(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱伝導性シート]
本発明は、シリコーン樹脂からなるマトリックスと、熱伝導性充填剤とを含む熱伝導性シートであって、前記シートは、スキン層を表面に備え、前記スキン層の表面に、酸化層を備える、熱伝導性シートである。
【0010】
本発明の実施形態を図面において説明する。なお、本発明は、以下の各図面の内容に限定されるものではない。
図1は、本発明の熱伝導性シートの一例を模式的に示す断面図である。本発明の熱伝導性シート10は、シリコーン樹脂からなるマトリックス12と、該マトリックス12中に分散している熱伝導性充填剤とを含む。熱伝導性充填剤は、熱伝導性シートの厚さ方向に配向している異方性充填剤13と、非異方性充填剤14とで構成されている。より詳細には、厚さ方向に配向した異方性充填材13の間の隙間に非異方性充填材14が介在し、熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導性が高めている。
【0011】
なお、
図1では、異方性充填剤13が熱伝導性シート10の厚さ方向に配向しているが、本発明の熱伝導性シート10は、このような態様に限定されず、異方性充填剤13は、シート内でランダムに配向していてもよく、
図2に示すように、非異方性充填剤14のみからなる熱伝導性充填剤として用いてもよい。また、非異方性充填剤14を用いずに、異方性充填剤13のみからなる熱伝導性充填剤を用いてもよい。中でも、厚さ方向に配向した異方性充填剤13及び非異方性充填剤14を併用することにより、熱伝導性充填剤の全体の量を比較的少なくして、効果的に熱伝導率を高めることができる。
【0012】
(スキン層)
熱伝導性シート10の一方の表面11a及び他方の表面11bの、それぞれの表面近傍には、スキン層15a及び15bが存在する。スキン層は、シリコーン樹脂からなるマトリックス12を含有し、かつ熱伝導性充填剤の充填割合が他の部分(スキン層以外の部分)よりも低くなる。熱伝導性シート10がスキン層を備えることにより、熱伝導性充填剤の脱落が防止され、発熱体や放熱体などの被着体の汚染や、熱伝導性シート10の熱伝導性の低下を抑制することができる。
スキン層15a及び15bの厚みは、それぞれ、好ましくは0.1〜10μmであり、より好ましくは0.3〜5μmであり、さらに好ましくは0.5〜3μmである。スキン層の厚みがこれら下限値以上であると、熱伝導性充填剤の脱落が防止しやすくなり、スキン層の厚みがこれら上限値以下であると、熱伝導性が低くなるのを抑制しやすくなる。
【0013】
熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡により観察することで、スキン層の厚みを求めることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡写真を得て、表面から熱伝導性シート内部方向へ垂線を引いて、該垂線が熱伝導性充填剤に接触するまでの距離h1を求める。
次いで、同様に等間隔で合計50か所の垂線を引いて、h1〜h50を求める。該50点の測定値から、数値の大きい10点を除いた残り40点の平均値をスキン層の厚みとする。
【0014】
(酸化層)
本発明の熱伝導性シート10は、スキン層15aの表面に酸化層16aを備えている。酸化層16aは、スキン層15aの表面を酸化することにより形成される。酸化層の形成は、後述するように、好ましくは真空紫外線の照射により行われる。酸化層16aを備えることにより、熱伝導性シート10の表面11aは、粘着性が弱まり、微粘着面又は非粘着面となる。なお、微粘着面及び非粘着面のいずれを形成するかは、例えば後述するように、紫外線照射の積算光量などにより適宜調整することができる。
【0015】
熱伝導性シート10の酸化層を備える側の表面11aは、JIS Z0237:2009に準拠した試験装置を傾斜角8°に変更して測定されるボールタック試験の値が10秒以下である。ボールタック値は、粘着性の指標であり、大きな値ほど、粘着性が高いことを意味する。ボールタック値が10秒以下であると、表面11aは、微粘着面又は非粘着面となり、摺動性が良好な熱伝導性シートを得ることができる。本発明では、表面が微粘着面であるか、非粘着面であるかは、ボールタック値で定義され、ボールタック値が1秒以上10秒以下であれば微粘着面、ボールタック値が1秒未満であれば非粘着面とする。さらに、ボールタック値が10秒を超える場合は粘着面とする。また、特に下限はないが、摺動性が極めて高いときボールタック値は0.2秒程度となる。なお、ボールタック値は、以下に記載の(1)〜(2)の方法で測定された値であり、より詳細には実施例に記載の方法で測定される。
(1)熱伝導性シートからなる試験片を、ボールタック試験の対象となる面が表面になるように平板に貼り付け、平板を傾斜角αが8°となるように設置する。
(2)試験片の上部にポリエチレンテレフタレートフィルムを貼付して助走路を形成させ、試験片の表面が露出している上端部Qから上方に距離d1(50mm)のポリエチレンテレフタレートフィルム上に直径11mmの鋼球を置いた後、該鋼球が助走距離d1(50mm)を通過した時を0秒として、試験片の表面が露出している上端部Qから、試験片下方へ距離d2(50mm)の位置にあるRへ到達する時間(秒)をボールタック値とする。
【0016】
熱伝導性シート10のスキン層15bには、酸化層は形成されていてもよいが、酸化層は形成されていないことが好ましい。スキン層15bの表面に酸化層が形成されていない場合は、熱伝導性シート10の表面11bは粘着面となる。熱伝導性シート10は、表面11bが粘着面であることにより、電子機器に組み付けるときに被着面に固定させることができ、かつ表面11aが微粘着面又は非粘着面を有することにより、摺動させやすくなる。特に、一方の表面11aが微粘着面であり、かつ他方の表面11bが粘着面である場合は、電子機器に組み付けるときに、摺動性がよく、かつ所望の位置に取り付けやすくなり、位置ずれが生じにくくなる。
【0017】
酸化層は、X線光電子分光法による表面分析を行い得られた光電子スペクトルにおいて、結合エネルギー102eVの強度に対する結合エネルギー104eVの強度[I(104)/I(102)]が0.13以上となる。ここで、結合エネルギーが102eVの強度[I(102)]は、シリコーン(単位構造:SiO)に基づく結合エネルギーの強度であり、結合エネルギー104eVの強度[I(104)]は、シリカ(単位構造:SiO
2)に基づく結合エネルギーの強度である。したがって、I(104)/I(102)の値が大きい値の場合、スキン層の表面を形成しているシリコーン樹脂が、酸化されてシリカになっている割合が大きいことを意味する。
【0018】
酸化層の上記I(104)/I(102)の値が、大きくなるほど該酸化層を有するシート表面の粘着性は低下していく。酸化層を備えるシート表面を、上記微粘着面とする観点から、I(104)/I(102)の値は、好ましくは0.13以上0.30以下であり、より好ましくは0.15以上0.25以下である。また、酸化層を備えるシート表面を上記非粘着面とする観点から、I(104)/I(102)の値は、好ましくは0.30超であり、より好ましくは0.40超であり、そして通常は1.5以下であり、好ましくは1.0以下である。
【0019】
また、本発明の熱伝導性シート10は、酸化層16aを備えることにより、表面11aの平滑性が向上する。一般に、酸化層が存在すると、熱抵抗値は上昇して、放熱性が低下する傾向にあるが、本発明の熱伝導性シート10は、表面11aの平滑性が高いため、熱伝導性が低下する度合いを小さくできる。
また、熱伝導性シート10の表面の平滑性が高まると、表面が平滑な被着体に用いる場合においては、密着性が向上し、効果的に放熱させることが可能となる。特に、熱伝導性シート10の表面11aが非粘着面である場合は、平滑性がより高くなり、上記した効果をより発揮しやすくなる。
【0020】
本発明の熱伝導性シートの酸化層を備える側の表面11aは、算術平均高さ(Sa)が1.58μm以下であり、山頂点の算術平均曲(Spc)が910[1/mm]以下であり、界面の展開面積比(Sdr)が0.32以下であることが好ましい。
【0021】
算術平均高さ(Sa)は、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表し、面粗さの指標になるパラメータである。
山頂点の算術平均曲(Spc)は、ISO25178に準拠して測定される、定義領域中における山頂点の主曲率の算術平均を表すパラメータである。このパラメータが小さいと、被着体(発熱体等)と接触する点が丸みを帯びていることを示す。一方、この値が大きいことは、被着体(発熱体等)と接触する点が尖っていることを示す。
山頂点の算術平均曲(Spc)は、所定の測定面積(例えば1mm
2の二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
界面の展開面積比(Sdr)は、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積(例えば1mm
2)に対してどれだけ増大しているかを示す指標であって、完全に平坦な面は展開面積比Sdrが0となる。
【0022】
これら算術平均高さ(Sa)、山頂点の算術平均曲(Spc)及び界面の展開面積比(Sdr)が上記一定範囲であることにより、表面11aは、高性能な平滑性を有し、そのため酸化層を形成することにより熱伝導率が低下するデメリットを小さくしやすくなり、かつ平滑な被着体に対する熱伝導性シート10の密着性を向上させやすくなる。
算術平均高さ(Sa)は、より好ましくは1.40μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.9μm以下であり、そして通常は0.1μm以上である。
算術平均曲(Spc)は、より好ましくは880[1/mm]以下であり、さらに好ましくは770[1/mm]以下であり、さらに好ましくは750[1/mm]以下であり、そして通常は100[1/mm]以上である。
界面の展開面積比(Sdr)は、より好ましくは0.3以下であり、さらに好ましくは0.23以下であり、さらに好ましくは0.20以下であり、そして通常は0.05以上である。
これら、算術平均高さ(Sa)、算術平均曲(Spc)、及び界面の展開面積比(Sdr)は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0023】
(シリコーン樹脂)
本発明の熱伝導性シートは、シリコーン樹脂からなるマトリックスを備える。シリコーン樹脂は、柔軟性が高く、熱伝導性充填剤を比較的多く充填することが可能であるため、熱伝導性シートの熱抵抗値を低くすることができる。
シリコーン樹脂は、反応硬化型シリコーンを硬化して得られる。該反応硬化型シリコーンとしては、例えば、付加反応硬化型シリコーン、ラジカル反応硬化型シリコーン、縮合反応硬化型シリコーン、紫外線又は電子線硬化型シリコーン、及び湿気硬化型シリコーンなどが挙げられる。反応硬化型シリコーンの中でも、付加反応硬化型シリコーンが好適に用いられる。付加反応硬化型シリコーンは、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含むことが好ましい。
【0024】
熱伝導性シートは、本発明の効果を妨げない範囲で、シリコーン樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。ただし、熱伝導性シートに含まれる樹脂全量基準で、シリコーン樹脂の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
シリコーン樹脂以外の樹脂としては、ゴム、エラストマーなどが挙げられる。
上記ゴムとしては、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム等が挙げられる。
上記エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなど熱可塑性エラストマーや、主剤と硬化剤からなる混合系の液状の高分子組成物を硬化して形成する熱硬化型エラストマーなどが挙げられる。
【0025】
(熱伝導性充填剤)
本発明の熱伝導性シートは、熱伝導性充填剤を含有する。熱伝導性充填剤を含有することにより、熱伝導性シートの熱伝導性が高まり、電子機器内部の発熱体及び放熱体の間に用いた場合に、放熱性が良好になる。熱伝導性充填剤の含有量は、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは60体積%以上であり、より好ましくは65〜90体積%であり、さらに好ましくは70〜85体積%である。熱伝導性充填剤の含有量が、上記下限値以上であると、熱伝導性シートの熱伝導性が向上する。熱伝導性充填剤の含有量が上記上限値以下であると、熱伝導性充填剤の配合量に応じた効果を得ることができる。
本発明の熱伝導性シートは、熱伝導性充填剤の含有量が、上記下限値以上の場合などのように、多い場合においても、熱伝導性充填剤の脱落を有効に防止することができる。そのため、熱伝導性充填剤の脱落に伴う被着面などを汚染や、熱伝導性シートの熱抵抗値の上昇(熱伝導率の低下)などを防ぐことができる。
【0026】
熱伝導性充填剤は、異方性充填剤及び非異方性充填剤のいずれでもよいが、両方を併用することが好ましい。異方性充填剤及び非異方性充填剤を併用することにより、両者の総量をあまり多くしなくても、効率的に熱伝導性を向上させることができる。
【0027】
<異方性充填剤>
異方性充填剤は、形状に異方性を有する充填材であり、配向が可能を充填材である。異方性充填材としては、繊維状材料、鱗片状材料などが挙げられる。異方性充填材は、一般的にアスペクト比が高いものであり、アスペクト比が2を越えることが好ましく、5以上であることがより好ましい。アスペクト比を2より大きくすることで、異方性充填材を厚さ方向に配向させやすくなり、熱伝導性シートの熱伝導性を高くしやすくなる。
また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用的には100である。
なお、アスペクト比とは、異方性充填材の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比であり、繊維状材料においては、繊維長/繊維の直径を意味し、鱗片状材料においては鱗片状材料の長軸方向の長さ/厚さを意味する。
異方性充填材は、熱伝導性シートの熱伝導性を向上させる観点から、繊維状材料であることが好ましい。
【0028】
異方性充填材の含有量は、熱伝導性シートにおいて、シリコーン樹脂100質量部に対して75〜250質量部であることが好ましく、100〜200質量部であることがより好ましい。また、異方性充填材の含有量は、体積%で表すと、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは10〜35体積%、より好ましくは15〜30体積%である。
異方性充填材の含有量を75質量部以上とすることで、熱伝導性を高めやすくなり、250質量部以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が適切になりやすく、異方性充填材の配向性が良好となる。
【0029】
異方性充填材は、繊維状である場合、その平均繊維長が、好ましくは10〜500μm、より好ましくは20〜200μmである。平均繊維長を10μm以上とすると、異方性充填材同士が適切に接触して、熱の伝達経路が確保され、熱伝導性シートの熱伝導性が良好になる。
一方、平均繊維長を500μm以下とすると、異方性充填材の嵩が低くなり、シリコーン樹脂中に高充填できるようになる。さらに、熱伝導性シートの導電性が必要以上に高くなることが防止される。
なお、上記の平均繊維長は、異方性充填材を顕微鏡で観察して算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性充填材50個の繊維長を測定して、その平均値(相加平均値)を平均繊維長とすることができる。
【0030】
また、異方性充填材が鱗片状材料である場合、その平均粒径は、10〜400μmが好ましく、15〜300μmがより好ましい。また、20〜200μmが特に好ましい。平均粒径を10μm以上とすることで、異方性充填材同士が接触しやすくなり、熱の伝達経路が確保され、熱伝導性シートの熱伝導性が良好になる。一方、平均粒径を400μm以下とすると、異方性充填材の嵩が低くなり、シリコーン樹脂中に異方性充填材を高充填することが可能になる。
なお、鱗片状材料の平均粒径は、異方性充填材を顕微鏡で観察して長径を直径として算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性充填材50個の長径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0031】
異方性充填材は、熱伝導性を有する公知の材料を使用すればよいが、一般的に導電性を有するものが使用される。また、異方性充填材は、後述するように、磁場配向できるように、反磁性を備えることが好ましい。
異方性充填材の具体例としては、炭素繊維、鱗片状炭素粉末で代表される炭素系材料、金属繊維で代表される金属材料や金属酸化物、窒化ホウ素や金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物等が挙げられる。これらの中では、炭素系材料は、比重が小さく、シリコーン樹脂中への分散性が良好なため好ましく、中でも熱伝導率の高い黒鉛化炭素材料がより好ましい。黒鉛化炭素材料は、グラファイト面が所定方向に揃うことで異方性反磁性磁化率を備える。また、窒化ホウ素なども、結晶面が所定方向に揃うことで異方性反磁性磁化率を備えるものとなる。
したがって、磁場配向により任意の方向に配向させることができる観点からは、上記のように異方性反磁性磁化率を備える鱗片状の窒化ホウ素や黒鉛化炭素材料が好ましい。
ここで、異方性反磁性磁化率とは、異方性充填材の反磁性磁化率の異方性を示す物性値(CGS単位系)である。すなわち、この異方性反磁性磁化率は、外部より磁場を印加することにより生じる、異方性充填材の磁化率について、例えば繊維軸方向や鱗片面の面内方向から、その垂直方向の磁化率を差し引いた値である。この異方性反磁性磁化率は、磁気異方性トルク計、振動式磁力計、超伝導量子干渉素子(SQUID)、サスペンジョン法等の公知の方法によって測定することができる。
【0032】
また、異方性充填材は、特に限定されないが、異方性を有する方向(すなわち、長軸方向)に沿う熱伝導率が、一般的に60W/m・K以上であり、好ましくは400W/m・K以上である。異方性充填材の熱伝導率は、その上限が特に限定されないが、例えば2000W/m・K以下である。熱伝導率の測定方法は、レーザーフラッシュ法である。
【0033】
異方性充填材を用いる場合は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、異方性充填材として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径または平均繊維長を有する異方性充填材を使用してもよい。大きさの異なる異方性充填材を使用すると、相対的に大きな異方性充填材の間に小さな異方性充填材が入り込むことにより、異方性充填材をシリコーン樹脂中に高密度に充填できるとともに、熱の伝導効率を高めるられると考えられる。
【0034】
異方性充填材として用いる炭素繊維は、黒鉛化炭素繊維が好ましい。また、鱗片状炭素粉末としては、鱗片状黒鉛粉末が好ましい。異方性充填材は、これらの中でも、黒鉛化炭素繊維がより好ましい。
黒鉛化炭素繊維は、グラファイトの結晶面が繊維軸方向に連なっており、その繊維軸方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。また、鱗片状黒鉛粉末は、グラファイトの結晶面が鱗片面の面内方向に連なっており、その面内方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。黒鉛化炭素繊維および鱗片黒鉛粉末は、高い黒鉛化度をもつものが好ましい。
【0035】
上記した黒鉛化炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末などの黒鉛化炭素材料としては、以下の原料を黒鉛化したものを用いることができる。例えば、ナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物、PAN(ポリアクリロニトリル)、ピッチ等の縮合複素環化合物等が挙げられるが、特に黒鉛化度の高い黒鉛化メソフェーズピッチやポリイミド、ポリベンザゾールを用いることが好ましい。例えばメソフェーズピッチを用いることにより、後述する紡糸工程において、ピッチがその異方性により繊維軸方向に配向され、その繊維軸方向へ優れた熱伝導性を有する黒鉛化炭素繊維を得ることができる。
黒鉛化炭素繊維におけるメソフェーズピッチの使用態様は、紡糸可能ならば特に限定されず、メソフェーズピッチを単独で用いてもよいし、他の原料と組み合わせて用いてもよい。ただし、メソフェーズピッチを単独で用いること、すなわち、メソフェーズピッチ含有量100%の黒鉛化炭素繊維が、高熱伝導化、紡糸性及び品質の安定性の面から最も好ましい。
【0036】
黒鉛化炭素繊維は、紡糸、不融化及び炭化の各処理を順次行い、所定の粒径に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものや、炭化後に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものを用いることができる。黒鉛化前に粉砕又は切断する場合には、粉砕で新たに表面に露出した表面において黒鉛化処理時に縮重合反応、環化反応が進みやすくなるため、黒鉛化度を高めて、より一層熱伝導性を向上させた黒鉛化炭素繊維を得ることができる。一方、紡糸した炭素繊維を黒鉛化した後に粉砕する場合は、黒鉛化後の炭素繊維が剛いため粉砕し易く、短時間の粉砕で比較的繊維長分布の狭い炭素繊維粉末を得ることができる。
【0037】
黒鉛化炭素繊維の繊維直径は、特に限定されないが、好ましくは5〜20μmである。繊維直径は5〜20μmの範囲が工業的に生産しやすく、得られる熱伝導性シートの熱伝導性を大きくすることができる。
黒鉛化炭素繊維の平均繊維長は、上記したとおり、好ましくは10〜500μm、より好ましくは20〜200μmである。また、黒鉛化炭素繊維のアスペクト比は上記したとおり2を超えることが好ましく、より好ましくは5以上である。
黒鉛化炭素繊維の熱伝導率は、特に限定されないが、繊維軸方向における熱伝導率が、好ましくは400W/m・K以上、より好ましくは800W/m・K以上である。
【0038】
異方性充填材は、各熱伝導層において厚さ方向に配向している。異方性充填材の厚さ方向の配向をより具体的に説明すると、熱伝導性シートの厚さ方向に対して繊維軸のなす角度が30°未満の炭素繊維粉末の数の割合が50%を超える状態にあることをいう。
なお、異方性充填材の配向の方向は、熱伝導率を高める観点からは厚み方向に対する繊維軸のなす角度を0°とすることが好ましい。一方、熱伝導性シートを圧縮したときの荷重を低くすることができるという点で、5〜30°の範囲で傾斜させることもできる。
【0039】
<非異方性充填材>
非異方性充填材は、単独で又は異方性充填材とともに熱伝導性シートに含有されうる熱伝導性充填材である。非異方性充填剤及び異方性充填剤の両方が含有されることで、配向した異方性充填材の間の隙間に非異方性充填材が介在し、熱伝導率の高い熱伝導性シートが得られる。
非異方性充填材は、形状に異方性を実質的に有しない充填材であり、後述する磁力線発生下又は剪断力作用下など、異方性充填材が所定の方向に配向する環境下においても、その所定の方向に配向しない充填材である。
【0040】
非異方性充填材は、そのアスペクト比が2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。このようにアスペクト比が低い非異方性充填材が含有されることで、異方性充填材の隙間に熱伝導性を有する充填材が適切に介在され、熱伝導率の高い熱伝導性シートが得られる。また、アスペクト比を2以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0041】
非異方性充填材の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭素材料などが挙げられる。また、非異方性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英など、金属窒化物としては、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムなどを例示することができる。また、金属炭化物としては、炭化ケイ素が挙げられ、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。
これらの中でも、酸化アルミニウムやアルミニウムは、熱伝導率が高く、球状のものが入手しやすい点で好ましく、水酸化アルミニウムは入手し易く熱伝導性シートの難燃性を高めることができる点で好ましい。
【0042】
非異方性充填材は、絶縁性を有するものが好ましく、具体的には、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、金属炭化物を用いることが好ましく、中でも酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0043】
非異方性充填材の平均粒径は0.1〜50μmであることが好ましく、0.5〜35μmであることがより好ましい。また、1〜15μmであることが特に好ましい。平均粒径を50μm以下とすることで、異方性充填材の配向を乱すなどの不具合が生じにくくなる。また、平均粒径を0.1μm以上とすることで、非異方性充填材の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても混合組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材を高充填しやすくなる。
【0044】
非異方性充填剤は、平均粒径が0.1以上15μm以下の小粒径非異方性充填剤と、平均粒径が15μm超100μm以下の大粒径非異方性充填剤とを含んでもよい。小粒径非異方性充填剤及び大粒径非異方性充填剤を併用することにより、非異方性充填剤のシリコーン樹脂への充填量が高くなる。この場合、大粒径非異方性充填剤に対する小粒径非異方性充填剤の質量比は、好ましくは0.5〜5であり、より好ましくは1〜3である。
さらに、上記小粒径非異方性充填剤は、充填量を高める観点から、平均粒径が0.1μm以上3μm以下の第1小粒径非異方性充填剤と、平均粒径が3μm超15μm以下の第2小粒径非異方性充填剤を含むことが好ましい。
【0045】
なお、非異方性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の非異方性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0046】
非異方性充填材の含有量は、シリコーン樹脂100質量部に対して、250〜3000質量部の範囲であることが好ましく、450〜1500質量部の範囲であることがより好ましい。非異方性充填材の含有量は、体積%で表すと、熱伝導性シート全量に対して、30〜88体積%が好ましく、40〜80体積%がより好ましい。
【0047】
非異方性充填剤の含有量は、熱伝導性充填剤として非異方性充填剤を単独で用いる場合と、異方性充填剤と併用する場合とで、適宜調整することが好ましい。
熱伝導性充填剤として、非異方性充填剤を単独で用いる場合は、非異方性充填剤の含有量は、300〜3000質量部の範囲であることが好ましく、500〜1500質量部の範囲であることがより好ましく、850〜1300質量部の範囲であることがさらに好ましい。これら下限値以上であると、熱伝導性シートの熱伝導率が高くなり、これら上限値以下であると、非異方性充填剤の配合量に応じた効果を得ることができる。
非異方性充填剤と異方性充填剤とを併用する場合は、非異方性充填剤の含有量は、シリコーン樹脂100質量部に対して、250〜1000質量部の範囲であることが好ましく、300〜700質量部の範囲であることがより好ましい。非異方性充填剤の含有量がこれら下限値以上であると、異方性充填材同士の隙間に介在する非異方性充填材の量が十分となり、熱伝導性が良好になる。非異方性充填剤の含有量がこれら上限値以下であると、含有量に応じた熱伝導性を高める効果を得ることができ、また、非異方性充填材により異方性充填材による熱伝導を阻害したりすることもない。
【0048】
(添加剤)
本発明の熱伝導性シートにおいて、マトリクスには、さらに熱伝導性シートとしての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を配合させてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、カップリング剤、架橋促進剤、硬化促進剤、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。
【0049】
(熱伝導性シートの物性)
本発明の熱伝導性シートの熱抵抗値は、好ましくは20℃/W以下であり、より好ましくは2℃/W以下であり、さらに好ましくは1℃/W以下であり、特に好ましくは0.65℃/W以下であり、そして通常は0.03℃/W以上である。熱抵抗値がこれら上限値以下であると、熱伝導性シートの熱伝導性が高まり、放熱性が良好になる。また、異方性充填材を含むことで、熱抵抗値を低くすることができ、放熱性が良好になる。上記熱伝導性シートの熱抵抗値は、厚み方向に20%圧縮したときの値であり、詳細には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0050】
熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率は、異方性充填材を含むとき6W/m・K以上とすることが好ましく、上限は特にないが、例えば50W/m・Kである。また、非異方性充填材のみを用いるときは1W/m・K以上とすることが好ましく、上限は特にないが、例えば15W/m・Kである。なお、熱伝導率はASTM D5470−06に準拠した方法で測定するものとする。
【0051】
熱伝導性シートは、日本工業規格であるJIS K6253のタイプE硬度計によって測定されるE硬度で5〜80とすることが好ましい。E硬度を80以下とすることで、発熱体や放熱体の形状への追従性が良好となり、発熱体や放熱体と熱伝導性シートとの密着性が良好となり、熱伝導性が優れたものとなる。また、E硬度が5以上となることで、形状の保持が容易となり、圧縮により異方性充填材の配向が乱れたりして、熱伝導性が低下することを防止する。
【0052】
熱伝導性シートの厚さは特に制限されないが、好ましくは0.05〜5mmであり、より好ましくは0.1〜5mmであり、さらに好ましくは0.15〜3mmである。
【0053】
熱伝導性シートは、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワーアンプ、電源などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。熱伝導性シートは、両表面が、発熱体及び放熱体それぞれに密着し、かつ圧縮して使用される。
【0054】
[熱伝導性シートの製造方法]
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、特に限定されないが、スキン層形成工程と、酸化層形成工程とを含むことが好ましい。以下それぞれの工程について説明する。
【0055】
<スキン層形成工程>
スキン層形成工程は、熱伝導性シートの少なくとも一方の表面にスキン層を形成させる工程である。具体的には、以下の工程(S1)及び(S2)を含む。
(S1)反応硬化型シリコーンと熱伝導性充填剤とを含む混合組成物を準備する工程。
(S2)該混合組成物をシート状にして、該シート状の混合組成物の少なくとも一方の表面を非開放系にして硬化する工程。
後述する酸化層形成工程において、前記(S2)工程において非開放系にして硬化した表面に酸化層を形成する。(S2)工程において、シート状の混合組成物の両面を非開放系にして硬化した場合は、該非開放系にして硬化した両面のうち、少なくとも一方の面に酸化層を形成すればよく、一方の面のみに酸化層を形成させることが好ましい。
【0056】
前記非開放系にして行う硬化とは、シート状の混合組成物の表面を、金属、樹脂フィルム等の部材に接触させた状態で行う硬化であり、これによりスキン層が形成される。上記工程(S2)は、シート状の混合組成物の両面を非開放系にして硬化することが好ましい。具体的には、工程(S2)は、シート形状に対応した中空部が内部に区画された金型を用いて行うことが好ましい。すなわち、上記工程(S1)で準備した混合組成物を、上記金型の中空部に導入し、該金型の中で、混合組成物を硬化させることが好ましい。該硬化は、金型を形成する部材に、混合組成物の両表面が接触した状態で行われるため、両表面にスキン層が形成された熱伝導性シートとなる。また、金型内に、混合組成物の両表面に接触するように、剥離フィルムを配置して硬化させてもよい。
また、工程(S2)の他の具体例としては、2枚の剥離フィルムで前記混合組成物を挟み込んだ状態で、延伸ロールなどで厚さを調整して硬化することもできる。
【0057】
混合組成物が、異方性充填剤を含む場合は、熱伝導性シートの厚み方向に該異方性充填剤を配向させるため、混合組成物を磁場に置き、異方性充填剤を磁場に沿って配向させた後、混合組成物を硬化させることが好ましい。したがって、例えば、上記金型の中空部に導入された混合組成物を磁場により配向させた後、硬化させることが好ましい。
【0058】
磁場配向させるために、混合組成物の粘度は、10〜300Pa・sであることが好ましい。10Pa・s以上とすることで、異方性充填材や非異方性充填材が沈降しにくくなる。また、300Pa・s以下とすることで流動性が良好になり、磁場で異方性充填材が適切に配向され、配向に時間がかかりすぎたりする不具合も生じない。なお、粘度とは、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計DV−E、スピンドルSC4−14)を用いて25℃において、回転速度10rpmで測定された粘度である。
ただし、沈降し難い異方性充填材や非異方性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりする場合には、混合組成物の粘度は、10Pa・s未満としてもよい。また、異方性充填材を配向させる必要がない場合には、特に上限はないが、例えば10〜1000Pa・s以下とすることで、良好な塗布性となる。
【0059】
磁場配向製法において、磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラである。磁束密度を1テスラ以上とすると、炭素材料などからなる上記した異方性充填材を容易に配向させることが可能になる。また、30テスラ以下にすることで、実用的に製造することが可能になる。
【0060】
<酸化層形成工程>
酸化層形成工程は、スキン層の表面に酸化層を形成する工程である。酸化層形成工程は、真空紫外線照射工程を含むことが好ましい。すなわち、酸化層は、真空紫外線(以下、VUVともいう)をスキン層表面に照射することにより形成される。VUVとは、波長が10〜200nmの紫外線を意味する。VUVの光源としては、エキシマXeランプ、エキシマArFランプなどが挙げられる。
VUVを照射すると、VUVが照射されたスキン層表面は活性化され、シリコーン樹脂の一部がシリカになり、酸化層を形成する。
【0061】
VUV照射条件は、1次シートの表面を活性化できる条件であれば特に限定されないが、例えばVUV照射工程における積算光量が25〜3000mJ/cm
2、となるようにVUVを照射するとよい。このような積算光量であると、VUV照射された熱伝導性シート表面は、微粘着面又は非粘着面になる。
熱伝導性シート表面に微粘着面を形成させる場合は、積算光量を25〜800mJ/cm
2とすることが好ましく、50〜600mJ/cm
2とすることがより好ましく、100〜500mJ/cm
2とすることがさらに好ましい。
熱伝導性シート表面に非粘着面を形成させる場合は、積算光量を800mJ/cm
2超とすることが好ましく、1000〜3000mJ/cm
2とすることが好ましい。
【0062】
スキン層形成工程において、熱伝導性シートの両面にスキン層が形成されている場合は、両方のスキン層にVUV照射を行ってもよいが、熱伝導性シートの一方の面を微粘着面又は非粘着面とし、もう一方の面を粘着面とする観点から、一方の面のみにVUV照射を行うことが好ましい。また、VUV照射を行い形成された酸化層の表面は、平滑性が高く、表面についての算術平均高さ(Sa)、算術平均曲(Spc)、及び界面の展開面積比(Sdr)は上記した通りである。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0064】
本実施例では、以下の方法により評価した。
【0065】
[熱抵抗値]
(1)20%圧縮熱抵抗値
熱抵抗値は、
図3に示すような熱抵抗測定機を用い、以下に示す方法で測定した。具体的には、各試料について、本試験用に大きさが10mm×10mmの試験片Sを作製した。そして各試験片Sを、測定面が10mm×10mmで側面が断熱材21で覆われた銅製ブロック22の上に貼付し、上方の銅製ブロック23で挟み、ロードセル26によって荷重をかけて、試験片Sの厚さを20%圧縮した(すなわち、圧縮する前の厚さの80%となる厚さに圧縮した)。ここで、下方の銅製ブロック22はヒーター24と接している。また、上方の銅製ブロック23はファン付きのヒートシンク25に接続されている。次いで、ヒーター24を発熱量25Wで発熱させ、温度が略定常状態となる10分後に、上方の銅製ブロック23の温度(θ
j0)、下方の銅製ブロック22の温度(θ
j1)、及びヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗値を求めた。
熱抵抗=(θ
j1−θ
j0)/Q ・・・ 式(1)
式(1)において、θ
j1は下方の銅製ブロック22の温度、θ
j0は上方の銅製ブロック23の温度、Qは発熱量である。
なお別途、上記熱抵抗測定機を用いて、試験片に20N荷重をかけた際の圧縮率(20N圧縮率)も求めた。
【0066】
[XPS測定]
各実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートの酸化層を備える側の表面、すなわち、VUVを照射した面について、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社製、「PHI 5000 VersaProbe II」)による表面分析を行い、結合エネルギー102eVの強度に対する結合エネルギー104eVの強度[I(104)/I(102)]を求めた。X線源としては、単色化AlKα(12.5W、15kV、ビーム径200μm)を用い、光電子取り出し角90度で測定した。
【0067】
[山頂点の算術平均曲(Spc)、算術平均高さ(Sa)、界面の展開面積比(Sdr)]
各実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートの酸化層を備える側の表面について、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK−X150)を用い、ISO25178に準拠して表面性状解析を行った。具体的には、レンズ倍率10倍で、表面積1000μm×1000μmの二次元領域の表面プロファイルを、レーザー法により測定した。同一サンプルに対して3か所測定したときの平均値を山頂点の算術平均曲Spcとして採用した。
算術平均高さ(Sa)及び界面の展開面積比(Sdr)についても、同様に同一サンプルに対して3か所測定し、これらの平均値をそれぞれ、算術平均高さ(Sa)及び界面の展開面積比(Sdr)とした。
【0068】
[ボールタック値]
ボールタック値の求め方について
図4を用いて説明する。
各実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートを、幅10mm、長さ150mmの寸法に調整して、試験片32とした。試験片よりも大きい平板33(アルミニウム板)を準備して、ボールタック試験の対象とする面が表面になるように、試験片を平板に大きな段差が生じないように貼付した。そして、試験片を貼付した平板を傾斜角αが8°となるように設置した。
次いで、試験片32の上部にポリエチレンテレフタレートフィルム31を貼付して、助走路を形成した。そして、試験片の表面が露出している上端部Qから上方に距離d1(50mm)のポリエチレンテレフタレートフィルム31上のPに鋼球34を置いた後、鋼球34が、助走距離d1(50mm)を通過した時を0秒として、試験片32が露出している上端部Qから、試験片32の下方へ距離d2(50mm)の位置にあるRへ到達する時間t(秒)を測定し、これをボールタック値とした。ボールタック値は、時間tを三回測定して、その相加平均として求めた。
鋼球としては、JIS G 4805に規定する高炭素クロム軸受鋼鋼材のSUJ2の材質で、直径が11mmのものを用いた。
なお、上記以外については、JIS Z0237:2009に準拠して測定を行った。
【0069】
[スキン層の有無、スキン層厚み]
各実施例及び比較例の熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500」)により観察した。
後述する試料1を用いて作製した熱伝導性シートの走査型電子顕微鏡写真の一例を
図5に示した。図中の黒色に見えている箇所(図中のb)は、マトリックスであるシリコーン樹脂であり、白色に見えている箇所(図中のa)は、マトリックス中に分散している熱伝導性充填剤である。図中cは、熱伝導性シートの表面である。該表面は、熱伝導性充填剤の充填割合が他の部分よりも低く、スキン層を有していることが分かる。スキン層の厚さは、表面から熱伝導性シート内部方向へ垂線を引いて、該垂線が熱伝導性充填剤に接触するまでの距離h1(例えば、
図5の左上部分に示されている1.11μmの部分)を求め、次いで、同様に等間隔で合計50か所の垂線を引いて、h1〜h50を求め、この中から、数値の大きい10点を除いて、残り40点の測定値を平均することでスキン層の厚さを求めた。
試料2を用いて作製した熱伝導性シートの走査型電子顕微鏡写真の一例を
図6に示した。該熱伝導性シートも同様に、表面にスキン層を有していることが分かった。
【0070】
(実施例1)
付加反応硬化型シリコーンとして、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部)と、異方性充填材として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K、導電性)120質量部と、非異方性充填剤として酸化アルミニウム粉末1(球状、平均粒径5μm、アスペクト比1.0、絶縁性)500質量部を混合して混合組成物を得た。混合組成物の粘度は、100Pa・sであった。
続いて、所定厚さに設定された金型内の上下面に剥離フィルムを配置したうえで、上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して黒鉛化炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することで付加反応硬化型シリコーンを硬化し、厚さ0.5mmのシート状の試料1を得た。試料1は、シリコーン樹脂からなるマトリックスと熱伝導性充填剤とを含むシートであり、両表面はスキン層が形成されており、粘着性を有していた。試料1の組成を表1に示した。
シート状の試料1の一方の表面に対して、VUV照射装置(商品名エキシマMINI、浜松ホトニクス社製)を用いて、室温(25℃)、大気中で積算光量29mJ/cm
2の条件でVUVを照射して、熱伝導性シートを作製した。
【0071】
(実施例2〜7)
VUV照射の積算光量を表2のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シートを作製した。
【0072】
(比較例1)
VUV照射を行わなかった以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0073】
(実施例8)
付加反応硬化型シリコーンとして、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部)と、非異方性充填剤として酸化アルミニウム粉末1(球状、平均粒径5μm、アスペクト比1.0、絶縁性)400質量部、酸化アルミニウム粉末2(球状、平均粒径1μm、アスペクト比1.0、絶縁性)200質量部、酸化アルミニウム粉末3(球状、平均粒径40μm、アスペクト比1.0、絶縁性)320質量部を混合して混合組成物を得た。混合組成物の粘度は、60Pa・sであった。
続いて、一対の剥離フィルムに、上記混合組成物を挟み込み、延伸ロールで混合組成物の厚さが0.5mmになるように延伸した。その後、80℃で60分間加熱することで付加反応硬化型シリコーンを硬化し、厚さ0.5mmのシート状の試料2を得た。試料2は、シリコーン樹脂からなるマトリックスと熱伝導性充填剤とを含むシートであり、両表面はスキン層が形成されており、粘着性を有していた。試料2の組成を表2に示した。
シート状の試料2の一方の表面に対して、VUV照射装置(商品名エキシマMINI、浜松ホトニクス社製)を用いて、室温(25℃)、大気中で積算光量430mJ/cm
2の条件でVUVを照射して、熱伝導性シートを作製した。
【0074】
(比較例2)
VUV照射を行わなかった以外は、実施例8と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
各実施例で製造された熱伝導性シートは、スキン層を有しているため熱伝導性充填剤の脱落が生じ難いことが分かった。さらに、XPS分析の結果より、VUV照射をした面には酸化層が形成されており、かつ酸化層の形成に伴い、粘着性が低下していくことが分かった。各実施例の熱伝導性シートの一方の面(VUVを照射した面)は微粘着面又は非粘着面で、他方の面(VUVを照射しない面)は粘着面であることにより、本発明の熱伝導性シートは、電子機器に組み付けるときに摺動させやすいものであった。
【0078】
また、各実施例の熱伝導性シートの酸化層側の表面のSa、Spc、及びSdrは、比較例の熱伝導性シートよりも低く、平滑性に優れていた。熱伝導性シートの平滑性が優れることにより、発熱体や放熱体などの被着体の表面が平滑である場合には、熱伝導性シート及び被着体との密着性が優れ、効率的な放熱が可能となる。
【0079】
また、各実施例の熱伝導性シートは、20%圧縮熱抵抗値については、比較例と比較してもほとんど変化がなく、熱伝導性は良好に維持されている。したがって、実施例1〜3、8の熱伝導性シートは、一方の表面を微面着面にしつつ、もう一方の面を粘着面とすることにより、熱伝導性充填剤の脱落を防止しつつ、適度な摺動性を有し、かつ熱伝導性も良好に維持される。この場合、熱伝導性シートの一方の面が微面着面であることにより、電子機器の発熱体及び放熱体に取り付ける際には、適度な摺動性を発揮して所望の位置に取り付けやすくなり、取り付け後には位置ずれが生じにくくなる。また、さらにその後に電子機器の発熱体から放熱体を取り外すとき、必ず粘着面を付着させた一方に付着した状態で取り外すことができるため、交換や修理がしやすい。
一方、実施例4〜7に示されているように、VUVの積算光量が高く、非粘着面(ボールタック値が1未満)が形成されている場合は、一方の面が非粘着面であることと、該非粘着面の平滑性が高いことにより、より摺動性に優れた熱伝導性シートとなる。このような優れた摺動性は、熱伝導性シートを圧縮した状態で摺動させる用途に有用である。
これに対して、比較例1及び2の熱伝導性シートは、両面が粘着面であるため、摺動性に劣る熱伝導性シートであった。
本発明は、シリコーン樹脂からなるマトリックスと、熱伝導性充填剤とを含む熱伝導性シートであって、前記シートは表面にスキン層を備え、前記スキン層の表面に酸化層を備える熱伝導性シートである。本発明によれば、熱伝導性充填剤の脱落を防止すると共に、摺動性も良好な熱伝導性シートを提供することができる。