(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1液晶素子における複数の前記光出射口のうち少なくとも1つは、前記光入射口から入射させる光の主進行方向に対して平面視において斜交するように配置されている、
請求項2に記載の光走査装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態
A1.光走査装置の全体構成
図1は、第1実施形態の光走査装置の全体構成を概略的に示す図である。詳細には、
図1(A)は光走査装置の平面図、
図1(B)は光走査装置の側面図である。第1実施形態の光走査装置は、第1液晶素子100、第2液晶素子200、並びにこれらの接続された駆動装置(図示省略)を含んで構成されている。図示のように、第1液晶素子100と第2液晶素子200とは、互いの主面が略直交するようにして配置されている。
【0011】
第1液晶素子100は、平板状の液晶素子であり、光源300からの光(レーザ光)を一端側から入射させると、この光を素子内で導波しつつ、その進行方向をxy平面内において自在に曲げて他端側から出射させることができる。
【0012】
第2液晶素子200は、平板状の液晶素子であり、第1液晶素子100から出射した光を一面側から入射させると、上記のxy平面と直交するxz平面内において光の進行方向を自在に曲げて他面側から出射させることができる。図示のように、第2液晶素子200は、光を入射させる一面側を第1液晶素子100の他方端に近接させて配置されている。これらの第1液晶素子100と第2液晶素子200を用いることで、互いに直交する2つの平面内で光の進行方向を自在に曲げられるので、全体として二次元的な配光制御を行うことができる。
【0013】
A2.第1液晶素子の詳細構成
図2は、第1液晶素子の原理的構成について説明するための模式的な平面図である。また、
図3は、第1液晶素子の原理的構成について説明するための模式的な断面図である。
【0014】
図2に示す第1液晶素子100において、各電極1a、1bは、それぞれ折線状にパターン形成された部位を有しており、お互いの折線状部位を噛み合わせて配置されている。電極2は、各電極1a、1bの少なくとも上記した折線状部位と重なるように配置されている。各電極1a、1b、電極2は、それぞれ、例えばガラス基板等の基板5、6の一面上に設けられている。図示の例では、各電極1a、1bの折線状部位は、その幅(図中上下方向の長さ)が段階的に大きくなっている。
【0015】
また、各電極1a、1bと電極2の間には液晶層3が設けられている。液晶層3は、例えば負の誘電率異方性を有するネマティック液晶材料を用いて構成されている。各基板5、6にはラビング処理などの一軸配向処理が施されており、一方向への配向規制力を有する。これにより、液晶層3は、各基板面に対して比較的高い(例えば88.5°〜89.9°程度)のプレティルト角を有して、各電極1a、1bと電極2との間で略垂直配向している。
図3に示すように、各基板5、6は、配向規制力の方向が互い違い(アンチパラレル)となるように配置されている。
【0016】
このような第1液晶素子100に対して、各基板5、6の端部に設けられた光入射口7から両基板間の液晶層3に対して、両基板の基板面と略平行方向にレーザなどの光Lを入射させる。このとき、光Lの入射方向は、
図2に示すように各電極1a、1bの折線状部位の電極エッジに対して垂直ではない方向に設定する。別言すれば、各電極1a、1bの折線状部位(折線状電極)は、光入射口7から入射させる光の主進行方向(図中では左右方向)に対して平面視において斜交する電極エッジを1つ以上有するように構成される。そして、各電極1a、1bと電極2の間に印加する電圧によって液晶層3の液晶分子の配向状態を変化させることで屈折率分布を形成し、その部分を透過する光Lの進路をスネルの法則により制御することができる。
【0017】
詳細には、各電極1a、1bと電極2の間に印加する電圧が0Vである場合(電圧OFF)には、液晶層3は初期状態である略垂直配向となっているので、屈折率としては液晶層3の層厚方向(セル厚方向)に縦長の屈折率楕円体となる(
図3(A)参照)。これに対して、例えば電極1aと電極2の間に液晶材料のしきい値電圧を超える電圧を印加し、電極1bは電極2と同電位とした場合(電圧ON)には、誘電率異方性が負の液晶材料を用いていることから、液晶層3の電極1aと電極2に挟まれた領域では極角方向としては液晶分子の長軸が電界と直交方向へ向かうように液晶層3の配向方向が変化する(
図3(B)参照)。液晶分子の傾斜方向は一軸配向処理の方向(配向規制力の方向)に一致する。このとき、液晶層3の液晶分子の配向状態が互いに異なる領域同士の境界8が生じる。この境界8は、平面視においては、光入射口7から入射させる光の主進行方向に対して斜交する境界となる(
図2参照)。
【0018】
図4は、第1液晶素子への入射光の状態を示す模式的な断面図である。ここでは、第1液晶素子100に光入射口7から入射されるレーザ光Lが図示のように液晶層3の層厚方向と同じ方向に偏光しているものとする。
図4に示すように、電極1aと電極2の間での電圧印加によって液晶層3の配向状態が水平配向かそれに近い状態となっている領域では、レーザ光Lに対する屈折率は相対的に小さい。また、電圧無印加で液晶層3の配向状態が初期の略垂直配向となっている領域では、レーザ光Lに対する屈折率は相対的に大きい。図示のように、屈折率が相対的に大きい領域と相対的に小さい領域との間には境界8が生じる。また、液晶層3を挟んで光入射口7と対向する他端側には、液晶層3から各基板面と略平行方向に光を出射させるための光出射口9が設けられている。液晶層3を通過した光はこの光出射口9から出射する。
【0019】
図5は、上記した屈折率分布と入射光の偏向について概念的に示した平面図である。図示の電極1aは1つの折線状部位(三角形状部位)を有している。そして、電極2は、少なくとも電極1aの折線状部位と平面視で重なるようにして配置されている。この電極1aと電極2の間に電圧を印加すると、両者の重なる領域において液晶層3に配向変化を生じ、当該領域の屈折率が相対的に低くなる。図示のように、屈折率の大きさが相対的に異なる境界8が二ヶ所存在する。このような境界8にレーザ光Lを入射させた場合には、境界8がレーザ光Lの主進行方向に対して平面視で斜交していることから、境界8を挟んで生じた屈折率差によってレーザ光Lの進行方向を曲げること(偏向すること)ができる。上述した
図2に示した構成の第1液晶素子100では、このような屈折率差を生じる境界8が多数得られるので、各境界8を通過するたびにレーザ光Lの進行方向が曲げられることになり、全体としてレーザ光Lの進路を大きく曲げることが可能になる。
【0020】
なお、入射光であるレーザ光の波長は、液晶層3に用いる液晶材料の光学特性に合わせて選定することが望ましい。別言すれば、レーザ光の波長に合わせて液晶材料を選定することが望ましい。具体的には、液晶材料による光の吸収が少ないほど望ましい。一般的な液晶材料では、赤外の長波長側や、紫外の短波長側で吸収が大きいので、可視光から近赤外光の領域が望ましく、例えば、850nm、905nm、970nmなどが望ましい。
【0021】
図6は、一実施形態の第1液晶素子の構成を示す平面図である。また、
図7は、第1液晶素子の構成を示す断面図である。なお、
図7の断面図は、
図6に示すa−a線方向の断面を示している。また、
図6では、説明の便宜上、一部構成を点線によって示している。
【0022】
基板11および基板12は、それぞれ例えばガラス基板であり、互いの一面側を対向させて配置されている。電極13a、電極13bは、それぞれ基板11の一面に設けられている。電極14は、基板12の一面に設けられている。
【0023】
電極13aは、平面視において複数(図示の例では5つ)の鋭角な下向きの凸部を有した鋸波状電極33aと、この鋸波状電極33aと接続された配線部とを有する。同様に、電極13bは、平面視において複数(図示の例では5つ)の鋭角な上向きの凸部を有した鋸波状電極33bと、この鋸波状電極33bと接続された配線部とを有する。そして、電極13aと電極13bとは、互いの鋸波状電極33a、33bを噛み合わせて、各々の鋭角な凸部が1つずつ交互に並ぶように配置されている。両者の鋸波状電極の相互間には、絶縁のための隙間が設けられている。
【0024】
低屈折率膜15は、基板11の一面において各電極13a、13bを覆って設けられている。同様に、低屈折率膜16は、基板12の一面において電極14を覆って設けられている。これらの低屈折率膜15、16は、液晶層19の液晶材料の屈折率よりも相対的に低い屈折率を有する膜である。
【0025】
配向膜17は、基板11の一面において低屈折率膜15を覆って設けられている。同様に、配向膜18は、基板12の一面において低屈折率膜16を覆って設けられている。各配向膜17、18は、ラビング処理などの一軸配向処理が施されており、一方向への配向規制力を有する。図示の例では、各配向膜17、18は、平面視においてシール材20よりも内側の領域にのみ設けられている。
【0026】
液晶層19は、基板11と基板12の間に設けられており、各配向膜17、18と接して各々からの配向規制力を受けて液晶分子の初期配向状態(電圧無印加時の配向状態)が設定されている。本実施形態の液晶層19は、誘電率異方性が負の液晶材料を用いて構成されており、初期配向状態が略垂直配向状態に設定されている。
【0027】
シール材20は、液晶層19を封止するためのものであり、基板11と基板12の間に設けられている。本実施形態のシール材20は、平面視において枠状に形成されており、かつ、少なくとも各電極13a、13bの鋸波状電極33a、33bを包含するように形成されている。また、シール材20の一部(図示の例では左辺中央)に注入口(開口)21が設けられており、液晶層19の形成時にはこの注入口21から液層材料が注入される。
【0028】
エンドシール材22は、注入口21を塞ぎ、かつ光ファイバ23を固定するためのものであり、基板11と基板12の端部であって注入口21の近傍に設けられている。エンドシール材22は、例えば紫外線硬化性樹脂である。
【0029】
光ファイバ23は、その一端側が注入口21の内部に配置されており、他端側は外部に露出している。この光ファイバ23は、基板11および基板12の端部から液晶層19に対して、その層厚方向と垂直な方向から光を入射させるためのものである。
【0030】
なお、本実施形態では、この光ファイバ23と上記の注入口21およびエンドシール材22が「光入射口」に対応しており、この光入射口と平面視で対向する基板11と基板の他端側の一部が「光出射口」に対応する。
【0031】
図8および
図9は、第1液晶素子の製造方法について説明するための平面図である。
まず、一対のガラス基板を複数用意する。例えば、基板上に予めITO(インジウム錫酸化物)膜などの透明導電膜が形成されたものを用いる。透明導電膜の形成方法としてはスパッタ法や真空蒸着法などがある。
【0032】
このような一対のガラス基板上の透明導電膜をパターニングすることにより、各電極13a、13bを有する基板11を形成するとともに(
図8(A))、電極14を有する基板12を形成する(
図8(B))。各電極13a、13bの相互間距離は、例えば100μm程度とする。ここでは電極13a、13bの2つを設けるものとしたが、さらに多くの互いに独立した電極を設けてもよい。なお、各電極13a、13b、電極14は、ITO膜などの透明導電膜に限らず、導電性があれば光を透過しないもの(遮光性のもの)であっても構わないので金属膜などを用いることもできる。ただし、吸光性は低いことが好ましい。理想的には吸光性が無いことが望ましい。また、本例では図中の左側面の入光部分にダミー電極を設けているが、省略してもよい。
【0033】
次に、基板11の一面に低屈折率膜15を形成する(
図8(C))。また、基板12の一面に低屈折率膜16を形成する(
図8(D))。低屈折率膜15、16は、例えば可視光に対しても透明性の高い材料を用いて形成することができるが、用いるレーザ光の波長(例えば赤外線領域)に対し透明であればそれに限らない。各低屈折率膜15、16の形成方法としては、スパッタ法、真空蒸着法などの真空プロセス、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット、バーコート、スリットコートなどの各種印刷方法、スピンコート、ディップ法(ラングミュアブロジェット法含む)などが挙げられる。例えば、バーコートによりシリカ系の低屈折率膜材料をコーティングし、その後ホットプレートにて溶媒を揮発させ、さらにクリーンオーブンにて焼成を行うことで低屈折率膜を形成することができる。焼成条件は、例えば150℃で1時間である。各低屈折率膜15、16の膜厚は、例えば1.5μm、屈折率は1.46である。
【0034】
なお、ここではシリカ系の無機低屈折率膜を例示したが、液晶材料よりも低い屈折率であればこれに限らない。例えばフッ素系樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂類やフッ素系金属膜(フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム等)及びこれらとシリカの混合材料などを用いることも可能である。なお、光散乱しない膜、すなわち曇り度(Haze)の低い膜であることが望ましい。また、膜厚についても、1.5μmを例示したが、それより薄くても構わない。低屈折率膜15、16は、導波路としての第1液晶素子100においてクラッド層として機能するものである。クラッド層はレーザ光のしみ出しを抑えて全反射を生じさせるに足りればよいため、膜厚としては100nm以上あれば機能としては十分である。但し、第1液晶素子100内の各電極の段差の影響が懸念されるため、膜厚はある程度の厚さがあることが望ましい。なお、量産においてはフレキソ印刷を行うことがあるが、通常の条件において500〜800nm程度の厚さを得られることが確認されており、十分な厚さを確保できることがわかる。
【0035】
また、各低屈折率膜15、16の形成範囲は図示のものよりも広くても狭くてもよい。少なくとも後述するレーザ光などの光が通過する経路に形成されていれば十分である。但し、各基板の端子部分(外部回路との接続部分)には形成しないことが望ましい。また、樹脂系の膜など基板への密着性があまり高くない材料を用いる場合には、特にシール材20と重なる部分には低屈折率膜15、16が形成されていないことが望ましい。従って、低屈折率膜15、16を形成するにはマスクスパッタや各種印刷法を用いて必要な部分にのみ形成することが望ましく、スピンコートなどで全面に形成した場合は、フォトリソグラフィ等によりパターニング(ドライエッチング、リフトオフ等による)をすることが望ましい。もしくは、各種印刷法(フレキソ印刷など)により端子上などにレジスト膜をパターン塗布し、その上に低屈折率膜を全面形成し、最後にリフトオフして端子上などにある絶縁膜を除去してもよい。
【0036】
なお、各低屈折率膜15、16の上にパッシベーション膜などの絶縁膜を設けてもよい(図示せず)。これは基板間ショート防止の効果がある。この場合には、低屈折率膜と同様に端子部分には形成されないことが望ましい。また密着性の悪い材料についてはシール材20と重なる部分には形成されないことが望ましい。
【0037】
次に、基板11、基板12の各々に配向膜17、18を形成する。ここでは各々に垂直配向膜をパターン形成した(
図8(E)、
図8(F))。パターン形成には、例えばフレキソ印刷、インクジェット法などを用いることができる。例えば、印刷性・密着性に優れ、側鎖に剛直な骨格(液晶性のものなど)を有するタイプの垂直配向膜材料をフレキソ印刷によって適当な膜厚(例えば500〜800Å程度)を形成する。垂直配向膜材料を印刷後、熱処理を所定条件で行う(例えば160〜250℃、1〜1.5時間焼成)。
【0038】
なお、ここでは有機配向膜(ポリイミド)として上記のタイプのものを用いたが、それに限らない。また無機の配向膜(主鎖骨格がシロキサン結合(Si-O-Si結合)で形成されているものなど)を用いてもよい。
【0039】
その後、基板11と基板12の各配向膜17、18に対して配向処理を行う。ここでは、ラビング処理を行い、その条件である押し込み量を0.3〜0.8mmとする。配向処理方向については、基板11と基板12とを重ね合わせたときに、各基板の配向処理方向が互い違いで平行(アンチパラレル)となるように配向処理方向を設定する。図中において、配向処理方向を矢印で示している。なお、配向処理方法はこれに限られないし、その配置についてもアンチパラレルに限られない。
【0040】
次に、基板11の一面にシール材20を形成する(
図9(A))。ここでは入射させる光の波長に対して光学的に透明であって散乱のない材料を用いる。例えば、エポキシ系、アリル系、フッ素系、アクリル系等の光硬化型のシール材を用いることができる。基板11の一面上に、ギャップコントロール材を適量(例えば2〜5wt%)含んだシール材20を例えばディスペンサによって形成する。また、ここではシール材20に添加するギャップコントロール材の径は液晶層19の層厚が5μm程度となるようにした。なお、液晶層19の層厚はこれに限らない。また、シール材20は基板12の一面に形成してもよい。ギャップコントロール材の材質は入射させる光の波長に対して光学的に透明であることが透過率の観点からは望ましい。ギャップコントロール材の材質が、入射させる光の波長に対して光学的に不透明であることも散乱の観点からは好ましい。ギャップコントロール材の材質が、シール材との間で屈折率差が少ないことも出射光の散乱の観点から好ましい。
【0041】
さらに、シール材20に添加するギャップコントロール材の径を変えたパターンを注入口部分などに形成してもよい。これはレーザ光の入光を行いやすくするためのものであるが、必須ではない。例えば、注入口となる注入口21の部分の長さを例えば10mmとし、そのうち液晶層19に近い側の5mm分のシール材20には50μm径のギャップコントロール材を添加し、残り5mm分のシール材20には150μm径のギャップコントロール材を添加することができる。
【0042】
ディスペンサを用いる場合、複数のシリンジヘッドを用い、各部分でギャップ径の異なるギャップコントロール材が添加されたシール材をそれぞれのヘッドで形成すればよい。また、例えばスクリーン印刷を用いる場合、基板11と基板12に対してそれぞれギャップ径の異なるギャップコントロール材が添加されたシール材を所定のパターンでそれぞれスクリーン印刷することで注入口付近に径を変えたパターンを形成することができる。
【0043】
ここで、液晶層19の層厚について説明する。本実施形態の液晶素子の場合、光を曲げる角度(配光制御角)は電極パターンや用いる液晶材料の複屈折で決まるため、液晶層19の層厚にはほとんど依存しない。一方、液晶層19の電界への応答性については層厚の2乗に反比例するため、層厚が薄いほど高速応答化が可能である。他方で、層厚が厚いほど光を入射させるのが容易であるが、上記のように注入口付近(レーザ入光部分)を厚くすれば入光効率を高くできるので、その場合には光制御部分の液晶層19の層厚は薄いほど好ましい。具体的には、液晶層19の層厚は、例えば2μm〜10μmの間で適宜選択することができる。なお、層厚は導光する光の波長よりは厚いことが好ましい。
【0044】
なお、他方の基板(例えば基板12)上にギャップコントロール材を散布するか、もしくはリブ材を形成してギャップコントロール処理を行ってもよい。例えば、粒径5μmのプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布するか、もしくは高さ5μmのリブ材による柱を形成するとよい。液晶素子の外形サイズは概ね10mm角以上の場合にはギャップコントロール処理を行う事が望ましい。このとき、ギャップコントロール材の径もしくはリブ柱の高さは、シール材20に添加したギャップコントロール材の径とほぼ同等となるようにする。また、液晶層19の導光部分にはギャップコントロール材もしくはリブ材が配置されないようにギャップコントロール処理を行う事が望ましい。
【0045】
次に、基板11と基板12の一面同士を対向させて両者を重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理もしくは紫外線照射することにより、シール材20を硬化させる(
図9(B))。ここでは、例えば3000mJ/cm
2の紫外線照射によりシール材20を硬化させる。
【0046】
次に、基板11と基板12の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層19を形成する(
図9(C))。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行うことができる。ここでは、例えば誘電率異方性△εが負、屈折率異方性△nが約0.25(no:1.51、ne:1.76)の液晶材料を用いる。なお、ここではカイラル材を添加されていない液晶材料を用いる。液晶材料の注入方法としては毛細管現象を利用した注入方法でもよい。配光制御角を広くするという観点では、より高い屈折率異方性を有する液晶材料を用いることが望ましい。なお、液晶材料の封入は注入法に限らず滴下法でも構わない。
【0047】
液晶材料の注入後、その注入口21にエンドシール材22を塗布し封止する(
図9(C))。エンドシール材としては、例えば紫外線硬化性樹脂を用いることができる。また、導光する光の波長に対し光学的に透明で散乱のないシール材を用いる。例えばエポキシ系、アリル系、フッ素系、アクリル系等のシール材を用いることができる。
【0048】
次に、小径の光ファイバ23(例えば、クラッドを含めた径の直径125μm)をエンドシール材22が塗布されている注入口に挿入する(
図9(C))。このとき、光ファイバ23の方向が狙いとする光の導光方向になるよう挿入し固定することが望ましい。そのため、位置合わせのガイドなどを用いることが望ましい(図示せず)。光ファイバ23を固定した状態でエンドシール材22に紫外線を所定量照射しエンドシール材22を硬化させる。以上により、こうして導光式の第1液晶素子100が完成する。
【0049】
なお、ここではクラッド層を有する光ファイバ23を想定して説明したが基本的に空気層がクラッドとして働くため、クラッド層は無くても構わない。この場合、光ファイバ23のコアの屈折率よりも低屈折率膜15、16の屈折率の方が低いことが好ましい。また、光ファイバ23は、偏波保持光ファイバが好ましい。上記構成の場合には、偏光軸方向は液晶素子の基板平面に対して垂直方向であることが望ましい。但し、好ましい偏光軸方向は配向処理方向、液晶材料や配向膜材料の種類により異なる。
【0050】
また、光ファイバ23を注入口に先に挿入してからエンドシール材22を塗布してもよい。また、液晶材料を注入後に、液晶素子をプレスしてからエンドシール材22を塗布してもよい。その場合、液晶素子をプレスなどで押して余分な液晶を注入口から出してからエンドシール材22を塗布し、光ファイバ23の挿入後、プレスを解除し、適宜エンドシール22を注入口内に吸いこませた状態で紫外線を照射してエンドシール材を固化することが望ましい。
【0051】
図10は、第1液晶素子を用いて光走査を行う様子を示す平面図である。この
図10は、第1液晶素子を上から見た様子を示している。図示の第1第1液晶素子100は、駆動装置400によって駆動されて、光源300から入射するレーザ光を走査する。
【0052】
詳細には、第1液晶素子100の液晶層19に対して電圧を無印加としているときは、光源300から第1液晶素子100の光ファイバ23へ入射されて液晶層19を通過したレーザ光は、直線的に進む。これをスクリーン500に投影したとすると、図示のように少し縦長のスポット形状のレーザスポットが得られる。レーザスポットが縦長になる理由としては、レーザ光の出射側の端面に対して特段に光学的な工夫を行っていないため、シール材20を透過したレーザ光が自由空間に放射されるときの回折効果により広がることによるものと考えられる。
【0053】
また、駆動装置400によって第1液晶素子100の電極13aに5Vの交流電圧を与え、電極13bと電極14には基準電位(接地電位)を与えた場合には、レーザ光を左方向(図中における上方向)に配光角θで偏向することができる。例えば、上記した製造方法において例示した諸条件で作製された第1液晶素子100を用いる場合であれば、配光角θとしては約16.75°が得られる。
【0054】
同様に、駆動装置400によって第1液晶素子100の電極13bに5Vの交流電圧を与え、電極13aと電極14には基準電位(接地電位)を与えた場合には、レーザ光を右方向(図中における下方向)に配光角θで偏向することができる。例えば、上記した製造方法において例示した諸条件で作製された第1液晶素子100を用いる場合であれば、配光角θとしては約16.75°が得られる。
【0055】
なお、上記した製造方法において例示した諸条件で作製された第1液晶素子100を用いる場合において、電圧印加時における動作速度は70msecとなる。これに対して、例えば液晶層19の層厚を100μmにした場合には、配光角θは17.3°と大差ないのに対して動作速度は3000msecと大幅に低下する。一般に、液晶素子は液晶層厚を薄くすることにより大幅に高速化できることが知られており、セル厚をさらに薄くすることで数ミリ秒まで高速化できると考えられる。一方、配光角は電極のパターンと液晶材料の複屈折に主として依存するため液晶層厚が変わっても同じ電極のパターンと液晶材料を用いた場合はほとんど変化しないと考えられる。
【0056】
上記の配光角θは、第1液晶素子100の電極13a又は電極13bと電極14の間に印加する電圧を変えることで自在に制御することができる。また、電極13a、電極13bおよび電極14に印加する電圧をそれぞれ変えた場合にはより複雑な光制御が可能となる。また、第1液晶素子100の電極13a又は電極13bと電極14をさらに分割して電圧を印加できるエリアを制御することで、配光角だけでなく出射端面の出射位置も可変に設定することが可能である。
【0057】
駆動装置400による駆動方法についてまとめると以下の通りである。入射光を偏向させない場合には、第1液晶素子100の電極13aと電極13bに対して任意の同じ電位を与える。このとき、電極14に与える電位は、電極13aと電極13bに対して与える電位と同じであってもよいし異なってもよい。入射光をある方向(第1方向)へ偏向させる場合には、電極13aと電極14に対して任意の同じ電位を与え、電極13bには異なる電位を与える。電極13bに与える電位は、電極14との間に生じる電圧が液晶材料の閾値以上となるようにする。入射光を第1方向とは異なる方向(第2方向)へ偏向させる場合には、電極13bと電極14に対して任意の同じ電位を与え、電極13aには異なる電位を与える。電極13aに与える電位は、電極14との間に生じる電圧が液晶材料の閾値以上となるようにする。この駆動方法は、電極13aまたは電極13bに与える電位をある同じ電位にしたときを中心に線対称に配光制御できるというメリットもある。
【0058】
ところで、上記した第1液晶素子100では光ファイバ23を用いて液晶層19へ光を入射させていたが、異形導光フィルムを用いても光を入射させてもよい。
図11は、異形導光フィルムの構成を模式的に示す断面図である。具体的には、異形導光フィルム123の相対的に膜厚の小さい他端側の端面を第1液晶素子100の注入口部分に配置ないし挿入しておく。そして、異形導光フィルム123の相対的に膜厚の大きい一端側の端面に光源300からの光を入射させ、フィルム内を導光させて第1液晶素子100の液晶層19内へ光を入射させる。この場合、異形導光フィルム123の上面側および下面側にクラッド層を形成してもよいが、基本的に空気層がクラッドとして働くため、無くても構わない。この構成例では異形導光フィルム123と注入口21とエンドシール材22が「光入射口」に対応する。
【0059】
図12は、光を直接的に入射される場合に好適な第1液晶素子の構成例を示す平面図である。上記した第1液晶素子100では光ファイバ23を介して液晶層19へ光を入射させていたが、コリメートもしくは集光された光を直接的に入射させるようにしてもよい。なお、上記した
図6に示した液晶素子と共通する構成については同符号を付しており、それらについては詳細な説明を省略する。
図12に示す第1液晶素子100aにおいて、エンドシール材122は、上記した実施形態の第1液晶素子100のように基板外部へ盛り上がるように形成するのではなく、基板の端面と同じ位置もしくは少し奥まった位置に形成されている。このようにするためには、プレスエンドシール処理を行うなどして、エンドシール材122を注入口21の中に吸い込ませてから余った部分を取り除き、紫外線硬化するような製造方法を採ることが望ましい。この構成例では、注入口21とエンドシール材122が「光入射口」に対応する。なお、上記した滴下法により液晶材料を封入する場合はエンドシール部を要しないため、入射部における特別な加工等を行わなくても構わない。
【0060】
この第1液晶素子100aにおいては、注入口21の部分に対して図示のように光源300から出射するレーザ光を直接的に照射して入光させる。このような液晶素子でも液晶層19内をレーザ光が透過し、反対側のシール材20を介して出射させることができ、かつこの出射する光を自在に偏向させることができる。得られる配光角は上記した実施形態の第1液晶素子100と変わりない。これは、各低屈折率膜15、16がエンドシール材122や液晶材料より屈折率が低くクラッド層として働くためと考えられる。なお、各低屈折率膜15、16を設けない場合には、レーザ光のほとんどは液晶層19内ではなく基板11と基板12の各基板内を通過することになり、光の利用効率が低下し、かつ配光角も小さくなると考えられる。また、用いたレーザ光の注入口21付近でのスポット径は、例えば150μm以下に絞ることが望ましい。それにより、注入口21とレーザ光のスポットとの位置合わせを精度良く行えば高効率に入光させることができる。
【0061】
図13は、光出射口にレンズを設ける変形例について説明するための図である。第1第1液晶素子100において、各基板5、6の間を進行するレーザ光は、厳密に見れば図示のように基板5、6の間(低屈折率膜15、16の間)を全反射しながら導光される成分が多いと考えられる。このため、図示のように、光出射口としてのシール材20の外側に、基板5、6の間で導光されたレーザ光を集光するためのレンズ40を設けることも好ましい。図示の例ではレンズ40としてプリズム状のレンズを示したが、球面状のレンズなどであってもよい。レンズ形状(プリズム角度等)は、液晶層8の屈折率、低屈折率膜15、16の屈折率などの諸条件に応じて最適化するとよい。
【0062】
A3.第2液晶素子の詳細構成
図14は、第2液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。また、
図15は、第2液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。なお、
図15に示す断面図は
図14に示すb−b方向の断面に対応している。各図に示す第2液晶素子200は、基板51、基板52、2つの電極53a、53b、高抵抗膜54、共通電極56、配向膜55、57、液晶層58、シール材59を含んで構成されている。
【0063】
各基板51、52は、ともに、例えばガラス基板などの透光性を有する基板である。ここでいう透光性とは、第2液晶素子200による制御対象となる光が透過し得る透過率を有していることをいう。
【0064】
2つの電極53a、53bは、基板1の一面側に設けられている。これらの電極53a、53bは、例えばITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電膜をパターニングすることによって形成されている。なお、各電極53a、53bは、原理上必ずしも透光性を必要とするものではないので、透光性を有しない金属薄膜などを用いて形成されていてもよい。各電極53a、53bは、例えばそれぞれ平面視において一方向に延びる矩形状に形成されており、両者間に間隙を設けて配置されている。電極53aは、配線部を介して取り出し電極63aと接続されている。電極53bは、配線部を介して取り出し電極63bと接続されている。各取り出し電極63a、63bは、基板51の一端側(図示の例では基板51の上端側)に設けられている。
【0065】
高抵抗膜54は、2つの電極53a、53bの相互間に設けられている。図示の例では2つの電極53a、53bの間を埋め、さらに各電極53a、53bの一部を覆うようにして設けられている。この高抵抗膜54は、各電極53a、53bを構成する材料よりもシート抵抗の高い材料を用いて形成される。例えば、高抵抗膜54は、各電極53a、53bに対して少なくとも10倍以上のシート抵抗を有することが好ましく、100倍〜10
10倍程度のシート抵抗を有することがより好ましい。
【0066】
配向膜55は、基板51の一面側において各電極53a、53bと高抵抗膜54を覆って設けられている。この配向膜55としては、液晶層58をどのような初期配向とするかに応じて垂直配向膜または水平配向膜が選択的に用いられる。
【0067】
共通電極56は、基板52の一面側に設けられている。この共通電極56は、例えばITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電膜をパターニングすることによって形成されている。共通電極56は、少なくとも各電極53a、53bと対向する領域に形成されている。図示の例では、図中の上下方向に延びる矩形状に形成されており、その一部が各電極53a、53bと対向するように配置されている。共通電極56は、配線部を介して取り出し電極64と接続されている。この取り出し電極64は、基板52の一端側(図示の例では基板52の下端側)に設けられている。
【0068】
配向膜57は、基板52の一面側において共通電極56を覆って設けられている。この配向膜57としても、液晶層58をどのような初期配向とするかに応じて垂直配向膜または水平配向膜が選択的に用いられる。
【0069】
液晶層58は、誘電率異方性が負の液晶材料、もしくは誘電率異方性が正の液晶材料を用いて形成されている。この液晶層58は、各配向膜55、57による配向規制力を受けて初期配向状態(電圧無印加時の配向状態)が定まる。例えば、各配向膜55、57として垂直配向膜が用いられていれば初期配向状態が垂直配向状態となり、各配向膜55、57として水平配向膜が用いられていれば初期配向状態が水平配向状態となる。
【0070】
シール材59は、液晶層58を封止するためのものであり、平面視において基板51と基板52の間で液晶層58を囲んで枠状に形成されている。シール材59は、その一部(図示の例では左側)が開口しており、この開口部分が液晶材料の注入口として用いられる。
【0071】
図16は、第2液晶素子の動作原理を説明するための模式的な断面図である。
図16(A)に示す第2液晶素子は、対向配置された2つの基板(透明基板)51、52の間に液晶層58が配置されている。そして、基板51は、その一面側に、一対の電極53a、53bと、これら電極53a、53bの間に設けられてそれぞれと接続している高抵抗膜54と、少なくとも高抵抗膜54の上側領域に設けられた配向膜55を有する。基板52は、その一面側に、少なくとも各電極53a、53bおよび高抵抗膜54と対向する領域に設けられた共通電極56と、少なくともこの共通電極56の上側領域に設けられた配向膜57を有する。
【0072】
図示の例では、各配向膜55、57は、ラビング処理等の配向処理が施されており一方向への配向規制力を有する垂直配向膜である。また、液晶層58は、誘電率異方性が負の液晶材料を用いて構成されており、各配向膜55、57の配向規制力を受けて一方向(例えば図示の左右方向)へ配向し、電圧無印加時の配向(初期配向)が略垂直配向となる。ここでいう略垂直配向とは、液晶層58のプレティルト角が90°未満であって90°に近い状態(例えば88°〜89.9°程度)であることをいう。
【0073】
なお、原理的には、各配向膜55、57は、ラビング処理等の配向処理が施されており一方向への配向規制力を有する水平配向膜であってもよい。この場合、液晶層58は、誘電率異方性が正の液晶材料を用いて構成され、各配向膜55、57の配向規制力を受けて一方向(例えば図示の左右方向)へ配向し、電圧無印加時の配向(初期配向)が略水平配向となる。ここでいう略水平配向とは、液晶層58のプレティルト角が0°より大きい状態であって比較的0°に近い状態(例えば2°〜5°程度)であることをいう。
【0074】
図16(B)に示すように、例えば電極53a、53bの間に電位差Vhが生じるように電圧を印加する。一例として、電極53aに15ボルト、電極53bに0ボルト、共通電極56に0ボルトの電圧を印加する。印加する電圧は、例えば100Hzの交流電圧とする。これにより、電極53aと電極53bの間が高抵抗膜54を介して導通して両者間に連続的な電圧勾配を生じる。
【0075】
この電圧勾配により、液晶層58の配向状態が変化する。具体的には、電極53aに近い領域ほど電圧が高いため、この電圧に応じて液晶分子の配向方向が大きく変化する。逆に、電極53bに近い領域ほど電圧が低いため、この電圧に応じて液晶分子の配向方向が僅かに変化する。さらに電極53bに近い領域では液晶分子の配向方向がほとんど変化しない。すなわち、電圧勾配に応じて液晶層58の配向状態は、電極53a、53bの間(高抵抗膜54の存在する領域)において連続的に変化する。
【0076】
このような状態の第2液晶素子に対して、レーザ光などの偏光を入射させる。例えば
図16(C)に示すように、各配向膜55、57への配向処理方向(液晶層58の配向方向)と偏光方向が平行な光BMを基板51の他面側から入射させる。すると、図示のように液晶層58の配向状態が連続的に変化していることから液晶層58内部の位置によってリターデーションが異なる状態であるため、そこを通過する光BMの通過速度が領域によって異なることになる。このため、ホイヘンスの定理により、液晶層58を通過する光BMの進行方向が変化するものと考えられる。図示の例では、電圧の相対的に高い側の電極53a側へ光BMが曲がって進む。なお、上記と逆に電極53b側が相対的に高い電圧となるように電圧勾配を形成すれば、電極53b側へ光BMが曲がって進むことになる。
【0077】
図17は、第2液晶素子の製造方法を説明するための模式的な平面図である。
まず、基板51の一面側に各電極53a、53b、配線部および各取り出し電極63a、63bを形成する(
図17(A)参照)。例えば、一面側の全体にITO膜が形成されているガラス基板を用意し、ITO膜をパターニングすることによって各電極53a、53b等が形成される。各電極53a、53bは、相互間の幅Lが例えば100μm程度となるように形成される。
【0078】
次に、基板51の一面側において、各電極53a、53bの相互間に高抵抗膜54を形成する(
図17(B)参照)。図示の例では、高抵抗膜54は、各電極53a、53bの間を埋め、さらに各電極53a、53bの一部を覆うように形成されているが、少なくとも各電極53a、53bの相互間の隙間を埋めるように形成されていればよい。この高抵抗膜54は、各電極53a、53bを構成する材料よりもシート抵抗が高く、かつ制御対象の光に対して透明な材料を用いて形成される。
【0079】
上記のような高抵抗膜54としては、例えば各種の金属酸化膜、導電性高分子膜(有機系導電膜)、金などの金属からなる薄膜、金属ナノ粒子や金属酸化膜ナノ粒子の分散膜、絶縁性ナノ粒子に導電性修飾を施したナノ粒子の分散膜などが挙げられる。高抵抗膜54の形成方法としては、例えばスパッタ法や真空蒸着法などの真空成膜法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット法、バーコート法、スリットコート法などの各種印刷法、スピンコート法やディップ法(ラングミュアブロジェット法を含む)などの成膜法が挙げられる。
【0080】
上記の通り、高抵抗膜54は、各電極53a、53bに対して少なくとも10倍以上のシート抵抗を有することが好ましく、100倍〜10
10倍程度のシート抵抗を有することがより好ましい。一例として、各電極53a、53bを構成するITO膜のシート抵抗が10Ω/sq.であるとすると、高抵抗膜54のシート抵抗は1kΩ/sq.程度でもよい。消費電力をより低減するためにはシート抵抗をより高くすることが好ましく、具体的には1kΩ/sq.〜10GΩ/sq.程度であることが好ましく、例えば100MΩ/sq.程度に設定される。一例として、スパッタ法により成膜されるZnO膜を高抵抗膜54として用いることができる。
【0081】
なお、高抵抗膜54の形成範囲については、少なくとも制御対象の光が通過する領域を確保し得る程度であればよいが、各電極53a、53bと接続される各取り出し電極63a、63bの上面には形成しないことが好ましい。また、有機系導電膜など基板への密着性があまり高くない材料を用いる場合には、特にシール材59の形成される領域には高抵抗膜54を形成しないことが好ましい。したがって、高抵抗膜54を形成する際には、マスクスパッタ法や各種印刷法を用いて、必要な領域にのみ選択的に形成することが好ましく、スピンコート法等によって基板全面に成膜した場合には、フォトリソ法等によってパターニングして不要な部分を除去することが好ましい。もしくは、フレキソ印刷等の各種印刷法により各取り出し電極63a、63b上などにレジスト膜を塗布し、その上に高抵抗膜54を成膜し、最後にリフトオフして各取り出し電極63a、63b上のレジスト膜を除去してもよい。
【0082】
また、高抵抗膜54の上側にパッシベーション膜などの絶縁膜を設けてもよい。これは基板間の短絡防止、光学的な機能向上(透過率向上、液晶層58との屈折率マッチングによる表面反射防止など)の効果が期待できる。この場合の絶縁膜についても各取り出し電極63a、63bの上側やシール材59の形成領域には形成されないことが好ましい。なお、絶縁膜としてフレキソ印刷可能なシリコン酸化膜を用いる場合には、密着性が非常に高いため、シール材59の形成領域に絶縁膜が形成されてもよい。
【0083】
次に、基板52の一面側に共通電極56、配線部および取り出し電極64を形成する(
図17(C)参照)。例えば、一面側の全体にITO膜が形成されているガラス基板を用意し、ITO膜をパターニングすることによって共通電極6等が形成される。
【0084】
次に、基板51の一面側において、少なくとも各電極53a、53bと高抵抗膜54の形成領域を覆う範囲に配向膜5を形成する(
図17(D)参照)。同様に、基板52の一面側において、少なくとも各電極53a、53bと高抵抗膜54の形成領域と対向する範囲に配向膜7を形成する(
図17(E)参照)。配向膜5、7は、例えばフレキソ印刷法、インクジェット法などで配向膜材料を塗布し、熱処理を行うことによって形成される。
【0085】
配向膜55、57として垂直配向膜を形成する場合には、例えば、印刷性と密着性に優れ、側鎖に剛直な骨格(液晶性のものなど)を有するタイプの垂直配向膜材料を、フレキソ印刷法によって適当な膜厚(例えば500〜800Å程度)に成膜し、その後熱処理(例えば160℃〜250℃で1時間〜1.5時間の焼成)を行う。なお、有機配向膜としては上記タイプのみに限定されない。さらに、無機配向膜、例えば主鎖骨格がシロキサン結合(Si−O−Si結合)で形成されているものなどを用いてもよい。
【0086】
配向膜55、57として水平配向膜を形成する場合には、例えば、STN用と呼ばれる比較的に高いプレティルト角を得られるタイプの側鎖(アルキル鎖)付きの水平配向膜材料を、フレキソ印刷法によって適当な膜厚(例えば500〜800Å程度)に成膜し、その後熱処理(例えば160℃〜250℃で1時間〜1.5時間の焼成)を行う。なお、有機配向膜としては上記タイプのみに限定されない。さらに、無機配向膜(例えばSiO斜方蒸着膜)を用いてもよい。
【0087】
次に、各配向膜55、57に対して配向処理を行う。配向処理としては、例えば一方向へ配向膜を擦る処理であるラビング処理を行う。その条件としては、例えば押し込み量を0.3mm〜0.8mmに設定することができる。
【0088】
ラビング処理の方向は、各配向膜55、57が垂直配向膜である場合には、各電極53a、53bの延在方向(図中左右方向)に対して略直交する方向となるようにする。なお、厳密に直交でなくてもよく、例えば直交方向から0.1°〜5°程度ずれた方向にラビング方向を設定してもよい。
【0089】
また、ラビング処理の方向は、各配向膜55、57が水平配向膜である場合には、各電極53a、53bの延在方向(図中左右方向)に対して略平行な方向となるようにする。なお、厳密に平行でなくてもよく、例えば平行方向から0.1°〜5°程度ずれた方向にラビング方向を設定してもよい。
【0090】
なお、上記の各ラビング方向は一例であり、各配向膜55、57が垂直配向膜である場合においてそのラビング方向を各電極53a、53bの延在方向(図中左右方向)に対して略平行な方向としてもよいし、各配向膜55、57が水平配向膜である場合においてそのラビング方向を各電極53a、53bの延在方向(図中左右方向)に対して略直交の方向としてもよい。
【0091】
次に、いずれか一方の基板、例えば基板51の一面側にギャップコントロール材を適量(例えば2〜5wt%)含んだシール材59を形成する(
図17(F)参照)。シール材59は、例えばスクリーン印刷法やディスペンサ法によって形成される。また、ここではギャップコントロール材の径を、例えば液晶層58の厚さが10μm程度となるように設定する。
【0092】
液晶層58の層厚は上記に限定されないが、光の進路が曲がる角度(配光角)をより大きくしたい場合には層厚をより大きくすればよく、液晶層58の電界に対する動作速度(反応速度)を早くしたい場合には層厚をより小さくすればよい。具体的には、液晶層58の層厚は、例えば2μm〜500μmの間で設定することができる。
【0093】
また、他方の基板である基板52の一面側には、ギャップコントロール材が散布される。例えば、粒径10μmのプラスチックボールを乾式散布機によって散布する。もしくは、ギャップコントロールのためのリブ材が形成されてもよい。このときのギャップコントロール材(またはリブ材)の高さは、シール材59に添加されたギャップコントロール材の径とほぼ同等にする。また、各電極53a、53bの間隙(スリット部)にはギャップコントロール材(またはリブ材)が配置されないようにすると更に好ましい。なお、第2液晶素子200の大きさが概ね10mm角程度より大きい場合には本工程を行うことが好ましいが、大きさがそれ以下の場合には本工程を省略してもよい。
【0094】
次に、基板51と基板52をそれぞれの一面側が対向するようにして重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、シール材59を硬化させる。例えば、150℃で3時間の熱処理が行われる。それにより基板51と基板52とが貼り合わされる。
【0095】
図18は、各配向膜55、57として垂直配向膜が形成された基板51と基板52を貼り合わせて得られたセルの模式的な平面図である。このセルでは、図中の右下側に矢印で示すように、基板51の配向処理方向(図中y方向に沿って上向き)と基板52の配向処理方向(図中y方向に沿って下向き)とがアンチパラレル配置となり、かつ配向処理方向のそれぞれが各電極53a、53b間のスリット部65の延在方向(図中X方向)に対して略直交している。なお、スリット部65とは、一対の電極53a、53bの間に画定されるスリット形状の間隙である(以下同様)。第2液晶素子200は、第1液晶素子100(100a)の光出射口から出射するレーザ光が基板51(または基板52)を通ってスリット部65に入射するように配置される。
【0096】
次に、基板51と基板52の間に液晶材料を充填することによって液晶層58を形成する。例えば、シール材59に設けられた注入口を用いて真空注入法により液晶材料を基板間に注入する。ここでは、誘電率異方性Δεが負の液晶材料(例えば屈折率異方性Δnが約0.25)を充填する。また、ここではカイラル材が添加されていない液晶材料を用いる。なお、配光角をより大きくするには屈折率異方性Δnがより大きい液晶材料を用いることが好ましい。
【0097】
液晶材料を充填した後、その注入口をエンドシール材によって封止する。そして、液晶材料の相転移温度以上の温度で適宜熱処理(例えば、120℃で1時間)を行うことにより、液晶層58の液晶分子の配向状態を整える。以上により、第2液晶素子200が完成する。
【0098】
図19は、第2液晶素子を用いて光走査を行う様子を示す平面図である。第2液晶素子200は、駆動装置201によって駆動されて、第1液晶素子100(100a)から出射するレーザ光Lの進行方向を自在に変化させる。図示の例においてレーザ光Lは、図中x方向に偏光方向を有する偏光である。第2液晶素子200は、レーザ光Lの偏光方向に対して各配向膜55、57への配向処理方向(液晶層58の配向方向)が略平行となり、かつスリット部65(
図18参照)の延在方向が略直交し、当該スリット部65に対してレーザ光Lが略垂直に入射するように配置される。駆動装置201は、第2液晶素子200の各取り出し電極63a、63b、64(
図14参照)と接続され、これらの電極を介して液晶層58へ駆動電圧を与える。
【0099】
例えば、駆動装置201から第2液晶素子200に対して、各取り出し電極63a等を介して、電極53aに交流電圧を印加し、電極53bと共通電極54には基準電位を与える(例えば接地端子と接続する)。電圧の大きさと周波数は適宜設定することができ、例えば15V、100Hzとする。それにより、第2液晶素子200へ入射したレーザ光は、電圧無印加時の進行方向を基準として、図示のx方向において一方向(例えば右方向)へ進行方向が変化する。また、駆動装置201から電極53bに交流電圧を印加し、電極53aと共通電極54には基準電位を与えた場合には、第2液晶素子200へ入射したレーザ光は、逆方向(例えば左方向)へ進行方向が変化する。
【0100】
ここで、レーザ光の進行方向を最大値の配光角θで変化させることができる電圧値については、電極53a、53bの相互間距離、レーザ光のスポット径、液晶層厚などに依存する。同様に、周波数についても電極53a、53bの相互間距離、レーザ光のスポット径、液晶層厚などに依存するものであるが、周波数が高くなるほど配光角θの最大値が大きくなる傾向が見られる。
図20にいくつかの条件による配光角θと応答速度の計測結果を示す。第2液晶素子200において、液晶層厚(セル厚)と駆動条件を変えて、その際の配光角θと応答速度を計測した結果である。なお、計測に用いた第2液晶素子200については、上記した製造方法において例示した条件によって作製された。
【0101】
第2液晶素子200の駆動方法についてまとめる。第2液晶素子200は、基板51に2つの電極53a、53bを有し、基板52に共通電極56を有するので、これらを用いて液晶層58を交流駆動する。その際、配光角を変化させない場合(配光角θ=0)には、各電極53a、53bを同電位にすればよく、その際、共通電極54の電位は各電極53a、53bと同じにしてもよいし異なる電位としてもよい。ある方向へ配光を変化させる場合には、電極53aと共通電極56に同電位を与え、電極53bに異なる電位を与える。また、逆方向へ配光を変化させる場合には、電極53bと共通電極56に同電位を与え、電極3aに異なる電位を与える。このような駆動方法を用いることで、特定方向(例えば、上下方向または左右方向)に沿って対称に配光制御することができる。
【0102】
以上のような第1実施形態によれば、機械的な動作部分を含まない構成により光の進行方向を二次元的に制御することが可能な光走査装置が得られる。
【0103】
B.第2実施形態
図21は、第2実施形態の光走査装置の構成を示す平面図である。第1実施形態の光走査装置では、第1液晶素子100(100a)が1つの光出射口を有していたところ、第2実施形態の光走査装置における第1液晶素子100bは3つの光出射口41、42、43を有している点と、各光出射口41、42、43のそれぞれに対応付けて3つの第2液晶素子200が配置されている点が主に異なっている。また、各光出射口41、42、43にはそれぞれレンズ40(
図13参照)が設けられている。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を用い、それらの説明については省略する。
【0104】
図21に示す第1液晶素子100bは、光入射口側である一端、すなわち光ファイバ23が挿入されている側の一端と対向する他端が異形カットされており、3つの辺を有して略台形状に形成されている。そして、各辺に対応するシール材20の一部分が光出射口41、42、43として用いられる。各光出射口41、42、43のそれぞれの外側にはレンズ40が設けられているが、これらは省略されてもよい。また、各光出射口41、42、43のそれぞれの外側に配置された各第2液晶素子200の詳細構成については上記した第1実施形態のものと同様であり、各第2液晶素子200は、各々のスリット部65と各光出射口41、42、43とが対向するように配置される。
【0105】
以上のような第2実施形態によれば、第1液晶素子100aの構成の違いにより、第1実施形態に比べてレーザ光をより広範囲に配光制御することができる。ただし、第2実施形態では、光出射口41、42の境界箇所、光出射口42、43の境界箇所のそれぞれにおいて、各第2液晶素子200のスリット部65と対向せず、いずれのスリット部65へも光を入射させられない領域が生じ得る。このため、そのような領域にはレーザ光が入射しないように第1液晶素子100bを駆動することが好ましい。具体的には、各第2液晶素子200のスリット部65が存在する領域にレーザ光を入射させる場合には第1液晶素子100bの各電極13a、13b、14に対して供給する駆動電圧を連続的に変化させるのに対し、スリット部65が存在しない領域に差し掛かった場合には駆動電圧を急激に(非連続的に)変化させることで、当該領域にレーザ光を入射させないようにすることができる。
【0106】
C.第3実施形態
図22は、第3実施形態の光走査装置の構成を示す平面図である。第3実施形態の光走査装置は、上記した第2実施形態の光走査装置における第1液晶素子100bに対して、さらに各光出射口41、42、43に対応付けて一対の電極を設けて第1液晶素子100cを構成している点が異なっている。なお、第1実施形態および第2実施形態と共通する構成については同一符号を用い、それらの説明については省略する。
【0107】
第1液晶素子100cは、一対の電極13a、13bと、光出射口41に対応付けて設けられた一対の鋸波状電極34a、34bと、光出射口42に対応付けて設けられた一対の鋸波状電極35a、35bと、光出射口43に対応付けて設けられた一対の鋸波状電極36a、36bを有している。これらの鋸波状電極34a等は、平面視において互いに分離している。また、電極14は、各鋸波状電極33a、33b、34a、34b、35a、35b、36a、36bのそれぞれと重なる範囲に設けられている。
【0108】
また、鋸波状電極34a、35a、36aは、それぞれ絶縁膜を介して各々の下層側の基板11上に設けられた配線38aとコンタクトホールを介して電気的に接続されている。そして、この配線38aは、絶縁膜を介して上層側に設けられた電極37aとコンタクトホールを介して接続されている。これにより、電極37aに電圧を与えることで各鋸波状電極34a、35a、36aに電圧を与えることができる。
【0109】
同様に、鋸波状電極34b、35b、36bは、それぞれ絶縁膜を介して各々の下層側の基板11上に設けられた配線38bとコンタクトホールを介して電気的に接続されている。そして、この配線38bは、絶縁膜を介して上層側に設けられた電極37bとコンタクトホールを介して接続されている。これにより、電極37bに電圧を与えることで各鋸波状電極34b、35b、36bに電圧を与えることができる。
【0110】
このような構成を有することにより、一対の電極13a、13bと、各光出射口41、42、43との間においても配光制御を行うことができる。以下に、具体的な配光制御の一例を説明する。まず、一対の電極13a、13bの各鋸波状電極33a、33bと電極14を用いて、光ファイバ23から入射するレーザ光を、光出射口41、42、43の何れかへ向かう方向に大まかに配光制御する。
【0111】
例えば、光出射口42へ向けて配光制御する場合であれば、各鋸波状電極33a、33bと電極14に同電位またはそれに近い電圧を与えることで、レーザ光はほぼ直進し、一対の鋸波状電極35a、35bの配置された領域へ入射する。そして、電極37a、37bを介して各鋸波状電極35a、35bの間に所定の電位差を生じるように電圧を与えることにより、レーザ光の進行方向が曲げられ、光出射口42の所定位置からレーザ光を出射させることができる。この出射したレーザ光は、光出射口42に対応付けられたレンズ40によって集光されて第2液晶素子200へ入射し、さらに第2液晶素子200によって進行方向が適宜曲げられる。それにより、光出射口42に対応する範囲内で二次元的な配光制御が実現される。
【0112】
同様に、光出射口41へ向けて配光制御する場合であれば、各鋸波状電極33a、33bと電極14に所定の電位差を与えることで、レーザ光はその進行方向が曲げられて一対の鋸波状電極34a、34bの配置された領域へ入射する。そして、電極37a、37bを介して各鋸波状電極34a、34bの間に所定の電位差を生じるように電圧を与えることにより、レーザ光の進行方向が曲げられ、光出射口41の所定位置からレーザ光を出射させることができる。この出射したレーザ光は、光出射口41に対応付けられたレンズ40によって集光されて第2液晶素子200へ入射し、さらに第2液晶素子200によって進行方向が適宜曲げられる。それにより、光出射口41に対応する範囲内で二次元的な配光制御が実現される。
【0113】
同様に、光出射口43へ向けて配光制御する場合であれば、各鋸波状電極36a、36bと電極14に所定の電位差を与えることで、レーザ光はその進行方向が曲げられて一対の鋸波状電極36a、36bの配置された領域へ入射する。そして、電極37a、37bを介して各鋸波状電極36a、36bの間に所定の電位差を生じるように電圧を与えることにより、レーザ光の進行方向が曲げられ、光出射口43の所定位置からレーザ光を出射させることができる。この出射したレーザ光は、光出射口43に対応付けられたレンズ40によって集光されて第2液晶素子200へ入射し、さらに第2液晶素子200によって進行方向が適宜曲げられる。それにより、光出射口43に対応する範囲内で二次元的な配光制御が実現される。
【0114】
第1液晶素子100cにおいて一対の鋸波状電極33a、33bを用いることで、上記のように、例えば±17°程度の範囲で光の進行方向を曲げることができる。このため、さらに各鋸波状電極34a、34b、35a、35b、36a、36bを用いることで、第1液晶素子100cを出射する時点でみると、±51°(全角102°)の範囲で光の進行方向を曲げることができる。この角度は、光入射口から光出射口までの光路長を長くして鋸波状電極のパターンを増やしたり、鋸波状電極の平面視での電極エッジの角度をより鋭角にしたり、液晶材料の屈折率をより高いものにすること等によって、更に広げることができる。また、動作速度については、一対の基板11、12の間の距離(セル厚)を薄くすることでさらに高速化を図ることができる。このとき、配光制御の角度の大きさはセル厚にあまり影響しないことが確認されている。
【0115】
図23は、第1液晶素子の各電極の製造方法を説明するための平面図である。なお、電極の製造方法以外については上記した第1実施形態と同様であるのでここでは説明を省略する。まず、
図23(A)に示すように、基板11の一面側にITO膜などの導電膜を形成し、これをパターニングすることによって配線38a、38bを形成する。次に、各配線38a、38bを覆うようにして基板11の一面側の全体にシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁膜を形成する。
【0116】
次いで、
図23(B)に示すように、基板11上の絶縁膜に対して、各配線38a、38bと重なる所定位置にコンタクトホール39a、39bを形成する。この工程は、例えばドライエッチング法によって行う。次いで、
図23(C)に示すように、基板11の一面側に金属膜やITO膜などの導電膜を形成し、これをパターニングすることによって、各電極13a、13b、各鋸波状電極33a、33b、34a、34b、35a、35b、36a、36b、各電極37a、37bを形成する。
【0117】
この基板11の一面側に、さらに低屈折率膜15を形成する。この基板11を、上記第1実施形態において説明したようにして形成した基板12と重ね合わせる。その際、シール材20については、異形カット形状に応じて形成する。シール材20を焼成した後に、異形カット部分をスクライブなどによって除去する。その後、液晶材料の注入、光ファイバ23の挿入などを経て、第1液晶素子100cが完成する。
【0118】
なお、第3実施形態では、基板11上に電極を二層化することによって各鋸波状電極を形成する場合を例示していたが、このような二層化をせずに、引き回し線をシール材の周辺に引き回すことによって各鋸波状電極を設けてもよい。また、異形カット部分については上記に例示したような略台形状に限らず、さらに多角に形成してもよいし、円弧状に形成してもよい。多角に形成する場合にはその辺の数に応じてそれぞれの辺に第2液晶素子を配置することが望ましい。また、円弧状に形成する場合には、第2液晶素子として曲面状のものを用いるか、もしくは、第1液晶素子の光出射口と第2液晶素子との距離が場所によって異なっても光学マッチングが取れるような構成を加える必要がある。
【0119】
以上のような第3実施形態によれば、第1液晶素子100cの構成の違いにより、第1実施形態に比べてレーザ光をより広範囲に配光制御することができる。
【0120】
上記した各実施形態の光走査装置は、例えば、投射型ディスプレイ、路面描画装置、LiDAR用光源(配光制御)、各種照明装置、各種センサ、LiDAR用受光素子、光学補正機器(カメラの手振れ補正等)、太陽電池用配光制御(太陽追尾)、セキュリティーカメラ、見守りカメラ、医療用カメラの代用(距離もわかるもの)、エアコンなど種々の装置・システムに組み込んで用いることができる。
【0121】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、電極のパターンについては上記した実施形態等に限られず、液晶素子内の位置によって電極のエッジ方向(エッジ角度)や電極幅を変えてもよい。
【0122】
また、上記した実施形態では各電極がITO膜などの透明導電膜によって形成されていたが、金属膜を用いて電極を形成してもよい。その場合、銀やアルミなどの反射率が高いものが望ましい。なお、電極間については、あらかじめ絶縁膜を形成しておいて、その上に薄く金属膜を形成してパターン電極化する等の方法で形成することが可能である。さらに、上記した実施形態では各基板の一例としてガラス基板を挙げていたがこれに限定されない。各基板は必ずしも透明でなくてもよい。また、例えば基板としてプラスチック基板を用いてもよいし、絶縁膜付きステンレス箔基板などの金属泊基板を用いてもよい。