特許第6858425号(P6858425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6858425無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液並びに無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6858425
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液並びに無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/30 20060101AFI20210405BHJP
   C23C 18/24 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C23C18/30
   C23C18/24
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-109161(P2020-109161)
(22)【出願日】2020年6月24日
【審査請求日】2020年11月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 康二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一生
(72)【発明者】
【氏名】奥野 良将
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−056421(JP,A)
【文献】 特開2016−151056(JP,A)
【文献】 特開平02−093076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/30
C23C 18/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解ニッケル又はニッケル合金メッキを施す非導電性基板に接触させて触媒付与を行うためのニッケルコロイド触媒液において、
(A)可溶性ニッケル塩と、
(B)還元剤と、
(C)ポリカルボン酸類、オキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類、糖質より選ばれたコロイド安定剤の少なくとも一種と、
(D)ポリビニルピロリドン類(PVP類)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド類(PAM類)、ポリエチレンイミン類(PEI類)、ポリアリルアミン類(PAA類)、ポリビニルイミダゾール類(PVI類)から選ばれた合成系の水溶性ポリマー
とを含有し、
上記成分(C)と成分(D)の一方又は両方を成分(A)及び成分(B)のいずれかに共存させた状態で、成分(A)と成分(B)を混合してなる触媒液であって、
コロイド安定剤(C)の含有量が0.001〜5.0モル/Lであり、且つ、水溶性ポリマー(D)の含有量が0.0005〜0.3モル/Lであるとともに、
コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率がC/D=0.1〜500であることを特徴とする無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液。
【請求項2】
コロイド安定剤(C)が、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、シュウ酸及びこれらの塩からなるポリカルボン酸類、
クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、アスコルビン酸、ヒドロキシ酪酸、グルコヘプトン酸、シトラマル酸、エリソルビン酸及びこれらの塩からなるオキシカルボン酸類、
グルタミン酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、オルニチン、システイン、グリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、(S、S)−エチレンジアミンコハク酸及びこれらの塩からなるアミノカルボン酸類、
グルコース 、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、パラチノース、キシロース、トレハロース、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、還元水飴、ラクチトール、還元パラチノース、グルコノラクトンからなる糖質
よりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液。
【請求項3】
還元剤(B)が、水素化ホウ素化合物、アミンボラン類、次亜リン酸類、アルデヒド類、アスコルビン酸類、ヒドラジン類、多価フェノール類、多価ナフトール類、フェノールスルホン酸類、ナフトールスルホン酸類、スルフィン酸類、還元糖類よりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液。
【請求項4】
(a)ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤よりなる群から選ばれた吸着促進剤の少なくとも一種の含有液に非導電性基板を浸漬する吸着促進工程と、
(b)請求項1〜3のいずれか1項のニッケルコロイド触媒液に吸着促進された非導電性基板を浸漬して、基板表面上にニッケルコロイド粒子を吸着させる触媒付与工程と、
(c)触媒付与された上記基板上に無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ液を用いてニッケル又はニッケル合金皮膜を形成する無電解メッキ工程
とからなることを特徴とする無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法。
【請求項5】
先ず、非導電性基板にエッチング処理液を接触させて、当該基板表面を粗面化するエッチング処理工程(p)を施すとともに、
当該非導電性基板に対して、上記エッチング処理工程(p)の次に吸着促進工程(a)を施し、その後、触媒付与工程(b)及び無電解メッキ工程(c)を順次施すことを特徴とする請求項4に記載の無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法。
【請求項6】
工程(a)の吸着促進剤が、カチオン系界面活性剤及び/又は両性界面活性剤であることを特徴とする請求項4又は5に記載の無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の無電解メッキ方法により、非導電性基板上に無電解ニッケル又はニッケル合金皮膜を形成することを特徴とする非導電性基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非導電性基板に無電解ニッケル又はニッケル合金メッキを施すに際し、前処理としての触媒付与をするためのニッケルコロイド触媒液並びに当該触媒液を用いた無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法に関して、上記触媒液に特定のコロイド安定剤と特定の水溶性ポリマーを所定条件で組み合わせることで、ニッケル触媒液の経時安定性を効果的に促進でき、もって、ニッケル又はニッケル合金皮膜の性状を一段と改善できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
ガラス・エポキシ樹脂、ガラス・ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PET樹脂などの樹脂基板を初め、ガラス基板、セラミックス基板などの非導電性基板上に無電解ニッケル又はニッケル合金メッキを施すには、先ず、基板上にパラジウム、金、銀、銅、ニッケルなどの金属を吸着させてこれを触媒核とした後、この触媒核を介して無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ液により同ニッケル系皮膜を基板上に析出させる方式が一般的である。
【0003】
そこで、ニッケル又はニッケル合金メッキを含む無電解メッキを施すに際して、本出願人は先に、次の特許文献1(以下、「基準発明」という)で、無電解メッキの予備処理として非導電性基板上にニッケル触媒核を付与するためのニッケル系メッキ用のニッケルコロイド触媒液を提示した。
(1)特許文献1
即ち、無電解ニッケル又はニッケル合金メッキを施す非導電性基板に接触させて触媒付与を行うためのニッケルコロイド触媒液において、
(A)可溶性ニッケル塩と、
(B)還元剤と、
(C)モノカルボン酸類、オキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類、ポリカルボン酸類よりなる群から選ばれたコロイド安定剤の少なくとも一種
とを含有する無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液(請求項1参照)である。
この基準発明のニッケルコロイド触媒液では、ニッケル塩に錯化作用をするオキシカルボン酸類などの特定のコロイド安定剤を含有することで、当該触媒液の経時安定性を向上し、また、上記安定剤や還元剤などの含有量を制御することで、液の経時安定性をさらに向上できる(請求項2参照)。
【0004】
同じく、非導電性基板上にニッケル又はニッケル合金メッキを含む無電解メッキを行う際の予備処理として、同基板に触媒核を付与するための触媒液の従来技術を挙げると、次の通りである。
但し、特許文献2はニッケル触媒液及び他種の触媒液を包含するものであり、特許文献3は貴金属系の触媒液である。
(2)特許文献2
貴金属触媒液に替わる無電解メッキ用の触媒液(即ち、微細な金属体)に関して、当該触媒液はニッケル、銅、コバルトから選ばれた金属の塩と、ノニオン性界面活性剤、ゼラチンから選ばれた分散剤と、モノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸及びこれらの塩から選ばれた錯化剤と、水素化ホウ素類などの還元剤と、次亜リン酸類などの安定剤とを含み、pH1〜10に調整される(特許請求の範囲の第1項〜第7項)。
上記金属塩の含有量は5〜50g/L(第3頁左上欄第18行)、上記錯化剤の含有量は10〜50g/Lであり(第3頁左上欄第10行)、錯化剤の代表例は安息香酸、コハク酸、乳酸、酢酸ナトリウムなどである(第3頁左上欄第9行〜第10行)。
上記触媒液を製造する具体的な実施例1〜4をみると(第3頁左下欄第3行〜第4頁右上欄第9行)、実施例1〜2はニッケル触媒液の例、同じく実施例3はコバルト触媒液の例、実施例4は銅触媒液の例である。
このうち、実施例1には、硫酸ニッケルと、ゼラチン(分散剤)と、水酸化ホウ素ナトリウム(還元剤)と、次亜リン酸ナトリウム(安定剤)を含むニッケル触媒液に、ABS樹脂を浸漬した後、無電解ニッケルメッキ液によりABS樹脂表面にニッケルメッキ皮膜を形成することが開示されるが、このニッケル触媒液に錯化剤は含まれていない(第3頁左下欄第3行〜右下欄第1行)。
同じく、実施例2のニッケル触媒液にも、ニッケル塩と還元剤と安定剤(次亜リン酸塩)は含まれるが、錯化剤は含まれない(第3頁右下欄第2行〜第10行)。実施例4の銅触媒液にも錯化剤は含まれない(第4頁左上欄第12行〜第20行)。
一方、実施例3のコバルト触媒液には、錯化剤として酢酸ナトリウムが含まれる。
【0005】
(3)特許文献3
シリコン基板を触媒液に接触させた後、無電解ニッケルメッキを施す工程を含む太陽電池の製造に関して、上記触媒液は、
(a)パラジウム、金、銀などの貴金属又はその化合物と、
(b)エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸などから選ばれた増粘剤と、
(c)水とを含有する。
従って、触媒液の触媒核となる金属は貴金属又はその化合物であり、ニッケルではない。
【0006】
【特許文献1】特開2016−056421号公報
【特許文献2】特開平02−093076号公報
【特許文献3】特開2011−168889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2の実施例1〜2にはニッケル触媒液が開示されるが、ニッケル塩と還元剤と次亜リン酸塩を主成分とするもので、ニッケル触媒液の経時安定性の面で充分でないという問題がある。
上記特許文献3では、無電解メッキ液にニッケル液を開示するが、上述の通り、無電解メッキ前の触媒付与工程で用いる触媒液はパラジウム、金、銀などの貴金属又はその化合物を触媒核とし、ニッケル触媒液ではない。但し、触媒液にPVA、PVPなどの増粘剤が含まれる。
【0008】
一方、上記特許文献1(基準発明)のニッケルコロイド触媒液では、ニッケル塩に錯化作用をするオキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類などの特定のコロイド安定剤を含有することで、当該触媒液の経時安定性が向上する。
本発明は、この基準発明を前提として、ニッケル触媒液の経時安定性に焦点を当て、当該安定性を効果的に増進するとともに、触媒付与した非導電性基板上に高度に均一なニッケル又はニッケル合金皮膜を形成することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記基準発明では、成分(A)〜(C)を含むニッケルコロイド触媒液に、さらに所定の水溶性ポリマーを複合的に組み合わせると、コロイド分散性が向上し、無電解ニッケルメッキに際して、皮膜の均一性の改善やムラの解消が期待できることを述べた(基準発明の[0031]参照)。
この水溶性ポリマーは、合成系のポリマー、天然由来の水溶性ポリマー、或いはセルロース誘導体のような半合成系ポリマーから選ばれる。
【0010】
本発明者らは、上記基準発明に基づいて、成分(A)〜(C)並びに水溶性ポリマーの4成分からなるニッケルコロイド触媒液並びにその経時安定性を鋭意研究する過程で、基準発明のコロイド安定剤(C)としてオキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類などの所定の成分を選択し、水溶性ポリマー(D)として所定の合成系のポリマーを選択するとともに、成分(C)と成分(D)の各含有量並びに含有モル比率を適正範囲に調整すると、ニッケルコロイド触媒液の経時安定性が基準発明より加重的に促進され、触媒付与した非導電性基板に無電解ニッケルメッキを施した場合、均一性に優れたニッケル又はニッケル合金皮膜を得ること、また、所定の合成系水溶性ポリマーは上記基準発明に開示された範囲とは異なり、開示範囲の一部のポリマーを新たなポリマーで置き換える必要があることを新たに見い出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明1は、無電解ニッケル又はニッケル合金メッキを施す非導電性基板に接触させて触媒付与を行うためのニッケルコロイド触媒液において、
(A)可溶性ニッケル塩と、
(B)還元剤と、
(C)ポリカルボン酸類、オキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類、糖質より選ばれたコロイド安定剤の少なくとも一種と、
(D)ポリビニルピロリドン類(PVP類)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド類(PAM類)、ポリエチレンイミン類(PEI類)、ポリアリルアミン類(PAA類)、ポリビニルイミダゾール類(PVI類)から選ばれた合成系の水溶性ポリマー
とを含有し、
上記成分(C)と成分(D)の一方又は両方を成分(A)及び成分(B)のいずれかに共存させた状態で、成分(A)と成分(B)を混合してなる触媒液であって、
コロイド安定剤(C)の含有量が0.001〜5.0モル/Lであり、且つ、水溶性ポリマー(D)の含有量が0.0005〜0.3モル/Lであるとともに、
コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率がC/D=0.1〜500であることを特徴とする無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液である。
【0012】
本発明2は、上記本発明1において、コロイド安定剤(C)が、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、シュウ酸及びこれらの塩からなるポリカルボン酸類、
クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、アスコルビン酸、ヒドロキシ酪酸、グルコヘプトン酸、シトラマル酸、エリソルビン酸及びこれらの塩からなるオキシカルボン酸類、
グルタミン酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、オルニチン、システイン、グリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、(S、S)−エチレンジアミンコハク酸及びこれらの塩からなるアミノカルボン酸類、
グルコース 、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、パラチノース、キシロース、トレハロース、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、還元水飴、ラクチトール、還元パラチノース、グルコノラクトンからなる糖質
よりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液である。
【0013】
本発明3は、上記本発明1又は2において、還元剤(B)が、水素化ホウ素化合物、アミンボラン類、次亜リン酸類、アルデヒド類、アスコルビン酸類、ヒドラジン類、多価フェノール類、多価ナフトール類、フェノールスルホン酸類、ナフトールスルホン酸類、スルフィン酸類、還元糖類よりなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用のニッケルコロイド触媒液である。
【0014】
本発明4は、(a)ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤よりなる群から選ばれた吸着促進剤の少なくとも一種の含有液に非導電性基板を浸漬する吸着促進工程と、
(b)請求項1〜3のいずれか1項のニッケルコロイド触媒液に吸着促進された非導電性基板を浸漬して、基板表面上にニッケルコロイド粒子を吸着させる触媒付与工程と、
(c)触媒付与された上記基板上に無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ液を用いてニッケル又はニッケル合金皮膜を形成する無電解メッキ工程
とからなることを特徴とする無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法である。
【0015】
本発明5は、上記本発明4において、先ず、非導電性基板にエッチング処理液を接触させて、当該基板表面を粗面化するエッチング処理工程(p)を施すとともに、
当該非導電性基板に対して、上記エッチング処理工程(p)の次に吸着促進工程(a)を施し、その後、触媒付与工程(b)及び無電解メッキ工程(c)を順次施すことを特徴とする無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法である。
【0016】
本発明6は、上記本発明4又は5において、工程(a)の吸着促進剤が、カチオン系界面活性剤及び/又は両性界面活性剤であることを特徴とする無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法である。
【0017】
本発明7は、上記本発明4〜6のいずれかの無電解メッキ方法により、非導電性基板上に無電解ニッケル又はニッケル合金皮膜を形成することを特徴とする非導電性基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のニッケルコロイド触媒液では、ニッケル塩に錯化作用をするオキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類などから選ばれた所定のコロイド安定剤(C)と、PVPやPEIなどの所定の水溶性ポリマー(D)とを併用し、且つ、上記コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の各含有量及び含有モル比率を適正範囲に調整することで、当該成分(C)と(D)の有機的な作用で、コロイド粒子の分散性、つまりコロイド触媒液の経時安定性を基準発明に比して有効に促進でき、もって、無電解メッキに際してニッケル系皮膜にムラのない優れた均一性を付与できる。
特に、所定の水溶性ポリマー(D)の存在下においては、コロイド安定剤(C)が適正範囲内のごく少量であっても、含有モル比率C/Dを適正域に設定することで、ニッケルコロイド触媒液の経時安定性を良好に保持できる点は注目すべきである。
【0019】
本発明では、コロイド安定剤(C)に上記基準発明に記載したオキシカルボン酸類、ポリカルボン酸類、アミノカルボン酸類を使用できるが、この他に糖質を選択することができる。
また、本発明の水溶性ポリマー(D)は、上記基準発明に記載した水溶性ポリマーのうち、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアルコール(PVA)などの合成系ポリマーに限定され、後述するように、天然由来ポリマー(澱粉、植物ガムなど)、或いは、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース誘導体のような半合成系ポリマーは含まれない。
【0020】
本発明では、非導電性基板に上記ニッケルコロイド触媒を付与してから無電解ニッケル(又はニッケル合金)メッキを施すことを基本原理とするが、この触媒付与の前処理として、非導電性基板を界面活性剤の含有液に浸漬する吸着促進処理を加重的に施して、当該吸着促進工程、触媒付与工程並びに無電解ニッケル(又はニッケル合金)メッキ工程を順次行うことにより、触媒付与時の触媒活性を強化して無電解メッキにより析出するニッケル(又はニッケル合金)皮膜の均一性を改善し、且つ、皮膜のムラ発生を良好に防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、第一に、非導電性基板に接触させて触媒付与を行うためのニッケルコロイド触媒液であって、(A)可溶性ニッケル塩と(B)還元剤と(C)所定のコロイド安定剤と(D)所定の合成系の水溶性ポリマーを含有し、上記成分(C)と成分(D)の一方又は両方を成分(A)及び成分(B)のいずれかに共存させた状態で、成分(A)と成分(B)を混合してなるとともに、成分(C)と(D)の含有モル比率C/Dを所定範囲に調整した無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ用の前記ニッケルコロイド触媒液であり(本発明1に相当)、第二に、上記第一の触媒液を用いた無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法であり、予め非導電性基板を界面活性剤の含有液で吸着促進処理し、次いで、上記触媒液により触媒付与した後に無電解ニッケル又はニッケル合金メッキを行う方法である(本発明4に相当)。
また、上記非導電性基板は、ガラス・エポキシ樹脂、ガラス・ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリブチレンタレフタレート(PBT)樹脂など)、ABS樹脂、PET樹脂及びこれらのポリマーアロイ(例えば、PC/ABS、PBT/ABS、PA/ABS、PC/PS)などの樹脂基板を初め、ガラス基板、セラミックス基板などをいう。
【0022】
上記本発明1のニッケルコロイド触媒液の基本組成は、(A)可溶性ニッケル塩と、(B)還元剤と、(C)所定のコロイド安定剤と、(D)所定の合成系の水溶性ポリマーである。
上記可溶性塩(A)は、水溶液中でニッケルイオンを発生させる可溶性の塩であれば任意のものが使用でき、特段の制限はなく、難溶性塩をも排除しない。
具体的には、硫酸ニッケル、酸化ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、或いは有機スルホン酸やカルボン酸のニッケル塩などが挙げられる。
【0023】
上記還元剤(B)としては、水素化ホウ素化合物、アミンボラン類、次亜リン酸類、アルデヒド類、アスコルビン酸類、ヒドラジン類、多価フェノール類、多価ナフトール類、フェノールスルホン酸類、ナフトールスルホン酸類、スルフィン酸類、還元糖類などが挙げられる。
水素化ホウ素化合物は水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムなどであり、アミンボラン類はジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボランなどである。アルデヒド類はホルムアルデヒド、グリオキシル酸又はその塩などであり、多価フェノール類はカテコール、ヒドロキノン、レゾルシン、ピロガロール、フロログルシン、没食子酸などであり、フェノールスルホン酸類はフェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸又はその塩などである。還元糖類はグルコース、フルクトースなどである。
【0024】
上記所定のコロイド安定剤(C)はメッキ浴中でニッケル錯体を形成する化合物であり、触媒液の経時安定性を担保する機能を果たす。
当該コロイド安定剤(C)はポリカルボン酸類、オキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類、糖質から選択され、これらを単用又は併用できる。
上記ポリカルボン酸類はポリカルボン酸及びその塩であり、飽和ポリカルボン酸又はその塩が好ましいが、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ポリカルボン酸及びその塩を排除するものではない。
上記飽和ポリカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、シュウ酸などが挙げられる。
従って、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などのモノカルボン酸又はこれらの塩は排除される。
但し、ポリカルボン酸類からなるコロイド安定剤(C)に、上記モノカルボン酸などを併用することは差し支えない。
【0025】
コロイド安定剤(C)としてのオキシカルボン酸類はオキシカルボン酸及びその塩であり、これらを単用又は併用できる。
上記オキシカルボン酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、アスコルビン酸、ヒドロキシ酪酸、グルコヘプトン酸、シトラマル酸、エリソルビン酸などが挙げられる。
【0026】
コロイド安定剤(C)としてのアミノカルボン酸類はアミノカルボン酸及びその塩であり、これらを単用又は併用できる。
上記アミノカルボン酸としては、グルタミン酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、オルニチン、システイン、グリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、(S、S)−エチレンジアミンコハク酸などが挙げられる。
【0027】
コロイド安定剤(C)としての糖質は、グルコース 、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、パラチノース、キシロース、トレハロース、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、還元水飴、ラクチトール、還元パラチノース、グルコノラクトンなどが挙げられる。
【0028】
上記所定の水溶性ポリマー(D)はコロイド粒子の分散性を向上し、もって無電解ニッケルメッキに際して、均一でムラのないニッケル皮膜の析出に寄与する機能を果たす。
この水溶性ポリマー(D)は、ポリビニルピロリドン類(PVP類)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンイミン類(PEI類)、ポリアミン類(PA類)、ポリビニルイミダゾール類(PVI類)、ポリアクリルアミド類(PAM類)から選ばれた合成系のポリマーである。
上記水溶性ポリマー(D)は合成系のポリマーを意味するため、ゼラチン、澱粉などの天然由来の水溶性ポリマー、或いは、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)などのセルロース誘導体のような半合成系ポリマーは含まれない。但し、本発明の水溶性ポリマー(D)に当該天然由来、又は半合成系のポリマーを併用することは排除されない。
【0029】
上記ポリビニルピロリドン類(PVP類)はポリビニルピロリドンのホモポリマー並びに、ポリビニルピロリドンにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を付加したポリマーを含む。
上記ポリエチレンイミン類(PEI類)は、ポリエチレンイミンのホモポリマー並びにポリエチレンイミンにエチレンオキシド及び/又はポリプロピレンオキシドを付加したポリマーを含む。
上記ポリアリルアミン類(PAA類)はジアリルアミンポリマーが基本で、具体的にはジアルキルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドアクリルアミド共重合体などである。
上記ポリビニルイミダゾール類(PVI類)はポリビニルイミダゾールのホモポリマー並びにポリビニルイミダゾールにエチレンオキシド及び/又はポリプロピレンオキシドを付加したポリマーを含む。
上記ポリアクリルアミド類(PAM類)はアクリルアミドのホモポリマー、アルデヒド変性ポリアクリルアミド、メチロールポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミドなどを初め、アクリルアミドにアクリル酸、メタクリル酸などの親水性ポリマーなどを共重合したポリマーを含む。但し、前記ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体はジアリルアミンとアクリルアミドの共重合体に分類できる。
上記水溶性ポリマー(D)としては、ポリビニルピロリドン類(PVP類)、ポリアクリルアミド類(PAM類)、ポリエチレンイミン類(PEI類)、ポリアリルアミン類(PAA類)が好ましく、PEIのエチレンオキシド付加物、ジアリルアミンポリマーからなるPA類、アルデヒド変性ポリアクリルアミドなどがより好ましい。
【0030】
また、本発明のニッケルコロイド触媒液には、必要に応じて、触媒核となる微細金属の分散性を増すために、界面活性剤を含有することができる。
当該界面活性剤はノニオン系、両性、カチオン系、或はアニオン系の各種界面活性剤を選択できる。
上記ノニオン系界面活性剤としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、(ポリ)C1〜C25アルキルフェノール、(ポリ)アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミン、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものや、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)などが挙げられる。
上記カチオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩、或はピリジニウム塩などが挙げられ、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ジメチルジフェニルアンモニウム塩、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、{(モノ、ジ、トリ)アルキル}ナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。 上記両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。また、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化、或はスルホン酸化付加物も使用できる。
【0031】
本発明において、コロイド安定剤(C)はニッケル錯体を形成する機能を有し、水溶性ポリマー(D)はコロイド分散性を高める機能を有するため、成分(C)が減少して水溶性ポリマー(D)が増大しても、逆に、成分(C)が増大して成分(D)が減少しても、ニッケルコロイド粒子を分散し保全する機能が低下してしまう。
従って、コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の触媒液に対する含有モル比率C/Dは、触媒液の分散性、ひいては触媒液の経時安定性を担保する重要な要素であり、この比率を適正化することで、均一でムラのないニッケル系のメッキ皮膜が得られる。
上記コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率はC/D=0.1〜500であることが必要であり、好ましくは1〜250である。含有モル比率C/Dが所定値より小さいと触媒液の経時安定性を損なう恐れがあり、また、当該比率が所定値より大きいと、コロイドの分散性の低下によって触媒液の経時安定性をやはり損なう恐れがある。
成分(C)及び(D)は夫々単用又は併用できるが、上記モル比率C/Dを適正化する前提で、触媒液に対するコロイド安定剤(C)に必要な含有量は0.001〜5.0モル/Lである。好ましくは0.002〜2.5モル/L、より好ましくは0.005〜1.0モル/Lである。また、コロイド安定剤は可溶性ニッケル塩の含有量の1.5倍以上が好ましい。
同じく、上記水溶性ポリマー(D)に必要な含有量は0.0005〜0.3モル/Lであり、好ましくは0.0010〜0.2モル/L、より好ましくは0.0020〜0.1モル/Lである。
一方、ニッケルコロイド触媒液において、上記可溶性ニッケル塩(A)は単用又は併用でき、その含有量は0.001〜1.0モル/Lが適し、好ましくは0.002〜0.5モル/L、より好ましくは0.0025〜0.3モル/Lである。
可溶性ニッケル塩(A)の含有量が適正量より少ないとニッケル皮膜の膜厚が不足したり、皮膜の均質性が低下する恐れがあり、逆に、溶解量などに応じて上限濃度は制限される。
上記還元剤(B)は単用又は併用でき、その含有量は0.002〜1.0モル/Lが適し、好ましくは0.003〜0.7モル/L、より好ましくは0.005〜0.6モル/Lである。
還元剤の含有量が適正量より少ないとニッケル塩の還元作用が低下し、逆に、上限濃度は溶解量などで制限されるが、多過ぎると無電解メッキで析出するニッケル皮膜の均質性が低下する恐れがある。


【0032】
本発明のニッケルコロイド触媒液は水系、或いは親油性アルコールなどの有機溶媒系を問わない。
水系の場合には、液の溶媒は水及び/又は親水性アルコールから選択される。
また、当該触媒液のpHについては特に限定はないが、中性、弱酸性、弱アルカリ性などを選択することが好ましい。
【0033】
本発明1の触媒液は、上記成分(C)と成分(D)の一方又は両方を成分(A)及び成分(B)のいずれかに共存させた状態で、成分(A)と成分(B)を混合してなる触媒液である。
本発明1のコロイド触媒液の調製手順としては、上記可溶性ニッケル塩(A)を含む溶液と、この溶液とは別途に調製された上記還元剤(B)を含む溶液とを混合してコロイド粒子を生成することが重要である。
可溶性ニッケル塩(A)と還元剤(B)を先に混合すると、ニッケルイオンが還元されて金属ニッケルが析出してしまい、成分(C)〜(D)が触媒液中で有機的に機能しない恐れがあるからである。
従って、当該触媒液の調製に際しては、還元剤からニッケルイオンに電子を円滑に供与するため、還元剤の溶液を可溶性ニッケル塩(及びコロイド安定剤)の含有溶液に時間をかけて緩やかに滴下して製造することを基本とする。例えば、5〜50℃(好ましくは10〜40℃)、pH1〜8(好ましくはpH3〜7)のニッケル塩溶液に還元剤溶液を滴下して20〜1200分間(好ましくは30〜300分間)撹拌し、触媒液を調製する。尚、触媒液の調製では、可溶性ニッケル塩の溶液を還元剤の液に滴下することを排除するものではない。
本発明の触媒液において、還元剤の作用により可溶性ニッケル塩から生じるニッケルコロイド粒子は適した平均粒径が1〜250nm、好ましくは1〜120nm、より好ましくは1〜100nmの微細粒子である。
ニッケルコロイド粒子の平均粒径が250nm以下になると、触媒液に非導電性基板を浸漬した場合、コロイド粒子が基板の微細な凹凸面の窪みに入り込み、緻密に吸着し、或いは引っ掛かるなどのアンカー効果により基板表面にニッケルコロイド核の付与が促進されるものと推定できる。
【0034】
本発明4は、上記ニッケルコロイド触媒液を用いた無電解メッキ方法であり、次の3つの工程を順次組み合わせてなる。
(a)吸着促進工程
(b)触媒付与工程
(c)無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ工程
上記吸着促進工程(a)はいわば(b)の触媒付与の前処理工程であり、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤よりなる群から選ばれた吸着促進剤の少なくとも一種の含有液に非導電性基板を浸漬する工程であり、基板を界面活性剤の含有液に接触させることで基板表面の濡れ性を高めて触媒活性を増強し、次工程でのニッケルコロイド粒子の吸着を促進するものである。
吸着促進工程では、非導電性基板を界面活性剤の含有液を接触させることが必要であるため、液に浸漬させることが基本であるが、含有液を基板に噴霧したり、刷毛で塗布するなどしても差し支えない。
【0035】
本発明6に示すように、吸着を促進する見地から、正電荷を帯びたカチオン系や両性界面活性剤が好適であり、特にカチオン系界面活性剤が好ましい。また、カチオン系界面活性剤に少量のノニオン系界面活性剤を併用すると、吸着促進効果がさらに増す。
本発明1の触媒液において、可溶性ニッケル塩に還元剤を作用させて生じるニッケルコロイド粒子はゼータ電位がマイナスであるため、例えば、非導電性基板をカチオン性界面活性剤で接触処理すると、基板がプラス電荷を帯び易く、次工程におけるニッケルコロイド粒子の基板への吸着効率が増す。
吸着促進工程での界面活性剤の具体例は、前記本発明1の触媒液において述べた界面活性剤の記述の通りである。
界面活性剤の含有量は0.05〜100g/Lであり、好ましくは0.5〜50g/Lである。当該吸着促進工程の処理温度は15〜70℃程度、浸漬時間は0.5〜20分間程度が好ましい。
尚、上記吸着促進工程(a)の前に、予備処理として、基板をエッチング溶液に浸漬して、表面を粗面化するエッチングを行うことが好ましい(本発明5参照)。
【0036】
吸着促進工程(a)を終えた非導電性基板は純水で洗浄した後、乾燥し、或いは乾燥することなく、次の触媒付与工程(b)に移行する。
触媒付与工程では、上記ニッケルコロイド触媒液に非導電性基板を浸漬して、基板表面上にニッケルコロイドを吸着させる。
当該触媒液の液温は15〜95℃、好ましくは15〜70℃、浸漬時間は0.1〜20分程度、pHは3〜12(好ましくはpH5〜11)であり、浸漬処理に際しては、基板を触媒液に静置状態で浸漬すれば充分であるが、撹拌や揺動を行っても良い。
また、当該触媒付与工程(b)と次の無電解メッキ工程(c)の間に、非導電性基板を酸溶液に浸漬して洗浄処理する活性化工程(b-1)を付加することが好ましい。これにより、触媒活性を効果的に保持して、次の無電解メッキ工程で皮膜形成を円滑に促進できる。
【0037】
触媒液に浸漬した非導電性基板は純水で洗浄した後、乾燥し、或いは乾燥することなく、無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ工程(c)に移行する。
無電解ニッケル又はニッケル合金メッキは、従来と同様に処理すれば良く、特段の制約はない。無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ液の液温は一般に15〜100℃、好ましくは20〜90℃である。
ニッケル又はニッケル合金メッキ液の撹拌では、空気撹拌、急速液流撹拌、撹拌羽根等による機械撹拌等を使用することができる。
【0038】
無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ液の組成に特段の制限はなく、公知のメッキ液を使用できる。
無電解ニッケルメッキは、実質的にはニッケル−リン合金メッキ、或いはニッケル−ホウ素合金メッキである。
上記ニッケル合金はニッケル−コバルト、ニッケル−スズ、ニッケル−スズ−亜鉛などである。
公知の無電解ニッケルメッキ液は、基本的に可溶性ニッケル塩と還元剤を主成分とし、これに錯化剤、pH調整剤、反応促進剤などの各種添加剤を含有する。
無電解メッキに際して、リン系の還元剤(例えば、次亜リン酸塩)を使用すると、ニッケル−リン合金メッキが皮膜が得られ、ホウ素系の還元剤を(例えば、ジメチルアミンボラン)使用すると、ニッケル−ホウ素合金皮膜が得られる。
可溶性ニッケル塩については、前記ニッケルコロイド触媒液で述べた通りである。
上記錯化剤については、前記ニッケルコロイド触媒液で述べたコロイド安定剤と共通する部分もあり、具体的には、アンモニア、エチレンジアミン、ピロリン酸塩、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などである。
尚、前述したように、本発明7は、この無電解メッキ方法により非導電性基板上にニッケル又はニッケル合金皮膜を形成した非導電性基板の製造方法である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の吸着促進剤の含有液、ニッケルコロイド触媒液、並びに無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ液の調製を含む無電解ニッケル又はニッケル合金メッキ方法の実施例を述べるとともに、ニッケルコロイド触媒液の経時安定性試験例、上記実施例で得られた析出ニッケル(又はニッケル合金)皮膜の外観評価試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0040】
《無電解ニッケル及びニッケル合金メッキ方法の実施例》
冒述では、本発明のニッケルコロイド触媒液は基準発明(特開2016−056421号公報)を出発点としたことを述べたが、この基準発明に基づいて、可溶性ニッケル塩(A)と還元剤(B)とコロイド安定剤(C)を含有するニッケルコロイド触媒液を「基準例」とすることで、触媒液の経時安定性の見地から本発明の実施例の有効性を相対的に測ることにした。
従って、先ず、本発明の代表例として実施例1(下記の項目(1))を述べるとともに、実施例1との対比で上記基準発明に基づく基準例(下記の項目(0))を説明したうえで、実施例2〜16及び参考例1〜2(項目(2)〜(18))を順次詳述する。
下記の実施例2〜16のうち、実施例2〜15は無電解ニッケルメッキ方法の実施例、実施例16は無電解ニッケル−コバルト合金メッキ方法の実施例である。
尚、上記参考例1〜2は触媒液中の成分(C)と(D)の含有比率C/Dが本発明1の要件から上限又は下限側に外れる例である。
【0041】
上記実施例1は後述するように、予備工程としてエッチング処理をした後、吸着促進→触媒付与→活性化→無電解メッキの各工程を順次施した無電解ニッケルメッキ方法の実施例であり、吸着促進工程の吸着促進剤はカチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤の混合物であり、触媒付与工程のコロイド触媒液は還元剤(B)に水素化ホウ素化合物、コロイド安定剤(C)にグルタル酸、合成系の水溶性ポリマー(D)にポリエチレンイミン(PEI)を夫々用いた例である。
以下の実施例2〜13、16は上記実施例1を基本とした例、実施例14〜15実施例8を基本とした例である。
先ず、実施例2はコロイド安定剤(C)と合成系水溶性ポリマー(D)の含有モル比率C/Dを実施例1の比率より小さく設定した例実施例3はコロイド安定剤(C)を(実施例1の)グルタル酸からジカルボン酸に属するコハク酸に変更した例、実施例4は同じく成分(C)をオキシカルボン酸に属するグリコール酸に変更した例、実施例5は同じく成分(C)をアミノカルボン酸に属するグリシンに変更した例、実施例6は同じく成分(C)を糖質に属するキシリトールに変更した例、実施例7は同じくジカルボン酸に属するアジピン酸に変更した例である。
実施例8〜9は合成系水溶性ポリマー(D)をPEIからPEIのEO付加物(平均分子量が異なる)に夫々変更した例、実施例10は同じくジアリルアミンポリマーに変更した例、実施例11は同じくポリビニルピロリドンに変更した例、実施例12は同じくポリビニルアルコールに変更した例、実施例13は同じくジアリルアミンとアクリルアミドの共重合体に変更した例である。
実施例14実施例8を基本として可溶性ニッケル塩を変更した例、実施例15は同じく還元剤を変更した例である。
尚、上述したように、参考例1はコロイド安定剤(C)と合成系水溶性ポリマー(D)の含有モル比率C/Dが所定の適正範囲から上限側に外れた例参考例2は同じく含有モル比率C/Dが所定の適正範囲から下限側に外れた例である。
【0042】
また、上述のように、実施例16は実施例1を基本として、無電解メッキ工程をニッケルメッキからニッケル−コバルト合金メッキに代替した例であり、エッチング処理をしてから、吸着促進→触媒付与→活性化→無電解メッキの各工程を順次経たもので、エッチング工程、吸着促進工程、触媒付与工程、活性化工程は上記実施例1を基本とする。
【0043】
一方、下記の比較例1〜4のうち、比較例1はコロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率C/Dが本発明の規定範囲より大きい例、比較例2は当該含有モル比率C/Dが本発明の規定範囲より小さい例である。
比較例3は水溶性ポリマー(D)が合成系ではない天然由来成分である例である。比較例4はコロイド安定剤(C)が本発明で規定された以外の成分、即ち、ポリアミン類に属するエチレンジアミンを用いた例である。
【0044】
(1)実施例1
本発明の無電解ニッケルメッキ方法は吸着促進→触媒付与→無電解メッキの各工程を順次施すことを基本とするが、本実施例1では、吸着促進工程の前に予めエッチング処理を付加するとともに、触媒付与工程と無電解メッキ工程の間に活性化処理を付加した。
従って、実施例1の無電解ニッケルメッキ方法は、エッチング→吸着促進→触媒付与→活性化→無電解メッキの各工程からなる。
即ち、先ず、予備処理として下記条件(p)でエッチング処理をし、次いで、条件(a)で吸着促進を行い、条件(b)で触媒付与を行い、条件(b-1)で活性化を行った後、条件(c)で無電解ニッケル−リンメッキを行った。
(p)エッチング処理工程
先ず、ABS樹脂基板(縦:45mm、横:50mm、板厚:3mm)をエッチング処理し、基板表面を粗面化して試料基板とした。
エッチング処理液の組成は次の通りである。
[エッチング処理液]
無水クロム酸 400g/L
98%硫酸 200g/L
[エッチング処理条件]
試料基板をエッチング処理液に68℃、10分の条件で浸漬し、純水で洗浄、乾燥した。
(a)吸着促進工程
次の組成で吸着促進剤の含有液を調製した。Mwは重量平均分子量である。
[吸着促進剤]
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体
(Mw:30,000)5g/L
ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル 1g/L
(b)触媒付与工程
ニッケル触媒液の調製については、先ず、ニッケル溶液と還元剤溶液を調製し、次いで、両溶液を混合してニッケルコロイド触媒液を調製した。
各液の調製条件は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:1,800) 0.01モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.01=30
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
pH4.0に調整した25℃のニッケル溶液に還元剤溶液を滴下して撹拌し、ニッケルコロイド触媒液を得た。
(b-1)活性化工程
[活性化溶液]
98%硫酸 5mL/L
(c)無電解ニッケルメッキ工程
次の組成で無電解ニッケル‐リンメッキ液を建浴した。また、当該メッキ液は希硫酸もしくは水酸化ナトリウムでpH調整した。
[無電解ニッケルメッキ液]
硫酸ニッケル六水和物(Ni2+として) 0.1モル/L
次亜リン酸ナトリウム1水和物 30g/L
コハク酸 25.0g/L
残余 純水
pH(20℃) 4.6
(d)無電解ニッケル‐リンメッキにおける全処理条件
本実施例1の無電解ニッケル‐リンメッキは工程(p)→(a)→(b)→(b-1)→(c)からなり、各工程の処理条件は次の通りである。
[エッチング条件]
試料基板を前記(p)のエッチング処理液に68℃、10分の条件で浸漬し、純水で洗浄した。
[吸着促進条件]
エッチング処理した試料基板を前記(a)の吸着促進剤の含有液に40℃、2分の条件で浸漬し、純水で洗浄した。
[触媒付与条件]
吸着促進処理した基板を、前記(b)のニッケルコロイド触媒液に25℃、10分の条件で浸漬し、純水で洗浄した。
[活性化条件]
次いで、基板を前記(b-1)の活性化溶液に25℃、5分の条件で浸漬し、純水で洗浄した。
[無電解ニッケルメッキ条件]
その後、上記(c)の無電解ニッケルメッキ液中に90℃、20分の条件で浸漬して無電解メッキを施し、試料基板上にニッケル‐リン皮膜を形成した後、純水で洗浄し、乾燥した。
【0045】
(0)基準例1
上記基準発明に基づいて、本発明の合成系水溶性ポリマー(D)は用いず、コロイド安定剤(C)(=グルタル酸)を触媒液に含有した例である。
即ち、触媒付与工程(b)では、可溶性ニッケル塩(A)と還元剤(B)とコロイド安定剤(C)を必須成分とするニッケルコロイド触媒液を用いており、上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、エッチング及び活性化を含めて、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調製は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0046】
(2)参考例1(含有モル比率C/Dが適正範囲の上限を越える例
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.4モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:10,000) 0.0005モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.4/0.0005=800
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0047】
(3)実施例2(含有モル比率C/Dを小さく設定)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:600) 0.08モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.08=3.75
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0048】
(4)参考例2(含有モル比率C/Dが適正範囲の下限より低い例
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.0015モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:600) 0.08モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.0015/0.08=0.01875
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0049】
(5)実施例3(コロイド安定剤の変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
コハク酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:1,800) 0.01モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.01=30
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0050】
(6)実施例4(コロイド安定剤の変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グリコール酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:1,800) 0.01モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.01=30
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0051】
(7)実施例5(コロイド安定剤の変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グリシン 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:1,800) 0.01モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.01=30
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0052】
(8)実施例6(コロイド安定剤の変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
キシリトール 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:1,800) 0.01モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.01=30
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0053】
(9)実施例7(コロイド安定剤の変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
アジピン酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:1,800) 0.01モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.01=30
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0054】
(10)実施例8(水溶性ポリマーの変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミンEO付加物
(EO40モル、Mw:2,500) 0.02モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.02=15
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0055】
(11)実施例9(水溶性ポリマーの変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミンEO付加物
(EO140モル、Mw:8,000)0.0375モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.0375=80
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0056】
(12)実施例10(水溶性ポリマーの変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体
(Mw:8,500)0.0025モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.0025=120
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0057】
(13)実施例11(水溶性ポリマーの変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリビニルピロリドン(Mw:1,800)0.00125モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.00125=240
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0058】
(14)実施例12(水溶性ポリマーの変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリビニルアルコール(Mw:1,000)0.00125モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.00125=240
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0059】
(15)実施例13(水溶性ポリマーの変更)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド
−アクリルアミド共重合体(Mw:10,000)0.003モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.003=100
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
【0060】
(16)実施例14(ニッケル塩の変更)
上記実施例8を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
塩化ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミンEO付加物
(EO40モル、Mw:2,500) 0.02モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.02=15
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例9に同じ。
【0061】
(17)実施例15(還元剤の変更)
上記実施例8を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミンEO付加物
(EO40モル、Mw:2,500) 0.02モル/L
[還元剤溶液]
ジメチルアミンボラン 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.02=15
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例9に同じ。
【0062】
(18)実施例16
上記実施例1を基本として、無電解ニッケル−コバルト合金メッキ液を次の組成で調製した以外は、吸着促進剤及びニッケルコロイド触媒液の調製方法、並びに予備処理、吸着促進、触媒付与、無電解メッキの各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
(c)無電解ニッケル−コバルト合金メッキ液の調製
[無電解ニッケルメッキ液]
塩化ニッケル(Ni2+として) 0.025モル/L
塩化コバルト(Co2+として) 0.025モル/L
酒石酸ナトリウム 78g/L
塩酸ヒドラジン 68g/L
残余 純水
pH(20℃) 12.0
[メッキ条件]
メッキ温度:90℃
メッキ時間:20分
【0063】
(19)比較例1(コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率が、請求項1の規定範囲から上側に外れる例)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
即ち、当該比較例1では、コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率を本発明の規定範囲の上限を越えて設定した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:10,000) 0.0002モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.0002=1500
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
触媒液を調製した後、液は分解を始めたが、触媒液に浸漬した基板の一部には触媒核が付着したことから、次の無電解メッキ工程では基板のごく一部にメッキ皮膜が析出した。
【0064】
(20)比較例2(コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率が、請求項1の規定範囲から下側に外れる例)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
即ち、当該比較例2では、コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率が、請求項1の規定範囲から下側に外れる。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として0.1モル/L) 0.1モル/L
グルタル酸 0.0015モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:600) 0.2モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.0015/0.2=0.0075
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
触媒液を調製した後、液は分解を始めたが、触媒液に浸漬した基板の一部には触媒核が付着したことから、次の無電解メッキ工程では基板のごく一部にメッキ皮膜が析出した。
【0065】
(21)比較例3( 水溶性ポリマー(D)が合成系ではない天然由来である例)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
即ち、当該比較例3では、ニッケルコロイド触媒液に本発明で規定する合成系の水溶性ポリマー(D)に替えて、天然由来の水溶性ポリマー(ゼラチン)を含有した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
グルタル酸 0.3モル/L
ゼラチン(Mw:30,000) 0.0006モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.0006=500
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
但し、ニッケルコロイド粒子は生成したが、凝集・沈殿し、皮膜は析出しなかった。
【0066】
(22)比較例4(コロイド安定剤(C)がエチレンジアミンの例)
上記実施例1を基本として、ニッケルコロイド触媒液を次の組成で調製した以外は、ニッケルコロイド触媒液及び無電解ニッケルメッキ液の調製方法、並びに各工程の処理条件は実施例1と同じに設定した。
即ち、当該比較例4では、ニッケルコロイド触媒液に本発明で規定するコロイド安定剤(C)に替えて、ポリアミン類に属するエチレンジアミンを含有した。
(b)触媒付与工程
ニッケルコロイド触媒液の調整は次の通りである。
[ニッケル溶液]
硫酸ニッケル(Ni2+として) 0.1モル/L
エチレンジアミン 0.3モル/L
ポリエチレンイミン(Mw:1,800) 0.01モル/L
[還元剤溶液]
水素化ホウ素ナトリウム 0.25モル/L
[コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率]
C/D=0.3/0.01=30
[ニッケルコロイド触媒液の調製条件]
実施例1に同じ。
但し、ニッケルコロイド粒子は生成したが、凝集・沈殿し、皮膜は析出しなかった。
【0067】
《触媒液の経時安定性試験例》
そこで、上記実施例1〜16、参考例1〜2並びに比較例1〜4で建浴した各ニッケルコロイド触媒液について、下記の基準でコロイド安定性の優劣を評価した。
◎:建浴後60日経過時点で沈殿、或いは分解が起こらなかった。
○:建浴後30日間沈殿、或いは分解が起こらなかった。
×:建浴後すぐに沈殿、或いは分解した。
【0068】
《無電解メッキにより析出したニッケル及びニッケル合金皮膜の外観評価試験例》
次いで、上記実施例1〜16、参考例1〜2並びに比較例1〜4の各無電解メッキ方法で得られたニッケル又はニッケル合金の無電解皮膜について、下記の基準で皮膜外観の優劣を目視により評価した。
○:メッキ皮膜にムラが認められなかった。
△:メッキ皮膜に一部未析出(メッキ欠け)が認められた。
×:メッキ皮膜が析出しなかった。
尚、析出皮膜の「ムラ」は、皮膜の緻密性や平滑性などに周囲と異なる部分があると認められる。皮膜の「ムラ」は皮膜の均一性とは別の観点である。
【0069】
《ニッケルコロイド触媒液の経時安定性と皮膜外観についての試験結果》
下表は、上記コロイド触媒液の経時安定性と皮膜外観の評価試験の結果である。
経時安定性 皮膜外観 経時安定性 皮膜外観
基準例 ○ ○
実施例1 ◎ ○ 比較例1 × △
参考例1 ○ ○ 比較例2 × △
実施例2 ◎ ○ 比較例3 × ×
参考例2 ○ ○ 比較例4 × ×
実施例3 ◎ ○
実施例4 ◎ ○
実施例5 ◎ ○
実施例6 ◎ ○
実施例7 ◎ ○
実施例8 ◎ ○
実施例9 ◎ ○
実施例10 ◎ ○
実施例11 ◎ ○
実施例12 ◎ ○
実施例13 ◎ ○
実施例14 ◎ ○
実施例15 ◎ ○
実施例16 ◎ ○
【0070】
《触媒液の経時安定性とメッキ皮膜外観の総合評価》
ニッケルコロイド触媒液として本発明のコロイド安定剤(C)と合成系の水溶性ポリマー(D)の含有モル比率C/Dが規定範囲を越えた比較例1では、触媒液の分解が始まって経時安定性が損なわれ、無電解メッキした非導電性基板の一部にメッキ欠けが認められた。
また、上記含有モル比率C/Dが規定範囲より小さい比較例2でも、同様に触媒液の分解により経時安定性が損なわれ、無電解メッキした非導電性基板の一部にメッキ欠けが認められた。
一方、ニッケルコロイド触媒液として、コロイド安定剤(C)は本発明の要件を満たすが、本発明の合成系水溶性ポリマー(D)に替えて、天然系のポリマーであるゼラチンを用いた比較例3では触媒液の沈殿又は分解が生じて、もって触媒液との接触後に非導電性基板に無電解メッキを施してもニッケル皮膜の析出はなかった。
また、合成系の水溶性ポリマー(D)は本発明の要件を満たすが、本発明のコロイド安定剤(C)に替えて、規定外のポリアミン類(エチレンジアミン)を用いた比較例4では、やはり比較例3と同様に触媒液の経時安定性が損なわれて、非導電性基板に無電解メッキを施してもニッケル皮膜の析出はなかった。
これにより、本発明の触媒液を経時安定化させるには、コロイド安定剤(C)と合成系の水溶性ポリマー(D)の含有モル比率C/Dを規定範囲内に適正化することが必要であると判断できる。
また、コロイド安定剤(C)と合成系水溶性ポリマー(D)を組み合わせた本発明の触媒液において、上記合成系ポリマー(D)に替えて天然系ポリマーであるゼラチンを用いても、比較例3のように、コロイド触媒液の沈殿又は分解が起こり、無電解メッキに際してニッケル皮膜の析出はなかった。同じく、成分(C)〜(D)の組み合わせにおいて、コロイド安定剤(C)を規定外のポリアミン類に代替した比較例4でも、比較例3と同じく、コロイド触媒液の経時安定性が損なわれてニッケル皮膜の析出はなかった。
【0071】
これに対して、先ず、吸着促進の予備処理をした後、ニッケル塩と還元剤と所定のコロイド安定剤を含む触媒液で触媒付与処理をし、次いで無電解ニッケルメッキを施した冒述の基準発明に基づく基準例では、触媒液の経時安定性の評価は○であり、無電解メッキで析出するニッケル皮膜の評価は○であり、ムラがなく均一性に優れていた。
そして、吸着促進の予備処理をした後、上記基準例のコロイド安定剤に替えて所定の水溶性ポリマーを含む触媒液で触媒付与処理をし、無電解ニッケルメッキを施した実施例1〜16では、触媒液の経時安定性の評価は◎であり上記基準例より優位性があった。また、無電解メッキで析出するニッケル皮膜の評価は○であった。
これを詳細に見れば、実施例1〜16では、コロイド安定剤(C)と合成系の水溶性ポリマー(D)の含有モル比率C/Dは、前述のように、好ましい範囲(1〜250)に含まれるために◎の評価であった。これに対して、参考例1〜2では、含有モル比率C/Dが適正な範囲(0.1〜500)の上限及び下限から外れるため、○の評価になったものと推定される。
【0072】
そこで、比較例1〜4に対する実施例1〜16の考察をまとめると次の通りである。
先ず、上記比較例1〜2では触媒液の沈殿又は分解が生じたことから、実施例1〜16について、成分(C)と(D)の含有モル比率C/Dを適正範囲に調整することの重要性は自ずと明らかである。
また、実施例1〜16を比較例3〜4に対比すると、ムラがなく均一性に優れたニッケル皮膜を得るには、天然系とは異なる合成系の水溶性ポリマーを選択する必要があるが、合成系ポリマーから任意に選択すれば良いというだけでは足りず、合成系ポリマー群の中からポリアミン類等ではない適正なポリマーを選択することの必要性が判断できる。
【0073】
以下、実施例1〜16及び参考例1〜2について詳細に検討する。その場合、実施例1を基本として他の実施例の評価を対比的に説明する。
先ず、その基本の実施例1はカチオン系界面活性剤であるジアリルアミンポリマーの4級アンモニウム塩を含む吸着促進剤で非導電性基板を予備処理し、ニッケル塩に硫酸ニッケルを、還元剤に水素化ホウ素化合物を、コロイド安定剤にグルタル酸を、水溶性ポリマーにPEIを夫々選択した触媒液で触媒付与した後、無電解ニッケルメッキを施した例であるが、触媒液の経時安定性は良好で、建浴後60日経過しても沈殿が生じたり、分解することはなく、また、無電解メッキで得られたニッケル皮膜は均一で析出ムラも認められなかった。即ち、ニッケルの皮膜外観評価は基準例と同様であるが、コロイド触媒液の経時安定性は基準例に対して優位性が認められた。
同じく、コロイド安定剤(C)にコハク酸、グリコール酸、グリシン、キシリトール、アジピン酸を夫々選択し、水溶性ポリマー(D)にPEIを選択した実施例3〜7、或いは、コロイド安定剤(C)にグルタル酸を選択し、水溶性ポリマー(D)にPEIのEO付加物を選択した実施例8〜9では、触媒液の経時安定性と無電解メッキで得られたニッケル皮膜の評価は、共に実施例1と同水準であった。
これに対して、参考例1〜2は共に水溶性ポリマー(D)にPEIを用い、コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)の含有モル比率C/Dが適正範囲の上限又は下限から外れた例であるが、コロイド触媒液の経時安定性は基準例と同様の評価であった。従って、上記含有モル比率C/Dを実施例1のように、より好適な範囲に調整すれば当該経時安定性を向上できることが判断できる。特に、参考例2に示すように、水溶性ポリマー(D)がより好ましい含有量であり、且つ、コロイド安定剤(C)がごく少量であっても(従って、含有モル比率C/Dは適正範囲から下限側に外れる)、ニッケル触媒液の経時安定性の評価が○である点は注目すべきである。
また、上記参考例2との対比で実施例2を見ると、含有モル比率C/Dが好ましい範囲の下限付近(C/D=3.75)であつても、コロイド安定剤(C)と水溶性ポリマー(D)を共に好ましい含有量に設定すれば、コロイド触媒液の経時安定性は基準例より向上し(○→◎)、良好な皮膜外観を形勢可能な触媒液の性能をより長期に担保できることが分かる。
ちなみに、PEI又はPEIのEO付加物を水溶性ポリマーとした実施例1〜9を見ると、コロイド安定剤(C)としてオキシカルボン酸に属するグルタル酸又はグリコール酸、ポリカルボン酸に属するコハク酸又はアジピン酸、アミノカルボン酸に属するグリシン、糖質に属するキシリトールを夫々選択しても、触媒液の経時安定性の評価は◎であり、当該安定剤として同様の機能を果たすことが分かる。
【0074】
一方、実施例1を基本として、水溶性ポリマー(D)をジアリルアミンポリマー、PVP、PVA、ジアリルアミンとアクリルアミドの共重合体に夫々変更した実施例10〜13実施例8を基本として、可溶性ニッケル塩、還元剤を変更した実施例14〜15においても、触媒液の経時安定性と無電解メッキで得られたニッケル皮膜の評価は、共に実施例1又は実施例8と同水準であった。
この場合、実施例1〜13を見ると、水溶性ポリマー(D)としてPEI、PEIのEO付加物、ジアリルアミンポリマー、PVP、PVA、ジアリルアミンとアクリルアミドの共重合体を夫々選択しても、触媒液の経時安定性の評価は◎であり、当該水溶性ポリマーとして同様の機能を果たすことが分かる。
また、上記水溶性ポリマー(D)に着目すると、実施例2(含有量=0.08モル/L、Mw=600)、実施例1、3〜7(含有量=0.01モル/L、Mw=1,800)、実施例13(含有量=0.003モル/L、Mw=1万)などのように、重量平均分子量が低い水溶性ポリマーから高いものまで様々に選択しても、触媒液の経時安定性の評価は◎であることから、本発明の水溶性ポリマーについては、重量平均分子量がある程度変化しても上記経時安定性に対して同様の機能を果たすことが分かる。
一方、実施例1を基本として、無電解メッキ工程をニッケル皮膜からニッケル−コバルト合金皮膜に変えた実施例16では、触媒液の経時安定性は実施例1と同じ評価であり、無電解メッキで得られた皮膜についても、均一でムラがなく実施例1と同じ評価であった。

【要約】
【課題】 ニッケル触媒液の経時安定性を効果的に増進し、触媒付与した非導電性基板に無電解メッキを施して均一でムラのないニッケル(又はニッケル合金)皮膜を得る。
【解決手段】 界面活性剤の含有液に非導電性基板を浸漬して予備の吸着促進処理をし、(A)可溶性銅塩と、(B)還元剤と、(C)オキシカルボン酸類やポリカルボン酸類などの所定のコロイド安定剤と、(D)ポリエチレンイミン類やポリビニルピロリドン類などの所定の合成系水溶性ポリマーとを含む無電解ニッケルメッキ用のニッケルコロイド触媒液で非導電性基板に触媒付与した後、無電解ニッケルメッキを行う。成分(C)〜(D)を複用するため、成分(C)だけを単用するより触媒液の経時安定性を効果的に増進し、無電解メッキにより均一でムラのないニッケル(又はニッケル合金)皮膜が得られる。
【選択図】 なし