特許第6857897号(P6857897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857897
(24)【登録日】2021年3月25日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ねじ穴付き板材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/02 20060101AFI20210405BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20210405BHJP
   B21D 39/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   F16B39/02 P
   F16B5/02 C
   B21D39/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-98850(P2017-98850)
(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公開番号】特開2018-194098(P2018-194098A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】392014162
【氏名又は名称】株式会社冨士精密
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】足立 弘
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0130865(KR,A)
【文献】 特開2015−090214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/02
B21D 39/00
F16B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の板材と、前記板材に固定されたフリクションリングとを備え、
前記板材は、上面から下面側に向けて形成された凹部と、前記凹部の底面から前記板材の下面へ貫通しためねじ穴とを備え、
前記フリクションリングは、前記凹部の前記底面に固定された環状の固定部と、前記固定部から径方向の内側に突出したフリクション片とを備え、
前記めねじ穴に螺合されるおねじに対して前記フリクション片が係合することにより前記おねじの緩み止めがなされるように構成されたことを特徴とするねじ穴付き板材。
【請求項2】
前記凹部の前記底面はカシメ用突起を備え、前記カシメ用突起によって前記フリクションリングの前記固定部が固定されたことを特徴とする請求項1に記載のねじ穴付き板材。
【請求項3】
前記カシメ用突起と前記フリクションリングとが前記板材の上面から突出しておらず、
前記カシメ用突起の前記固定部を下方から支持する載置面が前記環状のカシメ用突起の内側に設けられ、前記載置面が前記凹部の前記底面よりも上方に位置していることを特徴とする請求項2に記載のねじ穴付き板材。
【請求項4】
前記凹部が前記板材の端面に連通していることを特徴とする請求項2又は3に記載のねじ穴付き板材。
【請求項5】
請求項2〜4の何れかに記載のねじ穴付き板材の製造方法において、
平板状の板材の上面から座ぐり加工を施すことによって前記凹部を形成すると共に、前記座ぐり加工に際して起立状態の前記カシメ用突起を削り出す工程と、
前記凹部の前記底面に前記フリクションリングを配置し、前記起立状態の前記カシメ用突起を曲げ加工することによって前記固定部の固定をなすことを特徴とするねじ穴付き板材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ穴付き板材、特に緩み止め機能を果たし得るねじ穴付き板材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の板材、特に金属製の厚板に対して、ボルトによる締結を行う構造として、次の構造が知られている。
第1は、板材に直接めねじを形成する構造。具体的には、板材に対して貫通穴にタッピングを施すか、貫通穴とタッピングとを同時に施して、めねじを形成するものである。
【0003】
第2は、板材にナット固定する構造。具体的には、貫通穴を有する板材にナットを溶接等で固定するものである。
第3は、クリップナットを用いて板材にナットを取り付ける構造。具体的には、特許文献1に示す構造であり、この特許文献1にあっては当該ナットにフリクションリングを備えた緩み止めナットを用いることによって、緩み止め作用を果たす締結構造を実現している。
また第2の構造であっても、緩み止めナットを板材に固定すれば、緩み止め作用を果たす締結構造を実現することができる。
【0004】
ところが第1の構造では、緩み止め作用を果たす締結構造を実現することが困難であり実用性の高い構造は未だ提案されておらず、特許文献2に示すように、ボルトに緩み止めの構造を備えた物を採用することが提案されているに止まる。
また、板材と他の部材との間の間隔を調整し、他の部材のレベリングを行う場合にあっては、ボルトのねじ込み程度を調整することにより、ボルトの軸部先端に接触している他の部材の位置を調整することが行われているが、従来のようにナットを板材に溶接している場合には、他の部材との間の間隔はナットの厚み未満には調整することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7−40724号公報
【特許文献2】特開2003−120644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、板材に直接めねじを形成した締結構造において、緩み止め作用を果たす締結構造を実現せんとするものである。特に、所定の板厚を維持しながら、有効な緩み止め作用を果たし得るねじ穴付き板材の提供を課題とする。
本発明は緩み止め作用を果たし得るねじ穴付き板材を製造する方法であって、資源及びエネルギーの無駄を抑制することができる製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属製の板材と、前記板材に固定されたフリクションリングとを備え、前記板材は、上面から下面側に向けて形成された凹部と、前記凹部の底面から前記板材の下面へ貫通しためねじ穴とを備え、前記フリクションリングは、前記凹部の前記底面に固定された環状の固定部と、前記固定部から径方向の内側に突出したフリクション片とを備え、前記めねじ穴に螺合されるおねじに対して前記フリクション片が係合することにより前記おねじの緩み止めがなされるように構成されたねじ穴付き板材を提供する。
【0008】
前記凹部の前記底面はカシメ用突起を備え、前記カシメ用突起によって前記フリクションリングの前記固定部が固定されたものとすることができる。
また、前記カシメ用突起と前記フリクションリングとが、前記板材の上面から突出していないものとして、実施することができる。これにより、所定の板厚の板材から突出するものがなく、前記板材の上面に他の物を重ねたり狭隘な箇所に設置したりすることの障害となることを防ぐことができる。
【0009】
また、前記凹部が前記板材の端面に連通していることによって、屋外での使用時等で雨水などを排出することができる。
前記のねじ穴付き板材の製造する際には、平板状の板材の上面から座ぐり加工を施すことによって前記凹部を形成すると共に、前記座ぐり加工に際して起立状態の前記カシメ用突起を削り出す工程と、前記凹部の前記底面に前記フリクションリングを配置し、前記起立状態の前記カシメ用突起を曲げ加工することによって前記固定部の固定をなす製造方法を採ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、板材に直接めねじを形成した締結構造において、緩み止め作用を果たす締結構造を実現するねじ穴付き板材を提供することができたものである。特に、この板材は、所定の板厚を維持しながら、有効な緩み止め作用を果たし得るものである。
また、本発明は緩み止め作用を果たし得るねじ穴付き板材を製造する方法であって、資源及びエネルギーの無駄を抑制することができる製造方法を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)は本発明の実施の形態に係るねじ穴付き板材の平面図、(B)は(A)のA−A線に沿う半断面図、(C)は同ねじ穴付き板材のフリクションリングの平面図。
図2】(A)は本発明の実施の形態に係るねじ穴付き板材の第1の加工工程を示す平面図、(B)は(A)のB−B線に沿う半断面図。
図3】(A)は本発明の実施の形態に係るねじ穴付き板材の第2の加工工程を示す平面図、(B)は(A)のC−C線に沿う半断面図、(C)は(A)のD部分の拡大図であってフリクションリングを載置した状態の断面図。
図4】同ねじ穴付き板材のボルトとの締結状態を示す説明図。
図5】(A)は本発明の他の実施の形態に係るねじ穴付き板材の平面図、(B)は(A)のE−E線に沿う半断面図。
図6】本発明を板材と他の部材との間隔を調整する場合に使用する形態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
図1図4に示すねじ穴付き板材は、板材11と、板材11に固定されたフリクションリング31とを備える。
板材11はめねじが直接形成された金属製の平板であり、上面12から下面13側に向けて座ぐり加工によって形成された凹部21の中に、ねじ穴23が形成されている。ねじ穴23は凹部21の底面22から板材11の下面13へ貫通しており、その内周面にめねじ24が形成されている。ねじ穴23は板材11に対してドリリング及びタッピングによって切削加工などの周知の加工方法によって直接形成されたものである。
ねじ穴23の深さはめねじの呼び径の約1/2以上であればよく、凹部21の深さは呼び径の約1/4以上であればよい。これらの深さは板材11の厚みやねじの大きさなどによって種々変更して実施することができる。
【0013】
凹部21にはフリクションリング31が取り付けられている。凹部21は、ばね鋼などの弾性を備えた金属製の薄板材で構成されており、図1(c)に示すように、環状の固定部32とその内側に形成されたフリクション片33を備える。固定部32は切れ目なくつながった環状であることが好ましが、次に述べる板材11に対する固定が可能であればC字状などの一部に切れ目を有するものであってもかまわない。フリクション片33はその先端がねじ穴23の内側に突出しているもので、この実施の形態にあっては一対が向かい合わせに形成されているが、その弾性によって軸力を加えることを条件にその具体的形態は種々変更して実施することができる。
【0014】
このフリクションリング31は、めねじ24に螺合されるボルト41のおねじ42に係合し、これに対して、その弾性によって軸力を加えることによりねじの緩み止めをなすものであり、板材11に対して確実に固定されている必要がある。そのためこの実施の形態にあっては、カシメ用突起25によってカシメ加工を行うことにより固定しているものである。固定手段としては、溶接やろう付けなど他の固定方法を採用することも可能であるが、熱によるフリクションリング31の弾性力に与える影響を考慮すると、カシメ加工を行う方が品質の安定の観点からは好ましい。
【0015】
カシメ用突起25は凹部21の底面22に環状に形成されたものであり、起立状態のカシメ用突起25の先端をフリクションリング31の固定部32に対し曲げ加工することによって、フリクションリング31をカシメ止めするものである。カシメ用突起25は切れ目なくつながった環状であることが好ましが、フリクションリング31固定が可能であれば一部に切れ目を有するものであってもかまわない。
【0016】
さらに詳しくはこの実施の形態にあっては、カシメ用突起25の内側に平面状の載置面26が形成され、載置面26の上にフリクションリング31が載せられ支持された状態でカシメ用突起25によるカシメ止めがなされる。図3(C)に示すように、載置面26は凹部21の底面22よりもわずかに高い位置に配置されている。この底面22からの載置面26の突出高さaは0.5〜2mm程度とすること適当であり、この段差によってカシメ加工用の金型をカシメ用突起25の基端よりもさらに深く差し入れることができ、カシメ用突起25によるカシメ止めが確実に行われ、強固な固定が実現する点で有利である。底面22と載置面26は互いに平行であってねじ穴23の軸方向と直交していることが最も好ましいが、フリクションリング31の形態や方式などによって変更して実施してもかまわない。
【0017】
カシメ用突起25とフリクションリング31とは、全体が凹部21の中に収まっており、板材11の上面12の上面から突出していないものとして、板材11の上面12の上面から何も突出しない状態とすることが、板材11の上面に他の物を重ねたり狭隘な箇所に設置したりすることの障害となることを防ぐことができる点で有利である。その際、ボルト41の先端はフリクションリング31の上方にほぼ1山(1周)分突出する程度であればよいため、ボルト41を含めて何も突出しない状態(図4の状態)とするには、凹部21の深さ(板材11の上面12と凹部21の底面22との間の長さ)は、このボルト41の必要最小限の突出長さを考慮して決定することができるし、ボルト41の先端が突出しても差し支えない場合には、凹部21の深さをさらに浅いものにしてもかまわない。
【0018】
またこの実施の形態にあっては、凹部21の一部分が連通部15として、板材11の端面14に開口しているものである。これによって屋外での使用時等で雨水などを排出することができたり、ごみなどを掃き出したりすることができ、水や埃のたまりにくい構造とすることができる。
【0019】
ただし、図5に示すように凹部21を板材11の中央に設けることにより、連通部15を設けずに実施することも可能である。
【0020】
本発明にかかるねじ穴付き板材は種々の方法で製造することができるが、その一例を図2及び図3を参照して説明する。
図2に示ように、板材11となる所定形状の平板状の金属製板材を用意して、その上面12又は下面13からドリリング及びタッピングによってねじ穴23とめねじ24とを形成する。その際、ねじ穴23とめねじ24の完成状態の長さだけを形成することもできるが、板材11の全厚みにわたりねじ穴23とめねじ24を形成してもよい。
【0021】
次に図3に示すように、ねじ穴23の外側に座グリ加工を上面12から施して凹部21を形成する。その際カシメ用突起25の内側は円柱状に切削し、外側ではドーナツ状に切削することによって、起立した状態のカシメ用突起25を削り出す。その際、切削により形成される周面をわずかに傾斜させて、カシメ用突起25の断面をテーパー状にしてもよい。またカシメ用突起25の内側を外側よりもわずかに浅く切削することによって、載置面26と底面22との間に前述の段差を設けることができる。
【0022】
この載置面26の上に、フリクションリング31を載せて(図3(C)参照)、カシメ用突起25に対して曲げ加工を施して塑性変形させ、フリクションリング31の固定部32に被せるようにして押圧してカシメ止めすることにより、フリクションリング31の固定部32がめねじ24で固定された、図1の完成状態を得る。
【0023】
他の方法としては、上面12の全面を切削することによってカシメ用突起25のみを残すこともできるが、この方法では板材11の強度が低下するとともに、資源及びエネルギーの無駄が多くなってしまうのに対して、上述の方法ではこのような無駄を抑制することができる。
【0024】
板材11の形態は種々変更して実施することができるものであり、ナットを用いることなく板材11と他の部材43とを締結する場合に適用することができる。従来は特許文献2に示されるようなクリップナットを用いたり、ナットを板材に溶接していたが、いずれの場合にあっても板面よりナットが飛び出す形になってしまっていた。これに対して図4の例では、板面よりもめねじ24を突出させることなくボルト41による締結が可能となり、しかも、フリクションリング31による緩み止めをなすことができるものである。なお、この構造は、独立した二枚の板材の接合構造や、パイプの端に設けられたフランジ同士の接合によりパイプ同士を接合する構造や、種々の押さえ板やブラケットや機械や装置類の取り付け板などの固定構造など、種々の構造に適用することができる。
【0025】
図6は他の部材43と板材11との間の間隔を調整し、他の部材43のレベリングを行う場合に使用する例を示す。この例では下方の板材11に対して、上方の他の部材43を配置する際、ボルト41のめねじ24へのねじ込み程度を調整することにより、ボルト41の軸部先端に接触している他の部材43の位置を調整するものである。従来のようにナットを板材11に溶接している場合には、板材11と他の部材43との間の間隔はナットの厚み未満には調整することができなかったが、本発明にあっては、板材11の上面から突出するものは何も存在せず、ボルト41だけが突出するため、他の部材43との間の間隔を0mmまで調整することが可能となり、しかも、フリクションリング31による緩み止めをなすことができるものである。なお図では、板材11と他の部材43を上下に並べて配置しているが、左右に並べて配置するなど、図の例に示す方向に限定して理解されるべきではない。なお、板材11及び他の部材43は本発明の機能を発揮するものであれば単独の部材であってもかまわないし、部品の一部を構成するであってもかまわないし、全体が板状のものに限定して理解させるべきではない。
【符号の説明】
【0026】
11 板材
12 上面
13 下面
14 端面
15 連通部
21 凹部
22 底面
23 ねじ穴
24 めねじ
25 カシメ用突起
26 載置面
31 フリクションリング
32 固定部
33 フリクション片
41 ボルト
42 おねじ
43 他の部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6