特許第6858055号(P6858055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858055
(24)【登録日】2021年3月25日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】鉛吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/10 20060101AFI20210405BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20210405BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20210405BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20210405BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B01J20/10 C
   C02F1/28 B
   C02F1/28 D
   C02F1/28 G
   B01J20/20 D
   B01J20/28 Z
   C01B33/12 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-66621(P2017-66621)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-167178(P2018-167178A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 淳任
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 浩司
(72)【発明者】
【氏名】今西 正千代
(72)【発明者】
【氏名】藤元 勇樹
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−048063(JP,A)
【文献】 特開平06−142645(JP,A)
【文献】 特開2005−008676(JP,A)
【文献】 特開2010−031190(JP,A)
【文献】 特開2003−047860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 − 20/28
B01J 20/30 − 20/34
C02F 1/28
C01B 33/00 − 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと酸化マグネシウムとが一体化したシリカマグネシア複合粒子からなり、水銀圧入法で測定した細孔直径3.5〜10nmでの細孔容積が0.26〜0.50ml/g、3.5〜5000nmでの細孔容積が1.30〜2.50ml/gの範囲にあり、且つ圧縮強度が1.5MPa以上の範囲にあることを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
シリカ成分とマグネシア成分とを、下記式:
R=Sm/Mm
式中、Smは、SiO換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である、
で表される質量比Rが1.3〜3.0となる範囲で含有している請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
JIS S−3201(浄水器性能試験−溶解性鉛ろ過能力試験)に準拠し、3gの該吸着剤と50gの活性炭とを混合して、鉛濃度が0.05mg/Lの試料水を濾過流量3L/minにて測定した破過通水量(吸着剤の鉛吸着が破過し、濾過水の鉛濃度が試料水の20%を超えるまでに要した通水量)が該吸着剤1gあたり250L以上である請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の吸着剤からなる水浄化材
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の吸着剤と活性炭とからなり、該吸着剤を、活性炭100質量部当り1〜30質量部の量で含有している水浄化材。
【請求項6】
請求項4〜5の何れかに記載の水浄化材からなる浄水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属吸着剤に関するものであり、より詳細には、鉛に対する吸着性に優れていると共に、さらには水浄化材として好適に使用される重金属吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛等の重金属吸着剤として、非晶質チタノシリケート化合物、X型ゼオライト、A型ゼオライトなどが知られている(特許文献1参照)。
このような重金属吸着剤において、非晶質チタノシリケート化合物は、かなり高価であるという問題があり、一方、ゼオライト系のものは、アルミニウムを含んでいるため、アルミニウムが溶出するという問題があり、例えば浄水器のフィルターとしての使用が制限される。
【0003】
また、シリカマグネシア製剤やマグネシウム表面処理シリカゲル粒子について、鉄等の重金属吸着能に優れていることが報告されている(特許文献2,3参照)。これらのシリカマグネシア製剤などの価格は、非常に安価であり、アルミニウムを含んでおらず、また重金属の飽和吸着量にも優れているのであるが、流水中での重金属除去性能(破過寿命)が極端に低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2004/039494
【特許文献2】特開2005−8676号
【特許文献3】特開2015−178064号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、安価であり、アルミニウムを含んでおらず、重金属、特に鉛に対する流水中での除去性能(破過寿命)が向上している重金属吸着剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、破過寿命が特に高く、従って、浄水器のフィルターとしても好適に使用し得る重金属吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、安価なシリカマグネシア系製剤の重金属吸着能について検討した結果、この製剤を300〜830℃の温度で焼成することにより、鉛に対する飽和吸着量が向上するばかりか、その破過寿命が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、シリカと酸化マグネシウムとが一体化したシリカマグネシア複合粒子からなり、水銀圧入法で測定した細孔直径3.5〜10nmでの細孔容積が0.26〜0.50ml/g、3.5〜5000nmでの細孔容積が1.30〜2.50ml/gの範囲にあり、且つ圧縮強度が1.5MPa以上の範囲にあることを特徴とする吸着剤が提供される。
【0008】
本発明の吸着剤においては、
(1)シリカ成分とマグネシア成分とを、下記式:
R=Sm/Mm
式中、Smは、SiO換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である、
で表される質量比Rが1.3〜3.0となる範囲で含有していること、
(2)JIS S−3201(浄水器性能試験−溶解性鉛ろ過能力試験)に準拠し、3gの該吸着剤と50gの活性炭とを混合して、鉛濃度が0.05mg/Lの試料水を濾過流量3L/minにて測定した破過通水量(吸着剤の鉛吸着が破過し、濾過水の鉛濃度が試料水の20%を超えるまでに要した通水量)が該吸着剤1gあたり250L以上であること、
(3)水浄化材として使用されること、
が好ましい。
【0009】
本発明によれば、また、上記の吸着剤と活性炭とからなり、該吸着剤を、活性炭100質量部当り1〜30質量部の量で含有している水浄化材が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の重金属吸着剤は、安価であるばかりか、特に鉛に対する吸着能が高く、例えば、鉛に対しての飽和吸着量は、従来公知のシリカマグネシア製剤と比較しても同等以上であるが、特に破過寿命においては、約2倍以上も高くなっている。
しかも、この重金属吸着剤は、シリカと酸化マグネシウムとが一体化したシリカマグネシア複合粒子からなっており、アルミニウムを含有しておらず、アルミニウムの溶出の問題もない。
さらに、この重金属吸着剤は、粒子強度が高く、このため、粒子の崩壊を生じ難く、粒子崩壊による性能低下(例えば崩壊した粒子によるフィルターの部分的な閉塞に伴うショートパスの発生など)を生じ難く、例えば、流水中でも長期間にわたって吸着性能を発揮できる。
【0011】
従って、本発明の重金属吸着剤は、特に上水道などに使用される水の浄化材として好適であり、さらには、他の吸着剤と組み合わせて浄水器のフィルターとして極めて好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<重金属吸着剤>
本発明の重金属吸着剤は、シリカと酸化マグネシウム(マグネシア)とが一体化したシリカマグネシア複合粒子からなる。この複合粒子とは、シリカとマグネシアとが原子の組み換えや交換を伴う化学結合によるものではなく、それぞれの微細な粒子が物理的に分離しないレベルに緊密に接触している状態を意味するものであり、単なる混合物とは全く異なっている。
また、この複合粒子が、シリカとマグネシアとの単なる混合物でないことは、後述する実施例に示されているように、本発明の吸着剤は、シリカの鉛吸着性能(比較例1)とマグネシアの鉛吸着性能(比較例2)の何れよりも遥かに優れていることから理解される。
【0013】
本発明の重金属吸着剤を構成するシリカマグネシア複合粒子は、水銀圧入法で測定した細孔直径3.5〜10nmでの細孔容積が0.26〜0.50ml/g、3.5〜5000nmでの細孔容積が1.30〜2.50ml/gの範囲にある。このような細孔容積を有するシリカマグネシア複合粒子は、焼成という熱処理を経て得られるものであり、この点において、例えば特許文献2,3に開示されている未焼成のシリカマグネシアとは明確に異なっている。以下、このシリカマグネシア複合粒子を、シリカマグネシア複合焼成粒子と呼ぶことがある。
例えば、本発明におけるシリカマグネシア複合焼成粒子は、細孔直径3.5〜5000nmでの細孔容積では未焼成品と同レベルであるが、3.5〜10nmでの細孔直径に限定すると、その細孔容積は未焼成品に比してかなり大きい。
【0014】
即ち、このシリカマグネシア複合焼成粒子は、未焼成品と比較して、重金属、特に鉛に対する流水中での除去性能(破過寿命)が大きいが、直径が3.5〜10nmの大きさの細孔が、鉛の吸着に大きく寄与しているためと考えられる。即ち、この大きさの細孔の容積が大きいため、鉛に対する飽和吸着量が大きく、また、このような大きさの細孔と鉛を含有する液体との接触時間も長くなり、結果として、破過寿命も著しく向上している。
【0015】
例えば、破過寿命は、JIS S−3201(浄水器性能試験−溶解性鉛ろ過能力試験)に準拠し、3gの該重金属吸着剤と50gの活性炭とを混合して、鉛濃度が0.05mg/Lの試料水を濾過流量3L/minにて測定した破過通水量(重金属吸着剤の鉛吸着が破過し、濾過水の鉛濃度が試料水の20%を超えるまでに要した通水量(L/g))により評価することができ、本発明では、この破過寿命は該重金属吸着剤1gあたり250L以上であるが、未焼成品では、約170Lである。(この値が大きいほど、重金属に対する吸着性能が優れていることを示す。)
また、本発明の重金属吸着剤の鉛飽和吸着量は、例えば最も性能が高いものでは、1.7mmol/g以上であるが、未焼成品では、1.5mmol/g程度である。
【0016】
さらに、本発明におけるシリカマグネシア複合焼成粒子は、焼成品であることに関連して、圧縮強度が1.5MPa以上、好ましくは2.0MPa以上の範囲にある。即ち、この焼成により粒子の収縮が生じ、結果として、圧縮強度が向上することとなる。因みに、特許文献2等により従来公知のシリカマグネシア複合未焼成粒子(即ち、未焼成品)の圧縮強度は、1.3MPa程度であり、本発明に比してかなり低い。
尚、圧縮強度が過度に高いことは、必要以上に焼成が行われたことを意味し、この結果、前述した細孔分布が損なわれてしまい、重金属、特に鉛に対する吸着性能が低下してしまう。従って、本発明においては、この圧縮強度は10MPa以下、特に5.0MPa以下の範囲に抑えられていることが好適である。
【0017】
本発明において、このシリカマグネシア複合焼成粒子の圧縮強度が向上していることは、粒子が崩壊し難いことを意味し、粒子の崩壊による性能低下を有効に回避できる。
例えば、後述する実施例に示されているように、シリカマグネシア複合焼成粒子の一定量を水に投入して超音波分散したとき、超音波分散後の平均粒子径(レーザ回折散乱法により測定したメジアン径)は、超音波分散前に比して約68%に低下するが、未焼成粒子について同様の試験を行うと、平均粒子径の変化率は約30%であり、本発明に比して、大きく粒子径が低下していることが判る。
このように、本発明において、重金属吸着剤として用いるシリカマグネシア複合焼成粒子は、非常に粒子崩壊し難いため、他の吸着剤と混合して使用する場合、混合操作に際して粒子崩壊による性能低下を有効に防止することができ、また、流水中で使用した場合においても、粒子崩壊による性能低下が有効に回避でき、長期に渡って、安定して重金属に対する吸着性能を発揮することができる。
【0018】
さらに、重金属吸着剤として使用する上述したシリカマグネシア複合焼成粒子は、一般に、シリカ成分とマグネシア成分とを、下記式:
R=Sm/Mm
式中、Smは、SiO換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である、
で表される質量比Rが0.1〜50となる範囲で含有しており、特に、1.3〜3.0となる範囲で含有していることが好適である。即ち、シリカとマグネシアとの質量比が上記範囲にあるとき、両成分がバランスよく分布して一体複合化が行われ、バラツキなく、重金属に対して、安定した吸着性能を発揮できる。
【0019】
尚、かかるシリカマグネシア複合焼成粒子は、ゼオライトとは異なり、アルミニウムを含んでいないため、これを水浄化材として使用したとき、アルミニウムの溶出という問題は生じない。
また、焼成物であることに関連して、その強熱減量(1000℃×30分、150℃乾燥基準)は10%以下、好ましくは8.2%以下である。
【0020】
<重金属吸着剤(シリカマグネシア複合焼成粒子)の製造>
上述したシリカマグネシア複合焼成粒子は、(A)シリカと(B)マグネシア(酸化マグネシウム)もしくはその水和物とを、水分の存在下で均質に混合して水性スラリーとなし、次いで熟成を行い、さらに、水分を除去し、引き続いて焼成することにより、製造される。
【0021】
即ち、水分の存在下、例えば水中での均質混合により、原料の一つである(A)シリカ(二酸化ケイ素)がコロイド粒子乃至微細凝集粒子(1次乃至2次粒子)まで解れる(微細粒子化)。他方の(B)マグネシア(酸化マグネシウム)も、水中に投入されて撹拌もしくは粉砕されると、溶解は殆ど起こらないが、マグネシア粒子表面の部分的な水和により、その結晶(もしくは新たに生成した水和物の結晶)の一部分或いは全部が崩壊もしくは剥離して、マグネシア(酸化マグネシウム)及び/又は酸化マグネシウム水和物からなる微細な粒子となって水中に分散される(微細粒子化)。
【0022】
熟成工程において、これらの微細粒子が均質に分散したスラリーから水分が除去され、固形分濃度が上昇していくと、シリカの粒子(A)とマグネシアの粒子(B)とが徐々に或いは急激に接近し、原子の交換や組み換えを伴うような化学結合を伴うことなく、一体複合化した形態に至るのである(一体複合化完了)。即ち、本発明のシリカマグネシア複合焼成粒子は、物理的手段により分離しないように一体化された構造である。
【0023】
上述した本発明の重金属吸着剤を製造するためには、原料として、(A)二酸化ケイ素(シリカ)と(B)酸化マグネシウム(マグネシア)もしくはその水和物とを使用する。これらは、何れも食品製造用のろ過助剤もしくは吸着剤として認可されており、従って、これらの使用により食品精製としての用途が制限されることはない。
【0024】
マグネシアの粒子(B)として、例えば、酸化マグネシウム以外のマグネシア原料(水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムなど)を用いる場合、十分な微細粒子化ができないばかりか、シリカの粒子(A)とマグネシウム成分が水中で接触したとき、さらには引き続いての熱処理を行ったときに、シリカ粒子(A)との間で原子の交換や組み換えを伴うような化学結合が生じる虞がある。本発明の原料であるマグネシアの粒子(B)において、このような化学結合が起きた場合は、本発明の重金属吸着剤に特有の細孔構造を示さない場合があるため、特に酸化マグネシウムを使用することが好ましい。
【0025】
また、シリカ(A)及びマグネシアもしくはその水和物(B)としては、前述した微細粒子化が容易となるものを選択するのがよい。
例えば、シリカとしては非晶質の含水タイプのものが好適であり、ゲル法或いは沈降法の何れで製造されたものであってもよいが、一次粒子の小さいものが好適であり、比表面積が40m/g以上、特に140m/g以上であるものが好適である。
またマグネシアもしくはその水和物としては、結晶子の小さく且つ経時による炭酸化が進んでいないものがよい。例えば、比表面積が2m/g以上、好ましくは20m/g以上、特に好ましくは50m/g以上であるマグネシア粉末が使用される。
【0026】
上記の水性スラリーの調製に際して、(A)シリカと(B)マグネシア又はその水和物との使用量は、前述した質量比Rが所定の範囲となる量とすればよい。
【0027】
一体複合化の度合いは、吸着剤中のシリカ成分とマグネシア成分の質量比(R)によって異なる。例えば、質量比が2付近(好ましくは1.3〜3.0)では、シリカ成分とマグネシア成分が一体複合化にちょうどよい質量比となっており、後述する実施例に示されているように重金属、特に鉛に対する流水中での除去性能(破過寿命)が向上しており、一体複合化の度合いが非常に高い。
【0028】
水性スラリーの調製において、各原料(A)、(B)や水の投入順序等に制限はないが、凝集やゲル化現象(増粘)が起こると、前述した微細粒子化や一体複合化の進行が妨げられる虞がある。このため、水性スラリーの固形分濃度は低い方が好ましい。一方で、生産性や経済性の見地からは固形分濃度は高い方がよい。従って、固形分濃度は3〜15質量%、特に8〜13質量%であることが好ましい。
【0029】
また、上記の均質混合による水性スラリーの調製および引き続いて行われる熟成は、攪拌翼を備えた攪拌槽中で攪拌下に行うのが一般的であるが、湿式ボールミルやコロイドミルによる粉砕もしくは分散下で行うこともできる。
また、このような均質混合および熟成は、粒子同士の一体複合化を短時間で終了させるために加熱下で行うことが好ましいが、加熱温度が高いとゲル化が生じ、複合粒子が不均質となりやすい。したがって、この加熱温度は、通常、100℃以下で行い、50〜97℃で行うことが好ましく、50〜79℃で行うことが特に好ましく、例えば、0.5時間以上、特に1〜24時間、より好ましくは3〜10時間程度かけて均質混合および熟成を行うことにより、シリカ粒子とマグネシア粒子が一体複合化した粒状物を含む水性スラリーが得られる。
【0030】
熟成後の水分除去は、スプレー乾燥機やスラリー乾燥機等を用いての蒸発乾燥により行われるが、ろ過や遠心分離等の手段によりある程度の脱水を行った後に、箱形乾燥機、バンド乾燥機、流動層乾燥機等を用いて乾燥を行ってもよい。乾燥は110〜200℃の範囲の温度で行うことが好ましい。このとき、原料(B)の水和が少なくとも一部乃至は全部解消される。
【0031】
上記のようにして、例えば水分含有率が10質量%以下であり、脱水により原料粒子である二酸化ケイ素(シリカ)粒子とマグネシア粒子とが緊密に複合化し、少なくとも一部のシリカ粒子およびマグネシア粒子が一体複合化したシリカ・マグネシア複合粒子が、顆粒状、粉状、ケーキ状或いは団塊状で得られる。これらは、必要により、粉砕・分級、或いは成形を行ったのちに、焼成炉中で焼成を行うことにより、シリカ粒子とマグネシア粒子とが一体複合化した複合焼成粒子が得られる。
【0032】
上記の粉砕は、それ自体公知の乾式粉砕法により行うことができ、例えばアトマイザーの如き衝撃式粉砕機や、乾式ボールミル、ローラーミル、ジェットミルなどを用いて行なうことができる。
また、分級は、通常の乾式分級機を用い、重力分級、遠心分級、慣性分級等によって行われる。
このような粉砕及び分級によって、例えば5μm未満の微細粒子含有率が20体積%以下の粉末の形で、焼成による加熱処理を行っていないシリカマグネシア複合粒子が得られる。
【0033】
また、成形は、転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒、解砕造粒、圧縮造粒、押出造粒等、任意の方法で行うことができるが、一般的には、粒があまり硬くならず、且つ容易に粉化しない程度の強度を有するように成形されるのがよい。このような成形により、例えば、直径もしくは長径が5μm〜5mmである球状もしくは楕円球状、或いは径が0.5mm以上で、且つ軸長が50mm以下の円柱形状粒子の形で、焼成による加熱処理を行っていないシリカマグネシア複合粒子が得られる。
【0034】
焼成による加熱処理を行っていないシリカマグネシア複合粒子としては、例えば水澤化学工業株式会社より、「ミズカライフ」の商品名で市販されている。本発明においては、例えば、後述する実施例に示されているように、水澤化学工業株式会社製「ミズカライフ」を焼成することにより、シリカマグネシア複合焼成粒子を得ることができる。
【0035】
本発明においては、この複合焼成粒子を重金属吸着剤として使用するためには、上記の焼成を300〜830℃、好ましくは400〜800℃、特に好ましくは400〜750℃の温度で行うことが重要であり、このような温度での焼成により、前述した細孔分布と圧縮強度とを有する粒子が得られる。即ち、かかる焼成により、おそらく粒子内に存在するSiOH基の部分的な脱水縮合が生じて細孔径の変動が生じ、この結果として、重金属(特に鉛)の吸着に寄与する細孔直径3.5〜10nmの細孔容積が前述した範囲に増大するものと思われる。また、焼成による収縮により、圧縮強度も前述した範囲に高められる。
【0036】
例えば、上記のような焼成が行われておらず、単に乾燥により水分を除去したに過ぎない未焼成粒子や、焼成が行われたとしても焼成温度が上記範囲より低い粒子では、細孔直径3.5〜10nmでの細孔容積が前述した範囲よりも低く、したがって、本発明のような鉛に対する吸着性能が発現しないし、また、圧縮強度も低く、粒子が崩壊し易いものとなっている。さらに、焼成温度が上記範囲よりも高い場合には、粒子の収縮の程度が大きいため、圧縮強度はより高くなるが、細孔の圧壊が生じ、細孔直径3.5〜10nmでの細孔容積が減少してしまい、吸着性能が低下してしまう。
【0037】
本発明において、上記のような焼成は、細孔直径3.5〜10nmでの細孔容積が前述した範囲内となるように行われ、例えば0.5〜5時間程度、上記温度での焼成を行えばよい。
【0038】
このようにして得られる複合焼成粒子(すなわち、本発明の重金属吸着剤)は、顆粒状、粉状、ケーキ状或いは団塊状で得られるが、適宜の大きさの粒子に造粒して、重金属吸着剤として使用に供される。
造粒手段としては、スプレー造粒、転動造粒等、公知の手段により行うことができるが、粒子に大きな負荷が加わると、前述した細孔分布が損なわれることがあるため、できるだけ負荷のかからない手段、例えば、スプレー造粒が特に好適である。
【0039】
本発明においては、シリカマグネシア複合焼成粒子は、シリカ成分とマグネシア成分が互いに遊離しておらず、緊密に複合化しているために、通常、その懸濁液のpHは6.0〜10.0の範囲にある。
【0040】
本発明においては、シリカマグネシア複合焼成粒子は、重金属を安定に吸着し得るという点で、窒素吸着法で測定したBET比表面積は、100m2/g以上、更に400m/g以上、特に500m/g以上であることが好適である。
【0041】
かかる本発明の重金属吸着剤は、鉛、マンガン、クロム、ニッケル、バナジウム、銅、鉄等の重金属、特に鉛に対しての吸着性能に優れているばかりか、アルミニウムを含有しておらず、したがってアルミニウム溶出の問題がないため、特に水浄化材として好適に使用される。
【0042】
また、粒子強度が高く、粒子の崩壊を生じにくいため、活性炭、及び/又は、他の吸着剤と混合して使用する場合にも、粒子崩壊による性能低下を生ぜず、安定して吸着性能が発揮される。従って、水浄化材として流水中に配置して使用する用途に好適であり、特に各種の有機物やハロゲン化物に対する吸着性に優れた活性炭およびその他の吸着剤と混合して使用することが最も好適である。
【0043】
このような活性炭と混合して水浄化材として使用する場合、一般に、活性炭100質量部あたり、1〜30質量部の量で、本発明の重金属吸着剤が使用される。特に、本発明の重金属吸着剤は安価であることから水浄化材として有効に使用することができ、本発明の水浄化材又は活性炭と組み合わせての水浄化材は、浄水器、特に家庭用の浄水器のカートリッジ形式のフィルターとして好適である。
【0044】
その他の吸着剤として特に制限はないが、例えば、チタノシリケート化合物、ケイ酸マグネシウムなどの各種ケイ酸塩、A型ゼオライト、X型ゼオライトなどの各種ゼオライト、セピオライト、アタパルジャイト、ドーソナイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイトなどの各種粘土、イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0045】
本発明の重金属吸着剤は、既に述べた通り、食品添加物として認可されているシリカ及びマグネシア成分とが一体化したシリカマグネシア複合粒子からなり、食品精製の用途に有効に適用できる。例えば、繰返し使用により劣化し、銅や鉄などの重金属を多く含む揚油の再生をはじめ、同様に重金属を多く含む魚貝類エキスや畜肉エキス等の濃縮調味液の原料・煮汁から重金属を除去し、加熱濃縮時の褐変反応(メイラード反応)を抑制し、風味や栄養価の低下を防止する目的など、有効に使用される。また、食品以外の広く有用な液状物等から不純物としての重金属の吸着・除去による精製にも有効に使用することができる。
【0046】
また、本発明の重金属吸着剤は、飽和吸着量が高く、重金属吸着後の溶出抑制に優れている。このため、焼却灰、下水汚泥、土壌などの重金属で汚染された被処理物に対して、重金属不溶化材として本発明の重金属吸着剤を施用することも有効である。
【実施例】
【0047】
本発明の優れた効果を、次の実験例により説明する。
【0048】
(1)細孔容積
Micromeritics社製AutoPore IV 9500を用いて水銀圧入法にて測定を行った。細孔直径が3.5〜10nmでの細孔容積は20000〜60000psiaの圧入量より、細孔直径が3.5〜5000nmでの細孔容積は30〜60000psiaの圧入量より求めた。
【0049】
(2)圧縮強度
(株)島津製作所製微小圧縮試験機MCT−510を用いて各重金属吸着剤20点の粒子の圧縮強度を測定し、中央値を吸着剤の圧縮強度とした。
【0050】
(3)飽和吸着量
鉛濃度が2000ppmの試料水(硝酸鉛(II)水溶液)を調整し、試料水1Lに吸着剤2.5gを加え、硝酸溶液にてpHを4〜5に調整した後一晩撹拌した。吸着剤を濾別し、試料水の鉛濃度を(株)日立ハイテクサイエンス製ZA3000を用いてフレーム原子吸光法により測定した。試験前後の鉛濃度から重金属の吸着量を算出し、飽和吸着量とした。
【0051】
(4)破過寿命
3gの重金属吸着剤と50gの活性炭とを混合して水浄化材を作成した。JIS S−3201(浄水器性能試験−溶解性鉛ろ過能力試験)に基づいて、鉛濃度が0.05mg/Lの試料水(硝酸鉛(II)水溶液)を調整し、流量3L/min(空塔速度1000h−1)で上記水浄化材に通水した。重金属吸着剤の鉛吸着が破過し、濾過水の鉛濃度が試料水の20%を超えるまでに要した通水量(L/g)を破過寿命とした。
【0052】
(5)平均粒子径の変化率
Malvern社製レーザ回折散乱式粒度分布測定機マスターサイザー3000を用いて、超音波分散の有無による粒度の変化を用いて水中崩壊性を評価した。測定前分散(分散時間180秒)において超音波強度0%(超音波分散なし)でのメジアン径Dnと超音波強度100%でのメジアン径Dusから、粒子径の変化率ΔDを下記式:
ΔD=Dus/Dn
により算出した。
【0053】
(6)強熱減量
強熱減量は、150℃で2時間乾燥した試料を1000℃で30分焼成後、放冷した後に減量から定量した。
【0054】
下記の実施例および比較例に示す吸着剤について、物性および重金属吸着試験結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
水澤化学工業(株)製二酸化ケイ素 ミズカソーブC―1を吸着剤として使用した。
【0056】
(比較例2)
神島化学工業(株)製酸化マグネシウム スターマグUを吸着剤として使用した。
【0057】
(比較例3)
水澤化学工業(株)製シリカマグネシア製剤 ミズカライフF―1G(R=2.1)を重金属吸着剤として使用した。
【0058】
(実施例1)
比較例3の吸着剤を550℃で4時間焼成し、重金属吸着剤として使用した。
【0059】
(実施例2)
比較例3の吸着剤を750℃で2時間焼成し、重金属吸着剤として使用した。
【0060】
(比較例4)
比較例3の吸着剤を900℃で2時間焼成し、重金属吸着剤として使用した。
【表1】