特許第6858085号(P6858085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858085
(24)【登録日】2021年3月25日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】クリヤ塗装ステンレス鋼板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20210405BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20210405BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20210405BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210405BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20210405BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B32B15/082 Z
   C09D7/40
   C09D133/00
   C09D5/02
   B05D7/14 C
   B05D7/24 302P
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-124893(P2017-124893)
(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公開番号】特開2019-6036(P2019-6036A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】有吉 春樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 敏敬
【審査官】 河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−280400(JP,A)
【文献】 特開平07−266494(JP,A)
【文献】 米国特許第06620890(US,B1)
【文献】 特開2007−091782(JP,A)
【文献】 特開2005−349684(JP,A)
【文献】 特開2003−053258(JP,A)
【文献】 特許第5849763(JP,B2)
【文献】 中国特許出願公開第101407688(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B05D 1/00− 7/26
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板の少なくとも一方の面に形成されたクリヤ樹脂層とを具備し、
前記クリヤ樹脂層は、コア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂と、沸点が50〜130℃の中和アミンとを含み、
前記コア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂のコア部の数平均分子量が300,000〜400,000であり、ガラス転移温度が−40〜0℃であり、
前記コア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂のシェル部の数平均分子量が8,000〜15,000であり、ガラス転移温度が50〜120℃であり、
前記中和アミンが、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、ジ(2−エチルへキシル)アミン及び3−メトキシプロピルアミンから選択される1種以上であり、
前記クリヤ樹脂層の表面が凹凸面である、クリヤ塗装ステンレス鋼板。
【請求項2】
前記クリヤ樹脂層の表面の算術平均粗さRaが0.04〜0.50μmである、請求項1に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【請求項3】
前記クリヤ樹脂層は潤滑剤をさらに含む、請求項1または2に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリヤ塗装ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、ステンレス特有の美麗な金属光沢を活かした高級感のある外観が得られることから、家庭用や業務用の電化製品の筐体や内装材、表装材に広く使われている。
ステンレス鋼板は、プレス加工時にプレス金型とステンレス鋼板との間で生じる摩擦によって表面に擦り傷が生じやすく、商品価値の低下につながりやすい。そのため、プレス金型の内面に潤滑油を塗布して潤滑性を高める方法が提案されている。
しかし、プレス金型に潤滑油を塗布する方法は、傷付き防止の観点では有効であるが、継続的にプレス金型へ潤滑油を塗布する必要があり生産性が低下しやすかった。
【0003】
そこで、ステンレス鋼板の表面に保護フィルムを貼付したり、保護膜としてクリヤ樹脂層を形成したりする方法が提案されている。以下、表面にクリヤ樹脂層が形成されたステンレス鋼板を「クリヤ塗装ステンレス鋼板」ともいう。
しかし、ステンレス鋼板の表面に保護フィルムを貼付する方法では潤滑性が不充分であり、保護フィルムの一部が破損するなどしてステンレス鋼板から剥がれ、プレス金型内に破片が残ることがあった。破片が残った状態で次のステンレス鋼板をプレス加工すると、破片によりステンレス鋼板の表面が傷付く恐れがある。また、プレス加工後に保護フィルムを剥離する必要があり、手間がかかりやすい。
【0004】
一方、ステンレス鋼板の表面にクリヤ樹脂層を形成する方法は、クリヤ樹脂層が薄膜であればステンレス鋼板の美観を損なうことなく、プレス加工時の傷付きも防止できる。そのため、ステンレス鋼板の表面にクリヤ樹脂層を形成する方法は、簡便で生産性に優れた手法として、近年、広く使用されている。
しかし、プレス加工の後に溶接工程を実施する場合や、クリヤ塗装ステンレス鋼板が製品として使用される際に高熱に曝されたり直火に当ったりする場合、クリヤ樹脂層が焦げたり燃えたりするなどして、悪臭が発生したりクリヤ塗装ステンレス鋼板の美観が損なわれたりすることがある。
【0005】
そこで、近年、脱脂処理により剥離可能なクリヤ樹脂層が表面に形成されたステンレス鋼板(脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板)が提案されている(特許文献1〜6)。脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、プレス加工後にアルカリ溶液に浸漬することで容易にクリヤ樹脂層が剥離するように設計されている。脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、脱脂処理の工程が増えるため、工程数の増加という点ではプレス金型に潤滑油を塗布する方法と同様であるが、プレス金型に潤滑油を塗布する方法とは異なり、継続的にプレス金型へ潤滑油を塗布する必要がない点で生産性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−114013号公報
【特許文献2】特開2000−280400号公報
【特許文献3】特開2000−160096号公報
【特許文献4】特開2002−120323号公報
【特許文献5】特開2002−144478号公報
【特許文献6】特開2005−161562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、非脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板に比べて潤滑性の点で劣る。また、加工性が不充分の場合、プレス加工時にクリヤ樹脂層が引き伸ばされて白化することがあった。
プレス加工後にクリヤ樹脂層を剥離してしまえば、クリヤ樹脂層が白化しても問題はないが、ステンレス鋼板の全てが上述したような高熱に曝されたり直火に当ったりする箇所に使用されるわけではない。そのため、高熱に曝されたり直火に当ったりしない箇所に使用される脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、脱膜処理することなく用いられることとなり、クリヤ樹脂層が白化した場合は問題となる。
白化の問題を解消するには、高熱に曝されたり直火に当ったりする箇所には脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板を使用し、それ以外の箇所には非脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板を使用すればよいが、脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板と非脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板の両方を準備する必要があり、生産性を下げる要因となる。
【0008】
そのため、脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板には、加工性に優れることが求められる。加工性に優れていればプレス加工時にクリヤ樹脂層が白化しにくいため、クリヤ樹脂層を剥離することなく高熱に曝されたり直火に当ったりしない箇所に脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板を使用でき、非脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板を使用する必要がない。
また、ステンレス鋼板の表面にクリヤ樹脂層を形成する際には、通常、100℃以上の高温で乾燥するため、クリヤ樹脂層を形成した後にクリヤ塗装ステンレス鋼板を水冷することがある。そのため、脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板には、耐水性にも優れることが求められる。
【0009】
本発明の課題は、アルカリ溶液により容易にクリヤ樹脂層が脱膜し、かつ加工性および耐水性に優れるクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1] ステンレス鋼板と、該ステンレス鋼板の少なくとも一方の面に形成されたクリヤ樹脂層とを具備し、前記クリヤ樹脂層は、コア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂と、沸点が50〜130℃の中和アミンとを含み、前記コア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂のコア部の数平均分子量が300,000〜400,000であり、ガラス転移温度が−40〜0℃であり、前記コア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂のシェル部の数平均分子量が8,000〜15,000であり、ガラス転移温度が50〜120℃であり、前記中和アミンが、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、ジ(2−エチルへキシル)アミン及び3−メトキシプロピルアミンから選択される1種以上であり、前記クリヤ樹脂層の表面が凹凸面である、クリヤ塗装ステンレス鋼板。
[2] 前記クリヤ樹脂層の表面の算術平均粗さRaが0.04〜0.50μmである、[1]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
[3] 前記クリヤ樹脂層は潤滑剤をさらに含む、[1]または[2]に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリ溶液により容易にクリヤ樹脂層が脱膜し、かつ加工性および耐水性に優れるクリヤ塗装ステンレス鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板をクリヤ樹脂層側から平面視した様子の一実施形態例を模式的に示す平面図である。
図3】本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板のクリヤ樹脂層に含まれるコア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂の一実施形態例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例について説明する。
図1は、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の一実施形態例を模式的に示す断面図であり、図2は、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板をクリヤ樹脂層側から平面視した様子の一実施形態例を模式的に示す平面図である。
本実施形態例のクリヤ塗装ステンレス鋼板10は、ステンレス鋼板11と、該ステンレス鋼板11の一方の面に形成された化成処理塗膜12と、該化成処理塗膜12の表面に形成されたクリヤ樹脂層13とを具備して構成されている。
【0014】
なお、図1〜3においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
また、以下の説明において、ステンレス鋼板11の一方の面を「ステンレス鋼板の表面」とし、ステンレス鋼板11の一方の面(表面)とは反対側の面、すなわちステンレス鋼板11の他方の面を「ステンレス鋼板の裏面」とする。
【0015】
また、本発明において、「クリヤ」とは、可視光領域の光線透過率が30%以上のことである。可視光領域の光線透過率は、分光光度計を用いて、380nm〜750nmの波長範囲で測定した光線透過率である。
クリヤ樹脂層13の可視光領域の光線透過率が30%未満であると、可視光は僅かに透過しているものの、目視ではステンレス鋼板11を殆ど見ることはできない。そのため、ステンレスの持つ美麗な外観を活かした意匠は得られない。
特に、クリヤ樹脂層13の可視光透過率は40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
【0016】
また、本発明において、「粉体」とは、粒子の集合体を意味し、微粒、細粒、顆粒、これらが混合した粉粒体等を包含する。
また、本発明において、「平均粒子径」は、レーザー回折散乱法によって測定された値である。
【0017】
「ステンレス鋼板」
ステンレス鋼板11としては、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系(二相系)など、一般に使用される公知のステンレス鋼板を用いることができる。
ステンレス鋼板11の表面は、研磨処理が施されていてもよい。研磨処理としては、No.4研磨、ヘアライン(HL)研磨、2B研磨など、一般に使用される研磨方法が挙げられる。
【0018】
「化成処理塗膜」
化成処理塗膜12としては、アミノシラン系シランカップリング剤およびエポキシシラン系シランカップリング剤の一方または両方を含有する塗膜が好ましい。ステンレス鋼板11とクリヤ樹脂層13との間に、これらシランカップリング剤を含有する化成処理塗膜12を有していれば、無公害なクロメートフリーにでき、さらにステンレス鋼板11とクリヤ樹脂層13との密着性を高くできる。
ここで、アミノシラン系カップリング剤としては、例えば、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0019】
化成処理塗膜12には、耐食性をさらに向上させるために、リン酸塩類、縮合リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等のリン酸またはその塩類;アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン、アルキッド樹脂等の樹脂などが含まれてもよい。
【0020】
化成処理塗膜12の付着量は2〜50mg/mであることが好ましい。化成処理塗膜12の付着量が2mg/m未満であると、光沢および耐食性が低下しやすくなる。一方、付着量が50mg/mを超えると、沸騰水試験後の塗膜表面にブリスターを生じることがある。化成処理塗膜12の付着量の好ましい上限は30mg/mであり、より好ましくは10mg/mである。
化成処理塗膜12の付着量は、蛍光X線分析にてSiO量を測定することによって求めることができる。
【0021】
「クリヤ樹脂層」
クリヤ樹脂層13は、コア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂と、沸点が50〜130℃の中和アミンとを含む塗膜である。
クリヤ樹脂層13は、アクリルエマルジョン樹脂および中和アミンに加えて、潤滑剤などを含むことが好ましい。
【0022】
<アクリルエマルジョン樹脂>
アクリルエマルジョン樹脂は、例えば図3に示すようにコア部14と呼ばれる中心部と、コア部14の周囲に形成されたシェル部15と呼ばれる外郭部とからなる積層構造を有するコア・シェル型の樹脂である。コア部14とシェル部15は異なる樹脂からなり、コア部14とシェル部15とで異なる機能を持たせたものである。具体的には、コア部14によって加工性が発現し、シェル部15によって耐ブロッキング性が発現する。
【0023】
コア部14の数平均分子量は300,000〜400,000であり、300,000〜350,000が好ましい。コア部14の数平均分子量が、300,000以上であれば加工性が向上し、400,000以下であれば脱膜性が向上する。コア部14の数平均分子量は、コア部14を製造する際の条件(例えば、重合温度、重合開始剤の種類や量等)によって調整することができる。
コア部14の数平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。具体的には、コア部14の材料となる単量体成分(c)を重合し、得られた重合体の数平均分子量をGPCにより測定し、標準ポリスチレン換算した値をコア部14の数平均分子量とみなす。
【0024】
コア部14のガラス転移温度は−40〜0℃であり、−30〜−10℃が好ましい。コア部14のガラス転移温度が、−40℃以上であれば乾燥後のタック性に優れ、0℃以下であれば造膜性に優れる。コア部14のガラス転移温度を前記範囲にするためには、コア部14の組成を適宜選択すればよい。
コア部14のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)の測定により求めた値である。具体的には、単量体成分(c)を重合し、得られた重合体の数平均分子量をDSCにより測定した値をコア部14のガラス転移温度とみなす。
【0025】
コア部14は、単量体成分(c)を重合した重合体からなるアクリル樹脂である。単量体成分(c)は、例えば非官能性アクリル単量体および官能性単量体の少なくとも一方を含む。
非官能性アクリル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族アクリレートまたは環式アクリートが挙げられる。
非官能性アクリル単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
官能性単量体としては、ヒドロキシ基を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体、アルコシキシラン基を有する単量体等が挙げられる。
ヒドロキシ基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル、ラクトン変性水酸基含有アクリルモノマー(ダイセル化学工業製の商品名プラクセルFM1〜5、FA−1〜5)などが挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
アルコキシシラン基を有する単量体は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
これらヒドロキシ基を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体、アルコシキシラン基を有する単量体は、それぞれ1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
単量体成分(c)には、非官能性アクリル単量体および官能性単量体以外の他の単量体が含まれていてもよい。
他の単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体などが挙げられる。
他の単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
シェル部15の数平均分子量は8,000〜15,000であり、8,000〜10,000が好ましい。シェル部15の数平均分子量が、8,000以上であれば加工性が向上し、15,000以下であれば脱膜性が向上する。シェル部15の数平均分子量は、シェル部15を製造する際の条件(例えば、重合温度、重合開始剤の種類や量等)によって調整することができる。
シェル部15の数平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。具体的には、シェル部15の材料となる単量体成分(s)を重合し、得られた重合体の数平均分子量をGPCにより測定し、標準ポリスチレン換算した値をシェル部15の数平均分子量とみなす。
【0029】
シェル部15のガラス転移温度は50〜120℃であり、50〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。シェル部15のガラス転移温度が、50℃以上であれば乾燥後のタック性に優れ、120℃以下であれば造膜性に優れる。シェル部15のガラス転移温度を前記範囲にするためには、シェル部15の組成を適宜選択すればよい。
シェル部15のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)の測定により求めた値である。具体的には、単量体成分(s)を重合し、得られた重合体の数平均分子量をDSCにより測定した値をシェル部15のガラス転移温度とみなす。
【0030】
シェル部15は、単量体成分(s)を重合した重合体からなるアクリル樹脂である。単量体成分(s)は、例えば非官能性アクリル単量体および官能性単量体の少なくとも一方を含む。また、単量体成分(s)には、非官能性アクリル単量体および官能性単量体以外の他の単量体が含まれていてもよい。
非官能性アクリル単量体、官能性単量体および他の単量体としては、単量体成分(c)の説明において先に例示した非官能性アクリル単量体、官能性単量体および他の単量体が挙げられる。
【0031】
<中和アミン>
中和アミンは、酸性であるアクリルエマルジョン樹脂を中和するものである。アクリルエマルジョン樹脂を中和することで、すなわち、アクリルエマルジョン樹脂と中和アミンとが反応することで、アクリルエマルジョン樹脂に含まれる官能基(例えばヒドロキシ基を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体、アルコシキシラン基等の官能性単量体由来の官能基)と、中和アミンに含まれるアミノ基とで塩を形成し、アクリルエマルジョン樹脂がゲル化しにくくなる。
【0032】
中和アミンの沸点は、クリヤ樹脂層13の脱膜性に大きな影響を及ぼす。中和アミンの沸点が脱膜性に影響を及ぼす理由は、中和アミンの沸点に応じてクリヤ樹脂層13中に残存する中和アミンの量(残存量)が変わるためと考えられる。
詳しくは後述するが、コア・シェル型のアクリルエマルション樹脂および中和アミンを含むクリヤ塗料をステンレス鋼板11に塗付した後、乾燥させる工程において、溶媒となる水が蒸発するが、同時に中和アミンも蒸発しようとする。中和アミンの沸点によって中和アミンの蒸発量は変動するため、沸点が高くなるほど乾燥工程後にクリヤ樹脂層13に残存する中和アミンの残存量は増大する。中和アミンの残存量が多くなるほど、クリヤ塗装ステンレス鋼板10を脱膜する工程において使用されるアルカリ溶液がクリヤ樹脂層13により強く作用し、樹脂骨格が破壊されやすくなり、脱膜性が向上する。しかし、中和アミンがクリヤ樹脂層13に過剰に残存していると、耐水性が低下する。
【0033】
中和アミンの沸点は50〜130℃であり、55〜100℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。中和アミンの沸点が、50℃以上であれば脱膜性が向上し、130℃以下であれば耐水性が向上する。
【0034】
中和アミンとしては、例えばトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、ジ(2−エチルへキシル)アミン、3−メトキシプロピルアミンなどが挙げられる。
中和アミンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
クリヤ樹脂層13中の中和アミンは、例えばクリヤ樹脂層13から溶媒で中和アミンを抽出し、抽出液をガスクロマトグラフィ(GC)により測定することで定性できる。
【0035】
<潤滑剤>
潤滑剤としては、フッ素樹脂、オレフィン系潤滑剤、フッ素樹脂以外の非ポリオレフィン系ワックス(以下、「他の非ポリオレフィン系ワックス」ともいう。)などが挙げられる。
潤滑剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などが挙げられる。
フッ素樹脂の市販品としては、例えばFLUON PTFE L150J、L169J、L170J、L172J、L−173J(以上、旭硝子株式会社製);DYNEON PTFE マイクロパウダー TF9201Z、TF9205、TF9207Z(以上、住友スリーエム株式会社製);ルブロンL−2、L−5、L−5F(以上、ダイキン工業株式会社製);KTL−1N、2N、4N、8N、8HM、8F、10N、20N、500F(以上、株式会社喜多村製)などが挙げられる。
フッ素樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
フッ素樹脂は粉体状でもよいし、液状でもよいが、クリヤ樹脂層13の厚さ方向にも均一に分散しやすい観点から、粉体状が好ましい。
フッ素樹脂が粉体状の場合、フッ素樹脂の平均粒子径は1〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。
【0038】
オレフィン系潤滑剤としては、ポリオレフィン系ワックス、ポリオレフィンパウダー(粉体状のポリオレフィン)などが挙げられる。これらの中でも、加工性がより向上する観点から、ポリオレフィン系ワックスが好ましい。
ポリオレフィン系ワックスとしては、例えば、パラフィン、マイクロクリスタリン、ポリエチレン、ポリエチレン−フッ素等の炭化水素系ワックスなどが挙げられる。
ポリオレフィン系ワックスは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
クリヤ塗装ステンレス鋼板10を加工する際には、加工発熱および摩擦熱により塗膜温度が上昇するため、ポリオレフィン系ワックスの融点は70〜160℃であることが好ましい。ポリオレフィン系ワックスの融点が70℃以上であれば、加工時に軟化溶融しにくく、固形潤滑添加物としての優れた特性を充分に発揮できる。一方、ポリオレフィン系ワックスの融点が160℃以下であれば、硬い粒子が表面に存在しにくくなるため摩擦特性が低下しにくく、高い加工性を良好に維持できる。
ポリオレフィン系ワックスの酸価は、0〜30mgKOH/gであることが好ましい。ポリオレフィン系ワックスの酸価が30mgKOH/g以下であれば、アクリルエマルション樹脂との相溶性が高くなりすぎず、ポリオレフィン系ワックスが均一に塗膜表面に浮き上がりやすくなるため、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の加工性がより向上する傾向にある。
ポリオレフィン系ワックスの平均粒子径は0.1〜7.0μmであることが好ましく、1.0〜5.0μmであることがより好ましい。ポリオレフィン系ワックスの平均粒子径が0.1μm以上であれば、得られるクリヤ塗装ステンレス鋼板10の加工性を良好に維持できる。一方、ポリオレフィン系ワックスの平均粒子径が7.0μmを超えると、クリヤ樹脂層13中でのポリオレフィン系ワックスの分散性が低くなる傾向にある。
【0040】
ポリオレフィンパウダーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ブテンコポリマー等のパウダーなどが挙げられる。
ポリオレフィンパウダーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
ポリオレフィンパウダーの平均粒子径は1〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましく、5〜20μmであることがさらに好ましい。
【0042】
他の非ポリオレフィン系ワックスとしては、カルナバワックス、ラノリン、ポリアマイド、シリコーン変性添加剤、液状のフッ素樹脂(フッ素変性添加剤)などが挙げられる。
他の非ポリオレフィン系ワックスは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
クリヤ樹脂層13中の潤滑剤の含有量は、アクリルエマルジョン樹脂の固形分100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。潤滑剤の含有量が、1質量部以上であれば充分な潤滑性向上効果が得られ、10質量部を超えると成膜性が低下し、塗装作業性が低下することがある。
【0044】
<任意成分>
クリヤ樹脂層13には、顔料、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、艶消し剤、シランカップリング剤、光輝剤、シリカゾル、非晶質シリカ、アクリル樹脂ビーズ、抗菌剤、防カビ剤等の添加剤や、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル、アミノ樹脂等の他の樹脂などが含まれてもよい。
【0045】
<表面構造>
クリヤ樹脂層13の表面は、凹凸面である。すなわち、クリヤ樹脂層13を膜厚方向に切断した切断面の表面が凹凸状である。例えば図1、2に示すように、クリヤ樹脂層13は、複数の凹部16と、複数の凹部16間に形成される凸部17とからなる凹凸構造を表面に有する。
クリヤ樹脂層13の表面が凹凸面であることにより、表面が平坦な場合に比べて脱膜する際にアルカリ溶液との接触面積が増える。よって、脱膜速度が高まり、容易に脱膜しやすくなる。
【0046】
クリヤ樹脂層13の表面の算術平均粗さRaは0.04〜0.50μmであることが好ましく、0.04〜0.20μmであることがより好ましい。クリヤ樹脂層13の表面の算術平均粗さRaが、0.04μm以上であればクリヤ樹脂層13の潤滑性が充分に発現し、加工性がより向上し、0.50μm以下であれば脱膜性がより向上する。クリヤ樹脂層13の表面の算術平均粗さRaは、クリヤ樹脂層13に含まれるアクリルエマルジョン樹脂や中和アミンの種類と含有量、後述するクリヤ塗料の塗布方法や塗布速度により制御できる。
クリヤ樹脂層13の表面の算術平均粗さRaは、JIS B0601−2001に準じて測定される値である。
【0047】
<膜厚>
クリヤ樹脂層13の膜厚は、0.5〜1μmであることが好ましい。クリヤ樹脂層13の膜厚が、0.5μm以上であれば加工性および潤滑性を良好に維持でき、1μm以下であればクリヤ樹脂層13の表面が凹凸面となりやすい。
なお、本発明においてクリヤ樹脂層13の膜厚とは、クリヤ樹脂層13と、クリヤ樹脂層13に隣接する層(本実施形態では化成処理塗膜12)との界面から、凸部17の頂点までの垂直距離dである。
【0048】
「クリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法」
次に、上述したクリヤ塗装ステンレス鋼板10の製造方法の一例について説明する。なお、クリヤ塗装ステンレス鋼板10の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
この例の製造方法では、まず、ステンレス鋼板11をアルカリ脱脂や酸、アルカリによるエッチング等の公知の前処理を施す。
次いで、ステンレス鋼板11に、化成処理液を塗布し、乾燥して、化成処理塗膜12を形成する。
前記化成処理液としては、例えば、例えばアミノシラン系カップリング剤およびエポキシシラン系カップリング剤の一方または両方を含むものが好ましい。また、化成処理液としては、市販品を用いることができる。市販の化成処理液としては、例えば、パルコートE305、3750、3751、3753、3756、3757、3970(日本パーカライジング株式会社製)、アルサーフ440(日本ペイント株式会社製)などが挙げられる。
化成処理液の塗布方法としては、例えば、スプレー、ロールコート、バーコート、カーテンフローコート、静電塗布等を採用できる。
化成処理液の乾燥温度(表面温度)は60〜140℃とすることが好ましい。
【0049】
次いで、化成処理塗膜12の表面に、クリヤ塗料を塗布し、乾燥(焼付け)して、表面に凹凸構造を有するクリヤ樹脂層13を形成し、クリヤ塗装ステンレス鋼板10を得る。
クリヤ塗料の塗布方法としては、化成処理液の塗布方法と同じ方法が適用される。
クリヤ塗料の塗布量は、乾燥後のクリヤ樹脂層13の膜厚が0.5〜1μmとなる量が好ましい。クリヤ塗料の塗布量が上記範囲内であれば、クリヤ樹脂層13の表面が凹凸面になりやすい。
【0050】
前記クリヤ塗料は、上述したコア・シェル型のアクリルエマルジョン樹脂と、中和アミンとを含む。クリヤ塗料には、潤滑剤が含まれていることが好ましい。また、クリヤ塗料には、必要に応じて、上述した架橋剤、任意成分、溶媒などが含まれていてもよい。
クリヤ塗料に架橋剤が含まれている場合、前記乾燥の際にアクリルエマルジョン樹脂が架橋剤によって架橋構造を形成する。
【0051】
クリヤ塗料中の潤滑剤の割合は、アクリルエマルジョン樹脂の固形分100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0052】
クリヤ塗料の乾燥温度(表面温度)は100〜200℃とすることが好ましい。
乾燥後は、水冷によりクリヤ塗装ステンレス鋼板を冷却してもよい。本発明により形成されるクリヤ樹脂層は耐水性に優れることから水冷しても白化などが起きにくい。また、クリヤ塗装ステンレス鋼板を水冷できることから、例えばクリヤ塗装ステンレス鋼板を高速コイル巻きにて回収することが可能である。
【0053】
「作用効果」
以上説明したクリヤ塗装ステンレス鋼板では、コア・シェル構造のアクリルエマルジョン樹脂を含むクリヤ樹脂層を備えているので、加工性および耐ブロッキング性に優れる。また、このクリヤ樹脂層の表面は凹凸面であり、かつクリヤ樹脂層は沸点が50〜130℃の中和アミンを含むので、アルカリ溶液に浸漬した際にクリヤ樹脂層が溶解しやすくなり、拭き取りや洗浄等によって容易にクリヤ樹脂層を脱膜できる。しかも、クリヤ樹脂層はアルカリ溶液に対して選択的に溶解し、水に対しては溶解しにくく、耐水性にも優れる。
よって、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、アルカリ溶液により容易にクリヤ樹脂層が脱膜し、かつ加工性および耐水性に優れる。
【0054】
「用途」
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、家庭用や業務用の電化製品、電子機器製品の筐体や内装材、表装材として好適に使用される。
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は脱膜型のクリヤ塗装ステンレス鋼板であることから、例えば高熱に曝されたり直火に当ったりする箇所に使用する際はクリヤ樹脂層を脱膜して用いる。また、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は加工性に優れることから、プレス加工時にクリヤ樹脂層が白化しにくい。そのため、高熱に曝されたり直火に当ったりしない箇所に使用する際はクリヤ樹脂層を脱膜することなく、そのまま使用することができる。このように、本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板であれば、クリヤ樹脂層の脱膜が必要となる箇所と、脱膜が必要とならない箇所の両方に適用できる。
【0055】
「他の実施形態」
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、上述したものに限定されない。例えば、上述した実施形態例では、ステンレス鋼板の表面のみにクリヤ樹脂層が形成されているが、ステンレス鋼板の裏面にもクリヤ樹脂層が形成されていてもよい。また、ステンレス鋼板とクリヤ樹脂層との間に化成処理塗膜を有していたが、化成処理塗膜を有していなくても構わない。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
「アクリルエマルジョン樹脂」
アクリルエマルジョン樹脂として、以下に示す化合物を用いた。
・アクリルエマルジョン樹脂A1:ガラス転移温度が−40℃であるコア部と、ガラス転移温度が100℃であるシェル部とからなるアクリルエマルジョン樹脂。
・アクリルエマルジョン樹脂A2:ガラス転移温度が−40℃であるコア部と、ガラス転移温度が120℃であるシェル部とからなるアクリルエマルジョン樹脂。
・アクリルエマルジョン樹脂A3:ガラス転移温度が−20℃であるコア部と、ガラス転移温度が100℃であるシェル部とからなるアクリルエマルジョン樹脂。
・アクリルエマルジョン樹脂A4:ガラス転移温度が−20℃であるコア部と、ガラス転移温度が120℃であるシェル部とからなるアクリルエマルジョン樹脂。
・アクリルエマルジョン樹脂A5:ガラス転移温度が−60℃であるコア部と、ガラス転移温度が100℃であるシェル部とからなるアクリルエマルジョン樹脂。
・アクリルエマルジョン樹脂A6:ガラス転移温度が−40℃であるコア部と、ガラス転移温度が140℃であるシェル部とからなるアクリルエマルジョン樹脂。
なお、アクリルエマルジョン樹脂A1〜A6において、コア部およびシェル部の両方がアクリル樹脂である。また、アクリルエマルジョン樹脂A1〜A6において、コア部の数平均分子量は300,000〜400,000の範囲内であり、シェル部の数平均分子量が8,000〜15,000の範囲内である。
【0058】
「中和アミン」
中和アミンとして、以下に示す化合物を用いた。
・中和アミンB1:沸点が36℃であるアンモニア水。
・中和アミンB2:沸点が55.4℃であるジエチルアミン。
・中和アミンB3:沸点が90℃であるトリエチルアミン。
・中和アミンB4:沸点が134℃であるN,N−ジメチルエタノールアミン。
【0059】
「潤滑剤」
潤滑剤として、以下に示す化合物を用いた。
・潤滑剤C1:粉体状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(スリーエム ジャパン株式会社製、商品名「DYNEON PTFE マイクロパウダー TF9201Z」、平均粒子径6μm)。
・潤滑剤C2:ポリエチレンワックス(株式会社岐阜セラツク製造所製、商品名「ハイフラットX15P−2」、平均粒子径3.5μm)。
・潤滑剤C3:カルナバワックス(興洋化学株式会社製、商品名「ミクロフラット」)。
【0060】
「実施例1」
<クリヤ塗料の調製>
アクリルエマルジョン樹脂A1を固形物換算で100質量部と、中和アミンB2と、潤滑剤C1を5質量部とを混合し、クリヤ塗料を調製した。
【0061】
<クリヤ塗装ステンレス鋼板の製造>
ステンレス鋼板としては、SUS430/2B研磨材を用いた。
このステンレス鋼板の方面にアミノシラン系カップリング剤を含む化成処理液をロールコータにて蛍光X線にてSiOが2〜10mg/mになるように塗装し、素材最高到達温度(PMT)が100℃になるよう乾燥させ、ステンレス鋼板の表面に化成処理塗膜を形成した。
次いで、化成処理塗膜の表面に、クリヤ塗料をバーコータにより塗布し、表面温度が130℃になるように焼付け、膜厚1μmのクリヤ樹脂層を成膜させて、クリヤ塗装ステンレス鋼板を得た。
クリヤ樹脂層について、以下の測定方法に基づき、表面を観察した。また、表面の算術平均粗さRaを測定した。結果を表1に示す。
また、クリヤ塗装ステンレス鋼板について、以下の評価方法に基づき、耐ブロッキング性、脱膜性、耐水性および加工性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
<測定・評価>
(1)表面観察
クリヤ樹脂層の表面を走査電子顕微鏡にて観察し、凹凸の有無を確認した。
【0063】
(2)算術平均粗さRaの測定
クリヤ樹脂層の表面の算術平均粗さRaは、JIS B0601−2001に準拠し、表面粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製、製品名「サーフテスト SJ−201」)を用いて測定した。
【0064】
(3)耐ブロッキング性の評価
クリヤ塗装ステンレス鋼板を単重2tのステンレスコイルに巻き付けて1週間放置した。放置後のクリヤ塗装ステンレス鋼板を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐ブロッキング性を評価した。
5:ブロッキングの発生は見られない。
4:僅かにブロッキングが発生するが、1日以内でブロッキング痕が消失する。
3:僅かにブロッキングが発生し、ブロッキング痕が消失しない。
2:強いブロッキングが発生し、コイル状態から引き延ばした際に、バリバリと音を発しながら剥がれる。
1:極めて著しいブロッキングが発生し、コイル状態から引き延ばした際に第一のクリヤ樹脂層が剥離する。
【0065】
(4)脱膜性の評価
濃度8質量%のオルト珪酸ナトリウム水溶液にクリヤ塗装ステンレス鋼板を2分間浸漬した。オルト珪酸ナトリウム水溶液からクリヤ塗装ステンレス鋼板を引き上げた直後のクリヤ樹脂層の状態について、以下の評価基準にて脱膜性を評価した。4点以上を合格とする。
5:流水でクリヤ樹脂層が容易に剥がれる。
4:クリヤ樹脂層を指で擦るとクリヤ樹脂層が剥がれる。
3:クリヤ樹脂層を強く指で擦るとクリヤ樹脂層が剥がれる。
2:クリヤ樹脂層に爪を立てるとクリヤ樹脂層が剥がれる。
1:クリヤ樹脂層が剥がれない。
【0066】
(5)耐水性の評価
クリヤ塗装ステンレス鋼板のクリヤ樹脂層に2〜3mlの水道水を滴下し、2分間放置した。放置後、クリヤ樹脂層上の水滴をウエスで拭き取った。水道水を滴下した部分のクリヤ樹脂層の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて耐水性を評価した。4点以上を合格とする。
5:変化しない。
4:わずかに白化が確認できる。
3:白化が確認できるが、白化した箇所は剥がれない。
2:白化が確認でき、白化した箇所が剥がれる。
1:水道水を滴下した部分のクリヤ樹脂層が消失した。
【0067】
(6)加工性の評価
被試験体として、矩形状のクリヤ塗装ステンレス鋼板を用意した。該クリヤ塗装ステンレス鋼板において、その長手方向の中央を境界とした片側を、クリヤ塗装ステンレス鋼板と同じ厚みの2枚の板で挟んだ。次いで、クリヤ塗装ステンレス鋼板を長手方向の中央を折り曲げ部として180度折り曲げて、折り曲げたクリヤ塗装ステンレス鋼板と2枚の板とを重ね合せ、万力でしっかりと締めた。
これにより伸ばされた加工箇所のクラックの程度を30倍ルーペで拡大して目視観察し、以下の評価基準にて加工性を評価した。4点以上を合格とする。
5:加工箇所にクラックは見られない。
4:加工箇所に微細なクラックが数箇所見られる。
3:加工箇所に小さなクラックが多数目視確認できる。
2:加工箇所に小さなクラックと合わせて大きなクラックも確認できる。
1:加工箇所に大きなクラックが多数入り、塗膜がめくれ上がっている。
【0068】
「実施例2〜9、比較例1〜6」
アクリルエマルジョン樹脂、中和アミンおよび潤滑剤の種類を表1〜3に変更した以外は、実施例1とクリヤ塗料を調製した。
得られたクリヤ塗料を用い、クリヤ樹脂層の膜厚および表面の算術平均粗さRaが表1〜3に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様にしてクリヤ塗装ステンレス鋼板の製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1〜3に示す。なお、表面の算術平均粗さRaは、バーコータの種類や塗布速度により制御した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
表1、2の結果より、各実施例で得られたクリヤ塗装ステンレス鋼板は、アルカリ溶液により容易にクリヤ樹脂層が脱膜し、かつ加工性、耐水性および耐ブロッキング性に優れていた。
【0073】
一方、表3の結果より、沸点が134℃の中和アミンを用いた比較例1の場合、耐水性に劣っていた。
沸点が36℃の中和アミンを用いた比較例2の場合、脱膜性に劣っていた。
クリヤ樹脂層の表面が凹凸面でない比較例3、4の場合、脱膜性に劣っていた。
コア部のガラス転移温度が−60℃のアクリルエマルジョン樹脂を用いた比較例5の場合、耐水性および耐ブロッキング性に劣っていた。
シェル部のガラス転移温度が140℃のアクリルエマルジョン樹脂を用いた比較例6の場合、脱膜性および加工性に劣っていた。
【符号の説明】
【0074】
10 クリヤ塗装ステンレス鋼板
11 ステンレス鋼板
12 化成処理塗膜
13 クリヤ樹脂層
14 コア部
15 シェル部
16 凹部
17 凸部
図1
図2
図3