(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線方向に互いに相対的に移動可能な筒部及び軸部を有し、外力により当該軸部が前記筒部に対して移動するのに伴って反力を発生させるダンパのモニタリング装置であって、
前記筒部の外周面に一体に設けられ、描かれた画像が記録される記録部と、
前記軸部に一体に連結されるとともに、前記筒部に沿って配置された描画部を有し、前記筒部に対する前記描画部の移動の軌跡を前記記録部に描くための描画機構と、
を備え、
前記ダンパは、前記軸部としてのねじ軸とともにボールねじを構成するナットが、前記筒部としての円筒状の回転マスに同軸状に連結され、前記ねじ軸が前記ナットに対して軸線方向に移動するのに伴い、前記回転マスが前記ナットと一体に前記ねじ軸に対して回転するように構成された回転慣性質量ダンパであり、
前記記録部は、前記回転マスの外周面において、その周方向の全体に巻き付けられた状態で取り付けられており、
前記描画部は、タッチペンで構成されており、
前記記録部は、前記タッチペンで描かれた画像を記録可能なタッチパネルで構成されていることを特徴とするダンパのモニタリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態によるモニタリング装置を、これが適用された回転慣性質量ダンパ21とともに概略的に示している。なお、
図1では便宜上、一部の構成要素の符号の図示を省略している。回転慣性質量ダンパ21は、本出願人が提案した特願2012−158921号に開示されたものと同様に構成されているため、まず、回転慣性質量ダンパ21について簡単に説明する。
【0031】
図1及び
図2に示すように、回転慣性質量ダンパ21は、内筒22、ボールねじ23、回転マス24、及び制限機構25を有している。内筒22は、円筒状の鋼材で構成されている。内筒22の一端部は開口しており、他端部は、回転慣性質量ダンパ21の発生するトルクでは回転しない程度の摩擦を有する自在継手UJを介して、第1フランジ26に取り付けられている。なお、
図2では便宜上、モニタリング装置の図示を省略している。
【0032】
また、ボールねじ23は、ねじ軸23aと、ねじ軸23aに多数のボール23bを介して螺合するナット23cを有している。ねじ軸23aの一端部は、上述した内筒22の開口に収容されており、ねじ軸23aの他端部は、回転慣性質量ダンパ21の発生するトルクでは回転しない程度の摩擦を有する自在継手UJを介して、第2フランジ27に取り付けられている。また、ナット23cは、軸受け28を介して内筒22に、軸線方向に移動不能にかつ回転自在に支持されている。
【0033】
回転マス24は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、回転マス24は、内筒22と、ボールねじ23の内筒22側の部分を覆った状態で、軸受け29を介して内筒22に回転自在に支持されており、前記制限機構25を介して、ナット23cに同軸状に連結されている。回転マス24と内筒22の間には、一対のリング状のシール材30、30が設けられている。これらのシール材30、30、回転マス24及び内筒22によって形成された空間には、シリコンオイルで構成された粘性体31が充填されている。
【0034】
以上のように構成された回転慣性質量ダンパ21では、内筒22及びナット23cとねじ軸23aとの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ23で回転運動に変換された状態で、制限機構25を介して回転マス24に伝達されることによって、回転マス24がナット23cと一体に、内筒22に対して回転する。回転マス24の回転は、内筒22と回転マス24の間の粘性体31によって減衰させられる。以下、このように内筒22及びねじ軸23aの間の相対変位を回転マス24の回転運動に変換する回転慣性質量ダンパ21の動作を、「回転慣性質量ダンパ21の回転変換動作」という。
【0035】
制限機構25は、この回転慣性質量ダンパ21の回転変換動作を制限するものであり、複数の回転滑り材25a、ねじ25b及びばね25c(2つのみ図示)で構成されている。回転滑り材25aは、回転マス24とナット23cとの間に配置されており、回転滑り材25aが配置された回転マス24の部分には、複数のばね収容孔24aが形成されている。これらのばね収容孔24aは、周方向に等間隔に配置されており、径方向に貫通している。各ばね収容孔24aには、ねじ25bがねじ込まれるとともに、ねじ25bと回転滑り材25aの間に、ばね25cが収容されている。
【0036】
以上の構成により、ねじ25bを強く締め付けると、回転滑り材25aがばね25cの付勢力でナット23cに強く押し付けられることによって、回転マス24は、回転滑り材25aを介してナット23cに一体に連結された状態になる。
【0037】
また、この状態からねじ25bを緩めると、その締付度合が低くなり、回転慣性質量ダンパ21の軸線方向に作用する荷重(以下「軸荷重」という)が、ねじ25bの締付度合に応じて定まる所定の制限荷重に達するまでは、回転マス24がナット23cと一体に回転する。一方、回転慣性質量ダンパ21の軸荷重が制限荷重に達すると、回転滑り材25aとナット23c又は回転マス24との間に滑りが発生することによって、ナット23cと回転マス24の間のトルクの伝達が制限される結果、回転慣性質量ダンパ21の回転変換動作が制限される。この状態では、回転滑り材25aとナット23c又は回転マス24との間に発生する摩擦抵抗によって、回転慣性質量ダンパ21の回転変換動作の制限により低下した回転マス24の回転慣性質量による慣性力が補われる。
【0038】
回転慣性質量ダンパ21は、例えば、
図1に示す居住用や商用などの高層の建築物Bに適用され、建築物Bの下梁BD及び上梁BUに、内筒22及びねじ軸23aがそれぞれ連結される。この場合には、第1フランジ26が、下梁BDから上方に若干、延びる第1連結部材EN1に取り付けられ、第2フランジ27が、上梁BUから下方に延びるV字ブレース状の第2連結部材EN2に取り付けられており、回転慣性質量ダンパ21は、上下の梁BU、BDの間に水平に延びている。
【0039】
建築物Bの振動に伴う上下の梁BU、BDの間の水平方向の相対変位は、回転慣性質量ダンパ21に伝達され、それにより、ねじ軸23aが、内筒22、ナット23c及び回転マス24に対して軸線方向に移動すると(回転慣性質量ダンパ21が伸縮すると)、それに伴い、上述したように回転マス24がナット23cと一体に回転する。その結果、回転マス24の回転慣性質量による慣性力が発生し、それにより上下の梁BU、BDの間の相対変位が抑制され、ひいては、建築物Bの振動が抑制される。
【0040】
建築物Bの振動の仕方によっては、入力される上下の梁BU、BDの間の相対変位が、回転慣性質量ダンパ21の軸線方向と完全に一致せずに、軸線方向に対して斜めになる場合がある。その場合には、第1フランジ26及び自在継手UJが内筒22に対して回動したり、第2フランジ27及び自在継手UJがねじ軸23aに対して回動したりすることにより、上下の梁BU、BDの間の相対変位のうちの軸線方向の成分のみが、内筒22及びねじ軸23aに伝達される。
【0041】
また、建築物Bの振動が大きくなり、それにより回転慣性質量ダンパ21の軸荷重が前述した制限荷重に達すると、制限機構25によって、ナット23cと回転マス24の間のトルクの伝達が制限される結果、回転慣性質量ダンパ21の回転変換動作が制限され、ひいては、回転慣性質量ダンパ21の軸荷重が制限荷重以下に制限される。
【0042】
なお、回転慣性質量ダンパ21を、上下の梁BU、BDに、その上下方向の相対変位を抑制するように連結してもよく、また、建築物Bの他の適当な2つの部位に連結してもよいことは、もちろんである。さらに、他の適当な構造物、例えば橋梁や鉄塔などに適用される回転慣性質量ダンパに、本発明によるモニタリング装置を適用してもよい。また、本発明によるモニタリング装置を、回転慣性質量ダンパの性能を試験するための試験装置に設けられた回転慣性質量ダンパに適用してもよいことは、もちろんである。
【0043】
次に、
図1及び
図3〜
図9を参照しながら、第1実施形態によるモニタリング装置について説明する。
図1及び
図3に示すように、モニタリング装置は、回転慣性質量ダンパ21の回転マス24の外周面に巻き付けられた記録シート1と、ねじ軸23aに一体に連結された描画機構2を備えている。
【0044】
記録シート1は、例えば、紙材から成るシート材で構成されており、その幅が、回転マス24に対するねじ軸23aの可動範囲よりも大きく、かつ、回転マス24の軸線方向の長さよりも小さい所定値に、設定されている。記録シート1には、回転マス24の周方向に互いに平行に延びる複数の罫線と回転マス24の軸線方向に互いに平行に延びる複数の罫線とから成る格子状の罫線が描かれている。
【0045】
また、記録シート1は、回転マス24の外周面に、その周方向の全体に巻き付けられた状態で両面テープなどを用いて取り付けられており、回転マス24の軸線方向の中央部に配置されている。なお、回転マス24に記録シート1を他の適当な手法で取り付けてもよいことは、もちろんである。例えば、回転マスの外周面に、記録シートを取り付けるための複数のねじ穴(図示せず)を形成するとともに、記録シートに、これらのねじ穴に対応する挿入孔を形成し、記録シートを、回転マスの外周面に巻き付けた状態で、ねじ(図示せず)をその挿入孔を介して回転マスのねじ穴にねじ込むことによって、取り付けてもよい。
【0046】
上記の描画機構2は、互いに一体の基部3及び支持部4と、支持部4に設けられた鉛筆5を有している。基部3及び支持部4は、比較的高い剛性を有する板状の金属材で構成されており、全体としてL字状に形成されている。また、基部3の一端部(支持部4と反対側の端部)は、一対の連結金具6、6(
図3及び
図7には一方のみ図示)を介して、ねじ軸23aに一体に連結されている。
【0047】
これらの連結金具6、6の各々は、矩形状の金属板で構成され、
図4に示すように、その中央部に設けられた係合部6aと、係合部6aの両側にそれぞれ設けられた第1ねじ止め部6b及び第2ねじ止め部6cを一体に有している。一対の連結金具6、6の係合部6a、6aは、その厚さ方向に互いに反対方向に円弧状に凸に湾曲しており、各連結金具6の第1ねじ止め部6bには1つの挿入孔(図示せず)が、第2ねじ止め部6cには2つの挿入孔(図示せず)が、それぞれ形成されている。また、基部3の一端部には、第2ねじ止め部6cの挿入孔に対応する2つの挿入孔が形成されている。
【0048】
一対の連結金具6、6の係合部6a、6aの間には、ねじ軸23aが挟み込まれており、ねじ軸23aの外周面は、各係合部6aの内側の湾曲面に接触している。また、第1ねじ止め部6b、6bの間には、円環状のスペーサ7がその軸線方向に挟み込まれており、第2ねじ止め部6c、6cの間には、基部3の一端部がその厚さ方向に挟み込まれている。スペーサ7の長さは、基部3の厚さと同じ大きさに設定されている。また、各第1ねじ止め部6bの挿入孔及びスペーサ7の孔は互いに連続しており、これらの挿入孔及びスペーサ7の孔には、ねじ8が挿入されている。さらに、各第2ねじ止め部6cの2つの挿入孔及びこれらに対応する基部3の2つの挿入孔は、それぞれ互いに連続しており、各挿入孔には、ねじ8が挿入されている。これらのねじ8、8、8の各々には、ナット9が強固に締め付けられている。
【0049】
以上の構成により、基部3の一端部及びねじ軸23aが一対の連結金具6、6で強固に挟み込まれることによって、基部3は、ねじ軸23aに一体に連結されており、ねじ軸23aからその径方向の外方に延びている。また、基部3は、連結金具6、6を介して、自在継手UJが設けられたねじ軸23aの他端部よりも回転マス24側のねじ軸23aの部分に連結されている。さらに、基部3及び連結金具6、6は、ねじ軸23aがナット23c及び回転マス24に対して軸線方向に移動しているときにナット23c及び回転マス24と干渉しない位置に、配置されている。また、上述した構成から明らかなように、基部3を含む描画機構2は、ねじ8をナット9に締め付けたり緩めたりするだけで、ねじ軸23aに容易に着脱可能である。
【0050】
また、前記支持部4は、基部3の他端部から回転慣性質量ダンパ21の軸線方向に延び、回転マス24に沿って延びている。
図3、
図5及び
図6に示すように、支持部4の一端部(基部3と反対側の端部)には、ホルダ10が一体に設けられている。ホルダ10は、回転マス24の径方向に延びる円筒状の周壁10aと、回転マス24と反対側の周壁10aの端部に一体に設けられた円板状の底壁10bを有しており、これらの周壁10a及び底壁10bによって収容穴10cが画成されている。収容穴10cには、圧縮コイルばね11が設けられており、圧縮コイルばね11の一端部は、底壁10bに取り付けられ、圧縮コイルばね11の他端部には、鍔付きの円環状の座金11aが取り付けられている。
【0051】
鉛筆5は、木材で構成された円柱状の軸部5aと、黒鉛などの顔料で構成され、軸部5a内に一体に設けられた芯5bを有している。軸部5a及び芯5bの一端部は、円錐状に削られており、円錐状の芯5bが軸部5aから突出している。また、鉛筆5は、回転マス24の径方向に延び、その一端部以外の大部分が上記の収容穴10cに収容されている。軸部5aから突出した芯5bは、記録シート1に接触しており、軸部5aの他端部は、上記の座金11aに接触している。また、圧縮コイルばね11は鉛筆5で圧縮された状態にあって、鉛筆5は、圧縮コイルばね11で記録シート1側に付勢されており、芯5bが記録シート1に押しつけられている。回転慣性質量ダンパ21が伸縮しておらず、ねじ軸23aが内筒22及びナット23cに対して所定の中立位置に位置しているときには、鉛筆5は、記録シート1の幅方向(回転マス24の軸線方向)の中央に位置している。
【0052】
以上により、第1実施形態によれば、例えば建築物Bの振動による上下の梁BU、BDの間の相対変位が回転慣性質量ダンパ21に伝達されることによって、
図7に示すように、ねじ軸23aが内筒22及び回転マス24に対して軸線方向に移動し、それに伴って回転マス24が回転すると(同図の太い矢印参照)、描画機構2の鉛筆5は、回転マス24の任意の一点に対して、ねじ軸23aと一体に軸線方向に移動するとともに、周方向に移動する。
【0053】
図7に示すように、回転マス24に対する鉛筆5の移動の軌跡は、前記制限機構25が作動していない場合にはボールねじ23と同じピッチ及びリード角で螺線状になり、記録シート1に描かれるとともに記録される。また、このような鉛筆5の移動の軌跡は、回転慣性質量ダンパ21に入力される振動の種類(調和振動や不規則な地震動)にかかわらず、常に発生する。記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡は、ねじ軸23aの移動状態と回転マス24の回転状態を互いに関連づけて適切に表すため、これを用いて、ねじ軸23aの移動状態及び回転マス24の回転状態を含む回転慣性質量ダンパ21の動作状態を適切にモニタリングすることが可能になる。
【0054】
例えば、異物がねじ軸23aとナット23cの間に入り込むなどの異常が回転慣性質量ダンパ21に発生し、それにより、ねじ軸23aがナット23cに対して移動しにくくなったときには、正常な場合と比較して、回転マス24に対する鉛筆5の軸線方向の移動量は小さくなり、また、回転マス24も回転しにくくなるため、回転マス24に対する鉛筆5の周方向の移動量も小さくなる。また、例えば、ボールねじ23や制限機構25の異常により、ねじ軸23aの軸線方向の移動に対する回転マス24の回転量が小さくなったときには、正常な場合と比較して、回転マス24に対する鉛筆5の周方向の移動量は小さくなる。
【0055】
なお、記録シート1は、建築物Bの振動が停止した後に、回転マス24から取り外され、再度、回転慣性質量ダンパ21の動作状態をモニタリングする場合には、白紙の新しい記録シート1が、回転マス24に前述したようにして取り付けられる。あるいは、記録シート1を回転マス24に何重にも巻き付けた状態で取り付けておき、建築物Bの振動が停止した後に、巻き付けた記録シート1のうちの回転マス24の1回転分を回転マス24から取り外し、これを用いて回転慣性質量ダンパ21の動作状態をモニタリングしてもよい。
【0056】
また、第1実施形態によれば、ねじ軸23aの回転マス24と反対側の端部に、自在継手UJが設けられており、描画機構2の基部3は、自在継手UJが設けられたねじ軸23aの端部よりも回転マス24側の部分に一体に連結されている。建築物Bの振動に伴って前述したように自在継手UJがねじ軸23a及び回転マス24に対して回動するような場合でも、この構成により、回転マス24に対する鉛筆5の移動の軌跡を記録シート1に適切に描くことができ、ひいては、上述した効果、すなわち、記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡を用いて回転慣性質量ダンパ21の動作状態を適切にモニタリングすることが可能になるという効果を、有効に得ることができる。
【0057】
さらに、紙材を含むシート材及び鉛筆5を用いて記録シート1及び描画機構2をそれぞれ構成するので、モニタリング装置を比較的安価に製造することができる。また、圧縮コイルばね11によって鉛筆5が記録シート1側に付勢されており、それにより、鉛筆5の芯5bが記録シート1に押しつけられている。このため、回転慣性質量ダンパ21のねじ軸23aが、外力により回転マス24に対して移動するのに伴って振動するような場合でも、鉛筆5の芯5bが記録シート1から離れるのを防止し、回転マス24に対する鉛筆5の移動の軌跡を、記録シート1に、芯5bを適切に接触させた状態で描くことができる。
【0058】
さらに、記録シート1に、回転マス24の周方向に互いに平行に延びる複数の罫線と回転マス24の軸線方向に互いに平行に延びる複数の罫線とから成る格子状の罫線が描かれている。このため、上述したように記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡を用いて回転慣性質量ダンパ21の動作状態をモニタリングするにあたり、上記の格子状の罫線を目盛りとして、ねじ軸23aの移動状態及び回転マス24の回転状態を容易にかつより適切にモニタリングすることが可能になる。
【0059】
また、制限機構25が回転慣性質量ダンパ21に設けられており、回転慣性質量ダンパ21の軸荷重が所定の制限荷重に達することで制限機構25が作動した場合には、回転マス24とナット23cの間のトルクの伝達が制限される。このため、制限機構25が作動した場合には、外力によるねじ軸23aの軸線方向の移動量に対する回転マス24の回転量は、制限機構25が作動していない場合よりも大きくなったり、小さくなったりする。
【0060】
その結果、制限機構25が作動した場合の回転マス24に対する鉛筆5の移動の軌跡TLは、制限機構25が作動していない場合と同様に螺線状の軌跡を描くものの、
図8に示すように、制限機構25が作動していない場合の回転マス24に対する鉛筆5の移動の軌跡TNに対して、若干の角度をもってずれ、両者TL、TNによってレ点状の軌跡が表れる。作動した制限機構25が作動しなくなると、回転マス24に対する鉛筆5の移動の軌跡は元の状態に戻るので、上記のレ点状の軌跡は、非作動状態の制限機構25が作動する度に表れる。
【0061】
したがって、記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡を用いて、制限機構25の作動の有無を適切にモニタリングすることが可能になり、上記のレ点状の軌跡の数から制限機構25の作動回数を把握できるとともに、記録シート1上のレ点状の軌跡の位置に基づいて、制限機構25が作動したタイミングを、ねじ軸23aのストロークに関連づけて把握することができる。なお、
図8では理解の容易化のために、制限機構25が作動した場合の回転マス24に対する鉛筆5の移動の軌跡TLを、一点鎖線で示している。
【0062】
さらに、例えば、
図1に示すように建築物Bに設けられた回転慣性質量ダンパ21にモニタリング装置を適用した場合には、回転慣性質量ダンパ21が正常であるときに、記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡を用いて、上下の梁BU、BDから回転慣性質量ダンパ21に入力された相対変位の最大値を、容易に把握することができる。
【0063】
具体的には、
図9に示すように、建築物Bの振動前に芯5bが接触していた記録シート1の部分SPと、建築物Bの振動中に記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡の一端(ねじ軸23a側の端)EP1との間の記録シート1の幅方向(回転マス24の軸線方向)の直線距離が、回転慣性質量ダンパ21が伸びる方向に入力された相対変位の最大値δMAX1に相当する。また、建築物Bの振動前に芯5bが接触していた記録シート1の部分SPと、建築物Bの振動中に記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡の他端(内筒22側の端)EP2との間の記録シート1の幅方向の直線距離が、回転慣性質量ダンパ21が縮む方向に入力された相対変位の最大値δMAX2に相当する。なお、
図9では便宜上、記録シート1の格子状の罫線を省略するとともに、SP、EP1及びEP2を黒丸で示している。
【0064】
次に、
図10を参照しながら、本発明の第2実施形態によるモニタリング装置について説明する。このモニタリング装置は、第1実施形態と比較して、回転慣性質量ダンパ21ではなく、粘性ダンパ41に適用したものである。
図10において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0065】
粘性ダンパ41は、一般的なシリンダタイプのものであり、円筒状のシリンダ42と、シリンダ42内に軸線方向に移動自在に設けられ、シリンダ42内を2つの流体室に区画するピストンと、これらの流体室に充填された粘性体(いずれも図示せず)と、ピストンと一体のピストンロッド43を備えている。ピストンには、2つの流体室を連通させるためのオリフィスやリリーフ弁が設けられている。なお、シリンダ42の形状は、円筒状に限らず、他の適当な形状、例えば角筒状でもよい。
【0066】
また、シリンダ42の一端部(ピストンロッド43と反対側の端部)、及びピストンロッド43の一端部(シリンダ42と反対側の端部)の各々には、クレビス継手CJが一体に設けられている。シリンダ42及びピストンロッド43は、クレビス継手CJを介して、例えば、第1実施形態の回転慣性質量ダンパ21と同様に建築物Bの下梁BD及び上梁BUにそれぞれ連結される(便宜上、図示省略。
図1参照)。
【0067】
粘性ダンパ41では、建築物Bの振動に伴う上下の梁BU、BDの間の相対変位が伝達され、それにより、ピストンロッド43が、ピストンとともにシリンダ42に対して軸線方向に移動すると(粘性ダンパ41が伸縮すると)、それに伴い、2つの流体室の間の粘性体の圧力差に応じた減衰力が発生し、それにより上下の梁BU、BDの間の相対変位が抑制され、ひいては、建築物Bの振動が抑制される。クレビス継手CJがシリンダ42及びピストンロッド43にそれぞれ設けられているのは、第1実施形態の自在継手UJと同じ理由による。
【0068】
第2実施形態によるモニタリング装置では、その記録シート1の幅は、シリンダ42に対するピストンロッド43の可動範囲よりも大きく、かつ、シリンダ42の軸線方向の長さよりも小さい所定値に、設定されている。また、記録シート1は、シリンダ42の外周面に、巻き付けられた状態で両面テープなどを用いて取り付けられており、シリンダ42のピストンロッド43側の部分に配置されている。なお、シリンダ42は、回転マス24とは異なり、ピストンロッド43に対して回転しない。このため、記録シート1は、シリンダ42の周方向の全体に巻き付けられておらず、部分的に巻き付けられている。また、記録シート1には、シリンダ42の周方向に互いに平行に延びる複数の罫線とシリンダ42の軸線方向に互いに平行に延びる複数の罫線とから成る格子状の罫線が描かれている。
【0069】
描画機構2の基部3の一端部は、第1実施形態の場合と同様、一対の連結金具6、6(一方のみ図示)を介して、ピストンロッド43に一体に連結されており、連結金具6、6は、クレビス継手CJが設けられたピストンロッド43の一端部よりもシリンダ42側のピストンロッド43の部分に設けられている。また、基部3は、ピストンロッド43からその径方向の外方に延びており、描画機構2の支持部4は、基部3の他端部から粘性ダンパ41の軸線方向に延び、シリンダ42に沿って延びている。
【0070】
さらに、支持部4の一端部に一体に設けられたホルダ10と、ホルダ10に収容された鉛筆5は、シリンダ42の径方向に延びている。また、鉛筆5は、第1実施形態と同様、圧縮コイルばね11(
図5参照)で記録シート1側に付勢されており、その芯5bが記録シート1に押しつけられている。粘性ダンパ41が伸縮しておらず、ピストンロッド43及びピストンがシリンダ42に対して所定の中立位置に位置しているときには、鉛筆5は、記録シート1の幅方向(シリンダ42の軸線方向)の中央に位置している。
【0071】
以上により、第2実施形態によれば、例えば建築物Bの振動による上下の梁BU、BDの間の相対変位が粘性ダンパ41に伝達されることによって、ピストンロッド43がシリンダ42に対して軸線方向に移動すると、描画機構2の鉛筆5は、シリンダ42に対して、ピストンロッド43と一体に軸線方向に移動する。シリンダ42に対する鉛筆5の移動の軌跡は、直線状になり、記録シート1に描かれるとともに記録される。シリンダ42に対する鉛筆5の移動の軌跡は、シリンダ42に対するピストンロッド43の移動状態を適切に表すため、これを用いて、ピストンロッド43の移動状態を含む粘性ダンパ41の動作状態を適切にモニタリングすることが可能になる。
【0072】
例えば、異物がピストンのオリフィスに入り込むなどの異常が粘性ダンパ41に発生し、それにより、ピストンロッド43がシリンダ42に対して移動しにくくなったときには、正常な場合と比較して、シリンダ42に対する鉛筆5の移動量も小さくなる。なお、記録シート1は、建築物Bの振動が停止した後に、シリンダ42から取り外され、再度、粘性ダンパ41をモニタリングする場合には、白紙の新しい記録シート1が、シリンダ42に前述したようにして取り付けられる。
【0073】
また、第2実施形態によれば、ピストンロッド43のシリンダ42と反対側の端部に、クレビス継手CJが設けられており、描画機構2の基部3は、クレビス継手CJが設けられたピストンロッド43の端部よりもシリンダ42側の部分に一体に連結されている。建築物Bの振動に伴って自在継手UJと同様にクレビス継手CJがピストンロッド43及びシリンダ42に対して回動するような場合でも、この構成により、シリンダ42に対する鉛筆5の移動の軌跡を記録シート1に適切に描くことができ、ひいては、上述した効果、すなわち、記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡を用いて粘性ダンパ41の動作状態を適切にモニタリングすることが可能になるという効果を、有効に得ることができる。
【0074】
さらに、第1実施形態の場合と同様、紙材を含むシート材及び鉛筆5を用いて記録シート1及び描画機構2をそれぞれ構成するので、モニタリング装置を比較的安価に製造することができる。また、圧縮コイルばね11で鉛筆5が記録シート1側に付勢されることによって、鉛筆5の芯5bが記録シート1に押しつけられている。このため、粘性ダンパ41のピストンロッド43が、外力によりシリンダ42に対して移動するのに伴って振動するような場合でも、鉛筆5の芯5bが記録シート1から離れるのを防止し、シリンダ42に対する鉛筆5の移動の軌跡を、記録シート1に、芯5bを適切に接触させた状態で描くことができる。
【0075】
さらに、記録シート1に、シリンダ42の周方向に互いに平行に延びる複数の罫線とシリンダ42の軸線方向に互いに平行に延びる複数の罫線とから成る格子状の罫線が描かれている。このため、上述したように記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡を用いて粘性ダンパ41の動作状態をモニタリングするにあたり、上記の格子状の罫線を目盛りとして、ピストンロッド43の移動状態を容易にかつより適切にモニタリングすることが可能になる。
【0076】
また、例えば、建築物Bに設けられた粘性ダンパ41にモニタリング装置を適用した場合には、粘性ダンパ41が正常であるときに、第1実施形態で説明したように、記録シート1に描かれた鉛筆5の移動の軌跡を用いて、上下の梁BU、BDから粘性ダンパ41に入力された相対変位の最大値を、容易に把握することができる。
【0077】
なお、本発明は、説明した第1及び第2実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、基部3をねじ軸23a(ピストンロッド43)に、連結金具6、6を用いて連結しているが、他の適当な手法で連結してもよく、例えば溶接で連結してもよい。また、実施形態では、基部3及び支持部4を一体に構成しているが、別体に構成し、一体に連結してもよい。さらに、実施形態では、鉛筆5は、支持部4と別体であるが、支持部4と一体化してもよい。また、実施形態では、記録シート1に、格子状の罫線が描かれているが、描かれていなくてもよい。
【0078】
さらに、実施形態では、記録シート1を、紙材で構成しているが、鉛筆5の芯5bの顔料が付着可能な他の適当なシート材、例えば、樹脂を紙材にラミネート加工したシート材や、布材、木製のシート材などで構成してもよい。また、実施形態では、本発明における描画部として、鉛筆5を用いているが、その移動の軌跡を記録部に接触した状態で描くように構成された他の適当な描画部、例えば、油性ペンや水性ペンなどを用いてもよい。その場合、本発明における記録部として、記録シート1や上述したようなシート材だけでなく、金属製のシート材や、樹脂製のシート材、樹脂を紙材や布材などにラミネート加工したシート材などを用いてもよい。
【0079】
また、上述したように記録部として樹脂製又は金属製のシート材を用いる場合には、描画部として、先端に鋭利な突起部を有する軸部材を用いるとともに、この突起部で記録部に傷をつけることによって、筒部(回転マス24、シリンダ42)に対する軸部(ねじ軸23a、ピストンロッド43)の移動の軌跡を記録部に描いて記録するようにしてもよい。
【0080】
あるいは、記録部として感圧紙を含むシート材を用い、描画部として、先端に突起部を有する軸部材を用いるとともに、この突起部でシート材を押圧することによって、筒部に対する軸部の移動の軌跡を記録部に描いて記録するようにしてもよい。
【0081】
あるいは、描画部としてタッチペンを用いるとともに、記録部を、タッチペンで描かれた画像を表示して記録可能なタッチパネルを用いて構成してもよい。この場合、タッチパネルとしては、抵抗膜式や、静電容量式、電磁誘導式のものなど、任意のものを採用でき、タッチパネルに見合ったタッチペンが採用される。また、この場合、タッチパネルを、描かれたタッチペンの移動の軌跡を所定時間ごとに又は軸部の所定ストロークごとに分割して表示できるように、構成してもよい。
【0082】
あるいは、記録部を、上記のタッチパネル又は画像表示機能を有さないタッチパネル(タッチパッド、ペンタブレット)で構成するとともに、外部のコンピュータなどに無線又は有線で接続し、記録部に描かれたタッチペンの移動の軌跡を、上記のように分割してモニターに表示したり、プリンタでプリントしたりしてもよい。上述したように記録部を無線で外部のコンピュータに接続する場合には、複数のダンパ(回転慣性質量ダンパ21、粘性ダンパ41)の動作状態をコンピュータで一括してモニタリングすることが可能になる。また、上述したような軸部材やタッチペンを用いて描画部を構成する場合にも、これらを記録部側に付勢する付勢手段を設けてもよいことは、もちろんである。
【0083】
あるいは、描画部として、インクジェットプリンタのようにインクを噴射して描画するように構成されたものや、レーザーマーカのようにレーザを照射して描画するように構成されたものを用いてもよい。そのように構成された描画部を用いる場合には、ダンパの作動中に限って、インクの噴射やレーザの照射が行われるように、描画部を構成するのが好ましい。
【0084】
さらに、実施形態では、記録部としての記録シート1を、筒部としての回転マス24(シリンダ42)に直接、取り付けているが、適当な部材を介して取り付けてもよい。また、実施形態では、本発明における付勢手段として、圧縮コイルばね11を用いているが、描画部を付勢可能な他の適当な手段、例えばゴムなどを用いてもよいことは、もちろんである。あるいは、付勢手段を省略してもよい。
【0085】
さらに、第1実施形態で説明した回転慣性質量ダンパ21は、あくまで一例であり、ねじ軸とともにボールねじを構成するナットが円筒状の回転マスに同軸状に連結され、ねじ軸がナットに対して軸線方向に移動するのに伴い、回転マスがナットと一体にねじ軸に対して回転するように構成された他の適当な回転慣性質量ダンパに、本発明によるモニタリング装置を適用してもよいことは、もちろんである。
【0086】
例えば、本発明によるモニタリング装置を、自在継手UJが設けられていない回転慣性質量ダンパや、制限機構25が設けられていない回転慣性質量ダンパに適用してもよく、あるいは、ナットが回転マスの内側に配置されずに、両者が軸線方向に並んで配置された回転慣性質量ダンパに適用してもよい。また、制限機構25に代えて、本出願人による特開2015−124518号公報に開示された制限機構を有する回転慣性質量ダンパに、本発明によるモニタリング装置を適用してもよい。
【0087】
さらに、回転慣性質量ダンパ21(粘性ダンパ41)を試験装置に連結するとともに、試験装置のアクチュエータで内筒22及びねじ軸23a(シリンダ42及びピストンロッド43)に軸線方向の外力を入力する場合には、自在継手UJ(クレビス継手CJ)がねじ軸23a(ピストンロッド43)に対して回動することがない。このため、描画機構を、例えば、ねじ軸23a(ピストンロッド43)の端部に設けられた自在継手UJ(クレビス継手CJ)に連結し、この自在継手UJ(クレビス継手CJ)を介してねじ軸23a(ピストンロッド43)に一体に連結してもよい。あるいは、描画機構を、アクチュエータに連結し、アクチュエータを介してねじ軸23a(ピストンロッド43)に一体に連結してもよい。
【0088】
また、実施形態は、本発明によるモニタリング装置を、回転慣性質量ダンパ21や粘性ダンパ41に適用した例であるが、本発明はこれに限らず、筒部及び軸部を有する他の適当なダンパ、例えば、外筒に収容された回転マスと、回転マスに連結されたボールねじを有するダンパ(本出願人のホームページに記載の「増幅機構付き減衰装置」を参照)などに適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。