特許第6858199号(P6858199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社TBKの特許一覧

<>
  • 特許6858199-電動ポンプ装置 図000002
  • 特許6858199-電動ポンプ装置 図000003
  • 特許6858199-電動ポンプ装置 図000004
  • 特許6858199-電動ポンプ装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858199
(24)【登録日】2021年3月25日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】電動ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/02 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
   F04B49/02 311
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-549734(P2018-549734)
(86)(22)【出願日】2016年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2016083646
(87)【国際公開番号】WO2018087908
(87)【国際公開日】20180517
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220712
【氏名又は名称】株式会社TBK
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(72)【発明者】
【氏名】荒城 淳
(72)【発明者】
【氏名】藏屋 能隆
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−110345(JP,A)
【文献】 特開2002−213594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吐出する流体ポンプと、
前記流体ポンプを駆動するモータと、
前記モータに供給される電流値を制御して前記モータの回転を制御することで、前記ポンプから吐出される流体の流量を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記モータの起動時において、前記モータの回転数が予め設定された目標回転数の近傍に達するまで、前記モータに供給される電流値を所定の上限値以下に制限したオープンループ制御により前記モータを駆動し、
前記モータの回転数が目標回転数の近傍に達した場合は、当該回転数が定常回転数に維持されるようにしたフィードバック制御により前記モータを駆動し、
前記制御装置には、前記モータに対する指令回転数が予め設定されており、
前記オープンループ制御では、前記モータの指令回転数を段階的に増加させて、当該指令回転数に応じた電流値を前記モータに供給するように構成され、
前記制御装置は、前記モータの指令回転数が所定回転数以外の他の回転数である場合は前記モータの駆動時間を通常駆動時間に設定し、前記モータの指令回転数が前記所定回転数である場合は前記モータの駆動時間を特定駆動時間に設定し、
前記所定回転数は、前記目標回転数の1/2よりも大きい回転数であり、
前記モータの駆動時間として、前記特定駆動時間は前記通常駆動時間よりも長時間に設定されていることを特徴とする電動ポンプ装置。
【請求項2】
流体の温度を検出する温度検出器を備え、
前記モータの起動時において、前記温度検出器により検出された流体の温度が規定温度未満である場合は、前記オープンループ制御を相対的に長時間実行し、前記温度検出により検出された流体の温度が規定温度以上である場合は、前記オープンループ制御を相対的に短時間実行することを特徴とする請求項1に記載の電動ポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式のモータにより駆動される電動ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動式のモータの回転により、冷却水や潤滑油、作動油などの媒体をエンジン各部(冷却対象部、潤滑対象部、作動対象部)に供給する電動ポンプが知られている。この電動ポンプの吐出量は、モータの回転数(回転速度)に依存して変化する。ここで、電動ポンプの定常運転時には、モータを定常回転に制御すべく、モータの実回転数を定常回転数に収束するようにしたフィードバック制御によりモータを駆動する技術が広く実用化されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−241657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、冷間始動時など流体の粘度が高い場合に電動ポンプを起動すると、その流体の粘性抵抗によってモータに過大な負荷が作用するおそれがある。そのため、電動ポンプの起動時に、モータをフィードバック制御すると、目標回転数との乖離に比例してモータに供給される電流が増大するので、モータに過電流が発生して定格出力を超えてしまうという問題が生じる。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、モータの過出力を抑制することのできる電動ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る電動ポンプ装置は、流体を吐出する流体ポンプと、前記流体ポンプを駆動するモータと、前記モータに供給される電流値を制御して前記モータの回転を制御することで、前記ポンプから吐出される流体の流量を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記モータの起動時において、前記モータの回転数が予め設定された目標回転数の近傍に達するまで、前記モータに供給される電流値を所定の上限値以下に制限したオープンループ制御により前記モータを駆動し、前記モータの回転数が目標回転数の近傍に達した場合は、当該回転数が定常回転数に維持されるようにしたフィードバック制御により前記モータを駆動するように構成されている。
【0007】
そのうえで、本発明に係る電動ポンプ装置において、前記制御装置には、前記モータに対する指令回転数が予め設定されており、前記オープンループ制御では、前記モータの指令回転数を段階的に増加させて、当該指令回転数に応じた電流値を前記モータに供給するように構成され、前記制御装置は、前記モータの指令回転数が所定回転数以外の他の回転数である場合は前記モータの駆動時間を通常駆動時間に設定し、前記モータの指令回転数が前記所定回転数である場合は前記モータの駆動時間を特定駆動時間に設定し、前記所定回転数は、前記目標回転数の1/2よりも大きい回転数であり、前記モータの駆動時間として、前記特定駆動時間は前記通常駆動時間よりも長時間に設定されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る電動ポンプ装置において、流体の温度を検出する温度検出器を備え、前記モータの起動時において、前記温度検出器により検出された流体の温度が規定温度未満である場合は、前記オープンループ制御を相対的に長時間実行し、前記温度検出により検出された流体の温度が規定温度以上である場合は、前記オープンループ制御を相対的に短時間実行するように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動ポンプの起動時において、モータの回転数が目標回転数の近傍に達するまでは、モータに供給される電流値を所定の上限値未満に制限したオープンループ制御によりモータを駆動するため、モータの起動時の負荷を軽減して、モータの出力を抑制することができ、その結果、冷間始動時など流体が相対的に高粘度であるときでも、電動ポンプを定格出力を超えることなく安定的に起動させることが可能となる。
【0010】
また、本発明において、オープンループ制御では、モータの指令回転数を段階的に増加させることで、流体ポンプの負荷を急激に増大させることなく、時間の経過とともに流体の温度を徐々に上昇させる(流体の粘性抵抗を徐々に低下させる)ことができ、電動ポンプ装置を効率よく起動することが可能となる。
【0011】
また、本発明において、流体の温度が規定温度未満である場合は、オープンループ制御を相対的に長時間実行してからフィードバック制御に移行し、流体の温度が規定温度以上である場合は、オープンループ制御を相対的に短時間実行してからフィードバック制御に移行することで、流体の物性(粘性抵抗)に応じた最適な制御を実行することができ、無駄な電力を消費することなく、モータを速やかに定常回転に至らせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る電動ポンプの概略構成を示すブロック図である。
図2】電動ポンプの起動時における動作処理の流れを示すフローチャートである。
図3】電動ポンプの制御テーブルの一例を示す模式図である。
図4】電動ポンプを起動してからの経過時間に対する指令回転数及びデューティ比の変化の様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明の一実施形態に係る電動ポンプ1を図1に示しており、まず、この図1を参照して本実施形態に係る電動ポンプ1の概要構成を説明する。
【0014】
電動ポンプ1は、オイルを吐出するオイルポンプ10と、オイルポンプ10を駆動する駆動源としてのモータ20と、モータ20の回転を制御する制御装置(「ドライバ」とも称される)30とを主体に構成される。電動ポンプ1では、モータ20の回転数の高低に応じてオイルポンプ10の吐出量(流量)が増減する。すなわち、モータ20の回転数が高くなるほどオイルポンプ10の吐出量は増加し、モータ20の回転数が低くなるほどオイルポンプ10の吐出量は減少する。
【0015】
オイルポンプ10は、モータ20の回転軸に接続されており、モータ20から伝達される駆動力(回転力)により不図示のオイルタンクからオイルを吸入して外部(冷却系、潤滑系、作動系)へ吐出する。なお、オイルポンプ10から外部へ吐出されたオイルは、オイルタンクに戻されて循環する。オイルポンプ10は、例えば、互いに噛合する一対の歯車の回転に応じて流体を吐出する歯車ポンプや、インペラ(羽根車)の回転に応じて流体を吐出する遠心式ポンプなどが適用される。
【0016】
モータ20は、例えば3相式のブラシレスDCモータであり、3相(U相、V相、W相)のコイルと、N極およびS極に磁化された永久磁石からなるロータとを備えている。モータ20は、各相のコイルに対する通電が順次切り替えられることでロータが回転するように構成されている。なお、本例のモータ20は、ホール素子等の位置検出素子を用いない、いわゆるセンサレスタイプのブラシレスDCモータであり、各コイルに発生される誘起電圧(逆起電力)を利用してロータの回転位置を検出して、それに基づいて得られた磁極位置情報から各相への通電を切り替える。なお、このようなDCブラシレスモータは従来から周知のものであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0017】
制御装置30は、モータ20を駆動する駆動回路31と、駆動回路31を制御するマイクロコンピュータ(以下簡略して「マイコン」と称する)32とを備えて構成される。例えば、制御装置30は、各種の電子・電気部品が実装された制御基板として構成されている。なお、制御装置30又は該制御装置30の一部は、電動ポンプ1と別体として構成されていてもよい。
【0018】
駆動回路31は、モータ20の各相(U相、V相、W相)に対応したスイッチング素子をバッテリ(電源)40に並列に接続して構成されたドライバである。駆動回路31のスイッチング素子は、上位装置のマイコン32から送信されるモータ制御信号(PWM信号)に基づきオン/オフ制御されることで、モータ20に電流(3相の励磁電流)を供給して、モータ20を回転駆動させる。なお、スイッチング素子としては、例えば、MOSFETなどが好適に用いられるが、他のトランジスタを用いてもよい。
【0019】
マイコン32は、制御テーブル等に設定された指令回転数に応じたモータ制御信号(PWM信号)を駆動回路31に送信し、駆動回路31の各相のスイッチング素子をオン/オフ制御することで、モータ20をPWM制御する。そして、マイコン32は、モータ制御信号のデューティ比を制御することで、モータ20の各相のコイルに供給される電流値を制御して(モータ20への印加電圧を擬似的に制御して)、モータ20の回転数を増減する。すなわち、マイコン32は、駆動回路31に出力するPWM信号のデューティ比を制御量として、モータ20に供給される電流量(すなわち、モータ20の回転数)を制御する。
【0020】
マイコン32は、モータ20の各相のコイルに発生した上記の誘起電圧(逆起電力)を入力としてモータ20の実際の回転数(「実回転数」と称する)を検出する。また、マイコン32には、オイルの温度を検出する油温検出器(油温センサ)50が電気的に接続され、この油温検出器50の検出情報が入力されるように構成されている。オイルは、その油温に応じて粘度が変化し、油温が低いほど粘度が高くなる(粘性抵抗が増加する)性質がある。そのため、本例における油温検出器50は、オイルの温度に基づき、オイルの粘度(物性)を推定するための粘度推定手段として機能する。なお、油温検出器50は、電動ポンプ1の内部に搭載されていてもよい。また、油温検出器50は、接触式又は非接触式のいずれであってもよい。
【0021】
マイコン32は、モータ20の制御方式をオープンループ制御又はクローズドループ制御(フィードバック制御)に選択的に切り替えて、モータ20を駆動する。マイコン32は、電動ポンプ1の起動時に、オイルの温度が規定温度未満である場合は、モータ20の回転数が予め設定された目標回転数(以下、「フィードバック移行回転数」と称する)に達するまで、オープンループ制御にてモータ20を駆動する。オープンループ制御とは、予め設定された指令回転数(デューティ比)でモータ20を駆動させる制御方式である。このオープンループ制御では、モータ20の各相のコイルに供給される電流値が所定の上限値(定格電流値)を越えないように、指令回転数(モータ制御信号のデューティ比)を段階的に増加させて(徐々に増加させて)、モータ20の回転数を徐々に上昇させていく。なお、オープンループ制御に用いられる各種情報は、制御装置30の記憶部に設定された制御テーブルに記憶されている。なお、本実施形態では、上記の制御テーブルとして、オイルの温度(検出油温)が規定温度未満の場合に設定される低温用の制御テーブル(図3を参照)と、オイルの温度(検出油温)が規定温度以上である場合に設定される高温用の制御テーブル(図示省略)とが用意されている。低温用の制御テーブルが設定された場合には、フィードバック制御が相対的に長時間実行されるようになっている。一方、高温用の制御テーブルが設定された場合には、フィードバック制御が相対的に短時間実行されるようになっている。つまり、低温用の制御テーブルでは、高温用の制御テーブルと比べて、オープンループ制御によるモータ20の駆動時間が長時間(例えば約10倍の長さ)に設定されている。
【0022】
一方、マイコン32は、モータ20の実回転数がフィードバック移行回転数に達した場合は、この実回転数を定常回転数に維持するようにしたフィードバック制御(実回転数と定常回転数との偏差が0となるようにしたフィードバック制御)にてモータ20を駆動する。なお、マイコン32は、電動ポンプ1の起動時に、オイルの温度が規定温度以上である場合は、フィードバック制御を相対的に短時間だけ実行し、モータ20の実回転数がフィードバック移行回転数に達したことを契機としてフィードバック制御に移行する。
【0023】
次に、本実施形態に係る電動ポンプ1の起動時の作用について、図2図4を追加参照しながら説明する。図2は電動ポンプ1の起動時における動作処理の流れを示すフローチャート、図3は低温用の制御テーブルを示す模式図、図4は電動ポンプ1を起動してからの経過時間に対する指令回転数及びデューティ比(低温用の制御テーブルが設定された場合)の変化の様子を示すグラフである。なお、本フローチャートの処理は、所定の周期(例えば10ms毎)で繰り返し実行される。
【0024】
まず、制御装置30は、油温検出器50により検出されたオイルの温度に応じた制御テーブル(低温用の制御テーブル又は高温用の制御テーブル)を設定する(ステップS1)。具体的には、制御装置30は、油温検出器50により検出されたオイルの温度が規定温度未満であるか否かを判定し、規定温度未満である場合には低温用の制御テーブルを設定し、規定温度以上である場合には高温用の制御テーブル(図示省略)を設定する。規定温度は、電動ポンプ1の特性や、オイルの種類、使用環境などに基づき設定される。なお、以下では、低温用の制御テーブル(図3)が設定された場合を例示して説明する。
【0025】
制御装置30は、オイルの温度が規定温度未満である場合(ステップS1:YES)、制御テーブルを参照して、最初の指令回転数を設定する(ステップS2)。制御テーブルには、図3に示すように、モータ20の指令回転数と、該指令回転数に対するデューティ比と、該指令回転数でのモータ20の駆動時間(「規定駆動時間」と称する)との対応関係が規定されている。具体的に、制御装置30は、制御テーブルから最初の指令回転数(1回目の指令回転数)を読み込んで、今回の指令回転数として50rpmを設定する。なお、この制御テーブルには、指令回転数として、初期回転数(50rpm)からフィードバック移行回転数(1800)rpmまでの回転数が設定されている。また、デューティ比は、モータ20に供給される電流値が定格電流値(最大定格電流値)を超えない範囲で設定されている。
【0026】
続いて、制御装置30は、制御テーブルを参照して、今回の指令回転数に応じたデューティ比を設定する(ステップS3)。具体的に、制御装置30は、制御テーブルから1回目の指令回転数(50rpm)に対応するデューティ比を読み込んで、モータ制御信号のデューティ比として18%を設定する。
【0027】
次いで、制御装置30は、上記ステップS3で設定したデューティ比によるPWM制御に基づき、モータ20を駆動する(ステップS4)。なお、前述したように、PWM制御におけるデューティ比の大小は、モータ20に供給される電流値の増減(すなわち、モータ20の回転数の増減)に関係する。
【0028】
続いて、制御装置30は、制御テーブルを参照して、今回の指令回転数でモータ20を規定駆動時間だけ駆動したか否かを判定する(ステップS5)。具体的に、制御装置30は、モータ20を今回の指令回転数(50rpm)で規定駆動時間(10ms)だけ駆動したか否かを判定する。なお、本実施形態では、基本的には各指令回転数に対するモータ20の規定駆動時間として10msが設定されている。但し、図3,4に示すように、所定の指令回転数(1100rpm、1350rpm、1750rpm)であるときは、オイルの循環(入れ替え)を通じてオイルの昇温を促進させるため、規定駆動時間が相対的に長い時間に設定されている。このように上記所定の指令回転数になるまでは、指令回転数を微小時間(10ms)毎に徐々に上昇させ、所定の指令回転数となったときに、モータ20を相対的に長い時間に亘り駆動させることで、モータ20の脱調や過負荷を防止しつつオイルの昇温を促進させるようにしている。
【0029】
制御装置30は、モータ20を規定駆動時間だけ駆動した場合(ステップS5:YES)、上記ステップS2で設定した指令回転数がフィードバック移行回転数まで到達したか否かを判定する(ステップS6)。この段階において、指令回転数(最初の指令回転数:50rpm)はフィードバック移行回転数(1800rpm)に満たないため、ステップS2の処理に戻る。
【0030】
再びステップS2の処理に戻り、制御装置30は、制御テーブルを参照して、次の指令回転数を設定する(ステップS2)。具体的に、制御装置30は、制御テーブルから次の指令回転数(2回目の指令回転数)を読み込んで、今回の指令回転数として60rpmを設定する。
【0031】
続いて、制御装置30は、制御テーブルを参照して、今回の指令回転数に応じたデューティ比を設定する(ステップS3)。具体的に、制御装置30は、制御テーブルから2回目の指令回転数(60rpm)に対応するデューティ比を読み込んで、モータ制御信号のデューティ比として22.5%を設定する。
【0032】
次いで、制御装置は、上記ステップS3で設定したデューティ比によるPWM制御に基づき、モータ20を駆動する(ステップS4)。
【0033】
続いて、制御装置30は、制御テーブルを参照して、今回の指令回転数でモータ20を規定時間だけ駆動したか否かを判定する(ステップS5)。具体的に、制御装置30は、モータ20を今回の指令回転数(60rpm)で規定駆動時間(10ms)だけ駆動したか否かを判定する。
【0034】
制御装置30は、モータ20を規定駆動時間だけ駆動した場合(ステップS5:YES)、上記ステップS2で設定した指令回転数がフィードバック移行回転数まで到達したか否かを判定する(ステップS6)。この段階において、指令回転数(2回目の指令回転数:60rpm)はフィードバック移行回転数(1800rpm)に満たないため、再びステップS2の処理に戻る。
【0035】
以降、指令回転数がフィードバック移行回転数となるまで、ステップS2〜S6の処理(オープンループ制御)が繰り返され、各回において設定された指令回転数に応じたデューティ比によるPWM制御によりモータ20が駆動される。このような処理の過程で、オイルが循環されて、オイルポンプ10の駆動部(ロータやインペラなど)との摩擦熱や、モータ20やバッテリ40、エンジン等の発熱により、オイルが加熱され油温が徐々に上昇する。このように油温の上昇に伴い、オイルの粘度が低下するので、ポンプ負荷が低減されることになる。
【0036】
制御装置30は、指令回転数がフィードバック移行回転数となった場合(ステップS6:YES)、モータ20の実回転数がフィードバック移行回転数に達しているか否か、すなわち、モータ20の実回転数が指令回転数に一致しているか否かを判定する(ステップS7)。一方、モータ20の実回転数がフィードバック移行回転数に達していない場合(ステップS6:NO)、モータ20の実回転数がフィードバック移行回転数に達するまで、上記と同様に、ステップS2〜S7の処理(オープンループ制御)を繰り返す。
【0037】
ここで、モータ20の実回転数がフィードバック移行回転数に達した場合、オープンループ制御からフィードバック制御(クローズドループ制御)に切り替えて、定常回転処理を実行する(ステップS8)。定常回転処理では、モータ20の実回転数と定常回転数(4500rpm)との偏差(回転偏差)に基づき、モータ20の実回転数が定常回転数を維持するように、PWM信号のデューティ比を制御する(モータ20に供給される電流値を制御する)。なお、前述のオープンループ制御が実行されている過程において、オイルは十分に温められているので、この段階でフィードバック制御(定常回転処理)に移行しても、モータ20に流れる電流が定格電流値を超えるおそれはない。
【0038】
以上、本実施形態によれば、電動ポンプ1の起動時において、モータ20の回転数がフィードバック移行回転数の近傍に達するまでは、モータ20に供給される電流値を所定の上限値(定格電流値)未満に制限したオープンループ制御によりモータ20を駆動するため、モータ20の起動時の負荷を軽減して、モータ20の出力を抑制することができ、その結果、冷間始動時などオイルが相対的に高粘度であるときでも、電動ポンプ1を定格出力を超えることなく安定的に起動させることが可能となる。
【0039】
また、本実施形態において、オープンループ制御では、モータ20の指令回転数(デューティ比)を段階的に増加させることで、オイルポンプ10の負荷を急激に増大させることなく、時間の経過とともにオイルの温度を徐々に上昇させる(オイルの粘性抵抗を徐々に低下させる)ことができ、電動ポンプ1を効率よく起動することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態において、オイルの温度が規定温度未満である場合、オープンループ制御を相対的に長時間実行してからフィードバック制御に移行し、オイルの温度が規定温度以上である場合は、オープンループ制御を相対的に短時間実行してからフィードバック制御に移行することで、オイルの物性(粘性抵抗)に応じた最適な制御を実行することができ、無駄な電力を消費することなく、モータ20を速やかに定常回転に至らせることが可能となる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば適宜改良可能である。
【0042】
上述の実施形態では、電動ポンプの駆動源としてセンサレス三相ブラシレスDCモータを例示して説明したが、この構成に限定されるものではなく、例えば二相ブラシレスDCモータ等の他のDCモータであってもよく、また、必要に応じてホール素子等の位置検出素子(回転検出手段)を備えたDCモータを採用してもよい。
【0043】
また、上述の実施形態では、電動ポンプの起動時に、オイルの温度(検出油温)に応じた制御テーブル(低温用の制御テーブル又は高温用の制御テーブル)を設定する構成を例示して説明したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、電動ポンプの起動時には、オイルの温度に関わらず、常に低温用の制御テーブルを設定するように構成してもよい。また、電動ポンプの最初の起動時には、オイルの温度に関わらず、常に低温用の制御テーブルを設定し、電動ポンプの2回目以降の起動時には、オイルの温度に応じて、低温用の制御テーブル又は高温用の制御テーブルを設定するように構成してもよい。
【0044】
また、上述の実施形態では、定常回転処理において、実回転数と定常回転数との偏差に基づくフィードバック制御を行っているが、この構成に限定されるものではなく、実電流値と定常電流値との偏差に基づくフィードバック制御を行うように構成してもよい。
【0045】
また、上述の実施形態では、モータの実回転数が目標回転数としてフィードバック移行回転数に達した場合に、オープンループ制御からフィードバック制御へ移行しているが、この構成に限定されるものではなく、目標回転数は適宜に設定が可能である。例えば、モータの実回転数がフィードバック移行回転数よりも所定回転数だけ低い回転数又は高い回転数に達した場合に、オープンループ制御からフィードバック制御へ移行、或いは、モータの回転数がフィードバック移行回転数を中心値とした所定範囲内に達した場合に、オープンループ制御からフィードバック制御へ移行するように構成してもよい。更には、モータの駆動を開始してからの経過時間が所定時間に達した場合に、オープンループ制御からフィードバック制御へ移行するように構成してもよい。
【0046】
また、上述の実施形態では、低温用及び高温用の二種類の制御テーブルが用意されていたが、更に複数種の制御テーブルが用意されていてもよい。
【0047】
また、上述の実施形態で示した各種の設定回転数(フィードバック移行回転数、定常回転数、指令回転数など)の数値は一例であり、電動ポンプの種類や機能、要求仕様、使用条件等に応じて適宜変更が可能である。
【0048】
また、上述の実施形態では、オイルの粘度を油温に基づき推定しているが、この構成に限定されるものではなく、負荷電流値や外気温などの他の要素に基づきオイルの粘度を推定するように構成してもよい。
【0049】
また、上述の実施形態で例示した指令回転数、デューティ比、規定駆動時間などの数値はあくまで一例であり、電動ポンプの特性やオイルの種類、要求仕様などに応じて適宜変更が可能である。
【0050】
なお、電動ポンプは、オイルポンプに限定されず、例えば、空気ポンプや水ポンプ等の他の流体ポンプに適用することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1 電動ポンプ
10 オイルポンプ
20 モータ
30 制御装置
31 駆動回路
32 マイクロコンピュータ
40 バッテリ
50 油温検出器
図1
図2
図3
図4