【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例に係る木材用塗料は、塗料の物性として、密着力、伸び率及び分光透過率曲線を測定し、塗料の性能として、促進耐候性試験を行うことにより評価を行った。以下に試験体作成方法と試験方法の詳細を記載する。
【0038】
促進耐候性試験の試験体は、基材となる木材(スギ材)に、木材用塗料の試験体作成施工仕様を施したものを試験体とした。試験体作成施工仕様は、単一の塗料からなる木材用塗料(第1実施形態)について表1に記載し、下塗塗料と上塗塗料とからなる木材用塗料(第2実施形態)について表2に記載する。なお、試験体作成施工仕様は、塗装条件を同じ条件にするためのものであり、もちろん、実施形態の塗装方法が試験体作成施工仕様に記載された範囲に限られるものではない。
【0039】
塗膜の伸び率及び強度と分光透過率の試験体は、離型剤(油)を塗布した基材(ガラス板)に、木材用塗料の試験体作成施工仕様を施し、乾燥後に、基材から剥がした塗膜を試験体とした。なお、工程1の素地調整は省略している。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
塗膜の伸び率は、建築用塗膜防水材(JIS A 6021:2011)6.6引張性能試験に準拠して伸び率(%)を測定した。
【0043】
塗膜の強度は、上述した塗膜の伸び率の測定の際に伸び応力を測定し、測定における最大伸び応力を試験体の断面積で割った値を強度(N/mm
2)として求めた。
【0044】
分光透過率曲線は、分光光度計V−570(日本分光株式会社)を用いて、190〜800nmの波長の光の分光透過率曲線を測定した。
【0045】
耐候性は、塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)(JIS K 5600−7−7:2008)に準拠して評価を行った。耐候性の評価は、促進耐候性試験5,000時間における試験体の割れの等級(JIS K 5600−8−4)と剥がれの等級(JIS K 5600−8−5)を欠陥の大きさの等級(JIS K 5600−8−1)を用いて評価した。等級による評価は、10倍に拡大しても視認できない場合が0等級、10倍に拡大してようやく視認できる場合が1等級、正常に補正された視力でやっと視認できる場合が2等級、正常に補正された視力ではっきり視認できる(0.5mm以下)場合が3等級、0.5〜5mmが4等級、5mm以上が5等級である。もちろん、等級が小さい方が耐候性に優れ、耐候性に優れる木材用塗料であるためには、3等級以下であるものが好ましい。なお、キセノンランプ法による促進耐候性試験の時間と実際の耐用年数(暴露時間)との関係は、諸説あるが、キセノンランプ法による促進耐候性試験の300時間が実際の耐用年数の1年に相当すると考えられる。
【0046】
以下に、試験例について述べる。第1実施形態に係る木材用塗料の試験例(試験例1〜9)の原材料配合量(質量%)と性能等を表3に記載し、第2実施形態に係る木材用塗料の試験例(試験例10)の原材料配合量(質量%)と性能等を表4に記載する。なお、原材料配合量は、揮発分を除き、不揮発分換算で記載し、揮発分(希釈剤を含む)に、原材料に含まれる揮発分を加算して記載した。また、試験例
1,2,4及び10が実施例となる試験例であり、試験例5〜9が比較例となる試験例であ
り、試験例3は参考例となる試験例である。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
試験例1は、バインダー樹脂が、アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂A(ヘキサメチレンジイソシアネート)からなる、ウレタン変性アクリル樹脂であり、それぞれ有機溶媒溶解樹脂を使用した。バインダー樹脂の平均分子量は、約35,000であり、ガラス転移温度は、約−10℃であった。なお、イソシアネート樹脂は、ポリオール樹脂と反応硬化するため、塗装する直前に混合して、木材用塗料とした(以下、全ての試験例について同じ。)。なお、希釈溶剤は、主に、酢酸エステルとミネラルスピリットを用いた。
【0050】
試験例1に使用した紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードアミン系紫外線吸収剤とHALS(ヒンダードアミン系光安定剤)とを併用することにより、
図1(試験例1と試験例2の木材用塗料から形成された塗膜の分光透過率曲線)に示すように、紫外線領域である190〜400nmの波長の光を好適に吸収させることができるものになっている。
【0051】
試験例1に使用した艶消し剤は、有機フィラー系艶消し剤(ポリオレフィン系艶消し剤)と無機フィラー系艶消し剤(ホワイトカーボン)を併用することによって、少ない添加量で効率よく艶を低下させることができるものになっている。
【0052】
試験例1の木材用塗料は、弁柄などからなる着色顔料を含有する着色木材用塗料であり、塗膜の伸び率が64.5%、塗膜の強度が15.8N/mm
2であり、耐候性(キセノン5,000hの等級)が0等級の優れた性能を有するものであった。
【0053】
試験例2は、試験例1の木材用塗料から着色顔料を除いたクリヤーの木材用塗料である。試験例2の木材用塗料は、耐候性が1等級であり、優れた耐候性を有するものであるが、試験例1の木材用塗料と比較すると、可視光域の透過率が高く(
図1)、可視光域に対する遮蔽効果が劣るため、耐候性が僅かに劣るものとなった。
【0054】
試験例3は、試験例1の木材用塗料からバインダー樹脂を変更した木材用塗料である。試験例3のバインダー樹脂は、アルキドポリオール樹脂とイソシアネート樹脂B(ジフェニルメタンジイソシアネート)からなる、ウレタン変性アルキド樹脂であり、それぞれ有機溶媒溶解樹脂を使用した。バインダー樹脂の平均分子量は、約32,000であり、ガラス転移温度は、約−5℃であった。試験例3の木材用塗料は、木材用塗料から形成される塗膜の伸びと強度は満たされているものの、耐候性に僅かに劣るウレタン変性アルキド樹脂であるため、耐候性が3等級であり、試験例1のウレタン変性アクリル樹脂と比較すると耐候性に劣るものであった。
【0055】
試験例4は、試験例1の木材用塗料から紫外線吸収剤を除いた木材用塗料である。試験例1の木材用塗料と比較すると、紫外線を透過してしまい、耐候性が3等級と劣るものであった。
【0056】
試験例5は、試験例1の木材用塗料からバインダー樹脂を変更した木材用塗料である。試験例5のバインダー樹脂は、ポリエステル樹脂であり、有機溶媒溶解樹脂を使用した。バインダー樹脂の平均分子量は、約18,000であり、ガラス転移温度は、約−10℃であった。試験例5の木材用塗料は、塗膜の伸び率が100%を超えているものの、塗膜の強度が満たされないため、耐候性は5等級であった。
【0057】
試験例6は、試験例1の木材用塗料からバインダー樹脂を変更した木材用塗料である。試験例6のバインダー樹脂は、ポリエステル樹脂であり、有機溶媒溶解樹脂を使用した。バインダー樹脂の平均分子量は、約18,000であり、ガラス転移温度は、約−35℃であった。試験例6の木材用塗料は、塗膜の伸び率が100%を超えているものの、塗膜の強度が満たされないため、耐候性は5等級であった。
【0058】
試験例7は、試験例1の木材用塗料からバインダー樹脂を変更した木材用塗料である。試験例7のバインダー樹脂は、ポリエステルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂A(ヘキサメチレンジイソシアネート)からなる、ウレタン樹脂であり、それぞれ有機溶媒溶解樹脂を使用した。バインダー樹脂の平均分子量は、約50,000であり、ガラス転移温度は、約12℃であった。試験例7の木材用塗料は、塗膜の強度が20N/mm
2を超えるものの、塗膜の伸び率が25%を満たさず、硬くて脆いものであった。このため、耐候性試験において、塗膜に割れが多く発生したため、耐候性は5等級であった。
【0059】
試験例8は、試験例1の木材用塗料からバインダー樹脂を変更した木材用塗料である。試験例7のバインダー樹脂は、ポリエステルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂B(ジフェニルメタンジイソシアネート)からなる、ウレタン樹脂であり、それぞれ有機溶媒溶解樹脂を使用した。バインダー樹脂の平均分子量は、約50,000であり、ガラス転移温度は、約15℃であった。紫外線吸収剤は、複数種の組み合わせではなく、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の1種類のみを使用した。試験例8の木材用塗料は、木材用塗料から形成された塗膜のその強度が20N/mm
2を超えるものの、塗膜の伸び率が25%を満たさず、硬くて脆いものであり、また、
図2に示す如く、紫外線域の吸収幅がやや狭い(190〜350nm)ため、耐候性は5等級であった。
【0060】
試験例9は、他社製市販品の木材用塗料であり、アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂A(ヘキサメチレンジイソシアネート)からなるウレタン変性アクリル樹脂が使用されているものである。分光透過率曲線は
図3に示すように、紫外線域の吸収幅が狭い(190〜300nm)ものであった。試験例9の木材用塗料は、木材用塗料から形成された塗膜のその強度が20N/mm
2を超えるものの、塗膜の伸び率が25%を満たさず、硬くて脆いものであり、また、紫外線域の吸収幅が狭く、耐候性試験において、塗膜に亀裂も入り、耐候性は5等級であった。
【0061】
試験例10は、第2実施形態に係る木材用塗料であり、下塗塗料がウレタン変性アルキド樹脂であり、上塗塗料がウレタン変性アクリル樹脂である。着色顔料は、下塗塗料と上塗塗料に添加され、紫外線吸収剤は、上塗塗料に2種類の紫外線吸収剤とHALSを添加したものである。第2実施形態に係る木材用塗料から形成された塗膜は、密着力が18.2N/mm
2、伸びが63.3%であり、耐候性が0等級の優れたものであった。
【0062】
試験例1〜10の結果から以下のことを把握することができる。
【0063】
実施形態の木材用塗料は、実施形態の木材用塗料から形成される塗膜の伸び率が25〜100%であることにより、木材の伸縮に対して追従することができる。このため、経時的な塗膜の剥がれや欠損を抑制し、耐候性の向上を図ることができる。より好ましくは、塗膜の伸び率は、30〜70%である。
【0064】
ここで、実施形態の木材用塗料から形成される塗膜の強度が5〜20N/mm
2であることにより、木材から剥がれ難く、木材の伸縮に対して追従することができる。このため、経時的な塗膜の剥がれや欠損を抑制し、耐候性の向上を図ることができる。より好ましくは、塗膜の強度は、10〜20N/mm
2である。
【0065】
以下には、実施形態から把握されるその他の技術的思想について記載する。
【0066】
バインダー樹脂の平均分子量が、20,000〜50,000であることを特徴とする木材用塗料。これによれば、木材用塗料は、塗装作業性に優れ、木材用塗料から形成される塗膜の伸び率にも優れるものとすることができる。
【0067】
バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)が、−30〜10℃であることを特徴とする木材用塗料。これによれば、木材用塗料は、木材用塗料から形成される塗膜が木材の伸縮に追従することができる可撓性を有し、適度な可撓性により塗膜への汚れの付着が少なく、塗膜の美観を保つことができる。
【0068】
屈折率が低い(屈折率:1.50未満)有機フィラー系艶消し剤と、屈折率が高い(屈折率:1.50以上)無機フィラー系艶消し剤と、を含有することを特徴とする木材用塗料。これによれば、木材用塗料は、少ない添加量の艶消し剤で効率よく塗膜の艶を低下させることができる。
【0069】
木材用塗料は、上塗塗料と下塗塗料ととから構成され、上塗塗料のバインダー樹脂がアクリル樹脂を含有するものであり、下塗塗料のバインダー樹脂がアルキド樹脂を含有するものであることを特徴とする木材用塗料。これによれば、アルキド樹脂が木材への密着性に優れ、アクリル樹脂が耐光性に優れるため、木材用塗料から形成される塗膜は、耐候性に優れるものとすることができる。
【0070】
アクリル樹脂がウレタン変性アクリル樹脂であり、アルキド樹脂がウレタン変性アルキド樹脂であることを特徴とする木材用塗料。これによれば、ウレタン変性アルキド樹脂がウレタンの特性により木材への密着性により優れ、ウレタン変性アクリル樹脂が耐光性に優れるため、木材用塗料から形成される塗膜は、耐候性により優れるものとすることができる。
【0071】
バインダー樹脂がアルキド樹脂を含有するものである下塗塗料と、バインダー樹脂がアクリル樹脂を含有するものである上塗塗料、からなる木材用塗料セット。これによれば、木材用塗料セットによって塗装された塗膜は、耐候性に優れたものとすることができる。
【0072】
バインダー樹脂がアルキド樹脂を含有するものである下塗塗料を塗装する工程と、バインダー樹脂がアクリル樹脂を含有するものである上塗塗料を塗装する工程、からなる木材の塗装方法。これによれば、塗装された塗膜は、耐候性に優れたものとすることができる。