の加熱や、複写機等に備えられるシート上のトナー像等の加熱に用いられてもよい。
【0100】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、
図7及び
図8を参照しながら説明する。但し、第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0101】
図7は、本発明の第2実施形態に係る誘導加熱ローラ60の断面図である。
図8(a)は、後述する固定リング72を軸方向基端側から見た図である。
図8(b)は、
図8(a)のVIII(b)−VIII(b)断面図である。
【0102】
本発明の第2実施形態に係る誘導加熱ローラ60は、ローラ70と、ヒータ80とを有する。ローラ70は、外筒部34を有するローラ本体31と、均熱部材41を有する均熱部32と、炭素鋼からなる固定リング72とを有する。ローラ本体31は、片持ち支持されている。
【0103】
誘導加熱ローラ60の、第1実施形態に係る誘導加熱ローラ20との相違点について説明する。ローラ70において、押圧部材42は、SUS等の非磁性体からなる。つまり、第1磁性部材46が設けられていない。また、ヒータ80には、第2磁性部材54が設けられていない。
【0104】
以上の構成により、誘導加熱ローラ60には、磁束が通りやすい経路として、炭素鋼からなる固定リング72を通る経路203(太線参照)が形成されている。磁束が固定リング72を通ることで、固定リング72の周方向に渦電流が過剰に流れると、固定リング72が過剰に発熱するおそれがある。そこで、固定リング72は、渦電流を抑制することで固定リング72の発熱を抑制するために、以下の構成を備える。
【0105】
図8(a)、(b)に示すように、固定リング72は、高抵抗部74を有する。高抵抗部74は、固定リング72の周方向における一部分であり、他の部分よりも周方向における電気抵抗が高い部分である。
図8(a)においては、2つの高抵抗部74が設けられている。高抵抗部74は、導電体からなるリング本体73のうち、周方向において穴75が形成された部分である。穴75は、例えば、リング本体73を軸方向に貫通している、径方向に延びたスリット状の穴である(
図8(a)、(b)参照)。このため、高抵抗部74の周方向に直交する断面の面積(厳密には、導電体であるリング本体73の断面積)は、高抵抗部74以外の部分と比べて小さくなっている。これにより、高抵抗部74の周方向における電気抵抗が、高抵抗部74以外の電気抵抗よりも高くなる。したがって、高抵抗部74によって、周方向に流れる渦電流が弱められ、固定リング72の発熱が抑えられる。また、穴75は、絶縁部材76によって塞がれている。絶縁部材76は、穴75を塞ぐことで、高抵抗部74の強度低下を抑制する。絶縁部材76は、例えば合成樹脂からなり、穴75の内周面75aに固着されている。
【0106】
なお、穴75の形状等は、高抵抗部74の断面積を小さくするものであれば何でも良い。例えば、スリット状でなく、丸穴でも良い。また、穴75は、リング本体73を軸方向に貫通するものでなくても良く、例えば径方向に貫通していても良い。さらに、穴75は、必ずしもリング本体73を貫通していなくても良い。また、穴75の数は2つに限られるものではない。また、高抵抗部74には、穴75の代わりに、切り欠き等が形成されていても良い。
【0107】
以上のように、固定リング72に高抵抗部74が設けられている。このため、高抵抗部74によって、固定リング72の周方向に流れる渦電流が弱められるので、誘導加熱ローラ60に設けられた固定リングの発熱を抑制することができる。
【0108】
また、高抵抗部74において、周方向に直交する断面の面積が小さいため、周方向における電気抵抗が高くなる。したがって、固定リング72の周方向における電気抵抗を高くして、渦電流を流しにくくすることができる。
【0109】
また、固定リング72のリング本体73の一部に穴75を開けるだけで、断面積の小さい高抵抗部74を容易に形成することができる。
【0110】
また、穴75を塞いでいる絶縁部材によって、固定リング72の強度低下を抑制することができる。
【0111】
次に、第2実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、第2実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0112】
(1)前記第2実施形態においては、固定リング72の高抵抗部74は、リング本体73に形成された穴75を有するものとしたが、これには限られない。例えば、
図9に示すように、固定リング90は、周方向において複数のリング片91に分割されており、絶縁部材92を介して互いに連結されていても良い。絶縁部材92は、例えば合成樹脂からなり、2つのリング片91に挟まれて固着されている。このように、複数のリング片91の間に介在する絶縁部材92によって、固定リング90の周方向に回るように渦電流が流れることを確実に抑制できる。この変形例では、固定リング90の周方向において、絶縁部材92が配置された部分が、本発明の高抵抗部に相当する。
【0113】
(2)前記第2実施形態においても、ローラ本体31が片持ち支持されているものとしたが、これには限られない。すなわち、誘導加熱ローラ60は、両持ち支持されている構成でも良い。このような構成においても、固定リング72に高抵抗部74を設けて渦電流の発生を抑制し、固定リング72の発熱を抑制することは有効である。
【0114】
(3)誘導加熱ローラ60は、上記第1実施形態で説明した誘導加熱ローラ20と同様、糸Y以外のものを加熱しても良い。すなわち、誘導加熱ローラ60は、フィルム、紙、不織布、樹脂シート等のシート材や、複写機等に備えられるシート上のトナー像等を加熱してもよい。