特許第6858346号(P6858346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許6858346硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
<>
  • 特許6858346-硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 図000013
  • 特許6858346-硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 図000014
  • 特許6858346-硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858346
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】硬質被覆層が優れた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20210405BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20210405BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20210405BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   B23C5/16
   C23C16/34
   C23C16/36
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-123969(P2017-123969)
(22)【出願日】2017年6月26日
(65)【公開番号】特開2019-5855(P2019-5855A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】石垣 卓也
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 光亮
(72)【発明者】
【氏名】西田 真
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−163424(JP,A)
【文献】 特開2016−064485(JP,A)
【文献】 特開2013−248675(JP,A)
【文献】 特開2016−130343(JP,A)
【文献】 特許第6037255(JP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0033723(US,A1)
【文献】 特開2018−144138(JP,A)
【文献】 特開2018−144139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23C 5/16
C23C 16/34
C23C 16/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、平均層厚1.0〜20.0μmのTiとAの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、
(b)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、配向性の異なる2層から成る積層構造を有しており、積層構造を形成するTiとAの複合窒化物または複合炭窒化物層A層、B層とした場合、
A層およびB層の層厚は0. 5μm以上であり、それぞれの組成式を(Ti1−xAl)(C1−y)、(Ti1−sAl)(C1−t)で表したとき、該A層、該B層におけるAlのTiとAlの合量に占める含有割合xおよびs並びにCのCとNの合量に占める含有割合yおよびt(但し、x、s、y、tは、いずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦x≦0.95、0.60≦s≦0.95、0≦y≦0.005、0≦t≦0.005を満足し、
(c)前記A層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAとの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の結晶方位を、電子線後方散乱回折装置を用いて縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、前記傾斜角度数分布における度数全体の40%以上の割合を示し、
(d)前記B層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAとの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の結晶方位を、電子線後方散乱回折装置を用いて縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、前記傾斜角度数分布における度数全体の40%以上の割合を示すことを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記A層、前記B層の少なくとも一方の結晶粒にはTiとAlの周期的な濃度変化が存在し、原子比で表したAの含有割合が周期的に変化する値の極大値の平均値と極小値の平均値との差は0.03〜0.25であり、Alの含有割合の変化の周期が3〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
前記A層の平均Al含有割合xと前記B層の平均Al含有割合sとの差の絶対値|x−s|が0.10以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
【請求項4】
前記工具基体と前記硬質被覆層との間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
【請求項5】
前記硬質被覆層の上部に少なくとも1.0〜25.0μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速高送り断続切削加工で、硬質被覆層が優れた耐チッピング性を備えることにより、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された工具基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系の複合窒化物層を物理蒸着法により被覆形成した被覆工具があり、これらは、優れた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただし、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、工具基体表面に、NaCl型の面心立方構造を有し組成式:(Ti1−XAl)(C1−Y)で表わされる(但し、原子比で、Alの平均組成Xavgは0.60≦Xavg≦0.95、Cの平均組成Yavgは、0≦Yavg≦0.005)TiAlCN層を少なくとも含む硬質被覆層を形成し、該TiAlCN層について、電子線後方散乱回折装置を用いて、工具基体表面の法線方向に対するTiAlCN結晶粒の{111}面の法線がなす傾斜角を測定して傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在し、かつ、0〜12度の範囲内に存在する度数の合計は、前記傾斜角度数分布における度数全体の45%以上であり、さらに、TiAlCN層の層厚方向に垂直な面内で三角形状を有し、該結晶粒の{111}で表される等価な結晶面で形成されたファセットが、該層厚方向に垂直な面内において全体の35%以上の面積割合を占める組織を形成することにより、ステンレス鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工等において硬質被覆層の耐チッピング性を高めた被覆工具が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、前記特許文献1と同様に、ステンレス鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工等において硬質被覆層の耐チッピング性を高めるため、工具基体の表面に、組成式:(Ti1−XAl)(C1−Y)で表わされ(但し、原子比で、Alの平均組成Xavgは0.60≦Xavg≦0.95、Cの平均組成Yavgは、0≦Yavg≦0.005)、かつ、NaCl型の面心立方構造を有するTiAlCN層を少なくとも含む硬質被覆層を形成し、該TiAlCN層について、電子線後方散乱回折装置を用いて、工具基体表面の法線方向に対するTiAlCN結晶粒の{100}面の法線がなす傾斜角を測定して傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在し、かつ、0〜12度の範囲内に存在する度数の合計は、前記傾斜角度数分布における度数全体の45%以上であり、さらに、TiAlCN層の層厚方向に垂直な面内で90度未満の角度を有さない多角形状のファセットを有し、該ファセットが結晶粒の{100}で表される等価な結晶面のうちの一つに形成され、該ファセットが層厚方向に垂直な面内において全体の50%以上の面積割合を占める組織を形成した被覆工具が提案されている。
また、前記被覆工具において、TiAlCN層についてXRD解析を行ったとき、立方晶構造に由来するピーク強度Ic{200}と六方晶構造に由来するピーク強度Ih{200}との間に、Ic{200}/Ih{200}≧3.0の関係が成立する場合には、耐摩耗性向上効果がより高まるとされている。
【0005】
また、特許文献3には、工具の耐摩耗性を改善するために、工具基体上にCVDで形成された3〜25μmの耐摩耗コーティング層を形成し、該コーティング層は、少なくとも、Ti1−xAlで表した場合に、0.70≦x<1、0≦y<0.25および0.75≦z<1,15を満足する1.5〜17μmの層厚を有するTiAlCN層を備え、該層は、150nm未満のラメラ間隔のラメラ構造、同一結晶構造を有し、TiとAlが交互に異なった化学量を有するTi1−xAlが周期的に交互に配置されたTi1−xAlで構成され、さらに、Ti1−xAl層は少なくとも90体積%以上が面心立方構造であり、該層のTC値は、TC(111)>1.5を満足し、{111}面のX線回折ピーク強度の半価幅は1度未満である被覆工具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−163423号公報
【特許文献2】特開2015−163424号公報
【特許文献3】国際公開第2015/135802号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用が可能な高寿命が求められている。
しかし、前記特許文献1〜3で提案されている被覆工具では、合金鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速高送り断続切削加工において、耐チッピング性が未だ十分ではなく、満足できる切削性能を長期の使用にわたり備えるとはいえない。
【0008】
そこで、本発明は前記課題を解決し、合金鋼等の高速高送り断続切削加工に供した場合であっても、長期の使用にわたって優れた耐チッピング性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物(以下、「TiAlCN」あるいは「(Ti1−xAl)(C1−y)」で示すことがある)層を少なくとも含む硬質被覆層を工具基体表面に設けた被覆工具の耐チッピング性の改善をはかるべく、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
【0010】
すなわち、{100}面の法線方向に配向の割合が高いTiAlCN層と{111}面の法線方向に配向の割合が高いTiAlCN層とを交互にそれぞれ1層以上積層した硬質被覆層は、各層の積層数が奇数であっても、耐チッピング性が向上しているとの事実を見出した。
【0011】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、平均層厚1.0〜20.0μmのTiとAの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、
(b)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、配向性の異なる2層から成る積層構造を有しており、積層構造を形成するTiとAの複合窒化物または複合炭窒化物層A層、B層とした場合、
A層およびB層の層厚は0. 5μm以上であり、それぞれの組成式を(Ti1−xAl)(C1−y)、(Ti1−sAl)(C1−t)で表したとき、該A層、該B層におけるAlのTiとAlの合量に占める含有割合xおよびs並びにCのCとNの合量に占める含有割合yおよびt(但し、x、s、y、tは、いずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦x≦0.95、0.60≦s≦0.95、0≦y≦0.005、0≦t≦0.005を満足し、
(c)前記A層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAとの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の結晶方位を、電子線後方散乱回折装置を用いて縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、前記傾斜角度数分布における度数全体の40%以上の割合を示し、
(d)前記B層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAとの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の結晶方位を、電子線後方散乱回折装置を用いて縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、前記傾斜角度数分布における度数全体の40%以上の割合を示すことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記A層、前記B層の少なくとも一方の結晶粒にはTiとAlの周期的な濃度変化が存在し、原子比で表したAの含有割合が周期的に変化する値の極大値の平均値と極小値の平均値との差は0.03〜0.25であり、Alの含有割合の変化の周期が3〜100nmであることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記A層の平均Al含有割合xと前記B層の平均Al含有割合sとの差の絶対値|x−s|が0.10以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記工具基体と前記硬質被覆層との間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5)前記硬質被覆層の上部に少なくとも1.0〜25.0μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の被覆工具は、組成の異なる、{100}面の法線方向へ配向の割合が高いTiAlCN層(A層)と{111}面の法線方向へ配向の割合が高いTiAlCN層(B層)とを交互にそれぞれ1層以上積層したことにより、積層数が奇数であっても、耐摩耗性と耐チッピング性が大きく向上し、また、積層構造によるクラックの進展の抑制・耐欠損性の向上がなされ、高速高送り断続切削加工であっても長期にわたって優れた切削性能を発揮するという顕著な効果を奏する。
この効果を奏する理由は、{100}面の法線方向へ配向性が高いA層が有する高い硬度と{111}面の法線方向へ配向の割合が高いB層が有する高い靭性との相乗によりもたらされると推定している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の被覆工具の断面模式図である。
図2】実施例1で作製した本発明被覆工具8で測定されたA層における工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計することにより求めた傾斜角度数分布の一例を示す。
図3】実施例1で作製した本発明被覆工具8で測定されたB層における工具基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計することにより求めた傾斜角度数分布の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の被覆工具の硬質被覆層について、より詳細に説明する。
【0015】
1.硬質被覆層を構成するA、B各層の厚さと両層の和の平均厚さ:
硬質被覆層を構成するA、B各層の厚さは、0.5μm以上とする。その理由は、0.5μm未満であると、積層構造としても各層の持つ特性が十分に発揮できない虞があるためである。一方、各層の厚さの上限は特に制約がないが、後述する両層の和の平均層厚によって制約を受ける。すなわち、各層は、それぞれ、1層以上積層する必要があるため、19.5(=20−0.5)μmが事実上の上限となる。
両層の和の平均層厚は、1〜20μmである。下限値1μmは、各層の厚さの和の下限値である0.5μmの和(1=0.5+0.5)に対応したものである。一方、上限値20μmは、20μmを超えると、被覆工具として刃先の鋭利さを確保し、加工精度を得てバリを防ぎ、加工面品位を確保することが難しくなるためである。
【0016】
ここで、各層の厚さ、両層の和の平均層厚は、工具基体に垂直な方向の断面(縦断面)を研磨し、研磨した断面を走査型電子顕微鏡を用いて適切な倍率(例えば、倍率5000倍)で測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して求めることができる。
【0017】
2.各層のTiAlCN層の平均組成:
本発明におけるTiAlCN層は、
A層(Ti1−xAl)(C1−y)、B層(Ti1−sAl)(C1−t)とも
AlのTiおよびAlの合量に占める含有割合(以下、「Alの平均含有割合」という)x、s、
CのCとNの合量に占める平均含有割合(以下、「Cの平均含有割合」という)y、tが、
それぞれ、0.60≦x≦0.95、0.60≦s≦0.95、0≦y≦0.005、0≦t≦0.005(但し、x、s、y、tはいずれも原子比である)を満足するように定める。
その理由は、Alの平均含有割合x、sが0.60未満であると、TiAlCN層は硬さに劣るため高速高送り断続切削加工に供した場合には、耐摩耗性が十分でなく、さらに、Alの平均含有割合x、sが0.95を超えると、相対的にTiの含有割合が減少するため、脆化を招き、耐チッピング性が低下する。
したがって、Alの平均含有割合x、s平均含有割合は、0.60≦x≦0.95、0.60≦s≦0.95と定めた。
加えて、TiAlCN層に含まれるCの平均含有割合y、tは、0≦y≦0.005、0≦t≦0.005の範囲であるとき、TiAlCN層と工具基体もしくは下部層との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果としてTiAlCN層の耐チッピング性が向上する。一方、Cの平均含有割合zが0≦y≦0.005、0≦t≦0.005の範囲を逸脱すると、TiAlCN層の靭性が低下するため耐チッピング性が逆に低下するため好ましくない。
したがって、Cの平均含有割合s、tは、0≦y≦0.005、0≦t≦0.005と定めた。
【0018】
ここで、TiAlCN層のAlの平均含有割合x、sは、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用い、試料断面を研磨した試料において、電子線を縦断面側から照射し、膜厚方向に線分析を行って得られたオージェ電子の解析結果の5本を用いて各層の平均からAlの平均含有割合xおよびsを求めることができる。
Cの平均含有割合y、tについては、二次イオン質量分析(Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy:SIMS)により求めることができる。イオンビームを縦断面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。Cの平均含有割合y、tはTiAlCN層についての深さ方向の平均値を示す。
ただし、Cの含有割合には、意図的にガス原料としてCを含むガスを用いなくても含まれる不可避的なCの含有割合を除外する。
【0019】
3.A層およびB層において、TiとAとの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒の結晶方位を、電子線後方散乱回折装置を用いて縦断面方向から解析した場合、工具基体表面の法線方向に対する結晶粒の結晶面である{100}面の法線(A層)または{111}面の法線(B層)がなす傾斜角を測定し、該傾斜角のうち法線方向に対して0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計し傾斜角度数分布を求めたとき、0〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、前記傾斜角度数分布における度数全体の40%以上:
A層およびB層が、それぞれ、この所定の傾斜角度数分布を有するとき、両層を積層構造とすることで高速高送り断続切削加工においても優れた耐摩耗性と耐チッピング性を発揮する。しかも、クラックの進展が抑制され、耐欠損性が飛躍的に向上する。
これは、A層の{100}面の法線方向へ配向の割合が高いことにより高硬度が与えられ、B層の{111}面の法線方向へ配向の割合が高いことにより硬度を保ちつつ靭性が与えられるためと推定している。
ここで、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析する際に、基体表面の法線に対する傾斜角が12度より大きい結晶面は{100}面の法線方向、または、{111}面の法線方向に配向しているとみなすことができず、{100}面の法線方向、または、{111}面の法線方向への配向が強く、かつ硬度または靭性が低下しない範囲が0〜12度までであることから、測定によって度数を求める傾斜角区分の範囲を0〜12度と定めた。
【0020】
ここで、A層およびB層の傾斜角度数分布は次のように求めた。
まず、立方晶構造のTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層を含む硬質被覆層の工具基体表面に垂直な断面(縦断面)を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットした。前記研磨面(断面研磨面)において、工具基体表面と水平方向に長さ100μm、工具基体表面と垂直な方向に膜厚に対して、十分な長さの範囲を測定範囲とし、この測定範囲の研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に0.01μm/stepの間隔で照射し、得られた電子線後方散乱回折像に基づき、基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対して、A層については前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を、B層については前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を各測定点(電子線を照射した点)毎にそれぞれ測定した。そして、この測定結果に基づいて、測定された傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、傾斜角度数分布を求めた。得られた傾斜角度数分布から、0〜12度の範囲内に存在する度数の最高ピークの有無を確認し、かつ0〜45度の範囲内に存在する度数(傾斜角度数分布における度数全体)に対する0〜12度の範囲内に存在する度数の割合を求めた。なお、傾斜角度分布グラフにおいて、前記0〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の50%以上であることがより好ましい。
【0021】
4.Al含有割合の極大値の平均値と極小値の平均値との差とAl含有割合の変化の周期:
硬質被覆層を構成する立方晶構造を有する少なくとも一部の結晶粒において、TiとAlの周期的な含有割合の変化が結晶成長方向に少なくとも部分的に存在する箇所があってもよい。この箇所において、周期的な含有割合の変化として、原子比で表したAl含有割合の極大値の平均値と極小値の平均値との差が0.03〜0.25であり、このAl含有割合の変化の周期が3〜100nmであることが望ましい。この範囲のAlの含有割合変化および周期であれば、十分な硬度や耐欠損性の向上をより一層期待することができる。
【0022】
Al含有割合の周期的な変化の有無と周期的な変化の極大値と極小値の差、および周期幅は、透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いた複合窒化物層または複合炭窒化物層の微小領域の観察にて確認した。例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、工具基体表面に垂直な断面(縦断面)における400nm×400nmの領域について面分析を行い、立方晶結晶粒において縞状に色の濃淡の変化が見られたとき、前記立方晶結晶粒内に、TiAlCNにおけるTiとAlの周期的な組成変化が存在する。このような濃淡の変化が見られた結晶粒について、前記面分析の結果に基づいて濃淡から10周期分程度の組成変化が測定範囲に入る様に倍率を設定した上で、工具基体表面の法線方向に沿ってEDSによる線分析を5周期分の範囲で行い、Alの含有割合の周期的な変化の極大値と極小値のそれぞれの平均値の差を求め、さらに該5周期の極大値間の平均間隔をTiとAlの周期的な組成変化の周期として求めた。
【0023】
5.A層とB層との平均Al含有割合の差の絶対値|x−s|:
A層の平均Al含有割合とB層の平均Al含有割合との差の絶対値|x−s|は、0.1以下であることが望ましい。それは、この値以下であると、A層とB層との界面における付着強度が向上し、耐チッピング性のより一層の向上が期待できるからである。
【0024】
6.成膜方法(条件)
本発明のTiAlCN層は、例えば、工具基体もしくはTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層の少なくとも一層以上の上に、A層、B層形成用の反応ガス組成のガスを所定の条件で供給し、成膜することによって得ることができる。
例えば、ガス組成を表す%は容量%として、
A層({100}面の法線方向に配向)
ガス群A
NH:2.0〜3.0%、H:65〜75%
ガス群B
AlCl:0.6〜0.9%、TiCl:0.2〜0.3%、Al(CH:0.0〜0.5%、N:0.0〜12.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa
反応雰囲気温度:700〜900℃
供給周期:0〜7秒
1周期当たりのガス供給時間:0.00〜0.35秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.00〜0.30秒
B層({111}面の法線方向に配向)
ガス群A
NH:1.0〜1.5%、N:0.0〜5.0%、H:55〜60%
ガス群B
AlCl:0.6〜0.9%、TiCl:0.2〜0.3%、A(CH:0.0〜0.5%、N:0.0〜12.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa
反応雰囲気温度:700〜900℃
供給周期:0〜7秒
1周期当たりのガス供給時間:0.00〜0.35秒、
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.00〜0.30秒
をあげることができる。
なお、前記供給周期と1周期あたりのガス供給時間およびガス群Aとガス群Bの供給の位相差が0秒であることはガス群Aとガス群Bのガスが分離せずに供給されていることを意味する。
【実施例】
【0025】
次に、実施例について説明する。
ここでは、本発明被覆工具の具体例として、工具基体としてWC基超高圧焼結体を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、工具基体として、TiCN基サーメット、cBN基超高圧焼結体を用いた場合であっても同様であるし、ドリル、エンドミルに適用した場合も同様である。
【実施例1】
【0026】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SDKN1504AETNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cをそれぞれ製造した。
【0027】
次に、これら工具基体A〜Cの表面に、CVD装置を用いて、TiAlCN層を形成し、表6に示される本発明被覆工具1〜10を得た。
成膜条件は、表2、3に記載したとおりであるが、概ね、次のとおりである。
A層({100}面の法線方向に配向)
ガス群A
NH:2.0〜3.0%、H:65〜75%
ガス群B
AlCl:0.6〜0.9%、TiCl:0.2〜0.3%、Al(CH:0.0〜0.5%、N:0.0〜12.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa
反応雰囲気温度:700〜900℃
供給周期:0〜7秒
1周期当たりのガス供給時間:0.00〜0.35秒
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.00〜0.30秒
B層({111}面の法線方向に配向)
ガス群A
NH:1.0〜1.5%、N:0.0〜5.0%、H:55〜60%
ガス群B
AlCl:0.6〜0.9%、TiCl:0.2〜0.3%、A1(CH:0.0〜0.5%、N:0.0〜12.0%、H:残
反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa
反応雰囲気温度:700〜900℃
供給周期:0〜7秒
1周期当たりのガス供給時間:0.00〜0.35秒、
ガス群Aとガス群Bの供給の位相差:0.00〜0.30秒
なお、本発明被覆工具は4〜9は、表4に記載された成膜条件により、表5に示された下部層および/または上部層を形成した。
【0028】
また、比較の目的で、工具基体A〜Cの表面に、表2、3に示される条件によりCVDを行うことにより、表6に示されるTiAlCN層を含む硬質被覆層を蒸着形成して比較被覆工具1〜10を製造した。なお、比較のため形成条件E´、F´については積層構造とせずにそれぞれA層またはB層の単層で蒸着形成した。
なお、比較被覆工具4〜9については、表4に示される形成条件により、表5に示された下部層および/または上部層を形成した。
【0029】
また、前記本発明被覆工具1〜10、比較被覆工具1〜10の硬質被覆層について、前述した方法を用いて、A層およびB層の平均Al含有割合xおよびsと平均C含有割合yおよびtを算出した。さらに、前述の方法で得られたA層およびB層における基体表面の法線に対してA層については{100}面の、B層については{111}面の法線がなすそれぞれの傾斜角度数分布において、傾斜角度数の最高ピークが0〜12度に存在するかを確認すると共に、傾斜角が0〜12度の範囲内に存在する度数の割合を求めた。加えて、TiとAlの組成変化の工具基体表面の法線方向に沿った周期の有無とAl含有割合の極大値の平均と極小値の平均との差、その周期幅についても、前述と同様の方法で測定した。なお、周期関連事項の測定は、工具基体側の層から刃先側の層へ、順に周期性の有無を計測し、周期性を有することを最初に発見した層、すなわち、最も基体側に存在する層の周期とAl含有割合の極大値と極小値の平均との差を求めた。これらの結果を表6にまとめた。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
【表5】
【0035】
【表6】
【0036】
続いて、前記本発明被覆工具および比較被覆工具について、いずれもカッタ径125mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、以下に示す、合金鋼の乾式高速高送り正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
切削試験:乾式高速正面フライス、センターカット切削加工
被削材:JIS・SCM430幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度:764min−1
切削速度:300m/min
切り込み:2.5mm
一刃送り量:3.0mm/刃
切削時間:8分
(通常の切削速度は、150〜200m/min、通常の一刃送り量:1.0〜2.0mm/刃)
表7に、切削試験の結果を示す。なお、比較被覆工具1〜10については、チッピング発生が原因で寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
【0037】
【表7】
【実施例2】
【0038】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表8に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した。その後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結した。焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体α〜γをそれぞれ製造した。
【0039】
次に、これらの工具基体α〜γの表面に、実施例1と同様の方法により表2および表3に示される条件で、CVD装置を用いて、TiAlCN層を形成し、表10に示される本発明被覆工具11〜20を得た。
なお、本発明被覆工具は14〜19は、表4に記載された成膜条件により、表9に示された下部層および/または上部層を形成した。
【0040】
また、実施例1と同様に、比較の目的で、工具基体α〜γの表面に、表2および3に示される条件によりCVD法を用いることにより、表10に示されるTiAlCN層を含む硬質被覆層を蒸着形成して比較被覆工具11〜20を製造した。
なお、比較被覆工具14〜19については、表4に示される形成条件により、表9に示された下部層および/または上部層を形成した。
【0041】
また、実施例1と同様に、前記本発明被覆工具11〜20、比較被覆工具11〜20の硬質被覆層について、A層およびB層の平均Al含有割合x、sと平均C含有割合y、tを算出し、さらに、前述の方法で得られたA層およびB層におけるそれぞれ{100}面の法線および{111}面の法線が基体表面の法線に対してなす傾斜角の度数分布において、傾斜角度数の最高ピークが0〜12度に存在するかを確認すると共に、傾斜角が0〜12度の範囲内に存在する度数の割合、およびTiとAlの組成変化の工具基体表面の法線方向に沿った周期の有無とAl含有割合の極大値の平均と極小値の平均の差、その周期幅について測定した。これらの結果を表10にまとめた。
【0042】
【表8】
【0043】
【表9】
【0044】
【表10】
【0045】
次に、前記各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具11〜20、比較被覆工具11〜20について、以下に示す、炭素鋼の乾式高速断続切削試験(切削条件1)、鋳鉄の湿式高速断続切削試験(切削条件2)を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。その結果を表11に示す。なお、比較被覆工具11〜20については、チッピング発生が原因で寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
【0046】
切削条件1:
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒
切削速度:320m/min
切り込み:2.5mm
一刃送り量:0.4mm/刃
切削時間:5分
(通常の切削速度は、220m/min、通常の一刃送り量:0.25mm/刃)
【0047】
切削条件2:
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒
切削速度:300m/min
切り込み:2.5mm
一刃送り量:0.4mm/刃
切削時間:5分
(通常の切削速度は、250m/min、通常の一刃送り量:0.25mm/刃)
【0048】
【表11】
【0049】
表7、表11に示される結果から、本発明被覆工具1〜20は、いずれも硬質被覆層が優れた耐チッピング性を有しているため、合金鋼等の高速高送り切削加工に用いた場合であってチッピングの発生がなく、長期にわたって優れた耐摩耗性を発揮する。これに対して、本発明の被覆工具に規定される事項を一つでも満足していない比較被覆工具1〜20は、合金鋼等の高速高送り断続切削加工に用いた場合であってチッピングが発生し、短時間で使用寿命に至っている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
前述のように、本発明の被覆工具は、合金鋼以外の高速高送り断続切削加工の被覆工具として用いることができ、しかも、長期にわたって優れた耐摩耗性を発揮するから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化及び省エネ化、さらには低コスト化に十分に満足できる対応ができるものである。
図1
図2
図3