(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0013】
<円錐ころ軸受の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。
図2は、
図1に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。
図3は、
図1に示した円錐ころ軸受の円錐ころの部分断面模式図である。
図4は、
図3に示した円錐ころの拡大部分断面模式図である。
図1〜
図4を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
【0014】
図1に示す円錐ころ軸受10は、外輪11と、内輪13と、複数の円錐ころ(以下では単に、ころと呼ぶこともある)12と、保持器14とを主に備えている。外輪11は、環形状を有し、その内周面に外輪軌道面11Aを有している。内輪13は、環形状を有し、その外周面に内輪軌道面13Aを有している。内輪13は、この内輪軌道面13Aの大径側および小径側に大つば部41および小つば部42をそれぞれ有する。内輪13は、内輪軌道面13Aが外輪軌道面11Aに対向するように外輪11の内周側に配置されている。なお、以下の説明において、円錐ころ軸受10の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
【0015】
ころ12は、外輪11の内周面上に配置されている。ころ12はころ転動面12Aを有し、当該ころ転動面12Aにおいて内輪転走面13Aおよび外輪転走面11Aに接触する。複数のころ12は合成樹脂からなる保持器14により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ12は、外輪11および内輪13の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受10は、外輪転走面11Aを含む円錐、内輪転走面13Aを含む円錐、およびころ12が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受10の外輪11および内輪13は、互いに相対的に回転可能となっている。なお、保持器14は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【0016】
外輪11、内輪13、ころ12を構成する材料は鋼であってもよい。当該鋼は、窒素富化層11B、12B、13B以外の部分で、少なくとも炭素を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガンを0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。
【0017】
上記の構成において、炭素が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6質量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
【0018】
Si含有率を0.15〜1.1質量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。Si含有率が0.15質量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、Si含有率が1.1質量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
【0019】
Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3質量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5質量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。さらに、鋼が2.0質量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0質量%以下としたのは、2.0質量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0質量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
【0020】
なお、本開示の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1質量%以下である。
【0021】
また異なる観点から言えば、外輪11および内輪13は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2からなるものであることが好ましい。ころ12は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2により構成されてもよい。また、ころ12は、他の材料、たとえばサイアロン焼結体により構成されていてもよい。
【0022】
図2に示すように、外輪11の転走面11Aおよび内輪13の転走面13Aには窒素富化層11B、13Bが形成されている。内輪13では、窒素富化層13Bが転走面13Aから小鍔面19(
図1参照)および大鍔面18(
図1参照)にまで延在している。窒素富化層11B、13Bは、それぞれ外輪11の未窒化部11Cまたは内輪13の未窒化部13Cより窒素濃度が高くなっている領域である。また、ころ12の転動面12Aを含む表面には窒素富化層12Bが形成されている。ころ12の窒素富化層12Bは、ころ12の未窒化部12Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層11B、12B、13Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
【0023】
なお、ころ12のみに窒素富化層12Bを形成してもよいし、外輪11のみに窒素富化層11Bを形成してもよいし、内輪13のみに窒素富化層13Bを形成してもよい。あるいは、外輪11、内輪13、ころ12のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。
【0024】
図3に示すように、ころ12の転動面12A(
図2参照)は、クラウニング部22、24と中央部23とを含む。クラウニング部22、24は転動面12Aの両端部に位置し、クラウニングが形成されている。中央部23は、クラウニング部22、24の間を繋ぐように配置されている。中央部23にはクラウニングは形成されておらず、ころ12の回転軸である中心線26に沿った方向での断面における中央部23の形状は直線状である。ころ12の小端面17とクラウニング部22との間には面取り部21が形成されている。大端面16とクラウニング部24との間にも面取り部25が形成されている。
【0025】
ここで、ころ12の製造方法において、窒素富化層12Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、ころ12にはクラウニングが形成されておらず、ころ12の外形は
図4の点線で示される加工前表面12Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として
図4の矢印に示すようにころ12の側面が加工され、
図3および
図4に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24が得られる。
【0026】
窒素富化層の厚さ:
ころ12における窒素富化層12Bの深さ、すなわち窒素富化層12Bの最表面から窒素富化層12Bの底部までの距離は、0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部21とクラウニング部22との境界点である第1測定点31、小端面17から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点32、ころ12の転動面12Aの中央である第3測定点33において、それぞれの位置での窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層12Bの深さとは、ころ12の中心線26に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層12Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部21、25の形状やサイズ、さらに窒素富化層12Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、
図4に示した構成例では、上述のように窒素富化層12Bが形成された後にクラウニング22Aが形成されたことに起因して、窒素富化層12Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
【0027】
また、外輪11および内輪13における窒素富化層11B、13Bについても、その最表面から窒素富化層11B、13Bの底部までの距離である窒素富化層11B、13Bの厚さは0.2mm以上である。ここで、窒素富化層11B、13Bの厚さは、窒素富化層11B、13Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層11B,13Bまでの距離を意味する。
【0028】
クラウニングの形状:
ころ12のクラウニング部22、24に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、ころ12の転動面12Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K
1,K
2,z
mを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ12の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K
1Q/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
【0030】
図5は、クラウニング形状の一例を示すy−z座標図である。
図5では、ころ12の母線をy軸とし、ころ12の母線上であって内輪13又は外輪11ところ12の有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線直交方向(半径方向)にz軸をとったy−z座標系に、上記式(1)で表されるクラウニングの一例を示している。
図5において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、ころ12にクラウニングを形成していない場合の内輪13又は外輪11ところ12との接触部位である。また、円錐ころ軸受10を構成する複数のころ12の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、
図5では、一方のクラウニング22Aのみを示している。
【0031】
荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および、等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められる値である。
【0032】
上記式(1)において、z(y)は、ころ12の母線方向位置yにおけるクラウニング22Aのドロップ量を示しており、クラウニング22Aの始点O1の座標は(a−K
2a,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a−K
2a)である。また、
図5では、原点Oを有効接触部の中央部にとっているので、a=L/2となる。さらに、原点Oからクラウニング22Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部)であるから、0≦y≦(a−K
2a)のとき、z(y)=0となる。
【0033】
設計パラメータK
1は荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング22Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータK
2は、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング22Aの母線方向長さymの割合を意味している(K
2=ym/a)。設計パラメータz
mは、有効接触部の端部におけるドロップ量、即ちクラウニング22Aの最大ドロップ量を意味している。
【0034】
ここで、後述する
図7に示したころのクラウニングは、設計パラメータK
2=1であってストレート部の無いフルクライニングであり、エッジロードが発生しない十分なドロップ量が確保されている。しかしながら、ドロップ量が過大であると、加工時に、材料取りされた素材から生じる取代が大きくなり、コスト増大を招くこととなる。そこで、以下のように、設計パラメータK
1,K
2,z
mの最適化を行う。
【0035】
設計パラメータK
1,K
2,z
mの最適化手法としては種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、ころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、希薄潤滑下における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
【0036】
窒素富化層の結晶組織:
図6は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。
図6は、窒素富化層12Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層12Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、従来の一般的な焼入れ加工品と比べても十分に微細化されている。
【0037】
<各種特性の測定方法>
窒素濃度の測定方法:
外輪11、ころ12、内輪13などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層11B,12B、13Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、ころ12については、
図3に示した第1測定点31〜第3測定点33のそれぞれの位置から、中心線26と垂直な方向にころ12を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、ころ12の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値をころ12の窒素濃度とする。
【0038】
また、外輪11および内輪13については、転走面11A、13Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
【0039】
最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
外輪11および内輪13については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受10の外輪11および内輪13において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
【0040】
また、ころ12については、
図3に示した第1測定点31での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
【0041】
粒度番号の測定方法:
旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とする。
【0042】
クラウニング形状の測定方法:
ころ12のクラウニング形状について、任意の方法により測定できる。たとえば、ころ12の形状を表面性状測定器により測定することにより、クラウニング形状を測定してもよい。
【0043】
<円錐ころ軸受の作用効果>
以下一部重複する部分もあるが、上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を列挙する。
【0044】
本開示に従った円錐ころ軸受10は、外輪11と内輪13と複数の円錐ころであるころ12とを備える。外輪11は、内周面において外輪軌道面11Aを有する。内輪13は、外周面において内輪軌道面13Aを有し、外輪11の内側に配置される。複数のころ12は、外輪軌道面11Aと内輪軌道面13Aとの間に配列され、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面13Aと接触する転動面12Aを有する。外輪11、内輪13および複数のころ12のうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面11A、内輪軌道面13Aまたは転動面12Aの表面層に形成された窒素富化層11B、13B、12Bを含む。窒素富化層11B、12B、13Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。表面層の最表面から窒素富化層11B、12B、13Bの底部までの距離T1は0.2mm以上である。ころ12の転動面12Aにはクラウニング22Aが形成されている。クラウニング22Aのドロップ量の和は、ころ12の転動面12Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K
1,K
2,z
mを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ12の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K
1Q/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
【0046】
なお、荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および等価弾性係数E’は設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは原点の位置に応じて定められる値である。
【0047】
このようにすれば、外輪11、内輪13、円錐ころとしてのころ12の少なくともいずれか1つにおいて旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層11B、12B、13Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
【0048】
また、ころ12の転動面12Aに上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、ころ12の転動面12Aにおける摩耗の発生を抑制できる。
【0049】
ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。
図7は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。
図8は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。
図7および
図8の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。
図7および
図8の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。
図7および
図8の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
【0050】
円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、
図8に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
【0051】
そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば
図7に示すように、
図8の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、
図7及び
図8には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受10を実現できる。
【0052】
上記円錐ころ軸受10において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層11B、12B、13Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上である。この場合、窒素富化層11B、12B,13Bの最表面における窒素濃度を十分な値とできることから、窒素富化層11B、12B、13Bの最表面の硬度を十分高くすることができる。また、上述した旧オーステナイト結晶粒径の粒度、窒素富化層の底部までの距離、窒素濃度といった条件は、
図3の第1測定点31において少なくとも満足されていることが好ましい。
【0053】
上記円錐ころ軸受10において、窒素富化層11B、12B、13Bが形成された外輪11、内輪13、およびころ12のうちの少なくともいずれか1つは鋼により構成される。当該鋼は、窒素富化層11B、12B、13B以外の部分、つまり未窒化部11C、12C、13Cにおいて、少なくとも炭素(C)を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガン(Mn)を0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記円錐ころ軸受において、鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。この場合、本実施の形態において規定する構成の窒素富化層11B、12B、13Bを後述する熱処理などを用いて容易に形成できる。
【0054】
上記円錐ころ軸受10において、上記式(1)における設計パラメータK
1,K
2,z
mのうちの少なくとも1つがころ12と外輪11またはころ12と内輪13との接触面圧を目的関数として最適化されていてもよい。
【0055】
上記設計パラメータK
1,K
2,z
mは、接触面圧、応力及び寿命のうちのいずれかを目的関数として最適化して定められるところ、表面起点の損傷は接触面圧に依存する。ここで、上記実施の形態によれば、接触面圧を目的関数として最適化して設計パラメータK
1,K
2,z
mを設定するので、潤滑剤が希薄な条件においても接触面の摩耗を防止できるクラウニングが得られる。
【0056】
上記円錐ころ軸受10において、外輪11または内輪13の少なくともいずれか1つは、窒素富化層11B、13Bを含む。この場合、外輪11または内輪13の少なくともいずれかにおいて、結晶組織が微細化された窒素富化層11B、13Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有する外輪11または内輪13を得ることができる。
【0057】
上記円錐ころ軸受10において、ころ12は窒素富化層12Bを含む。この場合、ころ12において、結晶組織が微細化された窒素富化層12Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有するころ12を得ることができる。
【0058】
<円錐ころ軸受の製造方法>
図9は、
図1に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図10は、
図9の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。
図11は、
図10に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。
図12は、比較例としての軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。以下、円錐ころ軸受の製造方法を説明する。
【0059】
図9に示すように、まず部品準備工程(S100)を実施する。この工程(S100)では、外輪11、内輪13、ころ12、保持器14などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、ころ12となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は
図4の点線で示した加工前表面12Eとなっている。
【0060】
次に、熱処理工程(S200)を実施する。この工程(S200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪11、ころ12、内輪13、のすくなくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層11B、12B、13Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S200)における熱処理パターンの一例を
図10に示す。
図10は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。
図11は、焼入れ途中で材料をA
1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理T
1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A
1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T
2において、処理T
1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
【0061】
上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層11B、12B、13Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、
図12に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、
図6に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
【0062】
次に、加工工程(S300)を実施する。この工程(S300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。ころ12については、
図4に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング22Aおよび面取り部21を形成する。
【0063】
次に、組立工程(S400)を実施する。この工程(S400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、
図1に示した円錐ころ軸受10を得る。このようにして、
図1に示した円錐ころ軸受10を製造することができる。
(実験例1)
<試料>
試料として、試料No.1〜4までの4種類の円錐ころを試料として準備した。円錐ころの型番は30206とした。円錐ころの材質としてはJIS規格SUJ2材(1.0質量%C−0.25質量%Si−0.4質量%Mn−1.5質量%Cr)を用いた。
【0064】
試料No.1については、浸炭窒化焼入れを実施した後、
図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気はRXガス+アンモニアガスとした。試料No.2については、試料No.1と同様に浸炭窒化焼入れを実施した後、
図8に示した部分円弧クラウニングを形成した。
【0065】
試料No.3については、
図10に示した熱処理パターンを実施した後、
図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
【0066】
試料No.4については、
図10に示した熱処理パターンを実施した後、
図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。試料の最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層における窒素濃度を0.1質量%以上とするために、浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。更に、炉内雰囲気を厳密に管理した。具体的には、炉内温度のムラ及びアンモニアガスの雰囲気ムラを抑制した。上述した試料No.3および試料No.4が本発明の実施例に対応する。試料No.1および試料No.2は比較例に対応する。
【0067】
<実験内容>
実験1:寿命試験
寿命試験装置を用いて寿命試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fr=18kN、Fa=2kN、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、という条件を用いた。寿命試験装置では、被試験体としての2つの円錐ころ軸受は、支持軸の両端を支持するように配置されている。該支持軸の延在方向の中央部、すなわち2つの円錐ころ軸受の中央部には、該支持軸を介して円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷するための円筒ころ軸受が配置されている。そして、荷重負荷用の円筒ころ軸受にラジアル荷重を負荷することで、被試験体としての円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷する。また、アキシアル荷重は、寿命試験装置のハウジングを介して一方の円錐ころ軸受から支持軸に伝わり、他方の円錐ころ軸受にアキシアル荷重が負荷される。これにより、円錐ころ軸受の寿命試験が行われる。
【0068】
実験2:偏荷重時の寿命試験
上記実験1の寿命試験と同様の試験装置を用いた。試験条件としては、基本的に上記実験1での条件と同様であるが、ころの中心軸について2/1000radの軸傾きを負荷した状態とし、偏荷重が印加された状態で試験を行った。
【0069】
実験3:回転トルク試験
試料No.1〜4について、縦型トルク試験機を用いたトルク測定試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fa=7000N、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、回転数:5000rpm、という条件を用いた。
【0070】
<結果>
実験1:寿命試験
試料No.4が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。試料No.2および試料No.3は、試料No.4の結果には及ばないものの、良好な結果を示し、十分実用に耐え得ると判断された。一方、試料No.1については、最も短い寿命を示す結果となった。
【0071】
実験2:偏荷重時の寿命試験
試料No.4および試料No.3が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。次に、試料No.1が試料No.4および試料No.3には及ばないものの、比較的良好な結果を示した。一方、試料No.2は上記実験1の時の結果より悪い結果を示し、偏荷重条件により短寿命化したものと考えられる。
【0072】
実験3:回転トルク試験
試料No.1、試料No.3、試料No.4が十分小さな回転トルクを示し良好な結果となった。一方、試料No.2は回転トルクが他の試料より大きくなっていた。
【0073】
以上の結果から、総合的に試料No.4がいずれの試験においても良好な結果を示し、総合的に最も優れた結果となった。また、試料No.3も、試料No.1および試料No.2と比べて良好な結果を示した。
(実験例2)
<試料>
上記の実験例1における試料No.4を用いた。
【0074】
<実験内容>
表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
試料No.4について、窒素濃度の測定と窒素富化層の深さ測定を実施した。測定方法としては、以下のような方法を用いた。すなわち、
図3に示した第1〜第3測定点において、中心線と垂直な方向に試料としての円錐ころを切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、試料の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。第1〜第3測定点における断面のそれぞれにて、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値を各測定点での窒素濃度とした。
【0075】
窒素富化層の底部までの距離の測定:
上記第1〜第3測定点での断面において、500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受10において、深さ方向に0.5mm間隔で並ぶ複数の測定点において硬度測定を実施した。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とし、当該硬度がHV450となった位置の深さを窒素富化層の底部とした。
【0076】
窒素富化層における粒度番号の測定:
旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いた。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とした。
【0077】
<結果>
表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
第1測定点については、窒素濃度が0.2質量%となり、第2測定点については窒素濃度が0.25質量%となり、第3測定点については窒素濃度が0.3質量%となった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
【0078】
窒素富化層の底部までの距離の測定:
第1測定点については、窒素富化層の底部までの距離が0.3mmとなり、第2測定点については当該距離が0.35mmとなり、第3測定点については当該距離が0.3mmとなった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
【0079】
窒素富化層における粒度番号の測定:
第1測定点から第3測定点のいずれにおいても、窒素富化層での旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10番以上となっていた。
【0080】
次に、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の用途の一例について説明する。本実施形態に係る円錐ころ軸受は、デファレンシャル又はトランスミッション等の自動車の動力伝達装置に組み込まれると好適である。すなわち、本実施形態に係る円錐ころ軸受は、自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。
図13は、上述した円錐ころ軸受10を使用した自動車のデファレンシャルを示す。このデファレンシャルは、プロペラシャフト(図示省略)に連結され、デファレンシャルケース121に挿通されたドライブピニオン122が、差動歯車ケース123に取り付けられたリングギヤ124と噛み合わされ、差動歯車ケース123の内部に取り付けられたピニオンギヤ125が、差動歯車ケース123に左右から挿通されるドライブシャフト(図示省略)に連結されるサイドギヤ126と噛み合わされて、エンジンの駆動力がプロペラシャフトから左右のドライブシャフトに伝達されるようになっている。このデファレンシャルでは、動力伝達軸であるドライブピニオン122と差動歯車ケース123が、それぞれ一対の円錐ころ軸受10a、10bで支持されている。
【0081】
図14は、実施の形態に係る円錐ころ軸受を備えるマニュアルトランスミッションの構成を示す概略断面図である。
図14を参照して、マニュアルトランスミッション100は、常時噛合い式のマニュアルトランスミッションであって、入力シャフト111と、出力シャフト112と、カウンターシャフト113と、ギア(歯車)114a〜114kと、ハウジング115とを備えている。
【0082】
入力シャフト111は、円錐ころ軸受10によりハウジング115に対して回転可能に支持されている。この入力シャフト111の外周にはギア114aが形成され、内周にはギア114bが形成されている。
【0083】
一方、出力シャフト112は、一方側(図中右側)において円錐ころ軸受10によりハウジング115に回転可能に支持されているとともに、他方側(図中左側)において転がり軸受120Aにより入力シャフト111に回転可能に支持されている。この出力シャフト112には、ギア114c〜114gが取り付けられている。
【0084】
ギア114cおよびギア114dはそれぞれ同一部材の外周と内周に形成されている。ギア114cおよびギア114dが形成される部材は、転がり軸受120Bにより出力シャフト112に対して回転可能に支持されている。ギア114eは、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。
【0085】
また、ギア114fおよびギア114gの各々は同一部材の外周に形成されている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材は、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材が図中左側にスライドした場合には、ギア114fはギア114bと噛合い可能であり、図中右側にスライドした場合にはギア114gとギア114dとが噛合い可能である。
【0086】
カウンターシャフト113には、ギア114h〜114kが形成されている。カウンターシャフト113とハウジング115との間には、2つのスラストニードルころ軸受が配置され、これによってカウンターシャフト113の軸方向の荷重(スラスト荷重)が支持されている。ギア114hは、ギア114aと常時噛合っており、かつギア114iはギア114cと常時噛合っている。また、ギア114jは、ギア114eが図中左側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。さらに、ギア114kは、ギア114eが図中右側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。
【0087】
次に、マニュアルトランスミッション100の変速動作について説明する。マニュアルトランスミッション100においては、入力シャフト111に形成されたギア114aと、カウンターシャフト113に形成されたギア114hとの噛み合わせによって、入力シャフト111の回転がカウンターシャフト113へ伝達される。そして、カウンターシャフト113に形成されたギア114i〜114kと出力シャフト112に取り付けられたギア114c、114eとの噛み合わせ等によって、カウンターシャフト113の回転が出力シャフト112へ伝達される。これにより、入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される。
【0088】
入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される際には、入力シャフト111およびカウンターシャフト113の間で噛合うギアと、カウンターシャフト113および出力シャフト112の間で噛合うギアとを変えることによって、入力シャフト111の回転速度に対して出力シャフト112の回転速度を段階的に変化させることができる。また、カウンターシャフト113を介さずに入力シャフト111のギア114bと出力シャフト112のギア114fとを直接噛合わせることによって、入力シャフト111の回転を出力シャフト112へ直接伝達することもできる。
【0089】
以下に、マニュアルトランスミッション100の変速動作をより具体的に説明する。ギア114fがギア114bと噛合わず、ギア114gがギア114dと噛合わず、かつギア114eがギア114jと噛合う場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114jおよびギア114eを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第1速とされる。
【0090】
ギア114gがギア114dと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114i、ギア114c、ギア114dおよびギア114gを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第2速とされる。
【0091】
ギア114fがギア114bと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111はギア114bおよびギア114fとの噛合いにより出力シャフト112に直結され、入力シャフト111の駆動力は直接出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第3速とされる。
【0092】
上述のように、マニュアルトランスミッション100は、回転部材としての入力シャフト111および出力シャフト112をこれに隣接して配置されるハウジング115に対して回転可能に支持するために、円錐ころ軸受10を備えている。このように、上記実施の形態に係る円錐ころ軸受10は、マニュアルトランスミッション100内において使用することができる。そして、長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受10は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。
【0093】
ところで、自動車の動力伝達装置であるトランスミッション又はデファレンシャル等においては、省燃費化のために、潤滑油(オイル)の粘度を低下させたり、少油量化を図る傾向にあり、円錐ころ軸受において、十分な油膜が形成され難いことがある。また、トランスミッション又はデファレンシャルが低温環境下(例えば、−40℃〜−30℃)で使用されると、潤滑油の粘度が上がるため、特に始動時には、ギアの回転による跳ね掛け潤滑等によって、当該潤滑油が円錐ころ軸受に十分に供給されないことがある。このため、自動車用の円錐ころ軸受では、寿命の向上が要求されている。よって、寿命が向上した上記の円錐ころ軸受10をトランスミッション又はデファレンシャルに組み込むことで上記要求を満たすことができる。
【0094】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行ったが、上述の実施の形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。